コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 過去掬い
- 日時: 2012/07/14 08:57
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: vKymDq2V)
狐乃宮は小説初心者ですが、よろしくお願いします。
過去掬いというのを書いていくので、良かったら読んでやって下さい(‾^‾)ゞ
『過去掬い』は『アオハルラセン。』と少しだけ関係しているので、そちらもよろしくお願いします。
過去掬い
あらすじ
高校生の蓮は、鬼火に誘われ気付いたら過去にいた。 そこで、出会った少年、千夜は元人間、今は半分が神のものだと言う。勿論、人の方が多いが、下宿屋の女主人は狐 の妖だし。千夜の友人も妖に半妖だった。
そんな中、蓮は千夜の過去に触れる。
個性ある住人との笑えて、少し感動できる物語。
……に、なったらいい。
第一章 今は昔。
登場人物
進藤 蓮 シンドウ レン
東堂 千夜 トウドウ チヨ
谷崎 陸人 タニザキ ロクト
井村 奈七 イムラ ナナ
井村 秀介 イムラ シュウスケ
堀 八散 ホリ ヤチル
香斎 梢 カサイ コズエ
其の壱
廃ビルに鬼火が出るらしい。
友人が言い出したのは、古今東西を問わずに話題になる怪談話だ。
大抵、その手の話は信用ならない。
「大丈夫。話の元は草野さんだ。信用できる」
言っておくが、自分に草野という知り合いはいない。
「俺の夢に出て来たお姉さんだ」
「絶対に信用ならないな。それ」
蓮は素直な感想を言った。胡散臭い。
「大丈夫、大丈夫。無問題!」
友人は楽しそうだ。
結局、押しの強い幼馴染に言われるがまま、蓮はその鬼火見学に行く事になってしまった。
鬼火と言うのは、科学現象だという話を聞いた事がある。だったら、ここで起きたというのは嘘だろう。
廃ビルには、何もなかった。科学現象を起こせるに足る要素が皆無だった。
しかし、
「おぉ。いい感じ」
友人は満足気に頷いた。「鬼火が出たら、ちゃんと教えろよ」
蓮は、おざなりな返事をして、更に別の部屋、奥へと入った。恐らく、鬼火とご対面することはないだろうと、半ば、面倒くさがりながら奥へ奥へ入っていく。
「何でも、ここは昔は山だったのに、それを更地にしてビルを建てて、住んでいた狐が怒ったらしいよ」
友人は期待を隠さずに辺りをキョロキョロしている。僕達もう、高校生。世間から見ると、暇だなぁと言われるだろう。
「狐の鬼火? だったら、もうちょっと派手な百鬼夜行とかだせばいいのにな」
「……蓮が俺の夢を壊す」
「いや、お前の夢なんて正直どうでも」
「冷たいなぁ」
蓮は気にせず、次の扉に手を掛けた。何だ。やっぱり、鬼火なんていないじゃないか。蓮は自分も少しの期待をしていたことに苦笑する。
喉元までそれが来た時、ーー気が付いた。
「何だよ。……これ」
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- Re: 過去掬い ( No.28 )
- 日時: 2012/07/14 14:05
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: exZtdiuL)
狐乃宮でーす。
前の話で「草野って誰だよ!」っとか思った人は第一章とか見直して下さい。
其の弍
「蓮。起きたのなら千夜も起こしてくれ」
八散がそう言うのが聞こえたが、返事はできなかった。
頭はスッキリと冴えているのに寝た気がしない。目に入る世界が淀んで見える。明るい場所から暗い場所に連れてこられ、目が慣れないようだ。
「蓮?聞こえないのか。それとめ目を開けたまま寝てるのか」
八散が言う。その横を大きな金魚が泳ぐ。
鮮やかな赤の金魚。ひらひらと長い尾ひれを動かしている。
「それ。また八散さんの幻ですか?」
「それ?」
よく見ると、小さなモノから大きなモノまで、いろいろなモノがたゆたっている。
確かに、もっと派手な百鬼夜行とかを出せばいいのにと言ったが、
……どうして急にこっちに来た時のことなど思い出したのだろう?
むしゃくしゃとした違和が蓮を襲う。そして思い出した。さっきまでいた白の世界。神楽飾りの女性。だが、その顔が思い出せない。白い光が邪魔をして、雲が太陽を隠したようにポッカリと黒い。
もっと、もっと感覚を研ぎ澄ませ。あのヒトは何だったっ!?
