コメディ・ライト小説(新)

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新日本警察エリミナーレ 【完結!】
日時: 2018/04/28 18:16
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: hjs3.iQ/)

初めましての方は初めまして。おはこんにちばんは。四季と申します。
まったりと執筆して参りたいと思います。気長にお付き合いいただければ光栄です。

《あらすじ》
日本のようで日本でない世界・新日本。
そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。
……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。

シリアス展開も多少あると思います。

《目次》

プロローグ >>01-02

歓迎会編 >>05 >>08 >>13-18 >>23
三条編 >>24-25 >>30-31 >>34-35 >>38
交通安全教室編 >>39-40 >>43
茜&紫苑編 >>44-46 >>49-54 >>59-62 >>65 >>68-70
すき焼き編 >>72 >>76-78
襲撃編 >>79-84
お出掛け編 >>85-89 >>92-95 >>98 >>101-105 >>108-109
李湖&吹蓮編 >>112-115 >>120-121 >>126 >>129-140
畠山宰次編 >>141-146 >>151-158
約束までの日々編 >>159-171
最終決戦編 >>172-178 >>181-188
恋人編 >>189-195 >>198 >>201-202
温泉旅行編 >>203-209 >>212-226
結末編 >>227-229

エピローグ >>230

《イラスト》

武田 康晃 >>28 (御笠さん・画)
モルテリア >>55 (御笠さん・画)
一色 レイ >>63 (御笠さん・画)
京極 エリナ >>90 (御笠さん・画)
天月 沙羅 >>123 (御笠さん・画)

《感想など、コメントありがとうございました!》
いろはうたさん
麗楓さん
mirura@さん
ましゅさん
御笠さん
横山けいすけさん
てるてる522さん
mさん
MESHIさん
雪原みっきぃさん
織原姫奈さん
俺の作者さん
みかんさいだーくろばーさん
ホークスファンさん
IDさん

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.175 )
日時: 2018/03/20 19:50
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: jWLR8WQp)

113話「分断」

 紫苑は床を蹴り、エリナへ急接近する。片手には細めのナイフ。しばらく戦っていなかっただろうに、スピードは衰えていない。
 すかさずエリナと紫苑の間に入るナギ。
「させないっすよ」
 一直線に向かってくる紫苑へ銃弾を放つ。
 だが紫苑は弾丸の動きを捉えていた。手に持っていたナイフで弾き、弾丸の軌道を変える。
 そしてさらに接近していく。
 聞こえるか聞こえないかのような小さな声で「消えろ」と呟き、ナギの目前に迫る紫苑。
 しかし今日のナギはいつもとは違った。動揺することなく冷静な表情で、飛びかかってくる紫苑の片腕を掴み、投げる。
 紫苑の小さな体は宙で弧を描くように回転した。だが彼女はそのまま上手に床へ着地する。今の投げによるダメージはなさそうだ。
 ナギはそこを狙い撃ちする。
 後ろへ飛び退き、迫りくる銃弾をかわす紫苑。常人を超越した反応速度である。私はその光景を信じられない思いで見つめていた。

