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偽家族コンプレックス
日時: 2013/09/26 08:06
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)

†登場人物†



御崎 佳音 MISAKI KANON

朝香 陸 ASAKA RIKU

椎名 星夜 SIINA SEIYA

朝香 空 ASAKA SORA

藤宮 堅都 HUZIMIYA KENTO

柏倉 瑠璃 KASIKURA RURI



†プロローグ†



紅一点の少女は幼なじみが一番大切で

双子の片割れは少女の笑顔が大好きで

冷たくても優しい少年は自分を知らなくて

双子の片割れはずっとこの関係が続いて欲しくて

ポジティブ少年は死んだ少女を忘れられなくて

天使になった女の子の面影はいつまでも残っていて


偽の家族の少年少女は何を想って育つのだろう————



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Re: 偽家族コンプレックス ( No.47 )
日時: 2014/05/18 17:55
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: VI3Pf7.x)

■032■


「愛……情?」

 さすがに想定外の返事だったらしく、ぽかんとする奏音に佳音は早口に嘘をつく。

「だってね、私の周りってなんか、そう! 恋愛とかリアル充実?とかそーゆーの全くないんですよ。小学校に解放された華の女子中学生の現実ってそんなもんなの?!って感じで」
「恋愛とかリアル充実とかがあなたにとって愛情なの?」
「えっ」

 まくし立てた後に真摯な目に捕まり、返す言葉に詰まった。
 一般的にたまたま出会っただけのこの人に私の身の上話をすることは普通なのだろうか、という思いが過った。佳音の生い立ちはかなり特殊なために、さらさらと身の上話や家族について話す人間には出来ていなかった。
 返答に困っていると、地下室のような書庫に人が入ってくる音がした。

「佳音?」

 暗いその場で入ってきた者にいきなり言われると驚くのは当たり前という訳で、肩をびくっとさせると声の主の方をさっと向いた。そして、そこにいた人の顔を見て安心する。

「どっち?」
「空。分かんなかった?」
「ここ暗いし。どうしたの?」
「迎えに来たんだよ。言っとくけど、もう八時だから。星夜と陸のLINEの数、恐ろしいよ」

(え、ええー)

 あの二人はやり始めると何でも止まらない質なのだ。空の言葉はリアルに佳音を不安にさせた。急いでポケットに入っているiPhoneを取り出し、LINEを覗く。すると、赤い丸の中には白い56の数。

「もう見ないよ、うん、そーしよ……。あ、この人は、えーっと、兄弟みたいなものです。こちらは杵島さん。空に教えてもらった、これ、探してもらったんだ!」

 恋愛とか何とか言っていた少女が同年代の少年と仲良く喋っている姿を見て、奏音が謎な表情を浮かべているのに気付き、佳音はお互いを紹介した。

「ども。で、もう帰るよね?」
「帰る帰る! ……LINEには空が送っといて」

 空は「おっけー」と呟くと何かコメントした。


「じゃあ杵島さん、さようなら」

 貸し出しコーナーで本を借りると、佳音は長い髪をひらひらと揺らし、無邪気な笑いを浮かべてそう言った。分厚くて重い本は空が楽々と持っている。そんな二人を見送ると奏音は至近距離の人にかろうじて聞こえるくらいの声で囁いた。

「愛情、ね…………」


「ほんっとーに見たんだってば! あ、そこ、信じてないでしょ!」

 ゆったりとした時間が流れる食後の一時。ばんっ、とテーブルをひっくり返しそうな勢いで真剣な顔の佳音は……そう、叫んでいた。
 食事の後のお風呂の順が最初だったために、ロングの茶髪は濡れていてしなれているようなのに、よく動く眉と大きな瞳は元気が有り余っている少年のよう。そんな寝間着少女に向けられる視線はこれまた多様。

