複雑・ファジー小説
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- ハートのJは挫けない
- 日時: 2022/05/11 05:32
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: ZTqYxzs4)
波坂といいます。閲覧ありがとうございます。今回は能力バトル系を書いていきます。色々と至らない部分もあろうかと思いますが、そこはどうぞ生暖かい目線で見守って頂けたらなと。
一気読み用【>>1-100】
目次>>73
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略称はハジケナイです。
- Re: ハートのJは挫けない ( No.1 )
- 日時: 2018/04/16 17:41
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
僕の名前は針音貫太(はりおと/かんた)。まあ自分で言うのもなんだけど普通の高校生だ。成績も中の中の上といった所で、特徴というものもあまりない。強いて言うなら身長が小柄で154cmしか無い事だろうか。まあ成長期だから今後伸びる予定だけど。
今日から二年生となる僕は、いつもの通学路を歩いていた。今は偶然通り道にあるだけのバス停を通っている所だ。とは言っても僕はこれを利用する事はほとんどない。ここのバスは大体、都会や都市部からこの水平町に向かってやってくるものであり、僕の高校の前を通ることは無いからだ。
僕がそこを通りかかった時、思わず目を引かれた。バスから出てきたその男は、身長190cmにも及ぶ程の巨大な体を有していたからだ。灰色のスーツに身を包んでいて、その服の上からでも分かるほどに肩幅が広く体格が良い。肩幅が狭くひ弱な体型の僕からすれば羨ましいばかりである。
男がバス停から降りると真っ先に地図の方に向かっていた。その途中で、何かポケットから何か紙切れが零れるのが目に入る。男は気がついていない様子だった。
「すみませーん。落としましたよ」
ガタイのいい男がこちらを向くと、予想通りの強面だった。途端にどうして声を掛けてしまったのか後悔したくなる程度には重圧がある。
「すまないな。君、名前は?」
「針音貫太です」
「そうか。俺は友松見也(ともまつ/けんや)という。……所で君、滝水公園を知っているか?」
「一応知ってますけど……?」
「もし迷惑でなければ案内を頼みたい。いや無論、差し支えなければ、の話だが」
滝水公園とは噴水が割と豪華でちょっとだけ有名な公園のことだ。しかしあのバスから乗ってきたということは都心部からだろう。都心部から噴水を見に来たとは考えづらい。
それはとにかくとして、滝水公園は僕の高校の通り道でもある。まあ差支えはないかなと腕時計を確認する。学校の始業時刻にはまだかなりの余裕があった。
「大丈夫ですよ。分かりました」
「すまないな。貫太君」
隣に並んで歩くがやはりでかい。僕との身長差は僕の頭二つ分くらいある。とても同じ日本人とは思えない。
「よくデカブツと言われるが日本人だ。身長が高い家系ではあるがな」
隣で何気なくその言葉を発した友松さん。身長というものはやはり大きく家系が関わってくるものなのだろうか。僕の両親はあまり高くないが、僕もこれから伸びることはないのだろうか。
「いや、遺伝だけが全てではない。実際妹はかなりのチビだ」
友松さん、この強面で妹がいるとは予想外で思わず横を見てしまう。確かに顔立ち的にはクールな雰囲気がかっこいいとも取れるしモテそうではある。そしてとても女性が苦手そうではある気がする。
「……確かに、女性は苦手だ。高い歓声を上げてくるタイプは、特にな」
……そもそも高い歓声を上げてくる機会すら巡ってこない僕に喧嘩を売っているのだろうか。
「何故か寄ってくるんだ。分からん」
理由自体が分かっていないとは、これが強者の余裕という奴なのだろうか。
そこでふと違和感を覚えた。そういえば僕は──どうしてさっきから一度も口を開いていないんだ?