 ——その時。
 カラン、と金物が落ちたような音が鳴った。
 何だろうと思うや否や、通路に白い煙が充満する。視界が一気に悪くなる。戦っていたナギや紫苑、モルテリア、それから少し離れていた茜——誰も見えない。
 突然のことに不安を感じていると、一番近くにいた武田が私の手を握ってきた。
「沙羅、私を見失うなよ」
「は、はいっ」
 武田とは一メートルも離れていない。だから彼だけは視認できる。さすがにそこまで目が悪いことはない。
「視界を奪ったということは、何か仕掛けてくるはずだ。異変に気づいたら言ってくれ」
「分かりました」
「感謝する。では次の指示を待……沙羅!」
 突如武田が手を引っ張る。エリナらがいるのとは逆の方向へ。あまりにいきなりで、何がどうなったのかしばらく分からなかった。
 引っ張られ移動した直後、防火シャッターのようなものが凄まじい勢いで下りてくるのが目に入る。それで初めて私は分かった。下りてくる防火シャッターのようなものに当たらないよう助けてくれたのだと。
 少しして白い煙が消え去ると、目の前には茜だけが立っていた。エリナらはシャッターの向こう側なのだろう、姿は見えない。
「えへへっ。上手く分断できたねぇ」
 茜はそんなことを言っている。表情は明るい。何やら非常に嬉しそうである。
「……何のつもりだ」
「畠山宰次さんがね、早く天月沙羅を連れてこいって!エリミナーレがもたもたして超おっそいから、計画を変更したみたいだねぇ」
「宰次は沙羅に何の用だ」
 武田はいつでも戦いに挑めるように戦闘体勢を取りながら、低く静かな声で尋ねた。口調は別段攻撃的ではない。しかし、顔つきは冷ややかだ。中でも目つきなどは刃のようである。
「そんなの、わたしは知らないよぉ。畠山宰次さんとは友達じゃないしねぇ。えへへっ」
 クリーム色のベリーショートヘアと可愛らしい顔つきが印象的な茜は、今までと変わらない笑顔でそんなことを言った。
 先ほど見た紫苑とは違い、へらへらしている。だが、そこがまた不気味さを感じさせる。
「とにかく、一緒に来てくれるかなぁ?」
「断る。まともに事情の説明もしない者の指示には従えない」
「じゃあ力づくで連れていくしかないかなぁ?」
 手のひらにちょうど収まるくらいのサイズの丸型リモコンを取り出す茜。恐らく起爆スイッチか何かなのだろう。彼女のことだ、どこかに爆発物を仕掛けていてもおかしくはない。
 武田はさらに身を固くして、茜の行動を用心深く見つめている。警戒を怠らない。
「爆発物を使うつもりか」
「そうかもねぇ、えへへっ。あ。でも、一緒に来てくれるなら、わたしは何もしないよぉ」
 そう言いつつ不意打ちするということも十分考えられる。だが、今の彼女の顔からは戦意は感じない。リモコンを取り出したのはあくまで脅しなのだろうな、と私は思った。
 だから私は言ったのだ。
「分かりました。行きます」
 そんなことを。
 宰次と対面するのは確かに危険だ。しかも武田と二人だけでとなると、かなりリスクが高いことは承知の上だ。
 私だって微塵も不安がないわけではない。だが、このままここにいても状況は良くならないだろう。
 それなら、危険であったとしても、ただひたすらに前へ進むしかあるまい。
「何を言うんだ、沙羅!自ら危険なところへ飛び込む必要など……」
「でも、ずっとここにいても何も変わりません」
「それはそうだが、しかし……」
 武田は困り顔。何か言いたげだが、言葉を詰まらせている。どうも次の言葉へ上手く繋げられないようである。脳内に存在する考えを言い表すのに苦戦しているのかもしれない。
 そこへ、急かすように口を挟んでくる茜。
「ねぇねぇ。本当に一緒に来てくれるのかなぁ?来てくれないなら——」
 彼女が最後まで言いきるより先に、武田が「分かった」と言った。覚悟を決めたような表情で。
「沙羅が行くと言うなら仕方ない。行こう」
 すると茜はどこかほっとしたような顔をした。
「じゃあ案内するから。わたしの後ろをついてきてねぇ」
 歩き出す茜。その足取りは、跳ねるように軽い。
 燃えるような赤が印象的な瞳は、瑞々しさがありながらも柔らかく、敵とは思えないような雰囲気だ。
 そんな茜を後ろから見つめていると、「本当はいい子だったりして」と思ってしまった。もしも敵同士ではなく味方同士として出会っていたなら……少し考える。だがすぐに「こんな思考は無意味だ」と、考えることを止めた。
 敵同士で出会ってしまった。それは決して変わることのない事実。だから、別の可能性を考えるなど、一切意味のないことなのである。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.176 )
日時: 2018/03/20 23:31
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: AdHCgzqg)

