複雑・ファジー小説
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- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.24 )
- 日時: 2020/09/30 20:39
- 名前: 牟川 (ID: BDyaYH6v)
第22話 ネガティブな情報と共にやって来た厄介なもの
「ところで、グランシス商会はどのくらいカネを積むか判るか? 」
グランシス商会は、高くカネを積めば積むほどその5倍となって返ってくるわけだ。しかしそうなると【教会】の負担は増えるということになる。
【教会】だって無限にカネを持っているわけではない。
であるならば、競落するにせよ流石に上限額くらいは【教会】とグランシス商会で定められているかもしれない。
少なくともそういう期待が私にはあるのだ。
もちろん、その上限額がとてつもなく高いものなら、本当に西ムーシ商会は終わりだが。
「俺が辞める前の話だが、密談があったその日には金貨1500万枚は準備していたいたな。だが、これはあくまで本店の金庫にあるカネだけで用意したわけだし、各支店からも集めているだろうからもっと増えているはずだ」
ああ……絶望だ。
これはもうグランシス商会が準備している金額は、金貨2000万枚は軽く超えていると見るべきだ。そもそも上限額云々を想像している場合ではないよこりゃ。
西ムーシ商会は頑張っても金貨520万枚しかないっていうのに。
ここまでくると、この男が言っていることが嘘であることを祈るレベルだ。いや、嘘だとしてグランシス商会は元々カネはたんまり持っているわけで……。
どうしようもないな、これ。
「そ、そうか。どうもありがとう。とはいえ、まだこの情報を信用できるわけではないから金貨をもう一枚で我慢してくれ。もしこの情報が本当であると私が確信したらその時は相応のカネを払うよ」
「お? 気前が良いな! なら後払いのカネは期待しておくぜ。ああそうそう、俺はさっきの酒場に居る。何か用があるなら、そこへ来てくれ。じゃあな」
男はそう言って、大通りへと走って行った。
なるほど「さっきの酒場に居る」と言ってたが、要は酒場で私と店主との会話を聞いており、それで付けてきたわけか。
「しまったな。少しばかり声が大きかったか」
他の者にも聞かれていないか心配だ。
それはともかく、私はこれから本当にどうするべきか。何かしてこの状況を打開しなければならない。
私は大通りには戻らず、この裏道をただひたすら歩く。
「おい」
またもや、背後から声が聞こえて来たのであった。
だが、声質からして先程の男ではないだろう。
「何か、私に用か? 」
私はそう言って振り向くと、そこには黒ずくめの男が立っていたのである。
「ああ。お前に用がある。ここで死んでもらうという用件がな」
「何故だ? 」
「貴様が西ムーシ商会の取締役で、【ロベステン鉱山】のことで動いているということを、この俺が知っているからだ」
なるほど。
どうやら、西ムーシ商会による【ロベステン鉱山】の競落を妨害したい者たちは、こういう手段も使うわけらしい。
さて、【教会】かグランシス商会か、さてどちらの狗なのだろうか……。
「何のことだ? 」
私はとりあえず、そう言った。
まあ、この時点でトボけるふりをしても無駄であろうがな。
「今更、しらばっくれても無駄だよ。では死んでくれ。速やかにな」
そう言うと、黒ずくめの男はナイフを取り出して一気に近づいてきたのである。私は咄嗟に防御魔法という魔法を展開した。
この防御魔法を発動すると、魔力によって生成された半透明の壁のようなものが生じ、この半透明の壁のようなものは、魔法障壁と呼ばれている。
防御魔法を展開すれば、物理攻撃も魔王法攻撃もこの魔法障壁で防ぐことができるわけだ。まさに名前のとおり防御をしたい者にとっては、とても便利な魔法なわけである。
防御魔法は、使い手の魔力に応じて、魔法障壁の範囲や行使可能時間、耐久力などが変わってくる。例えば、耐久力をガチガチに固めてさらにその状態を維持するとなると、魔力の消費は激しいものになるのだ。
つまり魔力が多い者ほど、より堅実な防御魔法を展開できるということなる。
