複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.49 )
- 日時: 2020/11/02 20:56
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第46話 大司教の、その後
(アリバナシティ大聖堂の大司教視点(3人称))
カルロたちが【プランツ王国】領内に入った頃、アリバナシティ大聖堂の長である大司教がようやく、その大聖堂に帰ってきたのであった。
大聖堂の入り口付近で、助祭が出迎えのため立っている。
「おかえりなさいませ。大司教猊下。実は至急ご報告しなければならないことがありまして……」
「報告だと? 私は【マナガーシ地方教会騎士団国】までの旅で疲れているのだ。今日1日くらいゆっくりさせてくれても良いだろう」
大司教はそう言って、自身の執務室へと向かっていった。
「お待ちください! 緊急事態なのです」
助祭は少し声高に言った。
実際、大司教にとってとても深刻な事態が発生しているのだ。それも決して表向きにはできない類のものである。
「しつこい奴だな。ところでブルレッド司祭はどうしたのだ? 」
「現在大聖堂にはおりません。一昨日の夜から姿を消しております。そのことも含めて、とても深刻な事態なのです」
「では今すぐ話せ」
ようやく大司教は聞く耳を持ったのであった。
「まずグランシス商会の当主ご本人が、大聖堂までお越しになって激怒されておりました。理由は存じ上げませんが、王都アリバナシティに戻って来たら直ぐにグランシス商会の本店まで来るよう、そう仰っておりました」
助祭はまず、グランシス商会の件について話したのであった。
だが助祭は【ロベステン鉱山】に関する話であるとまでは、知らなかったのである。
「グランシス商会がだと? まさか失敗したのではあるまいな……」
大司教はそう言って、改めて執務室へと向かおうとした。
だが助祭が報告すべき話はまだある。
「大司教猊下。まだお話しすべきことがあります」
「何だ? 他にも話があるのか。私は疲れているのだぞ」
大司教はとても迷惑そうな表情をして、そう言った。
「ブルレッド司祭が行方を眩ませたということです」
「失踪したのか? 」
「はい。そのようでございます。ただこの件に関係しているかは判りませんが、不審な点がありまして……」
「不審な点だと? 続けて話せ」
「はい。一昨日の夜、私は突然気を失ってしまったようなのです。しかも当直の教会騎士3名も同様だったとか。目を覚ました後、私と教会騎士3名は事態を整理しようと、ブルレッド司祭を探したのですが、彼はどこにもいなかったのです」
助祭がそう言った。
これはブルレッドが睡魔魔法で眠らせたためである。
「そうか……。報告ありがとう」
既に、怒りのストレージが減少していた大司教はそれだけ言って、執務室に入っていった。
それから数時間後、大司教はグランシス商会の本店まで行くため、大聖堂を出たのである。服装は祭服ではなく、私服である。
祭服のまま街中を歩けば、当然目立つからだ。
大司教は20分程度を歩き続けて、ようやくグランシス商会の本店に到着したのであった。それから受付などを済ませて、当主の執務室までやって来た。
「助祭から、キミがやって来て激怒していたと聞いたが、一体何があったのだ? 」
「この手紙を知っているだろう? 一体何なのだこの内容は」
当主は机の上に置いてあった、何かが書かれている紙を手にして言った。
大司教はその紙を受け取り、そしてその内容を読んだのである。
「……」
大司教はもはや、声にして何か言うことが出来なかった。
その紙には、とんでもないことが書かれていたからである。即ち、『【ロベステン鉱山】の競売から【教会】は手を引くから、仮にグランシス商会が鉱山を競落してもカネは一切支払わない』という内容だ。
これは大司教が書いたわけでも、また実際に関与したわけでもないので、当然知る由もない。
だが大司教印が押印されているので、対外的には拙いのだ。
「何だその反応は。貴様が書いたか或いは書かせたのではないか? 押印されている大司教印は偽物ではあるまい」