「この科学の時代にか」

 半信半疑、というか一割信九割疑ぐらいの星夜はお風呂の順番が回ってきたことに気付いて立ち上がる。
 入れ代わりにリビングにやってきた堅都。

「なになにー? 科学とかなんとか言ってたけど」

 興味ありげにタオルを首にかけながら訊ねる。

「はっ。ありえねー。んなことあるわけねーだろ」

 そこ呼ばわりされ、佳音に何故か敵意をむき出しにされている陸は相変わらず。
 なっ、と肩を上げるも自分の言葉では信じてもらえないと思い、助っ人を捕まえる。

「空だって見たでしょっ?」
「んー……まぁ」
「ほらー」
「おい、空マジかよっ。佳音に洗脳されたんじゃねーの?! あ、正直に言っていいんだぞ」

 絶対自分より真面目だと思っている双子の予想外な言葉を聞き、陸は慌てふためく。その様子が面白くて佳音はけらけらと笑い出した。

「だから、本当に見たんだよ。お兄ちゃんのドッペルゲンガー」

 堅都が「超常現象?!」と驚く声変が聞こえた。

「第一、ドッペルゲンガーってあれだろ、自分」
「そうなんだよねぇ。そこが不思議」
「いや、そんなの見るお前の方が不思議だからな」

 そこに軽やかな小走りする音が聞こえたと思うと階段の下から慎太郎が上ってきた。上は青と緑ベースのチェック柄の長袖シャツに白いカーディガン、下はジーパンに高めと見えるベルトとなかなか洒落た格好でお帰りになった義兄に子供達の目線が自然と集まる。四人の二つの眼に見つめられて慎太郎は流れに任せてそっと目を逸らした。だがそれをこの好奇心旺盛な中学一年生である彼らが見逃すはずもなく。

「あれー。お兄ちゃん、今日はお洒落だねぇ?」
「普段は地味な服なのにおかしいなぁー」
「陸、あれだよね、あれ。いやー待ってましたよ」

 急にばばくさくなった佳音にこういう時だけ調子のよくなるガキ達は続ける。

「俺なんかもう一生寂しい人生かと思ってたぜ」
「お前ら……何を勘違いしたかは知らないが、今日は町内会の臨時集会だっただけだ」

 周りの空気が一気に急降下。何も言えない、と哀れむような瞳を輝かせて自分を見てくる佳音に慎太郎は慌てた様子で弁解する。

「いや、そのな、一緒に遊ぶ友達がいないとかじゃないんだ! か、彼女もいないけど…………、と、とにかく俺は今の生活が楽しいからいんだよ! それより、ドッペルゲンガーって何か怪談とかそういうこわ、くはいけどいい感じに涼める話をしてたのか?」

 その場にいた全員が悟った。子供の頃から育ててきてくれた大きな兄はとても温厚で自分達のことを見守っていてくれていたこと。それと__慎太郎は妖怪や会談などのホラーがものすごく苦手だということ。しかし、まあ、それについてあえて引っかからなかったふりをしておく佳音達の成長ぶりは赤子の頃から見守る兄としては大したものだ。これがまた別のシチュエーションだったら慎太郎も客観的に見ることができ、大感激だと思う。が、しかしこの場合はなんと勿体無いことであろうことか慎太郎には空気を読むことは不可能だった。

「あ……、そうだ。そうだ! 佳音が慎太郎そっくりの人を見たって言うんだけど、慎太郎とは似ても似つかない超絶センスの良いファッションのおとこだったらしいんだよ」
「陸、私はそう言う内容のことを言っただけで、そんな失礼なことは言ってませんよ!?」
「確かに失礼だな、陸。全くだ。あ、そうじゃなくて、ドッペルゲンガーだって? 意外と似てなかったとかそういう展開じゃないのか? そんな心当たりないし」

 そう、よく似た兄弟は世の中ごまんといる。朝香兄弟のような一卵性双生児という訳ではなく、血が繋がっているのだから顔も似ている人間も沢山いるだろう、という意味だ。しかし、詩園の中学生ならもう理解している親戚関係によると、慎太郎に容姿が比較的似ていると言えるのは、四つ離れた姉、紫野しかいない。いくらなんでも女性と男性は間違えないのであり得ない。
 皆で腕を組んで唸っていると階上から玲子が降りてきた。そして、大声で喋っていた佳音を、寝てる子がいるのよ、と軽くたしなめた。

Re: 偽家族コンプレックス ( No.48 )
日時: 2014/05/18 18:07
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: GqvoTCxQ)

お久しぶりです!

ド、ドッペルゲンガー…。
誰なんでしょうね(´・ω・`)?
お兄ちゃん…本人?でしょうか?