因みに、展開している魔法障壁の耐久力が弱ければ敵の攻撃で消滅してまうのだ。
であるから、魔力に自信のある者は、消費する魔力を多くして耐久力を高くするべきであろう。
そして……
「くそっ! 魔法を使えるなんて聞いていないぞ」
黒ずくめの男はそう言って、後ろ向きで倒れた。
私の展開している魔法障壁に男の持つナイフが当たり、その反動で倒れたのであろう。防御魔法は不思議なことに、攻撃手段が固体によるものだと跳ね返す作用があるだ。
そして、ナイフは男の手から離れていた。
「もう終わりだかね? 」
私はそう言って、男を取り押さえた。
それから尋問したところ、この黒ずくめの男は【教会】に雇われた≪殺し屋を兼ねた探偵≫であることが判明したのであった。
既に奴の事務所の連中は、私が西ムーシ商会の取締役であること知っているらしい。しかし、幸いなことに【教会】には私の存在は報告していないらしい。
さて、奴の事務所の場所も聞いた。
どこへ行き、そして何をするかは、もう決まっている。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.25 )
- 日時: 2020/10/01 18:50
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第23話 魔王軍スパイ、カルロがいない間をチャンスだと思い行動する
(魔王軍スパイ視点)
俺は今、西ムーシの町のとある酒場に居た。
「お待たせしました」
と、横から声がした。
一瞬、酒場の店員が食べ物でも持ってきたのかと思ったが、それは違ったのだ。待ち合わせていた女がやって来たのである。
「おう、来たか。相変わらず貴女たちは、西ムーシの町で待ち惚けをくっているようだな? 」
今、俺には手持ちの魔物は相変わらず0匹である。
であるからこそ、どこかで勇者たちを留まらせて時間稼ぎをしたかったのだ。そう思っていたところ、なんと幸運が俺を味方したのであった。
なんでも、勇者一行の1人が勝手に旅を中断して、その他のメンツは西ムーシの町にしばらく滞在することになったらしい。
「西ムーシの町で、しばらく滞在しようと提案したのは私ですよ。仲間を置いてはいけないと説得したのです。そうしたら、2人ともまんまと乗っかってくれました。まあ普通なら自分勝手な人なんて、置いていかれますけどね」
この女は、俺のために時間を作ってくれたのか。
これは本当にありがたい。
「時間稼ぎをしてくれて、どうもありがとう。とても助かるよ。しかし、俺もそれなりの戦闘力のある魔物を探しているのだが……この辺は雑魚ばかりでな」
この女のおかげで時間稼ぎができたとは言え、当の魔物はと言うと、捕らえるのに難航しているのだ。
いっそのこと、雑魚だけでも数を集めるという選択もあるにはあるのだが……。
「そう言えば旅を中断して私用とやらで忙しいのは、魔物を≪刻印≫をいちいち確認していた奴だよな? 名前は確かカルロと言ったか」
西ムーシの町に滞在してから、この女とは毎日会っている。
その際に、色々と教えてもらった。
「ええ。厳密には≪刻印≫の有無を、確認しているかのような行動を取っていた者ですね。名前は仰るとおりカルロと言う者です」
「そうか。それこそチャンスではないか」
本当は今こそ魔物を使って攻撃をしかける最大のチャンスであるのに、そこがもどかしい。少し遠出して、質の良い魔物でも捕まえたいところだ。
しかし奴が用事を済ませて、いつ戻って来るかは読めないのもある。迂闊な行動はできないだろう。
ところが、心はウズウズして仕方ない。
要は奴が居ない今こそ、神経質にならずに魔物を使って一気に攻撃するチャンスと言うことだ。
本当にとてももどかしいのだ。誰か、わかってくれよこの気持ちを……。
「早いところ、勇者一行を攻撃したいところだが、いかんせん強い魔物がこの辺りにはいないからな」
カルロとやらがいない間に残る2人を無力化したいのだ。
そうすれば不確定要素であるカルロととやらを1人にできる。そして、どういった者なのかもおのずと判ってくるだろう。
仮に魔王軍に所属している者なら良いのだが……。
「なるほど。それになりに戦闘力がある魔物と言うと……思い付く節はあります。実は昨日泊まった駅馬車の宿の付近に森があるのですが、運が良ければ毒タヌキがいたりするかもしれませんね」
