複雑・ファジー小説
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- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.1 )
- 日時: 2020/09/14 01:47
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
プロローグ ある勇者に起こる不幸……それから半年後
「ここが、ラバノンという都市なのか。流石【魔王領】の都市だけあって魔族ばかり住んでいるようだな。おや? あの魔族、俺に気づいたようだけど特に何もしてこないようだが……。まあ良いか」
ここは【魔王領】に在る【都市ラバレン】である。
【教会】から魔王討伐の使命を与えられた勇者は、仲間たちと共に度重なる困難に立ち向かい、やっとの思いでここまでやってきた。
ところが、ここで勇者は絶望することになる。
「まあ、あの魔族は一般市民だしね。襲って来るなんてありえないわ。ふふ。むしろ貴方は、私たちを警戒するべきだったのではないかな? 」
パーティメンバーの1人である女魔法士が、そう言った。
因みにこのパーティにはもう1人、魔法士がいる。
「へっ? 」
勇者は、仲間たちが意味のわからない冗談を言ったのだと思ったので、そんな声を出してしまった。
しかし、勇者以外のパーティメンバー全員が、突然それぞれの武器を取り出し、勇者にそれを向けてくるのであった。
勇者が仲間だと思っていたパーティーメンバーは皆、魔王の手先だったのだ。
「お、お前ら……。お前ら、全員魔王の手先だったのかよ! 」
「まあね。でも兄さんが間抜けなおかげで、こっちも助かったわ」
しかもその1人には、勇者の妹も含まれていたのである。
妹も、また魔法士なのだ。
「ディ、ディアナ、まさかお前も……なのか? 」
と、勇者は恐る恐る訊いた。
「そうよ。私はこの旅が始まるずっとずっと前から、魔王様に忠誠を誓っているの。決してお金で釣られたとか、何かしらの脅迫をされているとかで、貴方を捕らえたわけではないわ」
妹の、今のこの発言は、勇者の心の中で何かが壊れた瞬間であった。
絶対悪とされている魔王を倒すという使命を、誇り高きものと思っていた勇者にとっては、それは当然なのかもしれない。
「ど、どうして。まっ、魔王に忠誠って……そんなの信じられない」
勇者は震えた声でそう言った。
まだ、まだドッキリか何かそういう類のものなのかもしれないという僅かな期待と希望が勇者にはあったのだ。
もちろん仮にドッキリのようなものであったとしても、勇者は妹たちと仲を修復することは容易ではない。彼にとっては絶対悪である魔王の手先のふりをした時点で、妹や仲間たちとの絆や信頼といったものが壊れたのだと感じているからである。
しかし、現実は違うのだ。
勇者にとっては一番最悪と考えていること、それこそが現実なのである。
「兄さんには悪いけど、これからは牢獄での生活になるわね。ところで前々から魔王様を絶対悪だと思っていたみたいだけど、その考えやめてくれない? とてもムカつくから」
妹のさらなる発言と、そして仲間だったはずの者たちに身体を拘束されたことで勇者はようやく現実を知ったのだった。
こうして、勇者は魔王の手先によって捕らえられ、牢獄に幽閉され、心を病んだ。彼の心が晴れるのは幾分かの月日が経った後、≪ある男≫が彼に接触する時を待たなければならない。
そして彼の心が晴れる時、彼は全てを思い出すのである。
※
私は今、【アリバナ王国】と呼ばれる王国にいる。
この王国は【西方大陸】又は【魔族大陸】と呼ばれる大陸にある国の1つである。その【アリナバ王国】の王都アリバナシティに私はいた。
もう少し具体的に言えば、王都アリバナシティのとある大衆酒場に居る。
「中々、司祭の服が似合っているじゃないか」
私は隣に座った彼にそう言った。
彼は黒髪の角刈りに、司祭の服を着ていた。背丈は私よりも少し高いくらいで、恐らく175㎝ほどか……。
因みに髪型は私も彼と同じで、髪の色はブラウンである。
酒場とは、本来司祭の職にある者が訪れるべきではない場所だとは思うが、私はそんなことは知ったこっちゃない。どうせ【教会】は酷く腐敗している組織であるので、今更気にする必要はないからだ。
