複雑・ファジー小説
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- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.34 )
- 日時: 2020/10/11 12:51
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第32話 魔王軍スパイ、馬鹿にしていた女に感動する
(魔王軍スパイ視点)
今俺は、馬車駅にいる。
もちろん、同行している女も一緒だ。
「2匹しか確保できなかったが、あんなところで作業なんて続けられないわな」
「初めてならそうでしょうね」
天使の死体を発見してからというもの、どうにも気分が優れなかった。使役する魔物を2匹しか確保した後、直ぐに作業を中断したのだ。
この魔物2匹はどちらも【火炎ウサギ】と呼ばれている魔物である。オスとメスが1匹ずつだ。いつもは魔物の性別など気にしないが、仲良く【最中】に確保したため、それで判った事実である。
魔物であってもウサギだからだろうか?
だが当然、そこらで年中発情するだけの野ウサギとはわけが違う。
顎から長い角が生えており、刺されば当然怪我をするリスクがある。さらにその角から、初級ではあるが火炎魔法を発動させることができる。
ランクとしては、中級に分類されている。
それにしても、強烈ではないものの若干の吐き気が続く。
とても鬱陶しい。
「私は慣れていますので、あの森にずっと居ても平気ですが、死体に慣れていない人は、仕方ありません。私なんて最初のころは吐いてしまいましたし」
と、女が言った。
おかしい。異常だ。
あれだけの数もある死体を見て、尚も平気なくらいに慣れているとは……。この女、相当ヤバい奴なのではかろうか。そう思うと、殺しの経験もありそうに思えてくる。
この女が、例えば連続殺人事件を起こした犯人だと言われたら、俺は信じてしまうぜ。
とはいえグロテスクな光景に対する耐性で、女に負けるのは何だか恥ずかしい。
「恥ずかしい姿を見せてしまって、すまないな。一応はこれでも魔王軍の幹部の末席ではるというのに。この通り、魔物の死骸ならともかく、死体を見たのはあれで2回目でな」
初めて死体を見たのは、自殺した母親の死体だ。
だが、俺がその死体と対面した時には葬儀業者によって綺麗に施された後であった。焼死体やらハエまみれの死体を見たのは、あれが初めてなのである。
「まあ普通は、死体を見ることに慣れることはないでしょう。現魔王軍の幹部で、死体を日常的に見てきたのは……先代魔王が暗殺された頃から魔王ティアレーヌ様に仕えていた者たちぐらいでしょうね。あの頃の記憶は今でも鮮明に残っています」
まじか。
この女……いや、マリーアはずっと前から魔王ティアレーヌ様にお仕えしていたとは。そして、あの過酷な日々を過ごしてきた英雄殿の1人だったとは。なんて……なんて俺は馬鹿で屑なんだよ。
何が『例えば連続殺人事件を起こした犯人だと言われたら、俺は信じてしまうぜ』だ?
