複雑・ファジー小説

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ハートのJは挫けない
日時: 2022/05/11 05:32
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: ZTqYxzs4)

波坂といいます。閲覧ありがとうございます。今回は能力バトル系を書いていきます。色々と至らない部分もあろうかと思いますが、そこはどうぞ生暖かい目線で見守って頂けたらなと。

 一気読み用【>>1-100

 目次>>73

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 略称はハジケナイです。

Re: ハートのJは挫けない ( No.6 )
日時: 2018/04/28 16:36
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)

「はぁ、記憶の忘れ方、デスか」
「そう。なんか無いかな?」

 昼休み、僕はまた観幸と一緒に昼食を摂っていた。彼の手に握られている包み紙を見る限り、今日は念願のサンドイッチを手に入れたらしい。

「忘れ方……ウーン……覚え方なら聞かれる事もあるのデスが忘れ方……デスか」

 目を伏せて数回ほど首を捻る観幸。こんな質問をされたのは初めてだったのだろう。お気に入りの空のパイプを咥えることも忘れて机の上に置いている。没収されないのかな……。

「恋、とかどうデスかね」

 らしくない友人の言葉に、思わずむせ返って数回ほど咳をする。こいつ僕に嫌がらせしてるな?

「……らしくないこと言うなよ。パンが台無しになる所だったじゃないか」
「案外スグに嫌な事くらい忘れるかもデスよ。ほら、二年四組の愛泥あいでいサンとかどうデスかね」

 頭の中で数回ほど言われた名前が回転するが、その苗字にヒットする名前が思い浮かばない。詰まりは知らない人ということだろう。

「誰?」
「……キミは情報社会から隔絶されているのかと思いまシタよ。今、本気で」

 本気で呆れたと言わんばかりの表情に、思わずムカッと来る。

「知らないでもおかしくないだろ、別に」
「まあいいのデス。……愛泥隣(あいでい/りん)サンはこの学校一美しいとか、モデルのオファーが来たとか、そういったウワサが大量に流れている人物なのデス。見た目的にもモデルになっても間違いないほどの美人でシタね」
「……ふーん。やけに詳しいじゃないか。好きなの?」

 その問に対し、ようやくいつものように空のパイプを咥えた観幸は、若干の嘲笑を込めた口調で返してきた。

「ボクはそんな理由で情報を集めないのデス」
「じゃあなんでだよ?」

 チッチッチ、と舌を鳴らしながら、僕の前に手を出して指をリズム良く振る観幸。……早く言えよ焦れったいなぁ……。

「分かってないデスね。では特別にお教えするのデス。……彼女もまた、超能力者なのデス」

 あまりの予想外の回答に、思わずぽかんとする。その間彼は何食わぬ顔でこちらにルーペを向けてくる。その隙あらば探偵要素を主張する癖を直せと叫んでやりたい。

「……は?」
「彼女は人の目を異様に集めるのデス。確かに美人ではあるのデスが、それでも超が付くほどでは無いのデス。なのに彼女は現にこうして注目されている……おかしいとは思わないのデスか?」
「……もうホラ話は聞き飽きたよ。大体、どうして観幸は超能力なんて信じてるんだ?」

 前から疑問だった。どうして、観幸は超能力なんてものがあると主張し続けるのか。僕みたいに、昨日の出来事のような超常現象にでも立ち会ったのだろうか。
 が、観幸の回答は僕の予想とは違っていた。

「ボクが信じている理由、デスか。単純な話なのです」

 観幸はワザらとらしく間を置いてから、決め台詞でも言うかのように表情を固め視線を鋭くしてから、言った。

「あった方が、面白いからデス」
「……面白い?」
「だって、面白いじゃないデスか。普通の人間普通の出来事普通の事件。もうそんなものは見飽きたのデス。ボクが求めているのはボクを退屈させない物なのデス」

 何を馬鹿なことを、なんて言いそうになった。慌てて口を閉じる。何故なら、観幸の目は今まで以上に真剣なものだったからだ。
 それから二人で黙っていると、まあ、と観幸が切り出す。

「とにかく、何か忘れたいならば放置しておくのが一番なのデス。きっと半年後には、嫌な事なんて忘れているものデスよ」
「それも……そうか」

 色々と言うし、話は逸らすしだったが、なんだかんだで真剣に考えてくれていたことに、僕は感謝せずにはいられなかった。

 その日の放課後、僕はいつも通り靴を履き替えていた。観幸君は学校の委員会、確か図書委員の仕事があるとかで、先に帰っておいてと言われた。待っていても結構かかるだろうし、やることもないので先に帰ることにした。

