コメディ・ライト小説(新)
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- 新日本警察エリミナーレ 【完結!】
- 日時: 2018/04/28 18:16
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: hjs3.iQ/)
初めましての方は初めまして。おはこんにちばんは。四季と申します。
まったりと執筆して参りたいと思います。気長にお付き合いいただければ光栄です。
《あらすじ》
日本のようで日本でない世界・新日本。
そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。
……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。
シリアス展開も多少あると思います。
《目次》
プロローグ >>01-02
歓迎会編 >>05 >>08 >>13-18 >>23
三条編 >>24-25 >>30-31 >>34-35 >>38
交通安全教室編 >>39-40 >>43
茜&紫苑編 >>44-46 >>49-54 >>59-62 >>65 >>68-70
すき焼き編 >>72 >>76-78
襲撃編 >>79-84
お出掛け編 >>85-89 >>92-95 >>98 >>101-105 >>108-109
李湖&吹蓮編 >>112-115 >>120-121 >>126 >>129-140
畠山宰次編 >>141-146 >>151-158
約束までの日々編 >>159-171
最終決戦編 >>172-178 >>181-188
恋人編 >>189-195 >>198 >>201-202
温泉旅行編 >>203-209 >>212-226
結末編 >>227-229
エピローグ >>230
《イラスト》
武田 康晃 >>28 (御笠さん・画)
モルテリア >>55 (御笠さん・画)
一色 レイ >>63 (御笠さん・画)
京極 エリナ >>90 (御笠さん・画)
天月 沙羅 >>123 (御笠さん・画)
《感想など、コメントありがとうございました!》
いろはうたさん
麗楓さん
mirura@さん
ましゅさん
御笠さん
横山けいすけさん
てるてる522さん
mさん
MESHIさん
雪原みっきぃさん
織原姫奈さん
俺の作者さん
みかんさいだーくろばーさん
ホークスファンさん
IDさん
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.180 )
- 日時: 2018/03/23 15:14
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: yl9aoDza)
ましゅさん
お久しぶりです! コメントありがとうございます!
随分ハチャメチャなエリミナーレの面々ですが、それぞれの良さを感じ取っていただけて嬉しいです。少しでも魅力的に描けていれたらな、と思います (*´ω`*)
凄く励みになります。
ありがとうございました!
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.181 )
- 日時: 2018/03/23 17:01
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: lh1rIb.b)
117話「こちらも」
沙羅と武田が宰次に対面していた頃、二階通路。
シャッターに遮られ先へ進めなくなったエリナら三人は、戦う気満々の紫苑と対峙していた。数ではエリミナーレが圧倒的に有利だが、漂わせている気迫は紫苑も負けていない。
エリナは鋭い表情で鞭を片手で軽く持ち、口紅が綺麗に塗られた唇を動かす。
「紫苑、シャッターを元に戻しなさい。手間をかけさせないでちょうだい」