ふざけるな! なんでこんなことを考えてしまったんだ俺は。
「知らなかったよ……。そんな昔からお仕えしていたとは」
「突然、土下座してどうしてしまったんですか? 別にその頃から仕えていたからと言って偉いわけでもありませんし。でも確かにあの頃は大変でしたね。魔王様を亡き者にしようとする奴らがとても多かったような気がします。時には仲間と敵の死体に囲まれて寝た日もありました」
「亡き者にか。当時は魔王様は何の力もない女子(おなご)ではあったではないか! あの天使共め! そういう力無き者まで殺そうとするとは、卑劣な連中だよ」
現魔王であるティアレーヌ様は女性であり、まだとても若い。今でこそ歴代最強とまで言われているくらいだが、数年前までは先代魔王に比べるとその力は微々たるものだったと言っている。つまり当時の実力では、天使共には到底太刀打ちなどできないわけである。
「女子だから、というのは失礼ですよ。魔王様も既に魔王たる力を有しておりますし、天使側から見れば、弱いうちに殺しておく……これは当然の話です」
「理屈はわかる。しかし、俺の感情はそんなものでは抑えられない! 」
現魔王様の、あの必死に【魔王領】を纏め上げようとする健気な姿をみると、絶対にお守りしなければならないと感じる。
「でも、私たちが苦労したのはほんの一時期でしたしたね。ある時から暗殺者やその集団による襲撃は一気に数が減りましたから」
「ある時から……? なるほど。【魔王領】の帝政時代の幕開けがその理由だな」
「そうです。天使たちは、今まで先代魔王の子供たちを暗殺対象にしておりましたが、帝政時代が始まってからは、その暗殺対象を皇帝に変えたようですからね。彼らからすれば皇帝を余程危険に感じたのでしょう。現に皇帝は天使相手に戦争を始めてしまいましたし」
皇帝ね。
天使共や【教会】からは邪悪な皇帝とか呼ばれていたらしいが、実は俺はその皇帝の素顔見たことはない。元々、殆ど表には出なかったようで、さらに戦争が始まってからはずっと出征していたらしいのだ。
それにしても、戦争か。
親父は、その戦争で死んだのである。そしてその報せが届いて直ぐに、母親も後を追って死んだ。皇帝が始めた戦争が原因で俺の両親は居なくなったのである。
だが俺が皇帝を恨むのは筋違いだろう。いつかは我々は天使共とは直接戦わなくてはならなかった。そして親父は自ら志願して軍人になったわけだし、死ぬことも当然覚悟していたはずだ。
母については…………。
ともかく皇帝を恨むのは、筋違いなのだ。
「あの皇帝がどういった人物なのかは知らないが、そいつが皇帝となったことで自身が天使共からの暗殺対象になったわけだ。結果的には今の魔王様を救ったことは褒めてやっても良いかもな」
「皇帝を褒めるのですか。あまり私は好きではありませんね。天使たち相手に戦争をする意気はともかく、結局その意気だけで【魔王領】を危険に陥れる無謀な行動をしでかしたのですから」
まあな。
あの戦争は色々と謎が多い。1つは圧倒的兵力を誇る天使共に戦争を仕掛けたこと。なんでも【魔王領】側から宣戦布告したのだ。皇帝には何らかの目的があってのことなのだろうか?
そして、親父がどこへ行ってどの場所で戦って戦死したのかもわからない。
噂では軍は天使共の住む世界にまで出征したとか聞くが。
「あら? そろそろ西ムーシ行きの馬車が出発する時間ですし、乗るとしましょう」
「おう。そうしよう」
そして俺たちは西ムーシの町へと戻ったのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.35 )
- 日時: 2020/10/12 18:10
- 名前: 牟川 (ID: L3izesA2)
第33話 魔王ティアレーヌ
(魔王視点(三人称))
時は少し遡る。
ここは【魔王領】の現在の統治者……即ち魔王ティアレーヌが住まう魔王城である。
その魔王城の主である魔王ティアレーヌと、魔王軍四天王たちが会議を開いていた。
「それで、今回もまた【アリバナ王国】で勇者が選ばれたってわけね」
そう口にしたのは、金髪のロングヘアーに赤い瞳、それに尖った耳が目立つの女性であった。
全体的に凛々しい顔立ちをしている。
その女性の正体こそ、現魔王のティアレーヌだ。彼女の種族はエルフであって、齢は23歳という若き女魔王である。
そして今度は魔王軍四天王の1人であるレミリアが、ティアレーヌに詳細を伝えようと口を開いた。レミリアもエルフ族であって、茶髪のロングヘア、目つきが鋭いのと、少し鼻が高いのが印象である。
「はい、ティアレーヌ様。今回選任された勇者は、前回捕らえた勇者の妹であり、即ちディアナの妹になります」
ディアナというのは魔王軍の上級幹部の1人であり、勇者であった実の兄を捕える任務の責任者でもあった。
「ディアナの兄妹は毎回よく勇者になるようね。それで今回も、勇者一行が【魔王領】に入るまでの勇者の護衛はディアナに任せるわけかしら? 」
ティアレーヌが言っていることは、つまり【魔王領】に入るまではディアナが勇者を護衛するわけだが【魔王領】に入った途端手のひらを返して勇者を捕らえるということだ。
