複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.9 )
- 日時: 2020/09/18 22:02
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第8話 早くもロムソン村を発つ
翌日。
「と言うことで、傭兵団が魔物討伐の依頼を引き受けたみたいだし、私たちは早いところ【魔王領】へ向かおうと思うのだが」
と、私は朝食を食べながら3人に提案した。
「それに、【魔王領】に入ったからと言って直ぐに帝都……あ、いや魔王城に到達するわけでもないし、戦闘経験を積む面での心配もないかと思うぞ」
【魔王領】は決して狭いわけではない。
少なくともここ、【アリバナ王国】よりかは広い国土を有する。【魔王領】に到達するまで殆ど戦闘を行わなくても、そこから魔王の都までの道のりは長いのだ。だから、【魔王領】に到達して以降も魔王の都まで向かう間に、戦闘を積ませることもできるであろう。
もっとも魔物と戦って経験を積んだとしても、果たして対人戦で役に立つのかは疑問だがな。
聞くところによれば【教会】から選任された勇者たちは、毎度のごとく魔物としか戦わないという。それでは魔王討伐なんて難しいのではなかろうかと、個人的に思う。
「そうだね。魔物がいつ村を襲撃するのか判らないもんね。いつまでもここに居られるわけでもないし……」
魔王討伐が勇者ユミの帯びた使命であるわけだから、ユミもロムソン村に長居が出来ないことについては理解しているようだ。
私は、てっきりユミが駄々をこねるであろうと思っていたが、そうではなかったようで助かる。
しかし私が少しばかり感心していると、思わぬ人物から反対意見が出た。
「せっかく、ロムソン村まで来たのですよ? 何もせずに帰るのはどうかと思います」
そう言ったのは、マリーアであった。
まさか彼女から反対意見がでるとは思っていなかったが、ダヴィドは私の意見に賛成するだろうし何とかなるだろう(たぶん)。
「自分はカルロ殿の言う通り、【魔王領】へ直ぐに向かった方が良いと考えている」
よし!
これで少なくとも私とダヴィドの2人が≪とっとと行こう派≫となる。
まあ、ダヴィドに対しては昨日私が宿屋に戻って来て早々に説得しわけだがな。
というのも、本当は傭兵団が毒タヌキの死骸を燃やししてしまい判別が不可能だった。
しかし、まず私は「毒タヌキの体を調べたところ、刻印があったのだ」と嘘をついたのである。
そしてその嘘を前提に、魔物使いによる仕業であるものと話をでっちあげた上で、この状況で魔物使いと戦うことになれば、経験の浅いユミがいると危ないと言って説得したのである。
さらに【アリバナ王国】に雇われた傭兵団と偶然にも会い、話をしたところロムソン村の件は、彼らが後は引き受けてくれることになったとも言った。
嘘も方便だ。
さて、ダヴィドも賛成したのだ。
後はユミさえ説得すれば3対1に持ち込めるだろう。
だが……。
「ダヴィドさん! 貴方はそれでも王宮兵士長なのですか」
と、ダヴィドに対してマリーアは言ったのである。
しかも王宮兵士長のプライドを刺激するかのような物言いで、とても厄介なことになりそうだ。
「そ、それは……」
案の定、ダヴィドは動揺しているようだ。仕方がない、私も何か言っておこう。
「マリーア。傭兵団が討伐する以上、問題はないはずだ。ここでわざわざ王宮兵士長がどうのこうのと言うのも少し変だと思うが? 」
「カルロさんって冷たい人なのですね」
と、マリーアは直ぐに言葉を返した。私に対しても心を動揺させようと『冷たい人』などと言ったのだろうか?