ほう。
まあ確かに、森なら確かに毒タヌキがいないこともない。なんならとりあえず、行ってみることにしよう。
……と言ってもその森が具体的にどこにあるのか判らんな。
「是非その森に行きたい。しかし……その森が具体的にどこにあるのか判らなくてな。もし良ければ、一緒に来て森まで案内してもらえないだろうか? 」
「そういうことなら任せてください。これでも長期期間中は、【アリバナ王国】を中心に冒険者活動をしていたので、地理ならそれなりに頭に入っています」
冒険者か。
だが、【魔王領】での冒険者たちの活動に比べたら、【アリバナ王国】は寂れた感じがするな。
「すまないな。よろしく頼むよ」
という事で、俺はこの女と共に、毒タヌキやその他の強い魔物を探し森へ行くことになったのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.26 )
- 日時: 2020/10/02 06:04
- 名前: 牟川 (ID: RadbGpGW)
第24話 カルロは、処理すべきことを処理して旅のスタート地点に戻る
私は王都アリバナシティのとある事務所を訪れた。
私を襲った【教会】の回し者……即ち暗殺者兼探偵の所属する事務所である。
先ほどの回し者の馬鹿は、既に【アリバナ王国】の官憲に引渡している。どうやら、【アリバナ王国】の裏社会ではそこそこ有名な者だったらしい。人相書きも、街のあちこちに貼られているくらいだったのだ。
そういう訳で、引き渡しはあっさりと済んだのだった。
「ごめんください! 」
私はそう言って、事務所のドアをノックした。
すると、少しして厳つい顔の男が出て来たのである。
「どちら様? 」
男がそう言う。
「大聖堂の者のです」
大聖堂の者と言えば、何か反応があるかどうかを試すために私はそう言ったのだ。
「ああ、どうもご苦労様です」
「うちの大司教は何を焦っているのか、「今ターゲットは何人いるのか聞いて来い」と、まあそう言われてこの事務所まで来たのですよ。まあこれでも私も結構汚い仕事は任せれているほうでして……。何が聞きたいのかは、大体わかりますがね」
ちょっと余計に、喋りすぎてしまったであろうか?
「なるほど。うちの事務所ではちょうど1人、尾行対象がいてね。今ごろ始末し終えたころではないか? 」
1人の尾行対象……か。
「そうですか。もしかしてそれは、西ムーシ商会の者ではありませんか? そうだとすると……ちょっと困ったことになるのですよ」
さて、何と言い返してくるかね。
「おいおいマジかよ! まさに西ムーシ商会の取締役を尾行対象にしていたんだよ。さっき言ったとおり、恐らく始末も終わったころだし……。もしかしてヤバいのか? 」
なるほど。
この事務所が組織的に西ムーシ商会の取締役を狙っていたことは、これで確認できた。根拠はこれだけあれば、充分である。
確かに、西ムーシ商会には他にも取締役はいる。しかし、先ほど私が返り討ちにした男のことも考えれば、十中八九、狙っているのは私のことだろう。
「ええ。ヤバいですよ。あなた方にとってね! 」
私は、睡魔魔法を放った。
すると目の前の男は、気を失って倒れたのである。
さらに事務所の中へ入り、睡眠状態を連発する。中にいた事務員たちは、たちまち気絶し、戦闘不能になったのであった。
私はそれを確認し、外へと出る。
それから、空に向けて初級爆発系魔法を連発した。
これで【アリバナ王国】の官憲たちも異変に気付いてやって来るだろう。ここへやって来て、気絶している奴らの顔を見れば、官憲ならばどういった連中なのか判るはずだ。
それに、【教会】にプレッシャーを与えることもできるはずだ。
幸いにして、まだ私の存在は【教会】に知らされていないはずである。これを利用して巧く【アリバナ王国】も何らかの形で巻き込めれば良いところだ。
そして私は、事務所を後にした。
その後、私はアリバナシティ大聖堂にやって来たのである。
否、戻って来たといったほうが良いかもしれない。
この大聖堂でユミは勇者として任命され、そして私はその同行者として任命されたのである。ここから4人の旅は始まった。そう考えれば旅のスタート地点に戻ってきたと言えるのだ。
だが、わざわざ大聖堂にまでやって来た理由は、当然【ロベステン鉱山】を巡る問題である。
