複雑・ファジー小説

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傘をさせない僕たちは
日時: 2019/10/30 13:29
名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)

はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!

【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。

@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.74 )
日時: 2021/04/13 18:07
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)





#72 【 1番欲しかったもの 】


こうしてあたしは陽介に浮気をされては許し、それを繰り返して今まで生きてきた。
そして直登と出会い、この関係にピリオドを打ちたくなった。
そんなことを思い出していたら、涙が出てきた。

一体いつ、どこからあたしは間違っていたんだろう。
こうなったのは誰のせいでもない、あたし自身のせいなのに、愚かにも誰かに助けて欲しいと願ってしまう。

お願い、助けてーーーーーーーーー。



足音が聞こえた。
僅かな光が見えた。







「結以から離れろ」






大きな声が聞こえた。

振り返ると、そこには直登がいた。

こんな、ドラマみたいな展開ってあるんだ。
あたしがヒロインでいいんだ。

「・・・直登」

結以は涙目になりながら直登を見た。

「誰だよ、お前」

陽介は苛立った表情で直登を見た。
直登は「結以を離せ」と陽介を見る。

「は?だから、誰だよお前。俺は結以の彼氏なの。部外者はどっか行ってくれる?」

陽介は小馬鹿にするように言った。

「彼氏が彼女の腕、そんな赤くなるまで引っ張るのかよ」

直登に言われ、陽介は結以の腕を見た。
結以の腕はもう真っ赤になっていた。

「うるせえな、お前には関係ねえだろ」

陽介はだるそうな表情で言った。

「関係ある」

「は?なんの関係があるんだよ」

「俺は結以が好きだから」

「あーなに?あれだ、お前、結以の浮気相手だ?」

「俺はどう思われてもいいよ」

直登がそう言うと、陽介は「っるせえな!」と直登に殴りかかった。

直登は陽介の拳を掴み、そのまま手を捻り陽介を地面に叩きつけ、陽介の体を踏みつけた。





「二度と結以に近づくな」



直登はそう言うと陽介を踏む足を強めた。
陽介はうめき声をあげながら「くっそ!」と言って立ち上がり、その場を後にした。


「大丈夫?」

直登は結以の腕を優しく撫でた。
結以は微笑みながら答える。

「…直登を信じて良かった」

直登は微笑んだ。

「あんなメッセージと急に位置情報送られてきたら誰でも気になって行くでしょ。ましてや好きな人からの2ヶ月ぶりのメッセージだよ」

直登はそう言って微笑んだ。
結以は立ち上がり、すぐさま直登に抱きついた。
直登も結以を抱きしめる。

「・・・直登、ごめんね」

言うと、直登は微笑んだ。







「ごめんじゃなくて、ありがとうがいいな」

「ありがとう・・・好き」

「・・・1番欲しい言葉やっともらえた」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「てか直登って強いんだね」

