複雑・ファジー小説
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1
- 日時: 2013/05/23 22:08
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
明るくて陽気なミルクレープと、その師匠ノエル。
そして少し馬鹿なプレッツェル君や、シスコンのシフォンさん、マフィンちゃん、不運なことにもマフィンちゃんに恋しちゃったマカロンさん。
そしてある呪いから生まれた過去から今につながる魔法使いの壮大な物語が今ここに!
おとぎ話が現実に?七人の人形遣い。消えた七人目はどこへ?
そして人形遣いが言う『ソール』とは何者か?
戦いへ踏み出す一歩を。
ギャグもあるよ☆
第一魔法 1−11まで
第二魔法 12—23
第三魔法 24−36
第四魔法 37−48
第五魔法 49−50
私は一体誰なのか、
この世界が消されようとしているのなら、私は守るよ。だって皆が大好きだから!!
原作。どるさん。キャラクターデザイン(名前や性格など設定もろもろ)←神。
書く人、だらだら長くてごめんね(泣) 緑ノ 柊
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.28 )
- 日時: 2013/05/07 21:44
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
そしてオレ達は「またどこかで会いましょう」と握手をした。
あの手の温かみも、サフラン幹部の悲しそうな表情も、もう随分と昔に起きた出来ごとに感じる。
憧れの兵士の就職期間約一日。あまりにも短すぎて自分でも笑えてくる。
夢みたいだけど……夢じゃないんだよな。
「……はぁ」
本当に駄目だ。オレはこうしている間にも……また、ここ来ちゃうなんて。
さっきとは違う緊張感を覚え、またあの扉の前に立つ。
コンコン
木製の扉を叩く。木の軽くて響く音がした。
それから数分もかからず、柔和な雰囲気を漂わせた、上品そうな女性の顔が出てくる。
「はぁい……あら」
言葉とは間逆に、さほど驚いた様子でもないティラミスさんに、オレは頭を下げる。
「……どうも」
ティラミスさんは、ここに戻ってきたオレが意気消沈しているのも、どうしてここに戻ってきたのかも尋ねず、ただ微笑んでオレに温かい紅茶と焼き菓子を出してくれた。
こうやって何も聞かないで、暖かく迎えてくれる。この環境が今のオレにはありがたかった。
まだ入れたての、湯気が漂うティーカップに口をつける。
……温かい。
そこで自分の体が酷く冷めきってしまっていた事に気が付く。
喉に通る、この程良い甘さの紅茶が、あの時のサフラン幹部の温かい手に似ていて、涙が出そうになった。
あの人の手は、長年多くの人を守ってきた。綺麗で優しくて、そして力強い手だった。
駄目だ。その先を思い出しちゃ、また悔しさや虚しさが込み上がって来て、何とも言えない悲しさにおぼれることになる。
しかし人間は意識するほど、駄目な訳で。
嫌でも先程の光景が脳裏に浮かび上がった。
……オレは兵士を止めた。やっぱりあれは過去でも、ましては夢でもなかったんだ。
ここでオレが顔を歪ませたのは、ティラミスさんも気が付いているはず。
なら、いっそのこと訳を聞いたり、一喝してくれたり派手なリアクションをとって欲しいものだ。
その無言の、優しい頬笑みが……苦しい。
目頭がじんわり熱くなる。
もう限界だと、目元を抑えて、俯いた。……その時だった。
「プレッツェル!?」
今この場で重要な役割をしてくれる、活発な声がした。
涙目で見たその顔は、妙に歪んで見えた。
「どうしたの!?」
ミルクレープ様……いや、あいつは心配そうにオレに駆け寄ってくる。
そっと温かい手が、肩に触れた。
その温かさが、今朝握ったばかりのサフラン幹部の手の温かさと似ていて、さらに涙が溢れそうになる。
なんとしてもコイツだけには見せまいと、顔を逸らすと、コイツはオレの予想に反して、オレの顔を覗きこんできやがる。
見るなよ。こんな姿。いくらコイツだからって、こんなの誰にも見せたくなんかない。
「……オレさぁ」
気付いたら震える、情けない声でオレは語り始めていた。
あいつはティラミスさん同様、何も言わずにただ真剣な眼差しで見つめてくれていた。
ため息を吐くように、先を続ける。
「……兵士止めたんだ」
「……え」
長い長い……オレにだけそう感じたのかもしれない。沈黙が下りた。
ティラミスさんは、なんとなく予想していたらしく、頬に手をやって、「やっぱり……」と呟いた。
ミルクレープからはなんの音もしなかった。
多分大きな目をさらに大きく見開いて、顔面蒼白になっているに違いない。
そうだお前もオレと同じ、夢を追い続けてここまで来たんだろう?
