複雑・ファジー小説

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何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
日時: 2020/09/14 01:49
名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)

知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。





・主人公サイドに立ったあらすじ

 とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
 そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。

 だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。


 
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ

 少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
 そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
 
 魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。

 幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。


尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。



最後に……

この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。

最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!

第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます! 

Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.29 )
日時: 2020/10/05 18:29
名前: –牟川 (ID: 5yzH1Xyu)

第27話 心揺らぐグランシス商会、そして【ロベステン鉱山】を競落した者



 ここは、【アリバナ王国】の王都アリバナシティにあるグランシス商会の本店である。
 グランシス商会の当主は【ロベステン鉱山】の件で、とてもストレスを感じていた。

「ある兵士長から聞いたのだが、あの事務所の連中が捕まったらしい。それでアリバナ王国は、連中に対する尋問もかなり追い詰めるようにやっているようでな。連中が大司教との関係を吐かないか、とても心配でね……」

 と、当主が今の心境を語った。
 相手は、当主が信頼を置く取締役である。

「なるほど……。それは厄介な状況になってきましたな。まあ、アリバナ王国自体に大司教を逮捕したり裁く権限はありませんが、枢機卿や教皇にチクられる可能性がありますからね。しかし、連中もどうして捕まったでしょうか」

「まず1人は、何の理由かは判らないが市民を襲ったものの反撃に遭い、兵士の詰め所まで連れて来られたそうだ。それで他の者たちは、ある理由で兵士たちが駆けつけたところ気絶していたらしくね。それで捕まったそうだ」

 カルロを襲った暗殺者兼探偵事務所の連中は、【アリバナ王国】の官憲によって人相書き付きで指名手配されていたものの、その事務所の在処は把握できていなかったのである。

 だからこそ、カルロは兵士たちを駆けつけさせるために初級爆発系魔法を連発したのであった。

「ある理由ですか……」

「ああ、なんでも連中の事務所で爆発が起こったらしくてな。まあ当初は兵士たちも、まさか連中の事務所だとは思わなかったのだろう。秘密のアジトだったわけだしな。兵士たちは、ただ単に爆発があった所へ駆けつけただけだった。しかし何の偶然か、そこが連中の事務所だったというわけだ」

「爆発……。なんだか作為的なものを感じさせますね? 」

 取締役がそう言った。

「そう思うだろう? 時系列的にはその市民を襲ったその1人が捕まった後に、連中の事務所付近で爆発が起こったらしい」

「なるほど。ではその市民が報復目的で、連中の事務所を襲撃したかもしれないと仰りたいのですね?」

 実際、カルロは襲われた後にその事務所を襲撃したわけである。
 根拠は乏しく、断定したわけではないが、グランシス商会の当主はそう推測したのであった。そしてしれは、概ね当たっている。

「あくまでも可能性の1つだがな。今、最も気になっているのは、連中の事務所で爆発が起こり、また連中が気絶していたという部分だ」

 今回の件で、爆発の原因は不明とされている。このように、爆発の原因が不明であると扱われる場合、実のところ魔法によるものだという推測がつくのだ。

「私が考えるに爆発系魔法が放たれ、そして睡魔魔法で眠らされたのではないかと思う。魔法に対して何ら防御手段がなければ直ぐに気絶してしまうだろうからな」

「と言うことは、その市民とやらは魔法を使えるかもしれないわけですね」

 と、取締役もこれに納得する。

 しかし、2人とも西ムーシ商会或いは【ロベステン鉱山】競落を狙う他の商会関係者が絡んでいるかもしれないと考えなかったのだ。
 むしろ当主に至っては、その市民個人に強い興味を持ったために、そちらに意識が集中してしまったのである。

「そこでだ。傭兵事業担当の取締役が、もっと戦闘で役立つ人員を寄越せとうるさくてね。その市民とやらに、何とかして接触できないだろうかと私は考えたのだ」

 つまり当主は、≪その市民≫とやらを傭兵として欲しているのだ。


「ま、まさか傭兵として引き抜くつもりですか! 」

「まさかも何も、そのつもりだよ。実は【パレテナ王国】内で蔓延る山賊たちを掃討しようという話がちらほらあってね。このまま話が進めば、我が商会にも依頼が回ってくる予定なのだ。その時までには奴が欲しいわけだがな」

