複雑・ファジー小説
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- 傘をさせない僕たちは
- 日時: 2019/10/30 13:29
- 名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)
はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!
【 登場人物 】
@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。
@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。
@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。
@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。
@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.77 )
- 日時: 2021/07/22 19:43
- 名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)
#75 【 選ばれない 】
「・・・いや、は?何言っちゃってんの」
美琴はそう言って坂口から目を離した。
坂口は「本当だよ」と声を上げる。
「宇野がまた、俺の事好きになればいいのにって思う」
なんで、そんなこと。
あたしだって、ずっと坂口のことーーーーー。
そんなことを考えた時、薫のことが頭によぎった。
だめじゃん、坂口は薫のものじゃん。
昔からずっとずっと。
今更坂口とどうこうなるなんて、なに浅ましいこと考えてんだろ、あたし。
「・・・何で、そう思うの?」
聞いてみた。
坂口は微笑んだ。
「宇野といると楽しいから」
「坂口はいつも楽しそうだよ、誰といたって」
あたしじゃなくてもそれは一緒でしょ。
すると、坂口はカバンを漁り始めた。
坂口はカバンから1冊のノートを出し、美琴に差し出した。
「・・・なに、これ?」
美琴は不思議そうにきいた。
坂口は微笑みながら再びノートを差し出す。
美琴はノートを受け取り、パラパラとページを開いた。
海の絵、ビルの絵、田園の絵、カフェの絵。
ノートには、色んな風景画が描かれていた。
「・・・きれい」
美琴はそう言って微笑んだ。
そして何ページもページをめくっていき、美琴は手を止めた。
「これって・・・」
美琴が手を止めたページには人物が描かれていた。
黒髪の女性。
「うん、薫」
坂口はそう言いながらそのページを見た。
なんだかズキっとした。
絵を見た瞬間、薫だってことくらい分かってた、
どこからどう見ても、幸せそうに笑う薫。
薫は坂口といて、こんなに幸せそうに笑って、坂口はそれを見て絵を描いて、幸せだったんだろうなーーー。
あたしはきっと薫をこんな笑顔にすることはできなかっただろう。
あたしはきっと坂口をこんな幸せにするこもはできなかっただろう。
初めからあたしの入り込む隙なんてなかったんだ。
「俺ね、薫のこと本当に好きだった。愛してた」
知ってるよそんなこと。
「薫がいなくなってから2年経ってもさ、どこで誰と何してても楽しくなくてさ。本当困っちゃったよ。俺の人生ってこんなに薫でいっぱいだなって思い知った。けど、宇野と再会して、久しぶりに楽しかった。久しぶりに笑った。やっぱ宇野は面白いなって」
「あたしが?何も楽しいことなんかーーー」
「なんか、一緒にいるだけで落ち着く。本当、こんなの薫以外に感じたことなかったのにさ」
「・・・坂口」
このままじゃ、甘えちゃう。
坂口は美琴を無視して続けた。
「だから俺ね、宇野とーーーーー」
「坂口っ!」
美琴が大きな声で名前を呼ぶと、坂口は「え、ん、なにごめん、どした?」と美琴を見た。
「・・・今日はもう、帰らなきゃ」
美琴はそう言うと立ち上がり、1人歩き出した。
坂口の「え・・・送ってくよ」という声が聞こえ、振り返らずに「大丈夫」と言ってその場を後にした。
なに、なにあれーーーー。
あたし、薫の代わりなんて無理だよ。
あたしは薫になんてなれないよ。
今更あたしが坂口と付き合って、がっかりされたら?