「……ん? あれ共也君かな……」

 学校から出ると、共也君が走って何処かへ向かっているのが見えた。体格が大きく、体型も運動部かと思うほどに引き締まっている共也君の足は速く、小走り程度でもすぐに遠くに行ってしまった。

「そういえば、今日は見也さんと放課後に待ち合わせてるんだっけ」

 朝、確か電話でそんな話をしていた気がする。腕時計で時間を確認する。まだ余裕があった。
 このまま尾行するか、帰るか。悩ましいが問題は向こう側には見也さんが居る事だ。昨日言われたことを思い出して、僕の好奇心が気が消える。

「……やっぱ余計な詮索は止めておこう」

 頼まれてもいないのにこんな事をするのはプライベートの侵害だ。何処ぞの自称探偵ならとにかく、僕がやるべきじゃない。そう考えて、自分の家路に付こうとした。

「すまないが、ちょっと、良いかね?」

 が、誰か知らない人物から声を掛けられた。その人物は髪を金色に染めていた。明らかに自然な色とは思えない。わざとらしく地図を広げ、数回ほど回転させたりしている。地図を見方を知らないのか?

「僕、あんま地図得意じゃなくて、つい迷ってしまったんだ。良かったら、案内でもして貰えたら有難いんだがね」
「はぁ……分かりました……」

 最近、よく道案内を頼まれる気がする。とは言っても、断れないものは仕方ない。さっさと済ませて家に帰ろう。そう考えて、金髪の男から渡された地図の、マークの付いた部分を見る。どうやら、昔あった教会へと行きたいらしい。しかし確かあそこは数年前から放置されていて廃墟同然のはずだが……。

「いやぁ、実は僕、記者なんだよ。いかにも幽霊とか出そうだろう?」

 その事を問うと、このような返事が入って来た。どんな雑誌の記者なのかも聞いておきたかったが、あんまり金髪の男が急かすものだから、その質問をするのは止めておいた。

「ありがとう。名前、なんて言うんだい? 僕は八取仁太郎(はっとり/じんたろう)と言いう」
「ええと、針音貫太です」

 人の良さそうな笑みを浮かべる男こと八取さんは、歩きながらも話し掛けてくる。記者と名乗っただけあって、相手を喋らせる技術には長けているかもしれない。
 暫く歩いていると、横断歩道で足止めされた。赤信号で止まっているところに、誰かに僕の名前を呼ばれた気がした。音源の方を向く。

「……観幸君?」
「予想より早く委員会が終わりまシタ。今から帰るところデス」

 観幸が学校の方から歩いて来た。確かに、ここはよく考えたら観幸の通学路でもある。
 彼はむむ、と唸るように言葉を発した後、ルーペをこちらにかざしてくる。その手捌きの良さが無駄に腹立たしい。恐らくこれは彼なりの説明しろの合図なのだろう。全く遠まわしな表現だなと思いつつも、それに応じる。

「ああ、これから僕、この人を教会まで案内するから」

 すると納得したようにルーペを仕舞う観幸。ほんとにお前は何がしたいのかさっぱり分からないよ……。

「そうデスか……全く善人デスね。貫太クンは。では失礼するのデス」

 観幸は手を振って、僕達と90度違う方向へと行ってしまった。その後ろ姿を見ていると、唐突に八取さんから声を掛けられる。

「良いねぇ。友人ってやつかい?」
「はい。結構前からの付き合いなんです。彼とは」
「素晴らしいね。友情は大切にするといい。なんたって人生を彩る香辛料のようなものだからね。刺激の無い人生ほどつまらないものは無い」

 そんな雑談を交えつつも、暫く経って目的地へと着いた。教会は……まあ見るのも酷い位にはボロボロだ。やはり人の手の加えられなくなった建造物はすぐに悪くなるのだろう。ステンドグラスは割れ放題。壁もヒビだらけで欠陥のオンパレードだ。

「うっひゃあ、酷いなぁ。この教会」

 敷地内への入口には鉄格子のような扉があり、立ち入り禁止の看板が貼ってある。が、八取さんは遠慮無くその扉を開け、敷地内へと入って行った。

「ちょ、八取さん!?」
「どうしたんだい、針音君」
「どうしたもこうしたも無いですよ! 立入禁止ですよ!?」
「別にいいじゃないか。誰も困らせていないし」
「そ、そんなぁ……」

