イナイレ*最強姉弟参上?!*
作者/ 伊莉寿

第44話 瑠璃花の過去―8
蜜柑がグラウンドの扉を大きな音を立てて開けた。
見えた景色は残酷で。
思わず息を飲んだ。
倒れているダイヤモンドダストの選手達。研崎も腰を抜かしていた。
愛『~っ??!』
南『蜜柑、信じられる?これ、るりかがやったんだぜ。』
南雲の言葉に、蜜柑は信じられないという様に首を横に振った。
嘘だ、と呟く。
瑠璃花が、あんな風のようなプレイをする瑠璃花が、こんなに友達を傷付けるような、プレイを―?
瑠「…私が?」
聞いていて瑠璃花は鳥肌が立ってきた。
瑠「クララを?風介君を?皆を…?」
涼野達は頷く事しか出来なかった。
これは本当の事。そして瑠璃花が忘れた事。
実際、本当に頭の中から消去してしまったらしい。彼女は思い出した素振を見せない。
蜜柑が黒いミニスカをはたいて口を開く。
愛「続き、風介が説明して。…その時の事は、風介にしか分からないんだから。」
―涼野が、観念したように口を開いた。
~涼野side
ヘルエンジェルを放ったるりかは、黒い羽を羽ばたかせて着地した。
羽は近くで見ると輝いているように見える。黒いのに、何処か明るく、綺麗だった。
ドゴオ、と爆風が迫る。視界が悪くなる中、るりかは苦しそうな表情を見せた。
とっさに彼女の腕をつかもうと手を伸ばした。が、彼女は崩れて行く。
るりかはその場に倒れてしまった。
砂塵が多少収まった。
倒れているるりかの頭を膝の上に乗せ、肩を揺さぶる。
…反応が無い。
ふ『るりか?!るりか!!』
声をかけても、閉じられた目が開けられる事は無かった。
もしかして、もう二度と起きないんじゃないかと思う程に青白い顔。
頬を涙が伝った。なぜ泣いているのか、その時理解が出来なかった。必死に、ただ私は彼女の名前を呼ぶ。
あんなに仲間を傷付けられたのに、それでも私はあの時の彼女は本当のるりかでは無いと思っていた。願っていた。
医務室に連れて行った方が早いだろうか、という考えがようやく浮かんだ頃。
…彼女の眼が開いた。瑠璃色の瞳が覗く。
る『…ふ…す……け、君…?』
途切れ途切れの、か細い声が、私を呼ぶ声が、聞こえた。
ふ『…!…りかっ、るりかっ…!!!』
ただ、目を覚ましてくれた事が嬉しくて。
何故だろう、憎しみは全く感じなかった。
抱きしめていた。彼女の体に力は入っていない。
と、苦しそうに起き上がるダイヤモンドダストの選手達が見えた。
るりかが目を覚ましたことで、ほっと安堵の様子を見せているが、傷だらけのユニフォームは酷い戦いであった事を示す。
るりかを抱いて医務室に行こうとした時、彼女の黄色いTシャツの腹部が赤く染まっている事に気付いた。
るりかも、傷付いていた?
では、何故、あんなプレイをした?
彼女の顔を覗き込む。
ふ『何故だ?何故ッ…』
問い詰めようとした。でも、彼女の次の言葉で、私は何も言えなくなった。
る『私……何をしたの?』
戸惑いの表情。
本当に何も覚えていないのだと、私は悟った。
あれは、本当に悪魔が乗り移っただけだったのか?
…それなら、それなら、彼女は…。
ふ『…何も知らなくていい…』
また、私は後悔する事になると、知らずに……
蜜柑が来た。
もう少し静かに開ければいいのに、と思いながらるりかを抱き上げた。
さっき倒れたばかり。疲れが溜まっているなら歩かせない方が良いだろう。
入口付近に居た晴矢達に残りの選手たちの事を頼み、急いで医務室に行く。私も早く戻って手伝わなければ。
…救急車でも呼んだ方が良いのか?
ベッドに彼女を寝かせ、傷があった事を思い出した。
その時、ガラリと扉が開く。
父さんだった。
吉『やらかしてくれましたね、瑠璃花。』
ふ『!父さん、るりかは…!!』
吉『試験は不合格です。』
ふ『!』
…納得する自分と、納得していない自分が生まれた。
手を拳にして、強く握る。仕方が無い、仕方が無いと言い聞かせる。
それに、いま彼女は怪我をしている。それどころでは無いはずだ。
吉『医者を呼んでおきました。来るまで付いていてあげなさい。』
父さんは部屋を出て行った。
空模様は曇り。また、雪が降りそうだった。

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