しかし、その前に集中力が切られる。
八散が大胆に笑い出した。
「蓮も大分こちらに浸かったらしい。昨日のが原因か」
「浸かる?昨日の?」
「ああ。金魚が見えたんだろ。こいつらは妖に近い思念だよ。普通は妖でないと見えない。だが、昨日はずっと神霊地にいたんだ霊力みたいなのが感化されたんだろ」
「思念」
金魚が空を泳ぐ。鮮やかな赤。あのヒトも艶やかな赤い着物を着ていた。
思念だったのだろいか。
「害はない。言わば、ヒトやモノの思いが強くて収まらずに出てきちゃった奴らだ」
八散が金魚を見ながら、言う。その顔が何処かピアスをいじる千夜に似ていた。
「さあ。陸人でもいいから千夜を起こしてきてくれ」
「えぇぇ」
陸人がいるのに全く気づかなかった。後ろから不平不満を伴った声が覆いかぶさる。
「陸人は階段にいるんだ。二階に上がる労力が半分で済む」
「つまり?」
「後は任せた」
またも声が覆いかぶさる。「はぁぁ?」
千夜はあまり深い眠りに落ちない。朝は早いし、夜は遅い。トコトンの行動的生活である。だが、その代わりに一度深い眠りに落ちるとなかなか目を覚まさない。その上、行動的な千夜らしく、寝ぼけた身体で防衛本能が働き無意識に攻撃してくる。強いのだ。これが。恐ろしく。
蓮は過去に来た始めの朝にその洗礼を受けた。それはもう痛かった。
ずっと暮らしていた陸人がそれを知らないはずがない。それでも渋々と行くのだから、蓮は陸人をいい奴だと思う。だからこそ千夜も絡んで行くのだろう。気になる奴には何でもちょっかいを出したくなる。
「千夜。起きろ」
陸人は千夜の寝る布団を蹴った。んん。と呻きもせず、反応がない。
「千夜」
再度名を呼ぶ。意味のない行為だった。
「千夜」
三度目の正直ーーかと思いきや千夜の右の拳がとんできた。本人はすーと寝息を立てている。
「おいっ!起きろって」
結局、陸人は左頬に傷を作って千夜を起こした。
蓮はしみじみと、
(罪なき不幸モノだ)
と思った。
隣で千夜がほんのりと目を開けていた。
- Re: 過去掬い ( No.29 )
- 日時: 2012/07/17 14:13
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: exZtdiuL)
其の参
千夜と蓮は井村家に向かっていた。陸人は誘っても面倒だと一蹴し、八散も出不精の様でこなかった。
「暑いな」
千夜が鼻の頭に汗を垂らしながら言う。蓮に答えを求めた言葉でないことがありありと伝わったので特に何も言わなかった。
不機嫌な太陽が二人を親の仇かのように照らす。眩しいを超えて目が焼ける。青々とした草花が二人をクスクスと笑った。
7月ごろだが日は暑く、湿気が生ぬるい。純粋に暑いだけよりもそれが許せない。
井村家には風鈴があり、撒き水もしていたから助かった。
「今日は?」
秀介が首を傾げる。
「夢を見たんです」
言ってる側で、八散の言う『思念』が様々な形をして漂う。どうやら、秀介や梢にも見えていたらしい。
「鬼灯神の山に居たからとかじゃなくて、その夢を見たから見えるようになったんだと思うんです」
「思念を?」
金魚や鳥、形のないモノまでヒトの思いは愚直なまでに現れている。それが視界の端をチラチラする。
「どんな夢を見た?」
千夜と奈七は夕食の材料を買いに市に言った。ここの収入は、家を出て働いている母親からの仕送りと秀介が行っている塾のものらしい。
ちなみに八散の下宿屋は、住人がほぼと言っていいほどいない。何処から金が入るのかと言うと、様々な支援から成せるものだと言う。とんだ職権乱用だ。
千夜や陸人は時偶、未来で言うアルバイト、今で言うお手伝いをして稼いでいた。主に力仕事だが、蓮もこっちに来て何度か手伝った。軟弱な現代っ子には辛かったがそれなりに楽しかった。学校の研修を思い出す。
「草野さんの夢を……」
「草野さんって誰だ?」
「……そうですよね」自分の反応に間違いはなかったと確信する。あっさりと認める友人がおかしいのだ。
「そもそもあの日に廃ビルに行こうと言い出したのは友人で、その理由が噂の鬼火を見に行こうっていうのだったんですよ」
秀介が得心がいったと頷く。「鬼火の灯火で鬼灯神だからな」
「はい。それでその友人が鬼火の噂を聞いたのが、夢に出てきた女の人からだって言うんです」
「それを信じて今ここにいるのか」
秀介の言いようが痛くを苦しめる。