 呼び止める為に僕も敷地内に入る。庭の手入れもされていないようで、周囲は雑草だらけだ。
 そして扉を閉じていた鎖を外し、教会のドアを開ける八取さん。流石に不味いだろうと思い、注意しようとして、僕は扉の中に入った。

「ようこそ。僕の教会へ」

 扉が、閉じた。


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Re: ハートのJは挫けない ( No.7 )
日時: 2018/04/22 19:56
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)

 滝水公園で、俺こと友松共也は、兄さんこと友松見也の事を待っていた。自分から待ち合わせを指定しておきながら、待たせるとは兄さんは一体何をしているんだ。

「うう、ひっぐ、ひっぐ」

 などと心の中で愚痴を零していたら、目の前で泣きじゃくる子供に気が付いた。どうしたのかと思い、声をかけてみる。

「おう、どうしたちびっ子」
「ぼ、僕の風船が……」

 どうやら手放した風船が木に引っかかったようだ。まあ、お空に消えていくよりはマシだが……風船が引っかかっているのは大体ここから10m程度上。とても登れる高さでは無かった。仕方ねぇな、と呟いてから、ちびっ子の方を向く。

「なぁちびっ子。少しだけ、待っててくれよな」

 そう言ってちびっ子の目を左手で塞ぐ。うわっと驚いたのか声を上げるが、その後は大人しくしておいてくれた。
 さて、ここからはちょいとだけ見られてはマズイ。俺は手を上げる。当然このままでは届かない。ここで俺の手首の辺りと、風船の糸の辺りの位置を、俺のハートの力で繋げる。すると俺の手首から先が消え、その代わりに風船のある位置に俺の手首から先が出現した。掴んで引き寄せると、手元に風船が瞬間移動したかのように現れる。

「ほらよ、ちびっ子」
「……え?」
「次からは手、離すんじゃねぇぞ?」
「わー……ありがとう! 大きなお兄さん!」

 ちびっ子は風船を手に巻き付けるとそのまま何処かへと走り去って行く。その後ろ姿を見ていると、少しだけ微笑ましくなってきた。

「空間と空間を繋げて、距離を縮めたか」

 唐突に、背後から声が掛けられた。振り向くと、どうやらようやく兄さんが公園に姿を表したようだった。跪いて風船を渡した姿勢から立ち上がって、そちらに向かう。

「急に呼び出しなんてどうしたんだよ。兄さん」
「……俺達の仕事に関するの話だ」

 すると兄さんはバックから数枚ほどがクリップで纏められた紙の束を渡してくる。黙って受け取り、パラパラと捲ると、図やグラフやらのデータが載っていた。

「これ何だ?」
「この街の行方不明者の数だ。……お前はもう知っている……いや、もう知っていた、か」
「……分かっただろ。俺がこの街を離れない理由」

 最も大きな離れない理由は別にあるのだが、もう既にこの男は知っているだろう。今更説明してやる義理も無い。

「祖母の跡を継いでこの街を護る、か。お前は祖母の友松梨花(ともまつ/りか)の事を慕っていたな」

 案の定、こちらが説明せずとも知っていた。

「そんなことより、呼び出したからには何かあるんだろ?」

 兄さんだけに進行させていると、回りくどくて性にあわない。催促をすると兄さんは俺に紙束のとあるページを見るように言った。そこには数人の顔写真と日付が書いてある。

「そこにいるのは最近の行方不明者だ。そして恐らく、同一人物であると推測される」
「根拠は?」
「その被害者達はどれも毎週金曜日に捜索願が届けられている。つまり行方不明になったのは木曜日という訳だ。……最初の被害者が出たのは五週間前。そこから一週間で一人ずつ、その日に消えている」

 確かに、法則性としては筋が通っているかもしれない。しかし一つや疑問が残る。それは今日が木曜日であるということだ。

「兄さん、今日は木曜だ。今からじゃ、もう犯行は終わってるんじゃねぇか?」
「別に、今日探すなんて言ってはいない。明日行方不明者が出た時、早急に動くというだけでな」