僕はこの男に対して一度も口を開いていない気がする。なのにどうして僕は友松さんと会話をしていたんだろうか。
「所で貫太君。俺のことは見也と呼んでくれないか? これからの事情を考えると、な」
「分かりました、見也さん」
そんな会話を交わしていると、滝水公園が見えてきた。公園と呼ぶには敷地面積は意外と拾いが入口からでも中央に立つ噴水の先端が確認できる。
「こっちです。意外と複雑な作りなんですよねここ」
それから花弁が散った桜並木の道を通り、石畳の敷かれた中央部に出た。皿の中央に棒を突き立てたような形状の噴水に、それを囲むようにしてベンチがいくつか設置されている。平日の朝ということもあり、まだ人は少ない。掃除が行き届いており、葉などの植物由来のゴミは幾つか見かけたが、人口由来のゴミは一つも落ちていなかった。
「背丈の高い高校生を探してくれ。性別は男だ」
辺りを見回すと、噴水の先から落ちてくる水の向こう側に、僕と同じ制服を着た高校生くらいの人がいるのが分かった。小走りでそちらに向かう。
「……ふぁぁ」
その男は眠たそうに欠伸をしていた。ベンチがあるのにわざわざ噴水の淵に座っている。
背丈格好はかなり大きな方だ。高校生にしても高い。顔はよく見えない。制服は同じだから恐らく同じ学校の生徒だろう。……今日は背の高い人とよく会うな。
「オイお前! そこはオレ達のナワバリだ!」
威勢のいいというより、脅かすように張り上げた声が聞こえた。そちらに目線を向けると、僕と同じ制服を着崩した男が二人。そしてタバコをふかす男が一人居た。見た目からして如何にも不良といった感じである。
「……あ、俺ですか?」
ようやく気が付いた背丈の高い男はパッと立ち上がる。その時ようやく顔が見えた。クールな印象を受ける顔立ちがだか、先ほどの強面と比べると幾らか親しみやすい感じがする。
ナワバリ、と言われていたそこをどこうとしたのだろうが、その前に足を踏み付けられて立ち止まる。
「待てよ。お前二年生か? なら先輩に対して失礼はしちゃいけねぇよなぁ?」
直感的に、面倒な絡み方をしてくる人種だと分かった。背丈の高い男が、ゆっくりと背筋を伸ばすと、ガラの悪い方よりも10センチ程度高かった。ガラの悪い方の顔が、一瞬だけ怯える。反射的に足を離したのをいい事に、その背丈の高い男はそこをスグに立ち去る。
かと思えば、少しだけ離れて三人の方を向いて、綺麗に腰を折り曲げたのだ。いわゆるお辞儀である。
「先輩方ッ! すいませんでしたッ!」
張りのある声だった。誠意の込められた声だった。聞いている側に、本気で謝っているんだと確信させる程に、その謝罪は誠実だった。こうやって何も出来ずに傍観している僕には無い、そんな強さを持っていた。少しだけ自分が情けなくなる。
が、ガラの悪い方はというもしめたといったような顔をしていた。弱者を見付けた時のクズみたいな顔だ。
「そぉだよなぁ? キチッと落とし前付けなきゃ……なぁ!」
そしてお辞儀している彼をガラの悪い男が蹴飛ばす。他の男もニヤニヤとした笑みを浮かべて傍観しているだけだ。
「後輩よォ……名前なんて言うんだ? オイ」
「友松……共也です」
その苗字を聞いた時、ふと見也さんの顔が思い浮かぶ。もしかして兄弟なのだろうか。見也さんが探していたのは、目の前の共也くんの事なのだろうか。
なんて考えていると、共也くんは立ち上がってまた謝る。僕は流石に疑問に思った。どうして彼はそこまでして謝り続けるのだろうかと。
今度は別のガラの悪い男が彼を殴る。三回ほど殴った後に、一際強いパンチが彼を襲った。また地面に倒れる彼。綺麗だった制服も今は薄汚くなっている。
「オオイオイ、なにか落ちたぜ後輩クンよ」
ガラの悪い男が拾ったのは、一つの布のなにかだった。色や形から察するに、恐らくはお守りだろう。
「お守り……プッ、ははははは! お前高校生にもなってまだお守りとか付けてんのかよ! しかもこれ小中学生とかに向けた奴じゃねぇか!」
男はそれを見て大きな声で品のない笑い声を上げる。するとタバコの男が笑う男になにか声をかけた。
「おい、それ貸せよ。俺がもっと良い感じにしてやっからよ」
遠くで見ていたタバコを吸っている不良が、お守りを受け取るとポケットからライターを取り出した。二、三回カチカチと音が鳴る。まさか火をつけるつもりなんだろうか。
「オレがこんなんから卒業できるようにしてやっからよ。へへっ」
そして火が灯ったライターが、お守りに押し付けられた。炎はそれを包んで激しく燃える。なんで酷い奴らだ、と僕は思った。しかし、この場でただ傍観しているだけの僕も共犯だと考えると、胸がきつくなる。