帰り道、結以が言った。

「中学高校の時ちょっとやさぐれてたからね。今となっては恥ずかしいけど・・・」

「えっそうなの?全然見えない」

「まあ色々変わったからね。ちゃんと勉強もしたし」

「あたしと一緒か」

「一緒?」

「ううん。ねえ今日焼肉行こうよ」

「えーまた?」

「だめ?」

「いいけど」

「やった!直登大好き!」

「・・・俺も」

「何?聞こえない」

「なんでもねーよ!」

「いや何か言ったでしょ」

「言ってねーよ!」

「はあ?なによ」

「うっさい」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねえ昨日の警察沙汰、聞いた?」

高校の時、クラスメイトは教室であたしを腫れ物を見るような目で見ながらそう言った。

あたしはただ、自分の席から窓の外を眺めるだけ。

「浅倉さん、3人も殴ったり蹴ったりしたらしいよ」

うるさい。

「はーあ?やばくない?女の子なのにね〜」

うるさい。

「てか人のこと殴ったりするとか考えられないよね」

何も知らないくせに。

「浅倉さん変なヤンキーとばっかりつるんでるし怖いよね〜」

あたしは間違ってなんかない。







「おい金出せよ」

河川敷で他校の男の子が同じ制服の男子3人に囲まれているのを見かけた。

当時のあたしは怖いもの知らずで、そんな姿を見て苛立ちながら河川敷に降りた。

「ねえ、やめなよ」

最初は優しく言った。

「はあ?誰だお前・・・ああ、南高か」

男子たちはまるで楽しんでいるかのように笑いながら言った。

「あたしが誰でも、その子離しなよ、嫌がってんじゃん」





「1人で俺らのとこ来るとか肝座ってんね、お嬢ちゃん」

「じゃあこいつ解放してやる代わりにお嬢ちゃんが俺らの相手してくれんの?」

「結構カワイイ顔してんじゃん〜」




男たちはそう言って、あたしの顔を触った。
あたしは男の腕をつかみ、男に突っ返した。

「痛ってえな!何だよお前!」

男たちが殴りかかってきて、あたしは避けて、それでも殴りかかってきて、あたしも彼等を殴った。
何度も何度も殴ったーーーー。

「うぜえなクソアマ!」

しまった。
背中をとられてしまった。
後ろから1人が大きな木の棒を手に、走ってきていた。
もう逃げられない。

そう思って目を瞑った、その時。

沈黙が流れた。
あたしが目を開けると、目の前には見知らぬ高校の男の子がいて、彼は木の棒を持った男の手を掴んで奥へと突っ返した。




「・・・覚えてろよ!」

その後、3人は去っていった。




「・・・ありがとう」

あたしは息を切らしながら彼に言った。
彼は微笑み、「君は大丈夫?」と言った。

「大丈夫です」とあたし。

「そっか、なら良かった。すごいじゃん、1人で」

彼はそう言ってあたしの頭を優しく撫でた。

背が高くて、金髪で、大きな目で、暖かい手の彼の顔は覚えていない。




あたしの1番欲しかったものは、昔から近くにあったのかも知れない。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.75 )
日時: 2021/04/29 14:57
名前: えびてん (ID: 8.dPcW9k)





#73 【 違う 】



顔が良ければ、お金をくれるなら、あたしを愛してくれるなら、どれかの条件さえ合えば誰でも良かった。
あたしの顔が、体が目的でも何でもいい。
中身なんか見てくれなくていい。
ーーーーー見なくていい。

本当のあたしを好きになってくれる人なんかいない。



『美琴さん、今日は会えますか?』

蓮くんからのメッセージだった。
自分から誘っておいて何だけど、正直もういらない。
長期間大学生に付き合ってるほどあたしは暇じゃないし、ガキとセックスするにも色々大変なのよ。

あたしはいつだって大人で、綺麗で、可愛げもあって、素敵な女を演じなきゃいけない。
そうじゃなきゃ、誰も相手にしてくれない。

蓮くんだってきっと同じ。
あたしがブサイクなら、デブなら、きっとあたしを相手になんかしなかったに違いない。
あの茉里って女から奪えれば、それだけで良いの。
一時期的でもいい。
またあの女に戻るならセックスしてあげる。
そんな気でしかないの、あなたは。







「えー美琴ちゃん彼氏いないの?」

合コンだった。
友達に連れてこられた合コン。
相手はちょっと年上気味の男たち。
でもそんなの関係ない。
彼らはあたしに夢中になっている。

「はい、あんまりそういうの疎くてぇ〜」

こうやって甘えた声で、可愛こぶった顔してれば好きになってくれるんでしょ?

「ええ!美琴ちゃんカワイイのに!」

知ってるよ、そんなこと。

「そんなことないですよぉ〜!やめてくださいもう〜」

でもこうやって人気を得ると、同時に失うものもある。







「あの美琴って女うざくね?何で連れてきたの?」

トイレでの女子の会話。
友達と、友達の友達(他人)。
そう言ったのは他人さん。
友達はちょっと困った感じで答える。

「だ、だって可愛い子連れて来なきゃあの男の人たちすぐ帰っちゃうって言うから!」

「だからってあんなあざとい女・・・!他にいなかったわけ?」

「あたしの友達の中じゃアイツが1番顔はいいのよ!しょうがないじゃん!」

「それでアイツに全部持ってかれてたら意味ないじゃん!」

「大丈夫だって。美琴は付き合ったりしないから」

「なんで?」

「さあ。美琴が彼氏とか聞いたことないし。ヤッたりはしてるんだろうけど普通の男に本気にならないんだと思う」

へーえ、あたしのことよく分かってんじゃん。

美琴はそう思いながらトイレのドアを開けた。

「あ、良かったぁ遅いから具合悪いのかと思ったよーぉ。デザートのメニュー決めてって店員さん来たからみんなで決めよっ」

美琴は笑顔で言った。
2人は必死に笑顔を作り、「う、うん!」と言って席へ。

当たり前じゃん、あんな男たち興味ないっつーの。
かといって、あたしが1番じゃないのも気に食わないでしょ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


帰り道、ヨロヨロしながら道を歩いていると後ろから話しかけられた。

「美琴ちゃん?」

言われ、振り返ると先程合コンにいた男がいた。

何こいつ、つけてきたの?
名前はえっとー、岸野だっけ?

