複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.19 )
- 日時: 2020/09/25 23:01
- 名前: 牟川 (ID: rBo/LDwv)
第16話 現実は酷である
何としても西ムーシ商会が【ロベステン鉱山】を手にしなければならない。私は改めてそう思う。
「私としては何としてでも、この鉱石の供給を西ムーシ商会にお願いしたいところだ。これが実現できれば元帥も喜ぶだろうね」
まだ私自身で、この鉱石の魔力の有無についてを確認したわけではないが、この西ムーシ商会の当主は信用できるので、魔力が有るという前提で話は進めている。
「ええ、元帥閣下も喜ばれるでしょう! 」
「そのはずだ」
「本当は、競売の日時までに余裕があれば、≪あっちの本店≫から資金を集めて来たり、また元帥閣下から資金を援助してもらうつもりではありましたがね。しかし、もう競売当日までは日数がないので無理な話です。5日前に発表されたものでしてね」
≪あっちの本店≫か……。
今まさに私が居るこの本店……それとは別のことを指して言っているのだろう。
「随分急な話のようだな」
アリバナシティ商会も、せめて1カ月くらいの猶予をくれても良いのに。
「ええ。本当に急な話なのです。それで、プランツ方面や、ここ西ムーシの町でも金融業を営む商会からも融資はしてもらったのですが、グランシス商会の準備している額にはとても足りないでしょうね。後は王都アリバナシティの方でどうなのか……まだ連絡がないので、もしかしたら融資に難航しているのかもしれません」
つまり、このままではグランシス商会が競落して終わりとなってしまうということだ。
そして、なんと当主が土下座をし始めたのである。土下座してまで、何を言ってくるのだろうか……。
「カルロさん! 旅の最中でしょうけれど手を貸していただけませんかね?」
なるほど。
私に、商戦で戦ってくれと言いたいわけか。
「当然、相応の権限はカルロさんに付与いたします。ロベステン鉱山競落担当の取締役ということで動けるよう手配しますよ」
【ロベステン鉱山】は何としてでも、西ムーシ商会に競落させたい。この気持ちは真実だ。しかし、商売もしたことがないような私に何ができるのだろうか?
ついつい、そう考えてしまう。
「≪どんな方法≫を使ってでも、資金を集めなければ! これは貴方の大いなる目的を達成させることにもなるはずですよ」
まるで私の心の中を呼んでいたかのように、当主はそう畳み込んできた。
そうか……。考えてみれば資金を集めることに成功すれば良い。それに何らかの形でグランシス商会が【ロベステン鉱山】から手を引かせれるなら尚更だ。
「目的と言っても、別に大いなる目的というつもりではないのだが……わかった。私も出来る限り力になろう」
私は、当主の要請に応じたのである。
「では早速、この2通の書面にサインをしてください」
要約すると、取締役の地位に兼ねて【ロベステン鉱山】競落に係る一切の権限の付与する旨の契約書のようだ。既に、契約書がこうして作られて準備されていると言うことは、元々誰かに付与するつもりだったのだろう。
私は2つの同一内容の書面にサインをした。そしてその2通を、それぞれ私と当主で1通ずつ保管することで契約締結が完了したのである。
因みに取締役という職名は、≪教会騎士団国家≫を含めて多くの国で商慣習上、各商会に於ける役員とされている。
一方の【魔王領】では株式会社やその他の形式の会社が存在しており、その株式会社のみで使われる職名(役員)なのだ。しかも登記も為される。
さて、今日から西ムーシ商会の取締役として働かなければならない。
まずは王都アリバナシティへ向かって、金融業を営む商会から融資をお願いするとしよう。表向きはもはや鉱物がとれない【ロベステン鉱山】のための資金だ。融資をお願いするにも、かなり難航するだろう。
ところで、旅ををすっぽかすことになるけれど、大丈夫だろう。たぶん!
