コメディ・ライト小説(新)

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新日本警察エリミナーレ 【完結!】
日時: 2018/04/28 18:16
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: hjs3.iQ/)

初めましての方は初めまして。おはこんにちばんは。四季と申します。
まったりと執筆して参りたいと思います。気長にお付き合いいただければ光栄です。

《あらすじ》
日本のようで日本でない世界・新日本。
そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。
……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。

シリアス展開も多少あると思います。

《目次》

プロローグ >>01-02

歓迎会編 >>05 >>08 >>13-18 >>23
三条編 >>24-25 >>30-31 >>34-35 >>38
交通安全教室編 >>39-40 >>43
茜&紫苑編 >>44-46 >>49-54 >>59-62 >>65 >>68-70
すき焼き編 >>72 >>76-78
襲撃編 >>79-84
お出掛け編 >>85-89 >>92-95 >>98 >>101-105 >>108-109
李湖&吹蓮編 >>112-115 >>120-121 >>126 >>129-140
畠山宰次編 >>141-146 >>151-158
約束までの日々編 >>159-171
最終決戦編 >>172-178 >>181-188
恋人編 >>189-195 >>198 >>201-202
温泉旅行編 >>203-209 >>212-226
結末編 >>227-229

エピローグ >>230

《イラスト》

武田 康晃 >>28 (御笠さん・画)
モルテリア >>55 (御笠さん・画)
一色 レイ >>63 (御笠さん・画)
京極 エリナ >>90 (御笠さん・画)
天月 沙羅 >>123 (御笠さん・画)

《感想など、コメントありがとうございました!》
いろはうたさん
麗楓さん
mirura@さん
ましゅさん
御笠さん
横山けいすけさん
てるてる522さん
mさん
MESHIさん
雪原みっきぃさん
織原姫奈さん
俺の作者さん
みかんさいだーくろばーさん
ホークスファンさん
IDさん

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.200 )
日時: 2018/04/06 02:00
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: HTIJ/iaZ)

てるてる522さん

コメントありがとうございます!
もう半年近く経っていたことに驚きを隠せません(^_^;)

レイを気に入っていただけたようで嬉しいです。
個性を感じられるキャラクターたちになっていたなら安心しました。

そして、イラストも見ていただけて嬉しいです。
描いて下さったものですが、エリナは私も気に入っています(*´꒳`*)

てるてる522さんも、これからも楽しんで執筆なさって下さいね!

ありがとうございました!♡

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.201 )
日時: 2018/04/06 15:09
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: GbhM/jTP)

133話「同じ思いを抱く者たち」

 二週間ぶりにエリミナーレのみんなに会える。考えるだけで胸が弾み、足取りは軽くなっていく。空はやや曇り気味だが、私の心はいつになく快晴だ。
 この道の先にあるかもしれない困難など、今の私にとってはどうでもいいこと。今はただ、みんなに会えるという事実が、この心を照らしている。