この大聖堂には、私の知り合いである司祭がいる。先日、一緒に酒場で飲んだ司祭だ。
不意に、あの日のことを思い出す。
この司祭こそ、どういう訳か私を勇者の同行者しやがった実質的な任命者なのだ。本当に腹が立つ。とはいえ、彼は決して信用できない奴ではないので、今回は彼から話を聞こうと私は考えているのだ。
そして大聖堂に入ると、偶然にもその司祭はいた。
「久しぶりだな」
「おや? カルロさんではないですか。今日はどのような用件で参られたのでしょうか。そもそもカルロさんが理由も無しに、大聖堂に来るはずもありませんよね。ということは僕が目的ですか。僕が目的なんですね! 」
何だか、腹立つ言い回しだな……。
ここはツッコミも入れず早いところ、本題に入ってしまおう。
「【ロベステン鉱山】について聞きたいことがある。近々、この鉱山が競売にかけられるのだが、どうやらこの件に関して、ここの大司教さんとグランシス商会が色々と繋がっているという話を聞いてね。そのあたりの情報について、何か知らないか? 」
と、私は司祭にそう訊ねた。
「そんな話があるとは、知りませんでしたな。ただですね……最近は上級天使の奴らが何度かこの大聖堂まで訪れては、その度に大司教と何やら話しておりまして、むしろそちらのほうが気になってましたよ」
「なんだと? 天使共は慣習では年に一度ほどしか大聖堂に来ないって話ではなかったか」
天使共は、年に一度、大聖堂に訪れる。
仮に、司祭の言う上級天使の奴らは、【ロベステン鉱山】に関する目的でこの大聖堂に来ているのだとすれば、これはとても辻褄が合う話である。
「って今、【ロベステン鉱山】って言いましたよね? 」
「ああ言ったが? そもそもキミは【ロベステン鉱山】に出張していたよな? 」
「確かに……。それで思い出したのですが、上級天使の奴らが頻繁に訪れるようになったのは、【ロベステン鉱山】から銅鉱石が採れなくなったという話が囁かれ始めた頃だったような気がします」
なるほど……。
銅鉱石がとれなくなってきた時期と、上級天使共が頻繁に訪れてるようになった時期と重なるわけか。
「そうそう。銅鉱石が採れなくなったのと同時に、新しく≪変な鉱石≫が採れるとか言われだしましてね。ちょうど私は大司教からその鉱石の一部をサンプルとして貰ってくるようお使いを頼まれまして、それで私は【ロベステン鉱山】まで行ってきたんですよ」
と、司祭は続けていった。
「なるほどな。だからあの酒場で、【ロベステン鉱山】へ行くと言ってたのか。ところで、その鉱石のことだが……。まさかこの鉱石のことではないか? 」
私はそう言って、ポケットから例の鉱石を取り出し、司祭に見せたのである。
「えっ!? ええ。この鉱石ですよ! この鉱石を貰って大司教に渡したのです。ところで、何故カルロさんがこの鉱石を持っていらっしゃるのですか? 」
司祭の反応に、私は心の中で納得した。
やはり、天使共の指示の下に大司教がロベステン鉱山競落のために動いているという可能性は非常に高いということが、今の司祭の反応で改めて分かったからだ。
「実は、その鉱石を私も狙っているんだよ」
私は、あえて含みある表情をしつつそう言った。
それから私は、司祭に西ムーシ商会の取締役としてロベステン鉱山競落のために動いていること、そしてあの鉱石が一体どういうものなのかを伝えたのである。
「なるほど……。この鉱石にそんな作用があったとは。そうなれば、絶対に天使共に供給されてはなりませんな。しかし、どおりで上級天使や大司教が積極的に行動するわけですね」
「やはり、そういうことなのか」
仮に天使共に供給されたら、本当にヤバい。
要は魔法が殆ど使えない下級天使の野郎共までもが、魔法攻撃を連発することができ得るからだ。
しかし具体的な解決方法が、見つからない。
このままでは、グランシス商会が【ロベステン鉱山】を競落して終わりだ。
だからこそ私は、とても反則的であり、そして思い切った行動をとることにしたのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.27 )
- 日時: 2020/10/03 20:26
- 名前: 牟川 (ID: RKif8kSb)
第25話 博打を打つ覚悟