大人の女性という言葉が相応しい、落ち着きのある声だ。
もしここが敵地でなかったなら、ナギはうっとりして聞き入っていたことであろう。そんな魅力的な声である。
だが紫苑は冷ややかな顔つきを崩さない。凍りつくような視線も、微塵も変わらなかった。
「それはできない」
エリナの威圧感にも紫苑は動じない。
「ぼくの役目は君たちの足止め。だから、ここから先へ進ませるわけにはいかないんだ」
「あら……」
紫苑の言葉を聞き、エリナは残念そうに目を閉じる。
それから数秒して、彼女はパッと目を開く。
「なら実力行使しかないわね!」
「……そう言うと思ったよ」
エリナとナギがそれぞれ武器を構えた瞬間、紫苑は指を鳴らす。ぱちんと乾いた音が鳴る。
すると、近くの壁の一部がくるりと回転し、数人の男が現れた。一階で戦った者たちとは異なり、私服を身にまとっている。
「ナギ!」
「オッケーっす!」
軽いノリで応じるナギ。
彼は長い金の三つ編みを揺らしながら、緩急のある動きで、力任せに迫りくる乱暴な男たちを翻弄する。
ステップを踏むような軽やかな足取り。大きすぎない体を活かした俊敏な動作。そして、確実に的を貫く射撃。
好き放題暴れて回るナギは、もはや誰にも止められない。素人染みた男が幾人か集まったところで、捉えられるはずもない。
私服姿の男たちは、ナギの緩急のついた動きに翻弄されるばかり。為す術もなく、次々と倒されていく。
一方、紫苑は、エリナを死角から狙う。その手にはナイフ。
ナギという盾が離れたところを仕掛ける作戦でいたのだろうが——エリナはそれを完全に読んでいた。
紫苑が大きく振るナイフを、エリナは背を反らしてかわす。それから、紫苑に回し蹴りを加えるエリナ。
「……ちっ!」
紫苑は舌打ちしながらバク転し、エリナの回し蹴りを避ける。そして、床に着地するや否や、数本の細いナイフをエリナへと投げつけた。
風を切り、凄まじい勢いに乗って宙を飛ぶナイフ。
「甘いわよ!」
エリナは強気に言い放つ。そして、短めに持ち直した鞭で、飛んでくるナイフを払い落とした。
その時。
エリナはふと、小さな足音に気づく。
「……足音?」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟き、眉をひそめるエリナ。彼女は、閉ざされた防火シャッターの向こう側から聞こえる、パタパタという音の正体を、探ろうとしていた。
そこへ再び迫る紫苑。
ナイフを構え直している。
「気を散らすとは、戦士の風上にもおけないね」
「……くっ」
聞こえてくる謎の足音に気を取られていたエリナは、らしくなく、ほんの一瞬反応が遅れる。だが紫苑はお構い無し。尋常でない迫力をまとい、エリナの方へ突っ込んでいく。
ナギはそれに気づき、すぐにエリナの方へ向かおうとする。しかし、私服の男が邪魔で間に合わない。
もう駄目か——そう思われた瞬間。
紫苑が転倒した。
「なっ!?」
床をゴロゴロと回転し、戸惑いを隠せない紫苑。
「……意地悪、駄目……」
モルテリアが足を引っ掛けていたのだった。
紫苑は、エリナに夢中になりすぎるあまり、周囲への警戒を怠っていたのだろう。見事に引っ掛かった。
「こいつ……!」
苛立ったように漏らし、モルテリアへナイフを投げつけようとする紫苑。しかし、エリナの鞭に絡みつかれ、妨害される。紫苑の、紫に輝く瞳が、怒りの色で満ちていく。
「そうはさせないわよ、紫苑」
「……邪魔をしないでもらえるかな」
「ごめんなさいね。可愛い部下に手を出させるわけにはいかないのよ」
口元に余裕の笑みを湛えるエリナを目にし、紫苑は不快そうに顔を歪める。憎しみと不快感を練って固めたような、お世辞にも綺麗とは言い難い表情だ。
桜色の長い髪をわざとらしく掻き上げながら、エリナはモルテリアに言い放つ。
「ナイス、モル!」
温かな声をかけてもらったモルテリアは、コクリと頷き、「うん……」と返事をした。
その頃になって、ナギがエリナらの方へやって来る。私服の男たちをようやく倒しきったようだ。武田に比べれば遅いかもしれないが、ナギにしては頑張った方だろう。
