複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

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Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.60 )
日時: 2020/08/02 22:20
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

【 ハッピーエンドに殺されたい5 】




 夜になると電池が消耗して動きが鈍くなるのだろうか。と、芹香は小春の手を引きながらそんなことを考えていた。蛍光灯のような白い街灯の通りを抜けると、LEDライトで明るくなった駅が見えた。とりあえず人気のないベンチに彼女を座らせたけれど、前に見たあの佐藤小春とは全く違った様子に少しだけ不安になった。

「ねぇ、小春ちゃん、大丈夫?」
「……うん、大丈夫」

 ぼおっとしているのはすぐにわかった。声をかけても返事は譫言のようにつぶやくだけ。
 こんな調子で電車で家に帰るなんてできるのだろうか。不安を抱えながら、もう一度彼女に尋ねる。

「ねぇ、小春ちゃん。ほんとに電車で帰るの? タクシー拾ったほうがいいなら、つかまえるよ?」
「……大丈夫」

 何を言ってもこう返す、まるでロボットみたい。駅の近くだからか人通りが多い。会社終わりのサラリーマンや部活終わりの高校生、近くを通り過ぎていく人たちがこちらを見るたびにいつばれるか冷や冷やした。だけど、小春はばれるなんて一ミリも思っていないかのようにマスクを外した。

「息、苦しいや」
「ちょ、小春ちゃん、それはダメだって。ばれたら大騒ぎになるよ」
「マスク外したくらいでばれないわよ。あんた馬鹿じゃない?」
「え、ちょっ」

 やっぱタクシー拾って帰る、と小春がぼそりとつぶやいた瞬間、彼女はすぐにタクシーの近くに寄って行き、扉を開いた。

「あんたも一緒に帰る? 家まで送ってってあげる」

 彼女は何を考えているのだろう、と勘繰ってしまうその発言。だけど考えてもわからないことは考えないようにした。小春の手招きに芹香はタクシーに乗り込み、自分の住所を言おうとした。その瞬間、ズボンの後ろポケットに入れていたスマートフォンが振動した。すぐに見てみたけど、案の定母親からだった。「今日はおうちデートです。帰っちゃやーよ」メッセージは短く悪意は込められていない。ただ淡々とお前に帰る家はないと告げられた一言だった。

「えっと、あの、えっと」

 自分の住所をごくんと飲み込んで、運転手から少しだけ目をそらした。いかつい顔のタクシードライバーに何故かせかされているような感覚がした。小春がこちらをちらりと見て、ふうと小さなため息をついたあと「じゃあ、○○町の××マンションまでお願いします」と芹香を目の前にぺろっと自分の住所を吐いた。

「家に帰り辛いなら、一日くらいならうちに泊めてあげてもいいけど」
「……え」


 タクシーが動き始める。見慣れた景色が移り変わる様子にごくんと唾を飲み込んだ。隣ですうすうと寝息を立て始めた小春に驚きながら、芹香は母親に「了解」と短くメッセージを返していた。
 





「小春ちゃん、着いたよ」

 彼女の体をゆすって起こすと、彼女は「うるさい」と寝言をつぶやきながらゆっくり瞼を持ち上げた。芹香の顔を見るなりいろいろ思い出したらしく、はあと今度は大きなため息をついてカバンの中から財布を出して一万円札を運転手に渡した。
 小春があっさりと部屋にあげてくれたことには正直驚きすぎて声が出なかった。女子高生が一人で住んでいるには広すぎるその部屋は、ただただ白かった。真っ白だった。

 部屋の明かりがついて、雪のように白い部屋に小春の姿が映えた。こちらを振り返った彼女は、にこりとも笑いもせずにこちらを見て、一度瞬きをして、足に力が入らなくなったのか急にしゃがみこんでしまった。

「こ、小春ちゃん?」

 名前を呼んでも彼女が応えることはなかった。聞こえたのは小さな鳴き声。
 透明な雫が真っ白なカーペットに落ちて、にじんで、消えていく。泣いている彼女の姿を見て、芹香は何も言えないまま突っ立っていた。


Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.61 )
日時: 2020/08/07 17:56
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

