複雑・ファジー小説
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- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.4 )
- 日時: 2020/09/14 18:28
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第3話 寄り道が早速始まった
旅が始まって2日目。
旅の準備を済ませた私たちは、王都アリバナシティにある宿屋で一晩を過ごし、それから王都を発つことになった。目的地はもちろん魔王を討伐するということだから、ただひらすら【魔王領】を目指せばいい。
本来、西ムーシの町の方向へ進むはずなのだが……・
ところが、ユミが突然ロムソン村へ行きたいと言い出したため、何だかんだでその村へ行くことになってしまったのである。
そして面倒なことにロムソン村は、【魔王領】のある方向とは全くの別方向であるのだ。
「ロムソン村は、魔物に度々襲撃を受けているらしいの」
「なるほどな。王宮兵士長を務めている者して、自国の村の惨状を知って無視はできん! 」
ダヴィドは王宮兵士長があるが故に、ユミの提案に賛成し、マリーアはどっちつかずの態度であり、結局、反対したのは私のみであった。
昨日、大金を叩いて雇い入れた傭兵団を後方から付けさせているため、予定外の行動は控えてほしいところだ。万が一にも傭兵団が私を見失ってしまったら面倒だからである。
「ロムソン村までは、ここから歩いて6時間ほどかかるそうですね」
マリーアが、道の端に立ててあった標識を見てそう言った。
「徒歩で6時間もかかるのか。実のところ、王都アリバナシティに住んでいながら、ロムソン村へは一度も行ったことがないからな。まさかこんなにかかるとは知らなかった」
と、ダヴィドが言う。
ロムソン村の村人が近隣の町や王都アリバナシティへ行くことがあっても、王都アリバナシティの市民や、他の町の住人がロムソン村へ行くことは滅多にないのだろう。
そもそも、ロムソン村のみならず【村】となるとあまり外部の人間が行く機会が少ないのだ。人の往来が激しいのであれば、必然的にそこは【町】以上の規模に発展するところ、要は人の往来がほとんど無いがために【村】の規模のままということだ。
明示的な定義はないものの、人口が多ければそこに住む者たちは自然と【町】と名乗るようになる。
王都アリバナシティ付近は、しっかりと整備された道となっており行商人らしき者たちが行きかっていた。そして周囲は辺り一面が綺麗な草原地帯であって、ピクニックでもしたい気分になってくる。
だが、ロムソン村へ向かってしばらく道を歩いていると、次第に舗装がしきれていない道となってきた。道だと言うのに、あちこちに草が生えていて整備されていないのである。
そして前方には獣だろうか?
その獣らしき動物6匹が、道の真ん中で屯していたのである。それも、こちらを向いて待ち伏せしているかのように。
「……あれは毒タヌキじゃないか! 」
私は、その獣らしき生物の正体に気づきそう叫んだ。あれは決して、フレンドになれないケモノなのである。
「皆、気をつけろよ! 」
私は続けてそう言った。
獣らしき生物の正体が毒タヌキと呼ばれる魔物である以上、それ相応の警戒が必要となる。当然に人を襲うのだが、基本的には噛付いてきたり、や引っ掻いてくる。
そして人の気分を害するものとして、≪口から胃液を勢いよく吐き出す≫という攻撃をしてくる。毒タヌキの≪毒≫というのは、すなわち奴の胃液から名づけられたものであり、この胃液の匂いを嗅いだだけで徐々に眩暈に襲われて、最終的に気絶してしまうのである。
「あれが毒タヌキなのか。初めてお目にかかる」
ダヴィドがそう言った。
王宮兵士長でもあろう者が、毒タヌキも見たことがないというのか。
隣国の【プランツ王国】では、兵士たちの訓練の一環として森の中に籠り、ただひたすら魔物狩りを行うというのに。
まあ、そのため【プランツ王国】では冒険者ギルドの活動が委縮しているらしいが……。
ところで、毒タヌキは本来なら森の奥地に生息しているような魔物だ。こうして道中で出くわすことは滅多にないはずなのだ。
一体何故、このようなところにいるのだろうか?
