[イナズマ]多分…私は、貴方を愛しています

作者/伊莉寿(元・西木桜)

*王様ゲームしようぜッ!!*








一体、誰が言い始めたのか……。誰も、覚えていない。

「よし、それじゃあみんな揃ったな。」

新入部員歓迎、という名目で集まった雷門中サッカー部。実際準備等があり、1週間ほど遅れての企画実施となった。
 キャプテンである神童の声に元気良く返事を返す天馬。隣には緑の髪の少年。今日歓迎される狩屋マサキだ。全員揃ったといっても、監督は飲み物を買ってくるために外出中。はじめていても良い、という許可があったからの返事だ。
 と、狩屋の隣にもう2人の少年が見え、神童は首を傾げた。1人は女子の様に見える。深緑色の髪を一本の三つ編みにしていて、全く見覚えがない。もう1人は…体調が悪そうだ。

「…あれ、バダップ。どうしてこんな所に居るんだろう。」
「……」

呑気な声と、うめき声。

((誰っ!?))
「みんな~、飲み物買って来たぞ、ってバダップ!?」
「え、んどう守か…」

腹をおさえて答えるバダップ。ファーストチームの部屋に入って来たのは、コンビニ袋を提げた円堂と、風丸。

「バダップ、どうしたんだ!もしかして酷い目にあわされたんじゃ…」
「…ああ、隣に居るミストレのおかげで三途の川を見る事が出来た。」

どうやら、この時代に来た事は手違いの様だ。バダップは、腹痛に効くという薬を風丸から貰った。
ざわつく部室。
霧野が手を叩いて静まらせる。

「えーと、バダップとミストレ?も、少し混ざって行かないか。」
「?何をするんだ?」

顔をしかめるバダップ。と、ミストレが口を開く。

「この女みたいなやつと俺で、どっちが美しいか競うんだろ?」
「「「!?」」」
「霧野先輩、おもしろそうですね★」

驚く部員たちに驚くミストレ。その隣に座るバダップはため息をつく。そして、霧野は心の中で誓った。固く、固く。










(狩屋、後で絞める…)





 カードをひいた部員たち。この王様ゲームでは、王様となった部員が好きな事を、好きな番号を持っている人に命令できる。つまり王様の人柄によって天国に行くか地獄に行くかは決まるのだ。

「あ、俺王様だ!」

そう言ったのは、天馬。
安堵のため息が、多くきこえる。天馬が変な命令を出すという可能性は、限りなくゼロに近い。……と、思ったからだ。
が、1秒後、天馬の態度が変わった。


「じゃあっ★」
「「え。」」

何か今黒かったぞ、と神童が心の中で呟く。

「2番と9番、円堂監督のお弁当を食べて下さい★」




円堂と風丸の顔が、青ざめた。




「…あ、9番だ。」
「俺は2番…」

そう言ってカードを見せる2人。ミストレと霧野だ。2人は、青ざめている大人組みに気付いていない。

「天馬っ、それはあんまりだぞッ!!!」
「三国先輩?」
「どうかしたんですか?」

霧野と神童が続けて三国を見る。彼は、夏未の味を天馬から聞いて知っている人物だ。近々、料理の様子を見に円堂家を訪れる予定であった。そしてその彼の言葉を、ニコニコしてスルーする天馬。西園も見た事の無い笑みだ。
円堂の風呂敷で包まれた弁当箱を差し出された霧野とミストレ。前者は訝しげに、後者は何の関心もないと言った態度で弁当箱を開ける。見た目は華やかで、一般的な弁当だ。霧野の緊張した顔が、僅かに緩む。

