複雑・ファジー小説
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- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.44 )
- 日時: 2020/10/21 17:40
- 名前: 牟川 (ID: w4lZuq26)
第41話 吸血鬼が実在する?
「何を言っているの? 魔族は悪い者たちでしょ! しかもその魔族たちの上に君臨する者たちなのだから、倒すべきだよ」
駄目だ。
ユミは完全に【教会】や天使共の言い分(デマ)を信じてしまっている。今ここで、仮に私が天使共を倒すべきだと言い放ったら大変なことになるだろう。
反応が面白そうだから、言ってみたい気もするが、こういう悪趣味なことをして最終的に恥をかくのは大概こちらだし、やめておこう。
「ユ、ユミさん……」
マリーアがそう声を出した。
だが、そてに続く言葉はなかったのである。本当は何かを内容あるものを言いたかったのだろうか?
もしかしたら、ユミを刺激してはならないと思い何も言わなかったのかもしれない。
さて、私はユミに対して、なぜ魔族が悪い者たちなのか、その理由を具体的に挙げられるのか訊いてみようとした。しかし、ちょうどそのタイミングで橋を渡りきっており、無事に【プランツ王国】に入国したため、話題が変わり、訊く機会を失ったのである。
まあ良い。
後で、改めて訊いてみよう。
「確か【プランツ王国】では夜になると吸血鬼が出没するとか聞いたことがあるな」
と、話題を変えた張本人であるダヴィドが言う。
……吸血鬼ね。
私も吸血鬼という概念は、小説などを読んで理解しているが、ただ【プランツ王国】で出没するとは聞いたことが無い。そもそも、実在するのかどうか疑問である。
「あっ! そういえば私も【プランツ王国】では吸血鬼が出没するという話を最近、聞いたよ」
どうやら、ユミもダヴィド同様にこの話を知っていたようである。私が知らないだけであって、有名な話なのだろうか?
「吸血鬼は出没しては、人を襲うというとんでもない奴だから、勇者としては倒すべき存在だよね! 」
おいおい。
また、このパターンか。
「魔王討伐を忘れるなよ? 」
私はユミにそう言った。
「さっきも言ったけど、【教会】からは確かに魔王の討伐だけを命じられたけど、悪い連中は皆倒さなければならないでしょ? 」
そして、この返答パターンだ。
仕方がない。ロムソン村の時のように傭兵団に吸血鬼の討伐をお願いしておこう。もちろん吸血鬼が実在するのか本当に疑問ではあるが……。
「カルロさん。ここはユミさんの言う通り、吸血鬼は倒すべきだと思います」
お、おい! マリーアあああぁぁぁぁ。
先ほどユミが魔公や魔侯も討伐しようと言いだした時は、消極的な発言をしたよね?
それに関わらず、吸血鬼の討伐については賛成なのか!
私は心の中で発狂する。
しかし心を落ち着かせ、私は3人に訊くことにした。
「私は【プランツ王国】で吸血鬼が出没するなんていう話は聞いたことがないのだが、皆はどこでその話を聞いたのだ? 」
仮に吸血鬼が実在するならまだ良いかもしれない。しかし実在しないのに、吸血鬼を倒すために行動するとなると、ただ時間を無駄に消費するだけである。
「私は、西ムーシの町でこの話を聞いたよ。ちょうどカルロが重要な用事があるとかで、いなかった時だね」
ユミがそう言った。
「自分も西ムーシの町で聞いたぞ。まあ、西ムーシの町はプランツ王国との国境近くにあるわけだし、プランツ王国絡みの話もよく聞けると思うが」
と、ダヴィドもどうやら西ムーシの町でこの話を聞いたようだ。
「2人とも、西ムーシの町で聞いたのか……。ところで、ダヴィドはその話はいつ聞いたのだ? 確か、以前にも王宮兵士を率いて西ムーシの町まで来たとか言っていたけど、その時に聞いたのか」
「いや、ユミ殿と同じく、カルロ殿が大事な用があるとかで、いなかった時に偶然この話を聞いたのだ」
「という事は、2人とも聞いた時期も大体同じというわけか……」
なるほど。
今聞いた話で、ある可能性が浮上した。
というのは、プランツ王国で吸血鬼が出没するという噂は最近になって流れたという可能性があるということだ。