客観的に見てアホしいあの賭け事のことは、ティアレーヌも知っている。
「はい。その通りでございます」
と、魔王の問いにレミリアは答えた。
「でも、ディアナはまだ【魔王領】にいるわよね。昨日も、彼女から呼び出しを受けたわけし……」
ティアレーヌは、ディアナがまだ【魔王領】にいることが気になったので、そう言った。
「魔王軍による護衛が一切無しの状態で、勇者が【魔王領】に入れば掛け金の10倍になるので……」
と、ティアレーヌの問いに対して、レミリアが少しバツが悪そうに言う。
「そうなの? そんな理由でディアナを【魔王領】に留まらせているのね。それだと私が貴方たちに賭けを許した趣旨から離れてしまうけど……まあいいわ。それで、勇者たちが【魔王領】まで到達することを妨害する側は、誰のところが担当しているの? 」
ティアレーヌの問いに、今度は小型の魔物を肩や頭に乗せている男性が答えた。
「俺の部下に優秀な魔物使いがいまして、その者に任せています。まあ優秀ですし、レミリアさんは賭けに負けたと思ってくださいね」
この男性も四天王の1人で、名をハインツと言う。スタンダード族で、茶髪のワンレンウェーブのという名称の付く髪型をしている。ハッキリ言って細身な体形で、ミステリアスな雰囲気がある。
因みに魔王ティアレーヌは、自身と四天王たちとは、アットホームな雰囲気にしたいと考えているため、口調は各自の自由にして良いものとしている。
「あらあら。でもハインツさんの部下っていつも詰めが甘いイメージがありますよね。だから、まだどうなるかは判りませんよ? 」
ハインツの挑発にレミリアも乗っかる。
この2人は基本的に仲良しである。少なくとも周囲からはそう見えるのだ。そのためこの2人がいないときは、いつ結婚するのかという話で盛り上がることもある。
そして、ハインツの発言に便乗する者がいた。
「レミリアさん。今回は私も大金を賭けましたからね。私の部下も既にアリナバ王国に派遣しているのですよ」
そう言ったのは、同じく魔王軍四天王のルミーアというドワーフ族の娘であった。
青髪の縦ロールがとても印象的な彼女の年齢は、まだ15歳である。しかし実力は確かなので、こうして魔王軍四天王の地位に就いているわけだ。
「それはもしかして、マリーアのことなのかしら? 最近彼女を見ないと思っていたけど、【アリバナ王国】へ行ってたのね」
ティアレーヌがそう言った。
マリーアは、四天王を除けば最古参の幹部であり、先代の魔王バルロス3世が生きていた頃から仕えていた女性である。
そのため、ティアレーヌは彼女をとても信頼を置いている。
それにルアーナもマリーアのことをとても信頼しているのだ。実は、マリーアはルミーアが魔王軍に入る前からの従者であったわけである。
「はいティアレーヌ様。今回はマリーアに任せました。ということでレミリアさんの出る幕はないですね。これは断言させていただきますよ」
「あら、小娘が生意気なことを……。しかし、マリーアさんが派遣されたのですか。そうなると確かに、あっさり終わってしまいそうですね。一応ディアナにも伝えておきましょうか」
レミリアも、ルミーアの部下であるマリーアの実力は認めている。であるからこそ、あっさり終わると判断したのだ。
だが、ティアレーヌはあくまでも慎重に考えていた。
「マリーアに、ハインツのところの魔物使いの2人で対処できない場合も想定しないとならないわ。もし今回の勇者一行がかなりの手練揃いであったら厄介よ。まあそれでも、いざという時は、バルロンの出番ということになるのかしら? バルロンの活躍を早く見てみたいものね」
ティアレーヌがそう言うと、仮面をつけた男がこの場で初めて言葉を発した。
「はっ! いざという時は自分にお任せください」
バルロンは四天王の中では新米ではあるのだが、既に50歳は超えているという。しかも、仮面を被っているのでどんな顔をしているのかは皆判らず、謎に包まれた人物である。
ただ1つ判るのは、耳の形からしてエルフということくらいだろう。
しかしティアレーヌが、最も信頼しているのは彼であるということは、今の会話からも判るだろう。
なにせティアレーヌは、最後の砦を彼に任せているのだから。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.36 )
- 日時: 2020/10/13 18:42
- 名前: 牟川 (ID: RadbGpGW)
第34話 書物の奪取
午後9時ごろ。
私と傭兵団(一部メンバーを除く)は、アリバナシティ大聖堂の付近のとある裏道にやって来たのである。
「カルロさん! 待ってましたよ。僕の方でも準備はしておきました」
既に司祭は待っていたようで、そう言ってきた。
「おう。来たぞ」
「今日中にまた来るとのことでしたので、荷車3台と藁袋を大量に買っておきましたよ」
「気が利くじゃないか。ありがとう」
私たちが予め用意したのは、藁袋(1人1つずつ)のみであった。荷車があれば、大量の荷物を一気に別の場所へ運ぶことができる。それに地下の書庫にある本や資料の数量によっては私たちが用意した藁袋だけでは足らなくなる可能性もある。
ナイスだ。司祭!