「帰ったら、そいつは殴ります」
「はは。当てようか。女の人って言うのが草野さんなんだろ」
秀介はただの変人ではない。賢い変わった人だ。ちょっと残念な所があるが、話が早くて助かる。蓮自身はというと、説明口調は大概下手で、伝えたいことはいつも悪戯にまとまらない。
「その通り。で、今度は俺が草野さんの夢を見た」
蓮は全てを話そうと努めた。しかし、自分もわけが分からない所が多くあるのだから、いつも以上にわかりにくい。それでも自称草野さんのことは、出来るだけ鮮明に伝えたつもりだ。
彼女の見た目はヒトであった。しかし、八散のようにヒトの姿をしているだけで、ヒトではないのかもしれない。浮世離れした雰囲気の女性だった。
「もしかしたら、草野さんが鬼灯神なのかもって。声も一緒だったし」
「鬼灯神ね。だとすると本当に読めない神様だ。一体今頃出て来てどうするつもりだ?」
蓮も知りたいものだ。こっちに来てからどのくらいになる?始めは数えていたが、それめ最初で諦めた。
「俺はてっきり千夜みたいに俺も帰る気がなくなる程いるのかと」
「はは。それでも千夜達と試行錯誤していたんだろ」
「俺は、結構負けず嫌いの諦めが悪いんです」
母譲りの精神だ。父も面倒臭がりだが、いざとなったら根性がある。らしい。両親の幼馴染、例の友人の父親に聞いた。他にも母にはすぐに人に抱きつく癖があったとか(それは今もだが)、二人とも人のことを別れろ別れろ言っていたとか(それも今もだが)とにかくいろいろな話しを聞いている。
「負けず嫌いね」
蓮がそんなことを言ったのが意外だったらしく、秀介は繰り返し負けず嫌いと言った。
「何か分かりそうですか?」
「オイオイ。無茶を言うな。偶然で済ませるには奇怪だが、必然を考えれる程現実的ではないな」
そう言うが、今更現実的などと言われても。
今もチラチラと形を得た思念が漂っていた。
- Re: 過去掬い ( No.30 )
- 日時: 2012/07/17 17:01
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: exZtdiuL)
其の肆
蓮は一人で帰路についていた。千夜と奈七が思ったより帰るのが遅かったからだ。
一人で道を歩くのは、殆ど始めてである。いつもは千夜が面白がってついてくるからだ。どうやら、蓮は千夜の好奇心のちょうどいい的になっている。まあ、そのおかげで右も左もわからない過去でやっていけてるのだが。
しかし、今回は一人で歩いているとひどく頭の中が混乱する。考えれば考える程に無知の谷に突き落とされるみたいだ。または、不知の池に頭を漬け込まれている。
苦しい。
しかし、蓮は心地よいそよ風を感じて顔を上げた。
鬼灯の山の木々が蓮への優しさのように日陰を作っていた。もしかするとあの夜に怖がらせたお詫びかもしれない。
天然の森を抜ける風は少年の髪を優しく擽っていた。
壮大な世界を感じ、蓮は無性にあの鬼灯神の社を見たくなった。過去に来た日、千夜に会った日に見たあの社。感じた胸の高鳴りが鮮明に身体を掛ける。
躊躇を感じることも無く、蓮は鬼灯神の山に足を踏み入れた。
「蓮は鈍いよな」
友人に言われたことがある。そう言った友人も彼女と喧嘩したすぐ後で左頬に赤く腫れた後があった。
「何で?お前が有沙に怒られて殴られた後だってすぐに察したけど?」
「……有沙が怒った理由がわからん」
どっちが鈍いのか。
どうせ有沙の不器用さをからかったりしたのだろう。
友人は生来の性質で人をからかったり、怒らせたりするのが上手かった。
それでも幼馴染でいられたのは、本当は有沙より不器用なだけの優しさがあるからだ。
蓮は無下に扱うこともあった友人が正直に大事な友人であると言える。
「そういう意味で行ったんじゃないけど、蓮は鈍いよ」
調子良く笑った友人は、今思うと千夜に似ていた。
だから、千夜とも気兼ね無く話せるのだろうか。
鬼灯神の社に着く直前にそんなことを考えた。
どうせなら、千夜を待って、陸人も誘って来たら良かった。社の後ろに沈む夕日はさぞかし美しかっただろう。
生憎。今は蓮一人で夕日にはまだ早い。
太陽に届くことを願って伸びる草は大きく育つ。それを踏んで、蓮は社の前に出ようとした。
ガッシャン
しかし、片足をあげたまま止まる。社の裏から何かが割れる音と、
「ああー!」
驚きと悲しみを湛えた声がしたからだ。
ーー何だ?