「しかし異様に熱ちーな、こ……れ?」
ライターをしまいながら男がそう呟いた。最後が疑問形になった理由が、その一秒後にわかる。タバコを吸う男はたった今気が付いた。そう、燃えているのが、お守りではなく自分の指だということに。
「あああああ! 熱い熱い熱い熱い熱い熱いぃぃッ!」
水水と叫びながら噴水に手を突っ込む男。他の取り巻きも共也くんから離れて近くに行く。
「先輩」
酷く、苛立ちを全面に出した声だった。とても先程の声と同一人物のものとは思えない程の豹変ぶりだ。
ふと、そこで僕は気が付いた。彼の手には、先ほど燃やされそうになっていたお守りが握りしめられていたのだ。僕がどういう事だと考えている間に、共也君が言う。
「何してんだよ」
彼の顔が一気に冷める。これは僕でもわかった。絶対に怒らせてはいけない人種の怒り方だと。
「う、うるせぇ!」
そう言った男と共也くんの間には、確かに5メートルもの間隔があった。
しかし次の瞬間、共也くんはいつの間にか男の前に踏み込んでいたのだ。思わず目を擦っていると、激しい音が一つ。そして大きな水の音もした。目を開けると、男が頬を押さえて水に突っ込んでいる。恐らく共也くんが殴り飛ばしたのだろう。
「ふざけんじゃねぇぞテメェら! 次この御守りに触ったら、その顔面がタイヤみてーに穴が開くまで殴ってやるからな!」
そして激しい音が二つ、水音が二つ聞こえた。揃って三人は仲良く噴水の中に突っ込んでいる。
「まだだ! まだ終わってねぇんだよ! おいアンタら!」
そう言って共也君が、ガラの悪い男達の足を持って引き上げようとした時だ。
「そこまでだ、共也」
まだ怒り足りないといった様子だった共也くんの肩に、大きな手が乗せられた。それは僕が今日の朝知り合った友松見也のものだった。
次話>>2
- Re: ハートのJは挫けない ( No.2 )
- 日時: 2018/04/21 15:18
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
不良達が逃げ去った後に、二人は相対する。見比べてみると、確かに二人共赤の他人には見えないほど雰囲気が似ていた。
「どうしたんすか兄さん。こんな田舎町に来て」
「そうカリカリするな共也」
「とぼけてんじゃねぇ!」
が、どうやらあまり仲が良い方ではないらしい。少なくとも、共也君は見也さんに対して当たりが強い。
「……俺はお前を連れに来たんだよ。共也」
「はぁ!? 何言ってんすかアンタ!」
「冗談じゃない。本気だ。お前はこんな所で腐らせておくには勿体無い人ざ……おい、俺を殺してやろうなんて一時の気の迷いでも考えるんじゃないぞ」
そう言った直後、共也君の右拳が見也さんの顔面に向けて放たれた。が、僕がそれを言う前にその拳は見也さんの手のひらに受け止められている。
途端に、今までの態度とは違ったものを見せる共也君。彼は何をトリガーにそこまで怒るのだろうか。
「兄さん……アンタよぉ! たった今! こんな所でなんて言い回してこの街を侮辱しやがった! 俺のばーちゃんが愛したこの街をなぁ! アンタには一度痛い目に遭ってもらわなくちゃならねぇみてぇだなぁ!」
「やめろ馬鹿。部外者もいるんだぞ」
部外者、とは僕の事だろう。正直、傍から話を聞いていても全く話が掴めない。彼らのことを知らないから当然と言えば当然だが、何故か仲間外れにされているような気がする。
「……チッ。この為の保険ってわけですか。クソ兄貴が」
「全く……やれやれだ」
二人が似たような動作で肩を竦めた後に、共也君がそういえばといった表情で僕の方を向いた。
「所でお前、なんて名前だ? 俺は友松共也」
「ああ、針音貫太だよ」
「そうか。貫太か……で、俺と同じ学校……学校? ……あ」
ふと、彼が呟くように学校と反復する。学校でなにか思い当たる節があるだろうかあったそうだ始業時刻だやばいあと少ししかない。
「やばいよ! あと十分しかないじゃないか!」
「おい貫太! 行こうぜ! 走るぞ!?」
慌ただしく走る僕らを、見也さんはずっと見ていた。正確には、共也君の方をだろう。
「どうして力を使わないのか。分からん奴だ」
僕はその言葉を聞き取った後に、焦りのせいですぐに忘れてしまった。
○
「怪しいデスねぇ。貫太クン」
「……なんだよ観幸君」
前の男子生徒──深探観幸(ふかさぐり/みゆき)が教室で机に座っている僕に、ルーペ越しに如何にも疑ってますよ感を全開にした目線を向けてきた。口で中身がカラのパイプを咥えている。お前それ校則大丈夫かと言いたくなるが、敢えて黙っておこう。
