複雑・ファジー小説

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世界樹の焔とアルカナの加護——完——
日時: 2014/02/15 22:10
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 ——プロローグ——


 この世界は8つの領域に分かれている。
 人々の集う城下町、雪の降りしきる雪国、砂漠と荒野が続く地域、年中雨の止むことのない熱帯、地下に迷路を築くカタコンベ、天に浮かぶ幻想的な遺跡、世界樹の麓の広き草原、そして最後に、大迷宮タルタロス。

 それら8つの領域は必ず、万物の源とされる至宝の宝珠『アルカナ』が在り、アルカナの存在により保たれている。
 だが———


 バリィィン!!


 ———ある日、全て8つのアルカナがほぼ同時に砕け散ったという。
 その大事件は世界中の人間に大きな衝撃を与え、これまでにない混乱を招いてしまった。
 そしてアルカナの加護が消えた地域の魔物は悉く破壊活動を繰り返し、人々も混乱の中で混沌へと呑まれていった。

 そんな世界情勢下、一人の青年に焔が刻まれる。

 その名は『シグナ・ディヴァイアサン』

 世界樹の象徴である焔を世界樹の意思により刻まれた彼は、世界中の『裏』を見て何を思うのだろうか。
 彼は、その剣を手に取った。


  + + + +


壁|≡(・ω・)/

ご閲覧ありがとうございま〜す。
ワタクシ、小説初投稿者のキコリと申すものでございまして(黙

長ったらしいプロローグですみませんでした(汗)
ファンタジーまっしぐらの作品を書いていきたいと思います。
題名がちょっと合ってるか不安ですが、これからもよろしくお願いします!


☆★☆ルール☆★☆

・荒らしはダメ!これ、常識でし。見かけてもスルーしてください。
・お願いですから暴言や悪口はやめてくださいorz
・ワタクシはまるっきり初心者ですので、駄文、駄作、誤字脱字、矛盾などにお気をつけ。
 何か見つけたなら、ご指摘を頂けると幸いです!


参照数突破感謝!!

12/29(日)100突破! 12/30(月)200突破! 12/31(火)300突破! 1/1(水)400突破! 1/2(木)500突破!
1/3(金)600突破! 1/4(土)700突破! 1/5(日)800突破! 1/11(土)900突破! 1/18(土)1000突破!
1/26(日)1100突破! いつの間にか……1200突破! 2/9(日)1300突破! 2/11(火)1400突破!
2/15(土)1500突破!

ちょこっと小ネタ


コメント返信置き場>>106
※ワタクシのお客様への対応、返事(コメントの返信など)はここに纏めてあります。


——お知らせなど——

・完結いたしました!

〜目次〜

人物紹介、用語集などなど>>5

おまけ
フェリーさんより、オリキャラのイラストです(みんクロ)>>54
各キャラクターの強さを数値化しました>>116


一章——アルカナはあるかな?——
>>1 >>2 >>7 >>9 >>14 >>19 >>21 >>24 >>27 >>28

二章——シグナが見た謎の夢——
>>34 >>38 >>39 >>41 >>42 

三章——動き出すは、闇と光と覚醒者——
>>46 >>49 >>51 >>62 >>65 >>66 >>69 >>70 >>71 >>76 >>77

四章——古の遺跡にありし真実——
>>78 >>82 >>83 >>85 >>87 >>88

五章——万物の源を捜し求めて——
>>89 >>90 >>92 >>93 >>94 >>96 >>100 >>102 >>103 >>104 >>107 >>108 >>109 >>111 >>112 >>115
>>117 >>118 >>119 >>120 >>121

終章——混沌と秩序は調和する——
>>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>130 >>131 >>132 >>133

エピローグ—約束—
>>134

あとがき>>135


学園生活編——色々とあるんですよ、えぇ——

料理対決大爆発!!>>97
特別授業は論争で>>128
異端者は焔に負ける>>129

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.118 )
日時: 2014/02/11 17:35
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「ここが研究所だ」

