[イナズマ]多分…私は、貴方を愛しています
作者/伊莉寿(元・西木桜)

*短編 Snowy recollections雪の思い出
私は、アツヤ君のこと…好きだったのに。
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どうして、吹雪君を見ると苦しくなるんですか…?
*
「こゆちゃん、おはよう。」
「!士朗君…」
北海道の冬は寒いです。
熊殺し、などの異名を持つ吹雪士朗君の幼馴染みの私、雪原小雪(セツハラコユキ)。白恋中サッカー部で1人マネージャーをやっています。士朗君とは家も近いので、私が家から出て来たらバッタリ…と言うのは最近良くある事で。
「…今日、雷門中サッカー部が来るんでしたっけ。」
「うん。」
頭の隅の方で…明るい笑顔が見えた気がします。
今日は、あの事故があった日。吹雪君のご両親、私の両親、そしてアツヤ君の命が消えた日。傷は癒えずに心の中にあるんです。
雪は、全部全部飲みこんで行って…。冷たくて、絶望するしかない状況。士朗君は雪に飲み込まれなかった、逆に言うと士朗君以外全員雪に飲み込まれてしまって。私も、雪の中でもう命を諦めたんです。
「…!」
私が、冷たかったから。
…雪の中で触れた、アツヤ君の手のひら。温かくて、私はその小さな手のおかげで命が助かったんだって、ずっと思ってるんです。なのに、アツヤ君は助からなかった。
初めて士朗君の体にアツヤ君の人格が出来た時、信じられなかった、けど…優しかったんです。
本当に、アツヤ君なんだって思って…。
『…アツヤ、君?』
『ああ。…良かった。』
『?』
『…小雪が、生きてて良かった。』
*
いつかは色あせていく物、それが思い出。
でも、きっと…彼女の中の思い出は鮮やかになっていく…。
「っ、こゆちゃん?」
「!!」
「大丈夫?涙出てるけど…」
きょとんとして目を見開いてから、こゆちゃんは指で涙をぬぐった。
今日はあの事故があった日。…だから、思い出に浸ってたのかな、と予想する。こゆちゃんは、アツヤが好きだったと思うんだ。…胸がチクリと痛む。
こゆちゃんはアツヤの前ではいつも以上に笑顔を見せてた。
…何故だか最近はそんな事もないらしいけど。僕に乗り移ったアツヤの人格が、昔と違うって心配する位。こゆちゃんの中でも色々思う事があるんだろうな。……でも、〝彼女は昔アツヤが好きだった〟と言う事は、ずっと変わらない。そして、〝今でも心の中で想い続けている〟のも、変わらない事実。
アツヤはこゆちゃんを助けた。あの事故の日、救助されたこゆちゃんは雪の中でずっとアツヤの手を握り締めてて。それで助かったのは僕にも分かる。僕は助けられなかったから、それがずっと悔しい。
僕だって…。
そう言っても、こゆちゃんを困らせるだけなのは分かってる。だから、心の中にしまっておくしかないんだ。
いつか、彼女の中の思い出を、僕が越えられるその時まで…。
雪の結晶のように美しい思い出を、僕はどうしたら越えられるんだろう…?
*fin...*

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