「エリナさん、大丈夫っすか?」
「えぇ。なんとかね」
「あー、良かったー!怪我とかなくて良かったー!」
ナギは躊躇いなくエリナに抱き着く。腹部辺りに腕を絡め、まったく離れそうにない。紫苑のことなど忘れてしまったかのようである。そんなナギの様子を、モルテリアは呆れた顔で眺めていた。
しかし、数秒経って、エリナはナギを叩き払う。不愉快極まりない、というような顔つきで。
「気持ち悪いから止めてちょうだい」
「ちょ、気持ち悪いとか!さすがに遠慮なさすぎっしょ!」
「いきなり抱き着くなんて異常よ」
「う。まぁ、そうかもっすけど……うぅ……」
そんなどうでもいい茶番を繰り広げた後、エリナは紫苑に体を向けた。ナギとモルテリアも、同じようにする。
「紫苑、もう一度だけ言うわ。シャッターを」
言いかけた時、ドォンと大きな爆発音が響いた。
爆発が起きたのは視認できる範囲内ではない。しかし爆発音は空気を激しく震わせていた。近くには違いないだろう。
その瞬間だ。
紫苑が突如、シャッターを開けた。そして、開ききる前に、走り出す。
「茜っ……!」
彼女は茜の身を案じているようだった。
「ナギ、追って!」
エリナの命令が飛ぶ。
ナギは頷き「はい!」と返事をした。そして駆け出す。
「モル。貴女はレイに電話して」
「……レイに?」
首を傾げるモルテリアに、エリナは言う。
「そうよ。やはり彼女の力が必要だわ」
「でも……嫌って、言ってた」
「大丈夫。今ならレイは来てくれるわ」
少しして、モルテリアはコクリと頷く。
「……分かった」
エリナはモルテリアに「頼んだわよ」と言うと、ナギの後を追った。
武田や沙羅と合流するために。そして、今日すべきことをやり遂げるために。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.182 )
- 日時: 2018/03/24 22:43
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: KqRHiSU0)
118話「この身にまとわりつくは、闇」
爆発、だろうか。結構な大きさだった。
狭い視界の中でなんとか見えるのは灰色の煙だけ。焦げ臭い匂いが鼻を通り抜けていく。ただ、状況はいまいち理解できない。確実なのは、地面に仰向けに倒れていることだけだ。
武田が上に乗っかっているのか、得体の知れない重みを全身に感じる。胸や腹が圧迫され、非常に息苦しい。
「武田さん?」
私は恐る恐る彼の名を呼んでみた。
すると、私の上にある物体がごそっと動く。そして、それと同時に、生暖かい液体が額へこぼれ落ちてくる。
動かしにくい腕をなんとか動かし、自分の額を触る。それから手を見ると、指先が赤く濡れていた。
「血!?」
私は思わず大きな声を出してしまった。
痛みはなく、傷らしきものもないのに、指先は赤黒い。私の怪我ではない、ということなのだろうが、それでも衝撃を隠しきれなかったのだ。
「……すま、ん」
武田の声が耳へ入ってくる。
目を凝らすと、彼の頬から血液が滴り落ちているのが見えた。
「後頭部、打っていないか?」
「あ、はい。大丈夫です」
彼は流血しているわりに呑気だった。この期に及んで私の心配をしているとは、やはり少々ずれている気がしてならない。
「武田さんこそ、怪我してますよ。血が出てます」
「血?あぁ、これか……というより、沙羅!お前!額に血が!」
どうやら今さら気がついたらしい。まるで時差があるかのようである。
「一体どうしたんだ!?」
「あ、いや……多分……」
「多分?」
「武田さんのがついただけかと……」
凄まじい勢いに圧倒されながらも私は答えた。すると彼は、胸元のポケットから、慌ててハンカチを取り出す。そして、差し出してくる。
もっとも、一番の驚きは、彼がハンカチを持っていたことだが。
「これで拭け。清潔なハンカチだ」
「そんなのいいですよ」
「いや、駄目だ。他人の血液に触れるのは良くない」