だが、司祭の服装のままで酒場にやって来るのは如何なものなのか。案の定、酒場の客たちがジロジロと見ている。
「カルロさん。司祭の服が似合っているなどと冗談でも言わないでくださいよ。司祭なんて、やりたくもないのですから」
彼は小声でそう言った。彼の職はこの服装のとおり、一応は司祭ではある。しかし彼はこんな職に就きたくもなかったはずだ。私はそう思っている。
「まあ、あんな連中など崇拝したくないしな」
「ええ。それは当然ですね。本来は、僕ではなくエナモンの奴が司祭になっていたはずなのに」
と、司祭も頷きながらそう言った。
【教会】が崇拝する連中はとんでもない連中なのである。民衆たちはそれを知らないのだ。【教会】の巧い洗脳政策によって。
「ところで、さっき言ったことは本当なのか? 」
先程、道端で偶然彼と行き会った際に、チラッと聞いた話があったのだ。内容からして個人的にとても面倒な話なのだが、それを詳しく聞くため彼をこの酒場に呼んだのである。
「ええ。面白そうだったので、貴方も勇者の同行者として指名しておきました。よろしくお願いしますね」
全く迷惑な話だ。
私の長期休暇の最後の期間を、このような形で潰されるなんて。
「いやお前ね、大切な残り少ない休暇を潰されたんだけど。どうしてくれるの? 」
本当にどうしてくれるんだよ。
「いやあ、勇者のお守をして案外良いこともあるかもしれませんよ? 」
馬鹿なことを言うんじゃない。
「ふざんけじゃないよ。物凄く迷惑なんだがな? 」
本当に迷惑極まりない奴だ。
全くもう、嫌になるね。
「ではお詫びに、ちょっとした情報を」
司祭の声は一段と小さくなる。
「なんだ? 」
「近々魔王軍が【プランツ王国】を攻めこむみたいなのですよ。ですので、投機目的に色々買っておくと良いかもしれませんね」
魔王軍が【プランツ王国】を攻め込むだと?
一体どのような理由で攻め込むのだろうか?
まさか【アリバナ王国】を始めとする≪教会騎士団国家≫を全て滅ぼそうと思っているのであろうか……。
【プランツ王国】もその≪教会騎士団国家≫の1つである。
ともかく、彼の言う通り色々と買い込んでおくか。とりあえず西ムーシ商会に武器を買い占めしてもらうよう頼んでおこう。
「そうそう。近々【ロベステン鉱山】に調査へ行くことになっておりまして、しばらく西ムーシの町に滞在する予定でございましてね。良かったら西ムーシ商会の本店に居る当主に、武器の買い占めをするよう伝えておきますけど、どうします? 」
「ああ是非とも頼む」
「かしこまりました」
そして私は、懐から10枚の紙を取り出したのであった。
「グランシス商会の約束手形だ。額面金貨1万枚分を10枚渡しておくからよろしく頼むよ。決して着服するんじゃないぞ? 西ムーシ商会のプランツシティ支店に、買えるだけ買っておいてもらうよう言っていてくれ」
「わかりました。ではお預かりします」
司祭が、約束手形10枚を受け取ったことも確認したし、そろそろ休むとしようか。
「さて、そろそろ私は宿に戻るよ」
そう言って私は自分の分の代金を机に置き、大衆酒場を後にした。
「痛っ! ……くそ、毒か!? 」
大衆酒場を出た瞬間、首筋に痛みを覚えたのである。
何か細い針が刺さったかのような痛さである。直感的に私は毒針による攻撃だと判断した。
「くそ誰だ」
私は痛みを感じる場所に軽く手を触れると、案の定その部分には縫い針のような針が刺さっていた。
今のところ毒による作用は感じない。
しかし、遅効性の毒かもしれないので念のため解毒魔法は発動した。その間も周囲を見渡したものの、怪しい人物は見当たらなかった。
このような大衆酒場の目の前での犯行だ。堂々と犯行に及んだ後、走り去っていくというパターンがもっともシンプルだろう。
だが、このパターンだと顔が割れる可能性が高い。
その他のパターンとしては、物陰からの犯行だ。或いは、あくまでも通行人のように自然と近づき一瞬で実行する。その後はまた通行人のように去っていくということも考えられなくもない。
「仕方ない。宿屋に戻るとするか」
これは暗殺だ。
しかし私は生きている。
よって暗殺は失敗したのである。
