イナイレ*最強姉弟参上?!*
作者/ 伊莉寿

第44話
―ユニバースブレイカー。
フェイの頭は真っ白になりつつある。
それは、彼が知る姉弟の最強シュート。瑠璃花が覚えている唯一の技。
フェ「…止める。」
足を伸ばす。威力を弱められれば、ネロなら取れる!!そう思って…
フェ「!」
フュ「…ウィングシュート。」
ズパっと、音がして。
気が付いたら、フェイの目の前にフュイが居て、シュートを打ったと分かる格好をしていた。
審判がホイッスルを鳴らす。
フェ「え…」
ネロが呆然としている。ボールが、転がっていた。
フェ「フュイ、お前なんでそんな…」
フェイが服の襟をつかみ抗議しようとしたが、メテオが止めに入る。
その時、もう一度、ホイッスルが鳴った。
全「?!」
審判の横に、蜜柑が居た。
フュ「試合終了ですか…」
愛「うん。皆、雷門中の勝ちだよ?」
にっこりほほ笑んで言う蜜柑に、フュイを除く全員の頭の上に〈?〉が現れる。
円「えっ…今、何が起きて…」
吹「相手の選手が、瑠璃花ちゃんとメテオ君のシュートに、さらに自分のシュートを重ねたんだ。僕達が逆転して2‐1。そして相手の監督が試合放棄。」
雷全「!?」
瑠「試合放棄って…蜜柑ちゃん?!」
愛「いいの。どうせ、私達勝てないんだよ。」
バーンが突っかかろうとするのをフュイが止めた。
フュ「皆、分かってたでしょ。フェイに、止められるわけ無いって。ネロが止められるわけ無いって。」
ガ「?」
フュ「皆、気付いて無い振りしてるだけだよ。本当はこんなサッカーしたくないって、楽しいサッカーしたいって想う自分の気持ちに。押されてたのも、荒いパスつなぐのが嫌で緩くなってたからだよ?本当は、笑ってサッカーしたいのに。」
ファイナル・ザ・カオスの選手数名が俯いた。図星…。
フュ「だから、そんなサッカーをさせたいって想ってるルリカとメテオのシュートが、止められるわけ無いの!!」
涙がこぼれた。円堂は、ただ試合中にそんな風に現実を受け入れられないであろう選手達を想って、フュイがシュートを打ったのだろうと思った。
フュイが顔を伏せたままよろよろと瑠璃花の前に立つ。
彼女を見守る蜜柑は、まるで姉のようだった。
きっと、彼女は兄の気持ちも代弁する。
フュ「ありがとう、と…ずっと、ずっと、言いたかったの。」
涙が川のように地面に落ちる。雷門イレブンが彼女から目を離せないのは、その美しさからだろうか。
フュ「ごめんね…」
蜜柑がアタッシュケースの中のスイッチを押す。
ファイナル・ザ・カオスの選手の首から砕けたエイリア石が落ちた。
愛「行きましょっか、鬼瓦さん。」
ファ全「??!」
ガ「蜜柑!おまえっ…」
蜜柑が振り向く。右手の人差し指を立てて、ゆっくり話す。
愛「い~い?君達は人間なの。そう、貴方は南雲晴矢という少年。だから、こんな獣みたいなサッカーさせちゃった私に責任があるの。」
瑠「蜜柑ちゃん……。ねえ!お母さん達に霧作りを依頼したのは蜜柑ちゃんな…」
瞳子監督が右手を広げて瑠璃花を止める。蜜柑の顔は今にも張り裂けそうなくらい悲しみに溢れている。
瑠璃花はそれ以上何も言えなくなった。そんな事を聞いたら蜜柑が耐えられないと踏んだのだろう。
瞳子監督が蜜柑の背中に手を置いた。
愛「お姉ちゃん…」
瞳「行きましょうか。」
蜜柑が振り返る。フュイとフェイはバーン達の後ろに居る。完全にカオス組になっている。
バ「次はぶっ潰す…」
ガ「エイリア学園の選手としてではなく、サッカー少年として戦おう、雷門イレブン…」
フェ「…ルリカ、カイト…すまなかった。」
雷全「!」
蜜柑が少しだけ微笑んだ。
鬼瓦「!そいつ等を逃がすなッ!」
パチン、とバーンが指を鳴らした。これにより、バーン、ガゼル、レアン、クララ、シェリー兄妹は姿を消した。
愛「あっ、そうそう瑠璃花ちゃん。」
呆然とする事による沈黙を破ったのは蜜柑。
愛「シュートを打たせてダイレクトでシュート…なんて、すごい作戦だったね、びっくりしちゃった!」