お前が魔法使いなら、オレは兵士。
オレは自ら夢を捨てたんだ。
お前なら分かるだろう。「そんなの馬鹿のすることよ!」とか「なんでそんな事をするの!」とか、叱ってくれよ。
その方がオレも幾分か楽になれるってもんだ。
しかし、コイツはオレの思い通りには動かない女で、コイツは、なんとはらはらと涙を流し始めたのだ。
「なっ!なんでお前が泣くんだよ!?」
泣きたいのはオレの方だ!
内心そう強く思いながら、おどおどと動揺する。
アイツは肩をしゃくりあげながら、目元を拭い。
「だっ……だって……それって……私のせいなんだよね……」
……コイツ……。
コイツは自分が勘違いされているのに気付いていながらそれを言わなかった事に、罪を感じているのか。
「……確かにお前が早く言ってくれば、こんなことにならなかったのかもな」
ミルクレープが唇を強く噛みしめた。
そんなに、自分の事を責めてんのか。
「……でも、これはオレの勘違いから始まったんだ。お前のせいじゃない」
ミルクレープがゆっくりと顔を上げる。
その瞳は悲しそうにも驚いたようにも見てとれた。
「でも……!」
「オレのせいだ。なにもお前が気に病む事じゃない」
兵士を止めたのも、お前とお偉いさんを勘違いしたのも全て自分の決断、自分のせい。
だからお前は、笑ってり、怒ったり、悲しんだり。そのままでいてくれればいい。
「うっ……」
突如ミルクレープがおかしな声を発し始めた。
「おっおい?」
赤ちゃんが嗚咽しすぎて吐くみたいに、コイツの体にも何か異常が?
まあ、さすがにそれはないだろうと思いつつ、心配になったので、肩に手を置く。
「……おい?」
と体を近づけたのがいけなかった。
とんっ
無防備なプレッツェルの胸めがけ、ミルクレープが抱きついてきたのだ。
恐らく感きわまってつい、とかだろうと思うがなにしろ今まで女性に抱きつかれたこともないものだから。
「なっ、何で抱きつくんだよ?」
顔面蒼白、ではなく顔面を赤面させて、オレは叫んだ。
「ごめんね、本当にごめんなさい……」
丁度ミルクレープの顔当たりの所が濡れていくのが分かって、ミルクレープが泣いている事が分かった。
そう思うと、叱る気にもならなくなり。
かと言って、ミルクレープの細い体を抱きしめるのも、心臓が持たないと自負していたので。
オレはミルクレープの頭に手を乗せた。
そしてそのやわらかい髪を、優しく撫でる。
しばらくして、まだ涙で潤わせた瞳が、オレの瞳に飛び込んできた。
「……なんつー顔してんだよ」
ミルクレープの目元は、クマがあるくせに泣き腫らして真っ赤に腫れあがり、酷い現状になってしまった。
「……うるざい」
まだ鼻水を啜りながら、鼻声でそう反撃されても、笑い沙汰。
「ざい」なんて、またなんてベタな。
「アハハハハハ」
「わっ……笑わないでよ!」
「……てか何でお前、目にクマ出来てんの?」
「えっ!?それは〜そのぅ」
ミルクレープが言いにくそうに口もごり、視線を右に(ティラミスさんがいる方)に向けると、長いため息を吐き。
「秘密という事で」
と答えた時、右から異様な威圧感を感じたのは気のせいだろうか。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.29 )
- 日時: 2013/05/07 21:45
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
*
「そうカ。お前兵士をやめたのカ」
一番遅くに起きてきたノエルさんは、どうやらティラミスさんから事情を聴いたらしく。そう悲しそうに言った。
「……はい」
「にしてもお前、そんな悲しそうではないナ」
「え……」