深探観幸。こんな名前だが男だ。見た目に関しても、特に女性らしさは感じられない。とは言っても身長150cmしかない彼から男性らしさを挙げろと言われれば、それはそれで難しいのだが。彼の親は探偵らしい。というのもその姿を一度も見たことがないので信じられないだけだが。また彼は成績も平均的なものだが頭は良いと自称しており、「能ある鷹は爪を隠す……フッフッフ、つまりボクは自らの学力を隠すためにワザと低い点を取っているのデスよ」というのが彼の主張だ。損しているのに早く気が付け。
「今日、同じクラスの友松共也クンと一緒に登校してまシタね?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「キミィ、もしかして彼の噂知らないのデスか?」
僕が訝しげな目線を向けると、彼はやれやれとこちらにルーペを向けるのを止めて話し始める。
「やれやれ、これだから情報収集を怠る人間はダメなのデス」
うるさい。
「彼……友松共也クンには不思議なウワサがあるのデス」
「へぇ、どんな?」
「超能力者かもしれない、というウワサデスよ」
「……………は?」
流石に付き合いの長い僕でもこの発言は固まってしまった。超能力者、なんて何をバカけた事を言っているのだろうか。
「エエ、その反応は予想済みデスとも。デスがボクは分かったうえで敢えてキミに教えたのデスよ?」
「でも、超能力者なんて……」
「ニワカには信じ難い事なのは分かるのデス。が……最近ボクも探偵業で少しばかり不可解な事がありまシテ」
何だか彼の雰囲気がホラ話をしている様子では無さそうなので、黙って聞いている事にした。お前は自称探偵だろというツッコミも控えておく。
「最近の事件の一つにデスね、どうにもおかしな事件があったのデス。まあ概要はよくある殺人事件だったのデスが……その遺体には刺し傷や打撃痕どころか擦り傷一つすら付いてなかったのデスよ」
「……でも、それなら絞殺とか毒殺とか……」
「絞殺なら線状痕が残るのデスが……まあそれはとにかく、ボクも毒殺を疑ったのデスが……」
ここで彼は自分の机に置いてあったパックのカフェオレを口に含んで一呼吸を置く。そしてこう続けた。
「死因は大量出血だったのデス」
「……え?」
「おかしいデスよね? 傷どころか手術痕さえ見られなかったのに、出血による死亡なんて有り得ないのデス。が……これは事実として起こっているのデスよ」
思わず、唾を飲み込んだ。
僕の様子に気が付いたのか、彼はわざとらしく咳払いをして話を再開した。
「とにかく、そんなこんなで世の中にはザッツ不思議な怪奇現象もあるのデス。よってワタシは友松共也クンの噂もまた真であると考えているのデス」
「そういえば、共也君の噂って?」
「それはデスね……彼は何かを引き寄せる力があるのではないか、というのが私の推理デス」
引き寄せる力、と聞いて少しだけ何か引っかかった気がした。
「どうして?」
「先日の事デス。ボクが購買に行って残り一つだったサンドイッチを取ろうとしたら、いつの間にか消えていたのデスよ。そしてスグ近くでは彼がボクが買おうとしていたサンドイッチとそっくりなものを買っていたのデス」
「……そんなの、観幸君が目を逸らしてる内に誰か誰か取って行ったんじゃ?」
「ボクのカンが言ってるのデス。彼が買ったのはボクが買おうとしたものだと」
「そんなアホな……あ、でも」
そういえば、と先程の公園での光景を思い返す。確かに、彼には一つ、おかしな事があった。
「思い出たるフシがあるのデスか?」
「えーっと……確か今日公園で……そう、5メートル以上離れてる人が持ってたものを……気がついたら手に持ってた……気がする」
「言い方が弱いデスねぇ」
「し、仕方ないじゃないか。あんな急な出来事だったんだから」
「まあ分かったのデス。これでより一層、ボクの推理が固まりましシタ。フッフッフ、やはりボクの推理はパーフェクトデスね」
しかし何かまだ引っかかっる。そうやって考えていると、また思い出した。そう。彼のもう一つのおかしな現象。
「後、さっきと同じ状態で5メートル離れた所から一気に距離を詰めてたよ。走ったとかそんなんじゃなくて、一瞬で」
「……なんデスって?」
「嫌だから、気がついたら距離が詰まっていたというか……」
「むむむむむ……これはボクの推理が怪しくなってきたのデス……」
そのまま探偵もどきは頭を抱えて長考状態に入ってしまった。何やってんだと思いつつも、僕はゴミ箱にパンの袋を捨てた。
「超能力者なんて、居る訳が無いのに」
