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偽家族コンプレックス
日時: 2013/09/26 08:06
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

†登場人物†



御崎 佳音 MISAKI KANON

朝香 陸 ASAKA RIKU

椎名 星夜 SIINA SEIYA

朝香 空 ASAKA SORA

藤宮 堅都 HUZIMIYA KENTO

柏倉 瑠璃 KASIKURA RURI



†プロローグ†



紅一点の少女は幼なじみが一番大切で

双子の片割れは少女の笑顔が大好きで

冷たくても優しい少年は自分を知らなくて

双子の片割れはずっとこの関係が続いて欲しくて

ポジティブ少年は死んだ少女を忘れられなくて

天使になった女の子の面影はいつまでも残っていて


偽の家族の少年少女は何を想って育つのだろう————



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Re: 偽家族コンプレックス ( No.7 )
日時: 2013/12/29 22:18
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

■006■


「誰か待ってる? 呼ぼっか?」
「あ、ありがとうございます」

 突飛な言葉を発せられて、一瞬固くなるが、しっかり礼を言う。

「誰?」
「えっと、柏倉……じゃなくて、朝香陸をお願いします」

 来る途中は瑠璃にしようと思ったのだがここに来て、陸が怒りそう、と思う佳音の若干かわいそうな思考であった。
 朝香陸を、と言うと男子の眉がピクンと上がった。そして、佳音をじっと見てゆっくり口を開いた。

「お昼ご飯を作ってきた、とか言うんだったら止めた方がいいと思うよ?」

 思わず佳音は目を丸くして、一度瞬きをした。彼が何を言っているのかが理解出来なかったのだ。

「えっと……その逆、何ですけど」
「は? あいつは家族の手作り弁当だせ?」
「あっと、えっとですね、私がそのお弁当を入れ忘れたって言うか……陸、呼んでもらえますか?」

 佳音は内心、何でそんなに陸のクラスメイトの男子が気にするかを考えていた。そして、一つの答えが出せた頃には呼ばれた陸が立っていた。

「何? わざわざB組に来るって珍しくない?」
「う、うん。あの、陸、ごめんね」

 とても不思議なモノを見るような目で陸は佳音を見つめる。だが突然、廊下で頭を下げ謝った佳音に、驚き、言葉をなくす。

「お弁当、入れるの忘れちゃった」
「あ、え、そんなこと?」
「そんなことって……許してくれるの?」
「ああ。空達のもだよな。おれが言っとくよ。ちょっと待ってろ。購買、行くよな?」

 当たり前と言うような口ぶりに呆気にとられる佳音を待たせて、陸は一度教室に戻った。しばらくして黒い財布を持ってきて、それを無言で佳音に押し付けようとしたが、何を思ったかその行動を止めて口を開いた。

「瑠璃には何を買ってくれば良いか、佳音が聞けよ」
「え? 何でよ……って、ああ、そう言えば」

 陸がしようとした行動が思い浮かんだ。それと同時に自分に全部頼むのではないという、さりげない優しさも感じられた。
 購買は昼休みになると生徒が集る。それは、彩菜の言ったように戦場である。佳音は気付いていないが、それを知っている陸は地味に佳音が困らないように付いて行こうとしたのだ。

「瑠璃ぃ〜!」
「はいっ? あれ、佳音。どうしたの?」

 教室に向かって、お馴染みの身長が高く漆黒の艶やかな髪の美少女を呼び出す。すると、直ぐに気付いて小走りに出入り口へとやって来た。
 佳音と数分前話をしていた男子二人が、その美しくかつ可愛い瑠璃の姿に一瞬息を飲んだが、歩いて何処かへ行ってしまった。

「あのね、私、皆のお弁当を入れるの忘れちゃったの」
「え、そうだったの?! 今から食べようとしてたんだよー」
「ごめん〜っ! 今から購買に行くけど、何食べたい?」
「じゃあ、鮭のおにぎりと卵サラダセット、お願いできるかな」


Re: 偽家族コンプレックス ( No.8 )
日時: 2013/10/08 17:36
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

■007■


 購買部がせかせかと働く正面玄関前では、陸が想像していたよりもずっと長い列が何本もあり、大きく乱れながら並んでいた。佳音と陸は最後尾に並んだが、五分以上は待ちそうである。
 佳音よりも陸は十センチ程、身長が高い。佳音は少しずつ伸びているが、中学生男子の陸はここ少しでものすごく伸びた。

