コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 偽家族コンプレックス
- 日時: 2013/09/26 08:06
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)
†登場人物†
御崎 佳音 MISAKI KANON
朝香 陸 ASAKA RIKU
椎名 星夜 SIINA SEIYA
朝香 空 ASAKA SORA
藤宮 堅都 HUZIMIYA KENTO
柏倉 瑠璃 KASIKURA RURI
†プロローグ†
紅一点の少女は幼なじみが一番大切で
双子の片割れは少女の笑顔が大好きで
冷たくても優しい少年は自分を知らなくて
双子の片割れはずっとこの関係が続いて欲しくて
ポジティブ少年は死んだ少女を忘れられなくて
天使になった女の子の面影はいつまでも残っていて
偽の家族の少年少女は何を想って育つのだろう————
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- Re: 偽家族コンプレックス ( No.2 )
- 日時: 2013/11/25 11:04
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)
【第一話~詩園に暮らす偽家族の日常~】
■001■
適度に暖かな風が、がやがやと朗らかな子供の声が響く土地にとても心地良く吹いた。夏が終わる季節、秋らしい天候の日だ。
丁度良く風が通り抜ける土地には、それほど豪奢という訳ではないが西洋の雰囲気を大きく醸し出す背の高い孤児院、という現代日本には珍妙な建物が建っている。孤児院、名は『詩園』(読みは『うたえん』と当てている)という。その詩園からは海外の古い物語に登場するような、生計をたてるのが困難な養護施設のイメージは感じられない。
「陸の馬鹿っ! 最後までとっておいたゼリー食べた〜!」
「食べれないのかと思って食べてやったんだよ」
「サイテー……」
子供の声が絶えないのは、決して人数が多いからという理由ではないのだが、それでもかなりの近所迷惑であるのは間違いない。十年以上前の同じ日に運命的にここへ訪れた少年少女の騒々しさは何にも敗けをとらないであろう。
いきなり食卓で叫んだのは、栗色の柔らかくウェーブした長い髪を揺らす少女、佳音。そして、佳音の文句の原因であるぶどうのゼリーを食べたのが陸と呼ばれた少年。
「佳音、僕のあげるよ」
「え、空くれるの?! ありがとー! 双子でも大違いねー」
優しく笑いながら、陸の双子の弟空はプラスチック容器に入れられた半透明な紫のゼリーを手渡した。それに満面の笑みを浮かべて皮肉っぽく喜ぶ佳音を見て、陸はつまらなそうにそっと呟いた。
「うぜー」
「あ、今ウザいって言ったよね! 全く、最近の若者はぁ」
「はっ。佳音って何時の時代の人間だよ」
「陸と同い——」
「二人ともさ、仲が良いのは構わないけど、おれ達はもう学校行くぜ?」
一言ずつ会話が続いていくごとに二人の声量が大きくなっていった。その言葉のキャッチボールが佳音の番になった時、パチッと電源を切ったように止めた人がいた。
声がした方には男子と女子が一人ずつ。達、と言ったのはすらりと背の高くスタイルの良い男子。椎名星夜だ。女子の方も星夜に負けず劣らずスタイルが良く、ストレートの真っ黒な髪と凛々しい瞳は知的さが滲み出ている。柏倉瑠璃、テストは毎回トップの美少女。
「え?! ウソ、星夜も瑠璃もひどいよっ! 待ってて、ね、五分でいいから」
デジタル時計の表す時刻は『08:03』となっている。この性格のかぶらない五人、いや、もう一人のろのろと朝食を食べている癖っ毛男子がいる。
「オムレツ旨いなぁ、んぐ……?! 置いてくなよ……?」
変なリアクションや変な行動をするのが特に目立つ癖っ毛野郎は藤宮堅都という。とにかく、この六人が詩園の騒々しさを生み出しているのだ。明るくて良いと言うのが園長の口癖だが、六人いても全員中学一年生とピンポイントで学年を当ててもらえることは、まず無いくらいに個性的過ぎるのが欠点だ。
「瑠璃ぃー。髪の毛結んで〜!」
佳音は、濃い桃色から薄い桃色までが混じりあったかすりの糸で編んだ花の付いている茶色いゴムを、もうスクールバックを肩にかけていた瑠璃に渡した。
「もうちょっと早く言ってくれればいいのに」