「……分かりました。では甘えさせていただきます」
「それでいい。頼ってもらえると嬉しいからな」
私が大人しくハンカチを受け取ると、武田はふっと笑みを浮かべた。温もりを分けてくれるような、柔らかく自然な笑みだ。
——だが。
そんな穏やかな時間が続くはずもなかった。
「ぐあっ」
突如詰まるような声をあげ、床に倒れ込む武田。
直前まで微笑んでいたのに。
あまりにいきなりのことだったので、私はただ、呆然と見つめることしかできなかった。
「油断は最大の敵、ですな。ふふ」
それからしばらく。煙は徐々に晴れ、視界が広がってきた。ようやく周囲の状況を捉えられる状態になってくる。
倒れ込む武田の向こう側にいたのは宰次だった。
「爆発が致命傷にならないとは、驚きですな」
宰次は黒い棒を持っている。先ほど私が父親から奪い取った、電撃を浴びせる棒だ。
恐らく武田はこれにやられたのだろう。背後から棒を当てられたに違いない。それならいきなり倒れ込むのも理解できる。
「何をするんですか!」
私は半ば無意識に叫んでいた。
しかし宰次は不快な顔をしない。それどころか、軽く笑みを浮かべている。勝ち誇ったような、感じの悪い笑みだ。
「沙羅さん、ご安心を。お父さんは無事ですからな」
「そうじゃなくて!武田さんになんてことを……!」
言いかけて、私は息を飲み込む。宰次の表情が固くなっていたからだ。
宰次はまったく怒らないわけではないが、どちらかといえば笑みを浮かべていることの方が多い人間だ。日頃あまり怒らない人間の固い表情というのは、目にすると自然と危機感を抱いてしまう。
「この男には、苦しみながら死んでもらわねばならない」
そう言った宰次の顔つきは、まるで人間でなくなってしまったかのようだった。冷たく、触れればすべてが凍りついてしまいそうな、そんな顔つきだ。
宰次はそれからも、黒い棒を使い、動けない武田を攻撃する。
「よくもこそこそとかぎ回ってくれましたな……京極エリナの下僕が!」
肩を、腕を、そして背を。
宰次は武田のあらゆるところに棒を当て、既にほとんど動けない武田へ追い討ちをかけていく。
電撃を浴びせられ続けた武田は、もはや何もできず、ただ床に伏せて震えるだけ。棒を当てられるたび、辛そうに呻き、呼吸を乱す。
このままでは彼は危ない。命を落とすかもしれない。
どうにかしなくては、と考える。けれども良い案は思い浮かばない。私一人で宰次を止めることなど不可能に近しい。
「エリナさん……ごめんなさい……」
思わずそんなことを漏らしていた。
レイがいない今、頼れそうなのはエリナくらいしかいない。しかしそのエリナともいつ合流できるか分からない状況で。
私にはもう希望はなかった。
得体の知れない黒いものがまとわりついて、私を闇へ引きずりこもうとする。底のない闇の沼へ連れ込まれるような感覚。それは凄く恐ろしい。なのに、「まぁ、もういいや」と思ってしまっている自分がいる。
扉からまたしても男が現れて、さらにどうしようもない状況になってしまった。
すべてが、私のせい。
私が茜についていく道を選んだから。そのせいで武田はこんな目に遭っている。
「ごめん……なさい……、私……」
思えば、迷惑をかけてばかりだった。私が力のない人間なせいで、迷惑をかけて、みんなを不幸にした。
結局私は役立たず。
誰も護れないし、誰かの支えになることすらできない。
「……こんな私は、もう……」
父親が宰次と手を組まざるを得なくなったのだって、私がいたからだ。弱い私の存在が、父親を罪人にした。
「いらない」
渦巻く闇が心を飲み込んでいく。
そんな時だった。
「沙羅!」
武田の叫ぶ声が耳に入ってきた。
彼はまだ床に倒れ込んでいる。だが、懸命に声を絞り出していた。
「そんなことを言うな!」
「……でも私は」
「要るんだ!お前が要らなくても、私は沙羅が要る!」
予想外の元気さ、そして突然の発言に、宰次は動揺している。もちろん、先ほど部屋へ入ってきた宰次の手下の男たちも。