(何を考えてるのかなぁ)

 その無言の陸の表情を読み取ろうと隠れながら、顔を盗み見しようとして斜め上を見上げると。

「……何?」

 目がばっちり合ってしまった。目を細められ、佳音はあたふたする。都合の良い言い訳を考えたが、頭の回転が特に早いわけでもない佳音には不可能だった。

「えぇっと……、やっぱり空と似てるなぁって……」
「嘘だな」
「はい」

 適当にごまかそうと、彼のそっくりな双子の片割れを思い出したのでそれを使ったが、あっさりと切り捨てられて終わった。佳音も無駄な抵抗はせずに、素直に諦める。陸を再び見るのがちょっと怖くて俯く。

「あ、そうだ。堅都に何を食べたいか聞いてくるの忘れてた」
「行ってこいよ。どうせまだ順番は回ってこないだろ」

 ふいに思い出してそう言うと、陸はすぐに答えた。

(いつの間に、身長抜かれたんだろ……)

 寂しさのような不思議な感情が、佳音の胸に宿った。
 なるべく早く帰ってこようと、気持ちは走るくらいで自分の教室に向かった。

「そうだね、おいなりさんセット的な? それ、よろしく」

 お昼ご飯がないことに丁度気付いた様子の堅都に、状況を説明して訊くと、そう言われた。オーケー、とおどけて敬礼のポーズをする。佳音がまた購買に向かい出して姿が見えなくなった時、彩菜が堅都に話しかけた。

「ミサキも忙しいねぇ」
「……あ、上杉か」
「わ、忘れられてた?!」

 一瞬だけ間をおいた返事に、彩菜は半分は本当にショックを受けたような声をする。

「ま、良いや。山鹿が呼んでたよ」

 親指を後方に向ける。

「ん、ありがと。……あのさ、佳音って友達いる?」
「それはまた、大胆な質問だね」
「瑠璃以外は、上杉としか喋ってるの見たことないからさ」

 慎重な声音で訪ねた堅都。彩菜は相手を見透かすような瞳で、じっと佳音の家族である堅都を見つめた。肩につくぐらいまでの長さで切った黒髪を、そっと払う。

「瑠璃さんってD組の柏倉さんでしょ?」
「そう」
「藤宮くんは、ミサキより柏倉さんの方が好き?」
「……二人とも、大切な家族だ、よ……」
「ふぅん。そうなんだ。ミサキには私がいるけど、異性としてミサキのことを一番に思ってくれる人ができるまでは、柏倉さんはとっちゃダメだよ。大切な家族だと思っているならね」

 ふっ、と堅都が息を漏らした。苦笑いを浮かべている。
 彩菜に大抵のことがお見通しで、嫌だとは思わない。が、分かってしまうものなのか、と諦めが混じった思いが過る。

Re: 偽家族コンプレックス ( No.9 )
日時: 2013/10/15 18:45
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

■008■


「おぉい、ふっじー」

 山鹿の声が届く。堅都はそっと身を翻して、呼ばれた方へ向かった。


 佳音が購買に戻ると、あと二三人で買えるところだった。さっきから行ったり来たりで多少疲れているが、やっとお昼ご飯にありつけるということで自然と笑顔になる。
 陸は佳音に背を向ける格好で立っていた。佳音は陸に声をかけようとする。

「陸、聞いてき——」

 が、しかし、陸が誰かと話をしているのに気付いて、言葉を切った。体をちょっと伸ばして見ると、嬉しそうに笑う女の子とその友達らしき人物だった。

「この子、ぼーっとしてたら間違えちゃって」
「そしたら、和歌が朝香君にあげたらって言うから」

 どうやら、買いすぎたお昼ご飯をあげようとしているようだ。
 佳音は先程、B組の前で陸には昼食をあげても無駄、ということを聞いた。あの時にも直感で感じたことが、また思い出された。

(陸は、モテるんだよね)

 陸に限った話ではない。同じ容姿である空も、見るからにイケメンという星夜もなのだ。家族がバカみたいにそんな、と冗談だと思っていた佳音だが、最近は本当だということに気づき始めている。
 良いスマイルで優しく断った陸は、ちらっと佳音に視線を寄越した。