確かに言われてみればそうかもしれない。
最初ここに来た時よりも、虚しさや悲しささが軽減されている気がする。
「……それは〜、ミルクレープちゃんとの愛の力よねぇ」
ティラミスさんがニヤニヤとしながらそう言った。
その途端、オレは一気に体じゅうが熱くなるのを感じ。
「なっ!違っ!」
「愛カ」
「だから違うって!」
何故そこでそうなるのかと、叫び出したい気持ちを抑え、必死に抗議するが、相手はまったく聞く耳を持ってくれない。
ノエルさんは相変わらずからかっているようだし。
思わず立ち上がってまで、激しく否定したが。
「良いわねぇ〜青春って感じで」
「若いナ……」
……くっ。コイツら妙な所で息を合わせやがって。
まぁ、夫婦喧嘩もせずに二人仲良やっているのは良い事とだけど……。
「……だから違いますからね!」
この場に耐えきれなくなって、席を外そうとしたところで。
「何何?どうしったの?」
コイツはやって来るんだよなぁ……。
しかも上機嫌で。
自分たちの話題で盛り上がってる事など、知っている訳もなく。ミルクレープは興味津々といった様子で尋ねてくる。
しかしオレにとっては、今一番聞かれたくなかった事でもある。
「えっ!?えっとぉ〜」
すっとんきょんな声を上げて、明らかに動揺しているオレを見て気が付いたのか、ミルクレープはニヤリとして。
「教えなさいよ〜」
これは明らかに勘違いをしている顔だ。
確実にコイツは、話題に上がったのはオレの恥ずかしい話しや、弱点の話だったと勘違いしている。
今話題に上がったのは、オレのじゃない。オレ達の恥ずかしい話だ。
「……聞かない方が……良いぞ」
と注意したのも関わらず。
「えぇ〜?じゃあ聞く」
ミルクレープは逆にもっと強い興味を持ってしまい。
「なっ!?」
怪しい笑みでノエルとティラミスさんの傍へ歩いて行く。
……軽い足取りで。
無論言うまででもないが、二人はにたりと気味の悪い笑顔を浮かべて。
オレは嫌な予感がした。
ノエルさんとティラミスさんは互いを見合って、タイミングを合わせようとするように、頷きあった。
「……それは、ミルクレープちゃんと、プレッツェルの……」
ちょっと!それ以上は!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「キヤァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
突然大声で叫んだ挙句、荒々しく肩で息をするのを見て、皆オレにドン引きしているような空気が流れた。
やってしまった。と思った時にはもう遅く。
ミルクレープもティラミスさんも、ノエルさんも皆、眉を寄せてじりじりと後ずさって行く。
オレはなんとかこの場を誤魔化そうと痙攣する頬で、無理やりに笑みを作る。
「えっ?あ、いや……あははははは……」
特にミルクレープからの視線が痛い。
頼むからそんな目で見ないでくれ。オレだって好きで叫んだ訳じゃない。と言いたいが言ったら言ったで理由を追及されるのは目に見えていたので、言える筈もなく。
「あはははははははは……」
不自然な笑い声を上げるしかなく。
「……だっ、大丈夫?」
そして完全に痛い男だと勘違いされた。
「だっ、大丈夫」
大丈夫じゃないのは、オレの心の方だ。
それでもまだ白々しく見てくるミルクレープの視線に、もう心はズッタズッタに傷ついている。
て言うか、ティラミスさん達は絶対何でオレが叫んだか気付いてるよね!?気付いてて知らないフリとか、悪魔かよっ!!
ミルクレープに気が付かれないように、そうっとノエルさん達を睨む。
すると、なんと二人はふいと顔を背けたのだ。
ほらやっぱり気付いてるよ!
