イナイレ*最強姉弟参上?!*

作者/ 伊莉寿



第34話



夜の冷たい風が、瑠璃花と鬼道の頬を冷ましていった。

風になびく髪を抑えながら、瑠璃花は口を開く。

瑠「…私…分かったんです。何故、フュイ達が島を離れたのか。」

それは…と言い掛けて口をつぐみ、俯いて言葉を紡ぐ。

瑠「私の…私の力が、足りなかったからなんだって!」

心の底から吐き出した様な言葉に、鬼道は驚きつつも静かに次の言葉を待つ。

瑠「だって…島が霧に壊される前に、浄化する機械は作れたはずだった…もうキーワードは出ていたのに…!!なのに、私は気が付かなかった。フェイ達が再び島に戻って来たときになってようやく分かったの。」

鬼「その機械が作れると。」

瑠璃花は頷いた。膝をつき両手を顔に押し当てて泣いた。

何がそんなに悲しいのか。

彼らに暴力的なサッカーをさせてしまった事、それが何より悲しかった。

鬼道が右手を彼女の頭の上に優しく置き、そっとなでた。

彼女が思いきり泣けるように。

心の霧が、晴れるように。

そう願いながら、彼女が立ち上がるまで、ずっと。


闇に埋もれた城―

蜜柑は、部屋でココアを飲んでいた。

甘めに作られた温かいココアは、冷え冷えとした心を温めるのに適していた。

パジャマはグレーを基調とした、リボン柄。昼間のゴスロリ姿を見た者には意外な姿である。

髪はそこそこまっすぐ。頭にリボンがのっていた昼間の姿と比べるとしっくりこない者が多いらしい。

愛「…フュイちゃん、ノックしよっか。」

そう言って振り向く。後ろには、いつの間に来たのか、フュイが立っていた。

フュ「…何故、今日すぐに試合をしなかったのですか。」

フュイの視線は、鋭く蜜柑の背中に突き刺さる。

小さくため息をつくと、蜜柑はココアのカップをテーブルの上に置いた。ちなみに、此処は蜜柑の部屋。

愛「だって、雷門イレブンにとって3試合目になっちゃうでしょ。」

フュ「ならば、尚更です!試合をすれば絶対に勝てたじゃないですか!!」

愛「…どうして?そんな事までして勝つ意味があるの?」

フュイが驚いたように固まる。

フュ「私には、蜜柑様の事が理解できません。きつい練習をさせて、それで試合は有利な時にはしない。」

愛「フェアじゃないでしょう?」

フュ「あなたは世界の頂点にたって何がしたいのですか?」

蜜柑は答えない。フュイは失礼します、と言って部屋を出ていった。

蜜柑は、小さく、誰にも聞こえないような声で呟いた。

愛「…お兄ちゃんが、大事なのに…なのに、ね。」

彼女の頬を、涙がつたう。

愛「瑠璃花ちゃん見ちゃったら、あんな事…出来ないよぉっ…!!!」

声を殺して泣く。分かってる。大事なものを守る時に必要なのは代価。

それを支払う事は、とても難しいという事くらい。


瑠璃花は、ふかふかのベッドに体を投げ出した。

あれから何度も顔を洗って、翌朝の目やに予防は出来た。

毛布をかぶって、目を閉じた。

時計は10時30分を指す。

眠りそうになりながら、瑠璃花はある人の言葉を思い出した。

瑠「『いいか、これだけはどんなにサッカーが上手になっても忘れるな』…『サッカーをしていて、絶対に求めてはいけないものがある。』
『それは、絶対的な強さ、絶対的な勝利。これは、追いかけるもの。求めるのとは、少し訳が違う。』」

瑠(忘れちゃったんだ…フュイ達は…)

眠りの世界に誘われながら、瑠璃花は最後の一言を、心の中で呟く。

瑠(『その代価は、払いきれないほど大きいんだ。』)