[イナズマ]多分…私は、貴方を愛しています

作者/伊莉寿(元・西木桜)

*小説No.5 Bad World-1


「この世界[ゲーム]で生き残る[勝つ]事が出来たなら、俺は君を認めよう[逃がそう]。」


私の友達だったはずの人は、怪しげな笑みを浮かべて見下ろした。



…嗚呼、彼が望むのは孤独になった私の姿。


「っ、嫌…」


こうしたのは誰ですか。誰が彼を崩したのですか。こんな力を彼に与えたのは、どうして、どうして…




「こんなことしないでっ、霧野君!!!」






** He hopes the dessgame... **


+ルール+
・勝者には賞金と賞品を与える
・プレイヤーは同盟を組んでも構わない
・同盟を組んで勝利した場合、賞金・賞品ともに平等に分け与える
・勝利の条件は「流星瑠璃花を殺した事」
・敗者の条件は「動けないほどの傷を負っている」
・違反行為を働いた者・敗者は、主催者霧野蘭丸の名により制裁を下す

+違反行為+
・ターゲット・流星瑠璃花を逃がした、逃がそうとした
・主催者からの命に逆らった者
・ゲームを途中で離脱しようとする




「…霧野!?」


 普通の日だった。いつも通り練習に行こうとすると俺宛の手紙が届いていて、雷門中に着いてから見てみたら、上の内容が印刷された紙だった。白い封筒に入っていて、差出人不明で切手も無く、直接投函された物だと分かる。ふざけて誰かが入れたのかと思ったが、辺りを見てみると練習が始まる時間を過ぎているのに霧野の姿が見当たらない。手紙を封筒に戻して監督へ霧野の事を尋ねに行く。しかし監督も連絡を貰っていなかった。

「あれ、狩屋ー霧野先輩は?」
「俺も知らないよ。」
「キャプテン、霧野先輩はどうしたんですか?」

天馬に聞かれて、首を横に振る。ダメだ、メールも入って無かった。いつも練習を休む時は連絡があるのに。それにあの手紙の事もあると…不安だ。一度全員を集めて知っている人がいないか確認してみよう。
 とりあえず霧野の行方を尋ねてみるが、全員が何も知らなかった。鬼道コーチ、音無先生も同じだ。次に手紙を見せる。これも知らなかったが、倉間が内容を見せてくれと言うので渡すと全員が押し寄せた。

「…何だこの手紙、気色悪い…」
「この流星瑠璃花って人がターゲットって事ですよね…殺される、」
「「「!?」」」

影山の言葉に頷くと、円堂監督がすまない、と紙を奪い取った。

「…兄さん、」
「どういう事だ…」
「?あの…何か分かった事が、」

監督達が慌てると言う事は大人の人なのだろうか。

「流星瑠璃花は鬼道の義理の妹だった。」
「だった、とは?」
「瑠璃花は10年前行方を眩ました。」

…つまり、居ない人がターゲット?だけど逆に考えてみれば、このゲームの時は瑠璃花さんがいると言う事になる。
…だけど、いまいち話が分からない。

「監督、霧野君は今朝いつもより早く起きた後姿が見えないそうです。」
「魁渡も行方が分からなくなってる。」

「魁渡って人は瑠璃花さんの弟です。」
「!!」

剣城が誰にともなく呟く。一体、どうしてこんなことが…
 その時、ミーティングルームのドアが開いた。現れたのは見覚えのない人。円堂監督達は驚いて目を見開いて何か言おうとした、けれど相手の方が早くに口を開く。皆様を素敵なゲームにご招待します、と。俺達が戸惑っている間にその人は指を鳴らし、刹那空間が歪んだ。頭が割れるような痛みに襲われ、どこかへ投げ出される。目を開くと、ぼやけた視界の中にどこかで見た髪型。