「しかし、その市民が本当に魔法が使えるかもわかりません。それに連中の事務所を襲撃したのかについても、まず本当に襲撃の事実があったのかどうかという事実の有無、次に襲撃があったとしても誰がやったのかという明確な証拠はありませんよ? 」

「そんなもの、いちいち気にするな。その市民に接触しようと動いている過程で判るはずだ」

 こうして、グランシス商会は≪その市民≫……即ちカルロに接触すべく、行動を始めたのであった。





 そして、【ロベステン鉱山】競売の当日。
 グランシス商会の本店で待機していた当主は、とても不機嫌であったのだ。

「当日になって、こんな手紙を寄越すとは失礼にも程があるだろうが! 」

 当主は不機嫌をとおり越して、ついにはそう叫んでいたのである。
 さて何故当主は不機嫌かといえば、アリバシティ大聖堂の長である大司教からある手紙が届いたからであった。

 要約すると≪ロベステン鉱山の競売から【教会】は手を引くから、仮にグランシス商会が鉱山を競落してもカネは一切支払わない≫というものであった。

「当主。念のため大司教猊下へ確認なさった方が……」

 一応、【教会】とグランシス商会が繋がっている事実を聞いている若手従業員が、そう言った。

「既に確認のため使い送った。だが今日は不在とのことらしい。急に用事ができたとかで朝早くにアリバナシティを発ったそうだ」

「左様ですか」

 当主は怒りが収まらなかったものの、決断を下した。
 即ちグランシス商会は【ロベステン鉱山】の競売から降りるというものである。

 彼は当然、偽造されあ文書であるという可能性も考えた。何せ≪競売当日に届いた手紙≫なのだ。
 とても怪しいものと感じるだろう。

 しかし競売当日の今日、どういうわけか大司教は不在のため、確認のしようがないのだ。
 むしろ当主はこう考えた。

 ――― 

 大司教が不在なのは、汚職追及から逃げたのではないか? 
 おそらく【アリバナ王国】が枢機卿や教皇に、大司教の汚職の事実を伝えたのだろう。
 そして大司教は、自身の汚職の話が枢機卿や教皇にまで及んでいることを、何らかの方法で知ったのだ。

 ―――

 だから、どこかへ逃亡したがために不在なのではないかと。そのように推測した当主は、下手に競落して損するよりかは、損しないことを選んだのであった。

「さて、迂闊に競落して大損するのは避けるべきだ。競売はキャンセルするよう現場の者に伝えろ」

 当主は、そう若手の従業員に指示を下した。

「承知しました」

「大司教とは結構長く付き合いがあったが、このあたりで付き合いを見直すべきかもしれんな」

 こうしてグランシス商会は【ロベステン鉱山】の競売から手を引いたのであった。結果として、【ロベステン鉱山】は無事に西ムーシ商会が競落することに成功したのである。

 しかし実のところ西ムーシ商会は一筋縄では競落できなかった。
 と言うのも、グランシス商会以外の商会も当然競売に参加しており、西ムーシ商会は何とか僅差で競落したのである。つまり集めた金貨520万枚の全額を支払うことになったのだった。

Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.30 )
日時: 2020/10/06 17:15
名前: 牟川 (ID: wGslLelu)

第28話 勇者の価値とは



 私は【ロベステン鉱山】を西ムーシ商会が競落したことを確認した後、アリバナシティ大聖堂にやって来た。

 もちろんその理由は、重要な話があると言っていた司祭に会うためである。

 大聖堂に入り、わたしは助祭の案内で司祭の執務室へと向かった。
 そして助祭が執務室のドアをノックする。
 
「カルロさんという方が、お越しになっております」

「ああ、通してくれ」

 と、ドア越しに司祭の声が響いてくる。
 私は執務室の中へ入り、それから助祭は執務室から去った。

「カルロさん。無事に西ムーシ商会が競落して良かったですね」

「おう、おかげさまでな」

 競落に成功し、本当にホッとしている。もしも競落できなかったら一体私は何をしでかすところだったか……。

 まあ今は競落に成功した喜びを抑えて、司祭から話を聞くとしよう。

「さて、重要な話とやらを聞かせてほしい」

「そうですね。では早速、報告したかった話に入りましょうか」

 司祭もそう言って、話を進めた。

「まずカルロさん。貴方は、天使共は人間を玩具にしか思っていないという考えですよね? 」

 と、司祭が言う。
 何を言い出すと思えば、そんなことか。天使共は時々この世界へやって来ては人間を捕らえ、そして嬲って楽しむのだ。つまり、当然これは人間を玩具として扱っているわけである。
 そうとしか考えられない。