「おっ!沙羅ちゃんじゃないっすか!」
 六宮駅の改札口でばったりナギに出会った。
 タンクトップにパーカー、膝丈のズボン。ナギの格好は非常にラフなものだったが、髪だけはちゃんと三つ編みにしてある。
「おはよっす!」
 彼は相変わらず元気だ。挨拶もテンションが高い。
 私は普通に返す。
「おはようございます」
 武田だったら良かったのに、と少し思った。ただ、ナギでも、一人でいるよりかはいい気がする。一人より二人の方が、何か起きた時に安心だ。
「いやー、久々っすね」
「ナギさんも家に?」
「先週なんで、沙羅ちゃんよりは短い休みだったっすけどね。……あ。そーだ!」
 何か思い出したようなナギに首を傾げていると、彼は尋ねてきた。
「武田さんとは進んだんすか?」
「メールとかしてますよ」
「そうなんすか。なんというか、初々しいっすね」
「初々しい、ですか?」
 自覚がなかったので、内心驚いた。
 確かに私も武田も恋愛に詳しくはない。慣れてもいない。ただ、初々しいなどと言われる年代は、とうに過ぎている。
 だから余計に驚きだったのだ。
「初々しいっすよ!しかも健全。いいっすね!」
「ありがとうございます」
 よく分からないが褒めてくれているようなので、私は一応、礼を述べておく。
 それから私たちは、事務所までの道のりを、隣り合って歩いた。ナギの格好がラフなので、まるで遊びに来たかのような気分になってくる。
「ぽかぽかしますね」
「もう少ししたら夏っすからねー」
 思えば、もう春も終わりだ。日差しが強くなりつつあるのは、夏の兆しなのかもしれない。
「旅行、楽しみっすね!」
「え?」
「あ、そっか。沙羅ちゃんは初っすもんね」
 私はまだ一周目。
 だから、まだ知らないことがたくさんあるのだろう。
「毎年六月頃になると、旅行があるんっすよ」
「そうなんですか。どこへ?」
「例年は観光地とかだったっすけど……今年はどうなるんすかねー。そもそも旅行があるかもまだ分からない状況だし、どうなることやら、っすわ」
 ナギは、若干黒の混じった金の頭を、意味もなく掻いていた。掻き方を見た感じ痒いから掻いているのではなさそうなので、恐らく、癖か何かなのだろう。
「どうなることやら、なんですか?」
 私が何げなく質問すると、ナギは困り顔で答える。
「そうなんすよ。っていうのもね?エリナさんがエリミナーレをなくすとか言い出して」
「えっ!?」
 やはりそっちだったのか。
 違ってほしかった方が正解だったとは。私は頭を殴られたような衝撃を受けた。
「俺、頑張って説得してるんすけど、なかなか上手くいかないんすよね。エリナさん『エリミナーレの役目は終わった』の一点張りなんすよ」
 そう話す彼の表情を見ていると、わりと真剣に困っているということが、ひしひしと伝わってきた。
「どうすりゃいいんすかねー」
「エリミナーレがなくなるなんて……私は嫌です」
「そりゃ俺もっすよ!可愛い女性陣に囲まれて働けるこんな良い職場、滅多にないっすから!」
 調子を強めるナギは、妙に真剣な顔つきをしていた。
 周囲の女性というのは、彼にとっては、そのくらい重要なものなのかもしれない。もっとも、私にはいまいち理解できないのだが。
 ただ、エリミナーレを大切に思う心は彼も同じなのだと知ることができたのは、有意義だったと思う。

 一時間後。
 私を含むエリミナーレのメンバー全員が、事務所のリビングに集まっていた。集合の時特有の引き締まった空気は、休業明けでも変わらず健在だった。
 エリナはいつもの席に腰掛け、足を組み、相変わらずの調子である。
「……さて。まずは、お久しぶり。休業中の期間は有意義に過ごせたかしら」
 レイはすっかり元気になっており、普段通りパンツスーツを着こなしている。長い脚、スレンダーな体形、ピンと伸びた背筋。抜けは一切なく、完璧だ。
「はい!」
 爽やかな声は、短い返事であっても良い印象を与える。
「それなら良かった。……じゃ、本題に入るわね」
 口紅の塗られた唇の端を僅かに持ち上げ、色気のある大人びた笑みを浮かべるエリナ。
「私としては、これを機に、エリミナーレを解散するつもりでいるの。宰次への復讐は終わったもの、これ以上危険なことを続ける気はないわ」
 エリナの口調に迷いはない。ここまで迷いのない真っ直ぐな声で述べられるのは、彼女の中でもう決まっているからだろう。
 これを説得するのは難しいな、と密かに思った。
 だが、説得が難しいから、と諦めるわけにはいかない。エリナ以外、誰も、エリミナーレを辞めたがってはいないのだから。
「待って下さい、エリナさん。そんなこと、勝手に決められては困ります……!」
「レイ。嫌ね、そんな顔しないで。安心していいわ。次の就職先はちゃんと」
「あたしたちはエリミナーレにいたいんです。みんなで一緒に働きたい。それはきっと、みんな同じ思いです!」
 レイが躊躇いなくハッキリと言い放つ。するとナギがそこへ乗っていく。
「ほら、エリナさん。やっぱ俺だけじゃないっしょ!?他にもここにいたい人いるじゃないっすか!」
「……うん。みんなで……」
 日頃は無口なモルテリアまで乗っかってきた。口はもぐもぐしているが、表情はいたって真面目である。
「あぁ。皆と共にありたい」
 武田まで。
 ちなみに彼は、ソファに座っている。体が治りきっていないことを配慮してなのかもしれない。
「ほら!武田さんもモルちゃんも言ってるじゃないっすか!」
 ナギはエリナの方へ歩み寄り、彼女の手をとる。
「だから解散はナシ!それが賢明っすよ」
「どさくさに紛れて触るんじゃないわよ!」
 エリナの手をいきなり掴んだナギは、鋭い言葉と共に、手をパシンと叩かれていた。
 さすがはエリナ。遠慮がない。
「とにかく!」
 彼女は手を合わせ、「静かに」と言わんばかりに、二回ほど音を鳴らした。
 それから、唇を動かす。
「決定事項ではないけれど、その方向で進めるわ。ということで、これがエリミナーレでの最後の活動になるかもしれないわね」
「……新しい仕事ですか?」
 レイが真剣さのある怪訝な顔で尋ねると、エリナはふっと、いたずらな笑みをこぼした。
「いいえ。社員旅行よ」
 その瞬間、ナギとモルテリアの視線がエリナへと集中する。二人はそれぞれ、いつになく瞳を輝かせていた。
 モルテリアの狙いは、恐らく、美味しい食事だろうが——ナギの狙いは不明だ。
「マジっすか!え、どこ?どこ行くんすか!?」
 旅行に興味津々のナギ。
 彼はエリミナーレ解散の件など忘れてしまったかのようだ。今や旅行のことに夢中である。
 そんなナギを目にし、エリナは呆れたように溜め息を漏らす。数秒してから、彼女は気を取り直して、告げた。
「在藻温泉よ」