「では早速、作業を始めよう」
私はそう言って、司祭に大聖堂の地下にある書庫までの案内を頼んだ。今日は大司教は所用でここには居ないとのことらしい。普段から大司教は泊りがけの外出が多く、実質№2のこの司祭が大聖堂の運営を切り盛りしているとか。
ともかく、何故か私たちは大司教の執務室に侵入した。
「箪笥をどかして……とっ」
司祭はそう言うと執務室の中に置かれている箪笥を動かし始めた。すると、なんとそこにはドアがあったのである。
なるほど。
地下にあるという書庫は意図的に隠されていた存在だったというわけだ。
司祭の案内で、ドアの先へと進んでいく。
そして階段をおり、書庫らしき場所に到着したのであった。
「ここが書庫です」
司祭がそう言った。
ならば、早速やることをやるまでだ。
「よし早速始めよう。本はどんどん入れていけ。本が傷んでも後で読めればそれでよい。私が欲しているのは本ではなく情報だからな」
私はそう言って作業を開始させた。傭兵団の面々も各自が目についた本や資料を次々と藁袋にぶち込み始めたのであった。
内、数名の傭兵は本でいっぱいになった藁袋を上の階へと運んでいる。
荷車は大聖堂の裏庭にあるので、仮に【アリバナ王国】の官憲が表通りを巡回していても気づかれないだろう。
ただ問題は、教会騎士団の存在である。
教会騎士団は大聖堂が置かれている町には、数名~数十名の教会騎士を警備目的として置いているのである。
幸いにしてアリバナシティでは、教会騎士団の詰め所は大聖堂から少し離れたところにあるのだが、彼らがここに居る理由は大聖堂の警備である。連中がいつこの大聖堂にやって来るのか判らない。
それに仮に教会騎士と戦闘になれば、少々面倒なことになる。連中は魔法が使えるからだ。
まあ、もちろんこの司祭のことなので、一応の対処はしているのだろうが。
「教会騎士団のほうは、なんとかしたのか? 」
私は心配なので司祭に訊ねた。
「一応当直の3名と、さらに助祭には睡魔魔法で眠っていただきました。ですが詰め所の教会騎士は健在かと」
「そうか……。詰め所の連中も警戒するしかないな」
「そうですね。どうせ書庫の中が空っぽになればバレるのですから、万が一教会騎士を攻撃しても問題ないでしょう。ただ素顔はバレないよう覆面用のマスクは必要ですね。ちょっとついて来てください」
司祭と一緒に大聖堂の一階へと戻った。
そして、司祭は自分の執務室の中へ入ると、机の中から覆面用のマスクを取り出したのであった。
流石、こういう物も用意してあるとはな。
「何度か使っていますが、とりあえず洗濯はしてますので大丈夫ですよ」
私は覆面用のマスクを受け取り、それを被り教会騎士団の詰め所へと向かった。
詰め所には数分で着いたので、早速見張りを開始したのである。門番が1人そこに立っていた。私は気づかれない位置で見張りを続ける。
30分ほどが経過した。
教会騎士に動きはない。
さらに30分が経過したが、詰め所の門番が入れ替わった以外は動きは無かった。このまま動きが無ければ、それで良い。
そしてさらに10数分ほどが経ち、司祭が迎えにやって来たのであった。
どうやら、全ての本や資料の積み込みが、終わったようである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.37 )