114話「寄り添いあうもの」

 茜の背を追って歩くこと数分、扉の前にたどり着いた。先頭を行く茜は、扉の前で足を止めると、「ちょっと待っててねぇ」と言い部屋へ入っていく。上手な入り方だったので、室内は少しも見えなかった。
 武田と共に茜を待つ。
 待つ間、少々暇なので、私はふい武田の顔を見上げてみた。そして驚く。意外にも、彼の表情が強張っていたからだ。
 私は武田を何事にも動じないタイプだと思っていた。初めて出会った立て籠もり事件のあの日も、誘拐されて助けてくれた日も、彼はいつだって冷静沈着だった。
 いや、もしかしたらそう見えていただけかもしれないが。だとしても、少なくとも私には、落ち着いているように見えていた。
「……武田さん?」
 しかし今は違う。
 武田は何かに怯えるような色を浮かべていた。取り乱して騒ぎこそしていないが、普段とは明らかに異なる顔つきだ。
 元気がない、という感じである。
「武田さん?」
「……あ。あぁ、沙羅。どうかしたのか」
「元気がないなと思って」
「なに。私がか」
「はい。ちょっと辛そうだなって」
 私は感じたことをそのまま言った。
 すると彼は、微かに目を伏せて、それから述べる。
「……少し不安なんだ。エリナさんやナギ、それにモルも、無事だろうかと」
 それに、と彼は続ける。
「私で本当に沙羅を護れるのか分からなくなってきた。殴り合いしか能のない私が、お前のような繊細な人間を護れるのだろうか」
 なにやら自信を喪失しかかっているようだ。今この場で抱く不安ではない気もするが、彼は真剣に不安を抱いているのだろう。
 ならば一番近くにいる私が、その不安を解消してあげなくては。
 そんな風に思い、私は彼の手をそっと取った。私がいつも頼りにしてきた大きな手も、今だけは小さく感じる。不思議なものだ、人の感覚とは。
「ん?どうした?」
 武田は戸惑ったような顔をしながらも手を握り返してくる。彼の指の温もりが、私の手にじんわりと伝わってくる。
「……武田さんが」
「私?」
「武田さんが元気になりますように」
 心の底から念じつつ、たった一文、小さな声で言った。
 多くの言葉なんていらない。心がこもってさえいれば、短いものであっても、きっと力になる。そう思うから、私は敢えて長くない言葉を選んだのだ。
「い、いきなりどうした。沙羅?お前は一体何を」
「武田さんの中の不安が少しでも軽くなればいいなと思って言いました。言葉ですべてが変えられるわけじゃないですけど、でも、少しは元気が出るかもと。いきなりですみません」
 すると、武田は黙り込んでしまった。絡んだ指と指をほどこうとはしない。ただ、時が停止したかのように、びくとも動かなくなってしまったのである。
 ショックを受けるようなことか、あるいは、言葉にならない怒りが込み上げることを言ってしまっただろうか。最初私はそんな風に思い、心配になった。二人きりの時に仲違いしてしまったら最悪だ。
 だが、もし彼が先ほどの発言で不快感を抱いたのだとしたら、さらに何か言うのは危ない。さらなる仲違いに繋がってしまう可能性は十分に考えられるからである。
 あらゆる方向へ思考を巡らせ、次の言葉をかけるかどうか悩んでいると、武田が唐突に呟く。
「これは……素直に、嬉しい」
 彼はらしくなく頬を赤らめていた。気まずそうな色を浮かべながらも、チラチラ視線を向けてくる。
「ありがとう」
 予想外にストレートな感謝の言葉を述べられたことに驚き、私は思わず彼の顔を見上げてしまった。すると、たまたま視線がばっちり合う。目が合うと、彼はすぐに視線を逸らす。
 ……変に初々しい。
 いい年の大人だというのに。
「少しは元気になれそうですか?武田さん」
「あぁ。もう弱音は吐かない。沙羅のためにも、私が頑張らねばな」
「一緒に、ですよ」
「そうだな。よし」
 今この状況で、ということには不自然さを感じる。
 しかし、少々温かな気持ちになった。緊張がましになった気がする。