「カルロ殿は、毒タヌキと戦ったことがあるのか? 」
「何度かはある。だが、応戦した程度で倒したことはないぞ」
胃液を吐き出されたら、こちらはそれだけで不利となる。一瞬でも蹴散らせて直ぐに逃げた方が良い。
そもそも本来、戦うまでのことはない。
「私は勇者よ! これから魔王を倒すためには経験が必要だよね」
ユミはそう言って、剣を構えて毒タヌキの群れへと突っ込んだのであった。
「ユミさん、止まって! 」
マリーアは制止したものの、それは無意味に終わったのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.5 )
- 日時: 2020/09/14 21:56
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第4話 準上級モンスター毒タヌキとの戦闘
マリーアは制止したものの、それは無意味に終わった。それは悪い意味でということである。
「はあっ!! 」
ユミは毒タヌキの一匹に剣で斬りかかった。しかし多少は掠り傷を負わせたものの、毒タヌキは素早い動きでよけて見せたのだ。
それに続き、他の複数の毒タヌキは爪を伸ばしてユミの顔面を目掛けて飛びかかってきたのである。
「くっ! 」
ユミは咄嗟に左腕で攻撃を防いだものの、その結果当然なことだが袖は引き千切られており左腕から出血しているのが見えた。
ユミは盾と鎧、そして兜も装備していない。
装備しているのは旅用品にとして特別に仕立てられている服(当然戦闘に於いて耐えられると保障されているわけではない)と革製の籠手くらいである。
「何をしているんだ。ユミ、後ろへ下がれ。早くしろ! 」
私は咄嗟に指示を出し、毒タヌキを目掛けて中級火炎魔法を発動させた。これで、2匹は倒すことができたものの、まだ4匹が残っている。そして、厄介なことにそれぞれ距離を置くようになった。
奴らは多少は知能があるのか、纏まって行動していると魔法の餌食になるものと理解できたのだろう。
「ひっかき傷程度なら、初級回復魔法で何とかなるだろう」
私はユミの左腕に手を当てて、初級回復魔法を発動させた。
一方で毒タヌキの相手をするのは、ダヴィドとマリーアの役目となったのである。既に2人は、それぞれ槍と魔法で交戦している。
「くそっ……また外したか」
ダヴィドは槍で突こうとするのだが、それを素早くよけられてしまい、またマリーアも魔法攻撃をするが、毒タヌキが動き回るものだから、中々命中をさせることができないでいた。
毒タヌキは攻撃さえ当たれば直ぐに倒すことができる。しかし、素早く動き回るため攻撃が中々当たらないこと、そして何より胃液による攻撃があるものだから、決して下級レベルの魔物ではなく一応は準上級レベルとされているのだ。
「こうなったら! 」
中々攻撃が当たらず埒があかなかったのか、ダヴィドは『毒タヌキ』へ目掛けて飛びついたのであった。
すると、ダヴィドの体は思いっきり地面に叩きつけられるかのような勢いで着地した。
「よっし! これで逃げられないだろう」
毒タヌキの一匹が、ダヴィドの体に押しつぶされている。
そしてダヴィドは槍ではなく、サブで装備していたのであろう短剣でその『毒タヌキ』の喉ぼとけを突き刺した。
これで計3匹、すなわち半分の『毒タヌキ』を倒すことに成功した。
そして、私の方もユミの治療を完了したところである。
「ユミの治療も終わった。そろそろ逃げよう! 」
私としては元々、毒タヌキと積極的に戦うつもりは無かったので、そう皆に提案した。
だが……。
「め、眩暈が……うぅ」
と、ダヴィドが言いながら倒れこんでしまったのである。よく見るとダヴィドの服は何かの液体で汚れていた。その汚れは赤色ではないので血液ではないことは確かだ。しかも、少し黄色っぽい。
先程、ダヴィドが自分の体で押しつぶした時に毒タヌキが押しつぶされた衝撃か、或いは元々吐き出すつもりだったのかは知らないが、毒タヌキは胃液を吐いたのだろう。
よって、胃液を吐き出したわけであるからダヴィドが毒にやられた、と考えるのが妥当である。
「とりあえず治療しないと! ユミとマリーアは毒タヌキからの攻撃を警戒してくれ」
私はそう言って、意味があるかは判らないが毒への対策として呼吸を抑え我慢して、ダヴィドの元へと駆け寄る。
他方、ユミとマリーアは臨戦態勢をとっていた。
「おぉぉぉい! 」
と、不意に掛け声が来たのである。
「ん? 」
私は、気になって後ろをみた。
すると、3人の男がこちらへ向かって走って来ていたのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.6 )
- 日時: 2020/09/15 22:18
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第5話 治療! それに続く治療!
