[イナズマ]多分…私は、貴方を愛しています

作者/伊莉寿(元・西木桜)

The requiem.





全てが消えそうな世界。


小さな雫に映る碧。


そこで、少女は歌をやめなかった―――――。






*+*歌うだけ、この想いが君に届くまで。*+*



平凡な毎日が崩れさる。

どうしたら良かったのだろう、僕はそれを考えることしかする事が無かった。
サッカーボールを蹴ろうとも、強く脳裏に焼き付いたあの光景が何度もよみがえって僕を止める。

ただ、この島に生まれたというだけで。
ただ、守りたかったというだけで。

そう考えて、振り払った。
違う、この島に生まれたから良いことだってあった。
守りたいと言ったって、僕は一体何をしたんだ?ズルをしただけ、なら悪いのは僕じゃないか。

どうしようもなかったんだ。




零れる涙が、ゆっくりと波紋を作りだした。













『…シュウ君?』

歌を聞くのが好きだった。
彼女の歌。…綺麗でどこまでも広がる、蒼い空みたいなその歌が。
けれどその時は、ひび割れて乾燥した僕の心に、しっとりと森に降る優しい雨みたいな歌を歌ってくれた。じんわりと染みて、心が穏やかになって、僕は気付けばまた涙を流していた。枯れない僕の涙。泣いてるなんて気付かれたら何となく嫌だった僕は、涙を拭いて気付かれない様にと思った。
でも、何でもお見通し、なんて言葉を言いそうな彼女はゆっくり微笑んだ。


あの後は、全てが壊れて、感情が消えそうだった。

いっそのこと消えてしまえば楽なのに、その歌が僕の心を癒すから。

また悲しみが、涙になってしまう。





『シュウ君、こういう時は、泣いても良いと思うの。』

『でも、雨の後は晴れないといけないのと同じ。泣きやんだら、また今までみたいにサッカーするんだよ?』

『そうしたら、ヴィエルジェの歌が人の役に立てたって思えて、私も嬉しい。』


ふんわりと少女は微笑む。
桜色の髪、深い藍、同い年に見える彼女は、ヴィエルジェと名乗った。


僕はまた、サッカーをしてる。
それは、どうしてだろう。
嫌な思い出のある球蹴りでも、やっぱり僕は……。ううん、やめよう。考えたって、答えが出た例なんてないんだ。

ある日突然、森から彼女の歌が消えた。
最後に彼女は、僕の前で歌った。何語か分からないけれど、レクイエム。そして、歌い終えた彼女は僕に言った。

その声が、僕の耳から離れない。




『シュウ君、ごめんね。私なの、君に苦しい想いさせた張本人…。』

『本当に、本当にごめんなさい…』







初めて、少女の涙を見た。
泣かないで、という声は届いたのか、届かなかったのか。金色の風が彼女をさらって、それから僕は会えない。
また、僕のせいなんだ。弱いから。




ねえ、ヴィエルジェ。



僕は理解出来たよ。

君がどこに居るのか。

もし僕が君に会いに行っていなかったとしても、また会える気がするんだ。


もう少し。


試合終了のホイッスルが鳴ったら、カウントダウンが始まるよ。






ヴィエルジェ、その時は、またあのレクイエムを歌ってね…