ともかく、暗殺未遂の現場となったこの場所にずっと残っていれば、暗殺者にチャンスを与えることになる。だから私は宿屋へ戻ることにしたのだった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.2 )
- 日時: 2020/09/14 01:51
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第1章 旅の始まりとロムソン村
第1話 旅の始まり〜 新勇者のパーティメンバーに任命されてしまいました
【アリバナ王国】の王都アリバナシティには大きな大聖堂がある。その名はアリバナシティ大聖堂という。
そのアリバナシティ大聖堂で今、勇者を任命するための儀式が行われている。
とはいっても、ここ数年で何度も勇者任命の儀式が行われており、極めて簡易的で短時間で終わる予定となっているのだ。
「ユミよ、貴殿を勇者として任命する」
この大聖堂の最高責任者である大司教がそう宣言すると、見るからに【聖剣】と言いたくなるような形の剣を、黒髪のショートヘアで150㎝ほどの背丈の少女に授けた。
このユミと言う名前の少女が、今回勇者として任命された者なのだろう。
ユミは【聖剣】らしき剣を受けとると、一礼し一歩後ろへと下がった。
まあ、形だけは良くても、実戦で役に立つかはわからないがな。
「勇者ユミよ、魔王討伐の任務を与える。今から紹介する者たちともに、この任務を何としても達成するのだ」
半年前にも勇者が選任されたそうなのだが、噂によるとその勇者が集めた旅の同行者が皆、魔王の手先だったとされている。
これにより【教会】が勇者自身の選任以外にも、その旅に同行する者についても決定するという方針になったそうだ。
そして、色々あってこの私もその1人として選ばれてしまったのである。
「今から紹介する者たちは、そちらに並んでいる者たちだ」
大司教はそう言うと、続けてダヴィド、マリーア、カルロ、と3人の名前を読み上げた。カルロというのが私の名前である。
まあ偽名だがな。
そして私は他の2人と同様に勇者の目の前へと移動した。
「これらの者が、貴殿を支える者たちだ。さて、以上で儀式を終わりとする」
大司教がそう宣言し、儀式が終わると神父やシスター、さらに聴衆も大聖堂を後にする。
普通なら勇者となったユミが『神に対して宣誓』や『これからの意気込み』などを発言する時間が設けられているはずなのだが、これで終わりなのである。
大司教も、旅に必要な金銭が入った袋をユミに渡して大聖堂を後にした。
結局、私たち4人を残して誰も居なくなり、4人揃ってぎこちない雰囲気が少し続いたところで、ようやくユミが一番初めに自己紹介を始めた。
「あの! 初めまして、ユミ・ルベーグと言います。これからよろしくお願いします」
ユミが自己紹介を終え、今度はガッチリとした体形の男性が口を開いた。
「自分はダヴィド・レオドーだ。アリバナ王国の王宮兵士長を務めているが、国王陛下の推薦と命により、勇者ユミ殿に同行することになった。よろしくたのむ」
つづいて、茶髪のロングヘアで、そして如何にも魔法使いのような格好をした女性が自己紹介を始めた。
表情からして20代そこそこと言った感じである。
「私はマリーア・ヨーナスと申します。冒険者ギルドを介して、攻撃魔法士として様々な仕事を請け負っていました。よろしくお願いします」
攻撃魔法士というのは、攻撃やその支援を専門とする魔法士のことである。そして、魔法士には回復を専門とする回復魔法士というのも存在する。
両魔法士は【魔法士協会】が課すそれぞれの試験に合格した上で、登録することで各々の魔法士としての資格を得ることができる。しかし、【魔法士協会】は基本的に仕事を斡旋することは殆どないので、魔法士たちは冒険者ギルドに加入してそこで仕事を得るのが通常のスタイルとなっているのだ。
そして魔法士協会と冒険者ギルドは、共に【教会】の外郭団体であり、その影響も少なからずある。
因みに【魔王領】には独自の魔法士協会や冒険者ギルドがあるのは、ここだけの話だ。
「私はカルロという。攻撃、回復と両方の魔法を一応扱うことはできる。ただ、どちらとも魔法士の資格は有していないから、そこは注意してくれ。まあ、これからよろしく頼むよ」