「当然だ。人間を玩具と思っているんだよ…………連中は」

「やはり今でもそう思っておりましたか。ですが、僕は少し違う考えを持つようになりましてね」

 天使共は、人間を玩具として扱っていないと言いたいのか……。

「今僕に与えられている任務は、アリバナシティ大聖堂の書物保管庫の在処を探ることでしてね。それで無事任務を達成したのですが、同時にとんでもない情報に出くわしたのですよ」

「とんでもない情報だと? とても気になるではないか」

「ええ。なんせ【教会】から選任される勇者に関係する話なのですから。最近ではユミさんが勇者として選任されましたよね」

 ああ。そうだったな。
 そしてその同行者として私を選んだのはお前だったけどな? まさかその情報とやらが関係しているのだろうかね。

 それにしても、勇者に関する話か。
 なおさら気になるところだ。

「ところでカルロさんも、魔王討伐のためにわざわざ勇者を選任して少数で挑ませることに疑問をお持ちでしたよね? 」

 質問ばかりしてきやがって。早く、その情報とやらを教えて欲しい。
 まあ、質問には答えるとしようか。

「そりゃそうだ。各国が兵士をかき集めて、数の力で攻めていった方が良いだろうしな。しかも勇者と言ってもただの素人であるし」

 とはいえ、各国が兵士をかき集めて数の力で攻めても魔王討伐など無理だろう。
 現在の魔王軍の実力が、どれほどのものかは正確にはわからないが、それでも短期間で≪教会騎士団国家≫複数を滅ぼす力くらいはあると言われている。

 それに【魔王領】の実力組織は魔王軍に限らない。
 
 ただ、こうも考えられる。
 天使共が直接【魔王領】へ攻め込むという事だ。

 仮にそうだとすると、あえて天使共の狗である【教会】が勇者を選任するということは、魔王軍を勇者への対処に集中させて陽動させることが目的と言えるかもしれない。


 しかしその場合でも、【教会】の呼びかけで各国から兵士をかき集めて【魔王領】へ攻め込ませた方が陽動としても効果的だ。やはり、どう考えても勇者を選任して少数で魔王を討伐するということに疑問を感じる。

 さて、司祭は何を教えてくれるのか……。

「そう思いますよね? では報告します。僕が見つけた情報によると、勇者をあえて任命して魔王を討伐させるということの真の目的は、強力な戦闘兵器を作り上げるための実験なのだそうです」

 えっ?
 せ、戦闘兵器…………だと? 
 
「ど、どういうことなのか、詳しく説明してくれ」

 私は、司祭に詳しい説明を求めたのであった。

Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.31 )
日時: 2020/10/08 07:30
名前: 牟川 (ID: Mj3lSPuT)

第29話 ≪続≫勇者の価値とは


 
 私の問いに、司祭が説明を始めた。

「僕が掴んだ情報によれば、どうやら勇者に渡される剣がその戦闘兵器を完成させるための鍵となっているようでしてね」

 剣か……。
 恐らくは、大司教がユミの渡したあの聖剣のようなものを言っているのだろう。

「確かに私も、ユミが大司教から剣を貰い受けていた様子を、この目で見ていたな」

「ええ。まさにその剣だと思いますよ。それでその剣には武器として使用する者を、たちまり負の感情を無限に増大させるとか書いてありました。まあ天使共も内戦やら他国との戦争で忙しいですからね。戦局を一転させるべく研究しているのでしょう」
 