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.202 )
日時: 2018/04/07 02:56
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 7dCZkirZ)

134話「うっかりに注意」

 エリナは見事に話を逸らした。
 ……いや、逸らしたと言うと聞こえが悪いかもしれない。変えた、という方がいいだろうか。とにかく、話題を変えることで空気を変えたのだ。
 もちろん、全員の気を逸らせたわけではない。レイはまだ何か言いたげな顔をしているし、武田も難しい顔だ。しかし、ナギとモルテリアは、既に旅行の方に夢中である。
「いいっすね!温泉!あ、でも何で温泉なんすか?」
「体の不調に良いらしいわ」
「最高っすね!」
 そこへすかさず口を挟むのはモルテリア。
「……料理、あり?」
「もちろん。ちゃんとした旅館よ」
「旅館……!」
 エリナの返答を聞き、モルテリアは紅潮する。多くの言葉は発さないが、凄く嬉しそうだ。喜びの感情が体全体から溢れている。
「……行く」
 ててて、と小鳥のようにエリナへ寄っていくモルテリア。
 その頭を優しく撫でつつ、エリナは視線を私たちの方へ向ける。
「それじゃ。このメンバーでの恐らく最後のイベント、楽しみましょう」
「待って下さい!旅行はいいですけど、解散は納得できません!」
「レイ。黙って」
 そう言い放ったエリナの表情は、非常に鋭く、冷ややかなものだった。背筋が凍りつくような目つきである。
「私も悩んで決めたのよ。決定事項でないとは言ったけれど、恐らくもう変わりはしないわ。余程のことがない限り、ね」
「そんなことを急に言われても困ります!」
「だから今すぐにとは言っていないでしょう。方向性の話よ」
「けど……!」
 さらに何か言おうとしたレイを、ナギが制止する。
「止めといた方がいいっすよ」
「ナギだって!」
「今言い争っても、無駄に体力消耗するだけっすよ」
 ナギは妙に冷静だった。
 そんな彼がレイに「旅行中に説得するから」と耳打ちしたのは、私以外、誰も気づいていないようだ。
 レイから二メートルほどしか離れていない私がぎりぎり聞こえるくらいの小声だったので、気づかないのも理解はできる。それに、ほんの一瞬のことだったので、見逃してしまったとしてもおかしくはない。
「分かったよ」
 レイはナギの声かけによって、これ以上の発言を控えた。
 凛々しい顔にはまだ何か言いたげな色は残っている。しかし、それ以降、エリミナーレ解散の件については何も言わなかった。彼女も子どもではない。
 ただ、言いたいことを言えない辛さは多少理解できるので、レイが可哀想な気はした。
「ところでエリナさん。在藻温泉へはどうやって行くんすか?電車とか?バス?」
 重い空気を払拭すべく、話題を旅行へ戻すナギ。今日に始まったことではないが、彼の空気を変える能力はそこそこなものだ。彼は、重苦しい空気になった時には欠かせない存在である。
「車をレンタルするつもりでいるわ」
「そうなんすか!そういや、エリミナーレの車は、この前壊れちゃったっすもんねー」
 眩しいくらいの笑顔でエリナと接するナギ。まるで少年のような活発な言動——彼は今日も平常運転だ。
「えぇ。買い直すには時間が足りないのよね」
 エリナは足を組んだ座り方のまま、顔に垂れてきた一房の髪を片手で払う。それから、大袈裟に溜め息を漏らした。
「まさか壊されるとは思わなかったわ」
「狙撃してくるとか、誰も予想してなかったっすからね。でも、それによる負傷者はいなくて良かったっすよー。ね?沙羅ちゃん!」
