[イナズマ]多分…私は、貴方を愛しています

作者/伊莉寿(元・西木桜)

*短編 想いがいつしか歪んでしまう…その前に


どうしようもない悲しみ。
どうしようもない悔しさ。
どうしようもないアノ日。

良い事なんて何ひとつ無いと言うのに、それをくれた彼女を、俺は今でも…嫌いにはなれない。

会いたい、と……心から思う。

もう一度、君に巡り会う事が出来たら……。




くしゃくしゃに抱きしめた彼女への想い。



―――消えた彼女を忘れる事が出来ずにもう何年経っただろう。
相変わらず俺はサッカー馬鹿とサッカーをしているが、彼女には[相変わらず]が無い生活があるのだろう。身内とは離れ離れで弟は意識が無いのだから。

…俺は彼女を引き留められなかった。腕を精一杯伸ばしても彼女に触れただけで、離れて行くのをゴーグル越しに見る事しか出来なかったんだ。彼女は何がしたかったんだ、と直後に自分に問う。考えたくもなかった。
残された事実――――それは彼女が消えたと言う事だけだ。

生きているのかさえ問題視される彼女。
俺は生きていると信じている。ただ、きっと心のどこかではもう会えないのだと悟っている自分が居る。
アノ日から数年がたって、彼女は今何をしているのだろうか。成長しているのか、そしていつかまた会う事は出来るのか。

分からないから…俺は何もできない。
自分の中で渦巻く感情を吐き出す事も難しい。些細なことでも笑わずに聞いてくれた彼女が今では懐かしく、そして大切な存在だったと思い知らされた。

思い出すたびに辛くなるのに、心が少し暖かくなるから…だから抱いた思いを捨てる事が出来ないんだ。儚い微笑みも、喜びに溢れた声も、俺を見据える瞳も、春の木漏れ日の様に温かな視線も…。
……いつか思い出という写真が色あせたら、忘れてしまいそうな…全てがシャボン玉の様な彼女の記憶。

会いたいと強く願う。
会いたいと強く祈る。
会いたいと強く思う。……俺は何でもするのに。

それなのに、全ては世界の思うままに。


くしゃくしゃに抱きしめた想いが、歪む前に。


『鬼道さん!』


歓声の中、微笑む瑠璃花に……また、会えたら……。




*fin...*