 負の感情を無限に増大させるとは、なんて恐ろしいことか。少なくともその者の人格が潰れるのではないだろうか。

 私がそう考えるのは、負の感情を感じる時、人はとても辛いはずである私はそう思っているからだ。

 だからこそ、そんな負の感情が『無限』に増大したらと思うとゾッとする。

 そして何より道徳的価値観を抜きにしても、勇者任命の本来の目的が、戦闘兵器を作り出すということが真実であるなら、これは本当な危険な話である。

 それによって完成した戦闘兵器の戦闘力次第では魔王はあっさりと殺されるかもしれない。その場合、さらに我々が天使共と戦うことは、今よりも困難となるだろう。

「それで、その情報はどこで手に入ったのだ? 」

 司祭が嘘の情報を掴まされている可能性も否定できない。そのため私はその情報どのように発見したのか私は訊いた。

「資料はこの大聖堂の地下深くにある書庫で発見したのですよ。その書庫で本を読み漁っていたら偶然のその時読んでいた本の中に挟まっていましてね」

「な、なんだって!? 地下深くの書庫だと……? 」

「ええ、実は図書館とは別に書庫があるんですよ。この大聖堂は。まあ、その書庫の在処を探ることが僕の任務ですから、こうして達成できたわけです」

 どおりで、この大聖堂の図書館にある本は子供向けばかりで役立たずなものばかりだと思っていたが、なんとまあ、地下に書庫があったとは。
 恐らく、その書庫にある本や資料はどれも重要なものなのだろう。

「それで、そこで見つけた資料に今述べたことが書いてありましてね」

「そうか」

 地下の書庫で発見された資料に書いていたからと言って、まだその資料の信憑性があるとは言い切れない。
 だが、一先ずその資料の信憑性は保留としておこう。

 司祭が掴んだ情報によると、勇者に渡される剣が戦闘兵器の鍵となるらしい。
 しかし、一体どういう作用で戦闘兵器たるものになるのだろうか? 「負の感情を無限に増大させる」と言っていたが、実際どうなるのかは具体的には判らない。

 さて、司祭はそのあたりも知っているのだろうか……。

「それで、具体的にはどのようにして戦闘兵器なるのだ? 」

「いえ……。その見つけた資料はたった1枚の紙媒体でした。それで留め金の痕跡があることから、どうやら何枚かに渡るも資料だったのかと思います。そこから抜け落ちた1枚を、偶然にも私が見つけたということでしょうね」

 ということは、結局その詳細は分からず仕舞いか。
 しかしその資料の全てを発見できれば、さらに詳しいことが判るかもしれない。

 それに詳細が分からないとはいえ、放っておけばユミが戦闘兵器たるものになってしまうかもしれないということは判った。
 まずは如何にしてユミからあの聖剣を奪い取るか、そして如何にして大聖堂の地下にあるという書庫から本やら資料の全て持ち出すか、を考えよう。

「詳しいことは分からないとのことか。だが、これから為すべきことは決まった。ありがとう。それで、夜までにはその地下にあるとかいう書庫に行くからよろしくな」

 私はそう言って、大聖堂を後にしたのであった。

Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.32 )
日時: 2020/10/09 08:06
名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)

第30話 魔王軍スパイ、森へやって来る。そしてパニくる


(魔王軍スパイ視点)


「なるほどな。このような森であれば、毒タヌキもいるかもしれない。かなり期待できるよ」

 俺は使役する魔物を探すため、女と共に西ムーシの町を出て、この森までやって来たのであった。

「それは良かったです。まあ早いところ毒タヌキを見つけましょうか」

「そうしよう」

 そして、俺たちは手分けして毒タヌキ、或いはそれなりの戦闘力を持つ魔物を探しにしたのである。とはいえ女の方は魔物使いではないので、発見してもどうしようもない。そこで発見次第、すぐ俺に連絡できるよう互いに一定の間隔を保ちながらの作業となった。

 特に時間は気にしてはいなかった。
 だから作業を始めて、どれほど時間が経過したのかは判らない。

 そして……。
 俺は一休みしようと女に声をかけようとしたところ、とても不快な臭いが周囲に漂っていることに気づいたのである。

「気分が悪くなる臭いだ…………。もしかして」

 もしかして、動物や魔物の死骸があるのだろうか?
 ここまで強烈な臭いとなると、かなりの数の死骸が近くにあるのかもしれない。

「あの……ちょっとこちらへ来てくれませんか? 」

 女がそう言いながらこちらへやって来た。何かを発見したのだろう。

「何があったんだ? こんな気持ち悪い臭いということは、どうせ不快になるようなものなのだろうがな」

「え、ええ。予め言っておきますが、吐くかもしれません。それは覚悟しておいてください」

 吐くかもしれないって……ならそんなもの見せるなよと思ったが、ともかく想定通りの物体があるのだろう。
 俺は覚悟を決めて、女に後について行った。


「ここです」

「なっ……んだと!? 」

 俺は女について来て見れば、そこにあったのは人の形のように見える物体であった。何とも言えない強烈な臭いもする。要は死体ということである。しかもその死体のほとんどが見たところ焼死体だ。