当主がそう言った。
「私は知らない。こんな手紙」
大司教の言うことは、本当に真実である。実際にこの手紙の作成に関わったのはカルロとブルレッド司祭だからだ。
そして大司教も、直ぐに誰の仕業か見当がついた。
浮かんだ名は、当然ブルレッド司祭である。大司教は、ブルレッド司祭に大司教印を管理させていたからだ。さらに行方をくらましたという事実を鑑みれば、間違いなくブルレッド司祭の仕業で間違いないだろう……と、大司教は推測した。
「知らないでは済まされないだろ? 貴様の印鑑が押されているのだ。しかも、確認しようにも貴様は大聖堂にはいなかったしな」
とはいえ、対外的には大司教自身の主観的問題などどうでも良い。
当主は大司教を追及した。
「すまなかった。私自身が印鑑を管理しておくべきだった」
「貴様は管理がいつも甘いな? 部下も物も。以前、教会騎士団が暴走して引き起こした東ロムソン村虐殺事件の後始末をしてやったのも我々グランシス商会であった。その結果、お前たち【教会】はあくまでも合法的に村人を殺したのだと、堂々と言えたわけだ。貴様はその時からここの大司教だったな」
「その話は……止めてくれ」
アリバナ王国で、かつて東ロムソン村虐殺事件という凄惨な事件があった。
功名心にかられた数名の教会騎士が、酒に酔った挙句に引き起こした事件である。結果を言えばこの凄惨な事件は、あくまでも【教会】の合法的職務を行った結果に過ぎないということで、強引に通したのである。
因みに虐殺された村人の中には、1人のグランシス商会の職員がいた。
これが事件の肝である。
ともかく、大司教としてはこの事件の話は1日でも早く忘れたいのだ。
「話を戻すが、幸いグランシス商会に大きなマイナスが生じたわけではない。だが【ロベステン鉱山】を競落するために費やした資金の補填くらいはしてもらうぞ? 」
「わかった。直ぐに補填できるよう取り掛かる」
「期待している。ところで、話が変わるのだが良いかね? 」
当主としては、【ロベステン鉱山】の競売に関する後始末の話よりも、また別の話をしたかったのである。
「【ロベステン鉱山】に関する話の以外に、一体何の話があるのだ? まあ良い。話してくれ」
大司教がそう言った。
彼からすれば、【ロベステン鉱山】の競売に関する話以外に思い付くものがなかったのである。
「そちらのところの子飼いが、【アリバナ王国】の官憲によって捕まったことに関する話だ」
「それがどうしたのだ? 」
大司教自身も、色々と仕事を依頼していた暗殺者兼探偵事務所の連中が捕まったことは知っている。
「あの子飼いを襲撃したのは一体誰なのかと思ってね。そちらでは見当がついているのかどうか、訊ねたかったのだ」
当主としては、傭兵事業の成功のために大司教の子飼いを襲撃したであろう人物と接触したいのである。
だが、大司教の返答は期待外れのものであった。
「いや全く知らない話だ。確かに、あの連中には【ロベステン鉱山】の競売に関しても色々と動いてもらっていた。だが連中は仕事の報告を私にする前に、捕らえられてしまったのだ」
実際、西ムーシ商会の取締役として行動するカルロの動向は、大司教の耳には入らずに終わった。
「そうか。とても期待外れの回答をどうもありがとう。もう私から話はない。テキトウに帰ってくれ」
「そうか。じゃあ帰らせてもらうよ」
こうして、大司教と当主の秘密の会談は終わったのである。
後日、大聖堂の一部が何者かに破壊されたのだった。
その修理工事を引き受けたのはグランシス商会であるというのは、とても面白い話しであろう。
また、大司教は地下にあった書物の全てが盗難に遭ったことに気づいた。
この不始末は、いずれ教皇や枢機卿に目に入り、さらに【ロベステン鉱山】の取得失敗も相俟って失脚するであろうと思った彼は、今の地位を濫用し一層汚職に手を染めて、隠し財産の取得に精を出すのであった。
一層汚職に手を染める……。
例えば、自身の子飼い……即ち暗殺者兼探偵事務所の者たちに無実の罪を擦りつけるということだ。
実は【教会】が絡む事件については、捜査権や逮捕権、また裁判権は、その地域を管轄する大司教にある。そのため、大司教は暗殺者兼探偵事務所の者たちに、アリバナシティ大聖堂の地下から書物を盗んだという容疑をかけたのであった。