 その時、ガチャリと音を立てて扉が開いた。
 出てきた茜は、あどけなさの残る子どものような顔に、屈託のない笑みを浮かべている。よく分からないが、相変わらず楽しそうだ。
 彼女は赤い瞳で武田と私をそれぞれ見て、それから口を開く。
「お待たせぇ。はいどーぞ。入っていいよぉ」
 茜特有の甘ったるい声だった。どこか不気味さすら感じられる、柔らかい調子である。
 彼女はにこにこしながら扉を開けてくれた。
 しかし私はここにきて迷ってしまう。茜が浮かべる曇りのない笑みの裏を自己流で深読みしてしまい、踏み出す勇気を失っていく。今さら退けないことは分かっている。それなのに、沸き上がる不安に勝ちきれずにいた。
 そんな私に、武田は、「大丈夫」と小さく言ってくれる。彼にしては気が利いた声かけだ。
 もちろんたったの一言であらゆる不安が一掃されるわけではない。だがそれでも、微かに心が軽くなった気がした。

「おや。なかなか速やかに来てくれたようですな」
 室内へ入る。すると中では宰次が待ち構えていた。
 いかにも高級そうな、滑らかな生地で仕立てたグレーのスーツは、重厚感を漂わせている。ダブルボタンなのは変わらないが、前に会った時とは若干異なった印象だ。
 けれど似合っていないことはない。白髪混じりの頭部とよく馴染んでいて、これはこれでちゃんとした形になっていると感じる。
「分断して沙羅を呼び出すとは、一体どういうつもりだ。宰次」
「ふふ。彼女に直接お話ししたいことがありましてな。驚かせてしまいましたかな?」
「乱暴なことをするなら手加減はしない」
 武田は厳しい顔つきで低い声を出す。まるで威嚇しているかのように。
 そんな彼を見て宰次は、ふふ、と笑みをこぼす。
「乱暴なこと?そんな野蛮なことをするつもりはありませんよ」

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.177 )
日時: 2018/03/22 04:31
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: clpFUwrj)