 女は、吐くかもしれないと言っていたが、確かにこんなものを見せつけられれば、俺もその日の体調次第じゃ吐くだろう。
 
実際既に吐き気を催している。反対に、焼死体に集っているハエ共からすれば、嬉しい限りだろう。うまい飯が食えて。

 だがな、ハエ共。
 こちらはお前らが集っているその光景を見て、さらに気分が悪くなるんだよ。お前らがうまそうに飯を食っているその光景がな。

 そういう言葉にできない光景に、俺は混乱してしまった。だが、ある物に気づく。まるで水晶玉のようなのものが1つ転がっていたのだ。
 
 まあ、この際どうでも良い話であろうが……。

「まっ……。まあ一目でわかるかと思いますが、死体です。幸い、まだハエが集っている以外は肉食動物や魔物たちには手を付けられていないようですが…………。死体の背中のあたりを見てくれませんか? 」

 女の言うとおり、俺は死体の背中を見てみると、何かが生えていた後が見えた。焼死体についてはもはや原型を留めていないので、唯一焼死体ではない死体を見てみると、それが何なのか判った。それは翼だ。
 
「えっ? ま、まさか……な」

 まさか、これらは天使の死体だと言うのだろうか? 

「天使の死体ということでしょう」

「お、おう。まあ翼があるということは、そういう事だとしか言えないよな」

 何故だ? 
 何故、このような場所に天使の死体が、それも複数の死体があるのだろうか。

 もちろん、こう考えることもできる。魔王軍の一部が独自に動いた結果、ここで戦闘が起こったという事だ。

 そうだとするなら……。

「一体どこの四天王サマの部隊がやったのだろうか。まさか貴女のところの四天王サマとかじゃあるまいよな? 」

 まあ、俺たちも上司同士で賭けたカネのために動いている手前、他人が独自に動いていたとしても批判する立場にはないが、流石に天使を殺すというのは迂闊すぎる。 

「少なくても私は知りませんよ。それに何も魔王軍の仕業とも限りませんしね」

 こういう時、魔法電話があれば良いのにと、これほどまでに思ったことはない。
 聞くところによれば、魔法電話の支給はレミリア軍団に集中しているらしいので、俺に支給されるのはもっと後のことだろう。

「なあ。魔法電話は持っていないのか」

 と、念のため女に聞いた。

「いえ。勇者一行として旅するため、不測の事態に備えて魔法電話の支給を要請しましたが、まともに取り合ってくれませんでしたよ」

 上も色々とおかしいと思う。
 俺たちのような任務を帯びた者にこそ、魔法電話を支給すべきなのではなかろうか? 

「そうか……。なら、この天使共の死体の件は、後で町に戻ったら部下に伝言を頼むとしようか」

「では報告のほうは貴方にお任せします」

「ああ。任せてくれ」

「ところで話を戻しますが、この天使たちを殺したのは、一体どこの者たちの仕業なのかは概ね見当がつきます」

 どこの者たちの仕業なのか見当がつくだと? 
 根拠など乏しいというのに。

 いや……根拠が無くてもやりそうな連中なら、確かにいる。
 2カ月前に、【魔王領】では全国紙の1つである≪モーニングサン新聞≫の1面に、堂々と載った≪とある記事≫があったことを思い出したのだ。

「あっ。そうか」

 と、私は声をあげた。

 無論、魔王軍の仕業である可能性も否定はできないのだが、その他にも【魔王領】には相応の実力を有する組織がある。

「ま、まあ。この話は一旦保留して、引き続き使役する魔物を探すことしないか? 」

 気づけば、吐き気が高まってきたのだ。
 早く、この場を離れたい。

「そうですね。元々、それのためにここまで来たわけですし」

 という事で、俺たちは魔物探しの作業へと戻った。

Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.33 )
日時: 2020/10/10 10:52
名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)