杵島さん、やっぱり案外好きです←
これから絡みが多そうなので楽しみですw

更新頑張ってください(^^)

でわでわ。

Re: 偽家族コンプレックス ( No.49 )
日時: 2014/05/31 23:54
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: VI3Pf7.x)



あんず様

こんな更新遅い物語についてきて下さって
ありがとうございます!
なんか書きたいのに書けないんです……←

ドッペルゲンガー
誰でしょう?w
慎太郎君の話はもーっと先かもですわ。

そうそう、杵島さん早く絡ませないといけないんです。
早く絡んでよ、佳音ちゃんあんど慎太郎お兄ちゃん!


Re: 偽家族コンプレックス ( No.50 )
日時: 2014/08/05 08:29
名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: p6e1/yUG)


■033■


 キーンコーンカーンコーン。
 チャイムが鳴っても静まらないシャーペンの走る音。頭を、というより髪の毛を鷲掴みにして悩む姿は実に痛々しい。今回の定期テスト、全くもって勉強をしていなかった佳音にとっては若干羨ましいくらいだ__というのは半分冗談で、風邪を口実に一学期と比べて勉強しなくて良かったので読書に没頭できたのだ。
 キーンコーンカーンコーン、と、また、二つ目の鐘の音が響く。「筆記用具を置いてください」という監督者の声など耳に入っていない生徒達はまだ、答案用紙に必死に向かっている。が、チャイムの音が完全に消え去ると先生も甘くみてくれないということを分からない子供でもなく、皆渋々諦めの顔に変わっていく。
 しかし、これは半分ほどの生徒であり、四分の一はもうとっくの昔に回答をひっくり返していて、またまた四分の一は飄々とした表情で余裕と語るようにゆったりと見直しを行っていた。ここ一年B組で具体的に当てはめると、最後まで健闘していたのがなんとか中間に現れた堅都、余裕な優等生組代表が彩菜、大昔に諦めていたのが佳音である。誰もが予想する結果だ。

「はい、これで今学期の定期考査、最後のテストを終わります。お疲れ様でした。礼は省略でいいですので昼休みにしてください」

 この時間の監督であった隣のクラスの担任で物理の先生が全員分の答案を確認し終わり、 昼休みにった。立ち上がるやいなそれぞれが思い思いの行動に移る。

「理科、けっこー簡単だったね!」

 ラッキーとでも言うように笑う彩菜に佳音と堅都はじとっとした目線をむける。ありえないものをみるようでは無かったが、それに近いものであることは確かである。ありえない訳ではないのは、昔から周りにたまたま彩菜を含めた優秀な人々が集まっていたからだ。もちろん、なくなった瑠璃もその中に入る。
 ちなみに今終わった中間テストは十二月上旬に行われるもの。変質的だが、麦晴中学校では二期制を取り入れているので九月下旬から始まった二学期の中間テストは十二月となる。期末テストは二月なのでまだまだ先だ。この二期制はテスト間隔が開き過ぎ、夏休みがやけに長いのに冬休みがない、など色々批判もきているらしい。が、佳音はどっちでもいいと言う。

「お昼食べよー。お腹ペコペコだよ」

 彩菜は可愛い犬のようにふくれている。いつの間にか麦晴中は衣替えが済み、制服は白にブラウンのラインだったのが焦げ茶に金のラインになっていた。

「あ、やほ」

 寒いので外ではなく、暖房の効いた特別活動室でお弁当を食べることにした佳音は廊下で空とすれ違う。空はニコッと微笑み、片手をあげた。こんな風な表情を見せられると陸との性格の差が目立つ。おそらく隣にいた彩菜は今のが陸だか空だかは分かっていないであろう。
 さらっとすれ違って空はどこかへすたすたと歩いて行く。

(何か急いでる……?)