それと、ロムソン村に駐留している本隊から分かれて私に付いてきた数名の傭兵たちには、しばらく西ムーシの町で待機するよう命じることにしよう。
「ところで、やはり気になるのだが……」
前に西ムーシ商会の本店を訪ねたときよりも、職員の数が少ないのだ。
「何をですか? 」
「妙に職員がいないようだが、まさか私を取締役にしたのは、人数が不足しているというのが真の理由なのではないか? 」
「やはり人数が少ないことには気づいたようですね? 実はプランツシティ支店に職員の多くを送っておりましてね……」
プランツシティ支店か。
私も、魔王軍のプランツ侵攻の噂を根拠に武器の買い占めをこの西ムーシ商会に注文しているわけだが……。
「武器の買い占めか? 」
「確かにそれも含みますが、主な理由は【プランツ王国】で食糧や嗜好品を大量に供給できるための体制を整えることですかね。他にも馬草を用意したり、厩舎の大量建築とか」
「なるほど。本気で戦争準備をしているようだな? 」
「まあ……」
しかし、【プランツ王国】には騎兵部隊などいないし、そもそも≪教会騎士団国家≫の殆どが騎兵を保有する能力などないはずだ。
それなのに厩舎の大量建設か……。
まあ良い。
今は【ロベステン鉱山】のことだけを考えよう。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.20 )
- 日時: 2020/09/26 15:33
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第18話 カルロ、走り回る
【ロベステン鉱山】の競落を巡るグランシス商会と西ムーシの争い。
これに巻き込まれた私は、早速翌日から行動に出た。
まず、ユミたちには何日か旅から抜ける旨を告げたのである。
ユミたちはその話を聞き、やはり疑問に思ったのであろう。その理由を私に訊ねてきたのであった。
私は、「とても大事な私用があるのだ」と言った以外は、黙秘を貫いた。
皮肉なことに、早く【魔王領】を目指そうと私は主張していた。
その私が旅を抜けると言ったものだから、ユミたちは私を無責任であると感じたかもしれない。
しかも具体的な理由も黙秘するのだから印象は最悪なはずだが、私は具体的な理由を言うのは拙いと思ったのである。だが、ここまでしても、それだけ【ロベステン鉱山】には価値があると私は判断しているのだ。
そして例の鉱石について私も確認した結果、一定の条件を充たせば確かに魔力の消費を抑える効果があった。
そしてユミたちにその話を告げた後、私は王都アリバナシティへ戻ってきた。その理由は王都にある金融業を営む商会からも融資をしてもらうためである。
「これは凄い! 休まずに王都アリバナシティまで来たが、殆ど魔力が消費されてないぞ」
さて、西ムーシの町から王都アリバナシティまで戻るとなると、また無駄な時間がかかる。
そこで私は快速魔法(私が編み出した魔法の1つ)を使ったのである。この快速魔法を使って走れば、馬車よりも早く移動することが可能なのだ。
今回、西ムーシの町から王都アリバナシティまでは、小休憩もいれて大体1時間半くらいで着いた(尚、最高時速を維持すれば48分程度で着く計算となる)。
ただ、この魔法にはどうしても魔力と体力の消費が極めて激しいという欠点があり、安易に使うべきではない代物だったのである。ところが、例の鉱石を幾つか所持していたおかげでその消費を抑えることができたので、私としては万々歳だ。
素晴らしい!