その言葉も一緒に、ゴミ箱に捨てて置いた。
次話>>3 前話>>1
- Re: ハートのJは挫けない ( No.3 )
- 日時: 2018/04/21 09:35
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
「では貫太クン。ボクはここで」
「ああ、また明日ね。観幸君」
放課後、僕らは帰宅部らしくすぐに家路についていた。四つ角で観幸君と別れ、自分の家の方向に向かって歩く。
僕の家はバス停やビルなどが集まっている発展した部分から少し遠い所にある。学校までは歩いて20分といった所だ。
「あれ、メールだ」
自分のパカパカするタイプのケータイが、振動するのを感じ、確認すると親からメールが来ていた。内容はスーパーで買い物をして欲しい。との事だ。因みにスーパーは随分前に通り過ぎた所にある。間の悪さに悪態をつきつつも、さてどうしたものか。
一度家に戻って荷物を置いてくるか。それともこのままスーパーへ行くか。結果一度家に戻る事にした。小柄な僕に学校の荷物とスーパーの荷物を同時に持つのは厳しいと考えたからだ。自分の体格を恨みつつも家に帰る。
「ただいまー」
家には誰もいなかったので、黙って荷物を置いて家を出る。勿論財布はポケットに入れておく。
それからスーパーへと向かい、品を選び、買い物を済ませ、スーパーから出た頃には、既に時刻は7時を過ぎていた。陽は沈んでおり、結構薄暗い。
「……もうすっかり夜だ……早く帰ろう」
レジ袋を持つ手の方の右肩に、多少の負荷を感じつつも、すっかり暗くなった道を歩く。
退屈しのぎに今日あった事を思い浮かべる。色々あった気がする。朝から見也さんや共也君と合った。そこまで思い出して、友人の言葉を思い出す。
『最近の事件の一つにデスね、どうにもおかしな事件があったのデス。まあ概要はよくある殺人事件だったのデスが……その遺体には刺し傷や打撃痕どころか擦り傷一つすら付いてなかったのデスよ』
まさか、こんなところにいるわけが無い。そう思いつつも、頭の片隅で言葉が離れていかない。
ふと、周囲を見渡す。人の気配も何も無く、まるで誘拐現場によくありがちな場所である。自分で考えておきながら、誘拐現場という言葉に鳥肌が立つのを感じた。
「早く帰らなきゃ……」
自然と歩みが早くなるのを感じる。僕を変な不安に襲わせた友人を許すまいと心に決めながらも、自分の家を目指す。
その時、ふと自分の足音以外が聞こえた。良くあることだ。気にするなと自分に言い聞かせながらも更に速度を上げる。すると、その足音もまた同じように加速する。
更に速度を上げる。足音の速度も上がった。曲がり角を曲がった。足音はまだ付いてきている。少しだけ走り始めた。足音は少しだけ速くなった。
思わず背後を振り向く。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
そこには、ギラギラとした目を光らせる男がいた。どろどろと瞳の奥でよく分からないものが渦巻いている気がする。なんだこれ。また走り出そうとして、足が絡まった。思いっ切り地面に体を打ち付けて、スーパーの買い物袋も道路にぶちまけた。中から玉ねぎなどの丸い形状の野菜が幾つか零れる。
「急に声を上げるなよ……あは……は」
「ひっ……」
口がガタガタとして言うことを聞かない。誰だお前はと言おうとしたのに、確かに口に命令したはずなのに、漏れたのは言葉ですらない。電灯に照らされた男の影が自分に重なると、その男がより一層猟奇的な表情を浮かべたのが分かった。
「ひひっ! なんか良い機嫌なんだ! ひはっ! まるで競馬で何連続も勝ち続けた後みたいっつーか! パチンコで連続で大当たりを引き続けたっつーか! そんな感じにサイコーの気分なんだよ! ふひひひひはっ!」
「なっ……あ……」
「サイコーの気分だ! あはは、だからさ、なんか唐突に人を殺したいとか思って、な、ははは、は!」
自分の首に、他人の指が絡み付くのを感じだ。思わずその違和感に叫びそうになるが、喉から漏れるのは車に轢かれるカエルの断末魔みたいな声だ。
「は! 気持ちいいだろ! ひっ!」
そんな訳ない。そう言いたかった。
「…………は……は……はは、はは、はははは! はははは! ははははははははッ!」
しかし、僕の声は笑っていた。いや、完全に僕は笑っていた。
え? なんて思うのも束の間だ。僕は笑っていた。ただひたすらに笑っていた。まるで生霊か亡霊かに取り憑かれている哀れな人形みたいに、笑っていた。おかしくておかしくてしょうがない。どうして僕はこんなに笑っているんだ?
