複雑・ファジー小説

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傘をさせない僕たちは
日時: 2019/10/30 13:29
名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)

はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!

【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。

@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.68 )
日時: 2020/05/19 18:32
名前: えびてん (ID: GbYMs.3e)






#66 【 本心 】



「・・・薫が死んだって、どういうこと?」

美琴は困惑した様子で坂口を見た。
坂口は苦笑しながら話し出す。

「びっくりするよね、俺もびっくりした。薫、癌でさ」

「癌・・・?!」

「そう」

「なによ・・・それ」

坂口はどこか寂しそうにハハ、と微笑んだ。
楽しくなんかないはずなのに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


坂口椋とは、高校の同級生だった。
クラスが同じで、唯一あたしになびかなかった男。

とってやりたかった。
小川薫と言う目障りな女から。

小川薫は顔や体型は普通だし、頭も良い訳じゃない。スポーツだって苦手な方だった。
それなのにいつも周りには人がいた。
男も女も関係なく、薫の周りにはいつも友達がいた。

どうしてあんな普通の子がそんなに好かれてるの?
不思議でならなかった。







「ねえ美琴ってうざいよね」

そんな言葉、聞き飽きた。

放課後、教室に忘れ物を取りに行った時に聞こえた声だった。

あたしが可愛いから妬んでるんでしょ?
悔しくともなんともない。



思ってるはずなのに、あたしはどうしていつも泣いちゃうんだろう。


本当は悔しかった。
あたしのことを何も知らない女たちがあたしのことを悪く言ってはみんなで笑う。
教室ではヘラヘラ話しかけてくるくせに。


「ねえ美琴誘おうよ」

そんな言葉は嬉しかった。

「えーなんで?うざいじゃんアイツ」

「だってアイツ顔だけは良いから美琴来るって言ったら男子も来るじゃん」

「あーそれな?」

そんな会話も、聞き飽きた。

あたしがあんたたちに一体何をしたって言うのよ。
勝手に嫉妬してるだけのくせに。
なんであたしばっかりーーーーーー。



女子たちが帰ってから、あたしは教室で1人、自分の席に座った。
机はもうびちゃびちゃに濡れた。

ああ、拭くの面倒臭いな。
明日みんなに会ったら笑顔浮かべなきゃな。

そう考えれば考えるほど、涙が溢れた。

その時、ガラッと教室のドアが開く音がした。
ハッとした。
つい、目を見開いてドアを見てしまった。

そこには部活中の坂口椋がいた。



「宇野?どした?」


坂口は不思議そうにあたしを見た。
あたしはすぐに笑顔を作った。

「・・・なんも!忘れ物しちゃって戻ってきただけ」

「そか。俺も忘れ物。じゃまた明日な」

坂口はそう言うと机からタオルを出し、美琴に手を振った。

「うん!部活、がんばってね!」

「さんきゅ!」

ガラガラ。
ドアが閉められた。

ああ、また1人だ。

また涙が出てきた。

ガラガラ!
今度は大きく聞こえた。

美琴は驚いた表情でドアを見た。
坂口がいた。

「宇野!」

少し、息が切れていた。

「・・・な、なに?」











「がんばれ!」










坂口はそう言って、オレンジジュースを投げてきた。

「・・・へ?」

美琴はジュースをキャッチし、不思議そうに坂口を見た。

坂口は微笑み、「じゃ、今度こそまた明日な!」と言って教室を後にした。







あたし今、心から嬉しかった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



本当は悔しかった。
みんなに悪口を言われること。


「ねえさっきの美琴うざくなかった?」

「わかる。エリが宮田のこと好きなの知ってるくせに宮田に色目使っちゃってさ」

「まじ最低だよね」

「まあ顔くらいしか自慢できるものがないしね、美琴って」


ああ、まただ。
悪口言う前にトイレに誰か入ってるなとか思わないのかな。

すると、誰かが入ってくる足音が聞こえた。

「あ、薫〜」

ああ、小川薫。
あの気に食わない女。
あんたも悪口大会に来たんだね。

「みんなどうしたの?集まって」

薫の声が聞こえた。

「そういえばさ、薫はどう思う?美琴のこと」