「遅い」
「遅くないよ。直ぐに帰ってきたもん」

 一瞬、どうしてこのタイミングで話しかけるの、と不満を抱いた。もちろん、女子二人も佳音という存在に目を向ける。あんた誰。明らかに瞳が語っている。

「あぁ、じゃ、気持ちだけでも嬉しいから。本当にありがと」
「あ、いえいえ。朝香君、だぁれ?」

 和歌と呼ばれていた、昼食をあげようとしていた子の友人がすかさず佳音のことを訊ねた。

「あ、えっと」
「幼なじみのようで幼なじみじゃない奴」

 佳音が答えようとしたが、陸が軽く無視して意味不明な説明をした。

「ふぅん。どうしてここに?」

 あまりにも積極的な質問攻撃に、彼女の友人さえもが若干ひいている。佳音があたふたしていると、陸が口を開きかけた。が、

「遅いから来ちゃったよ?」

 陸と全くもって同じように聞こえる声が響いた。佳音にはその声が空だと瞬時に分かったが、陸がつながりのない言葉を発したと思って例の二人は驚いている。
 空は振り向いた佳音の目を覗いた。それから、双子の片割れの隣にいる二人に話しかけた。

「あれ、確かA組の佐藤さんと澤木さん?」
「あ、はい」
「こんにちは。陸と話してた? じゃあ、僕が来たら面倒になるってことか」

 空の頭には、二人同時に話すな、と頭を抱える慎太郎の姿があった。

「あ、でも、もうすぐ順番か。一緒に持って帰るよ」
「……う、うん、よろしく。瑠璃の持って行ってくれる?」
「OK」

 空の乱入によって、A組の佐藤さんと澤木さんはあんぐりと口を開けている。そして、佐藤和歌さんか澤木和歌さんが言った。

「わ、私達、教室に戻りますね」

 言うなりもう一人の手を引いて、かけていった。
 丁度その時、陸が並んでいた順番が回ってきた。


Re: 偽家族コンプレックス ( No.10 )
日時: 2013/10/19 18:26
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

■009■


 全ての授業が終わり、生徒らは帰路についていた。佳音は靴箱の前で瑠璃を待っている。

「佳音、遅くなってごめんね。帰ろ」
「大丈夫。生徒会はいいの? 彩ちゃんは放課後に用があるって」
「ああ、それは、会長とか副会長とか重要役員だけだよ。星夜も残るらしいの」

 瑠璃は慣れた手つきで下駄箱に上履きを入れて、靴を取り出しながら続ける。

「上杉さんと星夜は一年にして凄く頼られてるんだよ!」

 よし、と靴に細い足を通す。そして、お待たせ、とだけ言って校門の方向へ歩き出した。気持ちよく吹く風が長い髪をなびかせ、瑠璃の魅力を大きく見せた。
 いつもは本当だと堅都や空も一緒に帰るのだが、今朝の一件によって止めておいた。堅都には帰る直前に教室で伝えておいた。瑠璃は決してきちがいなどではなく、恥ずかしがりやで可愛いことを家族は皆知っている。

「星夜って本当に一緒に育ったのかなって思うことあるよね」
「うんうん。あ、でも、瑠璃にもそう思うことあるよ?」
「えぇっ?! 無いよ〜。そう言えばさ、もうすぐおばあちゃんの誕生日よね?」

 驚いた瑠璃はクスッと微笑し、話をさりげなく反らした。おばあちゃんとは、八神玲子のことだ。

「そうだねぇ。プレゼント、何が良いかな〜」
「じゃあ佳音、次の土曜日に買いにいこう」
「うん」

 佳音は、屈託の無い笑みを浮かべた。土曜日が急に楽しみになったのだ。
 この時の二人には、この約束が悲劇を生み出すことなど、到底予想をする余地が無かった。運命的に出会った自分達が突然別れることになること何て——。

「あれ、ちょっと待って」

 瑠璃がふと足を止めた。スクールバッグの内ポケットに手を伸ばして、何やらごそごそしているのかと思えば、薄紅色の和風なカバーに包まれたiPhoneを取り出した。
 詩園は世に言う孤児の生活する場所だが、バックには日本でも指折りの会社による多大な資金援助が存在する。そのおかげで佳音達は生活に困るどころか、資金的には裕福な暮らしをしている。だから、小学五年生になった時に六人はそれぞれスマートフォンなるものを買ってもらっているのだ。