やっぱり薫が良かったって、そう思うに決まってる。
がっかりされたくない。
見放して欲しくない。
あたしは完璧でいなきゃだめなの。
そうじゃなきゃ誰も見てくれないの。
坂口にまた選ばれないなんて嫌だ。
嫌われたくないーーーーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・美琴・・・美琴・・・」
そう言いながら、彼はあたしを求めてくれる。
セックスする代償に、彼はあたしを好きになってくれる。
あたしを選んでくれる。
誰の代わりでもない、"あたし"を愛してくれる。
「・・・ねえ次いつ会える?」
美琴が下着をつけていると、彼は言った。
「んん、いつかなあ〜」
適当にはぐらかす。
そうしとけばそのうち向こうから連絡が来る。
すると彼は後ろから抱きついてきた。
「・・・シュウジくん?」
笑顔で言った。
シュウジは「ねえ美琴、俺のこと好きになってよ!付き合ってよ」と言いながら美琴を抱きしめる力を強めた。
「・・・シュウジくんさ、何であたしのこと好きなの?」
言うと、シュウジは自信ありげに答えた。
「だって美琴、可愛いじゃん」
あ、そっか、そうだよね。
あたしの中身なんか、好きなわけないもんね。
なんだ、そんなもんかーーーーー。
「・・・あたし、帰るね。じゃあまたね〜」
美琴はそう言って立ち上がった。
「え、美琴?!ちょ、まってーーーー」
本当のあたしなんか、誰も選んでくれない。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.78 )
- 日時: 2021/11/24 15:40
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
#76 【 手紙 】
「・・・ねえ、どうしたらそんなに愛されるの?」
知りたかった。
彼女がどうして、そんなに人に愛されるのか。
いなくなる前に、あたしに教えて欲しかった。
拒絶したのはあたしの方なのに、なんて理不尽な話だろうね。
美琴は1人、お墓の前にしゃがみこんで呟いた。
「・・・薫、あたしもあなたみたいに愛されたかった。何であたしじゃなくて、薫が癌だったんだろうね」
ため息をついた。
すると、足音と共に声が聞こえた。
「・・・美琴ちゃん?」
振り返り、立ち上がった。
そこには、見覚えのある中年の女が立っていた。
「美琴ちゃんよね?えと、宇野・・・?美琴ちゃんだったかしら・・・?」
薫のお母さんだった。
「・・・お久しぶりです」
美琴はそう言って頭を下げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・薫のことは、誰から?」
薫の母・美沙子はそう言いながら美琴にお茶を出した。
薫の家に来るのは10年ぶりだった。
何も変わらない。
和風の大きな屋敷、という印象の家。
美沙子はいつでも若々しく、おしとやかな母親という印象だった。
それは10年経った今も変わっていない。
「先日の同窓会で、坂口くんから」
美琴が言うと、美沙子は「そう・・・椋くんから」と言ってテーブルの挟み美琴の向かい側に腰を下ろした。
「椋君とはずっと交友していたの?」
「・・・いえ。高校以来でした。薫さんのこと、本当に驚きました」
「・・・美琴ちゃんに見せたいものがあってね。だけど住所が分からなくて」
「見せたいもの?」
美沙子は1枚の封筒をテーブルに置いた。
「美琴ちゃんのご実家に送ったら、宛所不明で戻ってきちゃって」
当然だ。
あたしの両親はあたしとはとっくに縁を切った気でいるだろう。
あたしに実家なんかない。
きっとあたしに言わず勝手にどこかへ引越したのだろう。
「・・・手紙?」
美琴はそう言いながら封筒を手にした。
「薫がね、生前に書いたものみたいで。病院で渡されたの」
美沙子の言葉を聞き、美琴は封筒を開けた。
封筒には『宇野美琴 様』と書かれていた。
『美琴へ
お元気ですか?私は元気ではないかな(笑)