 ナギはいきなり、私に話を振ってきた。予測していなかったため、「は、はい」と返事するのが精一杯だった。
 そういえば私、あの時も足を引っ張ったな……。
 その時、ソファに腰掛けていた武田が、唐突に口を開く。
「沙羅、体調不良か?」
「え」
「暗い顔をしているが、どうした?」
 どうやら私を心配してくれているらしい。彼とてまだ本調子ではないだろうに、私の心配をしてくれるとは、実に優しい人だと思う。
「不安があるのか?」
 全員が揃っている場所であからさまに心配されるというのは少し恥ずかしかった。
 エリナやみんなの目があるので嬉しさを表すわけにもいかない。なので、私は黙って首を左右に振った。赤面してしまっていたらどうしよう、と思いながら。
「沙羅ちゃん、大丈夫?」
 やっと武田の問いに答えたと思ったら、今度はレイが聞いてきた。今日はやたらと心配される日だ。……もっとも、ありがたいことではあるのだが。
「はい。少し考え事をしていただけです」
「そうなんだ。良かった良かった」
「心配させてすみません」
「ううん。あたしが勝手に心配したんだよ。気にしないで!」
 やはりレイは話しやすい。
 なぜだろう——上手く言えないのだが、彼女が相手だと言葉が自然と口から出る。
「待ってくれ、沙羅。なぜレイとは話すんだ」
 ソファに座っている武田は、なにやら不満げな様子。
 どうしたのだろう。
「武田さん?」
「私には首を振るだけだったのに、レイとは言葉を交わす。なぜだ」
「え、えっと……」
「私はお前の恋人だ。もっと積極的に、何でも話してほしい」
 今日の武田は押しが強い。妙である。
「遠慮しなくていい。もっと気楽に話して——」
「止めなさい、武田」
 武田の勢いに圧倒され、「どうしよう」と困っていたところ、エリナの声が割って入ってきてくれた。ある意味救世主かもしれない。
「恋人なのなら、ちゃんと相手の顔を見なさい。沙羅が困っているでしょう?」
「あ……」
「誰しも言えないことはあるものよ。それに、沙羅は大人しいタイプでしょう?恋人になったからといって、いきなり積極的になんて、できるわけがないわ」
「……確かに。その通りです」
 エリナに真剣な顔で注意された武田は、小さくなってしまう。大きい体なのに、凄く小さく見えた。
「自分の望みを押し付けるのは駄目よ。そんなことをしていたら、すぐに捨てられるわ」
「……そんな」
「さよならって言われるわよ。いいの?」
「……嫌です。沙羅がいない世界など、地獄でしかない」
 今、さらっと凄いこと言った……?
「大人なのだから、相手を尊重しなさい。いいわね?」
「……分かりました」
 武田はすっかり落ち込んでしまっていた。
 そんな彼を可哀想に思った私は、ソファへ近づいていく。慰めてあげたいと思ったのだ。
「そんな顔をしないで下さい。大丈夫ですよ、武田さん。私はいなくなったりしませんから」
 ずっと好きだったのだ、自ら彼のもとを離れるわけがない。
「沙羅、すまない……。私は自分勝手だった……」
「大丈夫です。気にしないで下さい」
「……優しいな、さらぼっくりは」
 その刹那、レイとナギがほぼ同時に、「さらぼっくり!?」と驚く。私は焦ったが、当の武田は冷静に、「聞き間違いだろう」と返していた。
 やらかしても淡々としていられる武田を少し尊敬した——のは、私だけの秘密。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.203 )
日時: 2018/04/08 09:29
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: idHahGWU)