【 ハッピーエンドに殺されたい6 】



「どうして泣いてるの、小春ちゃん」

 普通に発しただろうその声に冷たさを感じたのは、彼女の表情がとても悲しそうだったから。一見、心配してるように見える表情も、ほんとは馬鹿にしているだろうに。
 自分が泣いていることに気づいたのは、彼女が傍にあったティッシュで涙を拭ってくれてからだった。ああ、どうして泣いているんだろう。涙があふれた理由に心当たりはあったが、うまく言葉にはできなかった。覗き込むように見る彼女の瞳に囚われてしまいそうだった。小春は化粧が崩れるのも気にせず、ごしごしと目の下のあたりを擦って涙を止めた。

「どうして、あんたは私のこと気にするわけ?」
「どういうこと?」
「私のことが好きなんて、全部嘘じゃん。あんたさっきので分かったでしょ、私は口が悪くてファンのこともただの道具としか思ってないクズなんだから」
「それ、言っちゃうんだね。……ううん、いいや、それでも。それでも、あたしは小春ちゃんのことが好きだよ」
「嘘だ」

 突然変異したのはいったい何があったのだろうか。芹香はじぃっと小春を見つめて考えてみたが、彼女はただ涙を我慢するのに精いっぱいでそれ以上はなかなか語ろうとはしなかった。
 唐突に、何か飲む? と聞いてきた小春に軽くうなづいて席に着いた。真っ白な部屋に、家具も必要なものくらいしかない寂しい部屋。まるで社畜でなかなか家に帰ってこない男の人が住んでそうな部屋だと芹香は思った。
 珈琲を淹れてきた小春は芹香の顔を見てすぐに不安そうな顔に変わる。

「ごめん、珈琲とか若い女の子はあんまり好まないかしら」
「え、ああ、大丈夫。ミルクと砂糖もらえたら。あるかな?」
「うん、ある」

 小春がすぐにキッチンの奥からスティックシュガーとクリープを持ってきた。芹香が甘くした珈琲を口に含んで美味しいと笑うものだから、小春もぎこちない笑みを浮かべて見せた。

「好きってそんなに簡単に言えるもの?」

 唐突な小春の質問に芹香は少しびっくりして、珈琲のカップを机の上に戻した。真面目なその言葉に、こちらも真面目に答えなければいけないと思い、形から入ろうとひとつ咳ばらいをしてみせた。

「あたしは好きな人には好きって伝えたいよ。小春ちゃんは言えないの?」
「……そんな簡単に言っていいものなのか、わかんない」
「そんなにあたしのこと好きなんだね。うれしい」
「……うん、そ——っは? な、なに言ってんのばかっ!」

 ぺしんと頬をはたかれた。真っ赤になった小春の表情はとても可愛く、今すぐにでも抱きしめて自分のものにしたいという衝動に駆られた。やらないけれど。
 小春の好きな人はいったいどんな人なんだろう。どんな素敵な人なのだろう、そう考えるたびに彼女がこんなにも悩んでそれでも好きという気持ちを押し殺せないくらい好きなその愛の大きさに胸が苦しくなった。
 
「そんなに好きなんだ」

 芹香が呟くように漏らした言葉に、小春がこくりと頷いた。

「どこにも行ってほしくないの。ずっと私のそばにいてほしい。私と一緒にいてほしい」
「……じゃあ、言ってみればいいじゃん。好きって」
「だって、言えないよ。もう、私のものじゃなくなるんだから」
「なにそれ、もうすぐ結婚するわけ?」
「違う。代わっちゃうの。他の子に担当替えだって」

 意味が分からない小春の言葉に芹香は首を傾げるが、彼女は無視して言葉を紡ぎ続けた。

「夜に突然言ったの、あいつ。「もう小春さんは僕がいなくても大丈夫です」って。ひどくない? それなのに家までは送りますって! 社長に呼ばれてるくせに、昇進するくせに、私のこともういらないくせに、私のこと捨てるくせに、もういらないってはっきり言えばいいじゃんっ。それでもいいんだ、わたしはっ、筒井のためなら何でもできるのに……」

 誰だ、筒井って……。
 芹香はわんわん泣きわめく小春を見ながら、無意識に冷たくなった珈琲に手が伸びていた。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.62 )
日時: 2020/08/18 22:14
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: d6rzi/Ua)



