複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.63 )
日時: 2020/08/31 23:24
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: d6rzi/Ua)

【 ハッピーエンドに殺されたい8 】


 ビルの上に掲げられた佐藤小春のポスター。大きなテレビモニターに映るのも佐藤小春。にこやかな笑顔で映画の宣伝をしている。もうすぐ夏休み。あの日から、彼女と出会った日からあっという間に半年の月日が経った。
 日照りが強く、セミの鳴き声が煩い。水島芹香はヘッドホンで大音量の音楽を聴きながら、横断歩道をゆっくり渡った。青信号の点滅で急いで走るフリルのお洋服を着た女の子を見ながら、ふと、小春のことを思い出した。元気にしているだろうか、そりゃあんなにテレビで楽しそうな笑顔を見せているんだから、元気じゃないわけないか。自問自答を繰り返しながら、ひたすらに歩く。目的地なんてないのに。

「あなたって、本当馬鹿」

 小春のあの子馬鹿にした言葉が聞こえたような気がした。幻聴まで聞こえるなんて、そろそろやばいや。芹香は頬をぱんぱんと叩いて、ゆっくり目を閉じた。次に瞳が世界を映した時には、見覚えのある少女の姿があった。声がうまく出なかった。呼吸がうまくできなかった。酸素が自分の体内に入ってこなくて、体中が二酸化炭素で埋め尽くされて死んじゃうんじゃないかって。芹香は心の内側からこみあげてきた熱い何かにぎゅっと心臓を潰されそうになって、そしていつしか目の縁がじんわりと湿っていった。

「こ、小春ちゃん」

 無意識にヘッドホンを外して、彼女の名前を呼んだ。どうしてこんなところに、あたしに会いに来てくれたの、あれからどうしてたの。聞きたいことはたくさんあったけれど、それどころじゃなくて、芹香は滝のように流れる涙を堪えることができなかった。泣いている芹香を見て、やっぱり「馬鹿」という言葉を口にした小春が、小さく笑っていることに気づいて芹香も思わず笑ってしまった。
 
「芸能人の家にホイホイついてくるなんて、本当馬鹿」
「それ、小春ちゃんが言うの?」
「私のことが好きとか、本当馬鹿」
「ねえ、小春ちゃん」

 思い出す。あの日の芹香が言ったことを。好きなら好きといえばいい、離れてほしくないならそばにいてと伝えればいい。そんな簡単なことも小春ちゃんは言えないの? 鼻で笑って彼女は言った。あたしなら言える。余裕で、って。

「筒井がね、……えっと、あの時話したマネージャー、我儘言ったら私のマネージャー継続してくれるって。昇進の話蹴って、私のもとにいてくれるって」
「ふうん。よかったね」
「あなたの、おかげだと思ってる」
「——あたしは何もしてないよ」
「あなたは私に勇気をくれた。ほんのちょっとの、勇気」

 太陽のようなその笑顔は、テレビの中の小春とはまた違った。演技じゃない、きっとこれが小春自身の本当の「笑顔」

「……好きだよ」

 小春がまた笑った。なみだでぐしゃぐしゃになった芹香の顔を見ながら。半年も音信不通だったくせに。半年も放ったらかしだったくせに。そりゃ芹香と小春の関係はただの芸能人とそのファン。ただそれだけ。でも、それでも。ほんの少しだけ近づけたと思っていたのだ。だから。

「……小春、ちゃん?」
「好きだよ。……ほんのちょっとだけ」

 芹香の頬にキスをした小春は耳まで真っ赤にして、すぐに背を向けた。驚いて声が出なくなるのはさっきも経験したけれど、それとはまた違った感覚だ。ぐわっとこみあげてきた感情が制御できなくなって、芹香は勢いよく小春に抱き着いた。

「ちょっ、なにするのよ」
「うれしいよおおおおおおおお。小春ちゃああああああんっ」
「ああもう、これくらいで抱き着かないでよ、鬱陶しい」

 言葉とは正反対に、小春の表情は柔らかだった。
 キャンディ・ガールの劇場版の公開日はもう明日に迫っている。もちろん映画のチケットは手に入れている。一緒に見に行こうって誘ってもいいかな。来てくれるかな。
 いつか、小春に言わせてみせるのだ。「ほんのちょっと」じゃなくて「大好き」だと。



Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.64 )
日時: 2020/09/14 21:15
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: d6rzi/Ua)

 今年の春からコツコツお話を書き連ねてきましたが、書きたかったお話を書き終えたので、またしばらくカキコから離れようかなと思っております。来年くらいにふらっと帰ってくるかもしれませんが、今回のように集中的に書き込みにくることはもうないかなと思います。純粋に書きたいお話を全て書き切ったことと、時間を作るのが難しくなっただけです。何かしらの形で創作活動は続けていますので、またご縁がありましたら。
 参照が3000を超えていました。大変嬉しく思います。
 これからも作品を読んでいただけると嬉しいです。短い間でしたがありがとうございました。
 またふらっと帰ってきますので、その時はどうぞ宜しくお願いいたします。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.65 )
日時: 2021/06/16 01:57
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: vQ7cfuks)