まあいいや。考えても無駄だ。
「これは周知のことだが、前に選任された勇者が嵌められたという噂がある。だからこそ、冷酷な人間であると言われような対応をとるのは、仕方ないだろう」
「今この話に、前の勇者の話は関係ありますか? 」
「まあ、直接的には関係ない話だな。だが、この勇者パーティが今後どう行動するか、そのスタンスを決めるためには、前回の勇者がどうなったかという話も知っておくべきだろう。そして今まさに、この勇者パーティがどう行動するか検討すべき時だと思うが? 」
今まさに、ロムソン村は傭兵団だけに任せるか否かの話し合いをしているわけだ。
「確かにそうですね……」
と、マリーアも頷いた。
「傭兵団は【アリバナ王国】に雇われてロムソン村に来たのだ。だから後は【アリバナ王国】や傭兵団に任せようではないか」
傭兵団が【アリバナ王国】に雇われたという話は、そういう設定に過ぎないが、傭兵団がロムソン村に滞在するのは事実である。
「まあ良いです。3人の判断に任せます」
ようやく、マリーアは諦めてくれたようだ。それから、ユミも説得に応じてくれたので、早速私たちはロムソン村を後にしたのである。
まだ早朝と言ってもよい時刻だ。
もしかしたら、今日中に西ムーシの町に着けるかもしれない。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.10 )
- 日時: 2020/09/19 16:14
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第9話 魔王軍のスパイ……そしてカルロに迫る謎の刺客
ロムソン村付近の某所
「例の勇者の一行なのですが、村を早々と出てしまいました」
そう報告してきたのは、俺の部下である。
「ロムソン村を魔物が襲撃するという噂が広まったためか、どこか傭兵団が討伐の依頼を受けたとかで来てしまったみたいです。恐らくですが、勇者一行はその傭兵団を信頼しして村を出たのでしょう」
なるほど。
部下の言う通り、俺は勇者一行を誘き寄せようと度々ロムソン村を魔物に襲撃させた。だが、その結果噂が広がり過ぎて余計な者たちまでもが来てしまったのであろう。
とはいえだ。
たかが1つの村ごときに傭兵団が引き受けるような程の報酬を出した者がいたとして、さてそいつが一体何者なのかが俺は気になった。少なくとも村レベルでは財政的にきついはずなのだ。
それにこの大陸における国の為政者は、どうも【村】など簡単に見捨てる傾向にある。そのため、国王が雇ったにしては少し疑問を感じるのだ。
「今後は想定外のことにも対処できるよう、心の中だけでも準備をしておこう。前に選任された勇者の時は、勇者を除くパーティメンバーが全員魔王軍の者であるにも関わらず、勇者は【魔王領】内に到達してしまった。魔王軍四天王同士のくだらない遊びのせいでな」
「そうでしたね。勇者が【魔王領】に辿り着けるか否かで賭けているわけですものね」
そう。
四天王たちは、魔王ティアレーヌ様に仇為す勇者を賭博の道具として利用しているのだ。結果として、少なくとも【魔王領】に到達するまでの間は、魔王軍同士で互いに妨害しあうことになるのである。
しかも魔王ティアレーヌ様も、現場の部下たちにとって良い訓練になるという理由でお許しになっているのだ。
まあ、四天王としては部下の頑張りにカネを賭けているようなものか。
「で、今回俺の上司は【魔王領】には到達できないという方に賭けたわけだ。と言うことはその部下である俺は……」
「勇者一行が【魔王領】に辿り着く前に拘束するか又は始末するってことですよね? 」
「そう言うことだ。俺の推測だと、勇者が【魔王領】まで到達できるほうに賭けた四天王の部下が、勇者一行に交じっていると思う。もちろん推測通りだとして遅れをとるつもりはないが」
今回は使える魔物が毒タヌキの6匹しか居なかったがために、あっさりと対処されてしまった。
しかも、俺は直接戦闘には向いていないので、新たな魔物を使役させるための魔物を探す必要があるのだ。その魔物を見つける間のために≪ロムソン村に長居させて時間稼ぎをする方法≫も見事失敗したのである。
とはいえ多少の収穫もあった。
勇者一行はロムソン村が魔物に襲撃されているという噂を聞き、放置できないと判断して村までわざわざやって来たのは事実だ。
つまり、これからも≪○○村が大変なことになった≫と言った類の噂を広めて、連中を誘き寄せることは可能ということだろう。
俺は早速、次の策を練ることにしたのだった。
※
ロムソン村を朝早く出発した私たちは、昼過ぎには王都アリバナシティに到着することができた。