- 日時: 2020/10/15 17:36
- 名前: 牟川 (ID: m9NLROFC)
第35話 ≪仕事≫が終わり、悪酔いする
私は大聖堂に戻って来た。
そして、その裏庭にある荷車を見ると、それぞれ3台ともとんでない高さにまで、藁袋が積みあがっていた。
「とりあえず荷車への積み込みは終わったが、これをどこへ運ぶんだ? 」
団長がそう訊ねてきた。
「私が王都で借りている貸倉庫がある。そこへ運ぶつもりだ」
こうして、貸倉庫へ向かう。しかし荷車は数人がかりで動かしても、とても重かった。そのため貸倉庫まで辿り着くまでに想像以上に時間がかかったのである。
幸い夜間ということもあり、人通りは全くと言っていいほどなかったが、巡回の兵士たちと何度か遭遇した。だが彼らも私たちの姿を見て、商人が人夫を雇って商品を運んでいるのだろうと思ったのか、特に声をかけられることは無かった。
ようやく貸倉庫に到着し、荷車ごと倉庫の中へと入れることにした。
しかし、貸倉庫は荷車1台分くらいのスペースしかなかったので、残りの2台は酒場の店主名義、そして今一緒に居る司祭名義の貸倉庫の中へと運んだのである。
ここでの保管は、あくまでも仮のものである。
いずれ別の場所(実はその場所は【魔王領】だったりする)に運ぶつもりだが、これは西ムーシ商会にでも任せるとしよう。
そして、一仕事を終えた私たちは、例の酒場へとやって来た。もう店じまいだが、店主が特別にまだ店を開けてくれるとのことで、それぞれ酒を飲むことにした。傭兵団の面々は嬉しそうだ。
「他の町の貸倉庫にも、【教会】から奪取した資料やらがまだ沢山あるのではないか? 」
と、私は傭兵団のノリにはついて行けないので1人で飲んでいると、そう店主が声をかけきたのであった。
彼の言うとおり、私は多くの【教会】から本や資料を奪っては【魔王領】へ送っているのだ。しかしその集めた本や資料の量は膨大であって、その多くが依然として一時保管場所である各地の貸倉庫に残ったままである。
西ムーシ商会も運搬だけが仕事ではない。なかなか作業は進まないのだろう。
「仕方ないだろ。量がとんでもないのだから」
「いっそのこと、【魔王領】から応援を頼むのはどうだ? 」
「なるほど……その手があったか。明日、西ムーシ商会の当主にでもその旨を伝えておこう」
集めた本や資料を【魔王領】へ運び、そしてその【魔王領】から応援を寄越してもらうという行動は、まるで私が魔王の手先のように思われても仕方のないことである。それに天使共への敵対心もあるので尚更だろう。
しかし、決して私は≪現魔王≫の手先などではない。
つまり、魔王らが我々の天使共へ対する諸々の活動を邪魔するなら、私は魔王も排除することになるだろう。
もちろん、大昔から歴代の魔王は天使共と敵対関係にある。
主の御名のもとに天使共は、魔王や【魔王領】の住民たちを【悪魔】や【悪霊】と称して、滅ぼす対象にしているのだから当然だ。という事は、私と魔王は協力し合えるかもしれない……と考えることもできる。
しかし魔王が持つ天使共への敵対心と、私の持つ天使共への敵対心は果たして同一のものといえるのだろうか?