「楽しいだろ!? サイッコーの気分だろ! ひはっ!」
目の前の男が何を言っているかなんてどうでも良かった。ただ今はひたすらにおかしくてしょうがない。どうして僕はこんな愉快な気分になっているのか。今自分がどうしようもなく狂っている事と、今とんでもなく自分が愉快な気分である事しか分からない。
そして僕の意識が少しずつ白くなり始めた。点滅していく視界の中を、僕はただ呆然と眺めているしか出来なかった。
「そこまでだ」
次の瞬間、不意に首の圧迫感が無くなった。乱暴に手が引き剥がされたと思えば、途端に怖くなってくる。自分が殺されそうになっていた事実と、自分が先程まで異常な笑い声を上げていた事に。思わず、震える自分の体を抱き締める。誰でもない、自分の体だった。
「貫太君。俺の後ろに隠れていろ」
「あ、あなた……は……」
ただこれだけは分かった。僕の命を救ったのは、今僕の目の前にいる友松見也さんであることだけは。
「見也……さん?」
「ああ。友松見也だ。……しっかりしろ。精神がやられている」
頭がまだハッキリしない事もあるが、取り敢えず見也さんの後ろにいる。見也さんは振り返り、先程の不審者と相対した。
「……お前、ハート持ちだな?」
「ひひ、ハート持ち? はは、何を言っている」
ハートモチ、という単語が僕には分からない。どういう事だろうか。この深刻な場面で出す言葉にしては少し場違いな気もする。男は相変わらず狂った電波を受信するテレビのように訳の分からない挙動だ。
「……チッ、受け答えすら怪しい程狂っているとは、面倒だな」
「狂いか。そうだ。私は狂っている。は! ははは!」
「……せいぜい、心を壊す力とでも言うべきか。しかし自分の心まで壊れてしまっているとは如何せん厄介な能力だな」
不審者が見也さんに近付こうと走り出す。両手を突き出しながら走るその男の表情は相変わらず崩壊甚だしく笑っている。
「見也さぁん! その手に触れちゃダメです! その手は触れちゃダメなんです!」
一度体験した。だから分かる。あの手に触れてはいけない。先程の異常な程に愉快な感情がどろどろと流し込まれる感覚。アレはどう考えても異常なのだ。
「心配はいらない。当たらなければいい話だ」
「当たらない、なんて、できるか! ひひっ!」
その両手が見也さんを捉えようと伸ばされる。既に二人の距離は縮まっており、もう十分お互いの手が届く距離だ。
「ひゃはぁ!」
そして、不審者の男がその右手を突き出した。が、見也さんはまるでその位置に腕が来ることを予想していたかの如くかわし、不審者の顔面を殴った。大きな音が鳴り、男が数本よろめく。
「なっ……!」
「詳しい話は後だ貫太君。まずはこの不審者を撃退するぞ」
僕は目の前で何がどうなっているのか理解すらできないまま、その理解できないものに取り込まれていた。
次話>>4 前話>>2
- Re: ハートのJは挫けない ( No.4 )
- 日時: 2018/04/27 23:45
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
「はひっ!」
殴り飛ばされたと思った男が、再び見也さんに飛びかかる。見也さんはと言うと、ただそこでじっと相手を見ているだけだ。
「危ない!」
「どうやら効果範囲は手だけのようだな。安心したぜ」
が、男の体がふらりと揺れる。どうやら見也さんが足を引っ掛けたようだ。上体を崩した男の腕を掴み、思い切りしゃがみ込む見也さん。
「じゃなきゃ、殴りも投げもできないからな」
そのまま背中で男を背負い、思い切り地面に男の背中を打ち付けた。ロクに受け身すら取らせない勢いで投げられた男が、呻き声をあげるがすぐにケタケタと笑い出す。
「きひひっ! 愉快愉快!」
「……どういうことだ」
「お前はまだ! 気が付いていない! お前の右腕の状態にな! ひひっ!」
男が見也さんの右腕を指差してまたケタケタと笑う。何がおかしいんだとそちらに目線を向けて、目を見開いた。そこにあった右腕は、確かに右腕ではあった。しかし、灰色のスーツが暗い中でも分かるほどに色が変化している。もっと言うと、赤っぽい色に。
「……ハートの具現すらしてくるとはな」
「何を言っているかはサッパリだがお前が! お前が驚いていることが分かる! 分かるぞ! ひひひっ!」
見也さんが自分の血塗れの右腕を確認した後に、相手を睨み付けるように顔を向ける。
「あははっ! 圧倒的大差! 私の方が何倍も有利! ひひひひひ!」
男の発言には同意せざるを得なかった。変な感情を流したり、腕を血塗れにするような力を使う男。それに対して見也さんが行ったのは体術だけ。超常的な力を使う相手の方が、数段上である気がする。
「見也さん! もう無理です! 逃げましょうよ! 貴方の腕だって! もうボロボロじゃないですか!」
僕の叫びに振り返る見也さん。その表情は驚く程に──普通だった。自販機でジュースを買って、注文した品が出てきた時みたいに、平然とした様子だった。