「・・・あ、今日はお疲れ様でしたぁ」

精一杯、可愛い声を出した。
あーめんどくさい。

「偶然だね、家こっちの方なんだ」

お前みたいなやつがいるから遠回りして帰るんだよ。

「岸野さんも?」

「あ、うん!良かったら一緒に帰ろうよ。美琴ちゃん結構飲んでたし、送るよ」

それでそのまま泊まってセックス希望でしょ?
丸見え。
まーいっか、こいつ見た目は悪くないし。

「えーありがとうございますう〜!」

そしてそのまま歩き続けて早10分。
早々に牙を剥いてきた。




「なんか俺も酔っぱらっちゃったな・・・疲れてきた」

岸野はそう言って微笑んだ。
ここの付近にはラブホがある。

はいはい。

「・・・あー、タクシー!呼びます?」

なんかセックスもしたくないな、この頃。

「いやいいよ大丈夫!ちょっと休んでもいいかな?」

「あ・・・いいですよ」

結局この流れか。

「ごめんね美琴ちゃんも飲んでるのに。ここ寒いしどっか入ろうか・・・あ、変なことはしないからあそことかでもいいかな?」

岸野が指さしたのはもちろんラブホ。

誘い方下手すぎ。
断るのもめんどくさい。
でもなー。

「あーなら、受付はあたしがしておくので岸野さんはお部屋へどうぞ。あたしはタクシーでも呼んで帰りますね」

「ええ、美琴ちゃんを1人にはできないよこんな夜に・・・物騒だし。美琴ちゃん可愛いから」

1番物騒なのはお前だろーが。
まあいっか、もうなんでも。

「・・・分かりました。じゃあ一緒に行きましょうか」

一応毛の処理、してきといて良かったー。
どーせあたしとヤッたとか他の男どもに自慢気に言うんだろうし変な噂が立ったら大変。

美琴はそう思いながら愛想笑いを浮かべ、岸野に肩を抱かれながらラブホへと歩く。

ラブホの入り口まで来た時、美琴はふと足を止めた。

「・・・あの、あたしやっぱ帰ります」

言うと、岸野は「は?」と言って美琴を睨みつけた。

さっきまでとは別人ーーーーー。

「・・・美琴ちゃんさ、あーんなあざといことばっか言ってさ、してさ!今更なに怖がってんの?」

「・・・いえ、あたしはそういうつもりじゃーー」

「はーあ?そんな胸とか足とか強調する服着てさ、本当は俺とヤりてーんだろ?な?」

岸野はそう言いながら美琴の胸を掴んだ。

「やめてください!あたしは・・・!」




あたしは、あんたとなんかヤリたくない。
違う。
あたしはーーーーーーーー。






その時だった。






「・・・宇野?」




声が聞こえた。
声の方を見ると、そこには坂口がいた。

なんで、よりによってこんなところでーーーー。

坂口は驚いた表情でこちらを見ている。

「坂口っ」

美琴は焦りながら坂口を見る。

「は?なんだよこの男」

岸野の態度は変わらない。
美琴を掴む力が強くなる。

「離してよっ!」

「うるせえな!お前みたいな顔だけの薄っぺらい女は大人しくヤらせとけよ!」

言われ、美琴は何も言えなかった。
美琴が黙っていると、坂口が近づいてきた。






「坂口っ助けて!」







涙が溢れた。




坂口は岸野の腕を掴む。

「彼女を離せ」

坂口は真剣な眼差しで岸野を見下ろした。
岸野は「は?うるせえな」と言って譲らない。

坂口は岸野の腕を強引に離し岸野に突っ返した。

「痛ってえな!お前何なんだよ!」

「消えろ」と坂口。

こんな坂口、初めて見た。


「・・・こんな女くれてやるよ!こんな女ヤリ捨てするつもりだったしな!お前みたいな安い女にはこれくらいの男がお似合いだよ!」



岸野は負け惜しみのように言うと走り去っていった。


うわ、だっさー・・・。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.76 )
日時: 2021/05/06 15:31
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)