 それから何事もなく六日後、シグナたちは件の研究所の前まで来ていた。
出雲神州は全て十一からなる島で、彼らは船を使ってここまできたという。
その際シグナが船に酔っていたのだが、周囲の人物は誰も気付かずにいたとか。

 その出雲神州でグレムリン地方に最も近い島。
そこに研究所が聳え立っているのだが、その無骨な設備はどうも、桜舞い散るこの和の国にそぐわない。
一行は出雲神州にやってきたのと同時に、その華やかな町並みにひどく心を打たれたものだ。
だが周囲が木造住宅なのに対し、この研究所は白い近未来風の壁に囲まれている。
それにかなり巨大で、設備も相当充実していると思われた。

「うわー、如何にも研究所って感じだねお兄ちゃん」
「あ、あぁ。しかし、これはいくらなんでも目立ちすぎだろう」
「周囲の人々は慣れてるみたいだけどね」
「そりゃそうだろう」

 ジュリとリュイがそんな会話を交わしている中、シグナは研究所の扉を開けた。

「うわっ……」

 そして中に入るなり、一同は絶句。
全体的に薄暗く、謎の液体がぐつぐつと煮えていたりと如何にもな雰囲気を醸し出している。
一同は会話もなく、研究所を見渡していた。

「はいはい、お客様ですか?」

 すると奥から、白衣姿でひょろひょろな男が出てきた。
研究者というよりは博士である。
そしてその男は丁寧な仕草で"ジェームス・アロイド"と名乗った。

「一体どの様なご用件で?」
「俺はシグナ。こちらにアルカナを匿っているという話を聞いてやってきました」

 シグナが単刀直入に本題を切り出す。
するとその博士は彼らの自己紹介と本題の内容を聞き終えるなり、なにやら考える仕草をし始めた。

「なるほど、この子達がアルカナ……するとゼノヴィスは」
「?なんです?」
「悪いが、君たちには動きを拘束させてもらうよ」

 急に目つきが変わった博士。
 その博士"ジェームス"が何か呟いたと思ったら、一堂は何か謎の光る輪で身体を縛り上げられた。

「ちょ、何を」

 飛沫が何事だと呟いた次の瞬間。

「ぐあああああ!!」
「し、シグナ!?って、きゃあああ!!」

 突然強力な電流が流れ、シグナとマルタは悶え始めた。

「シグナ!どうした!」

 だが黎明をはじめ、シュラーやリュイたちには何も起きていない。
故に彼らには、何が起きているのか分からなかった。

「さよならだ」

 突然すぎる出来事に一同は状況がつかめないまま、どこかへ転送されてしまった。
そして誰もいなくなったその場で、ジェームスは一人笑い続ける。
その表情には、楽しさと怪しさが半々で表に出ている。

(よし、これでアルカナは我が手中だ!)

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.119 )
日時: 2014/02/11 18:41
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「う、ん……ここは……」

 身体の自由を取り戻し、目が覚めたシグナ。
彼は牢獄のような場所にいた。というより、牢獄そのものだった。
無骨で冷たい、灰色のコンクリートの壁と床。目の前には鉄格子。これを牢獄といわずに何と言う。

「目、覚めたか?」

 そして聞き覚えのある憎たらしい声が響く。

「げ、葬送丸!」

 予想はしていたが、まさか本当に葬送丸がいるとは思わなかった彼。
そう、そのシグナの目線の先には、腕を組んで壁にもたれかかっていた葬送丸がいたのだ。

「葬送丸、お前だけはマジ許さねぇ。殺してやる!」

 そして彼の存在をしっかりと把握したシグナは、エクスカリバーを抜いてアルカナの力をその身に宿した。
———はずだったが、何故か力が入らない。

「どういうことだ?アルカナがない?くそっ!」
「落ち着けって、シグナ!」

 強い語調でそう諭した葬送丸。
シグナには、彼の目がどこか焦っているように見えた。

「俺はゼノヴィスを、あのジェームスとかいうヤツに奪われた。お前もあいつにアルカナを奪われたんじゃないのか?」
「あっ」

 そういわれて、シグナはハッとした。
彼は覚えている。電流を流されていたとき、自分の中から何かが抜き取られたような感覚を。
もしかしたら、そのときにアルカナを奪われたのかもしれない。