115話「沸き上がる想い」

 武田と宰次が言葉を交わしている間、私は何となく考えていた。なぜここに宰次がいるのだろう、と。
 建物の入り口では最上階へいるというようなことを仄めかせていたが、ここは二階。つまり彼がいたのは二階なので、話が違うではないか。それに、私の父の姿もない。
 くだらないことだが、一度気になりだすと気になって、考えずにはいられなかった。
 私が考え事に夢中になっていると、唐突に宰次が言う。
「さて、沙羅さん。では早速ご対面といきましょう。心の準備は大丈夫ですかな」
「えっ。ご対面って……?」
「お父さんとご対面、という意味ですよ」
 直後、背後でガタンと物音が鳴った。私は音に反応して振り返る。
 するとそこには、私の父親が立っていた。間違いなく私の父親だ。しかし黒服の男に両腕を拘束されていた。まるで罪人のようである。
 それを目にした武田は、さりげなく寄ってきて、「本物か?」と尋ねてきた。眉を寄せ、訝しむような顔つきをしている。
 私は静かに「本物だと思います」と答える。この目で確認したのだから、さすがに偽者ということはないだろう。
「お父さん、これは一体どういうことなの?」
 事情を知るには本人に聞くしかない。そう思い、私は父親に尋ねた。不用意に刺激しないよう、落ち着いた調子を意識しながら。
 しかし父親は答えない。
「…………」
 父親は俯き、だんまりを決め込む。私には一切目を合わせない。怒りを露わにして「これが娘に対する態度か!」と言い放ちたくなるような様子だ。
「沙羅、拘束を解いた方がいいか?」
 武田は恐らく、父親のことを言ってくれているのだろう。
 私は悩みながらも頷いた。
 罪を犯したかもしれない、悪人の味方をしたかもしれない——そんな人間を、父親だから「助けてほしい」と言うなど、わがままの極みだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 だが、拘束されている父親が目の前にいるというのは、どうしても辛い。
「よし。任せてくれ」
 武田は短く言い、私の顔を見つめて頷いた。
 彼の顔には微かに笑みが浮かんでいる。安心させようとするような、穏やかな笑みが。
 次の瞬間、武田は私の父親の方へと歩み出す。初めはゆっくりだったが徐々に加速をかける。
 父親を拘束していた黒服のうち一人が、武田に立ち向かう。
 高身長で冷淡な表情に威圧感のある武田に迫られ逃げ出さないとは、この黒服はそれなりに勇敢だ。いや、単に仕事だから逃げ出せないだけかもしれないが。
「捕らえなさい!」
 宰次は黒服にそう命じた。
 これまた無理な命令を、と私は内心苦笑する。普通の人間が武田を捕らえられるはずがないではないか。こんなこと、少しでも武田を知る者なら分かっているはずだ。
 宰次とて武田の強さを知らないわけではないだろう。にもかかわらず黒服に捕獲を命じるとは、部下に無理難題を押し付ける上司のようである。
 武田は黒服を怯ませ、一瞬にして私の父親から手を離させた。
「失礼。お怪我は?」
「…………」
「なさそうですね。何かあれば……っ!?」
 刹那、武田の表情が強張る。
 最初は何が起こったのか分からなかった。やや距離があるためいまいち見えなかったのだ。しかし、少しして、私の父親の手元に黒く短い棒があることに気づく。
 恐らく宰次に渡されたのだろうが……武器のようだ。レイが戦闘時に使用する銀の棒に酷似している。
 父親はそれの先を武田へと向けた。武田は身を大きく反らせ紙一重で回避するが、隙を作ってしまい、背後から黒服に拘束される。
「くっ!」
 羽交い締めにされ動けない武田の腹部を、私の父親が黒い棒で叩く。静電気のような乾いた音が鳴った。
 武田は短く低い声を漏らし、一瞬脱力したみたいに膝を曲げる。
 彼が傷つくのが怖い——そう思った。これは今まで何度も感じた感情だ。けれども、今日はそれだけではない。今までとは少々異なった感情が溢れてくる。
「武田さん!すぐ助けます!」
 それは、大切な人を助けたいという、純粋な感情。
 それは、愛する人のために生きたいという、単純な想い。
「私に構うな!お前は自分の身を護れ!」
「嫌です!」
 私はまるで何かに憑かれたかのように、武田のいる方へと駆け出していた。
 武装といえばナギから借りてきた効果不明の拳銃らしきものしかない。エリミナーレのみんなのように体術を使えるわけでもない。そんな私が黒服に勝てる保証などどこにもなくて、けれど沸き上がる感情は私を動かしてゆく。
「来るな、沙羅!危ない!」
 彼にそう拒まれても、私は止まれなかった。
 さすがに実娘には攻撃してこないだろう。そう踏んでいた私は、父親の手から黒い棒を奪い取ろうと試みる。
 私一人で黒服と戦うのは厳しいだろうが、父親なら戦闘員ではないのでいける。妙な自信があったのだ。
 そして——実際、簡単に奪い取ることができた。
「沙羅!離れろ!」
「嫌!」
「何を言って……!」
 武田はそこで言葉を詰まらせる。右腕をあらぬ方向へと曲げられていたのだ。黒服は恐らく、痛めている右肘を狙うよう、宰次から言われていたのだろう。
「……くっ。嫌なところを」
 彼は顔をしかめ、低い声で呟く。声が微かに震えていた。
 完治していない部分を責められれば痛いのは当然。表情や声色に苦痛が現れるのも当然。だが、武田がこれほど分かりやすく苦痛を表に出すのは、少し不思議な感じだ。
 その時、背後から迫る気配を感じ振り返る。
「こらっ。棒を返さないかっ」
 武田を捕まえているのと違う方の黒服だった。私が父親から奪い取った黒い棒が狙いのようだ。
 せっかく手に入れたのに、そう易々と渡すものか!
 私は心の中で吐き捨てる。
 それから、黒服に、黒い棒を叩きつけてやった。バリッと静電気のような大きな音が鳴る。
「ぐあっ!」
 黒服はよろめくように数歩下がった。彼の様子を見る感じ、すぐに動き出せそうにはない。
 肩辺りに当たっただけでこの威力。腹部に叩き込まれた武田はかなりのダメージを受けたことだろう。そう考えると少し胸が痛むが、そんなことに気を散らしている暇などない。
 今はただ、武田を助けることに集中しなくては。
「ならこうしてやるっ」
 武田を捕らえている方の黒服は、悔しそうな顔で言い放つ。そして、武田の右腕を逆方向へ曲げる手に、さらに力を込めた。凄まじい力なのか、曲げられた右肘がミシミシ音を立てている。
 このままではまたしても武田が大きなダメージを受けてしまう。そう思い、黒服に棒を当てようとした刹那——武田は黒服を背負うようにして投げた。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.178 )
日時: 2018/03/22 22:52
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: te9LMWl4)