#74 【 ありがとう 】




「・・・ありがとね」

2人は公園のベンチに移動し、美琴は小さく言った。
坂口はまたいつもの笑顔で答えた。

「はは、全然大丈夫。あいつ弱かったし」

「坂口、何してたの?」

「ああ、仕事の帰り。あそこ近道でさ」

「そうなんだ・・・」

あんな所を坂口に見られてショックだった。
坂口はどう思ってるんだろう。
どうとも思ってないか。

「あー・・・、宇野は?あいつ誰だったの?」

気になってるの?
いや、聞くか、普通。

「・・・合コンで知り合った人。付けられてたみたいで」

「まじか、そんなやついるんだな。気をつけろよ?」




ううん、違うーーー。
あたしはそんな、ただか弱い女の子なんかじゃない。
坂口が思うような、被害者じゃない。


「・・・いつも、こうなの」


ボソボソと言うと、坂口は「え?」と不思議そうに美琴を見た。

「・・・本音なんか誰にも言えない。だけど愛して欲しい。あたしを必要として欲しい。だから気のあるような言葉を選んで、体でも何でも捧げて。だからあの人もーーー」

「・・・どうして本音が言えないの?」

「だって、本当のあたしなんか誰も愛してくれないから。なら、飾ったあたしでも愛して欲しい。求めて欲しい」

本当は本当のあたしを見てほしい。
本当のあたしを愛して欲しい。
だけど母は言った。

『あんたなんか生まれて来なければ良かったのに』

と。
あたしは勉強もスポーツも、優秀な兄や姉とは違った。
いつだって有名な高校、大学へ行った兄姉と比べられてきた。

あたしはいつだって必要とされなかった。
誰にも。

「・・・だからあたしは、安っぽい。言われても仕方ない」

そういった時、涙が溢れた。
なんで?なんで泣くの?分かんない。

「もっと自分を大切にしろよ」

坂口はそう言ってあたしの頭を優しく撫でた。

「だって、みんな・・・みんなセックスできればあたしのこと好きでいてくれるんでしょ?あたしのこと必要としてくれるんでしょ?」

もう自分でも何が言いたいんだか、何を言ってるんだか分からない。
どうしてこんなこと今、坂口に言ってるのかもわからない。

「・・・宇野を必要としてる人はいるから。そんなことしなくても愛してくれなきゃ意味ないだろ」

「いないよ・・・そんな人」

涙が止まらない。

「俺、嬉しかったよ。さっき。今も」

坂口はそういって微笑んだ。
美琴は「・・・え?」と坂口の顔を見た。

「だって今、誰にも言えない本音、俺に話してくれてるじゃん。嬉しい。強がらなくていい。俺は宇野のこと、結構知ってるつもりだから」

「何言って・・・・・・」

「宇野はいつも、誰に何言われたって笑顔で学校に来てただろ。強い子だなって思ってたよ俺。あの日だってーーーー」

「・・・あの日?」

「教室で1人、泣いてただろ?けど俺が来たら笑顔で部活頑張ってね!ってさ」

あの日だ。
あたしがこの人を好きになったあの日。
オレンジジュースをくれた、あの日。

あたしが初めて恋をした日ーーーーー。

「俺あの日、ああこの子いい子なんだなって思った。あの頃宇野とあんまり仲良くなかったけど、すぐにわかった。何で他の男子は俺より宇野と仲良いのにこの子の痛みに気づいてあげられないんだろうっても思った。って言ってもまあ、俺も何もしてあげられなかったけどね」

「坂口はっ!・・・坂口はあたしに元気くれたよ。オレンジジュース、嬉しかった」

「いやっそんなことーーーー」

「あたしには大事なことだったの!あたしの強がりに、唯一気づいてくれたのは坂口だった・・・ありがとう」

美琴はそう言って微笑んだ。
坂口も微笑み、再び美琴の頭を優しく撫でた。

「なんか宇野と再会できて良かったな〜」

「なっ何よそれ」

少し動揺した。
坂口は爽やかな笑顔を浮かべて答える。

「なんか宇野、すっごい可愛くなっててさ」

「も、元々可愛いわよ!あんたがあたしを選ばなかっただけで!!」

美琴はそう言ってフンっと坂口から顔を逸らした。

「はは、確かに。学生の頃から宇野はすっごいモテてもんね」

「何よそのバカにした言い方!」

「してないしてない。でも本当、可愛いよ、宇野は」

胸が熱くなるのを感じた。



「・・・そんなこと言われたらまた好きになる」




言ってみた。
坂口の顔を見るのが怖かった。




「いいよ、俺は」





え?