 ようやく落ち着きを取り戻したシグナは一言詫びた。が、葬送丸は特に何も応えなかった。
かわりに壁から背中をはがし、両手の握った拳に力を入れる。

「それよりも、はやく状況を打破しないとまずい」
「あいつが何時ゼノヴィスとアルカナを暴走させるか分かったものじゃない。そうだろ?葬送丸」
「フンッ、分かってるじゃないか」

 流れるようなこの空気で、二人は見事に意気投合。
秩序と混沌。二つの怒りの矛先はこの研究所にむく。
葬送丸とシグナはそれぞれ得物を手に取り、目の前の鉄格子に手を翳す。

「「はぁっ!!」」

 気合の声が重なったのとほぼ同時刻、目の前の鉄格子は木っ端微塵に打ち砕かれた。
そしてさらに、何らかの警報音がけたたましく鳴りだし、照明も赤色に変わった。

「ははっ、雰囲気出てきたじゃねぇか」
「ククッ、確かになァ」

 二人はあのときのように、邪悪な笑みを浮かべていた。


  + + + +


 一方その頃———

「ちっ、シグナとやらのほうは抽出できてもマルタのほうはそうはいかなかったか」

 研究所の一室にて。両手両足の自由を奪われ、口を布でふさがれたマルタを尻目に、ジェームスは一人でブツブツと何かを呟いていた。眉間にシワがよっているのを見ると、相当不機嫌らしい。

 マルタは気絶していた。
アルカナをシグナから奪ったジェームスだが、彼はシグナたちは愚か、マルタでさえ気付いていないという、彼女に宿る一つのアルカナを取り出せずにいたのだ。
そこで、アルカナやゼノヴィスを手放すようなほど強力な電流を何度もマルタに流し続けたものの、結局は失敗。
気絶したそんなマルタを尻目に、故にジェームスはイライラしていたのだ。

「くそっ!」

 次いで響く警報音。
ジェームスの機嫌はさらに悪くなった。
ゼノヴィス八つとアルカナ七つ。ここにきてアルカナ一つが手に入らない。
さらに邪魔も入る。今までの苦労を無駄にしてなるものか。


  + + + +


 暫くして、マルタが目を覚ました。
だが声をあげる元気は彼女になく、ただ力なく涙を流すだけである。
同時にジェームスは、いっそ殺せばいいんじゃないかと思いついたところだった。
早速ジェームスは研究用のチェーンソーをその手に取り、スイッチを入れて轟音を響かせる。

 マルタはそれを見ているだけだ。明らかに自分に向けられているものだと分かっていながら。
正確に言えば、全身は恐怖が支配していてもどうしても感情が表に出ない、といったところだろう。
涙は既に枯れた。

「わるいが、その命を散らしてもらおう。良き死出の旅を」

 そのチェーンソーが振り上げられた。
マルタは目を閉じることしか出来なかった———

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.120 )
日時: 2014/02/11 19:35
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「マルタぁ!」

 葬送丸とシグナが、ジェームスのいる部屋にやってきた。
ゆっくりと振り向くジェームス。その手には、返り血のついたチェーンソーが。

 そしてシグナは、その奥の光景を見るなり言葉を失った。
深々と右袈裟切りを食らったマルタが、無残な姿で床に転がっている。
周囲には彼女のものと思われる血が飛散している。

 シグナの顔からは表情が消えた。葬送丸も鎌を持ち直し、ジェームスを睨む。

「おそかったねぇ〜、君たち。でも、コレでアルカナは私のものだよ?」

 その言葉を聞き取ったシグナ。
途端、彼は無意識に呪文を唱えていた。焔の刻印が、これまでにない最大の輝きをともす。
その目は赤く光り、これでもかという憎悪が篭っている。

「ぐああああああっ!」

 刹那、ジェームスは床に倒れ伏して苦しみもがき始めた。
シグナの放った重力魔法が、ジェームスを貼り付けているのだ。
葬送丸がポカンとしてみている間にも、彼はもうひとつの呪文を唱える。
やがて暖かな光がシグナの右手に集まると、彼はマルタの亡骸に向かって走り出す。
ものの一秒で到着すると、シグナはその白い輝きをマルタに当てた。