瑠「!…また、会えますか?」
数歩パトカーに向かって歩いてから、蜜柑は振り向いて笑った。
愛「もっちろん、色々やってからだから何時になるか分からないけど…絶対、ね!」
グラン達が保護されて、パトカーが全て去った。
空を万遍なく覆っていた灰色の雲が、風で流された時、彼等は太陽を見て思った。
全てが、終わったのだと。
2‐1。雷門VSファイナル・ザ・カオス戦。
ファイナル・ザ・カオスの試合放棄により、雷門中の勝利。
円「おはよう!」
そう言って階段を下りてきた円堂に、新聞が当たった。
母「ご飯出来てるわよ!!」
毎度のことながら、寝坊である。円堂は、制服を着てパンを口の中に突っ込んで新聞を開く。
母がいつも新聞を投げて来る訳ではないから気になったのだ。
円「!」
一面に、研崎の文字。
読んでいくとだいたいの内容が理解できた。
研崎が、姪である蜜柑に、人を狂わせる霧を使って世界を混乱に陥れるよう命令たのだと。
研崎自身が失敗した時のために、蜜柑に命令していたのだ。
本人は逆らえず従っていたのだと。
円「……」
お姫様の様な恰好をして微笑んでいた蜜柑。
彼女に従い親友を裏切ってしまったフュイとフェイ。
再び雷門イレブンと決着をつけようと彼女に従ったバーンとガゼル。
全員、研崎の掌で、踊らされていたようなものだった。
円「…何か、悔しいな…」
朝から、良い気分になれなかった…。
円「おはよう!」
豪「遅刻だ。」
風「堂々としてるな^^;」
出席を取った直後に教室に駆け込んできた円堂を見て、クラスメイト全員が、またか、という顔をした。
先「円堂、12回目な。」
円「^^;」
机に座って一息つく。これでも急いで走って来たのだ。クラスメイトは、それを分かってるからそれ以上言わない。
窓の外には青い空。ファイナル・ザ・カオスと戦った後と似ている。
円堂は、エイリア学園とのごたごたを思い出していた。
瑠璃花と魁渡は総理に連れていかれて、あの後どうなったのか、円堂達には知る術もない。
それに、無理に知ろうとしなくても良いんじゃないか、と円堂は思う。
何でだ?と1回風丸が聞いた事がある。
円堂は、その時こう言った。
円『サッカーやってれば、きっと会えるさ!』
と…。
*エピローグ*
深緑の葉をつけた木々、波で削られた丸い石の数々…
生い茂る木の葉は日差しを遮り、地面に届くのはほんのわずか。綺麗な木漏れ日を作る。
金髪の2人が、歩いていく先には空き家がある。
つるが絡まり、人が住んでいる気配など無い。
ショートヘアの少女が懐かしそうな瞳で見つめる。
「懐かしいな…変わって無いな、此処…」
少年が大きな岩に手を伸ばす。文字が刻まれているが、それは彼等が書いたものだ。
「!つる…?」
少女もそれに気付き、岩に駆け寄る。岩に絡まるようにして植えられた花は、彼等が最後に此処に来た時には無かった物だ。
大きな岩。それは彼らの両親の墓石の代わり―。
「ヒルガオ…か?」
白いヒルガオ。少年が首をかしげる。一方、少女は微笑む。
「分かった。ね、ヒルガオの花ことば知ってる?」
「は…?」
少女が手を合わせる。墓石も、こうやって報告する事も、全部親友から教わった事。
花を添える事も。
目を開けて、少女は兄である少年より先に岸へ向かう。
自分達を此処まで乗せてくれた人が待っていてくれた。
木製の看板を指でなでた。フェニックス島の文字が、懐かしい。
兄が駆けて来る。その勢いのまま船に乗る兄を見て笑いながら少女も乗り込んだ。
碧く澄んだ海、蒼く澄んだ空。決して交わることの無い青で、輝きもそれぞれ違う。
でも、自分達を許してくれた親友に、恥じる事のない人間でいたいと思う自分達を励ましてくれる効果は、同じだと2人は思う。
「ヒルガオの花ことばはね、絆、なんだよ。」
少女が、そう呟いた。
―第1章、閉幕―

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