イナイレ*最強姉弟参上?!*

作者/ 伊莉寿



第32話 手紙と手紙と父親と祖父



~瑠璃花side

豪「はあっ、はっ…ーッ」

ガンッ、とボールがゴールポストに当たり跳ね返る。それを睨む豪炎寺さん。

もうあたりは暗くなっていた。決勝前、河川敷で、豪炎寺さんは辛い思いを抱えてボールを蹴る。

アジア予選決勝が終わったら、結果に関わらずサッカーをやめドイツへ留学する。

その事を聞かされたのは、ついさっきの事だった。

調子がおかしい事に気づいていた人は沢山いて、私と魁渡もその中の一人だった。

何か吹っ切れたような、割り切れない様な表情で、虎丸君との連携技に挑む豪炎寺さん。

瑠『…何か、辛いことでもあったんですか。』

河川敷で自棄になってボールを蹴る先輩に、私はそっと聞いてみた。

病院を出た彼をずっとつけていた。放っておけない、何故なら魁渡に言われたから。

『あいつはエースストライカーだし、世界大会に行ったら、いつか連携技をやってみたいと思うんだ!予選は試合に出れない前提だし…』

魁渡がそこまで言うのはすごく珍しい事。他人をそんな風に認める事自体有り得ない事だったし、連携技なんて自分には必要ない!って感じだったし…

でも…彼は心に強く決めている。

サッカーをやめる。

今の私では、どうする事も出来ない気がした…

瑠「何で…私に…」

豪「何となく、似てる気がした…」

似てる…?

サッカーをやめる事は無いし、FWでも無い、その私と…?

豪「お前と、親が似た環境に居たと感じた、それに下がいる。さらに親を亡くしている…」

瑠「!!!!」

ボールを蹴る足を止めて、豪炎寺さんが見ていた。

瑠「…私は…信じてないんです…。」

豪「?」

瑠「……お父さん…から、…!」

ジャージのポケットから紙を取り出す。それは、練習の直後に開けた、あの封筒。

差出人不明。

キャプテンの元に、お祖父さんからと思われる手紙が届きました。それを見て、もしかして、と思ったんです。

中身は…予想どおりでした。



円「豪炎寺!やってるな!!」

瑠・豪「!」

円「瑠璃花もいたのか!魁渡は?」

キャプテン、どうして此処に…?ポケットを見てみると、昼間の手紙が入っていました。

響木監督に見せに行った、という所でしょうか。

瑠「魁渡は、学校のクラブ活動があったらしくて…」

円「そっか!豪炎寺、練習付き合うぜ!」

豪「悪いな、もう練習は終わりだ。今から瑠璃花に届いた手紙の中を見る所だ。」

瑠・円「!」

エナメルバックにボールを突っ込んで、豪炎寺さんが振り返る。黒い封筒は握りしめたせいかくしゃくしゃ。

瑠「…でも、2人には関係…」

円「その手紙のせいなのか。」

瑠「!」

円「午後、ちょっと変だったぞ。」

…自分では分からない変化。

キャプテンは、こうして周りの方々と分かり合って、強くなってきたのでしょうか…


~豪炎寺side

俺と円堂が覗き込む。内容は下の通り。

―Dear angel

神が此の世を統べる。
その遺志を継ぐ者共は天に近し。

魔王が此の世を手中に収める。
その遺志を継ぐ者共は地に眠りし。

その力を得れば死を迎えし者、再び生を得る。

我は愛しき者に生を与え、その者共を駒とする。

獲物を与え動かし、命の力を集結させよう。
お前も見たいか?
我が愛しき者は、お前にも笑みを投げかけるであろう。

その島の天上界で、時は満ちる。
少年達より、ささやかな願いを聞き届けるかのように―。
お前を待ってやろう。

―From ……

豪「結局、誰からなんだ?」

From、の先はインクで汚れていて見えない。しかも内容が怪文書レベルだ。

瑠「…これは、お父さんからです。」

円・豪「!?」

円「お前の父親って…」

―流星大翔。

瑠璃花の話によれば自殺したはず…

瑠「この文章の形、内容からして、間違いありません。」

険しい顔で瑠璃花は手紙を折りたたみしまう。

円「でも、一体何を伝えたいんだ?」

瑠「今は決勝に集中―じゃないんですか?」

やっぱり瑠璃花も変だ。いつもなら、あんな事言わない。

円「…だって、瑠璃花も豪炎寺も変なんだ、集中なんて出来ない!!」

!円堂…

豪「…隠し事は、よくないな。」

瑠(!)

豪「円堂、俺…」


「サッカーをやめる。」



~瑠璃花side

言った…豪炎寺さんが、キャプテンに…

円「!何でだよ!!!」

よって、今キャプテンが豪炎寺さんの肩を揺さぶって…って止めないと。

…そう思ってるのに。

すごく、凄く辛いのが伝わって来るんです。私は知ってるんです。

キャプテンは豪炎寺さんがいたからFFで優勝できた。この2人は本当にソウルメイト、と呼べる存在。

心から通じ合っている、それはサッカーがあったから。

なのに辞める…なんて、辛すぎること。ましてイナズマジャパンに与える影響は半端無いでしょう。

円「豪炎寺!!」

瑠「キャプテンやめてください!!」

豪「!」

円「…瑠璃花。」

豪炎寺さんだって辛いのに…涙をこらえているのに…私が…泣きそう…

豪「…もう…決めた事なんだ。」

見送る事しか出来ない。

事実を受け止めきれない私達に出来る事は、今、彼を見送る事だけ…。