私は大司教がグランシス商会と協力関係にあり、さらにその背後には天使共が控えているものと結論付けた。
本当は、さらなる根拠になりうるものが欲しいところではある。
しかしこれ以上は、事実確認に時間を割く余裕はないのだ。
「そう言えば、大司教の印鑑があったよな? 」
私は司祭にそう訊ねた。
「ええ。大司教の名で手紙を出すときは、僕たちもその印鑑で押印してますね」
今のところ西ムーシ商会が競落するための手段として、思い付いた策はたった1つである。恐らく、これ以外に思い付きそうなのは無い。
だから……
――― ここは男らしく大博打に打って出てやろうじゃないか! ―――
と、考えた。
「その印鑑を、何とかして拝借することはできないだろうか」
「なるほど…………。拝借するのは簡単な話です。印鑑なら、大司教の執務室にある机の上に、不用心に置いてありますからね。何なら今すぐ持って参りますよ」
司祭はそう言って大司教の執務室へ行った。
それから、数分が経ち彼は戻くる。その手には確かに印鑑らしきものが握りしめられていた。
「これが大司教の印鑑です。今ちょうど大司教は外出中なのですよ。タイミングが良かったですね」
「外出中だったのか。どうもありがとう。わざわざすまないね」
私はそう言って印鑑を受け取る。
それから、その印鑑を使って色々とやると決めたことをやった。
「カルロさん。実は別件でかなり重要なことを報告したくてですね……。今は【ロベステン鉱山】の件でお忙しいようですから、片が付いたらまた来てください」
「重要な話か。わかったこの件が片付いたらまた来る」
そう言って、私は大聖堂を後にした。
重要な話とは一体どういう話なのだろうかと、とても気になるところだが、今は【ロベステン鉱山】のことに集中するとしよう。
大聖堂を後にした私は、西ムーシ商会の王都アリバナシティ支店へとやって来た。
私はロベステン鉱山競落のために動いていたが、実はその競売がいつ行われて、そしてどこがその会場となるのかを知らなかったのである。
とても恥ずかしい話だが、要は競売の日を聞きにまた王都アリバナシティ支店に戻って来たわけだ。
「競売の日と会場ですか。それは明後日の午前中に、アリバナシティ商会の本店で行われる予定です。それで、競落者はその場で直ぐに現金を支払わなければならないので、大金を運ぶのも一苦労ですよ」
支店長はそう説明してくれた。
「そうですか。もう本当に時間が無かったようですね」
「もしかして、当主から日時と場所を伝えられていませんでしたか? 」
「ええ。ただ、私が訊きそびれてしまったものでして。申し訳ありません」
本当に私は何をしていたのであろうか。あの例の鉱石に魔力消費を抑制する作用があること知って興奮してしまい、うっかり訊きそびれてしまったのだろう。本当に恥ずかしい限りである。
「いえいえ。ここだけの話ですが当主は、とてもいい加減な性格をしているのですよ。個人的に言わせてもらうとカルロさんはあまり悪くないと思いますけどね」
いや、普通なら説明がなければ競売の日くらい質問するはずだと思う。
ロベステン鉱山競売を担当する取締役だというのに……。
「では、お互い様ってことにしましょうか」
私は、あえてそう言った。厚かましいかもしれないが、私は知るべきことは知れたのである。よって用は済んだのだし、ここで無駄な『責任取りごっこ』なんぞやっても何も意味がないと思ったからだ。
「そ、そうですね……。ところで、グランシス商会が掴んだとされる金鉱石がとれるという情報の出所は判りましたか? 」
金鉱石の件か。
根拠に乏しいものの私は、あれはデマだったと断定している。
「あの情報を流したのは、実は【教会】関係者だったようなのですよ。ただ、すでに私の方で手は打っておきました」
私は支店長にそう答えた。
「えっ。きょ、【教会】関係者……ですか? 彼らが流したと……」
支店長のこういう反応は想定の範囲内だ。
まあ、何も知らない善良な市民からすれば【教会】が絡んでいると聞けば不思議に感じるだろう。
さて、善良なる市民の1人であろう支店長にはどう説明すれば良いものか。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.28 )
- 日時: 2020/10/04 09:33