「……お兄ちゃんが、お米買ってきて、だって」
「じゃ、スーパー寄っていこう」
「詩園全員が登録しているヤツだから、男子に任せれば良いんじゃないの?」

 どうやら、LINEで慎太郎から送られてきたようだった。佳音も瑠璃と色違いのケースのものを取り出す。ロック解除をし、さっと読んでいるとバイブ音が鳴った。

陸『おれが星夜と買って帰る
  何キロ買っていけばいい?』

 画面にはそのように映し出された。しばらくすると慎太郎が、30、とだけ送って、付け足したように、

慎太郎『よろしく』

 と出た。次々と空、堅都、瑠璃が『よろしく』という意味の言葉を打っていき、佳音も慌てて送信した。

佳音『ありがとー よろしくね』

「ということで、陸と星夜に感謝しつつも帰りましょー」
「だね。あ、そうだ! 瑠璃ぃ、数学で分からない問題があるの。教えてっ」
「良いよ。お菓子食べながら、一緒に宿題やろうね」

 二人の少女はiPhoneを各々の入れる場所にしまうと、再び我が家へと歩き出したのだった。


Re: 偽家族コンプレックス ( No.11 )
日時: 2013/10/19 18:28
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

■010■


 住み慣れた自分達の家の門をぎぃっと開け、二人は敷地内に入った。広い玄関では慎太郎が誰かと電話をしている。佳音の存在に気付くと、口パクで『おかえり』と言い、微笑んだ。

「ただいま」

 小さめの声でそう囁くと洗面所に向かった。瑠璃も手を洗い終わり、二人は女子部屋のある四階に行くため階段を上がった。
 二階から更に階段を登って行こうとした時、瑠璃のスカートがきゅっと小さな力に引っ張られた。驚いて後ろに振り向く。すると、そこには幼女が。

「るりねーね、遊ぼ?」
「あ〜。……和香菜、今日は佳音ともう遊ぶ約束しちゃったんだ」

 詩園に暮らす子供の一人、四歳の大河内和香菜だ。あどけない声で言われると痛いが、お姉さん役である瑠璃は優しく断った。その代わりに、一つ。

「だから、明日は瑠璃お姉ちゃん、和香菜と遊ぶよ。これで良い?」
「うーん。約束だよ、良いね。絶対だよ」

 しぶしぶ頷いた、太股あたりまでの身長しかない妹のような存在に癒されながら瑠璃は、うん、と言った。佳音も思わず瑠璃と和香菜のツーショットに癒されて微笑む。

「じゃーねー、今日はしょうちゃんと一緒にりょうちゃんのお世話する」

 そう言うなり、廊下を走ってしょうちゃんとりょうちゃんの居る部屋に入った。
 佳音と瑠璃は階段の途中で顔を見合わせて笑い、足を動かして四階の自室に行った。

「瑠璃はさぁ、プレゼント何が良いと思う?」
「う〜ん……」

 女子二人はセーラー服を脱ぎ、私服に着替えた。佳音はベージュの短パンでつなぎ型になっていて、下はスパッツを履いて上は水色のタートルネック。瑠璃は真っ白な裾の少し広がったワンピースを着ている。
 高さがあまり無い机を部屋の中央に出して、向かい合って座る。机の上にはじゃがりことアーモンドチョコレートが入れてあるお皿と勉強道具が置いてある。

「そこ違うよ、イコールの後は93。和風な物が良いかな」
「ホントだ〜。和風な物かぁ。三人でおそろいにする?」
「あ、それ良いね。おそろいにして嫌じゃない物って何かある?」
「がま口の小物入れ、とか」
「すっごい良い! 高島屋にあるよね。土曜日、探しに行こ」

 途中からシャーペンは机に放置され、宿題は忘れられていた。
 盛り上がる二人の会話を途切れさせたのは、佳音の着信音だった。名前からなのか『カノン』に設定してある。カノンは電話だった。

「誰だろー」

 ぱたっと立ち上がって、充電していたiPhoneを手に取り、画面を覗いた。

「あ、え、星夜?」

 慌ててロックを解除して通話ボタンを押し、耳にあてた。もしもし、と訊ねるように言う。

『佳音?』
「私の番号にかけたんでしょ」
『まあ、そうだけど』

 電話を通して聞こえる星夜の声はいつものシャープさが無い。やけに優しく聞こえる。適当にやり取りをした後、佳音は終了ボタンを今度は押した。

「星夜、何だって?」

 瑠璃が透き通った声で訊いた。

「迎えに来て欲しい、って」
「は……ぁ?」



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