それに、私も。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.183 )
- 日時: 2018/03/25 00:11
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 7dCZkirZ)
119話「一滴の涙が拓く」
「いいな、沙羅!お前は要るんだ!だから護身に集中しろ!」
息は乱れ、体は震え、それでも武田は声を出すことを止めなかった。
それを見て宰次は不快感を露わにする。
「うるさい男ですな。京極エリナの下僕のくせに」
いつものような笑みは浮かんでいない。今の宰次には不快の色しかなかった。口角は下がり、眉間にしわができている。
「黙れ。私はもう、下僕などではない。一人の人間だ」
「武田くんが人間?ふふ。またもやおかしなことを言い出しましたな」
宰次は手下の男に命じ、武田を無理矢理立たせる。
立たせると言っても、腕を掴んで立っているような体勢にさせるというだけのことだが。
「武田くんが人間だなんて、笑い話ですな。新日本警察じゃ、みんな言ってますよ。『京極と武田が消えて良かったな』ってね」
「……そうか」
「ま、エリミナーレがいて助かってるんですがね。普通の警官にはさせられないような危険な任務も、君たちになら押し付けられる」
話している間も、宰次は何度か、武田の体に棒を当てていた。
武田は既に、自力では立つことすらままならないほど弱っている。表情からも疲れていることが分かるくらいだ。
彼が電撃を浴びせられるのを見るたび、「私のせいだ」と自分を責めそうになる。けれども、今の私は、それではいけないのだと思えるようになっていた。自分を責めることは、何の解決にも繋がらない。完全に無意味なことである。
「ただ、武田くん。君は多くを知りすぎていますからな……消えてもらわねば」
突如黒い棒で鳩尾を突かれた武田は、青ざめ、身を震わせる。
あの棒さえなければ——そう思った瞬間、偶然か必然か、手が腰の拳銃に触れた。私はナギから借りていた拳銃のようなものの存在を思い出す。
殺傷能力はない、とナギから聞いた、この拳銃。本物ではないため致命傷を与えることはできないだろうが、少し意識を逸らすくらいなら可能だろう。
操作の手順はナギから聞いたので問題ない。あと必要なのは、ひと欠片の勇気だけだ。
「武田くん、死ぬ前に一つだけ聞かせてもらいたいのです。あの夜、瑞穂から何を聞いたのですかな?」
「……あの夜、だと」
「一度だけ、瑞穂が夜中に君へ電話をかけたことがあったでしょう?」
私は腰元の拳銃に手を伸ばすが、思いきれず、抜くことができない。どうしても躊躇ってしまう。
このままでは武田が危ない。それは分かっているのに。
「それを言って何になる」
「吐かねば、沙羅さんもろとも殺しますからな」
「……言おう。だが、たいしたことではない」
「沙羅さんの身を案ずるなら、さっさと言いなさい。でなければ、再び悲劇が繰り返されることとなりますからな」
宰次は得意の脅しを使う。
武田は応じないものと踏んでいたが、意外にもさらっと話した。
「闇組織との取り引きの書類を見てしまった、と」
敢えて隠す必要もないと判断したのだろう。でなければ、武田が苦痛くらいで口を割るはずがない。
「……あの女。やはり見ていたか」
宰次は独り言のように呟いた後、拳銃を取り出して、武田の喉元へ銃口をやる。少し身がへこむくらい押し当てている。
この時になって、私はようやく覚悟を決めることができた。
「では武田くん、ご苦労様。後はあの世へ逝く過程を楽しむことですな。さて、まずは銃弾フルコー……」
「止めて下さい!」
私は両手で拳銃を構える。銃口が睨むのは宰次。
ナギが「おもちゃにしては危険」と言っていた理由がやっと分かった。この拳銃は軽い。おもちゃの拳銃とほぼ変わらない雰囲気すらある。
「拳銃を下ろして!そうでなければ、私が貴方を撃ちます!」
できるわけがない、と鼻で笑われてもおかしくないような発言だ。