「それから共也。恐らく次に行方不明者が出るのはお前の学校の中からだ」
「……どうしてだ?」

 兄さんはポケットから折り畳んだ紙を取り出し、パラパラと開き、俺に見えるように出してくる。どうやら水平町の地図のようで、所々に赤ペンで印が付けられている。

「一人目の被害者は、お前の学校からこの街の中で東の一番遠くにある。次の被害者は、お前の学校から東で二番目に遠い。三人目四人目と続き、次はお前の学校だ」

 東から順に、どこかの高校、小学校、中学校、高校を指して行き、最後に俺の通う高校を指さす。確かに、それらは一直線上に位置していた。

「……偶然、じゃないのかよ。そんなの、狙う理由もない」
「人とは無意識でやっている間にも何かしら法則を付けたがるものだ。お前だって、歯を磨く時、意識はしてないが、大体の順番というものがある筈だ」

 何故かは分からないが、兄さんの言葉には謎の説得力が含まれている。分かりそうで分からない理論だからなのか、単純に納得したのかの判断はとにかく、黙って頷いておく。

「これで話は終わりか?」
「いや、もう一つある。……昨日、ハート持ちに遭遇した」
「なっ!?」
「奴のハートは《心を壊す力》だった。お陰様で腕がこの始末だ」

 そう言って兄さんが差し出した手は包帯でグルグルと巻かれており、とても万全な状態であるとは言えなかった。

「だが奴の力は壊すだけ。行方不明にするのには都合の良いハートではない。……気を付けろよ共也。この町、何人どころじゃなくハート持ちが潜んでる可能性がある」

 兄さんの表情は相変わらず固いが、これはいつに無く真剣なものだと分かった。
 そして思わず、鼻で笑ってしまう。

「ハート持ちが何人居ようが関係無ぇ。俺がこの町を守りゃいいんだよ」
「……そうか」

 兄さんはそう返した後、踵を返して歩き始める。別れも挨拶もなしかこの兄は……。
 そう思った矢先だ。

「じゃあな。期待してるぜ。共也」

 一瞬、その発言があまりに意外すぎて驚いた。まさかあの兄が、俺に、期待してるなんて言うとは思わなかったのだ。

「……ああ、またな、兄さん」

 そして兄さんの背中は、公園の何処かへと消えて行った。

 次の日。いつも通りに登校した。
 頭の中には兄さんの言葉が残っている。次に狙われるのはこの学校の生徒であると。だがクラスの中を見る限り、特に欠けている印象は無い。最も、まだ朝なのでこれから登校してくる生徒もいるのだが。
 時間が経過し、チャイムが鳴った。これ以降登校してくる生徒は遅刻扱いになるためか、皆急いで自分の席に着く。教室が静かになったところで、今一度確認してみる。
 一つだけ、欠けている席があった。頭の中でその席に座っていた思い出そうとする。深探観幸という男子生徒の後ろの席、確か──。

「す、すいません。朝から立て込んでいて」

 そこで、担任がガラガラと急ぎ足で教室に入って来た。待て。ここのクラス担任はいつもチャイムが鳴ると同時に入ってくる。なのに今日に限って遅れるだと? しかも急ぎ足で?
 妙な胸騒ぎがする。自分でも無意識に制服の胸部分を掴んでいるのに、ようやく気がついた。
 号令で朝のHRが始まる。最初の健康観察で、体調の悪いものが名乗り出るように言われた後、担任はこう言った。

「針音貫太君は今日はお休みです……多分病気です」

 待て、多分という言い回し。少しだけ引っかかる。どうして担任がそれを知らない? もしかして、という想定が頭の中で展開される。
 針音貫太は、もしかしたら、という、そんな想定である。頭の中ではそうでないことを願っていたが、同時に、この想定が当たっている、という確信も持っていた。



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Re: ハートのJは挫けない ( No.8 )
日時: 2018/04/22 12:38
名前: 荏原 (ID: AwQOoMhg)

 初めまして、超殴の方を拝見させていただたことがあり、偶々波坂さんのお名前が目に入ったので紺作品も読ませていただきました。
 まだまだ始まったばかりですが、ケンヤ君の戦い方の渋さ。またカンタ君の不幸体質とでもいうでしょうか、巻き込まれていく様を見てこれからどうなるかドキドキです!!
 これからも楽しみにさせていただきます

Re: ハートのJは挫けない ( No.9 )
日時: 2018/04/22 19:53
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)

 >>8
荏原さん

 初めましてー! 個人的に前作を知っていてくれたことにめっちゃテンション上がってます波坂です!
 見也さんの戦い方は能力でキラキラ戦う(語彙力の壊滅)感じじゃないんですけどそこに渋さを感じてくれて私は嬉しいです!
 ほんと貫太君は不幸体質というか巻き込まれ体質ですけど多分これからも強く生きてくれます。多分()
 ありがとうございます! 更新頑張ります!