こうすることで、まずはアリバナ王国の官憲に捕らえられている暗殺者兼探偵事務所の者たちの身柄を【教会】に移す理由が作れるわけだ。身柄を【教会】に移せば、大司教は色々と尋問ができる。釈放をチラつかせてやれば、色々と話してくれることもあるだろう。
さらに、大司教としては、アリバナシティ大聖堂の地下から書物を盗み出した犯人を見つけたということになる。
単にアリナバシティ大聖堂だけの話なら、自らが起こした不始末に対処しただけという話で終わるかもしれない。
ところが面白いことに、いわゆる≪教会騎士団国家≫のあちこちの【教会】の施設で、数多くの書物が盗まれるという事件が多発しているわけだ。事の運び次第では、一連の事件を解決(でっち上げに過ぎないが)した立役者として、多大な功績を大司教が得ることにもなるだろう。
さて大司教が謀った結果、全員ではないが数名の身柄が【教会】側に移された。
そして大司教は、彼らを襲撃した人物がどのような者だったのかという尋問をする。彼らは直ぐに吐いた。
それから大司教は、尋問から得られた情報をグランシス商会に流したのだ。
最後に、大司教は熟慮の上で逃亡予定地に【魔王領】を選らんだのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.50 )
- 日時: 2020/11/04 12:29
- 名前: 牟川 (ID: w32H.V4h)
第47話 奇妙な襲撃者
早朝にウェプラの町を出発した私たちは、1日中歩いた。
そして、太陽が沈みだしたころになって、ようやく王都プランツシティに到着したのであった。
1日中歩きつづけたがために、とても疲れているので早く宿屋を見つけて休みたいところである。
「皆さん1日中歩き続けたことでしお疲れですよね? もし良ければ、私がプランツシティに来るたびに宿泊させていただいている宿屋あるのですがどうでしょう? ここから近いですし直ぐに休めますよ」
まさに私が早く休みたいと思っていたところ、マリーアがそう提案してきたのであった。マリーアも疲れているのだろう。
「頻繁にプランツシティに訪れているか? 」
私はそう訊ねた。
「ええ。仕事でよくプランツシティはやって来るのですよ」
「そうなのか。まあ、私は宿屋についてはマリーアに任せるよ」
そしてユミもダヴィドも疲れており直ぐに休みたいのだろう。特に反対することはなかった。
「では早速宿屋に向かいましょうか」
マリーアがそう言い、私を含め3人はマリーアに付いて行くことにした。
数分ほど歩くと、宿屋であることを示す看板を掲げている建物が目に入ってきたのである。
「あの看板の宿屋がそうなのか? 」
「はい。あの看板のある宿屋が、いつも私が宿泊に利用させていただいている宿屋です」
建物を見る限り、可もなく不可もなくといったところである。
そして、私たちは宿屋の中へと入った。
宿屋の中も見たところ、可もなく不可もなくといったところである。休むには不自由ないだろう。
それからチェックインの手続きを済ませた私たちは、それぞれ鍵を受け取り各自部屋へと向かった。
「ここか」
私は受け取った鍵を使って部屋の扉を開けて中に入った途端のことである。
何と、とんでもないことに、部屋の中から何者かが私を目掛けて突進してきたのであった。部屋の中は薄暗くて顔までは判らないが、人影がこちらへ突っ込んでくることを把握するには十分な明るさはある。
「くそっ! 」
私は自分の腹を守るよう態勢をとった。
だが、この咄嗟の動きは失敗だった。防御魔法を展開すれば良かったのだ。突然の襲撃を受けると、どうしても咄嗟に体で体を守ろうと勝手に動いてしまうこともある。
しかし、まさか私の暗殺を企んでいる奴らの一味とこんなところで出くわすなんて、なんと不運なのだろうか。そして、益々私は自己の失敗に大いに後悔した。
狙いは私の首筋だったのだ
これは終わっちまったな……まさかこんなところで死ぬなんて!
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
どうして?