「美琴ちゃん?どういうこと?」

「ほら美琴って男に媚びてばっかでうざくない?さっきなんてエリが宮田のこと好きなの知ってて色目使ってたんだよ?どう思う?」

宮田なんか興味ないのに、あたし。








「みんな、美琴ちゃんと仲良くないっけ?」







薫の声だった。

「え、仲良いわけないじゃん。美琴と仲良くしてれば男子と仲良くなれるから仕方なく仲良くしてるだけだよ」

気づいてるし、そんなの。

「はは、なにそれ」

薫が笑った。

「何?なんで笑ってんの?」

「だってそれ、みんな美琴ちゃんに嫉妬してるだけじゃん」

薫は笑いながら言った。

同調すると思ってた。

「は?」

女子たちは声色を変えた。
薫は微笑みながら答える。



「美琴ちゃんが可愛いから、男子に好かれてるから、それが気に入らないだけでしょ、それ。宮田くんに色目使ってたってさ、だったらエリちゃんが頑張ればいいじゃん。それでも宮田くんが美琴ちゃんを好きって言ったならそれは仕方ないでしょ、美琴ちゃんの勝ちだよそれ。てか美琴ちゃんは別に宮田くんのこと好きなわけじゃないと思うし。まあ分かんないけどさ」




個室の中で、美琴は驚いた表情をうかべた。

あたしは小川薫とそんなに話したこともないのに、どうしてこの女はあたしのことこんなに分かるの?

「私は美琴ちゃんのこと、ただただ可愛いな〜っていつも思うよ。そんなに話したことないけど、悪い子じゃないと思う」

薫の言葉に、女子たちは「あんた調子乗ってんじゃないの?」と薫に敵意を向けた。



だめ、この子があたしの代わりにイジメられるーーーーーーー。



美琴は立ち上がり、個室のドアを開けた。



「・・・美琴」


その場にいた全員が、驚いた表情を浮かべた。

薫は笑顔で近づいてくると、美琴の隣にたち、女子たちに言った。



「美琴ちゃん可愛いもんね。嫉妬して悪口言うのってどうなの?」



薫はそう言って微笑んだ。




・・・何言ってんの、コイツ。




Re: 傘をさせない僕たちは ( No.69 )
日時: 2020/07/24 20:13
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)





#67 【 衝撃 】



あたしと薫は仲良くなった。
あれ以来、あたしの悪口は聞かなくなった。
全部、薫のお陰だった。
薫と仲良くなってからは女子ともよく話すようになった。



「ねえ、なんで助けてくれたの?」

帰り道、聞いてみた。

「助けたって?」

薫は不思議そうに言った。
美琴は「トイレでのこと」と答える。

「ああ、あれ。別に助けてないよ。私の意見言っただけ」

薫はそう言って微笑んだ。

「でも薫、あたしと仲良い訳じゃなかったのに。自分もいじめられるかもしれないのに」

「私は美琴ちゃんと仲良くなりたかった、ずっと」

「なんで?」

「んーめっちゃ可愛いし、あざといとか言われてたけどなんて言うか、それすら可愛いなって思ってたし。本当はいい子だって思ってた」

「バカじゃないの」

「バカだよ。美琴ちゃんよりもずっと」


このバカのことが、あたしはすごく好きだった。
いつまでもこんな日々が続けばいい、心からそう思っていた。




同時に、あたしはあの日から坂口のことが気になって仕方がなかった。

「坂口」

放課後、下駄箱で話しかけた。
坂口は「おお宇野、おつかれ」と微笑む。

このクシャっとした嘘のない笑顔、好きだな。

「坂口って駅の方だよね、一緒に帰ろ」

美琴はそう言って坂口の腕に絡みつく。
坂口は照れ臭そうに「な、なんだよ急にっ」と笑った。

「えーだめ?」

美琴はそう言いながら坂口を見上げる。

「い、いや良いけどさ・・・!」

「ほんとっ?やったー!じゃ帰ろ!」




男を落とすのなんて簡単。
結局男の子だもん、坂口だって同じ。
坂口に、あたしを好きになってもらいたい。



だけど、この恋はそんなに容易のものではなかった。






「ねえ美琴って坂口と付き合ってるの?」

最近、そんな質問をされることが増えた。
満更でもなかった。

「え〜そんなんじゃないよ〜」

美琴は笑顔で答える。

「えーそうなの?だって最近いつも一緒じゃん」

「仲は良い、かなあ?」

「きゃー、やだ、美琴は坂口のこと好きなの?」

「全然全然。恋愛とか全然分かんなくて」

「うっそ、美琴モテるのに。そういえば彼氏いるとかあんま聞かないよね」

「全然モテないよ〜」

「えーほんと?坂口、美琴のこと絶対好きだって」


あたしも感じていた。
坂口はあたしのこと、少なからず意識はしてくれてるはず。
大体、あたしがあそこまで積極的にしてその気にならない男なんかいない。
こんなの、初めて。

だけどそれから何ヶ月経っても坂口はあたしに告白してこなかった。
どうして?