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.30 )
- 日時: 2013/05/07 21:46
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
あの時の二人は、心の奥でオレいじめを楽しんでいたのは、見ての通り。
こうゆうところで息が合ってしまうのは、何というか、やられているこちらとしては迷惑というか……。
オレはさっきの事を綺麗さっぱり忘れているんじゃないかと疑うほど、自然なミルクレープを横目で見ながら、深いため息を吐く。
今はノエルさんの家から少し南に行った、まぁ、あそこよりかは幾分かおしゃれな町に来ていた。
町と言っても小さな町で、大きな企業も無いし。これと言って有名な特産物がある訳でもない。
ただ、町じゅうに笑顔が溢れている。のどかで平凡な、良い町だ。
背後では木の棒を振り回す幼い子どもと、文句を言いながらも着いて行っている小さな女の子が通り過ぎていく。
……幸せだなぁ。
そんな事をぼんやりと考えていると、ついついと袖を引っ張られる。
「ねぇ、これなんてどうかなぁ?」
尋ねられ、そのままミルクレープに眼をやると、彼女の胸元に綺麗な蝶のペンダントが揺れていた。
普通ならそこで「可愛いね」とか「綺麗だね」って褒めるんだろうけど、オレはそんな気持ちにはこれっぽっちにもなれなかった。
あぁ、一ミリもさ。
「……良いんじゃない?」
適当にそう返事を返すと。
「……何よそれ」
不機嫌に頬を膨らまされる。
上目づかいでそう言われたって、オレの気持ちはもう動かないぞ。……少なくとも今は。
空はもう茜色に染まり、向こうの方はすでに紺色に変わりつつある。
つまりこんな時間になるまで、ミルクレープの買い物に付き合わされているという訳。
何やらあまり生活用品を持ってこなかったようで、洋服類とかの買い物(さすがに下着店とかには付き合わないけど)に付き合っている。と言うかノエルさんの案によって無理やりに付き合わされてる。
別に来たくて来たかった訳じゃねぇってぇの。
つかコイツも傷ついた心を持っているオレにも、少しは気を使えよ……。
そしてもう一度ため息。
今日は一体何回ものため息を吐いただろうか。
オレは今日どのくらいの幸せを逃がしてきただろうか。
……少なくとも『t』ぐらいの単位まではいってそうだけど。
お店のおじさんはさっきから、にこにこと微笑んでいるだけで。こんな時間だっていうのにオレ達を追い出す事はしない。
この近くには街灯がない。明かりが無ければ商売も無理だろうに。
「ねぇ、プレッツェル君。これなんかどうかなぁ?」
「あ〜、はいはい。そうですね。良いと思うよ?」
オレはもうミルクレープに見向きもせず、面倒くさいという態度を隠しもせずにそう言った。
「もうっ!ちゃんと見なさいよぉ!」
……煩いな。
「わーったよ!見る見る見る!見ますから!」
オレはどうせ同じような物しか身につけてないんだろうと、興味はないし見たくもなかったが渋々振り返る。
そこには……今までと違う彼女がいた。
「……どう?」
瞳をゆっくりと開けると、日が暮れかけているのもあってか、長い睫毛が落とす頬の影。
露わになる耳元。
ミルクレープの前髪には、ステンドガラスがはめ込まれた、金色の綺麗なヘアピン。
ピンといっても、飾りが大きいのでピンの部分はほぼ見えず。
彼女の金髪に、突如大きなガラスが現れたみたいで、少しおかしかったけど。
ガラスの薄い橙色や優しい緋色は、彼女の長い金髪によく似合っていた。
不意に風が吹く。
あぁ、なんて良いタイミングで風が吹くんだろう。
薄ぼんやりと暗くなっていく日の光に当たって、彼女の金髪から光の粒が落ちていく。
「……うん。そうだな」
ミルクレープは薄ら微笑んで。
「……良いと思うよ」
さっきとは違う雰囲気を、その言葉に感じたのだろう。
彼女は目を細めて「ありがとうっ」と言った。
不覚にも、今のには少し心を揺り動かされたかもしれない。
「可愛いよ……ホント」
言いながらも顔が赤なっていくのが自分でも分かる。
オレ、こんなに「可愛いよ」って言うの、恥ずかしく感じるのは初めてかもしれない。
「えと……ミルクレープ?」
最後が疑問形だったのに、ミルクレープも気が付いたようで、嬉しそうに、照れたように頬を染め。
「ミルで良いよっ。プレッツェル君。」