蓮はあげた足を降ろす位置を変え、社の裏を覗き込んだ。
少女がいた。奈七よりも幼い、小学一年生ぐらいの少女だ。
その前で、皿だったと思われる物が無惨な姿に成り果てている。
気づかれていないと思ったが、少女は気丈な顔を迷いなくキッとこちらに向ける。それでも愛らしい顔のせいで迫力に欠けている。思うに愛されて大事に珠の様に育てられていそうだ。
「だれぇ?」
呂律が回らない口調は怯えはないが驚きがある。申し訳ないことをした。蓮は瞬時に後悔した。
「えっと……」
すぐに安心させてあげたい所だが、名前を言うのは意味がないことである。この「だれぇ?」は、お前は何者だ?であって、蓮には未来少年ということ以外に肩書も何もない。
「だから……」
「香夜?何処だ」
口ごもる蓮の後ろで誰かが誰かを探す声。見る見る内に、少女の顔が驚きから喜びにかわる。
「ここー!!」
少女が声を張り、蓮の隣に来た。
そして、朗らかな笑顔を蓮に向けた。
「お皿は勝手に割れたのね」
子供らしい、秘密に頬が木の実みたく朱に染まる。
人見知りしないところと無邪気な笑顔が千夜を思い出す。
「勝手に皿が割るか」
蓮が通った獣道から人が出てきた。
少女の頭を軽く撫でながら蓮を見る。
「香夜が迷惑かけなかったか」
「わたし、迷惑なんてかけないよ」
「香夜のせいで今日の飯は無しだな。皿がない。」
「えぇ!だってお皿は勝手に割れたの」
「勝手に皿は割れないの」
「じゃあ、かまいたちのイタズラね」
この二人は兄妹だろうか。えらく年の離れた兄妹だ。
「鎌鼬ってな。まあ、怪我はしてないな……お前め破片とかは大丈夫か?」
前触れのない質問への返事は口籠る。
「だいじょうぶ。顔は怖いけどかみつかないから」
カヤが蓮の裾を引っ張った。
男の顔は目付きが少し悪い。つり目の下の左頬には浅い切り傷があった。
その上のつり目が僅かに開く。
「お前、八散の所の奴か。だったら日が落ちる前に帰れよ」
「ぇ?何で?」
「夜の山なんて変な所に力が集まって危ないだろ」
違う。どうして八散の所の居候とわかったのかが知りたいのだ。
「お兄ちゃん帰るの?」
「へ。うん」
しかし、男の言うことも尤もなので、蓮はすぐにでも帰るべきだと思った。
「またね」
カヤが次の機会への期待に笑顔を蓮に向けて手を降るものだから、そのまま有耶無耶に蓮も手を降ってしまった。本当はどうして皿を持って神霊地などに居たのか訊きたかったし、蓮の素性を知っていたのかも、男の名も訊きたかった。
八散の下宿屋の前で蓮もカヤや千夜の様に無邪気に笑った。
次にカヤと名も知らない男に会うのはいつになるだろうか?