「坂口〜一緒に帰ろっ」

その日も、あたしから誘った。
考えてみれば、いつもあたしからだった。

でもその日、返ってきたのは意外な言葉だった。








「ごめん宇野・・・俺、彼女できたから宇野とはもう帰れない。ごめん」






ーーーーーーーーーえ?


どうしてそんなに言いづらそうなの?
あたしに手を出したわけでもないのに。
あたしが、一方的に好きだったってこと?
その気持ちに気づいてたーーーーー?





「へ、へえ!良かったね!おめでとう!」

目が熱くなるのを感じだ。
涙が溢れ出すのを必死に堪えた。

「うん・・・ありがとう」

何で、そんな顔するの?

「・・・か、彼女って?この学校の子なの?」

聞きたくない。
でも気になった。

坂口はしばらく沈黙した。










「俺、小川と付き合うことになった」









え?



Re: 傘をさせない僕たちは ( No.70 )
日時: 2020/08/21 18:02
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)





#68 【 ジレンマ 】



坂口が、薫と?

なんで?
そんなの聞いてない。
薫は、あたしが坂口のこと好きなの知ってたのに。
唯一、話したのに。



「え・・・」

美琴が立ち尽くしていると、後ろから足音が聞こえた。
振り返ると、そこには薫がいた。

「・・・薫」

美琴は薫を見るなり、怪訝な表情を浮かべた。
薫はどこかバツが悪そうな表情をしている。

「美琴・・・ごめん」

「・・・ごめんって、なに?何で謝るの?あたしが坂口のこと好きなの知ってて坂口をとったから?」

美琴が言うと、坂口が美琴を見て言った。

「違うんだ宇野」

「違うって、なによ」と美琴。

「・・・俺、ずっと前から小川のことが好きで・・・何回も告白してたんだ。でも、何回も振られてて・・・」

どういうこと?
坂口はずっと薫がーーーーー。

なんでよりによって薫なのよ。

「・・・私、坂口くんのこと好きだったの。でも、美琴が坂口くんのこと好きだって知って・・・」

薫はそう言って俯いた。

何よ、何よそれ。
あたし惨めじゃん。

「・・・そう、なんだ。もういい、わかった」

美琴はそう言うと静かに歩き出す。

「美琴・・・!」

薫の声が聞こえた。
美琴が振り返ると、薫は不安気な表情で言った。

「私たち、今まで通りでいられる?」

薫に言われ、美琴は唇を噛んだ。





「冗談言わないでよ、無理だよ。薫とも、坂口とも」





美琴はそれだけ言うとその場を後にした。


分かってる。
坂口も薫も、何も悪くない。
あたしが1人で舞い上がって2人の邪魔をしてた、ただそれだけの話。

もういいじゃん、あんな普通の男。
どこが好きだったんだろ、坂口のこと。
普通の男じゃん、ただの普通の男。
あたしが坂口を好きでも、何人もあたしに告白してきたじゃん。
坂口じゃなくてもいっぱいいるじゃん。
坂口に拘る理由なんかーーーーーー。





なのに、涙は止まらなかった。






あれ以来、卒業まで坂口とも薫とも今までのように仲良く話すことはなかった。

あたしが子供過ぎるってことくらい、分かってる。

でもやっぱりあたしは、追いかけても届かないなら追ってもらいたい。

誰かあたしを愛してよーーーーーー。



だからあたしは来る者拒まず去るもの追わずになった。

だって愛なんかなくてもセックスすればあたしを好きでいてくれるんでしょ?