可能性というよりも、間違いなくそうなのだろう。
それを前提にして考えると、つい最近までプランツ王国で吸血鬼が出没するという話は無かったということになる。
「ところで、マリーアはこの話は知っていたのか? 」
「ええ。実は私もカルロさんがいなかった時に、西ムーシの町でこの話を聞きましたよ? 」
ということは、3人とも本当に同時期に同じ町でこの話を聞いたわけか……。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.45 )
- 日時: 2020/10/23 16:17
- 名前: 牟川 (ID: umHqwPxP)
第42話 実在するかどうかも判らない吸血鬼を、討伐することになりました
「まあ、そういうわけだし、吸血鬼は絶対に見つけて倒すべきだよね! 」
と、ユミがまるで使命感にかられたかのような表情で、そう言った。
どうして彼女は、こう色々と討伐したがるのだろうか……。とても面倒な奴だ。
「ユミ殿。吸血鬼は【プランツ王国】の兵士たちが何とかするはずだ。わざわざ自分たちが関わる必要はないだろう」
と、ダヴィドが珍しく自分から意見を言った。しかもきちんと関わる必要性がない理由も挙げてくれている。
しかも、きちんと関わる必要のない理由を挙げていた。
やはり、昨日ダヴィドに渡した「お菓子の袋」が効いているのだろうか。
「私はユミさんの意見に賛成です」
しかし、マリーアは先のとおり、吸血鬼の討伐には賛成であるのだ。
これでは2対2であり半々に分かれているため、話が先に進まない。
……困ったものだ。
「ところで、カルロさんはロムソン村で魔物の退治に反対したときにその理由として、早いところ【魔王領】に行くべきだとおっしゃいましたよね? 」
と、マリーアは私に声をかけてきた。
迂闊に返答をすれば、たちまち言質をとられて不利になるかもしれない。ここは慎重に応じることにしよう。
「そんなこと言ったかな? 」
恐らく「早く【魔王領】へ行こう」的なことは言ったと思うが、ここは誤魔化しておこうと思う。
「私は、カルロさんがそう言ったと思いますけど……。まあ実際言ったかどうかはこの際問題ではありません」
「問題ではないと? 」
わざわざマリーアが、こう言ってくるということは、私にとって不利なところを突くに違いない。
それはもはや予想がついていた。
「私が1つ言いたいのは、カルロさんは旅を一度中断して私たちを西ムーシの町で待たせたのですから、早く【魔王領】へ行くべきとか、魔王討伐を優先すべきなどという理由では反対しないでくださいね? 」
うおおおおおおおおおおおォォォォ。
マリーアああァァァァァ!
また私は心の中で発狂する。
判っていたことだが、痛いところを突かれた。畜生。
ただ、旅の中断をしたのは確かだし、こればかりは言い訳しようがない。
「し、しかしだね……。先ほどダヴィドが言った通り、プランツ王国の兵士たちが対処するだろうし問題ないでしょ」
私はこうなったらと、別の観点からどうにか言いくるめることにした。
「私はプランツ王国の兵士たちは吸血鬼の問題に何の対処もしていないって聞いたよ? 」
と、今度はユミが口を挟んできたのである。
こうして、私たちがわざわざ吸血鬼に関わる必要がないというダヴィドの理由付けは、こうもあっさりとつぶれてしまった。
「しかしユミ。吸血鬼は本当に実在すると思うか? 」
「だったら何で噂になっているの? もう何人も人たちが襲われているって聞いたよ」
「噂好きが勝手に言いふらしているだけではないかな」
実際そうなのだと思う。
「でも火のない所に煙は立たぬとか言うよね? 」
「ユミさんの言うとおりです。仮に実在しなかったとしても、実在しないということが判るまで調査はすべきです」
これは参ったな……。
ここ折れるしかないか。しかし実在しないということが判るまでは調査しろとは、一体いつになったら終わるのやら。
いっそ吸血鬼が実在してくれた方が、早く済むかもしれないな。
「……仕方ない。正直なところ吸血鬼討伐に何の意味があるかわからないが、私は3人の決定に任せる」
ここは仕方がないので、反対を取り下げることにした。