【 ハッピーエンドに殺されたい7 】


「筒井はどうしようもない私のことを拾ってくれた恩人だったわ」
「ふーん、まぁ確かに小春ちゃんはどうしようもないクズだけど」
「……は、今なんて」

 小春が芹香をぎろりとにらみつける。そんなことはどうでもいいことのように、芹香は珈琲にまた口をつけた。もうすでに空になっているはずのマグカップに口をつけるのは、彼女の昔からの癖だった。

「だって、小春ちゃんは本当はすっごく口が悪くて性格が悪くて、あたしのことなんて信用一ミリもしてない」

 芹香の顔がずんっと近づいて、鼻と鼻が触れ合う距離になった。まっすぐにこちらを見つめる瞳は汚れなんて少しもない。純潔、無垢、そんなお綺麗な言葉がとっても似あう。
 信用してないでしょ、とまた芹香が言葉を連ねた。ピンク色の唇が小さく震えていたのはどうしてだろう。信用してない、という本音を彼女に伝えてもきっと彼女は悲しんだり傷ついたりしない。それでも言葉にはできなかった。

「どうしようもなく、いなくなってほしくない人っているじゃない。あなただっているでしょう」
「小春ちゃんのこと?」
「存外、あなた私のこと好きなのね。ほんと、ばか」
「うん、あたしも馬鹿だってわかってる。小春ちゃんなんか好きでも、あたしは幸せになれない」

 それは報われない恋だからなのか、小春の性格が悪いからなのか。
 同性に恋情を抱かれたのは初めてだった。小春にとって芹香は異端な存在であり、どうでもいい存在なはずなのに。それなのに、弱ってるということだけで、彼女を家に招くなんて。

「私もきっと、あなたと同じよ」
「なあに?」

 小春は自分に淹れた珈琲に口をつけるけど、もう冷たくなっていて美味しくはなかった。ほんの少しの苦みが口の中にじんわりと広がって、舌で上唇を軽く舐めた。

「私もきっと馬鹿」

 小春は芹香の手を取ってぐっと自分に引き寄せた。ふわっと小春の髪の柔らかな花の匂いが鼻孔をくすぐって、最初何が起こっているのかわからなかった。

「私はただ、誰かに必要とされたかっただけなんだ。きっと、筒井が私のことを要らないって思ったら、私はまた一人になっちゃう。それが怖いんだ」

 小春の弱音は、あの時の、初めて会った、他人を罵倒しているときの様子からは想像はできなかった。あんなに強気な小春ちゃんが、こんなにも弱い存在だなんて知らなかったよ。
 すすり泣く声が耳元で聞こえた。芹香はそんな小春を優しく抱きしめて「いいこいいこ」と頭を撫でてあげた。

「あたしはそんな弱くて脆くて、どうしようもない小春ちゃんが」

 その声は甘ったるくて、溶けてしまいそうだった。
 この感情が「恋」というならば、それはきっと間違いだ。違う。君に恋なんて私はしない。
 私は誰も好きにならない。みんなの理想の「小春ちゃん」になるんだ。

「好きだよ」

 芹香の微笑みに、うっかりときめいてしまった。という話は、絶対誰にも言わない、言わない。芹香には死んでも言わない。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.63 )
日時: 2020/08/31 23:24
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: d6rzi/Ua)

【 ハッピーエンドに殺されたい8 】


 ビルの上に掲げられた佐藤小春のポスター。大きなテレビモニターに映るのも佐藤小春。にこやかな笑顔で映画の宣伝をしている。もうすぐ夏休み。あの日から、彼女と出会った日からあっという間に半年の月日が経った。
 日照りが強く、セミの鳴き声が煩い。水島芹香はヘッドホンで大音量の音楽を聴きながら、横断歩道をゆっくり渡った。青信号の点滅で急いで走るフリルのお洋服を着た女の子を見ながら、ふと、小春のことを思い出した。元気にしているだろうか、そりゃあんなにテレビで楽しそうな笑顔を見せているんだから、元気じゃないわけないか。自問自答を繰り返しながら、ひたすらに歩く。目的地なんてないのに。