135話「お出掛けの朝」

 解散になった後、私は武田の隣に座った。ソファは柔らかく、予想以上に体が沈み込む。感触が案外心地よく、自然と穏やかな気持ちになれた。
 彼の顔へ目をやると、まるで前以て決めていたかのように、彼もこちらを見ていた。細めだが柔和な瞳がじっと私を見つめている。
 合図もなく同時にお互いを見合うという偶然。
 私たち二人は特別な二人なのだと、そんな気がして、妙に照れ臭い。
「そうだ、沙羅。昨日言っていた新聞を見せよう」
 武田は新聞を取りに行こうと立ち上がる。しかし、腰を上げた次の瞬間、詰まるような息を漏らして顔を歪めた。膝が曲がってしまっている。
「無理しちゃ駄目ですよ!」
 私が半ば反射的に注意すると、彼は顔を苦痛に歪めたまま返す。
「平気だ」
 弱いところを見られたくない、というような言い方だった。
 それからすぐに体勢を立て直した武田は、「待っていてくれ」とだけ残し、パソコンが置いてある机の方へ歩き出す。足取りは意外にもしっかりしている。
「ほら、これだ」
 武田は一分もしないうちにソファへ戻ってきた。そして早速新聞を広げ、見せてくれる。
 新日本新聞。
 その一面を飾っていたのは、「畠山宰次」という名前。更に細かな文字をたどっていくと、彼が犯した罪に関することが書かれているのだと、私にでも分かった。
「こんなに早く載るものなんですね」
「あぁ、すぐに出たな」
「新聞って凄いですね!昔ながらのですけど、改めて凄さを感じました!」
 決して色鮮やかではないし、紙媒体だ。一見、このネット時代には馴染まない。
 だが、こういうものから情報を得るのも良いかな、と思った。

 そして、二日後。
 在藻温泉へ行く日が来た。
 二泊三日の日程なのだが、楽しんでばかりもいられない。というのも、この二泊三日の間に、何としてもエリナを説得しなくてはならないのだ。
 もし説得に失敗すればエリミナーレに未来はない——。

 朝、私は一人、家から持ってきた旅行鞄に荷物をまとめた。衣類やタオル、常備薬などを鞄に詰める。以前武田とお揃いで買ったカニのピンバッジも、さりげなく入れておく。
 必要最低限の物だけにしたため、旅行鞄は案外軽く仕上がった。
 仕事ではないので今日は私服だ。だから、桜色のワンピースを着た。それから髪をとかし、ほぼすっぴんに近いような薄い化粧を済ませ、リビングへ向かう。
 すると既にナギがいた。
「おはよっす!あ、そのワンピースいいっすね!」
「おはようございます。ありがとうございます」
 ナギは元気いっぱいだ。日頃から元気なナギだが、今日はいつも以上に活発な雰囲気を漂わせている。
「……うるさいわよ」
 私とナギが挨拶しているとエリナが現れた。
 寝起きだからか、テンションが非常に低い。一応最低限の化粧はしているが、髪は若干乱れていた。セット前なのかもしれない。
 そんなエリナを見て、私は、彼女が朝に弱いということを思い出した。
 しかしナギはエリナの調子などまったく気にせず、積極的に彼女へ近づいていく。
「あ、エリナさん!おはようございまっす!」
「おはよう」
「え。何かテンション低ないっすか?」
「朝はあまり好きじゃないのよ」
 ナギの元気さについていけないらしく、エリナは小さな溜め息を漏らしていた。もしかしたら、昨夜はあまり眠れなかったのかもしれない。
「今日は旅行の日っすよ!?もっとテンション上げていった方がいいっすよ!!」
 眠そうなエリナに、ナギは声をかけ続ける。
 体調不良ではないのだから、そのうち元気になってくることは分かっているのだ。しばらくそっとしておいてあげればいいものを。
「なんなら俺が目覚めのキスしてあげましょっか?」
「……うるさいわね」
「エリナさんが元気になるなら、いつでもして差し上げるっすよ」
「うるさいって言っているでしょう!」
 ナギの執拗な絡みに耐えきれなくなったエリナは、まだ目が覚めきらない顔に不快の色を浮かべ、鋭く言った。
「付きまとわないでちょうだい!」
 吐き捨てるような言い方だ。
 ここまで言われて、ナギはようやく絡むことを止めた。エリナが心から嫌がっていると理解したのだろう。
 ……少しの沈黙。
 そして、やがてナギが、それを破る。
「すいません。調子乗りすぎたっすね」
 いつもはひたすら明るく活発なナギだが、今は反省しているらしく、大人しくしていた。
 素直に謝られ、エリナは気まずそうな顔をする。
「……分かればいいわ。静かに用意なさい」
 落ち着きのある声で述べ、彼女はまたリビングを出ていってしまった。彼女の表情から察するに、ナギと同じ場にいるのが気まずかったからだと思われる。
 エリナとナギ。二人は気が合わないことはないはずなのだが、どうもすれ違っている感じが否めない。その僅かなすれ違いさえ解消されれば、もっと仲良くなれるだろうに。実に惜しい。