この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょう。
私は癌になりました。
発見した頃にはもう手遅れで、抗癌剤で進行を遅らせるのが精一杯でした。
それからの生活は地獄のような日々で、どうして私がって何回思ったことか。
だけどそんな日々の中で、私が頑張れた理由があります。
それは、高校時代の美琴との写真の数々。
私、本当に美琴のことが大好きだった。
美琴はずば抜けて可愛くて、スタイルが良くて、頭も良くて、いつも笑顔で、すごく強い子だよね。
最初はただのぶりっ子ちゃんだと思ってた(笑)
でも、ただの可愛い子じゃなかった。
陰口を言われても、嫌がらせをされても、誰にも辛い顔なんか見せない強い心を持ってた。
いつも笑っていて、男子からモテる理由が分かるなーって思ってた。
仲良くなりたいなって思ってた。
そして美琴と仲良くなってからは毎日楽しかった。
私は美琴が羨ましかった。
こんなに強い子はいないって思ってた。
私も美琴みたいに強くなりたかった。
私は昔から病弱で、学校を休む時はいつも病院に行ってた。
当時は美琴にも椋君にも、言えなかった。
いつも信用して、信頼して、頼ってって言ってたのに私が美琴を頼るどころか、裏切ってごめんね。
美琴が椋くんこと好きなのも知ってたのに、私は私の気持ちが隠せなくて、美琴を裏切った。
本当にごめんなさい。
今更そんなこと言っても遅いのは分かってる。
だけど、本当はちゃんと口で謝りたかった。
美琴と話さなくてなってからの生活は地獄だった。
癌になって、入院してる生活よりも地獄だった。
自業自得なのに、何言ってるんだって思うよね。
美琴、本当にごめんなさい。
だけどこんなこと、頼めるの美琴しかいなくて、この手紙に託しました。
椋君を、幸せにして下さい。』
え?
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.79 )
- 日時: 2021/12/20 17:52
- 名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)
#77 【 美琴 】
「・・・どういうことでしょうか」
美琴は泣きながら美沙子に言った。
薫はあたしに坂口を託した?
それが薫の意思?
坂口はこの手紙のこと知ってた?
「薫ね、いつも美琴ちゃんの話してた。美琴ちゃんが来なくなってからもずっと。どうして来なくなったかなんて私には分からないけど、少なくとも美琴ちゃんに原因があった訳じゃないってことは分かるの」
違う、あたしが子供過ぎたせいであたしたちは話さなくなった。
「椋君にね、この手紙、美琴ちゃんに届けてくれないかって頼んだことがあったの」
「・・・坂口はなんて?」
「それが、椋君も美琴ちゃんの居場所を知らなかったみたいで、沢山探し回ってくれたんだけどそれでも見つからなくて・・・。それで同窓会を開くって言ってくれたの」
なら、あの同窓会を主催したのは坂口だったってこと?
「じゃあ坂口は、この手紙を渡す為に・・・」
美琴はそう言って手紙に目を落とした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
玄関を開けると、向かい側の道路に停車しているミニクーパーが見えた。
美琴はカバンの中の手紙を握りしめ、ドアに鍵をかけると足早にアパートの階段を下りた。
コンコン、と窓を叩くと運転席にいた坂口はこちらを見て微笑んだ。
「こんばんは」
坂口はそう言って美琴に笑顔を向けた。
美琴も軽く微笑み、助手席に腰を下ろした。
「ごめん、急に呼び出して」と美琴。
「全然いいよ。俺も宇野に会いたかったし」
この人はサラリとそういうことを言う。
「・・・坂口は知ってたの?」
唐突すぎたかな。
「知ってたって、何を?」
坂口は不思議そうに言った。
美琴はカバンから手紙を出し、坂口に見せた。
瞬間、坂口は「・・・とりあえず、どこか行こうか」と言って軽く微笑み、車を出した。
しばらくの沈黙の後、車を走らせながら坂口が口を開いた。
