ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ロンリー・ジャッジーロ 4−2
- 日時: 2011/07/31 16:02
- 名前: こたつとみかん (ID: DNzgYQrN)
- 参照: ココに来て一年経った、かな?
起きている間はずっと寝ていたい。だけど書き続ける。それがなによりも好きだから。
こんにちは。新年明けましておめでとうございます。
最近ポケモンの白を購入しました。ミジュマル超可愛い^^
ではでは、この小説が貴方の享楽となりますように。
こたつとみかんでした。
序章 前>>3 後>>4
第一章 ①>>8 ②>>10 ③>>12 ④>>16 >>17
第二章 ①>>21 >>22 ②>>25 ③>>26 ④>>33 >>34 ⑤>>40 >>41 ⑥>>44 >>45 ⑦>>46 >>47 ⑧>>51 >>52 ⑨>>62 >>63 >>64
第三章 ①>>73 >>74 ②>>77 >>78 ③>>82 >>83 ④>>84 >>85 ⑤>>86 >>87 ⑥>>90 >>91 ⑦>>94 >>95 ⑧>>96 >>97 ⑨>>100 >>101 >>102 ⑩>>103 >>104 ⑪>>105 ⑫>>106 ⑬>>107
第四章 ①>>112 ②>>113
キャラ名鑑 その一>>18 その二>>68 その三>>72
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- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-8 ( No.99 )
- 日時: 2010/09/01 16:33
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: LvO7QDqq)
- 参照: 名残惜しき、夏休み。
>>98 友桃様
コメントありがとうございますっ!
そんなに褒めていただけるなんて感謝の極みですよ^^
大人じゃないですよーw まだ盗んだバイクで走りだす年頃ですよーww
小説の参考…。こんなの参考にして「駄目になった」なんてこと言われても責任持てませんからね?^^;
それでは、これからお互い頑張っていきましょう!
こたつとみかんでしたっ!
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-8 ( No.100 )
- 日時: 2010/10/26 19:36
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: wJzAqpnE)
- 参照: 百ゲットー。…虚しい。
第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』⑨
ニーベルの心の内で“何か”が起こっていることを認識できない男性たちは、容赦も躊躇もなく一斉に銃の引き金を引く。先刻ジェイルが受けたものと同じ発砲音がした。
銃口から放たれた銃弾は直線軌道を描き、真っ直ぐにニーベルの身体に向かっていき、その小柄な身体を貫こうとしたが、
「ひひ……」
下卑た笑い声が、ニーベルの小さな口から漏れた。
銃弾はニーベルの身体から十数センチ離れたところで止まった。止まったといっても運動が停止したわけではなく、それらの推進力の源となっている螺旋状の回転はそのまま残っていて、“何か”の力で止められているように感じ取れる、不思議な現象だった。
ニーベルが俯いたまま左手の人差し指を立て、その開いたスペースで親指と中指の先を合わせて勢いをつけて弾く。乾いた音が合図だったのか空中で直進運動を止めていた銃弾は来た道を戻るように跳ね返っていき、大口径の自動拳銃を持った男性を除くその後ろにいた身なりのいい男性たちの身体を貫いた。
男性たちの血液が空を舞い、雪と絡み合うように降る様子を見て、ニーベルが更に笑う。
「くひひひひ……あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃァァ…………!」
聞く者全てを不愉快にさせる笑い声がようやく止んだとき、ニーベルの髪の毛が明らかに不自然に、されど違和感を感じさせないほど滑らかに変化した。
この頃、まだ六歳のニーベルの髪型は薄い緑色のショートといったところだが、変化したそれは地面に付くほど長くなり、髪色も薄い緑色から鮮血を思わせる赤色に変わる。淡い青色の瞳も輝く黄金色に塗りつぶされていた。
赤色の長髪、黄金色の瞳という要素を抜けばニーベルと瓜二つなその少女が顔を上げる。普段喜怒哀楽の乏しいニーベルとは正反対に彼女は両の口角を大きく吊り上げ、愉快そうに笑いながら自分自身の身体を確かめるように眺めた後、片方の手のひらで顔を押さえ、もうひとつの手のひらで腹を押さえて高笑いしながらその身体を後方に反らせた。