そこで軽く昼食を済ませた後、早速【魔王領】を目指して王都を発ったのであった。ここから歩いて12時間程度かけて進んだところに国境の町西ムーシがあるのだが、今日はその途中にある馬車駅付随の宿屋で夜を明かす予定となった。
本当は駅馬車を使えば、途中の馬車駅での乗り換え時間も考えて6時間から7時間程度で西ムーシの町に着くのだが、マリーアの説得で3対1(私)で徒歩での移動となった。要はマリーアの逆襲だね。これは。
そして。
「これで6匹目、だね! 」
ユミが嬉しそうに、そう大声で言う。
道中に出現する魔物をユミ自身で倒したのが、今のでちょうど6匹目なのだ。
ロムソン村へ行く道中で出現した毒タヌキに比べれば明らかに雑魚であるから、戦闘経験の浅いユミでも容易に倒すことが出来たのだろう。
もちろん、ユミ以外も各自の判断で通行を妨害する魔物を倒している。
尚、魔物にあえて遭遇する確率を上げるため街道から少し離れたとこを進んでいるのだが、これはダヴィドの提案なのだ。
「カルロ殿は相変わらず、例の刻印を確認しているようだな」
ダヴィドが、ユミとマリーアには聞こえないような小さな声で、そう言った。
「雑魚とはいえ仮に刻印があれば、その意図はともかくして何者かによる行為であることは判るからな」
私も小声でそう答えた。
肝心の刻印付きの魔物だが、今のところ1匹も発見していない。しかも次第に確認作業が億劫になってきたのである。
さらにユミとマリーアは、私が行っている刻印の確認行為を不審に思ったのか気にしているようで、口では何も言わないものの先ほどから私をチラチラと見てくる。
そして……
「ま、まさか……」
そしてユミやマリーアの目がある手前、刻印の確認行為を続けるか否か判断しようとしたその一瞬のことだった。私はとても嫌な気配を感じ取ったのである。
後ろを振り向いたが、怪しい者たちが尾行している様子はない。
だがこれは、とても嫌な気配ではあるのだが、同時に懐かしくも感じるものだった。感じ取れる気配からして、恐らく私を付けているのは10名程度であるだろう。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.11 )
- 日時: 2020/09/20 14:18
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第10話 目の前に現れた刺客たち
想定よりも早く、≪奴ら≫が動き出したということである。これは間違いない。私の感じる気配は≪奴ら≫の存在を示しているからだ。
元々私は、今後また起こるであろう≪奴ら≫との新たな争いに備えるために、【魔王領】へ急いでいたのである。
しかし、≪奴ら≫は私の想定外の行動にでたようだ。
私の想定では≪奴ら≫が動き出すのに、もう少し時間的猶予があると思っていた。だからこそ、勇者一行になる件も引き受けたのだが、まさかこんなにも早く動き出すとは思わなかったのである。
「カルロさん、先ほどから何か悩んでいらっしゃるようですが……どうかしました? 」
マリーアが心配したのか、そう声をかけてきた。周りを見ると、ユミやダヴィドも私の様子を窺っているようだ。
どうやら、私は皆を心配させてしまったようである。
「カルロ殿。しばらくの間、とても暗い表情をしながら一言も発せずに俯いていたが、何か深刻なことでもあったのだろうか? 」
と、ダヴィドも言う。
「カルロ! 悩んでいるなら遠慮なく相談してよね」
ユミも心配してか、そのように言ってくれる。
まだ旅が始まってから3日目だというのに、『どうもありがとう』と私は心の中で礼を言った。
だが、今私が直面していることは、本当に深刻でかつ複雑なものなのだ。
そのため、この悩みを安易に口に出すべきではない。口に出してしまうと、3人を混乱に陥れることになってしまいかねないからだ。
よって、私だけで対処する必要がある。
当然、傭兵団に協力してもらうつもりもない。これから私が対峙する予定である≪奴ら≫の正体を明かせば、流石の傭兵団も躊躇してしまうはずだからだ。
さて、ただ黙っているのも変に映るだろうしどのように誤魔化そうか……。
「あ……ううん……うっ! 」
巧い事を言おうと思ったものの、何も思い付かず、それしか声に出せなかった。
自分自身、とても情けなく思う。
「カルロ……大丈夫? ちゃんと喋れる?」
さらに心配させてしまったようだ。
とはいえ、私は3人に気をつかっている場合ではない。
「問題はない! 悩むのことは私の趣味だ」
自分でも何を言いたかったのか判らない。
しかし、3人はどう反応を返したら良いのか判断に困ったのだろうか、しばらく何も私に喋りかけてくることはなかった。