【 夏の呪いに殺される 】



 あの夏から何も変わらない。じりじりと焦がされていくような太陽の熱に、皮膚をゆっくり滴り落ちていく気持ち悪い汗と、濡れて重くなったサンダル。
 向かってくる波に向かってゆっくりと進んでいくと、誰かに後ろから腕を掴まれた。

「馬鹿なの」

 そう一言。君は心底呆れたような顔をして、そう言った。はああ、と大きなため息をついたかと思うと、君はゆっくりと崩れ落ちて行って両手で顔を覆った。

「死ぬんじゃないのかと、思った」
「なんでさ」
「なんだろ……疑心暗鬼?」
「それを言うなら自暴自棄でしょ」

 頭が悪いことがまるわかりの馬鹿な発言に思わず笑いそうになって、わたしはごくりと唾をのんだ。
 喉の奥に力を入れておかないと、泣いてしまいそうだったから。

「今日は暑いね」
「そうだね。で、お前は何で海に向かって歩いてるわけなの」
「うーん。海が綺麗だから、かな」
「じゃあ、ここでもう十分だろ。ほら、綺麗な海もう見えただろ」

 君は私の腕を掴んで強く引き寄せようとする。だから、私は精いっぱいの力で君を振り切って走り出した。サンダルが重い。こんな歩きづらくなるなら脱いで来ればよかった。
 腰まで水に浸かったぐらいでまた君は私の手を掴んで、そしてぎゅっと自分のもとに抱き寄せた。

「なあ、お願いだからさ」

 君の今にも泣きそうな弱弱しい声が耳元で聞こえて、私はどうしても君の顔が見れなかった。

「死なないでくれよ」

 嫌だよ。私はもう楽になりたいんだ。

「俺はお前がいなきゃ生きていけない」
「嘘だよ、それは」
「なあ、お願いだから生きてくれよ」


 嫌だよ。絶対に。



 夏が私を殺そうとしてくるんだ。そう言って私は君を突き飛ばす。

 本当はずっと君の優しさに生殺しにされ続けてきたんだけどね。








 君は私に優しくすることでどうせ、優越感に浸ってたんでしょ。
 ばあか。一生後悔しろよ、そして彼女にも振られてしまえ。お前の不幸が私の最大の幸福だよ。

 お前なんか夏の呪いに、焼け死んじゃえ。


Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.66 )
日時: 2022/04/17 23:16
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BLbMqcR3)



【 愛なんて、要らないもの 】



「お前なんか死んじまえ」

 ああ、相変わらずこいつは子供だなと私は心の中で大きなため息をつき、そっと彼から目を逸らした。耳まで真っ赤にして、今にも泣きそうなそいつが酷く滑稽で、でも、私が今どれだけ彼のことを傷つけているか実感すると喉奥から何かがこみ上げてきそうになった。もうどうしようもない。私は悪くない、と思い込むことしかできないのだ。

 最初は我儘で高慢で、腹の立つ奴だなと思っていたけれど、時間が経つごとにそれが愛くるしくなってきて、でも私はそれを裏切ることしかできないから。だから、早めにけりをつけるべきだと思った。帰ることのできない結末だから、早めにお別れをしたほうがお互い楽なんだと何度も唱える。

「じゃあさ、あなたは私と今の立場、どっちが大事なの?」

 ドアの前で、私は振り返ることなく彼に尋ねた。暫くの沈黙が流れ、彼がようやく口を開く。

「お、俺はお前とは、言えない……」
「ほら、私もおんなじだよ」

 振り返ると、涙でぐしゃぐしゃになった彼が私をじいっと見ていて、胸がぎゅっとなったけれど私は全部飲みこんで言葉をつづけた。

「もしさ、あなたが全部放棄するならばハッピーエンドはあるかもしれない。だけど、無理だよ。私より自分と自分の家族のほうが大事でしょ」
「……そんなことない」
「大丈夫だよ。私も同じ」

 私は駒だから。ただの、使い勝手のいい駒。
 好きな人と結ばれる幸せなんて必要のない。ただの家畜。

「私は、あの人たちを裏切れない。毎日泣いてる母を見捨てることができない」
「お、俺が当主になったってその状況をどうにかすることくらい」
「できないよ」

 相変わらずの脳内お花畑。幸せな家庭で幸せに育ってきたことしかないお坊ちゃん。
 
「私たちはどちらか一人しか幸せになれないんだよ。そういう星の巡り合わせ」

 母は毎日泣いていた。父は絶対いつか帰ってきてくれるって、そんな無謀なことをずっとずっと信じていた。自分が愛人という事実に気づかないふりしてるだけの馬鹿な人だった。それでも私は母が好きだったし、母に報われてほしかった。自分だけ他の家族と幸せに暮らしている父が憎らしかった。
 私が本妻との子供より優秀に育ったら、私を引き取ってくれるかもしれない。そしたら母が喜んでくれるかもしれない。そう思ってずっと頑張ってきた。ようやく努力が実を結んで、父の家に迎え入れられたとき、母はもう壊れてしまっていた。