「おい!シグナよせ!そいつは危ない!」

 目の前が見えていないシグナは、マズイと気付いた葬送丸の静止を聞かなかった。

「目を覚ませ!!マルタああああああぁぁぁ!!」

 突如、目が眩むほどに光が強くなる。

 何故葬送丸が静止を利かせようとしたのか。
何故なら彼が放ったものは、禁断の呪文とされる古代魔法の一つだからだ。
古代魔法とはこの上なく強力な魔法ではあるが、対価に何かを失ってしまうとされている。
今回シグナが使ったそれは、自分の右腕を犠牲にして死者を一人だけ甦らせるというもの。

 銘を、死者蘇生という———


  + + + +


「さーて、何故こんなことをしようとしたのか。理由を話してもらおうか?」

 重力魔法から解放されたジェームスは、葬送丸の闇の魔法で再び自由を失っていた。
彼はジェームスより、この悲惨な行動の動機を吐かせようと脅迫している。

 一方でシグナは、傷が癒えたマルタの目覚めを待っていた。
その右腕は、根元から捥げてなくなっている。死者蘇生を使った対価だ。
彼は左手だけで、マルタの身体を起こして支えている。

「あっ……」

 やがて、その目蓋が震えて開いた。
未だどこか虚ろそうなその瞳が、シグナの優しげな目を見据える。

「目、覚めたか?」
「あれ。私、あれから……」
「一度、お前は死んだ」

 戸惑うマルタに状況説明を入れたのは葬送丸だった。
因みにジェームスは未だ闇の魔法の所為で動けないままになっている。

「あ、アンタは……」
「安心しろ、今の俺は敵じゃない」

 葬送丸は暫く間をおき、解説を続ける。

「お前はそこの男に殺された。だけどな、お前の事となると目の前の事が見えなくなるらしいシグナが、お前を生き返らせたんだよ。この意味、分かるか?」
「生き返らせた……え、まさか!」

 虚ろな目に一気に輝きが戻る。
身体を起こすなりシグナを凝視するマルタ。彼女も古代魔法についてはよく知っている。

「あっ……」

 予想はしていた。今のシグナに、もう右腕はない。

「う、嘘……!何で!何で、私なんかのために……」

 枯れたはずの涙が、再び溢れ出す。

「答えて!何で私なんかのために古代魔法を使ったの!?」
「……生きててほしかったんだよ」
「でもシグナぁ!腕が、腕がぁ……!」

 大声で泣くマルタ。
シグナはその温もりを、左手でしか受け止めてあげることが出来ない。
それでも彼に後悔はなかった。

「あぁ、なくなったな。……まあ俺左利きだし、大丈夫だろ」
「そういうことじゃないのぉ!!う、うぅ……」
(やれやれ)

 シグナはその残った手で、マルタの頭を軽く叩いた。

「な、何で叩くの!馬鹿!」
「馬鹿はお前だ!!」
「っ!」

 シグナが一括する。
それにマルタは愚か、葬送丸もビックリ。
シグナの怒声は久し振りだった。

「お前は分かってるのか!?俺にとってお前がどれだけ大切な存在なのかを!」
「わ、分かってる……よ。私だって、シグナの事好きだもん」
「だったら俺に泣きついたことを反省しろ。俺はな、右手を失ってでもお前に生きててほしいんだ!」

 しっかりとした好意が伝わってきたのが、マルタは分かった。

「いいか?お前は生きろ!俺もお前の事を思って意地でも生きてやる。そのままくたばりやがったら、俺はどこまででも追いかける。だから……」

 不覚にも、シグナは涙を流した。

「生きててくれ。生きて、俺の側にいてくれ……」

 そのまま、マルタに倒れこむ。
古代魔法を使ったことで、体内残留魔力が著しく減ったのだろう。

「シグナ、ごめん。……ううん、ありがとう、だね」
「……ははっ、ようやく学習したかよ。この馬鹿が……」

 シグナは涙が止まらなかった。そしてマルタもまた、その割れた眼鏡越しに大粒の涙を流すのだった———

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 ( No.121 )
日時: 2014/02/14 19:24
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「しかし、どうしたものか。これじゃあ学園の皆に怪しまれる」