116話「背負うな危険」

 ダァン、と鈍い音が響き、黒服の体が床に叩きつけられる。身構えていなかった黒服は、床に叩きつけられた衝撃ですぐには立ち上がれない。
 投げた武田は黒服から数歩離れると、しゃがみ込む。左手で右腕を押さえながら、肩で息をしている。
 私はすぐに彼のもとへ駆け寄る。
「大丈夫ですか、武田さん」
「……あぁ。問題ない」
 彼はそう言うけれど、問題がないとは到底思えない。額には汗の粒が浮かんでいるし、呼吸は乱れている。この状態を見て問題ないだと思える者がいるわけがない。もし仮にいたとしたら、それは、彼の身を案じていない人間だろう。
 顔を覗き込むと、彼は懸命に笑みを浮かべようとする。
「優しいな、お前は。だが心配は要らない。少しすれば回復する」
「でもっ……」
 すると彼は、痛むであろう右手で、私の頭をぽんぽんと叩く。子どもに対して行うような感じの叩き方だ。
「泣くなよ、沙羅。私のことで悲しむな」
「え?」
「お前が悲しむと私も辛い」
 武田は肩を揺らしていたが、その表情は柔らかかった。私のせいで傷ついたのに。私のせいで苦しんでいるのに。
 私はそんな彼の背を軽く擦りながら、父親へ視線を向ける。威圧感のある鋭い目つきになるよう意識しながら睨む。
「お父さん!なんて酷いことをするの!」
 すると、何も言わずに立っていた父親が、ようやく口を開いた。
「……仕方がなかったんだ」
 今日初めて聞く父親の言葉は、自身の罪を肯定するようなものであった。
 他人を傷つけたにもかかわらず、罪を認めず、悔いることもしない。その態度が許せなかった。腹が立つ、という感情を改めて知ったような気分だ。
 こうなってしまえば、父親だということは関係ない。大切な人を傷つけられて、黙っていられるものか。
「仕方なくない!武田さんはお父さんを助けようとしたのよ。なのに……!」
「待て、沙羅。それ以上言わなくていい」
「お礼を言わないどころか攻撃するなんて!」
 武田の制止も振り払い、私は父親に鋭く叫んだ。
 あまりに許せなかったから。
 宰次に強要されていたから自分は悪くない、とでも言うつもりだろうか。
「どうしてこんなことをしたのか、ちゃんと説明して!」
 問いたださなくては気が済まない。
 武田に何度か「落ち着け」と言われたが、どうしても落ち着けそうにはなかった。
「沙羅、聞いてくれ……これはすべて僕の意思じゃないんだ……」
「宰次に頼まれたの?」
「……あぁ。黙っていたこと、すまなかったと思っている。けど、沙羅や母さんを守るためにはこれしかなかったんだ」
 父親は、ほんの少し俯いて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。その顔は青ざめていた。
「逆らえば妻子が危険な目に遭う、と脅されて……僕は従ってしまった……」
 その瞬間、宰次が顔色を変える。
「天月!!」
 今までに一度もないくらい鋭い声。
 宰次はいつも飄々としていて、激しい声を出すことはなかった。それだけに、今の一声は私を驚かせた。
 父親は小動物のように体を震わせる。
「でたらめを言うと、娘もろとも痛い目に遭うぞ!」
 丁寧さの欠片もない。
 脅すような言葉を投げかけられ、父親は身を縮めている。完全に怯えてしまっているようだ。なんて情けない父親——そう武田に笑われそうだと思った。
「や、止めてくれ。畠山。それだけはどうか……。僕はともかく、娘は止めてくれ……」
「もう遅い!アウトだ!」
 宰次が叫んだのを合図に、黒服が殴りかかってくる。突如背後から来られ、私は「避けられない!」と焦る。