「宇野はどこまで聞いたの?」
「え?」
「ほら、その手紙のこと。おばさんに会ったんだろ?」
やっぱり、知っていたんだ。
美沙子の話は本当だった。
ということは、あたしと坂口の再会は偶然でも、もちろん運命でもなく、必然だった。
「全部聞いたよ」
美琴が言うと、坂口は車を停めた。
真っ暗ではあるがそこは海の駐車場だった。
「・・・おばさんの話は全部本当だよ。宇野に会うために俺は同窓会を開いた。でも、宇野が俺のことまだ恨んでいたとしたら、そうじゃなくても嫌われてると思ってたから、幹事は別の人の名前にしてもらったんだ」
「・・・あたしに会いたかったのは、この手紙を渡す為?」
この質問には、イエスは求めていなかった。
美琴が言うと、坂口は少し苦笑した。
「もちろん手紙を渡したい、そのおばさんの気持ちと薫の気持ちを叶えたかった。その為だよ・・・けど、本当は俺の気持ちもあったんだ」
「どういうこと?」
「・・・俺自身が、宇野に会いたかったんだ。手紙のことを知るよりずっと前からね」
「どうして」
「会いたかった。会って、謝りたかったから」
「どうして坂口が謝るのよ」
「それは・・・分からない」
坂口はそう言って微笑んだ。
美琴は「なに笑ってんのよ」と苦笑する。
「分かんない。わかんないけど、俺ずっと宇野と仲良くしていたかったから。俺のせいで薫とのことも壊しちゃって・・・時間は戻って来ないから」
「坂口のせいじゃないよ。あたしが子供だっただけ・・・ってこれ、同窓会の時も話したか」
美琴はそう言って微笑んだ。
「だね。俺も子供だったし、きっとみんな子供だった。高校生なんてそんなもんだよね」
「あの時はごめんね」
「俺もごめん」
2人はそう言って顔を合わせると、小さく微笑んだ。
「なんか、あの時あんなに意地になってたのがバカみたい」
美琴は笑い飛ばすように言った。
もし未来で、10年後に坂口とまたこうして笑い合える日が来ると分かっていたら、あたしはきっと笑顔で2人を祝福できていただろうか。
もし薫が死ぬと分かっていたら、最後まで親友でいることはできただろうか。
だけどあの日から分かっていたことで、今も変わらないものがあった。
"自分が坂口にしか恋ができない"ということ。
その事実だけは何も変わらなかった。
「美琴」
坂口は美琴の顔を見て言った。
初めて名前を呼ばれた。
「・・・な、なに?」
美琴はそう言って不思議そうに坂口を見た。
「好きだよ」
坂口はそう言って微笑み、美琴にキスをした。
「・・・あたしも好き。10年前からずっと」
唇を離すと、美琴はそう言って坂口を見た。
坂口はフフっと吹き出し、「なんか照れるね」と美琴を見た。
「・・・何よ、昔裏切っといてっ」
言うと、坂口は笑いながら「素直じゃないな本当〜」と美琴の額を人差し指で押した。
「・・・浮気するかもよ、あたし安い女だし」
「うん」坂口は微笑んだ。
「もしあんたと上手くいっても不倫するかもだし!」
「うん」
「キス下手だし!」
「うん」
「もうむかつく!!」
「うん」
坂口は優しく微笑み、美琴を抱き寄せた。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.80 )
- 日時: 2024/02/23 23:26
- 名前: えびてん (ID: RA5yJQnZ)
#78 【 何かが壊れて 】
その日は雨だった。
ああ、なんでこういう時に限って雨なのかな。
余計気分下がるじゃん。
「心春ちゃん?」
声をかけられた。
振り返ると、店長が傘を差し出していた。
「傘、忘れたんでしょ?これ使っていいよ」
言われ、心春は「ありがとうございます。お疲れ様でした」と言って傘を受け取り、喫茶店を後にした。
外はどしゃ降りで、道行く人はみんな傘をさしている。
道には水溜まりができてきて、穴の空いたスニーカーを履いていた心春の足はすぐに濡れてしまった。
心春はすれ違うカップルを見てため息をついた。
こんな雨なのに1つの傘に入る2人は楽しそうに笑っている。