そのため私はこの間に、≪迫ってくる現実≫をどうするか、その対処方法を模索することに専念できる。
その後、馬車駅付随の宿屋に着いた私たちは早めに夕食を済ませた後、各自部屋で休むことになり今日は解散となった。
そして解散後、私は3人には気づかれないように馬車駅を発ったのである。
目指す先は≪人が一切来ないような場所≫である。
まず、これから来るであろう暗殺者共を≪人が一切来ないような場所≫まで誘導し、そして誰にも気づかれないように、こっそり始末するというのが私の作戦だからだ。
結局、思い付いた策はこれだけだったのだが……。
さて、どのレベルの奴が来るのか……。場合によっては即死もあり得る。
それを覚悟しながら、20分ほど歩くとちょうど良い森を見つけたので、その森へ入ったのである。
森に入ってからさらに20分ほどが経った。
どうやら、お待ちかねのお客さんがやって来たようである。10人前後で現れ、私を取り囲んだ。
「やっと見つけたぞ! 息子を返せ! ここで殺してやる」
1人がそう叫んだ。その者は背中に白い翼が生えており、そして頭の上にはこの者が、≪ ≪天使≫であることの最大の証明となる≪天使の輪≫がある。
他の者たちも、同じだ。
「そうか……。息子さんは死んでしまったのかね? なら、会わせてやるよ」
私はそう言った。
さらに……
「私を殺したいようだがどうやら君たちは、下級天使ではないか。これはとんだ拍子抜けだな」
と、挑発するにように続けて言った。
先程はどんなレベルの奴が来るのかまでは判らなかったが、実際にやって来たのは≪下級天使≫と呼ばれる者たちであったのだ。
これは≪天使の輪≫の色で判別できるのだが、少なくともここに来た奴ら全員の≪天使の輪≫は、≪紫色≫に光っているので下級天使である。
尚、天使の輪はその力に応じて変色していくのだ。
紫色が下級天使を示す色で、青色が中級天使を示す色である。さらに水色が上級天使を示す色であり、最後に黄金に輝く色が大天使を示す色なのだ。
そして下級天使ごときであれば、10名ほど居ようとも、私は楽に倒すことが出来るのだ。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.12 )
- 日時: 2020/09/20 19:46
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第11話 そして戦闘は始まる
「死ねぇぇぇ! 」
私が、彼らを下級天使であると馬鹿にしたからなのか、1人がそう叫びながら槍を構えてこちらへ向かってきた。
「やはり下級だと碌に魔法も使えないようだな。そんな雑魚のくせに我々人類よりも偉いってか? 」
私がそれを言い終えた時には、1人の向かってきた天使は炎に包まれて悶え苦しんでいた。私が奴に向けて≪中級火炎系魔法≫を発動したからである。複数の火の玉が彼を襲ったのだ。他の下級天使たちは何もできずに、ただその場で突っ立っていた。その中には、恐怖のためか震えている者もいる。
仮に中級天使以上になれば、魔法攻撃から身を守る魔法を使うことができるであろうから、このように楽には倒せない。
「先の戦争で、お前ら下級天使は抵抗も出来ずに死んでいったよな? であるにも関わらず私を殺そうとしたのか。抵抗できなかったという現実を直視できず、今日も我々人類を見下しているのか。とんでもないね」
一部の例外は除き、下級天使共も大天使の強さを傘に、傲慢不遜な態度を取り続ける。天使は偉いから何をしても良いのだと。
「だ、だまれっ! 絶対にお前だけは許さない。お前が全ての元凶だ……うっbgbgbgbbg」
また1人がおかしくなり、斃れる。
これは私が編み出した魔法によるものであり、対象に向けて発動すると、その対象の生存維持に必要な諸々の機能を狂わせるものである。
とはいえ効果こそヤバいが、魔法攻撃に対応できる手段を有する者からすれば大したものではない。
例えば、発動に込める魔力を増やすと睡魔魔法などはプラスに働くものの、この魔法は発動にかかる必要最小限度を超える魔力を込めても、効果に変わりなく無駄になるだけある。
「それで、誰の指示だ? まさかお前らだけで動いているわけではないだろう」
今ここにいる下級天使たちに直接暗殺の指示を出したのが一体どこの誰なのか、私は気になったのである。本当に暗殺を成功させたいなら、このような著しく戦力の劣る者を使うはずが無いからである。
そしてさらに気になるのは、天使がこの世界に居るということは、天使たちの世界から転移魔法を使って来ているわけである。
行きは、他の協力者が転移魔法を使えば良いが、彼らは魔法を使えないのだ。帰りは一体どうするのだろうか?