同一でないにしても、我々の天使共に対する活動の一切を魔王は認めるであろうか。
それは現状判らない。
さらに、我々の活動の一環として、私と協力関係にある天使もおり(彼らは他の天使から堕天使と罵られているが)、それら協力者と魔王が敵対しないとも限らない。
故に、迂闊に魔王を信用するわけにはいかないのである。
聞いた話では、先代魔王の娘が王位に就いたらしいが……詳細は誰も教えてくれない。
「……っと。酒に酔って色々と考えて込んでしまったみたいだ」
「あんた……。その考えこんでいるとやらの間に、ワインの瓶一本を飲み干しているけど、大丈夫か? 」
と、酒場の店主に言われて、瓶を見てみると既に空になっていた。しまった。いつもビールしか飲まないのに、ワインを一本開けてしまったようである。
「こりゃ……後数分で眠ってしまうな。魔法の天使共に対する態度次第では……私は対立する……ううぅぅ」
さて、やることはやった。また、魔王討伐(個人的には討伐するつもりはないが)のための旅を再開することになる。ユミやマリーア、そしてダヴィドを待たせているのだ。改めて謝罪しなければならない。
お詫びに何か適当にお詫びの品でも買うことにしよう。
そういえば毒タヌキの件を忘れるところであった。
あれは魔物使いの仕業によるものと推測している。そしてその魔物使いとやらは魔王の手下なのか、それとも魔王とは何ら関係のない者なのか。
と、こちらも色々と気になるところではある。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.38 )
- 日時: 2020/10/16 22:22
- 名前: 牟川 (ID: XURzUbRL)
第36話 悪夢と二日酔い
これはたぶん夢か。
確かではないが、何故か夢だと感じていた。
ああここは、特殊な店だ。しかも客層も、特殊な者たちを対象にしているので、そういった者たちだ。何故私がこの特殊な店にいるかといえば、それは私があの大天使に捨てられたからである。
「もう無理だ……。心臓がおかしくなる」
客のための訓練道具として、私は使われていた。
私は男で、相手は女。特殊な職業に就く女たちの訓練道具なわけである。この訓練光景を見れば羨ましがる男が大勢いるだろうが、それは愚かだ。
苦しみだけが感じるのだ。
そこに悦びは、一切ないのである。
「早く感想言えよ。痛いのかどうなのか」
と、客の女が言う。
客はこれでも天使だ。いや、ただ単に天使と言う名称の種族か。
どうもこの客は、自身にリピート客が全く付かないとのことで、その技術向上を目的としてこの店にやって来たらしい。
この店のキャッチコピーに、そのまま釣られてきたのだろう。
「先ほどよりは痛くありません」
私は心臓や肺が今にもおかしくなりそうな苦しみを必死に耐えて、返答に必要な感触をなるべく感じとり、そう答えた。
「さっきよりは痛くない? じゃあ、まだ痛いの? 嘘ついているんじゃないよな? 」
元々ヒステリック気味であった客は、次第にそれが増してくる。
……。
「痛いし苦しい! 貴様ら天使共は、皆殺しにしてくれる! 」
と、私が叫んだ途端、急に視界が明るくなった。
やっぱり過去の記憶を元にした、悪夢だったのだ。
※
翌日。
私は二日酔いのため体調不良であり、とても辛い状態ではあるが、午前中から1日の行動を始めている。まずユミたちに渡す手土産を買うために、王都中の店舗に立ち寄った。
迷った末に購入したのは、高級なお菓子だ。ユミ、ダヴィド、マリーアに1袋ずつ買った。また非合法な書物を取り扱う本屋で、【魔王領】に関して記述されている本を一冊購入したのである。
その後は、1人で昼食をとった。
買い物や昼食を済ませた私は、王都西側にある馬車駅に向かった。今回は快速魔法を発動しての移動ではなく、傭兵団の面々と共に駅馬車を使って西ムーシの町まで行くことにしたからである。
「カルロさん。集合時間よりだいぶ早いですね? 」
確かに傭兵団との約束した集合時間は13時半であり、今は12時過ぎなのだが……何故かそこにいたのは司祭であった。
「わざわざ見送りに来てくれたのか? 」
「違いますよ。大聖堂があんなことになって、結局私が疑われることですし、逃げることにしたのですよ」
なるほど……。