そして、3人の多数決に任せた。賛成2、反対1で吸血鬼の討伐をするという流れになったのである。
そして、今回も私は駅馬車の利用を提案したのだが「ユミに戦闘経験を積ませる」ということを理由により、徒歩で王都プランツシティを目指すことになった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.46 )
- 日時: 2020/10/28 20:19
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第43話 魔王軍スパイ、新たな策を考え行動する
(魔王軍スパイ視点)
俺は今、【プランツ王国】の王都プランツシティに滞在している。
【プランツ王国】には、数日前から入国しており、今は後々来るであろう勇者一行を捕らえるために、色々と準備しているのだ。
もちろん勇者一行だとしても、魔王軍幹部であるマリーアはその対象からは除かれるわけだが。
その王都プランツシティのとある宿屋で、俺はちょうど打ち合わせを終えたところであった。
「おい、旅芸人。早速王都のはずれにある屋敷に向かうぞ」
「そんなきつい言い方をしないでよ。というか、うちの名前はアリシャなんですけど。だからアリシャって呼んでくれないかな? 」
「そんなこと知ったことか。ほらさっさと行くぞ」
このアリシャという人物は旅芸人をやっていたらしい。そして今回、このアリシャが勇者一行を捕らえるための協力者なのだ。
因みに俺と一緒に同行していた部下は、天使が何者かに殺害されたことを報告するため【魔王領】……具体的に言えば都市ラバノンに向かって急行している。
そして、俺は勇者一行を捕らえるための作戦として、今回は吸血鬼という架空の存在を利用することにしたのである。
これを思い付いたのは、目の前にいる元旅芸人のアリシャと出会ったのがきっかけであった。
俺たちが、森で天使たちの死体を発見した日の話である。
肉体的にも精神的にも疲れ切った状態で西ムーシの町に戻ったところ、このアリシャが現れたのだった。彼女は疲れ切っている俺をよく観察していたのか、スリを行ったのである。
当然俺はそれを阻止し、逆にアリシャを捕らえた。疲れ切っていたからと言って、全く抵抗できないわけではない。
その後、色々と話を聞いている内に、実はアリシャが元々は旅芸人であったことが判明する。さらにアリシャは、吸血鬼の役を演じるのが最も好きだったという話を聞き出したのであった。
その話を聞いた俺は、ある策を思い付いついたのだ。
まさに吸血鬼という、架空の存在を利用するということを。
俺のプランを実行するためには、最低限2つのことを準備しなければならない。
1つ目は吸血鬼役。これは当然アリシャに任せる。
2つ目は吸血鬼の屋敷という設定に必要な建物だ。
これは、形式的にはどこかの誰かが所有しているであろう、古びた屋敷(廃屋)を勝手に使わせてもらっている。
もう見た目からして、廃墟であり管理すらされてないわけだ。
勝手に使用しても怒られることはないだろう。もちろん【プランツ王国】の官憲にバレたり、通報されないよう注意しなければならないが。
もちろんこの他に、目的を達成させる確率を上げるため、綿密な打ち合わせや予行練習みたいなのも必要になる。
「ま、まあ盗みを見逃してくれた上に報酬をくれるらしいし、多少我慢はするけどさ……」
「そうだ。俺はスリを見逃してやった上に報酬を支払ってやるんだからな。それはさておき、この宿屋から今から向かう屋敷までの道のりはちゃんと覚えてくれよな」
「わかった。頑張って覚えるよ」
勇者一行がやって来たら、アリシャには今いる宿屋からボロ屋敷まで速やかに走って移動してもらわなければならない。よってまずは何としてでも道のりを覚えてもらう必要があるのだ。
さらに宿屋からボロ屋敷までは、それなりに距離がある。ある程度持久力も付けてもらう必要があるだろう。
「後、ここから屋敷までは走ってもらうことになるから、短期間ではあるがジョギングでもして多少は持久力をつけてくれよ」
「なら、ここからその屋敷とやらまでの道のりを走って移動を繰り返せば一石二鳥だね」
「おう。頼むぞ」
こうして俺たちは、練習を繰り返して勇者一行を待つことにした。