「…監督?」
「大丈夫か、お前!」
「…へっ?」

そう、それは円堂監督。だけど、何かが違う。昔の雷門中で使われていたキーパーのユニフォーム、幼い顔と声、そして姿は…。

「14歳の監督みたいです。」

剣城の言葉に、俺はようやく落ち着いて納得できた。

「円堂、あっちの奴らも全員目を覚ましたみたいだ。」
「ああ、ありがとな風丸。俺は何か知らないかこいつらに聞いてみるよ。」

これは10年前の雷門イレブン…見たところ居るのは、円堂さん・風丸さん・鬼道さん・豪炎寺さんだけだけど…。

「あと…私服のヒロトもいた。瑠璃花達は見えなかったが。」
「豪炎寺、もう大丈夫か?」
「ぶつけた頭は平気だ。」

14歳の豪炎寺さんは、落ちた時に頭をぶつけてしまったらしい。
 俺も体を起して辺りを見てみる。深い森が近くに広がっている様で、木しか見えない。空気は湿っていて、俺達の背後は海だ。ここは崖らしい。多少開けているのものの、木の無い範囲は狭い。ここに居るのは14歳の雷門イレブンと、俺、剣城。風丸さんと円堂さんの会話から、他の人は別の場所に居ると推測できる。

「あの、円堂さん…」
「!体はどこもおかしくないか?」
「はい、大丈夫です。」

幸い、俺はどこもぶつけてないみたいだ。剣城を振り返ってみると、力強い頷きが返って来た。

「俺は神童拓人、後ろに居るのは剣城京介です。」
「円堂守、こいつは豪炎寺修也だ。」
「はい、実は俺達円堂さん達より10年後の雷門イレブンなんです。円堂さんは監督です。この手紙を誰かから貰いミーティングをしていたところ誰かが入って来て、気が付いたらここに居たんです。」

思い返してみれば、なぜ円堂監督達が14歳の姿でここに居るのか、ここがどこなのかなど不審に思うべき点はいくつもある。

「……10年後、か。分かった。その手紙なら俺も貰った。鬼道の家から瑠璃花と魁渡が居なくなってて部室でどうするか話し合ってたんだ。大体お前達と同じだと思う。」

円堂さん、理解が早い…。まだ瑠璃花さんが行方をくらましてなかったみたいだけど、魁渡さんも一緒に居なくなってる。
 全く、この手紙に書いてある事は・・・そう言えば、このゲームって瑠璃花さんを殺す事が目的だったり、敗者は動けないほどの怪我を負ったり、制裁が加えられたり…まるで、殺し合いみたいな―――。

「向こうに居た奴らも10年後の雷門サッカー部かもしれないな。」
「見に行きましょう。キャプテン?」
「あ、ああ…」

一体、何の為に14歳の監督達と俺達は集められたんだろう。この殺し合いをさせるため?だけど普通の俺達がそんな事をあっさりするはずもないと知っているはず…一体、何が目的なんだ?霧野は?瑠璃花さん達は…?考えながら歩いていたらつまづいた。しっかりして下さい、と剣城に心配そうな口調で言われた。苦笑しながらすまない、と返事をした直後、見慣れたユニフォームがいくつか座っていた。

「あ、剣城、キャプテン!!」
「神童!」

天馬と倉間と…だけど天城先輩と数人が見当たらない。円堂さんも、他に居たサッカー部員達とははぐれてるみたいだ。

「ここがどこかはこの人達も知らないみたいです。」

狩屋がそう言って、風丸さんを指差す。剣城も何の反応も示さないから、ゴッドエデンという訳でもないんだろう。

「つまりここがどこか、何をするのかは誰も知らないと――」

そこまで言い掛けて言葉を切る。誰かが立っている気配がしたから。



「いや、俺は知ってるぜ?」


全員が振り返った。そこに立っていたのは、橙色の髪の少年…。


「「!!魁渡っ!!?」」


彼は自信に満ちた笑顔で、平然とそこに立っていた。