しかし宰次は笑わない。口角を僅かに持ち上げることすらせず、冷ややかな目でこちらを見ていた。
冷淡な表情は、私の中の恐怖を大きく膨らませてくる。だがそんなものには負けない。気を強く持ち、引き金に添えた指に力を加えかけた——瞬間。
「……え?」
硝煙の匂いが通る。
左腕に、痛みが走った。
「あ……あぁっ……」
痛みに自然と声が出る。声が出るだけまだましかもしれないが、かなりの痛みだ。
宰次の拳銃の銃口が、細い煙を吐きながら、こちらを向いていた。それを目にして初めて撃たれたのだと気がつく。
「沙羅っ!!」
絶叫に近い、武田の叫びが聞こえた。
涙で歪む視界の中、必死に身をよじる彼の姿を見た。力を振り絞り抵抗する彼の瞳には、確かに、涙の粒が浮かんでいる。
あの武田が涙するなど、信じられない。
撃たれた痛みはかなりのものだ。生まれて初めてのことだから、なおさら。しかし、武田が涙を浮かべていることは、撃たれた痛みを越えるほどの衝撃だった。
彼の涙を見た時、私は「絶対に負けられない」と思った。なぜかはよく分からない。けれども私は、彼の一粒だけの涙に、今までで一番励まされた。
次が来る。
それなりに出血はしているが、動ける程度の掠り傷だ。宰次がそれで満足するわけがない。次は本気で殺しに来るだろう。
もう一撃食らえば、恐らく私は動けなくなる。そうすれば、私も武田も終わりだ。どうにかしてそれだけは避けなくては。
「おや。まだ動けるようですな……素人にしては素晴らしい」
宰次は余裕ありげに笑みをこぼした。勝ち誇った笑みだ。
今なら倒せるのでは?と思うような様子だが、彼にはこれ以上仕掛けない。武田と合流するのが先だ。
だから私は、武田を捕らえている手下の男へ、銃口を向けた。右手しか使えないので、急所を狙うなんてかっこいいことはできそうにない。
この際、勢いと運任せでいく。心を決め、男の顔の辺りを狙って撃った。
- Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.184 )
- 日時: 2018/03/25 19:21
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: VHEhwa99)
120話「置いては行けない」
勢いと運任せで放った弾丸は、手下の男の顔面に当たる直前で弾けた。黒と白の混ざった謎の粉が散り、男は大きなくしゃみをする。
突然のことに困惑の色を浮かべる武田。ただ、冷静さと判断力は健在だ。男の力が緩んだ隙を見逃さず、上手く脱出した。
疲労困憊でもある程度能力を発揮できる、というのは彼の日々の努力の賜物だろう。日頃から積み重ねを怠らない彼だからこそなせる業に違いない。
武田は一直線にこちらへと駆けてくる。
私はなぜか妙に冷静に、「まだ走る力が残っていたのか」と思った。まだ何も解決しておらず、そんなことを考えている余裕はないのに。
傍へ来た彼は、先ほど弾丸が掠った私の左腕へ視線を向けた。整った顔に不安の色が濃く浮かんでいる。
「沙羅っ。腕、怪我して……」
「だ、大丈夫です!こんなくらい!」
私は強がりを言った。
大丈夫とは言い難い状態だ。しかし、今ここで私が弱音を吐いたりしたら、武田は更に不安になり弱ってしまうことだろう。
だから弱音を吐くことはしない。決して。
「まったく。沙羅さんは余計なことばかりしてくれますな」
宰次は顔を歪め、再び不快感を露わにしていた。
自分の思い通りに進まないのが気に食わないのだろう。どこまでも自己中心的な男だ。本当に、救いようがない。
「あまり手間をかけさせないで下さいよ。ね、沙羅さん?」
「……大人しく死ねということですか」
「理解が早くて良いですな。二人揃ってここで消えなさい」
宰次はもう、私すらも生かしておく気がなくなったようだ。武田も私も、私の父親も。このままではやられてしまうだろう。
今エリナたちが来てくれればどうにかなりそうな気もするのだが……。
「京極エリナは来ませんよ」