Re: ハートのJは挫けない ( No.10 )
日時: 2018/04/23 23:50
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)

 昼休みの事だ。俺はトイレの一室に篭ってひっそりと携帯電話で兄さんと連絡を取っていた。

「ああ。貫太がいねぇ。担任の言い回しもなんか妙だし、俺が直接聞いた時も挙動が不審だった」

 あのHRの後、担任に問い詰めてみた所、目が泳いでいたりと明らかに不自然だった。普通はあんな顔しないはずだ。それこそ、自分の生徒が行方不明にでもなったと言わんばかりの顔を。

『……実は先日のハート持ちと遭遇した時、彼はハート持ちに襲われていた』
「げぇっ! マジかよ貫太の奴……不幸体質か?」
『……本来ならば、引き寄せ合うのはハート持ち同士の筈だが……彼には何かあるのかもしれんな』

 ハート持ち同士は比較的出会いやすい、というデタラメなのか真実なのか分からない噂がある。もしそれが本当ならば、今頃巻き込まれているのは俺や見也さんの筈なんだがな。

『とにかく、昨日の貫太君の動向を知る人物を探せ。まずはそれからだ。俺は放課後の時間帯になったら校門の周辺で待機しておく』
「ああ、分かったぜ……」

 そう言い、通話を切ってトイレから出る。ここに長居したいとは思わない。そのまま教室に戻って席に座り、改めて教室を見渡してみる。
 ……だが、出会って数日の貫太の友好関係を知っている訳ではない。クラスの中を見渡しても、誰が貫太と仲が良いのかサッパリだ。昼休みは飯の後に体育館にバスケをしに行く習慣が仇となってしまった。
 しかし行動しないでおくのもそれはそれでダメだ。仕方が無いので友人に手当りしだいに聞いてみる事にした。

「貫太? あー、あいつとあんま話したことねーな」
「良い人だとは思うけど、昨日のことは知らないなぁ」

 だがこのクラスはまだ出来たばかりだ。貫太と友好関係の無い人物が多い。友好関係があったとしても、昨日の動向を知る人間はいなかった。
 ただ、得られた情報が一つだけある。

「あー、深探君とかどうだろう。この前幼馴染みだって言ってたよ」
「深探君なら知ってるかも」

 貫太は深探観幸という男子生徒と仲が良いという事だ。それも親友のレベルで。そいつに話を聞こうとしていた所で、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。
 間に合わなかったことに心の中で舌打ちしつつ、今日の放課後、深探観幸から話を聞くことを頭にインプットしておいた。

 そして時間が過ぎ去り、放課後。
 深探観幸に話を聞きに行く前に、俺は荷物を纏めてから足早に校門へと向かった。昨日とは違い、兄さんは既に待ち合わせ場所にいた。

「何か分かったか」
「ああ、実は──」

 兄さんに今まで起こった事を説明する。兄さんは聞いた後に、考えているように目線を下に向け、顎に手を当てる。

「なるほど。深探観幸か。……共也。そいつが学校から出てきたら教えろ。そいつを視る」

 そう、先にこちらに来たのには訳がある。それは兄さんのハートだ。
 兄さんのハートは《心を視る力》。相手の思考や記憶が文字や写真のような絵になって視界に入ってくるという力だ。触れなければ深層心理は読み取れない、情報を探すのに時間がかかる。等の欠点もあるが。他にも一応、使い方はある。

「……そんなに良いハートじゃない」

 今も、俺がハートの事を考えていたのを読み取ったのだろう。確かに、人の心を読むというのは辛い事なのかもしれない。

「あ、アイツだ兄さん! あの身長の低い男子生徒が深探観幸だ!」

 丁度校門から出てきた深探観幸を指差す。兄さんは即座に目で補足し、じっくりと眺め始める。その間にも俺達は移動し、出来るだけ深探との距離を一定に保つ。

「『深探観幸。年齢16歳。身長150cm。体重39kg。誕生日5月6日。家族構成は両親とペット。住所は』」
「ああ、個人情報は要らねぇから」
「『……自分は探偵である。貫太君の件はおかしい……』」