「いただきます…」






数秒後、霧野はつい数分前のバダップと同じ状態になった。




「ミ…ミストレは、何故平気なんだ…」
「?俺の作った料理よりは下手だったかな。でも普通だった気が。」
「…霧野、ミストレは味覚がおかしいんだ。」






「霧野…大丈夫か?」

 カードを渡しながら、神童が心配そうに顔を覗き込む。受け取った霧野は、非常に体調が悪そうだ。夏未の料理のすごさを、円堂と風丸は改めて感じる。

「夏未さんは裏切り料理が得意ですね~」
「「「!!?」」」
「冬っぺ!?」

気づくと来ていた冬花が、カードを見ながら言い放った。今は病院で看護師の仕事をしているが、イナズマジャパンでマネージャーをしていた時代は、秋・夏未と円堂をめぐり静かに火花を散らしていたこともある。そんな彼女は円堂を見て笑顔を作ったが、天馬は自分と似たものを感じ取る。―――そう、腹黒要素を。

「今の雷門中サッカー部の顔が見たくなって…。私も入っていいかな。」
「ああ、もちろんだ!」
「すいません、監督……トイレ行ってきます。」

カードを持ったまま、霧野が立ち上がる。少し進めててください、と言葉を残し、ファーストチームの部屋から出た。
天馬が王さまだーれだ、と声を張り上げる。

「私☆」
「「!!??」」

にっこりと微笑んだ女性、久遠冬花。とたんに、その笑顔が怖く思えたのは天馬だけでは無いだろう。天馬以外は全員が見覚えのある表情。ついさっきの、王様の顔だ。復活したバダップが、顔をしかめる。警戒しているのが、顔を見ずともミストレに伝わっていた。

「12番が2番に告白★」
「冬花、何があったんだお前に。」
「いつも通りですよ、風丸君。」

即座に言葉をかけた風丸に、間髪いれず返す冬花。雷門イレブンは唖然としている。倉間も車田も、口をぽかんとあけて彼女を見ていた。と、ミストレが沈黙を気にせず、言った言葉が部屋中に響く。―――頑張れ、と。

「2番って誰ですか?(ニコッ」
「ええっ!?狩屋12番!???」

素っとん狂な声を上げた天馬。全員が、狩屋を振り返った。

「俺は1だ。」
「7番…」

バダップとミストレに習い、全員がカードをオープンする。しかし、2番はなかった。
戸惑いの空気が漂う中、狩屋が口角をつり上げた。





「きーりの先輩っ♪」
「…?どうした、狩屋。」

 戻ると、なぜか皆が納得した表情をした。狩屋はすごいニコニコしてる。…一体、俺がいない間に何があったんだろう。気味が悪い。狩屋が俺の前で俯いてうじうじしてるとか…。何があったんだ?全く状況が理解できない。頭うったのかコイツ。

「…霧野先輩、俺ずっと、先輩のこと…」






「「「!!?」」」

風丸さんの反応が…ドン引き?顔面蒼白だ。
しかし、一体狩屋はどうしたんだ?顔を注意深く見ていると、早速収穫があった。―――――ニヤリ、と笑ったのだ。

「っ!!」






霧野危険察知センサー発動!コイツは何か企んでいる!!▼












「ハンターズネット!!」



* *


「俺、ずっと先輩をハンターズネットに掛けたいと思ってたんです★」

 掛けて何をしたいか?う~ん、そうだな。とりあえず先輩が以後俺にうるさくしないことを願って、って感じ。満足に悪戯(イタズラ)もできないからストレスがたまって仕方ねえ。今回はその憂さ晴らし。俺の演技に騙されてひやひやしてた奴らの顔も見ものだったな。
 あ、ここまで見てくれてありがとう♪これからもこの駄作者を優しく見守ってくれると嬉しいな☆

「狩屋、いい加減おろせっ!!」

うるっせーなー…。

「あ、そーだそこの御三方!必殺技当ててもいいですよ♪」
「本当?じゃあお言葉に甘えて…エスバカ、バダップあれをやろうか。」
「エスバカ言うなミネストローネ。」
「え…本気で当てるつもりですか……?」
「よし…いくぞ、デスブレイク!」
「円堂っ!霧野がっ!!」
「させるか!オメガ・ザ・ハンドッ!!!!」






部室、大丈夫かな…。