イナイレ*最強姉弟参上?!*
作者/ 伊莉寿

第76話 思い出を。
部屋に響く、規則正しい機械の音。
ベッドで眠る少年。
その表情を眺める少女。
瑠「…魁渡…。」
右手で少年の髪をわしゃわしゃ、とかけば頭皮が温かく、その暖かさは少女を落ち着かせた。
外はもう夕暮れ。魁渡が集中治療室から出て、随分時間が経っていた。瑠璃花はずっと、魁渡の隣に付き添っていた。
彼女の胸の中、ドロドロと渦巻く感情は怒りなのか、憎しみなのか、寂しさなのか、言葉で言い表せない物なのか、はたまた全てか。
それは自分自身でも分からなかった。
と、ドアがノックされた。
瑠璃花がドアを見ると、どうやら魁渡の担当看護師、河原木らしい。
河「面会したいという方が。」
瑠「…行きます。」
彼女が腰かけていた椅子から離れ、廊下に出た。よく知った2人が、彼女を見つめる。
瑠「ティアラ、ラティア…。」
テ「魁渡、大丈夫なの?!」
ドアを閉めて、瑠璃花が2人を混乱させない様(ティアラを混乱させない様)にゆっくりと説明する。
瑠「出血量が少なかったから、怪我自体は数カ月で何とかなる物だけど…問題は槍に付いていた正体不明の毒素。」
テ・ラ「毒素?」
瑠「…それは未知の物らしく、警察も頭を抱えてるらしいの。魁渡が目を覚まさないのは、その毒の作用みたいで…。何せ見た事も無いから普通の処置じゃ全く効き目が無いの。今は自然に目覚めるのを待つしかない状態。」
テ「そんな…。」
瑠璃花がベッドで眠る魁渡を見ながら言う。
瑠「それが明日か明後日か…7ヶ月後か3年後か…10年後なのか40年後なのか…それは誰にも分からない。」
鼻の奥がつん、として慌てて2人の方を向き直る。このまま弟の話をしても、ただ胸が痛いだけ。
瑠「2人にお願いがあるの…明日…。」
カラスの鳴き声。もう空は暗い。
テ「…イナズマジャパンの人を全員、だよね。」
帰り路を辿りながら、ティアラが呟くと、ラティアが短く返事をした。と、車椅子が止まる。押しているのは、ティアラ。
テ「…何か…嫌。」
ラ「何が?」
ラティアが姉を見上げると、表情は哀しそうで、今にも涙が落ちそうなほどだった。
テ「だって、お別れみたいに言うんだもん…どうして?自分が悪いって顔してるの、悪いのは犯人だよ?!瑠璃花は犯人じゃないのに…」
ラ「そうね、今まであんな風に話してるのは見た事なかったわ。」
ティアラがまた車椅子を押す。もう何も話したくない、という様に。
2人で歩く道の上、星が瞬き始めていた。
規則正しい機械の音。
スヤスヤと寝息を立てる少女は、弟のベッドの上。病院の白いワンピースを着ていた。
窓の外で瞬く星。月は見えない夜だった。
―明日、迎えが来る。
ハッとして瑠璃花が飛び起きた。突然聞こえた声に驚いている。しかし、それが自分の中の声だと気付き安堵した。
―未練なんて、残さないでね?
瑠「大丈夫、それにきっと会えるから…」
―また?
瑠「信じてて、良いですか?」
―…そう、別に悪くは無いの。
瑠「…おやすみなさい。今日は疲れたから、もう寝かせて。」
―…一応、言っておきたかったの。ごめんなさいね。
瑠「…zZ…」
心の声は、もう聞こえず。
空に煌めく星達の穏やかな音色が、部屋を温かく包みこんでいた。
円「瑠璃花達、大丈夫かな~…」
夕食の席、宿舎で円堂が声を漏らす。同情するように風丸が続ける。
風「ああ、瑠璃花は魁渡に付き添って今晩病院に泊るみたいだし…。」
と、電話が鳴った。突然の事に、全員が驚き肩を震わせた。
円堂が席を立ち、廊下にある電話の受話器を取る。
円「もしも…」
テ『マモル?私ティアラだけど…』
円「ティアラ?」
テ『あの、瑠璃花から頼まれて…』
円「…瑠璃花が?」
時計の針は止まらず時を刻み続ける。
こうしている間にも、運命の時は近付いていた―。

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