それはそう遠くない気がする。
蓮もカヤと同じ次の機会への期待に胸を躍らせた。
- Re: 過去掬い ( No.31 )
- 日時: 2012/07/20 22:15
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: exZtdiuL)
第六章 井村。
其の壱
蓮が帰って来てしばらく、千夜も帰ってきた。その千夜の横に何故か梢もいて、千夜自身も後髪をいつもと違い縛っている。着物にそんな髪型を千夜の顔立ちでしたら、まるでマンガの様だ。おまけに、いつもしている例のピアスが左耳で揺れる。率直に言うと、チャラい。
「どうしたんだ。それ?」
若干引き気味の蓮と、それ以上に気持ち悪そうな千夜。
「梢さんに襲われた」
「誰が誰を襲うのよ。暑そうに唸るぐらいなら、縛っちゃいなさい」
千夜はやはり、梢には弱いらしい。縛っているゴムを解く気配はなかった。
八散が呆れた様に言う。「お前は女装も似合いそうだな」
陸人が上で寝ているのは、千夜の幸運、陸人の不運だろう。復讐にこれ程いい機会はない。
「本当にいいな。今日は面白い日だよ。変な兄妹には会うし、千夜が、千夜が、ゴメン!我慢できない。は、あはは!何だよそれ、チャラいな!」
堪えきれず吹き出した。千夜が恨めしそうに蓮を睨むが、我慢できない。
「明日の朝、腕が変なように曲がってても、ただの自然現象な」
恐ろしい予言に笑いだけでなく息も呑み込んだ。
「嘘だろ?」
「自然現象だ。こればっかりは知らないな」
一変変わった得意気な顔が不安を起こす。
「で、変な兄妹って?」
それが冷め切らないまま梢に話題を降られ、返事が遅くなった。それを知ってか知らずか、千夜が蓮よりも早くに話を膨らます。梢が妙にバツの悪い顔をしていた。
「井村兄妹のことか?」
「違うよ。だったら秀介と奈七だと言う。何かヘンテコリンなポンポコリンな兄妹だった」
ヘンテコリンなポンポコリンと言ったら、あのデコボコ兄妹もである。案外、自分と神楽もヘンテコリンなポンポコリンなどと言われているのかもしれない。
確かに姉は変わった姉だったが、自分まで同じ扱いなのは不満である。
「秀介と奈七と言ったら、あの二人は何か言ってなかった?」
梢が蓮と千夜を見る。こちらが話をしに行っていたのだから、まったく向こうの話は聞かなかった。
「そう」
「どうかしたか?」
「帰って来たのよ。加奈子さん」
「あぁ。もうそんな時期か。道理で暑い筈だ」
八散が胸元の着物をパタパタと扇ぐ。梢の顔がその度に険しくなる。
「加奈子さんって?」
梢の怒りで九尾との妖怪大戦争が起こる前に気を逸らした。
千夜がピアスを気にしながら言った。
「母親だよ。二人の」
母と言うことばが聞き慣れない異国の音に聞こえた。
- Re: 過去掬い ( No.32 )
- 日時: 2012/07/22 20:10
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)
其の弍
母は大胆に笑った。
「さすが私の家族ね」
裏も表も捻りもない褒め言葉は、幼い子どもをあやすように素直で、すごくくすぐったい。
「ただいまー」
母の顔を見たのは一年振りだ。しかし、感動的な戯曲のような言葉はなく、秀介の顔を見てそれだけ言った。
問題は、再開の感動がないことではない。
「帰るなら知らせてくれれば、奈七と迎えに行った」
知らせがないと、母親がまるで珍客である。
「いいのよ。それより奈七は?寝てるの?」
加奈子は我が道を行く様子で辺りを見回した。広くない部屋だ。そんなことをしなくても、人の気配はない。
嬉しそうな笑みを顔に浮かべて奈七の寝る部屋の障子を音を殺して開けた。
奈七は深い眠りに落ちていて、目を覚まさない。
加奈子はまた、静かに障子を閉めた。
「奈七はまだ、練習中なのね。やっぱり私の子どもだからかしら?」
秀介の父親は、秀介が生まれてすぐに死んだ。病だったらしい。だから、秀介にその父親の記憶は無い。だが、奈七と同じ父親ーーあの雷鬼のことは覚えている。
背の高い、たくましい姿をしていた。生まれたばかりの奈七が加奈子とのあいだで泣き笑いをしている。
加奈子は、そんな風に妖とヒトの関係を気にせず生きている。
だが、加奈子に思念の塊が見えたことはない。
それどころか、ヒトの姿をしていないと、陸人も八散も見えなくなる。
加奈子の目は、加奈子に違う世界を見せることを頑なに拒む。
『怖い時があるの。奈七が私の前から消えちゃうんじゃないかって』
加奈子が以前に一度だけ、弱音をはいた。
家を長く開ける仕事に始めてでた時だ。
『あのヒトも見えない』
逞しい母が、何かに怯えていた。
『大丈夫ですよ。加奈子さん』
自分が言うべき言葉を模索する前に八散が明るい声で言った。
『秀介が加奈子さんも奈七も守りますから』
……俺かよ。
本当に我が道を行っているのは、八散かもしれない。
その場に居た、梢達も笑って秀介を煽った。
「大丈夫だろ。アンタの娘だ」
加奈子がクスと見慣れた笑みを零す。
「当たり前でしょ。私は運動神経いいんだから」
「そういう問題?」
久しぶりの一家団欒だった。
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