「おい、大丈夫か! 」
そう言って、男たちが駆けつけてきた。
3人の男の内、1人は私が知っている人物であった。昨日、雇い入れをした傭兵団の団長だったからである。
と言うことは、残る2人も傭兵団の一員なのだろう。
「ロムソン村に用があってな。ちょうどここを通っていたら、あんたらが魔物と戦っている姿を発見したわけだ」
と、団長が言った。あくまでも私とは他人のふりをしているが、これは私がピンチになったら他人のふりをしつつ何人かで駆けつけてきてほしいと、昨日取り決めていたからである。
「私らもロムソン村へ行こうとしてたら、毒タヌキに遭遇してしまってな……。1人が胃液にやられて気絶してしまったよ」
と、私は3人に説明した。
「そうか。なら後は俺たちに任せて、あんたらは急いで離れた場所まで逃げろ」
「すまない……そうさせてもらうよ」
ユミとマリーアもこれに頷く。そして各自お礼を言って、速やかにこの場を後にした。
尚、ダヴィドはどうしたのかと言うと私が背負っている。当然置いてきたなんてことはない。
それから10分ほど歩き続けて、一休みを兼ねてダヴィドの治療をすることにした。私はダヴィドの体に手を当てて解毒魔法を発動する。
「これで、何とかなったはずだが……。なんだか、急に眠く……」
先程から私は時間が経つにつれて眠くなってきたのである。疲れのせいだろうか? それもあるかもしれないが、一番の原因は恐らくダヴィドの服に付着した『毒タヌキ』の胃液であろう。うっかりしていた。
「カルロさん。大丈夫ですか! 」
私が地面に座り込んでから、下を向いて俯いているとマリーアが心配したのか声をかけてきた。
「眩暈が酷くてね、たぶん胃液にやられたのだと思う」
私はそう言ってから、まだギリギリ気が保てている内に、自分に体に手を当てて解毒魔法を発動した。
「具合は、大丈夫ですか? 」
「解毒はしたから、その内、眠気も覚めるだろう」
とはいえ、私は疲れているので眠気が覚めないかもしれないが。
「ところでユミの奴は……」
私とマリーアがユミの方を見ると、何とユミは倒れていたのである。
「まさか、ユミさんも!? 」
と、マリーアが驚き言った。
恐らくユミも毒タヌキの胃液が原因で倒れたのだろう。
仕方がないので、私はユミにも手を当てて解毒魔法を発動させた。
そして、ユミの治療も済ませた後、念のためにマリーアにも解毒魔法による治療を行うことにしたのである。
「念のため、マリーアにも解毒魔法をかけておこう。マリーアもいつ症状に襲われるかわからないしな」
「はい。お願いいたしますね」
私は、マリーアに手を向けて解毒魔法を発動した。
解毒魔法というのは、一瞬で終わるようなものではない。接種した毒が多ければ多いほど、そして毒性が強ければ強いほど、解毒魔法を発動し続けなければならない。
「まあ、ダヴィドは直接胃液をかけられたから直ぐに毒が回って一番早くに倒れたのかもしれないからな。私のこの推測が正しいかはわからんが」
私は解毒魔法を発動しながら、自身の推測をマリーアに話した。
「カルロさんは本当に、攻撃系と回復系の魔法の両方が使いこなせるんですね。すごいですよ」
「別に凄くはないと思うがな。魔法が使える者が少ないからそう感じるだけだろう」
「そう……なのですかね? 」
私の聞いた話では、魔法を使える者は決して多くないと言う(【魔王領】出身者は別)。
そのため、攻撃系又は回復系のいずれかを一定以上使えるのであれば、仮に魔法士の資格を有していなくても、それだけで評価されるらしいのだ。
また、その両方を一定以上使えるのであれば王宮でそれなりの地位に就くこともできると言われている。
だから、私もどこかの王宮に仕官しようかと考えた時期もあったが、諸事情により諦めている。私の場合、身分を巧く偽装しているならともかく、身辺調査で不合格になることになることは見えていた。
「それにしても、何故カルロさんは魔法士の資格を取得なさらなかったのですか? 」
「【パレテナ王国】に住んでいたと言えば、判るか? 深くは言いたくないからな」