「お前らな。仮に私を殺したとして、どうやって帰るんだ? 」
私はそう訊ねた。
そして……
「畜生! 俺たちは使い捨てにされたのか! 」
「あの野郎、騙しやがったんだ」
などと天使たちが言った。
彼らは己が魔法を使えないため、天使共の巣へ帰れないことにようやく気付いたのだろう。指示を下した者への怒りの心情を察することが出来る。
だが。
「でも、こいつを殺せばきっとエレドス様が迎えに来てくださるはずだ」
と、1人が言ったがために他の者はそれに同調し、再び私へ怒りの矛先を向け槍を構えたのである。
「あくまで、私を殺したいわけか。なら貴様らこそここで死ね」
私はそう言って≪中級火炎魔法≫を連発した。
天使たちはろくな抵抗も出来ずに、次から次へと燃えていくのである。炎に焼かれ死にゆく者の断末魔は決して心地よいものではないが、これはやむを得ない。
しかしながら、あえて1人は生かした。
「く、くそぉぉぉぉぉ! み、みんな殺しやがって! お前ぇぇぇ」
生き残った天使はそう叫んだ。
生かした理由は、むろん指示を出した者が誰なのかを聞き出すためである。そして、私はその天使を地面に抑えつけた。
「誰の指示なのか答えろ。返答が早ければ早いほど、お前がこれから失うものは少なく済む。むしろ、早く答えることで得られるものもあるぞ」
「黙れ! 」
「答えなければ、毎分ごとに貴様を痛めつけるぞ? 」
拷問だ。
しかし、こちらも命が係わっているわけであるので仕方がない。
今回は下級天使であったから良かったものの、これが上級天使以上となると本当に危ないのだ。特に大天使となると、呆気なく瞬殺されてしまう可能性がある。
「わ……わかった。答える、答えるよ。俺たちに指示を出したのは、エレドスと言う上級天使だ。彼が俺たちを集めてお前を殺せと命じたんだ。もちろん、俺はお前を心の底から憎んでいるからな! だから快く応じたんだよ! 」
エレドス…………。
先程、誰かが口にした名前だ。
「他には? そのエレドスとやら以外に、もっと上の奴とかは居ないのか? 大天使とか」
「いや、これ以上は俺は知らない。少なくとも俺たちはエレドスに指示されて動いたまでだ」
なるほど。
とりあえず、まずはエレドスという名前は覚えておくことにしよう。そして私は金貨100枚が入った袋(ユミが初日に渡してきたやつ)を彼に贈与したうえで解放した(どうせ、帰ることはできないと思うが)。
「さて、宿屋へ戻るとするか」
当初、奴ら天使共が本格的に動き出したと思って驚いたが、【天使領】という国家の全体的な行動ではなく、個人的な理由での暗殺計画に過ぎなかったのかもしれない。
例えば、そのエレドスとやらが、個人的に私を恨んでいることによる復讐だ。
仮に、暗殺計画に於いてエレドスのさらに上がいるなら、残るは大天使か、或いは天使共の中で最頂点に君臨する筆頭大天使になる。もしこのレベルの者たちが計画していたなら、もっと強い戦力を以てして私の排除を実行するだろう。
とはいえ、転移魔法を操れる者など限られてくる。転移魔法は筆頭大天使でさえ、これを行使すれば数日に渡って疲弊すると言われているくらいなのだ。それを何人もの下級天使を送りこむという芸当をしてきたという以上は、やはり筆頭大天使も関わっているのかもしれない。
謎は色々とある。
ともかく、エレドスについて調べる必要がある。
元々【魔王領】へ戻ってぼちぼちと天使共への対策をするつもりであったが、着いたら真っ先に、先の戦争で管理していた捕虜に関する資料に当たってみよう。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.13 )
- 日時: 2020/09/21 21:51
- 名前: 牟川 (ID: /48JlrDe)
第12話 魔王軍スパイと、それに接触する者
(魔王軍スパイ視点)
駅馬車付近の某所。
「おや? 貴女だったのか」
俺は、目の前にいるそう女に訊ねた。
【魔王領】に関わりのある者なら、その大体の者が判る言語で書いた手紙を、俺は今さっき宿屋に置いてきたばかりなのだ。
まあ【教会】のスパイの可能性も否定できないのだが……。
「何がですか? 」
女はそう訊ね返してきた。
これは互いに疑っているな。女が魔王軍所属だとしても、或いは【教会】のスパイだったとしても、どちらにしたって勘ぐるだろう。
この女としても、俺が【教会】側の人間なのか、それとも魔王軍に所属する者なのか判らないわけだから。
「何がか……」
何か言わなければならないと思うものの、適切な言葉が見つからなかった。
「まあ良いです。貴方の顔は前にチラッと見たことがあるので。私も魔王軍所属ですよ」
と、女が言った。
魔王軍所属だったか。何とか安堵できそうだ。
それにしても、こんな優しそうな女が魔王の手先であると知ったら勇者たちはどう思うのだろうか。
俺は、その様を是非見てみたい。
それはさておき、今回は【教会】が直接勇者の同行者を選任したというのに、それを潜り抜けられるとは、この女も工作員としてかなりの腕があるのだろう。
「私の上司であるルミーア様は、勇者一行が【魔王領】まで辿り着けない方に、賭けましてね。ところであの毒タヌキは貴方によるものですね? 」
そっちでも(賭博)、俺と立場が一緒なわけか。
てっきり目の前にいる女は、【魔王領】に辿り着ける方に賭けた四天王の部下だと思っていた。
「確かに毒タヌキは俺の仕業だが、ロムソン村を直ぐに出発してしまったようだな? 時間稼ぎをしてくれれば、俺も助かったのに」
今朝、勇者一行は直ぐにロムソン村を出たのである。俺も、気づかれないよう勇者一行を尾行していた。
「私も時間稼ぎをしようと思ったのですよ? しかし、どこかの傭兵団が討伐することになったみたいで、それを理由に直ぐ出発してしまったのです」
やはり、傭兵団の奴らが来たために直ぐにロムソン村を出発したのか。本当に、どこのバカが依頼したのだろうか?