と、私は絶望する。
私にはまだやることがあるというに、ここで命を落としてしまうという現実に。もちろん、私を恨んでいる者たちは大勢いるだろうしこれは必然なのだろう。
「ちょっぴり、キミの血をいただくよ」
そして暗殺者はそう言って、私の首筋に短剣でも突き立てたのだろう。首筋からチクりと痛みが感じたのだった。
数秒後に起こることを想像する。恐らくこの痛みは激しくなり、その後は出血多量で死ぬ。これで私の人生は仕舞だ。
いや、死ぬ直前はとてつもない快感が訪れるというらしいではないか。
最後は安らかに死ねるのかもしれない。
しかし……
「痛みがそれほどでもないだと? 」
そう。
私は自分に生じた痛みがそれほどのものでは無いことに気づいたのである。むしろ想定していたものと比べると、可愛いものだ。
もしかして死の直前の快感が訪れたのであろうか?
だが、さらに不思議なことに私の意識は未だはっきりとしているのだ。
であるが故に、冷静に事実確認を行うことにした。
「まさかな……? 」
その暗殺者らしき人物は若い女であり、何故か己の歯で私の首筋を噛付いていたのである。決して短剣などではなかったのだ。
まるで吸血鬼じみた行動と言えるだろう。
「これで少しは元気なったわ! キミの血はとっても美味しかったわ。ありがとう」
そして、女はそう言って、この場を去ろうと行動に出た。
「こらまて! 」
逃がしてたまるものか!
私はとっさに腕を伸ばし、女の腕を掴んだ。
「貴様ぁぁぁぁ! 私に攻撃してくるとは、暗殺のつもりなのだろうが、失敗して残念だったな! それで、誰の指図なんだ? 【教会】か? それとも天使共から直接指図を受けたか? まさか戦死した兵士の親族か? どうなんだぁぁぁぁぁ!!!!」
私は突如として湧きだした怒りの感情をコントロールできず、畳みかけるように女に対して質問責めをしたのである。
ところが、女は私の怒りの叫びなどには一切影響されず、全くもって余裕な表情を見せていた。
「ふふ。私ばかりに気をとられていて、良いのかな? 」
「何だと!? 」
直後。
背後で異常事態が発生したことが判った。
というのも私の背中に何かが突き刺さったのだろうか、激しい痛みと凍り付くような冷たさを感じたのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.51 )
- 日時: 2020/11/06 21:45
- 名前: 牟川 (ID: I36i1trF)
第48話 追いかけっこ
背中に感じた痛みと冷たさに耐えられず、うっかり気を散らしてしまった私は、女の腕を掴んでいた手を放してしまった。
当然女は、それを良いことに走って逃げだしたのである。
「くそ! まちやがれ」
私も女を追いかける。
「ところで……」
追いかけようと行動したのとほぼ同時に、ほんの一瞬だけではあるが私はチラッと後ろに振り向いた。
背中がやられた以上、先ほどの攻撃が背後からなされたのは間違いないからだ。
すると、茶色でフード付きのロングコートを身にまとう者の姿が見えたのである。その者は今まさに、廊下の窓から飛び降りようとしていたところであった。
「どこの誰さんなんだろうかね」
と、私は小声でつぶやいた。
恐らくあのロングコート姿の者は、私が追いかけている女の協力者なのだろう。この協力者であろう者も捕まえたいところだが、今は逃げた女に意識を集中すべきだ。
「あの女、足が速すぎだろう」
私が追いかけている女は、走るのが速かった。
そしてある程度の持久力もあるのだろう。私も走ることには自信があるとは言え、何故だか追いつきそうで追いつかないのである。
つまり、女はずっと一定速度を保って走っているわけだ。
「快速魔法を使いたいところではあるが……」
と、私に感じさせるほどである。
しかしここはプランツ王国の王都プランツシティであって、そんなところで安易に快速魔法を使うには心理的ハードルがあるのだ。
理由としては【教会】に目を付けられたくないというものである。先日、快速魔法で王都アリバナと西ムーシの町を行き来した際は、街道から少し離れたところを移動するように心がけていた。