「やれやれ。一つ、重要なことを忘れているようだな」
「え……?」
「ひひっ! 何を言うか!」
男がもう一度、見也さんに近付く。先ほどのように飛びかかる訳ではなく、体を低くした状態から突っ込んできた。
「そう、一つの常識的な事実を忘れている」
男がそのまま見也さんに飛びつこうとする。ダメだ。飛び付かれたら取っ組み合いになって、間違いなくあの不思議な力で壊されてしまう。そう考えた僕は叫ぼうとした。逃げてくれと、全力で避けてと。
「それは、だ」
しかし、僕が叫ぶ前に見也さんと男は接触していた。そして──見也さんは飛び付かれても倒れない。足に力を入れただけで、飛び付かれた衝撃をカバーしたのだ。そして男の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「どんな人間だろうが、どんな力があろうが、人間である以上、殴り続ければ倒せることだ」
音が鳴るほど激しく、見也さんの右手が男の鳩尾に突き込まれた。持ち上げられ宙に浮いたままの男が、口を開いて空気を吐き出した後、ニヤリと笑いを浮かべる。
見也さんが引き抜いた右手から、血が滲み出る。掌や手の甲から溢れるようにして、その赤い血液は出続けていた。
「ゲホゲホっ! ……はは! 何を言っている何を言っている何を言っている! こうして現に! ダメージを負っているではないか!」
男のその発言にすら、見也さんは表情を変えない。そして、手から血が出ていることなどお構い無しに、何度も何度も腹に右手を打ち込む。
「ゲホゲホッ! ガハッ! グアッ! ゲホッ!」
「だからどうした。ダメージを食らうことが、お前を殴らない事には直結しない」
男が呼吸困難に陥っても、見也さんはひたすらに殴り続ける。ただ一点のみを、幾ら血が出ようと、自分の手が傷つこうと、相手が言葉を出さなくなっても、それでもずっと殴り続けた。
そして男が完全に何も言わなくなった後で、見也さんが胸ぐらを離した。どさりと音を立てて落ちる男は、もう何も動いていない。死んでいる訳では無いの思うが、先程までの光景を見ている身としては、死んでいるのではないかと疑ってしまう。一体何発の拳が打ち込まれたかはさておき、電信柱に寄りかかって座る見也さんに近寄る。
「だ、大丈夫です!? きゅ、救急車……」
見也さんが手だけ上げてストップのハンドシグナルを送ってくる。要らないということか。あれほど血が出ているのに。
「……自分の不甲斐なさに呆れるぜ」
そう呟いた後に、ふらふらと立ち上がった見也さん。顔は相変わらず涼しそうだが、顔から下は右腕を中心に血塗れのと言っても過言ではない。
彼は左手でポケットから液晶型の最新の携帯電話を取り出し、少しだけ操作して耳元に当てた。動作から察するに、誰かに電話でも掛けたのだろうか。
「……もしもし、見也だ。……共也の件についてはひとまず後回しだ。ハート持ちが見付かった。しかも未登録のな。……ああ。いつもの手筈で頼む。……この街にはまだ、何人か潜んでいるかもしれない。……可能性の話だ」
数分間ほどやり取りをした後に、通話が終わる。彼はこちらを向くなり睨みつけるような視線を向けて来た。思わず、後ずさりする。
「……安心して欲しい。別に取って食おうなんて思っちゃいない」
「は、はい……」
「……貫太君、君には一つ、頼みたい事がある」
「……?」
「難しい話では無い。一連の出来事を忘れて欲しいというだけだ。君にとって、一番幸せな選択肢だ」
「忘れる……」
「そうだ。君は本来こちら側の人間ではない。忘れるべきだ」
場を静寂が支配する。二人共無言だった。僕は……ただただ、状況も何も分かっておらず、困惑するだけだった。
暫くすると、見也さんが動き出す。僕の方から顔を逸らし、そのまま振り返って何処かへと消えていった。
呼び止める気は、起きなかった。今はただ、僕は家に帰りたくて、自分のあるべき場所に戻りたくて仕方が無かった。
【ブレイクハート(終)】>>1-4
次話>>5 前話>>3
- Re: ハートのJは挫けない ( No.5 )
- 日時: 2018/04/21 14:57
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
早朝。
俺は、友松見也は異常な程に早く目が覚めた。カーテンを開けると、弱い日差しが飛び込んでくる。大して眩しくないのでそのまま放置しておく。
右腕の傷を確認する。昨日応急手当を施した後に包帯を巻いておいたが、まだ治りきってはいないようだ。右手に関しては、結構深刻で、一週間程度では治らないと見て間違いなだろう。
寝間着から灰色のスーツに着替えつつも、昨日の出来事を思い返す。あの不審者に関しては適切な処理が施されているはずだが、気掛かりなのは彼──針音貫太だ。
彼は一般人だ。心を視た限りでも、不思議な力を有している訳でもない。俺や共也とは違う存在だ。
無論、これで忘れるだろうなんて思ってはいない。人とは衝撃的事実に対しては忘却機能が著しく低下する。こればっかりは仕方が無い事だ。