今度こそ勇者一行を捕らえることができるようにと、祈りながら……。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.47 )
- 日時: 2020/10/31 16:48
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第44話 勇者パーティに対して深まる謎
(魔王視点)
ここは魔王城。
その主(あるじ)の執務室でのことである。
「ティアレーヌ様。面倒な事件が発生しました」
と、魔王ティアレーヌに小声で話しかけたのはハインツだ。
「何があったのかしら? 」
「はい。それが、【アリナバ王国】領内のとある森の中で天使10名ほどの焼死体が発見されたようなのです。いや、1体は焼死体ではなかったみたいですね」
「……」
魔王ティアレーヌは一切口を開かなった。
これは続けて話して欲しいという合図である。少なくともハインツはそう判断した。
「そして運悪く第一発見者となってしまった者が、俺の部下、そしてルミーアの部下であるマリーアとのことです。俺の部下や、マリーアの見解としては【あの連中】が怪しいと思っているようでして。一方でレミリアの見解としては【教会】が怪しいと言っておりました」
一般的に考えて、天使を殺したのが【教会】だとすれば、例えば組織内での内紛がまず挙げられるだろう。どこの組織でも派閥争いはあるのだ。
そしてハインツの言う【あの連中】とは、【魔王領】に存在する魔王軍以外の相応の実力を有する組織のことだ。
「【あの連中】に【教会】が……ね。それはさておき、貴方の部下と違ってマリーアは勇者一行の一員として活動中よね。それで勇者一行は今どこにいるのかしら? 」
「はい。数日前から西ムーシの町にずっと滞在しているとのことです」
「西ムーシの町? 」
「ええ西ムーシの町でございます」
ティアレーヌは執務室の棚から大きな地図を取り出して、机の上に広げた。
「その天使の死体は、どこで発見されたのかしら」
ティアレーヌがそう言うと、ハインツはおおよその地点を地図上で示したのであった。
天使が殺された現場と西ムーシの町は近いと言われれば、そう言える距離ではある。
ティアレーヌは自身の直感ではあったが、勇者一行と何か関係があるのではないかと考えたのでった。
そしてそれは、ハインツの次の言葉でさらにその考えは深まることになるのだ。
「滞在の理由としては勇者一行の1人……カルロという名前の男が私的な急用で行方を眩ませておりまして、残り3人が西ムーシの町で待機しているとのことです。そのカルロとやらついてなのですが、報告では度々行方を眩ませているらしく、その間の行動については一切判らない状況です」
「その報告を、貴方はいつどこで受けたの? 」
「つい先ほど、都市ラバノンを活動拠点にしている俺の側近から、電話で報告を受けました」
西ムーシの町から都市ラバノンまでは、馬車で1日~2日で着く距離にある。
よって、情報が古すぎるというわけでもないだろう。
「そのカルロという者が、とても怪しく感じるわ。専任で監視をつけるべきかしら? 」
「そうですね。場合によっては我々にとって脅威になる可能性もあるわけですし」
既にティアレーヌや魔王軍四天王は、カルロが攻撃魔法と回復魔法の双方が使えるという情報知っている。
攻撃魔法と回復魔法の双方が使えるのは、【魔王領】出身の者以外では早々いないため、ティアレーヌやハインツが警戒するだけの理由はあるのだ。
「ところで、レミリアはどうしているの? 」
と、不意にティアレーヌが話題を変えた。
「レミリアですか。彼女は近日中に【プランツ王国】の西部にある町を攻める予定のようでして、その準備に取り掛かっております」
魔王軍には≪魔王大陸再統一計画≫という計画がある。
これは、魔王ティアレーヌが自ら計画したものなのだ。およそ120年前に教会騎士団によって侵略された【魔族大陸】の一部地域を奪還するというものである。
【魔族大陸】の一部を制圧した教会騎士団は、その各地に国家を建国し、武勲を挙げた者をそれぞれ玉座につかせたのである。それが今でいうところの【アリナバ王国】や【プランツ王国】なのだ。
これらの国は、講学上の通称として≪教会騎士団国家≫と呼ばれている。