突如、宰次が言った。まるで私の心を見透かしたかのように。
「足止め要員はあの小娘二人だけではありませんよ。他にもたくさんいます。いくら戦闘能力が高くとも、あれだけの数を倒すにはかなりの時間がかかることでしょうな」
つまり、と彼は続ける。
「お二人に助かる道などないのです。ふふ」
すると武田は一歩前へ出る。しかし足に力が入らないらしく、膝が半分くらい曲がっている。だがそれでも諦めた顔にはなっていない。
彼は宰次の攻撃に備えつつ、私を一瞥する。
「沙羅、行け」
私はすかさず首を左右に振った。
傷だらけの彼を置いては行けない。私が助かるために彼を見捨てるなど、絶対に後悔する。
本当は逃げた方が賢いのだろう。それに、二人まとめてやられるよりかは、一人でも助かる方が良い。そういうものなのだろう。
けれども、私は嫌だ。
一緒に。
そう約束したのだから、二人で生き延びなくては意味がない。
「……行きません」
「沙羅、わがままを言うな。今のお前は出血もあるんだ。もたもたしていたら手遅れになる」
「それでも、嫌です。武田さんを置いては行けません」
もしこの場にまったく関係ない者がいたとすれば、「無力な者が一人いたところで何が変わる?」と思ったことだろう。意地を張る私を嘲笑したかもしれない。
「早く行け」
「……一人では嫌です」
「頼む。行ってくれ」
「一人は嫌!」
思わず大きな声を出してしまった。
怖かったのだ。彼と別れることが。
今ここで別れたら、もう生きては会えない気がした。武田がそう簡単に死ぬとは思っていないけれど、なぜか、再び会うことはないような気がする。
「沙羅。お前は本当に」
直後。
彼の細い目が、大きく見開かれる。
「……えっ」
私を狙ったのであろう宰次が放った銃弾は、咄嗟に庇おうと前へ出た武田の肩に突き刺さっていた。
撃たれた衝撃もあってか、彼は真後ろへ倒れ込む。脱力し、私に向かって倒れてくる。
私は慌てて彼の体を支えた。……もっとも、支えたと言っても、座るような体勢になっているが。
「おや。武田くんが庇うとは」
宰次は愉快そうに口元を歪める。
「ふふ。沙羅さんは幸運ですな」
なんてことを言い出すのか。こんなものは私が求めていた結末ではない。
「宰次!なんてことを!」
「なぜ怒られるのですかな?沙羅さん。怪我せずに済んで良かったではないですか。ふふ」
「良かった!?ふざけないで下さい!」
「まさか。僕はいつだって真剣ですよ」
宰次への怒りと悔しさが混じり、視界が涙で滲む。唇が震えた。
「武田さんを傷つけた、貴方は、貴方だけは……絶対許さない!」
込み上げる感情を抑えることは、今の私にはできなかった。
「何を言い出すのですかな?武田くんが撃たれたのは沙羅さんのせい。沙羅さんがすぐに逃げなかったからではないですか」
「そもそも撃ったのは貴方じゃない!」
「けれど、武田くんがここまで追い込まれたのは、間違いなく沙羅さんのせいですな」
私はそれ以上言い返せなかった。喉元で言葉が詰まり、出てこない。宰次が言っていることもまた事実だったからだろう。
「……っ」
目に溜まっていた涙が、一気に溢れた。熱いものがこぼれ落ち、頬を濡らしていく。
絶対に負けないと決めていたのに、結局これだ。これだから私は。情けない。
そんな時だった。
背後の扉が、バァンッと大きな音を立て、勢いよく開いた。
「沙羅っ!!」
エリナの鋭い声が聞こえてくる。張りのある強く歯切れのよい声だ。今はその声が、救世主の声のように感じられる。
鞭を持っているエリナの隣には、拳銃を構えたナギ。モルテリアの姿はないので、彼女は別行動のようだ。
「……ちっ。京極エリナ……」
エリナらの到着に、顔をしかめる宰次。
「随分やってくれたみたいね。……まぁいいわ」
桜色の長い髪を一度掻き上げ、エリナはいつになく強気な表情で啖呵を切る。
「畠山宰次!覚悟しなさい!貴方も今日でお仕舞いよ!!」
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