私も自己紹介を済ませて、これで一応は4人とも自己紹介が済んだ。
そして……
「あの、早速なのですがこれから旅が始まると思いますし、武器とか道具とか階に行きません? 」
と、ユミが提案してきたのである。まあ、これから旅をする以上は当然の流れだろう。と言いつつもダヴィドなんかは、王宮兵士長を務めているだけあって既に武装している。
幸い【教会】が民衆からだまし取って懐に入れたカネの一部を、ユミに寄越してくれているのでカネの心配もない。
まあ私は元々、カネの心配はないが(現金は殆どないけど)。
「私は賛成だ。幸い【教会】からお金を頂いたわけだし、使わないことはないだろう」
私は賛成した。
「そうですね。私は予備のロッドを揃えたいと思っていましたし」
「自分も賛成だ。武器と防具は予備も含めてあるが、旅用品が一切なくて困っていたところでな」
と、マリーアとダヴィドの2人も賛成する。
何というか全員が賛成したのでまずは、これからの旅に必要な武器・防具や、その他の道具を揃えるということで決定した。
まあ、私は別に準備しておきたいことがあるのだが……ともあれ、こうして旅の第一歩が始まったのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.3 )
- 日時: 2020/09/14 01:53
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第2話 旅の支度〜支度は色々としなくてはなりませんね
アリバナシティ大聖堂を後にした私たちは、旅道具や武器防具などが数多く揃えられている百貨店へとやって来た。この店は、数少ない百貨店であることから、王都アリバナシティの中でも特に有名な店だ。
「じゃあ、金貨100枚ずつ渡すから、各自で必要なものを揃えてね」
ユミは早速砕けた話し方でそう言って、金貨が入った袋を取り出すと、私を含め3人に金貨を100枚ずつを渡してきた。そして私たちは約一時間ほどを自由時間とし、一旦解散することにしたのである。
と言っても、私はこの百貨店には用はないので別の店へと移動することにした。別の店に向かい、一体何を求めているかと言えば傭兵だ。
理由はシンプルである。
直接私の指示に従ってくれる手足になる頭数が欲しいからだ。それに、魔王軍には妙な慣習もある聞く。だから、それに対する備えのつもりでもある。
そういうわけで、私が今向かっている店は、傭兵団の雇い入れを斡旋している酒場なのである。
冒険者と傭兵はお互いに似たり寄ったりと言った存在ではあるが、少なくとも1つ大きな違いがある。それは傭兵においては冒険者ギルドに加入しなくても傭兵として活動できる点だろう。
とはいえ酒場を介しての契約締結が慣習化されており、実態としてみれば傭兵団ギルドのようなものが形成されつつあるのだ。
「いらっしゃい! 」
私が酒場に入ると、元気な声を出して店主が出迎えた。彼の名はテオドルと言う。煙草の臭いが酒場を充満する中、相変わらず店主は元気な様子だ。
逆に、私は煙草が苦手である。
「おう、カルロじゃないか……」
「傭兵を雇入れたいのだが」
と、私はシンプルに用件だけを言った。
「なるほど。また傭兵団の雇い入れがしたいのか。じゃなきゃ、お前が煙草臭い店にわざわざ来るわけないものな」
店主の言うとおり、私は用が無ければ煙草臭い店には来ない。
その他の理由で訪れるとすれば、喜びに満ちていて気が大きくなっているときくらいだろう。
「そうだ。金貨1万枚の支払いが約されている手形を3枚を渡すから、一応信用できる傭兵団に掛け合ってくれ。もちろん、合計して金貨3万枚相当になるから危険手当等も込みだと伝えてくれよ」
実は私はこの酒場の常連客であり、ここ最近は理由があって何度か傭兵団を雇い入れてた。
傭兵団を雇い入れていた理由は当然、頭数が必要なのだが、命に関わる危険なことをしてきたからである。そこらの一般人を雇ったとして、いざ戦闘になった際に何も出来ず死んでもらっては困るのだ。
「また【教会】の図書館でも荒らすのか? そんなことをしても無駄だろうに。この馬鹿が。賭博に負けてやけくそになっている連中と一緒じゃないか」
「いや、今回は旅のお供が欲しくてな」