 シグナは少しの沈黙の後、心配するような目で自分の右腕のあった場所を見た。
血さえも流れることなく、肩から捥げたようになくなっている。まるで最初から存在しなかったかのように。

「その心配はありませんよ」
「えっ」

 不意に響いた、聞き覚えのある声。
シグナたちが目線を彷徨わせ、引っ掛かった場所はこの部屋の出入り口だった。
そこには、心配無用と言わんばかりの言葉を掛けた声の持ち主が立っていた。
その人物が誰か。葬送丸はわからなかったが、シグナとマルタはその人物をよく知っていた。

「え、トゥールス先生!?」
「……と、ターシャとクレスか?」

 そこには生徒会顧問のディ・トゥールスが、両手を腰にあてがって立っていた。
あと二人———アナスターシャとクレファバースが、そんな彼の後ろに控えている。
ディはシグナたちの前まで歩み寄ってきた。

「全く、最近貴方達の行動が不審だから追ってきてみれば……」
「す、すみません」
「いえ、謝る必要はありませんよ。アルカナのためなのはいいことですが、学校側の責任もあるので、あまり危ないことに首を突っ込まないようにしなさい。二人ともいいですね?
「ハイ」

 シグナとマルタは声をそろえて返事した。
ディはそれを見て満足そうに頷くと、さて……と呟きながら踵を返す。
向いた視線は葬送丸と同じ、ジェームスのほうだ。
そして指を三本立て、腰を抜かしている彼の目の前に突き出す。

「今から言う条件を満たすことが出来れば、今回の件は不問に帰しましょう」

 口調はいつも通りなのに、どこかその言葉は恨んでいるような気さえある。

「一つ、いますぐシグナ君の義手を用意すること」

 一本目の指が改めて立てられた。

「二つ、貴方が奪ったアルカナやゼノヴィスとやらをすぐに持ち主に返すこと」

 二本目の指が立てられる。

「三つ、万が一の慰謝料を500万G(ゴールド)支払うこと」

 そして、三つ目の指も立てられる。
因みに500万Gあれば、土地の入手と共に家を一件立てることが可能。
シグナたちにはまだ想像できない金額であった。

「尚、慰謝料は要求されなかった場合の金額を返金するとお約束いたします。貴方達もそれでいいですね?」

 マルタは頷いた。葬送丸も、頷く立場なのか分からなかったが、ディが目線を合わせてきたので一応頷いた。
だがシグナだけは、その首を縦に振らない。代わりにフラフラと立ち上がった。
いいや、もう一つ———そう呟きながら。

 シグナは残った左手でエクスカリバーを握り、その剣腹でジェームスのアゴを持ち上げる。

「自分の研究に没頭するのは結構だ。だがなぁ……いいか?耳の穴かっ穿ってよく聞きやがれ」

 ジェームスは沈黙を以って返事をする。
シグナもそれを肯定と受け取り、あのなぁ、と言い掛けて続けた。

「そのためだと銘打って気安く人から物を奪ったり、罪のない人を気安く殺したりするな。お前のためにも俺からこの条件を追加させてもらうぞ」

 やっぱり、シグナは優しいなぁ。この言葉を聞いたこの時、そう思うマルタがいた。

「わ、分かった……だから、い、命だけは!」

 説教を受けたジェームスは部屋の奥へと走っていった。
何をする気だ。警戒した一同だが、ジェームスが手をつけたのは、奥のほうで黒光りする金庫。
数字をあわせ、諮問チェックや電子操作をいくつか終える。やっと扉が開き、彼は中から何かを取り出す。
そして再び戻ってきたかと思えば、ディにその何かを差し出した。

