イナイレ*最強姉弟参上?!*
作者/ 伊莉寿

第73話 ラストゲーム・4~もう1つの。~
フェ「…!!」
ころん、と転がったボール。一瞬の静寂、そして実況と審判が、ゴールの中にボールを確認した。
観客席が沸き、選手達も何が起こったか理解した。2-2、イナズマジャパンの同点ゴール。
これは、ほんの一瞬の出来事。
瑠璃花が着地するとイナズマジャパンの選手達が駆け寄る。鬼道が彼女を見ると、いつも通りのユニフォーム。
砂煙の中で見た彼女は何だったのか。
鬼「瑠璃花、あの砂煙の中でお前がボールを蹴った時、変な格好をしていただろう、あれは…」
瑠?「変な格好、ですか。」
きょとん、としている顔で答える。次の瞬間、微笑した様に見えたのは鬼道だけだろうか。
瑠?「試合、もう再開されますよ。」
メ(…?瑠璃、姉…?)
瑠璃花が身を翻し、歩いて行く。
違う、あれは瑠璃姉じゃないとメテオが心の中で叫んだ。何があったのか分からないが、瑠璃姉じゃないのは確かだと確信をもった。
円「ああ、じゃあ皆!あと1点だ!!」
全「おう!!」
解散しそれぞれのポジションに着く中で、瑠璃花がメテオに囁く様に言った。
瑠「私は、絶対にシュートを決める…!」
メ「―!瑠璃姉…。」
決意のこもった瞳で、メテオを見ながら彼女は言った。
メ「ああ!俺も失点はさせない、シュート、よろしくな!」
瑠「うん!」
メテオは駆け足でゴールまで行く。
何だ、何時も通りの瑠璃姉じゃないか。勘違いだったのか、と想いゴールまで来て瑠璃花を見る。
変化は読み取れない。
ホイッスルが響き、試合が再開された。
あと1点はリトルギガントも同じ。
よってその後の試合展開は、一旦リトルギガントの猛攻によりイナズマジャパンは防戦一方となった。
―胸の重りを外せ。
監督のこの一言が起爆剤の様だ。
瑠「このままじゃ…シュートまで持ち込めるかどうか…」
その猛攻の中心に居るのは、フュイだ。
ロココ達をフルに生かし、瑠璃花に追いつけないスピードでパスを回している。
息も切れ切れになった時、突然メテオがゴールを離れたのが見えた。
ロ「!?」
ロココからボールを奪い、間髪おかずにパスを出した。
その先は、瑠璃花。
瑠「!???えっ…」
メ「シュート、頼んだぜー!!!」
瑠「!」
ボールと、彼の言葉を受け取った。
?(―私の力、借りる?)
ドリブル突破には結構きつい距離。センターマークすら遠い。
瑠(そうなるかもしれませんが…貴方は一体?)
彼女の心の中では、不思議な会話が行われていた。
?(さあ…Who am I?)
実況「おおーっと!パスを受けた瑠璃花がドリブルで攻め上がって行くが、ロココ、ドラゴ、フュイがブロックにいったー!」
瑠?「…。」
瑠璃花が止まった。進行方向にいる3人を見ると微笑した。ふんわりと。
瑠?「フラワーワールド…」
小さな呟き。
それと同時に広がる花園。
フュ「!」
足を出すのを思わずためらう程、美しく咲いている花に3人の足が止まった。
そこを、瑠璃花は飛ぶように走り抜けて行った。
その3人を抜いてしまえば、あとは普通に突破して行くだけ。
ゴール前に到着した彼女は、地面に手を突き呼吸を整えた。
そして一瞬何かを確認するような仕草をしたが、自分の足元にあるボールを見て納得したように頷く。
瑠「ふぁ…疲れた…」
フェ「何時も省エネ運転の瑠璃花が、こんな風に来るとは思わなかった。」
瑠「…大丈夫、きっと大丈夫…」
速まったままの鼓動を落ち着けるかのように、瑠璃花は呟き立ち上がる。
彼女は苦笑し、そして周りが一歩引いて、何もしない様にしているのが分かった。1-1、サシの勝負。
実況「これはフェイと瑠璃花の対決!観客席も大いに沸いております!!」
実際その通り。鈴音達も声を張り上げ応援しているのが瑠璃花にも聞こえていた。
マネージャーも、そして頭の中には緑川達も。
瑠「…私、今まで目立つのも、疲れるのも嫌いだった…でも、何でだろ、この皆さんの声を聞いていると…」
話す彼女の目から溢れた1敵の雫が、頬を伝って地面に落ちて行った。次々に溢れる涙を拭いながら、彼女はフェイの方を向き直る。
瑠「…私、きっと後では泣けないんです…だから今、涙がたくさん溢れたんだと思います。」
フェ「それは優勝した時、か?」
瑠璃花が目を閉じた。
もう溢れない涙は、彼女を強くしただろうか。
もう迷っていない彼女自身が、強くなった証だろうか。
瑠(不安でも、落ち着いて、大丈夫、きっと大丈夫…)
瑠「このシュートに、私の全てを詰め込みます―」
フェ「全力で、迎え撃つ…。」
空気が震える。
瑠璃花が、ドリブルを開始した。

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