少しだけ不満っぽく呟いたが、すぐに「良いよ」と微笑んで佳音のふわふわな毛に指を通す。女子がこの二人だけということから、佳音と瑠璃はとても仲が良い。
- Re: 偽家族コンプレックス ( No.3 )
- 日時: 2013/09/28 18:41
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)
■002■
しばらくして、じゃれあう猫のように可愛い二人の様子を見て堅都がぼそっと呟いた。
「佳音は良いなぁ、瑠璃とくっつけて……」
その発言には、その場に居た全員を凍りつかせる程の力があった。のったりとし過ぎだ、と女子二人組に文句を言おうとしていた星夜さえもが息を止めたのだ。長い髪に隠れて表情は見えないが、怒っているのか恥ずかしいのか、とにかく瑠璃の放つオーラが尋常でない。
「あ、ヤバいかも」
「け……んとぉ……?」
「け、堅都……」
「陸。もう遅いよ」
「はぁ、だろうな」
危ないもののように瑠璃を見て、陸は堅都に声をかけた。だが、さっきまで口喧嘩をしていた佳音に止められる。こういう時だけは意見の合う二人は同時にため息をついた。
次の瞬間、瑠璃がすぅっと息を吸い込んだ。堅都は癖のある茶髪を更に跳ねさせて、目を瞑る。
「堅都の馬鹿ぁっ!」
園内の何処までにも響き渡る、透き通った高く大きな声。堅都は耳をきーんとさせて呆然としている。
「佳音、先に行こう。男子は置いて、今日は二人で学校行くから」
「うん、あ、えっと〜。で、でもさ!」
つかつかと廊下を通って玄関に行く瑠璃を佳音が呼び止めた。たまに訪れる呆れてため息をついていた男子軍である星夜達が明らかに、置いてかれるのー目線を佳音に向けていたからだ。
「何? 私は佳音と行くと言っているのだけれど?」
もう、大昔からの付き合いである五人の誰にも瑠璃は制御出来ない。皆それを悟り、陸達は佳音を先に行かせた。
瑠璃が靴を履いていた玄関の横には、園長室がある。園長室の小窓からはにこにこと笑うおばあちゃんが、いつの間にか顔を出している。詩園の園長を務める、八神玲子だ。今年で八十二歳なのだが、まだまだこれからと言うのが口癖である。口癖その通りにとても元気で、詩園の子供達もそれを望んで暮らしているのだ。
「あらまぁ、あなた達も毎日元気ねぇ」
「うん……聞こえてたの」
「まぁねぇ。元気が一番よ。瑠璃ちゃん、佳音ちゃん、気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「行ってきますっ!」
佳音が、そういえば遅刻ギリギリー、といきなり叫んで走り出す。
しばらくして、朝からひどく疲れた顔をした男子四人が玄関に現れた。玲子おばあちゃんは、瑠璃に言った時と同じに「元気は良いことよ」と笑って言う。それに、一番瑠璃のあのような状態に免疫が付いていて、スタミナのある陸が返事をする。
「元気って言うのか分かんないけど」
「何でも。何でも、子供には良いことよ」
「そーそー。ホラ、早くお前らも行かねーと」
その場にそぐわない若い男の声がした。全員が見上げる形になる、背の高い成人男性だ。八神玲子の孫で、詩園の副園長を二十六歳にしてやっている、八神慎太郎。慎太郎の声に、星夜、陸、空、少し遅れて堅都が玄関の外に出て行った。
- Re: 偽家族コンプレックス ( No.4 )
- 日時: 2013/09/29 23:03
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)
■003■
線路沿いの海が見える道路を佳音は走る。
「瑠璃〜! ま、待って……」
「そんなに焦って息を切らさなくても良いのに」
だって、とまだ息を短く切りながら佳音は喋ろうとする。それをちょっと可哀想に思った瑠璃は、家族兼幼なじみ兼大親友の開きかけた口を閉じさせた。
しばらく佳音が息を整えるのを待ちながら学校へ道を歩いて行くと、一人の男子が自転車で二人を追い抜こうとした。瑠璃は反射的に一歩後ずさる。そのまま同じ制服を着た少年の乗る自転車は通りすぎるかと思いきや、キュッとブレーキを握って止まった。
「あれ? 御崎と柏倉じゃん」
「……佳音」
「瑠璃って堅都がああいうこと言うと、一時期全男子を拒絶するよね」
柏倉瑠璃は御崎佳音に返事を求めたのだが、それに答えずふうっとそう言った。しかし、何のことかと目を丸くする同級生、山鹿に一応説明を添える。