とはいえ、相変わらず体力の消費はとても激しいのだが……。
「これがあれば、快速連隊どころか快速師団も何個も創設できるぞ」
感激したあまり、私は1人でそう口に出してしまった。
この感激を、現実のものにしなければならない。だからこそ何としてでも、西ムーシ商会に競落させる必要がある。
王都アリバナシティに戻ってきた私は早速、西ムーシ商会の王都アリバナシティ支店にやって来た。
この支店の支店長とは、初対面である。
「なるほど、既に王都アリバナシティ支店のほうでも複数の商会から融資を受けていましたか」
「すみませんね。まだ本店の方には連絡してなかったのですよ」
という事は、私がわざわざ王都まで戻って来た意味が無いではないか。
まあ、このくらい既に動いていて当然なのだろうけど……。
「しかし色々な商会から沢山融資を頂きましたが、グランシス商会がどこまでお金を積むのか……やはりこれが問題ですね。可能ならもっと融資を頂きたいのですよ」
支店長がそう言った。
グランシス商会は、西ムーシ商会の何倍もの資金力を有しているので、あちらとしては西ムーシ商会の資金力を上回る資金を簡単に用意できるのだ。よって、西ムーシ商会が競落するには必死に資金を集めて、その上で運が左右されるわけである。
「まあ、西ムーシ商会としては少しでも多く資金を集めるしか今のところ方法は思い付きませんね。ですからダメ元で、一応、さらなる借入の交渉に行ってきますよ」
私は支店長にそう言って、支店を後にした。
さて、困った。もうすでに西ムーシー商会は、色々な金融業者から借りまくっているわけだ。
これ以上の借入の交渉をして成功するであろうか? 恐らく無理である。
仮に【ロベステン鉱山】から産出される例の鉱石に価値があることを分からせれば、さらなる借入も出来るかもしれない。
だが、迂闊に例の鉱石について話してしまってグランシス商会に知られるのもまずい。逆に金鉱石がとれるという情報をグランシス商会は掴んだようだが、この話は信憑性よく分からないので、迂闊に金融業者に言わない方が良いだろう。
金鉱石が取れるという話がデマだった場合に、詐欺だとレッテルを貼られるのも困るからだ。
果たしてどうするべきか…………私は悩んだ。
そして私は、悩みつつも既に融資に応じてくれたところも含めて、金融業を営む商会を一軒ずつ回ったが、当然の結果で終わった。
借入は出来なかったのである。
途方にくれた私であったが、とりあえず一度ロベステン鉱山へ行ってみることにした。
再び快速魔法を発動させながら走り急いだ。西ムーシの町を経由して【ロベステン鉱山】に到着したころにはすでに夕方になっていた。
「ここが、【ロベステン鉱山】か。労働者はどこにいるのだろうか? 」
すでに本日の業務が終わったのかと思ったが、しばらく辺りをウロウロしていると労働者らしき一団を見つけた。
「こんにちは。私は西ムーシ商会の者なのですが……」
とりあえず【ロベステン鉱山】に来ただけであったので、特に用件もあるわけではなく言葉に詰まった。
「商人か……。ここに何の用があってわざわざここまで来たんだ? ああ、ここの競売の件なら俺たちは詳しくは知らないぞ」
労働者らしき一団の1人がそう言った。
そして、同時に私はこの【ロベステン鉱山】の労働者の数が少ないことに気づいたのである。
どおりで、【ロベステン鉱山】で中々労働者の姿が見えないわけだ。
「ええ、まあ競売の件で来たのです。ただ実は、前から調べていたことがありましてね。ここの鉱山の労働者の数が少ないように思ったのですよ」
たった今気づいたことを、前々から調べていたかのように言った。これで元々用件があってやって来たかのように誤魔化せるだろう。
「おう、その通りだ。お前らも、よく実感しているだろう」
「そうだそうだ! 人の数は少ないくせして、過酷なノルマを課しやがって」
「本当に商人の野郎どもはムカつくぜ」
なるほど、労働者の数が少ないのは私が感じた通りだったか。これは中々、運の良いことかもしれない。
「やはり少ないですよね。であれば、私たち西ムーシ商会が競落ができた暁には、貴方たちは楽に仕事ができるようになりますよ。待っていてくださいね」
私はそう言って【ロベステン鉱山】を後にし、西ムーシの町へと戻った。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.21 )
- 日時: 2020/09/26 18:48
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第19話 思い付き
さて、【ロベステン鉱山】から西ムーシ商会の町に戻って来たのは良いものの、何も具体策は思い付かなかったのである。
当主も当主だ。
やはり、私に商売のことなど巧くできるわけがないのに、どうしてわざわざ私に任せようと思ったのであろうか……。
私は、西ムーシの町をただひたすら茫然と歩き回った。そして、今まで気づかなかったが、どうにも西ムーシの町は浮浪者が多いが気がする。
「なるほど……。ちょっとダメもとで交渉してみるか」
私は、思い付きでとある場所へ訪問しようと足を進めた。
そして目的の場所に到着し、鐘を鳴らしたのであった。
すると、使用人らしき男性が出て来たのである。
「どちら様でしょうか? 」