こうちゃん・・・何してるのかな。
ああ、私本当最低だ。
誰でもいいんだ、私。
今はただ寂しいから、こうちゃんのこと考えたんだ。
自分から捨てたくせにーーーー。
坂口さん、好きな人いたんだ。
綺麗な人だった。
肌が白くて、目がパッチリしてて、まつ毛が長くて、鼻が高くて、唇がプクッとしていて。
スタイルも良かったな。
細くて、胸もあって、手足が長くて。
髪も綺麗だったな。
艶があって、サラサラしていて。
指や爪、肌も綺麗で、まるで人形のような人だった。
坂口さんは彼女のことを"ミコト"って呼んでた。
名前も綺麗なんだな、あの人。
私、どうしたらーーーーーー。
心春は傘を持っていた手を下ろし、その場に崩れ落ちた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『今日は会える?』
茉里からのメッセージは毎日のように来ていた。
蓮は茉里のメッセージを閉じると《宇野美琴》とのトークを開く。
ここ最近、美琴からの返信はなかった。
何かをした記憶はない。
やっと触れられる距離になったと思えば、またすぐに遠い距離になってしまった。
『美琴さん、今何してましたか?』
そんなメッセージを送ったが当然、既読はつかない。
我ながらしつこ過ぎる。
女性にこんなにしつこくするのは初めてだ。
無視する女性にしつこくする男ほど気持ちの悪いことはない。
と、分かっているのにしつこくしてしまう。
何をやってるんだ俺は。
なんて、考えていた時だった。
『蓮くん話さなきゃいけないことがあるの』
美琴からのメッセージだった。
久しぶりに美琴さんに会える。
俺の胸はいつも以上に高鳴っていた。
はやく彼女を抱き締めたい。
彼女の甘い声が聞きたい。
そればかりだった。
蓮が待ち合わせの喫茶店に向かっている時、向かい側に美琴の姿が見えた。
「美琴さんっ」
会うなり、俺は笑顔で彼女に話しかけた。
美琴は傘を上にあげ、蓮を見ると少し微笑んだ。
「久しぶり、蓮くん」
「本当、久しぶりですね。俺めちゃくちゃ会いたくてーーーーー」
蓮がそういった時、美琴は蓮の言葉を遮るように「蓮くん」と言った。
「はい?」
蓮が美琴を見ると、美琴は少し微笑み、一息置いてから口を開いた。
「あたしね、結婚するの」
え?
意味が分からなかった。
どういうことだ?
「・・・え、と、その、結婚?美琴さんが?」
蓮が言うと、美琴は表情1つ変えずに「うん。だからもう蓮くんとは会えないの」と言った。
「そんな・・・えと、誰と・・・」
「高校の時の同級生。この間同窓会で再会してそれから」
淡々と語る彼女を、俺は死んだような目で見ていた。
この人が俺の事好きじゃないことくらい分かっていた。
この人とずっと一緒に居られるなんて思っちゃいなかった。
いつでも捨てられる覚悟なんてできていたはずなのに、どうしてこうも胸が、目が熱くなるんだろう。
高校の時の同級生って、そんなの俺より後じゃないか。
俺の方が先じゃん。
なのに、なのにーーーー。
「・・・おめでとうございます」
たくさん文句があった。
それなのに、口から出た言葉はこれだった。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.81 )
- 日時: 2024/10/05 02:26
- 名前: えびてん (ID: Ks1Py4Y0)
#79 【 報告会 】
「うん、ありがとう。話はそれだけだから、ごめんね呼び出して」
美琴はそう言って微笑んだ。
あ、そうなんだ。
喫茶店で話する気もないんだ。
もう俺には用はないんだ。
「・・・はい、じゃあまた学校で」
悔しかった。
それなのに、俺は笑顔を浮かべていた。
「うん、じゃまたね〜」
美琴はそう言うとくるりと振り返り、立ち止まることなく遠ざかって行った。
言いたいことも、思うことも、たくさんあるのに遠ざかっていく背中を見ていることしかできない。
何でだよーーーーーー。
『今日空いてる?』
浅倉結以に連絡してみた。
彼女はどうなったかな。
なんて、ただの口実だけど。