 少し気になりもしたが別にわざわざ知る必要もない。さっぱりとした性格の佳音はもう数秒後には忘れて、堅都が当番だった本日のお昼ご飯は何かと想像を膨らませていたのである。


 先日歩いた時には落ち葉で地面が埋め尽くされていたのに、もう枯葉など存在しない時期になっている。厚着で身を縮めて歩いてもさぁーっと吹く風が体を凍らせていくような気がする。
 日々感じる時の流れ。
 佳音は親友を喪ってから更にその流れが速く速く進んでゆくように感じられていた。そして、自分がそのスピードに着いて行けていない、何かが皆と比べて足りない、そんな喪失感に似た思いに駆られる機会が増えた。

(なんか中一のくせにリア充多いよねぇ……)

 図書館の正門前で談笑する仲良さげな男女を横見に見かけたことのある人だな、と思う。多分同じフロアでも棟が違うから同学年でも知り合いでは無いのだろう。ほとんど交流がないのだ。
 館内に入るとふわっと暖かい空気に包まれた。手袋とマフラーをしていたにも関わらずつんと冷えていた体が柔らかくほぐれていく時間、ひどく大げさだが幸せを感じる佳音。手袋を外し、こするようにして暖めると次第に指に普通の感覚が戻ってくる。放心状態だったのをはっとし、マフラーを外してコートも脱ぎ、二つとも腕にかける形で持つと、きょろきょろと辺りを見回した。

(あれー? 杵島さんいないのかな)

「あの……あ、えっと……」

 横から声がかかるのと、佳音がその声の主、杵島奏音を見つけるのにそう時差は無かった。話しかけるつもりだったのだろうが、何やら若干焦る様子の奏音。

「杵島さんっ! ……どうしたんですか?」
「今気付いたんだけど、私、あなたの名前知らなかったのよ」
「あ、確かに……! 今更感すごいですけど」

 控えめに笑いながら、佳音はこの時初めて杵島さんに自分の名を名乗った。

「御崎っていいます。あ、名前は佳音で。よくミサキもカノンも下の名前みたいって言われるんですけど、御崎佳音です」
「み、御崎…………佳音……?」
「はい! はい? そうです」
「失礼なことを聞くようだけど、あなたご両親は?」
「え……、私、施設育ちで。親いないんです。それが何か……?」

 いきなり図書館スタッフに身の上話を話すことになって、さすがに訝しげに奏音の顔を覗く。その表情は、驚き、に近いのだろうがとても落ち着いた雰囲気をまとっていて、その複雑さを佳音は読み取れなかった。

「いや、ごめんなさい。変なこと訊いたわ。あ、そうそう、この前言っていた愛情とかなんとかっていう物語ね、選んでみたの」

 そう早口で言うと、カウンターへ行き、一冊の本を持ってきた。佳音は渡されると題を見た。【川の少年】__知らない本だ。初めて見る。そう考えると鼓動が速くなり、早く読みたいという気持ちで胸が満たされていくようだった。
 きらきらと輝く瞳で奏音を見る。

「ありがとうございます! 早速借りて読みます! あー楽しみだなぁ。早く読みたい」
「あ、ちょっと待って」

 貸し出しカウンターへ持って行こうとする佳音をいつもより少し大きな声で引き止める。くるりと向き直った少女のほんのり桃色に染まった頬を視界に捉えながら、そっと話した。

「関係無いことかもしれないんだけど、私、ここの図書館辞めることになったの」
「え……!」
「外国に行くことになってね。ヨーロッパの方に。今週中にもう行くの」
「そんな……寂しいですよ。でも、外国羨ましいなぁ。図書館辞めても頑張ってください! 少しの期間でしたけど、色々教えてくれてありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げる。手に持っていたマフラーの先がひらっと揺れた。大切なものを失って悲みに沈んでいた時、図書館に来て杵島さんと喋って、本を借りて、傷を癒してもらっていた。そこまで伝える必要はない。けれど、この言葉だけで奏音には、伝わってくるものがあった。
 ふっと微笑んで、初めて会った時とはだいぶ異なる口調で奏音は言った。

「こちらこそ。楽しかったわ」


Re: 偽家族コンプレックス ( No.51 )
日時: 2014/08/04 19:46
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: .Dr7fIW0)

こんにちは!

杵島さん……辞めちゃうなんて(´;ω;`)

杵島さんお気に入りだったのでショックですw

空は何に急いでるんだろうか気になります。
個人的に陸と佳音の絡みが見たいですw

定期試験かー…大変ですよな←

久々の更新うれしかったです!

頑張ってください(・ω・)ノ

でわでわ。


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