「わざわざ、こんな時間に申し訳ありません。西ムーシ商会の取締役であるカルロと申します。西ムーシ町長はおられませんか? 」
「西ムーシ商会の方ですか。少々お待ちください」
そう言うと、使用人は家の中へと戻っていった。私が訪れたのは、西ムーシ町長の自宅だったのである。
そして数分後、また使用人がやって来て私は家の応接間に案内された。
それからまた数分後、町長がやって来た。互いに挨拶を済まして本題に入る。
「さて、西ムーシ商会の取締役のお方がお越しになったという事は、商売に関係するお話ということですよね? 」
と、町長が言う。
そのとおりだ。私は西ムーシの町から融資を得ようと考え、町長の家にやって来たのである。
「ええそのとおりです。町長さんも、近日中にロベステン鉱山が競売にかけられるというのはご存知ですよね? 」
「……なるほど。ロベステン鉱山を競落するために必要な資金を欲しているということですか? まあ何せ相手はグランシス商会ですからね」
話が早くて助かる。
「はい。融資のご相談で参りました」
もちろん、ただで融資をお願いしにきたわけではない。対価に相当するような利益を西ムーシの町に提供するつもりである。
まあ、その対価とやらは先程、思い付いたことだがな。
と言うのも、西ムーシの町を歩き回っていたところ浮浪者が多くいたことに気づいた。そこで、私は彼らを労働力にできないかと思い付いたのである。
能力的な問題はさておき、数だけでいえば労働力が有り余っている。
「まず当然、利息は付して返済いたします。その上で、我々が【ロベステン鉱山】を競落できましたら、西ムーシの町の住人から一定数を労働者として雇用いたします。主に浮浪者を対象とする予定です」
アリバナ王国には人頭税なる税金がある。まず、王国に払う必要があるのは当然として、王都を始め町や村でも独自に人頭税を徴収することができるのだ。
西ムーシの町では現に独自に人頭税を徴収している。
よって、西ムーシの町の住人であればその全員が町にも人頭税を支払わなければならない義務がある。
とはいえ、無一文の者が支払うことは事実上不可能だ。
そこで仮に西ムーシ商会が【ロベステン鉱山】を競落できれば、そのような浮浪者たちを雇入れて一定以上の賃金を支払えば、町としては現実に人頭税を徴収できることになるはずだ。
ところで、ロベステン鉱山を今回の競売で取得した者は、そこで現に働いている労働者についての使用者としての地位がアリバナシティ商会からそのまま移転することになっている。よって、浮浪者を多く雇入れてもド素人集団になることはないだろう(たぶん)。
「……そういうことなら融資いたしましょう。そもそも競落に失敗しても、それはそれで、西ムーシ商会はアリバナシティ商会にお金を払う必要はなくなるわけですから、元本だけは直ぐに返せるでしょうし」
「ありがとうございます」
この後、どうやら町長と当主が親友同士だったこともあり、当主を呼んだうえで融資に関する契約を締結する運びになる。そこで、私が町に提示した条件は多少の追加事項があったものの、当主より無事に追認されたのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.22 )
- 日時: 2020/09/29 19:00
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第20話 カルロ、また走り回る
町長宅を後にした私と当主は、西ムーシ商会の本店に戻って来た。
「町からは金貨80万枚も借りることが出来ましたよ。我々が元々準備していた資金が320万枚ですから、これで400万枚となりますね」
と、当主が言う。
西ムーシの町から大金の融資を受けることが出来たためか、とても喜んでいる様子だ。
しかし、【ロベステン鉱山】を競落するには、まだ足りないであろう。大金とは言うものの、たかが金貨80万枚が増えただけなのだ。
私が聞いた限りでは、王都アリバナシティ支店の方では合計120万枚の融資を受けたとか。
そうなると合計520万枚程度になるか。
「カルロさんのおかげですね。まさか労働者や貧困層救済の方向から物事を考えるとは、私たちには思い付きませんでしたね」
誰でも思い付くことではなかろうか……。
「しかし、労働者に手厚い保護をするということは、それだけ商会に負担がかかるわけだ。今回は大口の供給先が半ば決まっているから何とかなるだけであってね」
賃金を上げれば上げるほど、当然に商会の負担は大きくなる。さらに、ロベステン鉱山で働く労働者のために、西ムーシの町に無償の寮などの住居も用意することも、町長に約束させたのだ。
結局のところ、これらは全部、西ムーシ商会の負担となるわけである。普通なら、思い付いてもやらないだろう。
まあ、この住居を用意するという約束は当主が付け加えたものだがな。
「資金集めの方はともかくとして、私は明日、また王都アリバナシティへ戻ることにするよ」
「どうしてです? 」
「グランシス商会は金鉱石を産出できるという情報をどこから得たのか……私はそれが気になっていてね」
「なるほど……」
西ムーシ商会は、魔力を有する鉱石を目的として競落に臨むつもりであるのだが、この当主の話によればグランシス商会は金鉱石が目的としているとのことだ。
では、グランシス商会は金鉱石が産出できるという情報はどこで得たのだろうか?