分かってる。
みんながあたしのことを好きだって言うのはあたしの中身じゃない。
ただ取り繕っただけの愛想と、外見だけだってこと。

きっとみんなそう。

だから取られるくらいなら取ってやりたい。
あたしが上だって感じたい。
あたしは愛されてるんだって感じたい。


だけどあたしは、誰のことも好きにならない。


どうして?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「でも今日、宇野が普通に話しかけてくれて嬉しかった」

坂口はそう言って微笑んだ。

「・・・高校の時は、ごめん。あたし子供だった。2人を無視したりして・・・」

美琴はそう言って俯いた。

「いいって、仕方ないよ。俺が悪いんだ」

「坂口は悪くない!あたしが勝手に好きだっただけなんだから!」

美琴が言うと、坂口はクスッと笑った。

「なんか、改めて言われると照れるな」

「・・・何言ってんの。思ってないくせに」

「思ってるよ。俺あの頃薫のこと諦めかけててさ、そんな時に宇野と仲良くなって、本当危なかった」

「危ないって何?」

「宇野に惚れそうになってた」

「・・・チャラいわね」

「チャラくないよ。まあ結局薫のこと忘れられなかったけどね」

「なに、嫌味?」

「違う違う」

坂口は笑っていた。
彼の笑顔なんて、10年ぶりだった。

「ねえ坂口、お願いがあるんだけど」

「なに?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2週間後。
その日は15時に待ち合わせた。
角を曲がると、ミニクーパーが目の前に。
運転席には坂口がいた。
美琴は微笑み、助手席のドアを開けた。

「ごめんね急にお願いして」

美琴は乗るなり、そう言って微笑んだ。
坂口は「いや、薫も喜ぶと思う」と言ってギアをドライブに入れ、車を発進させた。

着いたのは薫の実家の近くにある墓地だった。
2人は花を手に、墓地を上がる。




「ここだよ」

足をとめ、坂口の視線の先を見た。
そこには確かに{小川家之墓}とあった。

嘘じゃないんだ。
薫はもう、この世にはいない。

そう思うと、なぜだか急に胸が熱くなった。
気づけば、涙が溢れていた。

坂口は少し微笑み、軽く美琴の背中をさすった。

「薫、宇野が来てくれたよ」

坂口はそう言うと花をさす。
美琴も花をさし、線香を焚いた。

どうして薫だったんだろう。
あたしが唯一本気で好きになった人が好きになった人。
今考えてみれば、どうしてあたしは子供みたいに2人を突き放したんだろう。
親友と好きな人を巡るジレンマが、辛かった。



「ありがとう、宇野。薫も喜んでると思う」

帰り道、車の中で坂口は言った。

「・・・喜んでるかな」

「・・・薫、あれからずっと後悔してた。宇野と、ずっと仲良くしていたかった、って。いつでも宇野の話してた。本当に好きだったんだと思う」

「でもあたし、謝れないまま薫は・・・」

美琴はそう言って涙をこぼした。

どうして、たった1人の本当の友達をあたしは自ら手放してしまったんだろう。
本当にバカだ。
友達なんていないくせに見栄張って、唯一助けてくれた薫を、どうして許せなかったんだろう。

坂口はそんな美琴を見ると、通りかかった公園の駐車場に車を停めた。

「宇野、大丈夫だから」

坂口はそう言って美琴の頭を優しく撫でた。

この温もり、あの頃と何も変わらない。
この暖かい手が、暖かい優しさが、好きだった。
その気持ちはずっとーーーーー。

「・・・坂口」

美琴は泣きながら顔を上げた。











「・・・本気で好きだった」








涙が溢れた。




言うと、坂口は優しく微笑んだ。

「知ってた」

坂口はそう言ってもう一度美琴の頭を撫でた。

このまま抱きしめてもらいたい。
そんなことを思った。
けどこの人はきっとしない。
失った悲しみを、代わりで埋めようとなんかしない。

薫をいつまででもきっと愛するーーーー。

美琴は溜息をつくと坂口の手から離れた。
坂口は少し不思議そうな表情を浮かべて美琴を見る。

「ごめんね、もう大丈夫だから帰ろ」

美琴はそう言って微笑んだ。
坂口はしばしの沈黙のあと、「そうだね」と言って微笑むと車を発進させた。




ああ、やっぱりあたし、この人しか好きになれないんだ。




窓から見える夜空は、やけに綺麗な星空だった。



Re: 傘をさせない僕たちは ( No.71 )
日時: 2020/10/01 12:30
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)