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.77 )
日時: 2021/07/22 19:43
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)






#75 【 選ばれない 】



「・・・いや、は?何言っちゃってんの」

美琴はそう言って坂口から目を離した。
坂口は「本当だよ」と声を上げる。





「宇野がまた、俺の事好きになればいいのにって思う」





なんで、そんなこと。
あたしだって、ずっと坂口のことーーーーー。

そんなことを考えた時、薫のことが頭によぎった。

だめじゃん、坂口は薫のものじゃん。
昔からずっとずっと。
今更坂口とどうこうなるなんて、なに浅ましいこと考えてんだろ、あたし。

「・・・何で、そう思うの?」

聞いてみた。
坂口は微笑んだ。

「宇野といると楽しいから」

「坂口はいつも楽しそうだよ、誰といたって」

あたしじゃなくてもそれは一緒でしょ。

すると、坂口はカバンを漁り始めた。
坂口はカバンから1冊のノートを出し、美琴に差し出した。

「・・・なに、これ?」

美琴は不思議そうにきいた。
坂口は微笑みながら再びノートを差し出す。
美琴はノートを受け取り、パラパラとページを開いた。

海の絵、ビルの絵、田園の絵、カフェの絵。
ノートには、色んな風景画が描かれていた。

「・・・きれい」

美琴はそう言って微笑んだ。

そして何ページもページをめくっていき、美琴は手を止めた。

「これって・・・」

美琴が手を止めたページには人物が描かれていた。
黒髪の女性。

「うん、薫」

坂口はそう言いながらそのページを見た。

なんだかズキっとした。
絵を見た瞬間、薫だってことくらい分かってた、
どこからどう見ても、幸せそうに笑う薫。

薫は坂口といて、こんなに幸せそうに笑って、坂口はそれを見て絵を描いて、幸せだったんだろうなーーー。

あたしはきっと薫をこんな笑顔にすることはできなかっただろう。
あたしはきっと坂口をこんな幸せにするこもはできなかっただろう。

初めからあたしの入り込む隙なんてなかったんだ。





「俺ね、薫のこと本当に好きだった。愛してた」



知ってるよそんなこと。

「薫がいなくなってから2年経ってもさ、どこで誰と何してても楽しくなくてさ。本当困っちゃったよ。俺の人生ってこんなに薫でいっぱいだなって思い知った。けど、宇野と再会して、久しぶりに楽しかった。久しぶりに笑った。やっぱ宇野は面白いなって」

「あたしが?何も楽しいことなんかーーー」

「なんか、一緒にいるだけで落ち着く。本当、こんなの薫以外に感じたことなかったのにさ」

「・・・坂口」

このままじゃ、甘えちゃう。

坂口は美琴を無視して続けた。

「だから俺ね、宇野とーーーーー」

「坂口っ!」

美琴が大きな声で名前を呼ぶと、坂口は「え、ん、なにごめん、どした?」と美琴を見た。

「・・・今日はもう、帰らなきゃ」

美琴はそう言うと立ち上がり、1人歩き出した。
坂口の「え・・・送ってくよ」という声が聞こえ、振り返らずに「大丈夫」と言ってその場を後にした。




なに、なにあれーーーー。
あたし、薫の代わりなんて無理だよ。
あたしは薫になんてなれないよ。

今更あたしが坂口と付き合って、がっかりされたら?
やっぱり薫が良かったって、そう思うに決まってる。

がっかりされたくない。
見放して欲しくない。
あたしは完璧でいなきゃだめなの。
そうじゃなきゃ誰も見てくれないの。

坂口にまた選ばれないなんて嫌だ。
嫌われたくないーーーーーー。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・美琴・・・美琴・・・」

そう言いながら、彼はあたしを求めてくれる。
セックスする代償に、彼はあたしを好きになってくれる。
あたしを選んでくれる。

誰の代わりでもない、"あたし"を愛してくれる。






「・・・ねえ次いつ会える?」

美琴が下着をつけていると、彼は言った。

「んん、いつかなあ〜」

適当にはぐらかす。
そうしとけばそのうち向こうから連絡が来る。

すると彼は後ろから抱きついてきた。

「・・・シュウジくん?」

笑顔で言った。
シュウジは「ねえ美琴、俺のこと好きになってよ!付き合ってよ」と言いながら美琴を抱きしめる力を強めた。

「・・・シュウジくんさ、何であたしのこと好きなの?」

言うと、シュウジは自信ありげに答えた。









「だって美琴、可愛いじゃん」










あ、そっか、そうだよね。
あたしの中身なんか、好きなわけないもんね。
なんだ、そんなもんかーーーーー。







「・・・あたし、帰るね。じゃあまたね〜」

美琴はそう言って立ち上がった。

「え、美琴?!ちょ、まってーーーー」








本当のあたしなんか、誰も選んでくれない。




Re: 傘をさせない僕たちは ( No.78 )
日時: 2021/11/24 15:40
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)