【パレテナ王国】では貧しさのあまり、山賊がよく蔓延っていると聞く。
冒険者ギルドや傭兵の斡旋をしている酒場では、【パレテナ王国】出身の山賊の人相書きが貼り付けられたりするのだ。
まあ、私は【パレテナ王国】に住んだことは一度も無いので全くのホラであるわけだがな……。それでも、私が身辺調査を受けた場合には、非常に厄介なことになるであろうことは事実だ。
「なるほど……」
マリーアが、私が誘導するとおりに察したのか、そう言った。
「治療は終わったぞ」
私はマリーアの治療も済ませる。
それから、しばらくしてユミが目を覚ました。
目を覚ましたユミは咄嗟に周囲を見渡す。先ほど毒タヌキと戦っていた場所からは移動したので、少し混乱するかもしれない。
「大丈夫か? 」
と、私はユミに声をかけた。
「うん」
「毒タヌキの胃液にやられたのだ。私も気を失いそうだったし、仕方ない」
また少し経ち、今度はダヴィドが目を覚ましたのである。
「……ここは? まさか毒タヌキの胃液にやられたのか……」
「当りだ」
「そうか。俺のせいだな。みんな、申し訳ない」
ダヴィドは落ち込んでいる様子だ。
恐らくダヴィドが自身の体で毒タヌキを潰したことは記憶に残っているのだろう。だから責任を感じているのかもしれない。
「ともかく、体調のほうはどうだ? もし体調がまだ優れないのであれば、もう少し休んでいこうとおもうが」
「それなら、俺はいつでも移動できるぞ」
ダヴィドはそう言って立ち上がって、付近を歩いて見せた。ふらつく様子はないので、もう体調もある程度は回復したのであろう。ユミもダヴィドに倣って、立ち上がって歩く。
「この調子ならロムソン村まで行けそうだな」
そして私たち4人は、ロムソン村への移動を再開したのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.7 )
- 日時: 2020/09/15 22:21
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第6話 ロムソン村に到着する
ロムソン村に到着したころには、夕方になっていた。
私たちはとりあえず宿屋を探すことにした。この村に人の往来が殆どなくても、一応宿屋はあったのでチェックインの手続きを済ませて、各自が一部屋ずつ使うことにした。
尚、魔物の襲撃についての聞き込みは、明日に持ち越すことにした。今日はもう疲れているので早く休みたいからだ。
「今日は足手まといになってしまってごめんなさい。今度から軽率な行動は慎むね……。じゃあおやすみ」
ユミはそう言って、今いる一階の食堂から、二階にある部屋へと向かった。マリーアも、今日は早く休みたいとのことなので部屋へと向かい、残ったのは私とダヴィドの2人である。
「カルロ殿……。今日はすまなかった。もし解毒魔法による治療が為されていなかったらと、思うと恥ずかしい限りだ」
「困ったときはお互い様だろ」
今日、私は何度も回復系の魔法を発動したが、これは回復役として当然の役割であって、それを果たしたまでである。
それよりも、どうしても気になって仕方がないことをダヴィドに話すことにした。
「あの毒タヌキのことだが、本来は森の奥深くに居るはずなのに道中で6匹とも遭遇したことが気になってね。もしかしたら……魔王の配下による仕業かと考えてしまったりするんだ」
こう考えてしまうのは、私が疑心暗鬼な性格をしているからだろう。実際のところ、本当にそうなのかは確証を得たわけではないのだ。
「それは考えすぎでは? 」
案の定、ダヴィドがそう言ってきた。
客観的に見ればどう考えても、根拠に乏しいはずだ。それ自体は私も分かる。
「どうだろうかね。ただ【魔王領】出身者の中には魔物使い十言われる職業の者たちもいるわけだし、こういう者たちが毒タヌキを操っていたのではないかと……ね。仮に魔物使いの仕業であれば、その使役する魔物の体のどこかに≪刻印≫があるから、それがあるか否かで判るんだ」