 そう呟きながらも音声を録音する兄さん。恐らく後で忘れない為にも、メモ書きのように口に出して記録しているのだろう。
 暫く歩いていると、交差点に着いた。深探が止まったので、俺達も止まる。

「『……今日はあそこへ行ってみよう。昨日貫太君があそこに行くと言っていた……』」
「やっぱり何か聞いてたか」
「『……交差点はいつもとは違うこちらに行かなければ……』」

 深探観幸。ビンゴで助かった。こいつが外れていたらどうしようかと思っていたぜ。なんて兄さんの声で読み上げられる深探の思考を聞きながらそう思った。
 矢先の事だった。

「『……ではあそこへ行くために……まずは怪しい尾行をしている二人組を撒こう』、だと!? 不味いぞ共也! アイツ尾行に気が付いている!」
「なにッ!?」

 兄さんが読み上げた瞬間、深探が走り出す。横断歩道を渡りきった後、細い路地裏の中へと入っていった。

「視界内にいなければ思考が読めない……。チッ、やってくれるな。深探観幸」
「急いで追うぞ! 兄さん!」
「いや、俺は先回りしておく。挟み撃ちだ」
「……そういう事か! 分かった!」

 急いで俺も追い掛ける。一方兄さんは俺とは別の方向に走り出した。
 細い路地裏は一本道になっている。隠れるスペースも無ければ物もない。そのためこの先を追えば深探に辿り着けるはずだと思い、奥へ奥へと進む。
 一度曲がった所で、誰かの足が見えた。が、すぐに角を曲がって見えなくなる。間違いない。深探だ。足はそこまで早くないらしい。

「しかしここで分かれ道か!」

 曲がった先には分かれ道があった。右か左か。どちらへ行ったのかは分からないが、取り敢えず気分的に左へと行く。

「頼む……!」

 左の路地へと進み、また角を曲がる。すると視界に飛び込んできたのは、一面の壁、壁、壁。

「クソ! 行き止まりじゃねぇか!」

 振り返って、今の位置と分かれ道の位置をハートの力で繋げる。俺が一歩踏み出すと、そこは分かれ道だった。ロスした時間を短縮出来たことに喜びつつも、再び地面を蹴る。
 そこからは暫く分かれ道は無かった。ずっと走っていると、今度は何か声のようなものが聞こえた。今居る路地を抜けた所、深探の姿が遂に見えた。
 そして深探の前には兄さんがいる。

「……しまったのデス……まさかこんな所で命を落とすハメになるとは……」
「おい待て! 誰もテメーを殺そうなんて思っちゃいねぇさ!」
「では何故尾行していたのデスか! はっきり答えるのデス!」

 その問いには、俺でなく兄さんが答えた。

「俺達は、針音貫太君の行方を追っている。君から話が聞きたい」
「……アナタタチも貫太クンの件を怪しいと睨んでいるのデスか?」
「ああ。そうだ」

 深探は兄さんと視線を合わせて対峙する。ただでさえ目付きが鋭く強面である兄さんと顔を合わせ、オマケに逸らさないどころか逆に合わせている深探に、思わず驚く。小さな体の割には、全く体格差や雰囲気に押されていない。

「……そうデスか。ひとまず信用するのデス」

 話し始めて一分も立たない内に、信用を宣言する深探。思わずどうしてだ? なんて聞いてしまう。

「ここでアナタタチを疑っても仕方ないのデス。何よりボクが探しているのはアナタタチではなく貫太クン及び犯人なのデス。アナタタチを疑ったところで、何が出でくるというのデスか?」
「……中々にクレバーな奴だな。深探観幸」
「……アナタも、その大きな体によらずに知的デスね。そこの不良みたいなのと違って」
「オイ! 誰が不良だテメー!」

 深探は俺の言葉に視線を逸らしつつも、路地から抜ける。俺も後に続き、三人で話し合うような位置関係になる。……深探だけやけに身長が小さいので微妙に話しづらいが。

「そんな事より、ボクはアナタタチに聞きたいことが一つあるのデス。返答してくれたら、ボクの持つ情報を差し上げるのデス」

 俺の事をそんなことなどと片付けた深探は、俺達に探偵が咥えていそうなパイプを向けて言った。

「……言ってみろ」

 兄さんがそう返すと、深探は一度パイプを咥えてから、こう言った。

「アナタタチ──何か不思議な力をもっているのデスか?」

 その言葉に、俺は、いや恐らく兄さんもこう思っただろう。
 ──深探観幸、ただ者ではない。と。


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