 その時、エリナが出ていくのと入れ違いで、レイとモルテリアがやって来た。仕事でないからか、二人とも私服だ。
「おはよう!」
「……まだ、眠い……」
 レイはストライプの長袖シャツにジーンズという、極めてシンプルな格好をしている。青い髪は相変わらずさらさらで、つい見惚れてしまう美しさである。
 一方モルテリアは、深緑のパーカーに足首まである灰色のロングスカートという、ゆるりとした服装だ。こう言っては失礼かもしれないが、モルテリアの食以外には無頓着なところがよく現れている気がする。自然体、といった感じだ。
「沙羅ちゃんそのワンピース可愛いね。似合ってるよ」
 今日着ている桜色のワンピースは妙に人気がある。
「本当ですか?」
「もちろん。ね、モル!」
「……うん」
 モルテリアも頷いていた。
「ほらね!」
「ありがとうございます」
 私はこれまでずっと、服装には気を使ってこなかった。だから誰かに「可愛い」などと服を褒められることはなかった。なので服を褒められるというのは新鮮だ。
 だが、悪い気はしない。
 こんな私にでも、どうやら、服を褒められて嬉しいという女性的な感情はあるらしい。私はそれを今さら知った。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.204 )
日時: 2018/04/09 06:04
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: ZFLyzH3q)

136話「出発進行」

 お昼過ぎ、レイがレンタルの自動車を事務所まで運んできてくれた。大型の自動車なので、今日は全員乗れそうだ。早速、トランクに全員分の荷物を入れ、順に乗り込む。
 武田はまだ傷が痛むため、運転はレイが担当するらしい。
 運転席にレイ、助手席にエリナが、それぞれ座った。その後、最後列にナギとモルテリア。そして私と武田は中間の列に、それぞれ腰掛ける。
「それじゃあ、出発します!ナギ立たないでね」
 レイは後ろを振り返り、彼一人だけを指定して注意していた。
 前に何かあったのだろうか……?
「大丈夫っすよ!モルちゃんとお菓子交換楽しむっすから!」
 ナギは、隣に座っているモルテリアにもたれかかりながら、レイに向かってグッと親指を立てて見せる。
「……ちゃんと、見張る……。だから、大丈夫……」
「ちょ、見張るって!俺一応、モルちゃんより年上っすよ!?」
「……うん。でも落ち着きない……」
「まぁ、そうかもっすけどねー……」
 モルテリアとナギがそんな風に会話しているうちに、自動車は発進した。
 先日まで使っていたエリミナーレの車とは形が大きく異なるため、乗り心地も結構違う。高さの感じや座席の座り心地が違うので、少々違和感がある。
 しかし、広々としていてリラックスできるため、こちらの車も悪くはない。
 こうして私たちは、六宮にあるエリミナーレの事務所を後にした。

「はいっ、到着!」
 レイの軽い声が、目的地への到着を告げる。
「……あ」
 途中までは窓の外の景色を懸命に眺めていたものの、気づかぬうちにうたた寝してしまっていたらしい。車はいつの間にやら、旅館前の駐車場へと着いていた。
「起きたのか、沙羅」
 周囲の様子を確認していると、隣の席の武田が声をかけてくる。
「はい」
「凄く気持ちよさそうに寝ていたな」
「本当ですか?ちょっと恥ずかしいです」
 眠っているところを見られるというのは、どうしても恥ずかしさを感じてしまう。過ぎたことを言っても仕方がない。とはいえ、おかしな顔をしていなかったかは気になる点だ。
「おかしな顔してませんでしたか……?」
 勇気を出して尋ねてみると、彼は柔らかく微笑む。
「おかしな、とはとんでもない。非常に可愛い寝顔だった」
「か、可愛いなんて言わないで下さい……」
「沙羅は可愛いと言われるのが嫌なのか?」
 武田は眉間にしわを寄せつつ首を傾げた。恐らく私の発言の意味が分からなかったのだろう。
 よく考えてみれば、確かに、私はおかしなことを言ってしまった気がする。武田に「可愛い」と言われて嬉しくないわけがない。それなのに「言わないで」と言うなど、意味不明の極みだ。
「嫌ではないですけど、その」
「何だ?」
「恥ずかしいです……」
 可愛いと言われたことを恥ずかしいと思う人が恥ずかしいかもしれない。
「なんだか、すみません」
 車から降りながら謝り、私は武田の返答を待つ。
 私の後に続いて降車した彼は、こちらへ視線を向け、表情を再び柔らかなものに戻す。
「なるほど、お前はそう考えるのだな。勉強になった」
 柔和な表情は、彼の鋭利さの漂う顔立ちには似合わない。真逆のものを組み合わせたような、歪な感じになっている。ただ、嫌な印象を与えることは決してなかった。
「沙羅のことは一つでも多く知りたい。だからこれからも、今のように、正直なところを話してくれると助かる」
 言いながら、武田は手を差し出してくれる。
 私より魅力的な女性などいくらでもいるのに、どうして私に優しくしてくれるのだろう。なぜかそんなことが頭に湧いてきたが、敢えて問うことはしなかった。