余計なことをしやがって。
「それに旅の初日のことです。夜皆が寝静まった時に、勇者一行を戦闘不能にしようと行動したのですが見事に失敗してしまいました。睡魔魔法をかけた後、魔法を行使不可能にする手錠をかけようと行動したのですが、気づかれてしまいましてね」
「なるほど……」
「それと、魔物使いの貴方に言うのも失礼かもしれませんが、魔物は使わない方が良いかもしれませね」
と、女が続けて言った。
俺はこの言葉にカチンときたのであった。
この女、本当に失礼な奴だ。俺が苦労して魔物使いになったのも知らずに。父が死に、母も後を追って、俺は一人になったのだ。
そして毎日辛い肉体労働で生活しつつら魔物使いになるための勉強や訓練をしてきたんだよ俺は!
まあ、怒りの声は心の中だけにして……
「どういうことだ? 」
と、俺は怒る感情を抑えて、そう訊ねた。
ともかく、この女が魔物を使うなと言った理由は何なのかを、まずは聞いておかなくてはならないと思ったからだ。
これは俺としても、当然に気になることだしな。
「同行者の1人が、道中で倒した魔物を一体ずつ確認しているのですよ。その者の名前はカルロと言います。あれは今思うと、≪刻印≫の有無の確認だったのではないかと思います」
「……なっ、なんだって? 」
おいおい。
≪刻印≫の有無を確認をしているとなると、魔物使いが絡んでいるということが判っている奴ということだぞ……。
もしかしたら、毒タヌキで勘づかれたのかもしれない。
「驚くのも無理はありませんね」
「いや、見当はついた。恐らく、毒タヌキだ。毒タヌキの本来の生息地を知っていやがったんだ。しかも不自然な形で道中で待機させていたしな。それで怪しまれたのだと思う。まあ貴女の言うことが本当であればの話だが」
仮にこの女のいうことが本当であれば、カルロという男は、魔物使いの存在も知っているわけだ。随分と勘が鋭く、知識に明るい奴という訳か。
まさか、傭兵団を雇ったのもそいつの仕業なのだろうか? いやしかし、傭兵団を雇うには大金が必要だしこれはないか。
「まあ、しばらくは慎重になるべきかと。さっきも言いましたが、旅の初日の夜、私の行動を察知したのは彼です。寝ていると思って捕縛しようしましたが、見事に失敗しました」
「なるほどな……。確かに警戒すべき奴なのは判った」
しかしそのカルロは、どうしてそこまで警戒しているのだろうか?
≪刻印≫の確認をしたり、それに寝ている最中でさえ警戒を解かない。そして、思い付く理由が、1つ頭に浮かんだ。
「ふと思ったのだが、そのカルロとやらも魔王軍所属と言うことはないか? どこの四天王の者かは判らないが、勇者一行を【魔王領】までは辿り着けるように、行動しているのかもしれない」
「つまりカルロが、勇者一行が【魔王領】に辿り着ける方に賭けた四天王の部下であると? 」
「ああ。まあ根拠は殆どないがな」
さて、そろそろ眠くなってきた。
そろそろ寝るとしよう。
「あら、うとうとしてますね。では今日はこのへんで解散しますか? 」
「そうだな。眠いから、そろそろ寝るよ」
「では、またお会いしましょう」
女はそう言って、この場を去って行ったのであった。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14