「あは。ちょっとトラブってね。山鹿君っていつからチャリ通男子になったっけ?」
苦笑いを途中で質問に変えて、深く家のことについて言わない。佳音流の幼なじみ大好きを自分の中に留める方法だ。瑠璃にとってはトラブルでも、佳音としてはとても楽しくて嬉しい思い出になるなのだ。
山鹿君というのは、小学校の違うクラスメイト。ちなみに、A〜E組がある麦晴中学一年生で佳音と堅都がB組、陸と星夜と瑠璃と空がD組である。
「うーん。二週間前くらいからかな」
「そうなんだー」
会話を聞き、瑠璃が少し微笑んだ。内心、チャリ通は女子にモテるからなぁと思っていたからだ。
「あ、そういえば、来る途中に詩園の前であいつらに会ったよ。疲れた顔して——」
「ストーップ! もう分かったから。あ、先行ってて良いよ? 自転車止めるの時間かかるでしょ」
「あ、う、うん。じゃあ」
さっと地面を蹴ると、ペダルを力強く押して自転車は線路沿いの通りを進む。少し行ったところで、踏み切りを渡るのが見えた。
「佳音、急ごう。遅刻しちゃう」
「うん」
麦晴中学校の校門の横には、ずらりと小麦畑が広がっている。今は秋上旬で、丁度背の高かった麦は刈り取られてしまった。数週間前くらいに給食で出た手作りパンにはその小麦が混ざっていたらしい。
土が裸で肌寒く感じるような花壇を通りすぎると、登校の遅い生徒達がちらほらとまだ歩いていて、正面玄関に立つ先生や事務員が急かしている様子が見受けられる。
「あ、御崎に柏倉じゃないか。おはよう〜」
「おはようございます」
軽く頭を下げながら挨拶をしたのは佳音達一年生の学年主任である、松本綾乃だ。若干男勝りな性格だが、優しく信頼も寄せられている先生と人気がある。
「朝香とかは?」
(あ、これ、四人が来るまでずっと言われるな……)
松本先生の言葉に、二人とも直感でそう思った。
詩園の中一組六人は、血は繋がっていないし、名字も違う。一卵性双生児と一目で分かる陸と空をのぞけば、全員赤の他人だ。しかし、周りで見ている者達が、あれ?一緒にいないんだ、と不思議に考える程に仲が良い家族なのだ。
- Re: 偽家族コンプレックス ( No.5 )
- 日時: 2013/10/06 19:58
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)
■004■
「とかって。松本先生、相変わらず面白いですね」
瑠璃がにこっと優等生スマイルを見せた。詩園での瑠璃、プライベートでの柏倉瑠璃の茶目っ気は全く感じられない。学校でのモードに瞬間変換したようだ。
「四人は多分、もうちょっとしたら来ますよ。予鈴ギリギリに」
「そうか。ギリギリなら良いんだが」
「ちょっとでも遅れたら、先生のお怒りに触れることくらいは陸でも分かってると思いますよ」
瑠璃の聡明さとは異なるが、要領が悪すぎないのと澄んだ瞳で先生から好かれるタイプの佳音も微笑んだ。
「へぇ」
すると、ドストライクの答えが帰ってきた。
「陸でもって言ってるってことは、次のテストは期待しないとなぁ」
「え、えぇっ?! それは無いですよ〜先生〜!」
六人の中でも成績が一番良いのは瑠璃と星夜だ。毎度テストの結果上位者で上から一〜五番目に載っている。だが、二人が凄すぎるあまり、たまに霞んでしまうのが陸と空。常に約ニ百五十名の中で十位〜ニ十位くらいを保持しているのだ。堅都は良いときは五十位あたりなのだが、悪いときは百五十位あたりもある。そして、問題の佳音。必ず百位台をとる。二桁の順位には決して辿り着かない。かといって百十位はとらないという、謎に満ちた成績であった。
「自分で言ったことだぞ〜?」
ニヤニヤ笑う松本にちょっとムキになって抗議する佳音とその横を歩く瑠璃に、運動神経も悪くない陸達が追い付いた。
「おー、朝香とその他諸々。御崎がなぁ」
「せんせー! 止めてくださいっ」
「え? 松本先生、教えてください」
全力で止めようとする佳音を軽くスルーして陸が訊いた。
「実はねぇ」
そう話し出そうとしたとき、一つ目の予鈴が鳴り響いた。松本は腰に手を当て、おしいなぁ、と呟きながら、先生らしさを取り戻して言った。
「んじゃ、教室ちょっこーですね」
ほら早く自分の教室に行く行く、と先生は六人をまとめて廊下へ追いやった。もうホームルームが始まるからと皆部屋内に入って、廊下にはのろのろとした生徒だけが残っている。そののろのろ組になるはずではなかった星夜が、速足に教室へ向かう。