これは誰だって気になるだろう。
まあ、もしかしたらグランシス商会はどこからか情報を得たのではなく、独自の調査の結果、金鉱石が取れると判断したのかもしれないが。
ともかく、私はこの情報その出所がどこなのかを掴みたいと考えたのである。
「さて、今日はもう休むとするよ」
私はそう言って、宿屋へと向かったのであった。
翌日。
私は王都へと向かう前に、宿屋の食堂で朝食をとっていた。そこへ、ユミがやって来たのである。
「相変わらず、カルロは忙しそうにしているね」
と、ユミが言う。
ユミたちは数日の間であれば西ムーシの町で待ってると言ってくれたのである。これは本当に申し訳ないことをしたと思う。
「まあな、かなり重要な案件を抱えてしまってね。とは言え、私の都合である以上、ユミたちを待たせている責任は私にある。申し訳ない」
「旅を中断するくらいだし、相当大事な案件なんだよね? それがどんな案件なのかは判らないけど、頑張ってね! 」
「まさか……ユミから励ましてもらえるとは、ありがとう」
ユミから励ましの言葉を貰った私は早速、王都アリバナシティへと目指すことにした。私は再び快速魔法を使い、体力を激しく消耗して目的の場所に着く。
「おや? カルロさん……。またお越しになったのですか? 」
王都アリバナシティ支店の支店長がそう言って出迎えて来た。
「ええ、少しばかり気になっていることがありましてね……」
私はそう言った。
そして私は、グランシス商会が掴んだとされる≪【ロベステン鉱山】は金が産出されるという情報≫の出所について支店長やその他の従業員たちに訊ねたのだった。しかし皆、知らなかったようである。
「グランシス商会がその情報を掴んだ上で競落に向けて動いていると言うことは、我々も承知しています。しかしその情報の出所まではまだ判らない状況ですね」
支店長が代表してそう言った。
「そうですか……わざわざすみません。では、私は独自に調べたいと思うので失礼します」
私はそう言って、王都アリバナシティ支店を後にした。
王都アリバナシティ支店を後にした私は、とりあえず酒場(傭兵団を雇い入れたところ)へやって来た。
「おっ? カルロじゃないか。まだアリバナシティに居たのかよ」
酒場の店主は、魔王討伐のためにすでに私が王都を発ったものと思っていたのだろう。事実、私は西ムーシの町まで移動していたわけだが。
「実は、かなり大事な案件を抱えてしまってね。それで、西ムーシの町から1人で戻ってきたわけだ」
「ほう? どんな案件なんだよ」
私は一先ず飲み物を注文した。
店主が飲み物を持ってきたので、それを一気に飲み干す。
「【ロベステン鉱山】って知っているか? 」
「ああ。名前くらいはな」
店主はそう答えた。
名前くらいは知っていたか。
「その【ロベステン鉱山】を所有しているアリバナシティ商会が競売にかけると言い出して、主に西ムーシ商会とグランシス商会が争っているわけだ」
「アリバナシティ商会が鉱山を手放すってか? 面白いもんだな」
やはり鉱山が大好きなアリバナシティ商会が【ロベステン鉱山】を競売にかけるということは、とても不思議なのだろう。
「銅鉱石がとれなくなったらしくてね。だが西ムーシ商会は、とある鉱石に価値を見出したのだ。アリバナシティ商会は、その鉱石に価値が無いと思っているのだろう」
「その鉱石に、西ムーシ商会とグランシス商会が目を付けたってことか」
詳しい情報を言わなければ、誰でもそう思うだろうな。
グランシス商会は、あくまでも金鉱石があるという情報を掴んでいるのだ。
「と、思うだろ? ところが、違うんだよ。面白いことにグランシス商会は独自に【ロベステン鉱山】から金鉱石がとれるという情報を掴んだようでね。しかしその情報の出所がどういったものなのか、気になっているわけだ」