せめて人通りの少ない場所にあの女が駆けこめば、私も躊躇なく快速魔法を使って追い込めるのにと思うところだ。
「おいあんた! 大丈夫か、そんな状態で走っていて」
と、不意に背後から声が聞こえて来た。
私は走りながらも背後を振り返った。ほんの一瞬、例の女の協力者かと思ってしまったが、私に続くようにして傭兵団の団長が走っていたのである。
「良かった。団長さんたちか」
「あんたが背中から血を流しながら誰かを追いかけているのを部下が発見してな。だから≪仕事≫をしているわけさ」
「そうか。どうもありがとう。なかなか、心強い傭兵団だな」
元々、アリバナシティにある酒場の店主テオドル氏の紹介だとは言え、この傭兵団に対してそこまで期待などはしていなかった。とりあえず私の指示に従う頭数さえ揃えば良かったのだ。
しかし思い出してみれば、彼らはロムソン村へ行く途中に毒タヌキと戦闘になった時も含めて、自発的に行動してくれている。
あくまで傭兵として≪仕事≫をしているに過ぎないのであろうが、彼らはどうやら信用できそうだ。
「心強いか! そう言ってくれてありがとうよ」
団長が少し嬉しそうな表情を見せながら、そう言った。
「こうしてついて来てくれているからな。心強く感じるよ」
「まあともく、あんたはあの女を追いかけているってわけか? 」
「ああ。あの女だ」
「あの女と何があったかは判らないが、とりあえず俺たちもついて行くから、万が一戦闘にでもなったら安心してくれ」
と、団長が言う。
それから数分ほど女を追って走った。するとボロい屋敷が見えてきた。どうやら女はこのボロ屋敷に向かっているようだ。
あのボロ屋敷を見ると、まさに以前私が読んだ小説に出てくる吸血鬼の屋敷のまんまだった。
その小説の設定では、吸血鬼はボロ屋敷を住処にしているのだ。
そして案の定、女はそのボロい屋敷の中へと入ったのである。
「おい! あの中に入りやがったぞ」
団長がそう叫んだ。
それにしても、あの女はすんなりとボロ屋敷の中に入っていった。普通、見知らぬ建物に入っていくものだろうか?
そう考えると、アジトとして利用としているのかもしれない。
「女は、あの建物をアジトとして使っているのかもしれないな」
私は団長にそう言った。
「アジトを持っているのだとしたら、協力者がいると思ったほうがいいぞ」
1人であってもアジトを持ち、悪さを働く者幾らでも居ると思うが……。
「そうなのか? 」
「あくまで俺たちの経験だが、アジトを持って活動する奴らは大概複数人で行動している。そしてアジト内に踏み込んだ途端に、戦闘になるのは定番だよ」
なるほど。
ではあの屋敷に私たちが踏み込んだ瞬間、戦闘になるかもしれないというわけか。
私は団長の言葉を参考に、防御魔法を展開したのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.52 )
- 日時: 2020/11/08 20:35
- 名前: 牟川 (ID: /6p31nq7)
第49話 そして案の定、戦闘になる。しかし相手は……
「よし入るぞ! 」
私を先頭にして、屋敷の中へと突入した。
後ろからは、傭兵団の面々が続いてやってくる。
「魔物だと!? 」
と、私は声に出して言った。
中に入って早々、火炎ウサギの2匹が現れたからだ。だが、幸いなことにランクは中級とされている魔物であるし、たったの2匹である。
問題はないだろう。
私は中級水系魔法(簡単に言えば、それなりに威力の高い放水)を発動し放った。もちろん火炎ウサギの火炎攻撃を封じるためだ。
「喰らえぇぇぇ! 」
私の中級水系魔法の勢いが弱まったと同時に、傭兵団の団長はそう叫び火炎ウサギに斬りかかる。
あっという間に火炎ウサギの2匹は斬り殺されて、一先ず戦闘は終わった。私は火炎ウサギの死骸を確認することにした。
「まさかな……」
≪刻印≫があったのだ。
この火炎ウサギの死骸には。
ずっと追い求めていた≪刻印≫付きの魔物が、ようやく見つかったのである。
「まさか、ここで魔物使いがいるという、決定的な証拠を発見してしまうとはな」
ということは、あの吸血鬼のふりをした女こそが、魔物使いだということだろうか?