「ああ、以前言っていた勇者のお守として【魔王領】へ行くとかいう話だったか……。それで、いつも通りの説明を傭兵団にすりゃ良いんだろ? 」
「ああ。いつも通り頼む」
私はそう言って、酒場の店主に手形を渡したのである。
「おっ? この手形は、グランシス商会が振り出したやつじゃないか。金銭的に信用はできる商会だから支払いはこれで大丈夫だろう。てか西ムーシ商会の手形はもう切らしたのか」
グランシス商会が振り出した手形は【魔王領】でも出回っているくらい、信用力のある商会だ。
一方で、西ムーシ商会もそれなりの規模を誇る商会ではある。
「西ムーシ商会のはもうとっくに使い切ったわ。それと適当に飲み物もよろしく」
私は適当に飲み物を注文して待つことにした。
そして、店主は私に飲み物を出してから別室へと移動したのである。
酒場で飲み物を飲みながら待つこと、およそ20分が経った。
すると、別室から戻ってきた店主が如何にも歴戦の戦士というような恰好をした男を連れてやって来た。
恐らく、この男が傭兵団の団長格の者なのだろう。
「あんたがカルロか。俺は【ファイア傭兵団】という20名からなる傭兵団を率いている団長だ。で、アンタさえ良ければ、さっそく契約を締結したいところだが……どうだ? 」
さっそく契約締結に前向きであるとは。まあ、金貨3万枚分のおかげかもしれないが……。
とはいえ、いざと言うときには命を張って戦ってもらわないと困る。
「そうか。では念のために確認するが、命の危険が伴う可能性についてはご理解してほしいのだが、そのへんは大丈夫か? 」
「おう。元々傭兵は金のために死にに行くようなもんだろ。金貨3万枚もくれるんだ。【魔王領】だって【天使領】だってついて行ってやるぜ! 」
口はどうやら達者のようだ。
そして、まさに目的地は彼が今言った【魔王領】なのだがな。
「あんたらを雇ったとしても、何をさせるかはそこまで具体的に決まっていない。であるから苦しい状況に陥ることや、逆に暇で退屈な時もあるかもしれないので、そこのところも頼むよ」
「なるほど。いざって時の頭数が欲しいわけか? それでも構わん。好きにしてくれ」
よし、こいつの率いる傭兵団にしよう。
「それはどうもありがとう。では貴方の傭兵団に任せよう」
「では、これからよろしくな」
こうして、私は総勢20名からなる【ファイア傭兵団】を雇い入れた。
酒場の主人が立ち合いの下で互いに契約書にサインをし、その後はとりあえずの行動方針を話し合い、私は百貨店へ戻ることにした。
そして百貨店に戻ると、ユミたちはそれぞれお望みの品を買い揃えていた。
「カルロ。どこへ行っていたの? 」
ユミがそう訊ねてきた。
「ああ、ちょっと近くの知り合いに挨拶してきたんだ」
と、私はテキトウにそう返した。
「そうなんだ。ところで今日は王都で一晩過ごして、明日から旅を始めようとマリーアたちと話をしたんだけど、どうかな? 」
「別に構わないよ」
本当はなるべく早く【魔王領】へ向かいたいのだが、まあ1日くらいは良いだろう。
「わかった。じゃあ早速宿屋を見つけよう」
と、ユミが言う。
こうして旅のスタートは明日に持ち越しになったのであった。
そして、その日の夜。皆が寝静まった頃のことである。私もベットで横になっていた。既に睡眠状態に入るか否か、そのような意識になっている。
この状態になっても一応、起きているという認識はできている。何かあれば直ぐに起きなければならないという環境で、長く過ごしていたことがあるからだろうか。
「……」
不意に、ドアが開く音が聞こえたのであった。
「何だ貴様! 」
私は暗闇に向かってそう言った。否、暗闇にはだいぶ目も慣れてきていたのだ。
だから、そこに人影があったのは見えた。もちろんそれが誰であるのかまでは、判らなかったが。
「……」
人影はすっと、消えていった。
部屋から出ていったのだろう。
盗みか暗殺か。
果たして何が目的なのだろうか。前者なら単なる偶然に過ぎないだろう。
しかし後者なら先日も、酒場の入り口付近でそのような事件に遭ったばかりだ。今後もこのようなことが起こるかもしれない。
全く心が休まらないものだ……。
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