魔物使いは使役したい魔物に対して特殊な魔法を放ち、その体(魔物)に印を刻ませることによって自己が操る魔物を取得する。
仮に素人がこの魔法を覚えて使ったとしても大概は失敗するのだが、魔物使いと言っても良いレベルの者が発動すれば、当然ながら素人に比べて技量もあるわけだから、それなりに成功するわけである。
因みに魔物使いは、使役する魔物を特殊空間に閉じ込めておくこともできる。
「なるほど。では仮に今日遭遇した毒タヌキの体のどこかに刻印があれば、少なくとも【魔王領】出身者による人為的なものと推測することができるわけか」
「そういうことだ。まあダヴィドの言うとおり、あくまで【魔王領】出身者による仕業という推測ができるだけで、本当に魔王の配下による仕業かまではわからないが」
【魔王領】出身だからと言っても、その出身者全員が魔王の配下だというわけではない。
それに、【魔王領】の一般市民全員が魔王を敬うと言うこともない。未だに過激な反魔王派(具体的に言うと【共和派】と呼ばれる者たちだ)の連中の多くが、あの【魔王領】には蔓延っているくらいなのだ。
「とりあえずは、今日遭遇した毒タヌキに刻印があるか否かだけは確認したい」
前回の勇者が嵌められたという噂もあるので、今はとにかく何事も最大限に警戒すべきだろう。
まあ、とにかく毒タヌキの体を確認はして損はない。
「だから、私は今から例の遭遇現場まで向かうつもりだ。私が明日の朝までに戻ってこなければ、遭遇現場へ向かったことを2人にも伝えてくれ」
私はそう言って宿屋を出たのである。
もう疲れなど、どうでも良い。こんなものは気分でどうにかなるのだ。
「カルロ殿。1人で行くのは危険すぎる。だから自分も付いていこう」
と、ダヴィドも外まで出てきた。
「いや、ダヴィドも疲れているだろうし、今日は休んでくれ。私はこれまで何度も1人で旅をして来た。だから危険を察知する能力はあるし、大丈夫だよ」
本音を言うと、道中で野宿をしているであろう傭兵団に頼みたいことがあるのだ。その際に私が傭兵を雇入れたことがバレないように気を遣うのが面倒なだけである。
ダヴィドは特に追及することもなく、「では気をつけろよ」と言って宿屋の中へ入って行く。
それを見届けて、私は毒タヌキと遭遇した場所まで戻るため、移動を開始したのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.8 )
- 日時: 2020/09/16 22:52
- 名前: 牟川 (ID: y36L2xkt)
第7話 刻印の確認
私は特殊な魔法を使い、猛スピードで移動した。
この魔法は魔力消費や体力消耗が極めて激しいのであまり使いたくないのが、急ぎたいので仕方あるまい。
私にとっては、特に体力消耗がネックだ。
そして、再び毒タヌキと遭遇した現場に戻って来る。
「道の両サイドにテントか……」
と、想定外な光景を見て私はそう呟いた。
テント布と木の枝で作られた、極めて簡易的なテントが並んでいる。強風でも吹いたら一瞬で倒壊しそうで、少なくとも私なら落ち着て眠れそうにない。
どうやら、傭兵団はここを野宿場所に決めたようだ。傭兵団が道中で野宿をするのは判りきっていることだが、まさか毒タヌキと遭遇したこの場所で野宿をしているとは思わなかった。
「まさか、ここで野宿しているとはね」
私がそう言うと、団長が気づいてやって来た。
「お、あんたか。ここまで何をしに戻って来たんだ? 」
わざわざ私1人だけで、こんなところまで戻って来たのだ。団長も私の目的が知りたいのであろう。
「まず、毒タヌキの死骸があるなら、その死骸を確認したい」
「毒タヌキの死骸だと? すまないが、燃やして処分してしまったぞ」
なるほど……。
もう焼却処分されているのなら、刻印の確認はできないな。諦めるとしよう。
「そうか。死骸をいつまでも放置しているほうがおかしいだろうし、仕方ないな」
【ファイア傭兵団】は、あくまでも常識に沿って、やることをやっただけである。