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
第26話 カルロの推測と、報酬の支払い
これは勝手な想像だが、西ムーシ商会に≪グランシス商会は【ロベステン鉱山】で金鉱石がとれるという情報掴んだ≫という情報を持ち込んだ者は、グランシス商会の者たち同士の会話を根拠にしたのではないかと思う。
と言うのも、恐らくグランシス商会の中には、自身の勤める商会が実は【教会】と関与していることを、知らない者たちもいるはずなのだ。
そういう者たちは、あくまでも【ロベステン鉱山】から金鉱石がとれるという話を前提にして、動いていると言えるだろう。
「知り合いの司祭から聞いた話なのですが、【ロベステン鉱山】の競売に関する件でグランシス商会と【教会】が繋がっているのは事実のようです。それで、金鉱石がとれるという情報自体はデマだったらしいですね」
と、私は善良な市民の1人であろう支店長に、嘘と事実を混ぜてそう説明した。【ロベステン鉱山】の競売について【グランシス商会】と【教会】が繋がっているというのは、私が勝手にそう断定しただけだ。
しかし金鉱石がとれるという情報がデマであると話してくれたのは、あの男である。これだけは事実だ。
「……釈然とはしませんが、まあ【教会】云々よりも、今は我が商会が競落できるかが問題ですし、これ以上は我々が知っても何にもならないでしょう」
釈然としない……か。
まあ、まさか【教会】がデマを流すなどとは思わないだろうな。
「まあ【教会】も間違えることはあると思いますよ。過失で何か引き起こしてしまうことはあっても、悪意はないはずです」
と、私は言った。
本当は、【教会】や天使共は極悪非道な連中なのだ。
今すぐにでもこのことを伝えたいところだが、迂闊に事実を言って無用に怪しまれるわけにもいかない。
「そうですよね。【教会】も我々と同じ人間の集まりはあるはずですし、間違いは犯すでしょう」
「ええ」
「しかし金鉱石がとれないとなると、我々も手を引きそうになりそうですね」
支店長がそう言った。
なるほど。
当主は、【ロベステン鉱山】の競落を望む本当の理由を伝えていないわけだな。しかし、今後とも手を引くことはありえない。
目的はあくまでも、魔力を有する例の鉱石なのだから。
そうなると金鉱石が採れないことが判ったのに、西ムーシ商会は何故手を引かないのかと、支店長は絶対疑問に思うことだろう。
「そうですね。まあここは当主に従うまでですよ。それでは、そろそろ失礼しますね。またお会いしましょう」
私はそう言って王都アリバナシティ支店を後にした。
その後、私は酒場へとやって来のである。
目的は、例の男に報酬を支払うためだ。
「さて、どこの席にいるのだろうか……」
私は、酒場を見渡して男を探した。
「何をきょろきょろしているんだ? 」
不意に後ろから声が聞こえてきたので、振り向くと探していた男がそこに立っていた。
どうやらこの男からは、毎度後ろから声をかけられるようである。
ともかく、私はすべきことをする。
「先ほどは情報を教えてくれてどうもありがとう。これが報酬だ」
そう言って、男に手形を渡した。
この男が辞めたグランシス商会が振り出した手形なのだが、今私には、まともな財産がこれしかないので仕方がない。
まあ少々、すまないとは思うがな。
「よりによってあの商会の振り出した手形か」
「すまないね。現金が無くてな」
前にユミから貰った金貨100枚については、下級天使の野郎にくれてやったの既に手元にはない。
「お、おいマジかよ? 」
男は、その手形に記られている額面を凝視してそう言った。
何がマジなのか、私にはわかる。
「ああマジだ」
「こんな額をもらえるなら自分で商会も立てられるよ。本当にありがとう。本当に感謝する! まあ俺がグランシス商会で換金すると怪しまれるから、手形割引業者に持ち込むしかないが、それでも充分すぎるよ」
手形を、手形割引業者で換金すると、手形の額面よりも安い現金しか入らない。だが、今すぐ現金が欲しくてウズウズしている人たちからは需要があるのだ。
その後、男と軽く酒を酌み交わして酒場を後にしたのであった。
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