グランシス商会がロベステン鉱山の競落に失敗したことや、大聖堂の地下にある書庫から資料や本が全て消え去っていること、これら2つの大事件を前にこの彼……もといブルレッド君は、まず無事では済まされないだろう。
この2つの大事件について、ブルレッド君自身の関与自体はバレなかったとしても大聖堂の実質的№2である以上、その管理責任を問われかねない。
「すまなかったな。お前の任務を妨害してしまったみたいだ」
「いや、別に問題はありません。私の今回の任務は既に完了してましたからね。前にも言ったかもしれませんが、今回の任務はアリバナシティ大聖堂内部に於いて、天使共に関する重要な資料などの在処を見つけることでした」
「先日、そんなことを言っていたな」
だが、それならブルレッド君は何故大聖堂に残っていたのであろうか。
「任務は達成したのに、わざわざ大聖堂に残っていたのには何か理由でもあるのか? 」
「もちろん、理由はあります。私が任務終了後もあえて大聖堂に残っていたのは、最近やたらと上級天使が訪れているので、その目的を確認するためでした。まあ、こちらは【ロベステン鉱山】の件で頻繁に訪れていたのでしょう」
「なるほど」
上級天使が頻繁に大聖堂に訪れる理由も掴んだことから、もう大聖堂に残る必要はないということか。
「そういえばカルロさんに言い忘れていたことがありましてね」
「言い忘れたこと? 」
「ええ。【教会】から勇者が選任する際に、いつも渡す剣についての話なのですが……」
確か、勇者に渡される剣という話は、何らかの作用によってその勇者を恐ろしい戦闘兵器にするとかいう話だったはずだ。何か新たに重大な情報でも彼は掴んだのだろうか?
「早急に、剣の回収をしておいた方が良いかと思いましてね」
「なんだよ。剣の回収の話なら、ユミを説得するかこっそり奪うか、まあその他の手段も含めて既に検討中だ」
剣の回収くらい、言われなくたってするつもりだよ。全くもう。物忘れが多い私だって、そこまで無能じゃないぞ?
「今日に至るまでに、勇者として選任されたのはユミさんだけですか? 」
「あっ! 」
そうだった。勇者は既に何人もが選任されていたのだ。それを忘れるなんて…………。
「カルロさん、既に1つはカルロさん自身が回収したじゃないですか。その上で忘れるなんてどうかしてますよ? 」
「ああ、確かに私が何年か前に、勇者に暗殺されそうになって、それを何とか凌いで回収していたな。あまり思い出したくない記憶だが……」
実は私は、勇者に命を狙われたことがある。
相手は勇者を含めて4人で、私1人に向かって殺そうとしてきたのだ。当時【教会】や天使共が私を排除したいと考えてその討伐の対象のしたのだろう。その意図の有無はともかくとして、やはり勇者として選任された彼らも戦闘兵器製造の実験対象だったのだろうか?
そう考えると、益々可哀想に思う。
彼らも天使共に利用されなければ…………。
いや、4人を殺したのは私だ。天使共ではない。
「まあ、とりあえず私の方でも剣の回収については出来る限り何とかする。そちら方でも何とか頑張ってくれ」
「ええ。私の方でも【魔王領】にいる上司に連絡できる状況になったら、直ぐに進言します」
「あっ、それとエレドスという名前の上級天使について調べて欲しいのだが」
「エレドス……ですか。聞かない名前ですが何かあったのですか? 」
ブルレッド君も聞いたことがないようだ。
上級天使レベルになってくると理由は問わず有名になる者も出てくるのだが、エレドスと言う名前は、私もあの森で初めて聞いた。
「つい先日の話だが、下級天使から襲われてね。連中が吐いた名前が上級天使のエレドスという奴らしい」
「わかりました。軍の資料等を見て調べるよう上司に伝えておきましょう」
「おう! 頼むぞ」
しばらくブルレッド君とその他にも色々と話していると、時間もだいぶ経った。そして傭兵団の面々を馬車駅にやって来たのであった。
「ほう? 司祭殿も居たのか」
私が馬車駅にやって来た時のように傭兵団の団長も、司祭であるブルレッド君がこの場にいるものだから不思議に思ったのだろう。
そして14時になった頃に、私やブルレッド君、傭兵団の面々は数台の馬車に分乗し、王都アリバナシティを出発した。
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