 ——しかし。
 次の瞬間、武田が黒服の拳を受け止めていた。痛いはずの右手も頑張っている。
「沙羅。棒を使え」
「は、はいっ!」
 武田からの指示に従い、私は黒服の脇腹に黒い棒を当てる。黒服の動きが制止した。その隙に、武田が黒服を蹴り飛ばす。
 そこへ、もう一人の黒服が、攻撃を仕掛けてくる。武田は、乱雑な攻撃を受け流し、膝蹴りで動きを止めてから蹴飛ばした。
 これで黒服はひとまず片付いただろうか。
 恐怖に身をすくめていた父親は、武田の圧倒的な戦闘能力を目の当たりにし、「信じられない……」と何度かぼやいていた。それから少し経つと、今度は、目をパチパチさせたり軽く首を傾げたり。どうも理解が追いつかないようである。
「つ、強すぎる……」
 父親はかなり動揺しているようだ。
 しかしそれも当然かもしれない。というのも、武田の戦い方はかなり豪快である。初めて見た者は驚かずにはいられないだろう。
 私とて最初は驚いた。回を重ね、ようやくここまで見慣れたのである。
「うぅむ。彼は一体何者なんだ?」
「彼は武田さん。エリミナーレが誇る最強の戦士なの」
「せ、戦……士?」
「つまり強い人ってこと!」
 詳しく聞かれるとややこしいので、先回りして言っておいた。

 ちょうどそこへ、戦いを終えた武田が戻ってきた。
 私が「体は大丈夫か」と尋ねると、彼は静かに「もちろんだ」と答える。
 そんな彼の真っ直ぐな視線は、宰次一人に向いていた。細い目でありながらもただならぬ威圧感をまとっている武田の目は、なかなか恐ろしい。私ですらぞわっとした。
「宰次。悪いがここで捕らえさせてもらう」
「……できますかな?」
「今日の目的はお前を拘束すること。それさえ終われば帰還できる」
 武田は本気で宰次を捕まえるつもりのようだ。
 しかし、それに関しては、私は反対である。個人的には、エリナらと合流することを優先した方が良い気がするのだ。一対多になれば確実にこちらの勝ちなのだから、敢えて今挑む必要性は感じられない。
 私は武田に一応言ってみる。
「あの、武田さん。エリナさんたちとの合流を優先した方が良いのでは……?」
 だが、彼は首を横に振った。私の意見を採用してはくれないようだ。
「エリナさんたちが来るまでに、すべてを終わらせる」
 彼はほんの僅かに口角を持ち上げ微笑する。ただ、私には、無理しているようにも見えた。
 もしかしたら彼も、エリミナーレのみんなが傷つかないように、と考えているのかもしれない。あの時のレイと同じように。
 ——だからこそ。私は彼を止めなくてはならないのだ。
 一人で背負い込もうとして、レイはあんな目に遭った。私はそれを悔やんでいた。
 ここでもし彼を止めなければ、同じ間違いを繰り返すことになる。またしても大切な仲間が傷つき、私はレイの時と同じかそれ以上の後悔をすることになるに違いない。
 そんな風に考えたから、私は彼の上衣の裾を掴んだ。
「待って下さい」
「……なんだ」
「いくら武田さんでも、一人で挑むのは危険です。何があるか分からないのに」
「確かに危険かもしれない。だがこれは私が」
 そんな風に言葉を交わしていた時。視界の端に、何か——火花のようなものが煌めくのが見えた。私の足下辺りだ。
 直後、武田が声をあげる。
「危ない!」
 彼は突然私を抱き締める。何かから庇うかのように。
 そして、その体勢のまま、私たちは数メートル飛ばされた。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.179 )
日時: 2018/03/23 00:14
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

こんばんは!お久しぶりです(*´∇`*)

コメントが最近できていなかったんですが、もう武田さんの格好良さと無意識な天然さでキュンキュンしたり笑ってしまったり……笑
日々精進していく沙羅ちゃんも本当…なんだか尊敬します!←

それと、モルさんの食べ物がらみの天然オーラに本当癒されます…(*・・)
ナギくんの要所要所で見せる勇敢さとか、エリナさんのリーダーっぽさ、レイさんの格好良さがもう本当……上手く言葉で言い表せないです((

すごいグダグダ……申し訳ないです<(_ _)>
いつも更新楽しみにしています、頑張ってください。


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