イナイレ*最強姉弟参上?!*

作者/ 伊莉寿



第75話 カミサマノ、イジワル



瑠「…勝った…?」

2度目のホイッスルが鳴り響いた瞬間、彼女は時が止まったかのように感じた。

ベンチから飛び出してくる選手達。切り離された世界にいた瑠璃花を引き戻したのは魁渡だった。

魁「瑠璃姉!やったな、俺達が勝ったんだぜ!!!」

瑠「…ほ、ほんと…に?」

満面の笑みで笑った魁渡に、実感したのだろう、瑠璃花も笑顔になった。

テ「瑠璃花!魁渡っ!!!」

瑠「ティアラ、ラティア…私…」

ラ「チームメイトと喜びを分かち合うのが先じゃない?」

ラティアがフィールドの中心を見て言う。そこにはイナズマジャパンの選手が集結していた。

何時もあんな感じで喜んではいたけれど、今回は喜びようが違う。

ラ(…にしてもウマシカのチームが優勝って未だに信じられないわ。)

瑠・魁・テ(…^^;)

瑠「…」

じっとそこを見ていた瑠璃花が、突然走りだした。―その集団めがけて。

テ「良い写真が撮れそう!」

マ「はい、カメラ。」

テ「さっすがマーク!!」

ティアラがカメラを構える。瑠璃花が走って来る事に気付いた鬼道達が振り向く。

瑠「鬼道さんっ、キャプテンッ!!!」

その声と共に、瑠璃花は鬼道に背後から抱きついていた…

カシャリ、とティアラがシャッターをきった。




瑠「勝ったんですねっ、私達、勝ったんですねっ!!!!」

恐らく嬉し涙。

溢れる涙を拭わず、鬼道に問いかける瑠璃花。鬼道は彼女の頭を軽く撫でて、問に答える。

鬼「ああ。……俺達が、世界一だ。」





?「喜んでるな~、いい笑顔だ。」

不審な影は、スコアボードの真下。しかし選手や観客には見えにくくなっている。

黒いコートを羽織り体格さえも分かりにくい。

?「あのお方からの指示では…あいつ、か。」




魁「ティアラ、一勝負やるかっ!!」

テ「賛せ(ラ「これから表彰式とか始まるのよ?」

テ「う~ん、じゃあそれが終わったら!!」

魁渡が少し残念そうに頷いた。そしてFCの仲間を見つけると、そこへ駆け寄ろうとした。

鈴「魁…」

円「魁渡!もう表彰式始まるぞ?!」

魁「あっ…鈴音、後でな!」

円堂達に背を向けて、手を振る鈴音達にそう言った時。



?「仕事は早く済ませた方が良いよな。」



瑠璃花がハッとした顔になり、顔から血の気が引く。青い顔で魁渡を呼ぼうと口を開く。

瑠「魁渡!逃っ…!!!」


?「…やはり、槍に限るな。」


不審な人(?)影が、小さな槍を投げる。

それは空を見えないスピードで飛びながら大きくなり、1メートル前後ある槍になった。




それは、

























振り返りかけた魁渡の背中に、突き刺さった。












魁「…!!」

ラ・テ「っ???!」

鈴「…え?」

円「!?」


瑠「…そだ、うそ…だ。」


瑠璃花の目の前で、その槍が刺さった男の子は、ゆっくりと、倒れて行った。


ドサリ、という音しか聞こえない程の静寂。

横向きに目を閉じて倒れた…流星魁渡。

誰も駆けよらず、ただそれを見ていた。





瑠「……っ、魁、渡…?」


「きゃあああああ!!!」

観客の女性が叫んだ。

鬼道達が飛んできた方向を振り返る。誰もいない。

鬼「とにかく、ティアラ達は魁渡を頼む!!スコアボード付近から槍は飛んで来たと見て間違いない!!俺達はそこに行ってみる!!」

テ「…わ、かった…」

ティアラが震えながら魁渡に近付く。声をかけても反応は無い。身動き一つしない。目を開ける気配もない。

瑠璃花も近付き、肩に手を乗せる。

瑠「魁…渡…目、開けてよ…どうしてっ、どうして!!!!?」

ラ「瑠璃花…」

空気が震えた。ピリ、と小さな振動。

と、瑠璃花の心の中で響く声。

―(だめ!抑えてっ、私も努力するから、お願い抑えて!!!)

瑠「…!」

―誰にも見えない様なスピードで、瑠璃花を円の中心をして光が同心円状に走った。

その直後、空気の振動が無くなった。瑠璃花は魁渡をもう一度見る。

一つの懸念。

瑠「この槍…黒いね。」

テ「そんな事言ってる場合じゃないよ!どうしたら良いの??!」

槍を抜いては失血死する。でも何をすれば良いのか分からない。

すると、瑠璃花が暗い表情で言った。

瑠「・・・何もしなくて良いの。魁渡は、その時まで目を覚まさない…。」

テ「?!」

魁渡の周辺に居るティアラとラティアが目を見開く。

秋「瑠璃花ちゃん!救急車が来たよッ!!」

隊員「担架で運びます、手伝って下さい!」

救急隊員達は、槍を見て驚いていたが、とにかく運ぶ事に懸命だった。瑠璃花は付き添いで行った。響木監督も。

ラ「…何故、瑠璃花はあんな事を言ったのかしら。」

去った魁渡達を見送りながら、ラティアがティアラに尋ねた。

テ「……分かんないよッ、まるで諦めてるみたいに…何で?」

ティアラの目には涙が溜まっていた。と、円堂の声が周囲に響く。

円「はぁっ、はあっ、ダメだ、何も無かった…」

鬼「槍を持っていたと証言した人もいなかった、全く手掛かりは無い。」

フィ「そうか…。」

イナズマジャパンの優勝で沸いていたスタジアムは、混乱に満ちていた。




瑠「…ねぇ、神様はイジワルなの…?」

病院の廊下、集中治療室に運び込まれた魁渡を見送り、瑠璃花が呟いた。

胸に右手を当て、痛む心がこれ以上涙を流したいと言わないように…。

瑠「世界一…楽しかった試合…仲間と喜びを分かち合うことの幸せ…私、もっと此処でサッカーをしたいのに、なのに…」

溢れそうな涙、そして脳裏に浮かぶ弟の笑顔…。

瑠「魁渡が居てくれたからなの、島を出るって決められたのは魁渡のおかげなの、私今までいっぱい魁渡に……何で魁渡を奪ったの!!!!!!」

耐えきれず叫んだ、耐えきれず涙を流した。

響「…」

白い廊下に、水滴が一つ出来た。









?「ちっ、失敗か…しかし、逃げ場はもう無い…。」

スタジアムで、そいつはそう呟いた。

?「しばらく見張るか…」

次の瞬間、そいつは一瞬で姿を消した。