「だがどうして、今さら毒タヌキの死骸を確認しようと思ったんだ? 」
「ちょっと確認したいことがあってね」
話が長くなると思ったので、刻印については伏せることにした。
彼らにも用事があるからだ。
「確認したいこと? まあ良いか」
団長は、まさに疑問に思っているのだろうが、これ以上の追及はしてこなかった。
「それで、【ファイア傭兵団】に頼みたいこともあるんだ」
私が傭兵団に何を頼みたいかと言うと、ロムソン村を襲撃する魔物の討伐である。
「俺たちに頼みたいこと? 」
「ああ。ロムソン村はどうやら、魔物による被害が生じているらしい」
「なるほど。その魔物を討伐したいのか」
「まあそういうことだ。私としては、早いところ【魔王領】まで行きたいのだが、昨日話したユミという勇者と王宮兵士長のダヴィドが村の惨状を放置できないみたいでね」
どうしても私が、【魔王領】まで急ぎたいのは本当のことである。
とは言っても、何も魔王を倒したいというわけではなく、【魔王領】で色々とやらなければならないことがあるのだ。
つまり、私にとってはタイミング悪く【教会】(実際にはあの司祭のせいだが)から勇者の同行者として任命されてしまったというわけである。唯一幸いだったのは、勇者の使命が魔王討伐であるが故に、目的地が【魔王領】方面ということだろうか。
ところが、その唯一幸いだった点も、ロムソン村でしばらく滞在するとなれば、意味がなくなるわけだ。
「それで、俺たちに任せるようと考えたわけだな? 」
「ああ。だが具体的な状況は一切知らない。だからほぼ全員が、ロムソン村で滞在してもらうことになるだろう」
例えば、実は大規模な魔物の群れがロムソン村の近くにいたとなれば、少数では荷が重いだろう。
そのようなことを想定した場合、1人でも多くロムソン村に滞在してもらった方が良い。
「あんたからは大金をもらっているから、喜んで引き受けよう。だが、あんたに付いて行く頭数は何人か必要だろ? 護衛としても、そして我々本隊との連絡手段としてもな」
確かに、団長に言うとおりか。
私も彼らも、【魔王領】では実用化されている魔法電話というものを持っていないので、連絡のつきようがない。
そうなると人が直接移動して連絡するほかないだろう。まあ、この方法だと私たちの旅が進めば進むほど、連絡役の負担は大きくなってしまうが……。
「そうだな。では6人ほど頼もうか」
私は、連絡役と護衛役として6人ほど頼んだ。護衛2人に連絡役4人という計算である。
何かイレギュラーが起これば破綻しそうな方式ではあるが、仕方あるまい。これ以上は人員を割くわけないはいかないからな。
本当なら、ロムソン村に被害をもたらす魔物たちを討伐するふりだけをさせて、直ぐに傭兵たちを引き揚げさせることもできる。
そのほか、ロムソン村に2〜3人だけ滞在させて、後は放置するという考えも浮かんだ。
しかし、それは私の倫理感が許さなかったのである。
「よしわかった。6人をあんたに付ける」
ということで、話はまとまった。
それからは、細かい段取りなどを決めていく。
また、傭兵団の面々にはなるべく、ユミ、マリーア、ダヴィドの3人には顔を見られないようにロムソン村に来てもらうように念を押した。
既に団長を含めた3人は、顔を覚えられてしまっているかもしれないが、他の傭兵団員たちの顔さえも覚えられてしまっては色々と困るのだ。
例えば今後も、偶然を装った救援をお願いする事態になった場合に、私と傭兵団はあくまで他人であるという設定に、無理が生じるからである。流石に偶然が重なれば、ユミたちも不審に思うだろうからな。
また、傭兵団をずっとロムソン村に滞在させるとあっては雇った意味がない。そのため最大で3日間滞在させることにした。その期間を過ぎ次第、傭兵団は結果の如何に関わらず西ムーシの町へ向かわせるためだ。
これが、私の倫理観との妥協である。
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