#69 【 どうして 】



「美琴さん・・・好きだよ」

あたしを抱きしめながら、蓮くんは囁く。

あれから数日経った。
でもあたしの心は空っぽのまま。
坂口のことが頭から離れない。
あたしのことを好きな他の誰かで埋められない何かがある。

「ねえ蓮くん」

ふいに、聞いてみたくなった。

「ん?」

蓮くんはそう言いながらあたしを強く抱きしめる。

何でだろう、ときめかないの。

「蓮くんってさ、どうしてあたしのこと好きなの?」

言うと、蓮は恥ずかしそうに頬を染め、モゴモゴしながら話し始めた。

「そ、それは・・・もうめっちゃ可愛いし、優しいし、女性らしくて、なんていうか愛おしくてーーーー」

聞いといて何だけど、途中から聞いてなかった。
そうだよね、可愛いからとかそんな理由だよね?
あたしからすれば、可愛くない女を好きになる男の神経が分からない。
身なりもちゃんとできないやつのどこが好きなの?
だから現に、あたしに搾取されるんでしょ?

坂口だって、薫の顔が好みだったんでしょ?
じゃああたしは、坂口の顔が好みで好きなのかなあ。
でも別にイケメンって訳じゃないのに、何でなんだろ。

あたし坂口のこと好きなの?
好みなだけなの?
あいつの何が好きなの?
どうして坂口といる時だけ、胸がチクッとするの?
どうして坂口の言葉だけ、なんでも気になるの?
どうして?




「ねえ蓮くん」

話を遮り、美琴が言った。
蓮は「え、ああ、はい?」と言って美琴の顔を覗き込んだ。







「・・・好きって、なに?」






美琴が言うと、蓮は少しの沈黙のあとに答えた。

「その人のことを考えるとドキドキしたり、その人のために何かしたいって思ったり、その人の言葉がいちいち気になったり、何してるのかなとか思ったり・・・そういうことですかね?」

蓮くんの回答は、きっと教科書通りの回答だった。
きっとそうなんだと思う。
でもどうしてだか、納得できない。
そうなんだけど、どうしてだろう。

あたし25年も生きてきて、何を学んできたんだろう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『別れたい』

そんなメッセージを送ると、すぐに電話がかかってきた。
結以は怯えた表情を浮かべ、目を瞑ると深呼吸をして心を落ち着かせる。

大丈夫、大丈夫ーーーーーー。

『・・・もしもし』

結以が電話に出るなり、怒号が飛んできた。

『お前何言ってんだよ、今から俺んちにこい』

陽介の声は冷徹だった。
陽介はそれだけ言うと電話を切った。

行きたくない。
行かなきゃいけない理由なんかない。
でもこのままじゃ直登と向き合えない。
陽介とちゃんと別れたい。
そして直登とちゃんと付き合いたい。

結以は立ち上がり、階段を下りた。

「どこ行くの?」

玄関で靴を履いていると、後ろから航平に話しかけられた。

「・・・あ、いや、彼氏のとこ」

「ふーん、早く帰ってこいよ〜」

航平はそう言うとリビングへ。

何でこういう時に限ってお兄ちゃん実家にいるかな。

結以は外に出ると、駅へ向かう。




『これから陽介とちゃんと話してきます。もうあたしの事なんかどうでもいいかも知れないけど、もしまだあたしを好きでいてくれたなら、その時はあたしと話してください』



直登にこんなメッセージを送った。

あれから2ヶ月、もうブロックされているかもしれない。
何度も陽介に別れたいと伝えたけどダメだった。
今日でようやく終わる、終わらせるーーー。

既読はまだつかない。






結以陽介の家に着くと、家の前で大きく深呼吸をした。






今日で本当に、終わり。



Re: 傘をさせない僕たちは ( No.72 )
日時: 2021/02/22 13:08
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)





#70 【 変わり果て 】




チャイムを鳴らすと、陽介はすぐに出た。
思ったより笑顔だった。
もっと怖い顔をしているかと思った。

「来たきた、入れよ。ちゃんと話そ?」

ドアを開け、陽介は笑顔で言った。
結以は「うん」と言って少し微笑み、靴を脱ぐと部屋へ。

リビングのドアを開けると、結以は目を見開いた。
そこには6人、知らない男たちがいた。

「・・・陽介、これ、どういう・・・」

結以が不思議そうに陽介を見ると、陽介は椅子に腰掛け、結以に言った。

「脱げよ」

「え・・・?」

結以が言うと、陽介は「俺と別れたいんだよな?じゃあ脱げよ」と微笑んだ。

「いや、どういうこと・・・?」

「コイツらがお前のこと可愛い可愛いってずーーーっと言ってたからさー。どーせならヤらせてやろうと思って」

ゆっくりと、後ずさりをした。

あたしバカだった。
こんな所にノコノコ1人で来るなんて。
この人はそんな生易しい人ではないのに。
あたしとちゃんと向き合う気なんかないのに。
この状況が怖くなった。