浅倉さんに話を聞いて欲しかった。
『どうしたの?空いてるけど』
結以から連絡が来た。
『飲みにでも行かない?奢る』
『おっけー。今から行く?』
『今からがいい』
『なんかあった?』
『報告会したいなと思ってさ笑』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・で、そんなボロボロなわけか」
ビールを片手に、結以は目を細めて蓮を見た。
蓮もビールを手に、コクンと頷く。
「・・・やっぱまずい。すいませんレモンサワー下さい」
蓮はそう言ってビールをテーブルに置いた。
「まあ、君はうまくいって良かったよ」
言われ、結以は「うん。色々ありがとう」と蓮を見る。
「別に。傷の舐め合いしただけだよね、俺ら」
「傷の舐め合いって結構大事だから。まあ、元々先生はやめといた方がいいと思ってたけど」
「なにそれ、ひど」
「だってどう見てもビッチだし。セックスできただけ良いと思いなよ」
「ひどい慰め方。まあ、そうだよなあ」
蓮はそう言ってテーブルに頭を突っ伏した。
結以は「いやごめんごめん!ちゃんと慰めるって!」と蓮の頭を軽くツンツンと叩く。
「てか、正式に素敵な彼氏ができたのに俺とサシで飲みに来て大丈夫なわけ」
蓮は顔を上げ、不思議そうに結以を見て言った。
「ああ、もちろんそこはちゃんと言ってきた。『報告会してくるね』って」
「浅倉さん元々浮気するような女なのに疑われなかったの」
「言い方考えなさいよ。大丈夫、直登は信じてくれてるから。大体、あんたと浮気とか有り得ないし」
「そりゃそうだけど。分かんないよ男は」
「じゃああたしに気があるとでも?」
「それはない」
「でしょ?」
「けど、相手が浅倉さんじゃなかったら俺手出すと思う」
「えっ」
「失恋したてで女とサシで飲みに行って、憂さ晴らしに襲うかも。浅倉さんは本当にそういうんじゃないから憂さ晴らそうとも思わないけど。普通の女友達ならすると思う、俺」
蓮はそう言うと店員からレモンサワーを受け取り1口。
「そんなんだから振り向いてもらえないんでしょうがっ」
結以に言われ、蓮は苦笑する。
「後輩に言われてちゃダメだね俺」
「てか宇野先生、結婚するんだ」
「・・・みたいだね」
「大丈夫なの?」
「大丈夫って何が」
「学校で、普通に話せるの?宇野先生と」
「んー・・・多分。きついけど」
蓮はそう言って微笑んだ。
「俺、美琴さんのこと本当に好きだったからなあ」
「ふーん。あんなあざとい女どこがいいんだか。あ、あたしが誰か紹介してあげよっか?」
結以は笑いながら言った。
「いやいいよ。それくらい自分で探すし、当分誰も好きになれなさそう」
「そっか」
「1人、彼女みたいな人いたんだけどさ。その人にもハッキリしてなくて。俺本当どうしようない」
「これから連絡すればいいじゃん」
「もう何ヶ月も連絡無視しててさ。もう男できてるかも」
いや、茉里はそんな女じゃないか。
きっと今も俺の連絡をーー。
「柳木くんはその人と付き合う気あるの?」
「・・・無いんだと思う。美琴さんに気持ち伝えてハッキリしたらその人と付き合う気でいた、それは本気で。けど、やっぱり俺美琴さんのこと好きだったんだって余計思い知った。美琴さんは俺の事遊びだったかもしれないけど、俺は本気だった」
「そっか。なら、その人にもちゃんと伝えなよ、自分の気持ち」
「今更、なんて言えばいいんだろ」
「正直な気持ちを言うだけだよ。宇野先生に告白できたんなら、その人にも言えるはずでしょ。いつまで待たせる気なの」
分かっている。
茉里はいつでも俺に振り回されて、それでもずっと待ち続けてくれて。
「ま、これからもたまには話聞いてあげるから」
「後輩のくせに」
「頼もしいでしょ?」
「・・・ありがと、浅倉さん」
「柳木くんも、ありがと。頑張ってよね」
失恋はしたけど、友達はできたっぽいな、俺。
それはそれで悪くは無いのかも。
なんて思ったりした日だった。
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