 その何か。それは丈夫な繊維で編みこまれた袋で、中身はこれでもかという量のゴールドが。

「その中に500万ゴールドが入っている!そしてシグナ君といったか。君はこっちに来てくれ!」

 不問要求のひとつの条件を満たした。

 今度はシグナを招き、彼は研究室の奥へと消える。
それに葬送丸が慌ててついていった。また何かあると困るからだ。
彼がついたころには、シグナは何かハイテクそうな装置に囲まれて寝ていた。

「いまから急速に義手をつける。私の研究の、ひとつの集大成だ」


  + + + +


 普通、義手や義足はつけるのにかなりの時間を要する。
だがシグナは、ものの数分で義手をつけられた。可動にも何の問題もない。
これならば集大成と言っても過言ではないだろう。これが最先端の技術か……葬送丸と彼は素直に、そう思って感心。
戻ってきたときも、その素早さに一同も驚くばかりだったとか。

「さて、最後だ。アルカナとゼノヴィスを返そう」

 ジェームスは今度は、何か大仰なレバーを引いた。
すると近くの箱のようなものから、蒸気と共にアルカナとゼノヴィスが姿を現す。
赤い輝きと漆黒の輝き。間違いない。

「よし、これで———」

 シグナがそう呟きかけたときだった。

「えっ」

 突然、マルタの胸が輝きだす。
その輝きの色は、アルカナと全く同じだ。

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護【お知らせ更新!】 ( No.122 )
日時: 2014/02/14 20:09
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「アハハッ、馬鹿だな兄貴〜!」
「俺の身にもなれ」

 杜宮華実は兄の十六夜空臥と、得物を片手に"大迷宮タルタロス"の中を走り回っていた。
ここはルミナシアと比べてとても特異な空間であり、重力の法則が捻じ曲がっているのが主な特徴である。
さながら、異世界だ。

 この真っ白な空間にはいくつかの光の軌跡が走っており、大小姿形さまざまな黒い物体が浮いている。
その板や球を模る黒い物体は、それぞれが中心に重力を働かせており、言うなれば超小規模な星である。
だが、その黒い物体同士がぶつかり合ったり引き寄せられたりはしていない。
他の重力の干渉を受けず、独立してその場にふわふわと浮いている。

「それにしてもどこだ〜?はやくでてこーい!」

 そんな空間で華実たちは、トーソーシャとツイセキシャの捜索をしていた。
行過ぎたそのリアル鬼ごっこを取り締まろうということで、王国が彼らに依頼を出したのだ。
だが、彼らを追っているのはその二人だけではなかった。

「僕も、決して静観を決め込むわけじゃないのさ」

 フォレスノームも、ここタルタロスに来ている。
だがフォレスノームの場合、やることはトーソーシャとツイセキシャの捜索だけではなかった。

(ゼルフとエレナ。彼らもここにいるはずだけどなぁ)

 ここには、あと二人人物が迷い込んでいた。
正確に言えば、一人が逃げて三人が追ってきたというところである。

 かの盗賊として名高いゼルフが、リリー、リンと手を組んだエレナに追われているのだ。
成り行きはと言えば、まずゼルフにある。エレナの足を切り飛ばした彼は、その後彼女を殺そうともくろんでいた。
だがエレナはいい加減に痺れを切らしたらしく、リリーとリンを仲間に入れてゼルフに戦いを挑む。
流石に三人を相手するには厳しかったらしいゼルフ。彼は逃げ道を求めるため、手負いの状態でこの迷宮へと続く魔方陣に入り込んだ。だがそこをエレナたちに発見されたという。

 その際、仲間のはずのリンが何故ゼルフに手を出しているのか。
理由は至極単純。どうやら、盗賊団の一件で仲間割れをしたらしい。
切欠は、団員に紛れ込んでいたゼルフに恨みをもっている者が暴れだしたこと。
ゼルフを恨む人物は非常に多い。態々団員に紛れ込んでまで復讐をしようとしたものは少なくなかった。
気付けば団員の大多数が復讐心を持つもので溢れており、この時何故かゼルフはリンを敵視したらしい。

 そんな様々な関係を持つ人物たちは、この広大な迷宮で逃走、追跡のパレードを繰り広げている。
この時の彼らは外界———つまりルミナシアの様子など知る由もなかった———


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