 変な大人たちに利用され、父を引きずり落すための洗脳をされていて、私が何を言っても無駄だった。ただ一言、あなたが当主になるのよ。と呪いの言葉をかけるだけ。

 父の本妻との子供も酷く可哀想なやつだった。
 本妻が母との浮気を知って父に捨てられないために、他所で作った子供らしい。それを知らずにのうのうと生きてる可哀想なやつ。ちょっと優しくしたら懐いてきて、私が愛人の子供と知らずに好意を抱いてきた。本当に馬鹿なやつ。私があんたのこと好きになれるわけないのに。
 私はあんたのこと好きになる資格もないのに。

「DNAの証明書で一発だよ。これで終わりだから許してよ」

 ドアから出ようとした瞬間、ぎゅっと腕を掴まれた。

「死んじゃえって言ったのはあんただよ、もう関わりたくないの私も。手切れ金貰って母を自由にしてあげたいだけ。別に当主を狙ってるわけじゃない。母の周りの連中を満足させられればいいだけ。あとはあんたの周りがうまいこと片づけてくれるよ。大丈夫だって」
「でも、お前はいなくなるんだろ。何も大丈夫じゃない」

 子供だな、と思った。同じくらいの年齢なのに私より幼く思えた。
 努力すれば報われると信じ込んでるタイプなのかもしれない。そんなわけないのに。
 私は彼の手を振り払って扉をあけて外に出た。何故か目の縁に涙がたまっていて、ゆっくりと頬を伝っていった。馬鹿なのは私かもしれない。

 好きになんかならなきゃよかった。
 彼に言われた通りに私は殺した。彼を好きだった甘えた自分を。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.67 )
日時: 2022/06/06 02:04
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BLbMqcR3)

【 金曜日の姫君 】



「こちらのお姫様からシャンパンいただきましたああああっ」

 大音量の音楽が鳴り響く中、ひときわ大きな声で叫ぶ声が聞こえたと同時にシャンパンコールが始まる。ナンバーワンの卓でアルマンドが入ったみたいだった。酔っぱらった塊がまた騒ぎ、それをちらりと見た陸は何事もなかったかのようにお酒の入ったコップに口をつける。相変わらずの余裕そうな表情にわたしは天井を見上げた。

「ねぇ、楽しい話してよ」
「……楽しい話ですか。そうですね、そもそも俺の話を聞いてあなたが楽しいと思うことはないと思いますけど」
「いやさ、あるじゃん。あれとか」
「あれって」
「恋バナとか」

 それまで無表情だった陸の顔がぴくりと歪み、視線がようやくこちらに注がれる。
 誰が見ても分かるくらいの不満そうな顔だった。お酒入れようか、とにこりと笑って言うと陸は「結構です」と唇を尖らせた。

「ほらあ、ごらんよ。あそこのナンバーワン」

 わたしは遠くで騒ぎ立てる集団の方を指さして、陸の方をちらりと見た。

「あれくらいなりたい~みたいな夢をさ、語ってくれてもいいじゃん」
「面白がってます?」
「うん。面白がってる」

 わたしは陸の肩にそっと自分の体重をあずけて、彼の手に自分の手を重ねた。陸は無言でそのまま指をからめて、ぎゅっと握る。握力が強すぎて、わたしの手が壊れてしまうかと思った。

「ほら、あいつはこっちを絶対に見ないよ。わかってるじゃん」
「……茜さんは、何であの人のこと好きでいられるんですか?」
「うーん。なんでだろうね、愛かな。愛かも」

 わたしは毎週金曜日、ホストクラブで陸を指名する。
 ナンバーワンの自分の恋人を、遠くで見ているのがわりと好きだ。陸は面白い話もしないし、お酒もあんまり飲んでくれないし、正直つまらないけれどわたしのいい玩具になってくれる。

「あんな奴に恋しても虚しいだけだよ、陸」

 顔を真っ赤にして「うるさいです」と、また私の手を引きちぎれそうになるくらい強く握る陸がとても愛らしくて、やっぱりいじめがいがあると思った。視線の合わない彼を見つめる。陸も同じ方向を見つめる。
 このじめじめとした空間が好きだった。わたしたちは似た者同士で、

 彼の「好きだよ」というオフの残酷な言葉に、甘やかされ続ける宿命なのだ。なんとも哀れである。


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