そして、魔王軍四天王のレミリアは前々から≪魔王大陸再統一計画≫の一環として【プランツ王国】や【アリナバ王国】、その他3つの国を合わせて計5か国に攻め込むことを決めていたのである。
もちろん、このレミリアの決定は魔王ティアレーヌから承諾を得たうえでだ。
「あら、もう攻め込むの? では、そろそろこの大陸の再統一の第一弾が始まるわけね」
「ええ。レミリアが今回どこまで再統一を行うのかは判りかねますが、少なくともごく短期間のうちに【プランツ王国】の全土を占領するでしょう」
レミリアの率いる部隊だけでも一度の遠征で【プランツ王国】、さらに【アリナバ王国】の国家機能を破壊することができるだろう。
しかし、魔王ティアレーヌにはちょっとした懸念があった。
「勇者についてだけど、どうするの? 」
「どうするとは? 」
「レミリアの率いる軍団が【プランツ王国】に攻め込む時期と、勇者たちが【プランツ王国】にやって来る時期が重なるのではないと思うのよね」
たかが時期が重なるだけだ……と、済ませられない事情がある。
「なるほど……」
ハインツも察する。
「何とかしないと、勇者がプランツ側の旗頭にされないかねないわ。勇者には戦闘力がなくても≪教会騎士団国家≫の中では、政治的価値はあるのだから」
勇者ユミがプランツ王国軍の旗頭になれば、勇者というネームバリューに影響を受けた市民たちが志願兵として続々と集まる可能性がある。
もちろん、志願兵の質が全体的に低いことは確かであろうが、士気は高くなることだろう。
「いっそのこと、カルロとかいう男に専任の監視をつけるのではなく、それなりの頭数を応援として送って、早急に勇者一行ごと捕らえてもらったら良いかしら? 」
「そ、そうですね……」
ハインツは魔王ティアレーヌの提案に言葉を濁した。
魔王ティアレーヌはそのハインツの様子を見て察したのである。
「あら。自分たちのギャンブルの行方の方が大事なのかしら? じゃあ私のポケットマネーから特別ボーナスを出すからさ。今回はそれで勘弁してちょうだい」
「わ、わかりました。早急に四天王会議を開く次第でございます」
「よろしく頼むわね」
この後、ハンイツは、魔王ティアレーヌからの強い要望があることを、他の四天王たちに伝えるために、電話をかけるのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.48 )
- 日時: 2020/11/01 14:20
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第45話 カルロ、ユミたちに【魔王領】の歴史を軽く教える
【プランツ王国】に入ってから2日目の早朝。
その領内にあるウェプラの町で一泊した私たちは、【プランツ王国】の王都プランツシティを目指して移動を再開した。
そして……
「ねえカルロ! 大昔の【魔王領】には魔王がたくさんいたみたいだね? 」
と、ユミが話しかけてきたのである。
その話を訊いてくるということは、ユミはきちんと熱心に例の本を読んでいるということだろう。
少しばかりだが、私がユミの勉強熱心な姿に感心した。
「もうそこまで読んだのか……。となると本のページ的に、ちょうど大昔には大魔王が存在していたということを知ったところかな? 」
「うん。各地に存在した魔王のさらに上に君臨していたのが、大魔王なんでしょ? 」
大魔王……。
かつて【魔王領】を統治していた君主だった地位の呼称である。もちろん世襲的な地位で、3代続いたらしい。ちょうど現在の【リバス魔公領】【プラタジィ魔公領】【ゾルデニ魔侯領】と【魔王領】は当然として、【魔族大陸(西方大陸)】の全域を支配していたらしい。
【魔族大陸】の全ての領域となると、【アリバナ王国】や、今私たちが移動している【プランツ王国】もそれに含まれる。
もっとも、100年ほど前まで【魔族大陸】全土が【魔王領】であったわけだが……。
さて大魔王の一族は、まさに大魔王と呼ばれることもあってか、絶大な魔力を有していたと言われている。
しかし、良いことばかりではないのだろう。