「なるほどな。互いに競落したい理由が違うってわけだ」
「そういうことだ。しかし、仮に鉱山大好きのアリバナシティ商会が、【ロベステン鉱山】から金鉱石がとれるという情報を知ってれば、わざわざ競売にかけることなどはしないだろうね」
「で、あんたは俺にグランシス商会が掴んだ情報の出所を知らいないと聞きたいわけだな? 」
「そういうことだ」
「残念ながら、俺はその情報の出所なんぞ知らないぞ。そもそも、銅山ということで有名なロベステン鉱山から金が産出できるなんて、今初めて聞いたからな」
酒場の店主ならもしかしたらと考えて来たのだが、店主も知らなかったようだ。
「そうか。また来るから、もし情報でも入ったらその時は教えてくれ」
「おう。だが期待はするなよな? 」
私は酒場を後にした。
さて、何とかして情報の出所を掴むことは出来ないのだろうか。
「どうしたもんかね」
と、つぶやく。
グランシス商会の本店も、ここ王都アリバナシティにある。
だからいっそのこと、グランシス商会の本店まで赴いた上で素直に『情報の出所が気になっているので教えてください』と頼む込もうか、などとと馬鹿みたいなことを考えながら王都アリバナシティの大通りを1人で歩いていた。
そして、特に意識したわけではないのだが、大通りを抜けて細い裏道へと入ったのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.23 )
- 日時: 2020/09/29 21:09
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第21話 情報は、こうしてやって来た
「おい、お前! 」
路地に入り少しばかり進んだ時、後ろから掛け声が聞こえてきたのであった。私が後ろを振り向くと、そこには20代半ばくらいの男が立っていたのである。
「何か、私に用があるのか? 」
私はそう訊ねた。
「まあな。お前さんが今、一番知りたいであろう情報を俺は持っている」
男はそう言った。
私が今この瞬間に一番知りたいであろう情報……となると、やはりグランシス商会が掴んだとされる例の情報の出所についてである。
「それで、どんな情報なんだ? 是非、教えて欲しいね」
と、私は男に答えたが、男は直ぐにはその情報とやらを話すことはなかった。
「俺はつい先日まで、グランシス商会で働いていたのだけどよ、辞めちまってな。生活が苦しいわけだ」
なるほど。要は情報料を支払えと言いたいののだろう。さて、グランシス商会で働いていたとは少々驚いたが、やはり胡散臭い。
グランシス商会で働いていたことを証明するモノが何かあれば、それを見せてもらいたいところだ。
「グランシス商会で働いていたことの証明となるようなものは無いのか? 」
と、早速私は訊いてみた。
「あ、それ訊かれると思ってたよ。で、ちょうどいいところにさ……」
男はそう言うと、ポケットの中からクシャクシャの紙を取り出した。見たところ、どうやらグランシス商会で働く時に交わした雇用契約書らしい。
「これ、どっかで拾ったものなのではないか? 」
クシャクシャになっている契約書だ。誰かが要らなくなって棄てたのを、拾っただけかもしれない。
「この契約書がクシャクシャだから、そう思ったか。ほれ、これも見ると良い」
そして男はポケットからさらに紙を取り出したのである。
どうやら今度は、この男がグランシス商会を辞めた旨を記した文書らしい。『雇用契約の解除契約書』とある。日付は最近のものだ。
それに、グランシス商会の当主のものだろうか? 押印もされていた。
グランシス商会では、このような契約書まで交わすとはね。
「まあ良いや。とりあえず、いくら欲しいんだ? 」
私はこれ以上の追及を止めて、そう言った。