#76 【 手紙 】



「・・・ねえ、どうしたらそんなに愛されるの?」



知りたかった。
彼女がどうして、そんなに人に愛されるのか。
いなくなる前に、あたしに教えて欲しかった。

拒絶したのはあたしの方なのに、なんて理不尽な話だろうね。




美琴は1人、お墓の前にしゃがみこんで呟いた。

「・・・薫、あたしもあなたみたいに愛されたかった。何であたしじゃなくて、薫が癌だったんだろうね」

ため息をついた。

すると、足音と共に声が聞こえた。



「・・・美琴ちゃん?」



振り返り、立ち上がった。
そこには、見覚えのある中年の女が立っていた。

「美琴ちゃんよね?えと、宇野・・・?美琴ちゃんだったかしら・・・?」

薫のお母さんだった。

「・・・お久しぶりです」

美琴はそう言って頭を下げた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「・・・薫のことは、誰から?」

薫の母・美沙子はそう言いながら美琴にお茶を出した。

薫の家に来るのは10年ぶりだった。
何も変わらない。
和風の大きな屋敷、という印象の家。
美沙子はいつでも若々しく、おしとやかな母親という印象だった。
それは10年経った今も変わっていない。

「先日の同窓会で、坂口くんから」

美琴が言うと、美沙子は「そう・・・椋くんから」と言ってテーブルの挟み美琴の向かい側に腰を下ろした。

「椋君とはずっと交友していたの?」

「・・・いえ。高校以来でした。薫さんのこと、本当に驚きました」

「・・・美琴ちゃんに見せたいものがあってね。だけど住所が分からなくて」

「見せたいもの?」

美沙子は1枚の封筒をテーブルに置いた。

「美琴ちゃんのご実家に送ったら、宛所不明で戻ってきちゃって」

当然だ。
あたしの両親はあたしとはとっくに縁を切った気でいるだろう。
あたしに実家なんかない。
きっとあたしに言わず勝手にどこかへ引越したのだろう。

「・・・手紙?」

美琴はそう言いながら封筒を手にした。

「薫がね、生前に書いたものみたいで。病院で渡されたの」

美沙子の言葉を聞き、美琴は封筒を開けた。
封筒には『宇野美琴 様』と書かれていた。





『美琴へ

お元気ですか?私は元気ではないかな(笑)
この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょう。

私は癌になりました。
発見した頃にはもう手遅れで、抗癌剤で進行を遅らせるのが精一杯でした。
それからの生活は地獄のような日々で、どうして私がって何回思ったことか。

だけどそんな日々の中で、私が頑張れた理由があります。
それは、高校時代の美琴との写真の数々。
私、本当に美琴のことが大好きだった。

美琴はずば抜けて可愛くて、スタイルが良くて、頭も良くて、いつも笑顔で、すごく強い子だよね。
最初はただのぶりっ子ちゃんだと思ってた(笑)
でも、ただの可愛い子じゃなかった。
陰口を言われても、嫌がらせをされても、誰にも辛い顔なんか見せない強い心を持ってた。
いつも笑っていて、男子からモテる理由が分かるなーって思ってた。
仲良くなりたいなって思ってた。
そして美琴と仲良くなってからは毎日楽しかった。

私は美琴が羨ましかった。
こんなに強い子はいないって思ってた。
私も美琴みたいに強くなりたかった。

私は昔から病弱で、学校を休む時はいつも病院に行ってた。
当時は美琴にも椋君にも、言えなかった。
いつも信用して、信頼して、頼ってって言ってたのに私が美琴を頼るどころか、裏切ってごめんね。

美琴が椋くんこと好きなのも知ってたのに、私は私の気持ちが隠せなくて、美琴を裏切った。
本当にごめんなさい。
今更そんなこと言っても遅いのは分かってる。
だけど、本当はちゃんと口で謝りたかった。

美琴と話さなくてなってからの生活は地獄だった。
癌になって、入院してる生活よりも地獄だった。
自業自得なのに、何言ってるんだって思うよね。
美琴、本当にごめんなさい。

だけどこんなこと、頼めるの美琴しかいなくて、この手紙に託しました。



椋君を、幸せにして下さい。』







え?


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