その大魔王一族は子孫に恵まれず3代目が没して以降、その地位は空位となったと言われている。しかも奇妙なことに、3代目の大魔王は初代大魔王の祖父と言うらしいではないか。
「絶大なる魔力を以てして、各地の魔王を従えていたわけだから、まさに大魔王と呼ぶにふさわしい地位であったのは間違いない」
「もし今も大魔王の一族が生きているなら、これって大変なことだよね? 」
なるほど。
大魔王をあくまでも敵として扱うのであれば、それはとても苦労することになるのであろう。
しかし私は、仮に大魔王の一族が今もいるのであれば、うまいこと天使共と敵対させて自らは漁夫の利を得たいものと考えている。
「まあ、仮に大魔王の一族が生きていれば、魔王討伐なんて軽々こなすくらいでなければそりゃ苦労するだろうね? あくまでも討伐の対象と考えればの話ではあるが」
とりあえずユミにはそう言った。
「もし大魔王一族がいれば、討伐するに決まっているでしょ! 」
「そうか。まあそう言うと思っていたよ」
ユミらしい反応に、私はそう答えた。
因みに、魔王一族であるゾルニオッティ家は、かつての大魔王家に似た存在とも言えるかもしれない。
どうしてそう言えるのか……。それは端的に言えば、リバス魔公家、プラタジィ魔公家、ゾルデニ魔侯家が、それぞれゾルニオッティ家に忠誠を誓っているからである。
実はこの3家も、大魔王が君臨していた頃は、魔王だった家系なのだ。恐らく大魔王の下では平和的に、各々の領地を統治していたのだろう。
しかし大魔王の一族が断絶して以降は、即ち最高権力を持つ絶対的な存在が【魔王領】から消えたことになる。
そのため複数の魔王による群雄割拠の時代となったのだ。文献によれば当時20もの魔王が存在し、そして最終的に全て制したのがゾルニオッティ家と言われている。
とはいえゾルニオッティ家が全て制したといっても、最後まで抵抗を続けた≪3つの魔王勢力≫があり、これには苦戦らしい。
そのため、ゾルニオッティ家は≪3つの魔王勢力≫に忠誠を誓わせて領地を安堵するという形で対処したのである。
その≪3つの魔王勢力≫と言うのが、まさに今も存続する【リバス魔公領】【プラタジィ魔公領】【ゾルデニ魔侯領】なのだ。
「カルロさんにユミさんも……立派ですね。【魔王領】についてそんなにお調べになっているなんて」
私とユミの会話を聞いてか、マリーアがそう言ってきた。確かに普通はここまで【魔王領】について調べる者はいないであろう。
「立派も何も、趣味で調べているだけだしな。マリーアも趣味には没頭するだろ? 」
「私は勇者として知っておくべきだと思っているから、当然のことをしてるだけだよ」
私とユミはそれぞれ、そう言った。
ユミについては……相変わらずユミらしい真面目な理由で例の本を読んでいるようだ。まあ、そういう私も本当は、純粋に「趣味で調べている」などと、決して言い切ることはできない。
「私も2人の話を聞いていて、【魔王領】について色々と調べてみたくなりました。そ、そのユミさんが手にしている本は一体どこで手に入るものなのでしょうか? 」
どうやら、マリーアも興味が沸いてしまったようだ。
「恐らくだが、王都プランツシティにある本屋をテキトウに巡れば見つかると思うぞ? そんなに珍しい本でもないからな」
嘘だ。
ユミに買い与えたこの本は実際のところ珍しいものではないのだが、≪教会騎士団国家≫にある普通の本屋で手に入るようなものではない。
「今まで言おうと迷っていたが、そのユミ殿が手にしている本は王宮の図書室にあったぞ。読んだことは無かったが」
と、意外な人物からの発言に私は驚いた。
なるほど。
【アリバナ王国】自体も所謂≪教会騎士団国家≫の1つではあるものの、【教会】そのものとは違って【魔王領】に対する精神的アレルギーは薄いのかもしれない。
だが、【教会】はあくまでも【魔王領】に関する情報の一切を隠したいわけだ。
そのことが【教会】にでもバレたら、【アリバナ王国】の国王も処刑されかねないのではないかと、少しばかり心配になる。
「そうだったのですか……。普通に本屋で売られていたり王宮の図書室にもあるなんて、何だか恥ずかしいです」
と、マリーアは少し恥ずかしそうに言った。
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