雇用契約書などがあるからと言って、この男がグランシス商会で働いていたのだと本来ならば断定すべきではないだろう。
だが、それよりかは早く情報を訊きたいという衝動を私は抑えられなかったのである。
「そうだね。あまり信用されていないみたいだし、とりあえず前金は銀貨50枚でお願いするわ」
男がそう言った。
「なんだよ。そのくらいならタダでくれてやっても良い。ほれ、サービスだ。お釣りは要らん」
私は男に金貨1枚を渡した。金貨1枚は銀貨100枚分の価値があるので、要は倍の額でサービスしたわけである。
そして。
「じゃあ早速、色々と教えてやる。まず、【ロベステン鉱山】は間違いなくグランシス商会が競落するだろう。競落のためなら幾らでもカネを積むだろうよ」
と、男は言い始めた。
カネを幾らでも積まれるとなると、西ムーシ商会は太刀打ちできない。グランシス商会がそこまでして競落したい理由はどこにあるのだろうか?
「それで、ロベステン鉱山から金が採れるという情報は、【教会】から流されたものだったんだよ。と言うのも、王都にある大聖堂の大司教が自ら口にして言っていたわけだしな」
男はそう続けていった。
「【教会】だと!? 」
驚いた……。まさか【ロベステン鉱山】の競売に【教会】が絡んでいるなんてな。あの司祭が【ロベステン鉱山】へ行くとか、酒場で言っていたのもこのためなのかもしれない。
さて【教会】が絡んでいるとなると、さらに背後にいるのは天使共ということになるだろう。天使共は、【ロベステン鉱山】から採れる『例の鉱石』が一体どういった物なのかを、知っているこということだ。
だからこそ【教会】を通じて、グランシス商会に【ロベステン鉱山】の競落を頼んだということに違いない。
天使共が狙っているとなると益々、落ち着いていられなくなってきた。
「ああ、【教会】が絡んでいる。まず【教会】はグランシス商会がロベステン鉱山の競落のために支払った金額の5倍で買い取るつもりらしい」
グランシス商会が競落に要した費用の5倍も支払うというのか。呆れてくる話だ。
しかし、やはり……何としてでも天使共は【教会】にロベステン鉱山を管理させたいということだろう。
とはいえ、現段階ではまだ私の推測に過ぎない。
実は天使共はそもそも関与しておらず、例えば大司教の個人的な利益のために勝手にグランシス商会を動かしているという可能性もある。
当然そのようなケースも想定しなければならない。
ところが≪天使共が関わっている≫と一度考えてしまった私は、この考えが頭を支配していた。
「ところで、金鉱石が採れるという情報は嘘だ。間違いない」
「私もそうなのではないかと思っていたが、やはり嘘なのか? 」
「ああ。【ロベステン鉱山】を競落後、グランシス商会は結局のところ金鉱石を採ることは出来なかったということにして、その後は【教会】が表向きは安価で買うというシナリオを考えているわけだよ」
なるほど。
随分と面白いシナリオを考えてくれたじゃないか。天使共め!
あ、いや、この男が嘘を言っているだけかもしれないのだ。そのことを忘れるところであった。危ない危ない。
「それで、俺は大司教と当主がそう話しているのを聞いてしまってな。義憤にかられたのとは違うと思うが、そのことがきっかけでグランシス商会が嫌になり、最終的には辞めてしまったんだ」
「なるほどな」
それが理由で、この男はグランシス商会を辞めたのか。
てっきり解雇されたのかと思っていたが……。
ともかく、仮にこの男の言っていることが本当の話なら、少なくとも金銭面だけで言えば西ムーシ商会に勝機はないことになる。
果たして、私はどうするべきなのだろうか……。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14