「魔物使い……だと? 」
団長が驚いた表情でそう言った。
「ああ。以前から魔物使いに付けられているのではないかと考えていてね。そして今このタイミングで、その証拠を見つけてしまったわけだ」
「もしかして、先日毒タヌキの死骸を調べようとしていたことと関係があるのか? 」
と、団長が訊ねてくる。
「ああ。関係がある。あの毒タヌキは不自然にも道の真ん中で屯していたわけだ。それで作為的なものを感じために、あの時、毒タヌキの体を調べようと思ったわけだ。まあ、この≪刻印≫があることによって、魔物使いという連中が使役している魔物だということが判るわけだ」
私はそう答えつつ、火炎ウサギに刻まれている≪刻印≫を指さして団長に見せた。
「なるほど。ようやく話が判って来たぜ。うん……? ところでその魔物使いとやらだが、どうやらかなり優秀なようだな」
団長がそう言って指さした方向を見ると、そこにはウルフ型の魔物が8匹もいたのだ。毛の色は青。
名はシンプルに、ブルーウルフと言われている。
「面倒な魔物を、捕まえてきやがったみたいだからな! 」
と、団長は叫ぶ。
傭兵たちは直ぐに持っていた武器で攻撃にかかった。確実に攻撃は与えているものの、ブルーウルフは倒れなかったのである。何せこの魔物はタフなことで有名なのだ。
私は初めてブルーウルフと遭遇したが、情報くらいは知っている。
だが、ブルーウルフがタフであるにも関わらず、傭兵たちは次から次へと、各々の武器で攻撃し確かなダメージは与えている。
ところがブルーウルフは、直視できないほどの血を垂れ流そうが、直視できない物体がが飛び出ようが、逃げることはなく、攻撃しようと行動する。
まあ、魔物使いの命令に従っているだけかもしれないが。
「キミたち、ちょっと下がってくれ! ここは私が……」
私は、例の内臓に著しいダメージを与える魔法を発動した。
「ぐるるるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 」
私が例の魔法を放つと、一匹のブルーウルフがそう呻いた。
しかし、それでも死ぬことは無かったのである。
「やばい! 」
あいにく、気持ち悪いものを付着させられるところであった。
恐ろしいことに、私の発動した魔法を喰らったブルーウルフは、口から血の混じった見るだけで悍ましい吐しゃ物をまき散らしてもなお、積極的に攻撃を仕掛けてきたのである。
「おいおい、あんた。あんたの魔法がどういうものか知らんが、単にグロさを極めただけじゃないかよ。これでは、俺たちの気分が悪くなるだけで何の意味もないぞ」
団長に、そう怒られた。
確かに私は結果的に、そうさせてしまったようだ。
「申し訳ない。さすがに魔法を喰らいさえすれば、死ぬかと思って……」
魔法を弾かれて効かないということはあるが、喰らってもなお死なない奴を見たのはこれが初だ。
「ここは俺に任せろ」
団長はそう言いながら、剣を使いブルーウルフ一匹を地面に叩きつけた。
「こういう輩はだな、押さえて付けて喉ぼとけを斬るんだよ」
団長は短剣を手にして叩きつけたブルーウルフの喉を刺し、抉るように斬ったのである。
そういえば、ダヴィドも毒タヌキに止めを刺すときは同じ方法だった。
さて私は、団長が喉ぼとけをナイフで突き刺したことによって、この個体は死んだと思った。しかし、そうは問屋は卸さないようだ。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.53 )
- 日時: 2020/11/10 13:10
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第50話 異常なブルーウルフ
「くそ、こいつまだ生きてやがるのか! 」
団長も、さすがに喉ぼとけを斬ったから死んだと思ったのだろう。だが残念なことにブルーウルフは、それでもなお生きていたのである。
さらに団長はブルーウルフに、手首を噛まれてしまったのだ。
「大丈夫か! 」
「しまった。こいつ……手首に噛付いてきやがった」