「……じゃあ。ミルっ」
彼女が頬を染めて笑っていたのが、彼女もオレと一緒で少し恥ずかしかったからなのか、はたまた夕日のせいなのか。それは分からない。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.31 )
- 日時: 2013/05/23 18:38
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
このヘアピンは結局オレがわがままを言って、ミルにプレゼントすることになった。
ミルは不思議そうに首を傾げていたが、実はオレ自身も良く分かってない。
ただ無性に、買ってあげたくなった。プレゼントしてあげたくなった。
自分でも言っていて良く分からない。
帰ろうとする頃にはもう、空は真っ暗になっていて。
おじさんは「良いねぇ」と笑って、お代を半額にしてくれた。
何が良いんだか……。
最後に「気をつけてね」と手を振って、オレ達は暗い夜道を並んで歩いた。
ただ今日は満月で、星も綺麗に出ていたから光に困る事はなかったけど。
夜空の下の彼女の髪のヘアピンも、月の光でキラキラ光っていて、さっきとは違う、夜の美しさを漂わせていた。
手が触れるか触れないかのほどほどの距離を保って、家へ帰ろう。きっとティラミスさんがおいしい夕食を作って待っていてくれている。
もちろんノエルさんだって。
ただこの時は誰も予想していなかったのだ。まさか今日の出来事が、あんな事件につながってしまうなんて。
ただこの時オレ達は月明かりに照らされて、少しだけふわついた足取りを沈めるように、互いの呼吸に集中して。
ただほんの少しだけ、こんなのも良いかなって思ったんだ。
ここは先ほどまでミルクレープ達がいた町。
もう晩御飯の時間と言うこともあって、人の数は少ない。
そんな中で一人の少女は家にも帰らずに、路地裏に一人。座り込んでいた。
まるで誰かを待っているかのように。浮かれたように蹲り。地面に何かをがりがりと書いていた。
子どもが地面に落書きをするように。
ふんふんふん〜ふんふん〜〜♪
鼻歌が聞こえる。
これは何の歌だろうか。聞いたことない、甘く耳に絡みつくような切ないメロディー。
ふんふんふん……。
ふと鼻歌が止まった。
誰かが近づいてくる気配がする。
少女は嬉しそうにバッと顔をあげた。
その顔には見覚えがある。そうだ。ミルクレープ達が髪飾りを選んでいる時に後ろをはしゃいだように走っていた少女だ。
「可愛いお人形だね」
暗闇から少年とも少女ともとらえがたい声が聞こえた。
「来てくれたの!?」
少女は心の底から嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべる。
その手には少女に良く似た。今にもしゃべりだしそうな妙に人間ぽい人形が握られていた。
「ロア……迎えに来たよ。さぁ、僕と行こう?」
「うんっ!」
嬉しそうに少女は差し出された手を握り返す。
その時、長い髪に隠れて見えなかった右目が。ふわりと風に吹かれてほんの少し見えた。
右の目は。いや、右目があった跡は……まるでえぐり取られたように黒い痣になっていた。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.32 )
- 日時: 2013/05/07 21:47
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
どこ—?
あの人はどこ?
早く会いたい。会ってお礼が言いたいの。
ううん。お礼だけじゃない。もっとたくさんの事を話したい。
わたし……貴方の事が……。
突如耳の中に、冷たくて液体状のものが流れてきた。
驚いて目を覚ますと、それはどうやらわたしの瞳から流れ出したもののようで。
……恥ずかしい。この年になってまで夢で泣いてしまうなんて。
鼻をすんすんと鳴らした。
閉じたカーテンの隙間から、朝の木漏れ日が漏れていた。
あの光りは私の王子様に似ている。
あの光りのように優しく包み込んでくれる。わたしを夜という存在から、あのバケモノから救ってくれた。
「ねぇ、どこに居るの?早く迎えに来てよ……」
そう呟いてみても、答える者はいなく。余計にこの虚しさを膨らませただけだった。
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