「あなたって、本当馬鹿」

 小春のあの子馬鹿にした言葉が聞こえたような気がした。幻聴まで聞こえるなんて、そろそろやばいや。芹香は頬をぱんぱんと叩いて、ゆっくり目を閉じた。次に瞳が世界を映した時には、見覚えのある少女の姿があった。声がうまく出なかった。呼吸がうまくできなかった。酸素が自分の体内に入ってこなくて、体中が二酸化炭素で埋め尽くされて死んじゃうんじゃないかって。芹香は心の内側からこみあげてきた熱い何かにぎゅっと心臓を潰されそうになって、そしていつしか目の縁がじんわりと湿っていった。

「こ、小春ちゃん」

 無意識にヘッドホンを外して、彼女の名前を呼んだ。どうしてこんなところに、あたしに会いに来てくれたの、あれからどうしてたの。聞きたいことはたくさんあったけれど、それどころじゃなくて、芹香は滝のように流れる涙を堪えることができなかった。泣いている芹香を見て、やっぱり「馬鹿」という言葉を口にした小春が、小さく笑っていることに気づいて芹香も思わず笑ってしまった。
 
「芸能人の家にホイホイついてくるなんて、本当馬鹿」
「それ、小春ちゃんが言うの?」
「私のことが好きとか、本当馬鹿」
「ねえ、小春ちゃん」

 思い出す。あの日の芹香が言ったことを。好きなら好きといえばいい、離れてほしくないならそばにいてと伝えればいい。そんな簡単なことも小春ちゃんは言えないの? 鼻で笑って彼女は言った。あたしなら言える。余裕で、って。

「筒井がね、……えっと、あの時話したマネージャー、我儘言ったら私のマネージャー継続してくれるって。昇進の話蹴って、私のもとにいてくれるって」
「ふうん。よかったね」
「あなたの、おかげだと思ってる」
「——あたしは何もしてないよ」
「あなたは私に勇気をくれた。ほんのちょっとの、勇気」

 太陽のようなその笑顔は、テレビの中の小春とはまた違った。演技じゃない、きっとこれが小春自身の本当の「笑顔」

「……好きだよ」

 小春がまた笑った。なみだでぐしゃぐしゃになった芹香の顔を見ながら。半年も音信不通だったくせに。半年も放ったらかしだったくせに。そりゃ芹香と小春の関係はただの芸能人とそのファン。ただそれだけ。でも、それでも。ほんの少しだけ近づけたと思っていたのだ。だから。

「……小春、ちゃん?」
「好きだよ。……ほんのちょっとだけ」

 芹香の頬にキスをした小春は耳まで真っ赤にして、すぐに背を向けた。驚いて声が出なくなるのはさっきも経験したけれど、それとはまた違った感覚だ。ぐわっとこみあげてきた感情が制御できなくなって、芹香は勢いよく小春に抱き着いた。

「ちょっ、なにするのよ」
「うれしいよおおおおおおおお。小春ちゃああああああんっ」
「ああもう、これくらいで抱き着かないでよ、鬱陶しい」

 言葉とは正反対に、小春の表情は柔らかだった。
 キャンディ・ガールの劇場版の公開日はもう明日に迫っている。もちろん映画のチケットは手に入れている。一緒に見に行こうって誘ってもいいかな。来てくれるかな。
 いつか、小春に言わせてみせるのだ。「ほんのちょっと」じゃなくて「大好き」だと。



Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.64 )
日時: 2020/09/14 21:15
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: d6rzi/Ua)

 今年の春からコツコツお話を書き連ねてきましたが、書きたかったお話を書き終えたので、またしばらくカキコから離れようかなと思っております。来年くらいにふらっと帰ってくるかもしれませんが、今回のように集中的に書き込みにくることはもうないかなと思います。純粋に書きたいお話を全て書き切ったことと、時間を作るのが難しくなっただけです。何かしらの形で創作活動は続けていますので、またご縁がありましたら。
 参照が3000を超えていました。大変嬉しく思います。
 これからも作品を読んでいただけると嬉しいです。短い間でしたがありがとうございました。
 またふらっと帰ってきますので、その時はどうぞ宜しくお願いいたします。


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