私は直ぐに団長を手当てしようと駆け寄ったものの、ブルーウルフが団長の手首を噛みついたままであった。
「こうなったら! 」
簡単なことだ。
ならばこのブルーウルフの胴体と首から上を、切断してしまえば良い……。
と思ったが、既にそれは団長がやり遂げていたようだ。このブルーウルフの胴体と首から上は見事に切断されている。見事な早業だった。
さすがは傭兵団の団長と、言えるだろう。
さてこのブルーウルフだが、喉ぼとけを切り落としたときに血はどっさりまき散らされていたので、新たに血が噴出することはなかった。
ところが……。
「くそ! こいつまだ生きてやがる。首だけになってもな」
団長もさすがに怖気づいたのだろうか? 声が少し震えていた気がする。
「だったら口の上からナイフを刺して、歯を一本ずつ抉り出すしかないか……」
相変わらず、ブルーウルフは団長の手首に噛付いたままその牙を離そうとはしないので、私はそのように提案したのである。
「そ、そうだな。少し面倒だがそうするか。もうそれしか方法はないだろうからな」
団長はそう言って、ナイフをブルーウルフの口の上に突き刺したのである。
このグロい作業には少々時間がかかるであろうから、私は現在奮闘中の傭兵に混じって他の個体と応戦することにした。
そして、数分が経過する。
「あんた! 終わったぞ。何とか手首が自由になった」
団長のその呼びかけに応じ私は直ちに団長の元へと駆け寄り、回復魔法を発動したのである。
団長さんの横にはブルーウルフの頭だったはずの肉塊が転がっていた。
その肉塊には、強く何度も踏みつぶした形跡が見られる。
この様子だと、団長に噛みついてきたブルーウルフ流石に死んでいるのだろう。仮に、この状態でも死んでいなかったとしても、無力化はできているはずだ。
「これは骨も折れてるみたいだね」
私は団長の力感じなく垂れ下がったような手首を手に持ち、そう言った。
魔法と言うのは便利で、回復魔法を発動しさえすれば怪我は治るのである。
骨折などの深い傷を負っても、その怪我の程度に対応できる以上の回復魔法で癒してあげれば怪我は治るのだ。
そして私は中級回復魔法を発動したのである。
「中級回復魔法を発動したからこれで大丈夫だろう」
「ありがとう。助かったぜ」
「これでまた戦えるか? 」
「まあな。おかげさまで」
団長と私は、残りのブルーウルフを倒すべく直ぐに動いた。
とりあえず、攻撃目標は各ブルーウルフの頭だ。団長が体を張って戦って負傷した結果、とりあえず頭を潰せば死ぬことが判ったからである。
「お前ら頭を潰せ! 分かったか! ブルーウルフの頭を集中攻撃しろ! 」
「「「おおお! 分かりましたぜ! 」」」
団長の掛け声で皆、ブルーウルフの頭を集中攻撃し始めた。
これで、多少時間がかかるとしても何とかなるだろう。とはいえ、ブルーウルフがタフなのは聞いていたが、まさかここまでのものだったとは思いもしなかった。
それからしばらく時間が経ち、私と傭兵団はこの場に居たブルーウルフを全てをほぼ無力化することに成功した。
殺すまでもなく、首を切断すれば向こうは噛付くくらいしか行動ができなくなるので、後は放置すれば良い。当初は頭を潰すという方針だったが、面倒になったのでこうなった。
そして、切り落とした首は全て土に埋めたので、掘り返さない限り問題はないだろう。
「結局、逃げられたか。これはやられたな」
と、私は言った。
ブルーウルフに足止めされている間に逃げられたのだ。
しかしながら思う。ブルーウルフはこんなにもタフなのだろうか?
「やられた……か。まあ、ブルーウルフにこれだけ時間をかけていたら、あらゆる工作も可能だしな」
団長がそう言う。
「こ、工作か。ちょってまて、3人が危ないかもしれない」
私はまんまと、何者かの策に嵌ったのかもしれない。
私がここでモタモタしている内に、ユミたちに身の危険が迫っているかもしれないと思うと、居ても立ってもいられなくなり無意識に走り出したのであった。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14