「お、星夜クンはちょっと急いじゃってんじゃあないですか」
おちゃらけ半分に陸が笑いながら言った。その後ろに空と少し離れて瑠璃が一緒にD組に入って行く。
「堅都、私達も行こう」
「うん。……佳音」
正面玄校舎の瑠璃達と違って裏側の西校舎に教室がある、残りの二人も歩き出しだところで、堅都がそっと佳音に訊ねた。
「なーにー? まぁ、どうせ瑠璃のことでしょ?」
「当たり。何でも分かっちゃうね〜。ま、いいや。怒ってた?」
「別に、怒ってはないんじゃないのかな。あんなだけど、きっと瑠璃も堅都のこと好きで嬉しいと思うよ」
若干疑い気味に堅都は佳音の方を見たが、すぐに寂しいような嬉しいような顔をした。
「そっか、うん。僕らは、六人は、特別だからね……」
- Re: 偽家族コンプレックス ( No.6 )
- 日時: 2013/10/05 09:57
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: cm34dabg)
■005■
麦晴中学校の校舎に、キーンコーンカーンコーン、とお決まりの鐘が鳴り響いた。授業が終わる合図でもあり、長めの五十分間の昼休みの始まりも意味していた。
「礼」
「ありがとうございました」
佳音と堅都のクラス、一年B組に学級委員の声でタイミングを合わせた礼が聞こえた。軽く頭を下げた生徒達が頭を上げたとき、急激に教室が騒がしくなる。最後の四時限目の数学を担当していた教師が、笑いながら廊下へ出て行く。
「ふわぁ〜。やっと数学終わったよ」
佳音は気が急に抜けたようにあくびをしてから、腕をぎゅっと絡ませてのびをする。すると、スカーフが焦げ茶色のセーラー服に少しだけ細い線の皺がよった。アイロンするのが面倒だから、慌ててきゅっと布を伸ばして、椅子を引いて立ち上がった。
「ミサキ〜、お昼ご飯一緒に食べよう」
「良いよー」
佳音のことを名字で呼び捨てにして呼ぶ、女子にしては不思議な学級委員長。名は上杉彩菜という。物語にありがちな眼鏡をかけた古風女子ではなく、今時な女の子だ。
「あのさ。いっつも思うんだけど、ミサキは名前が混乱するよね」
「するかなぁ?」
「するする。ミサキですって言われた時は、何ミサキちゃん? って思ったよ。お弁当、取ってくるね」
そんな会話をしながら歩いていると、佳音はふと、何か忘れているような気がしたのだが、思い出せなかった。まあいいや、と自分も机の横にかけてあるお弁当袋をとろうとした時だった。
「あ、れ……?」
「どーしたの?」
佳音は手を伸ばしたが、いつもならそこにあるはずの、赤と茶色が主なチェック模様の巾着袋は存在しなっかったのだ。戸惑う佳音に彩菜はちょっと首をかしげて、
「もしかして、忘れた、感じ?」
と呟きに近い声音で訊ねた。
「あぁっ! 今日は朝にどたばたしてたから忘れちゃったかも」
「じゃ、購買だね。戦場にいってっらっしゃい」
突然に今朝の瑠璃の赤面を思い出した。すると同時に、自分が六人の分をそれぞれのバッグに入れる当番だったことも頭の中に浮かぶ。そして、佳音はその役割を行っていない。皆で急いでいたから、おそらく誰もチェックをせずに学校に来ている。
哀れみを含んだ彩菜に、行ってくる、と焦り気味に言うと、リュックサックの中から財布を掴んだ。
(ヤバいよ〜! 陸達、何て言ってるかな……?!)
校則を忘れかけて駆け出しそうになったが、『廊下は走るな』というポスターを見て即座に速歩きに変更した。しばらく廊下を進むと、一年D組の教室が見えてきた。どうやらまだ授業が長引いてるようで、昼休みに入っていない。しかし、一分後くらいには礼が聞こえた。
「ありがとうございました」
誰かが早く戸を開けてくれるのを祈った。他クラスの教室の扉を自分が開ける、というのは中学生にもかなり勇気がいる行動なのだ。
「マジで英語とかダルいわぁ……」
「しかも長引くってサイアク」
教室の中がざわめき始めて意外とすぐに、少し悪っぽい感じの男子生徒二人がガラガラっと横開きの戸を開けた。佳音は思わず心の中で感謝する。一歩下がって、通り過ぎるのを待とうとした。が、二人のうち一人が足を止めて佳音を見る。
(なんか変だった?!)
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