結以は勢いよく走り、陽介の家を出た。
階段をおり、必死に走りながら携帯を開いた。

「おいてめ!逃げんじゃねえよ!」

陽介の声だった。
無理だ、絶対に逃げきれないーーーーー。

「おいっ!」

陽介はそう言って結以の腕を掴んだ。
結以は泣きながら叫ぶように言った。

「離してっ!もうっ離してよ…!なんで?なんで?あたしを引き止めるの?ねえなんで?好きじゃないくせに!」

結以が言うと、陽介は笑いながら答えた。

「いやいや、好きだよ?結以のこと」

「嘘つきっ!」

「本当だよ。好きだからさ、結以のこともっとみんなにも知ってもらいたいな〜って思ってるだけだけど?」

なにこいつ、イカレすぎでしょ。

「意味分かんない!利用してるだけじゃん!」

「は?お前だって俺の事利用しただけじゃん?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


陽介と出会ったのは、あたしがまだ高校1年生の時だった。

当時グレていたあたしは、毎日のように家族と喧嘩して、夜中に帰って、まだ喧嘩をして。

あたしの家はみんな先生で、お兄ちゃんもまたその道を辿って、あたしがグレた時はみんな、あたしを恥ずかしいと思っていた、きっと。

そんなある日、いつものように家族と喧嘩して家出をしたあたしは宛もなく夜の街をふらついていた。


その時にあたしを救ってくれたのが陽介だった。

「君、1人?何してるの?」

ベンチで1人、凍えていた時だった。
5人の男の子が話しかけてくれた。

「・・・誰?」

あたしが聞き返すと、彼らは心配そうな表情を浮かべて答えた。

「こんな時間に1人で、家出?」

「・・・うん。あなたたちは?」

「俺らも家出グループ。家に帰りたくなくてさ」

あたしと同じだった。
今考えてみれば本当にバカだった。
当時高校生の彼らを信じるなんて。

それからというもの、あたしは夜にふらつくと陽介たちに会った。
楽しかった。
そんなある日、あたしは優しくしてくれる陽介に恋愛感情を抱いた。



『ゆい、今から遊ぼーぜ』

陽介からそんなメッセージが届き、あたしは胸を踊らせながら家を出た。

いつものように5人で待っている、そう思っていた。
だけど待ち合わせ場所の公園に行くと、そこには陽介1人だけだった。

「・・・みんなは?」

結以がきくと、陽介はどこか気まずそうに言った。

「・・・俺とふたりじゃ、だめ?」

胸がドキッとなった。

「う、ううん!・・・嬉しい」

結以はそう言ってベンチに腰を下ろした。
陽介も照れくさそうに微笑みながら結以の隣に腰を下ろす。

「・・・結以、俺の事どう思ってる?」

唐突な質問だった。

「え、あ、あたしは・・・陽介くんすっごく優しいしかっこいいなって!」

思い切って言ってみた。
陽介は嬉しそうな表情を浮かべた。

「俺、結以のこと好きになっちゃって・・・俺と付き合ってくれない?」

それは、あたしが高校2年の時だった。

陽介と付き合うようになってからも、他のみんなとも遊んだり、陽介と二人で遊んだりした。
あたしが3年生の時に陽介にセックスを教わった。
陽介と結婚したい、そう思っていた。

それがどうしてこう変わり果ててしまったのか。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「は?あたしがいつ陽介を利用したのよ!」

あたしが陽介を利用?

「家出ばっかしてさ、寂しい気持ち俺で紛らわせてただけじゃねえの?だから家族と仲直りしてからあんま会わなくなったんじゃねえの?」

陽介はそう言って結以を見つめた。

「だ、だからって浮気していいわけ?!」

「浮気って、あん時には俺らもう終わってただろ」

「勝手に決めないでよ!あたしがどんな気持ちでいたと思ってんのよ!」

「知らねえよんなこと!…いいから早く来いよ!」

陽介はそう言いながら結以の手を引っ張り、アパートへ歩き出す。

「やめてよっ!」


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