 全員が降りた後、エリナが先頭となって旅館へ入っていく。すると玄関で、温かな歓迎を受けた。予想外の丁寧さに戸惑っていると、武田が、「京極家は結構な権力を持っているからな」とおしえてくれた。
 確かに、と思う。
 働いている女性たちはエリナの姿を目にすると、「お帰りなさいませ、京極様」と言葉をかける。対してエリナは、頷き、淑やかに「ありがとう」と返す。
 まるで漫画やアニメの世界のお嬢様だ。
 私とは違う世界に生きる者を見ているような気分になった。
「凄いですね……」
「あぁ。ああいったところを見るのは久々だがな」
「武田さんは前に見たことあるんですか?」
 尋ねてみると、彼は頷く。
「ランチに誘われ行ってみたら料亭で、料理はどれも高額で、動揺しているうちに奢ってもらってしまっていたりしたこともあったな。懐かしい話だ」
 かつての同級生に会ったかのような表情で武田は語る。
 それを聞いた時、ほんの少し胸が痛んだ。なぜかははっきりしないけれど、針の先で突かれたような感覚が消えない。
「……沙羅?」
「あ、いえ。ただ、エリナさんと仲良しだったんだなって、思って」
 当たり前ではないか。エリナと武田はエリミナーレ結成前からの知り合いなのだから。二人が共に過ごしてきた時間は、私と武田が過ごした時間よりも長い。当然のことだ。
 今気づいたわけではない。ずっと前から分かっていた。
 それなのに。
 なぜか今さら、それが気になり出した。一度考え始めてしまうとなかなか抜け出せず、ぐるぐると同じことばかり考えて、意味もなく落ち込んでしまう。
「いや、仲良しというほどではない。だが沙羅……どうした?」
 武田は私の心が分からず戸惑っているようだった。
 本心を言うべきなのだろうか。すべてをさらけ出す方が良いのだろうか。私はそう思ったけれど、怖くてできなかった。独占欲の強い女だと煙たがられてしまうかもしれない——そう考えると怖くて、本心など言えるはずもない。
「元気がないようだが、何か不快なことを言ってしまったか?」
「いえ。ただ……」
「ただ?」
 こんなこと、言うべきではない。何度も止めようと思ったが、私は正直に話すことに決めた。
「武田さんが今までエリナさんと過ごした時間に比べたら、私たちの過ごした時間なんて短いんだなって……。私は多分、武田さんのことをあまり知らないので……」
 もっとも、頭を整理できていないせいで発言が意味不明だが。
「何を言う。私と沙羅は十分理解しあっているだろう」
「エリナさんより貴方を知らないのが悔しい……です」
 言ってから、私は目を閉じた。おかしな女と思われたに違いない。武田に冷えた目で見られるのが怖くて、私は瞼を開けられなくなった。
 少しして、武田の声が聞こえてくる。
「沙羅。それは違う」
 耳を塞ぎたい衝動に駆られる。だが、塞ぐこともできない。その瞬間だけは、本心を言うことを選んだ自分を心底憎んだ。
「お前は」
「ごめんなさいっ!」
 気づけば私は、心のままに駆け出していた。
 武田の顔を見るのが怖くて、傍にいるのも怖くて。
「沙羅!待て!」
「来ないで下さいっ」
 だから、一度も振り返ることなく、私は走った。当てもなくひたすら走る。彼から逃げるように、走るのだ。


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