唐突に、滞在中のマンションの一室に、携帯電話から放たれた着信音が反響した。すぐさま応じる。
『もしもし……お早い時間に失礼します』
「要件は」
『先日のハート持ち……灰原明(はいばら/あきら)はこちらの方で処分を決めたいと思います……』
「了解した。それと、そいつのハートは?」
『……どうやら《心を壊す力》のようです』
「なるほどな。……気を付けな。そいつはハートの具現化もしてくる。万一抵抗された時の対策も考えておく事だな」
『了解しました……それと、一つお伝えしたいことが』
何かあっただろうか。聞き返すと電話相手の彼はこう答えた。
『心音様が実家にも帰ってきて欲しいと……』
頭の中に身長の低い妹の顔が思い浮かぶ。ため息を付きつつも、「仕事が終われば帰る。そう伝えてくれ」と言い、通話を切った。
「……悪いな心音。どうやらこの街には、まだまだ怪異が潜んでいるらしい」
机の上に置いておいた、この街の行方不明者のリスト──普通の街にしては多すぎるほどの行方不明者がいると分かる──を眺めながら、そう呟いた。
○
朝。
目覚まし時計の音で目が覚める。時間は午前五時。徒歩で学校に通う生徒にしては早いくらいの時間かもしれない。が、僕にはこの時間帯に起きるのが合っている。
「課題しよっと……」
僕はあまり夜が得意ではない。少なくとも夜に勉強するとすぐに眠くなってしまうのである。だからこうして、半分程度課題を残して朝を迎え、朝にそれらを消化するという生活だった。
暫くの間机に座って問題とにらめっこした後、一段落したところで体を伸ばす。僕の部屋は二階にあり、朝食を食べるには一階へと降りなければならないので階段を下る。そのまま自然な動作で洗面台へと向かった。
蛇口を捻ると冷たい水が出てくる。水で掬って顔にかけ、タオルで拭き取る。鏡には誰でもない僕の顔が映っていた。
「……僕、だよね……」
昨日ケタケタと笑ったあの僕は、きっとおかしな力によるものだったに違いない。そう結論付けて、要らない疑念を頭から消し去る。
その後はリビングで適当にテレビを観て時間を潰し、朝食を摂り、身支度を済ませて家を出た。気分の問題で、昨日の路地は通らなかった。
「はぁ……なんかモヤモヤするなぁ……」
昨日あった事がどうにも頭の中に引っ掛かる。あんな体験をしたのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。
「ハート持ち……ハートの具現化……なんの事なんだろ」
昨日、見也さんが言っていたフレーズを呟きながら道に転がっていた石を蹴る。そのまま蹴り続けていくつもりだったのに、一発で川に転がり落ちてしまった。
「ちぇっ、付いてないなぁ」
そう呟いてから、前の方を向く。するとそこには、誰かの体があった。思わずビックリして一歩だけ後退する。
「よう貫太。朝からシケた顔してんじゃねぇか。どうかしたか?」
「きょ、共也君か……びっくりしたぁ……」
「スマンスマン。驚かせるみたいになっちまった」
共也君の顔をじっくりと見てみる。やはり、見也さんとどこか似ている雰囲気があった。しかし、共也君の方がどことなく親しみやすい。
「共也君……あのさ……」
「ん? どうかしたか?」
見也さんからあの話は聞いたの、と言おうとして、黙る。確か、二人の仲は険悪だった気がするし……何より、仮に知られていた場合、口に出すのは不味そうだ。
「共也君って、見也さんの事嫌いなの?」
代わりの質問を用意したつもりだったが、すぐさま頭が冷えるのを感じた。まずい。この質問はある意味もっとまずい。
共也君が暫く黙ったあと、答え辛そうに首の後ろを掻く。
「いや……どうなんだろうな。正直俺もよくわかんねぇ。ま、昨日の兄さんは許せなかったがな」
「許せないのに分からないの?」
許せない、ということは嫌いなのではないだろうか。僕がそう考えている間に、共也君から返答が返ってくる。
「許せない部分はあっても、それでも人間100%が嫌いな訳じゃねぇんだ。一つや二つの欠点くらい、誰にでもあるしな」
心が広い、という言葉の意味を、今の瞬間実感した気がする。
なんて僕が一人で感動していたところに、聞き慣れない音楽が響く。音源は方向から考えて、共也君の方。
「俺のケータイだわ。ワリーワリー」
共也君は自分の学生鞄から最新型の携帯電話を取り出す。そして、顔を一瞬だけ不機嫌そうに歪めた後、応答する。……別に最新型か羨ましいなんて思っていない。
「……んだよ兄さん。あ? 今から学校だ」
兄さん、という辺り相手は見也さんなのだろう。昨日の発言を思い出して、少しだけ足が竦む。
「……わーったよ。了解了解。じゃこれで切るぜ」
なんてやっている内に、話を終えていたようだ。携帯電話をしまい、学校へと歩き出す共也君。僕も走って、彼の隣へと向かった。
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