第31話 傭兵団との再会


司祭から一通りの話を訊いた私はその後、快速魔法を使い王都アリバナシティから急いでロムソン村へ向かった。
 以前から【教会】や天使共の情報を収集している私としては、その書庫にあるすべての本や資料が欲しいのである。

 しかしそれを全部1人で運ぶとなるといつまでも経っても終わらない。
 以前、別の町にある【教会】の施設から本などの資料を奪取したことがある。その際は
傭兵を雇って行ったのだ。つまり今回も傭兵を使おうと考えた。

 だからこそロムソン村まで、傭兵たちに会うために、こうして向かっているわけである。

 ただ、関係各署にバレれば何らかの処罰を受けることは間違いないので、彼らがそれに応じるかはまだ判らない。



「さて、どこにいるのだろうか」

 ロムソン村に着いた私は、早速傭兵団を探した。恐らくは宿屋にいるのだろうと期待して宿屋に入ってみたのであったが、少なくとも宿屋の食堂には傭兵団らしき者たちは居なかった。

 食堂ではなく各自部屋に居るのだろうか? 
 ちょうどそこで宿屋の女将が掃除をしていた最中だったので、訊ねる。

「すみません。ちょっとお聞きしたことが……」

「あら先日お越しいただいた方ですね。それで聞きたいこととはなんでしょうか? 」

 どうやら、私はこの女将に顔を覚えられていたようだ。

「実はこの村に滞在している傭兵団の雇い主から、彼らに対する伝言を引き受けましてね。それで今どこにいるか判ります? 」

 雇い主は私だが、雇い主から伝言を引き受けた立場であると言っておいたほうが怪しまれないだろうと思い、そう言った。

「傭兵団? あの人たちなら今日も村が魔物に襲われないように手分けして周辺を巡回しているわよ。とは言っても、そろそろ戻って来る頃合いかもしれないわね」

「そうですか。ではその間、ここで待たしてもらってもよろしいですか? 」

「どうぞ、適当に座っていいわよ」

 という事で、私は飲み物を一杯注文し宿屋の食堂で傭兵団の帰りを待つことにした。
 
 それから、十数分が経過する。
 宿屋の玄関が開く音が聞こえてきたのであった。そちらを見ると、武装した男たちがずかずかと宿屋の中に入って来る。
 
 私が雇った傭兵団だ。
 巡回から戻って来たのだろう。

「おや? 何故あんたがここにいるんだよ」

 と、傭兵団の団長が私に気づき声をかけてきた。

「それはだな……。実は今日中に王都でやって欲しい仕事があってね。それで、ここまで来たわけだ」

「やって欲しい仕事だと? じゃあ早速聞かせてくれ」

「ああ。簡潔に話すが、アリバナシティ大聖堂の地下にある書庫から本や資料を奪取するので、それを手伝って欲しいのだ」

 私がそう言うと、団長は眉間にしわを寄せたのである。

「汚れ仕事ってことか。まあ俺たちも人には言えないようなことをカネのためにしてきたからな。今更善人ぶるつもりはないが……それに割り増し料金を請求しようにも、すでに大金をもらっちまってるし……」

 反応から察するに、団長は気乗りはしないようだ。
 これは仕方あるまい。誰だって汚いことなどしたくはないのは当然である。仮に彼らが以前にも汚れ仕事をしたからといって、喜んで新たに、その行いができるというわけでもないだろう。

 彼らのやる気を引き出させるために私にできることは、【教会】の実態などを語り彼らの心を揺さぶることか、別料金として、さらに報酬を支払うことであろう。

「頼む! 別途報酬も出す」

 私は後者を選んだ。そもそも、私は高い報酬を既に支払っているので別途料金をわざわざ支払う必要はないと言いたいところだが、これはあくまでも彼らのやる気を引き出させるのが目的だ。

 団長はしばらく口を閉ざす。色々と考えているのだろう。数分が経過する。

「わかった。では、さっそく王都アリバナシティへ向かわないとな」

 と、団長がいう。

「協力してくれて、ありがとう。とても助かるよ」

 これで、何とか段取りは整った。


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