「愉快! 痛快! なんて奇怪……! 最っ高じゃあ、この身体! 溢れて止まらない魔力! 魔力! 魔力! 下等な精霊なんかよりよっぽど質のいい魔力を持ってる、こんな逸材に降りることが出来た妾は幸運というべきものであろう! まさに奇跡じゃ! そう、これを奇跡と呼ばずして何て呼ぶじゃ……!」
大口径の自動拳銃を持った男性は、今のニーベルがニーベルではなくなっていることを理解していた。
精霊が“降りた”のだと。
人間が精霊の力を借りるため使役する方法は全部で三つある。
ひとつは精霊自身を力ないしは他の方法で説得させ、精霊の意志によって体内にそのまま取り込む“協定”という方法だ。これは精霊の力の大半を手に入れられる上、精霊そのものの具現化さえも可能に出来て便利である反面、取り込む力が大きすぎる故に何らかの副作用が発生したりする。さらに、人間より自分が格上だと認識している精霊を説得するのは容易でないため、このやり方で精霊を手に入れた人間は本当にごく稀である。
ひとつは精霊の肉体、思考を形作る“核”に宿る魔力を体内に流し込み、人間の身体に存在する魔力回路に通わせる“結合”という方法だ。これは全世界で最も多く採用されている方法で、ある程度の素養がある人間なら誰でも可能である。しかし核にはそれほどまでの魔力が宿されておらず、協定と比べて手に入れられる魔力は大幅に減少する。
ひとつは精霊が人間の身体を意志の否応なしに乗っ取り、意識と共にその身体を我が物にする“憑依”と呼ばれる方法だ。これについては魔導の研究家たちも「使役している」と認識していいのかと頭を悩ませている問題で、何せ人間ではなく精霊が人間を「使役している」といったほうがしっくりくるからである。ただ憑依される人間には共通点があり、それはいずれも特殊な魔力の持ち主だということ。一度憑依されたら最後、精霊が自らの意志でその身体を出るまで解放されることのないことだ。故に一部の人間はこの方法をこう呼ぶ。
——“呪い”と。
男性が今から相手にするのは「更なる力を宿した精霊」といっても変わりのない存在だ。それはそこいらの魔窟にいる魔物などとは比較にならない存在で、普通ならば逃げるのが利口なのだが、子供を取り戻すという使命感に囚われた大口径の自動拳銃を持った男性は違った。
彼は怯えた様子のまま両手で大口径の自動拳銃を握り、照準をニーベルだった少女の額に合わせる。しかしそれがぴったりと動かずに合うわけがなく、撃っても当たるはずがないだろうと思わせるくらいに震えていた。
やがてニーベルだった少女は後ろに反らせていた体を元に戻すと同時に、広げた両手を伸ばして男性に向けた。
ぎちぎちぎちという吐き気がするような擬音で男性の両腕は右腕は小指から時計回りに、左手は小指から反時計回りに捻じれていき、
「あああアアアアああアァァァ……!」
そして、千切れた。
ニーベルだった少女はそれを見て楽しそうに笑い、裂けるように口角が反りあがった口から詠唱の言葉を紡ぎだす。
「Hey! What’re you doing? You don’t know that I was saying “Don’t play hard to get”! Come on hurry if you understand! Hurry! Hurry! Hurry! Hurry……!(ねえ! 何をしているの? “焦らさないで”って言ってるのが判らないの? 判ったなら早く来なさいよ! 早く! 早く! 早く! 早く……!)」
ニーベルだった少女が使用した詠唱は古代共通語だった。それは現代の共通語と違い、神々が創り出した言葉に最も近いものであり、神々が使用していた強力な魔導の発現するのにとても有効な手立てである。
本来精霊が魔導を使用するとき、人間が詠唱を必要として発現させる魔導程度ならば瞬きひとつでそれを可能にして見せるが、如何せんいくら意識が精霊のものだといってもそれで動かす肉体が人間のままではそれをした瞬間、多大な魔力の放出によって肉体は壊れてしまう。
ニーベルだった少女が右手を、大口径の自動拳銃を持っていた男性に向ける。
刹那、男性の足元が一瞬翠色に輝き、幾重にも交わる翠色の細い閃光が男性の身体を斬り裂いた。男性の身体は“吹き荒れる虚空の疾風”という魔導によって両手の指では数えられないほどに分解され、ぼとり、ぼとりと鈍い音を立てながら男性の肉片は地に落ちる。
ニーベルだった少女はその中のひとつ、臓物が少ない部分を選んで広い、自分の口より少し上に離れたところに持ってきた。そしてそれから零れ落ちる血液を、彼女は舌を伸ばして受け取った。むせ返りそうな臭いと喉に絡みつくそれは吐き気がするほど気持ちの悪いものであったが、アドレナリンが絶えず分泌されている彼女の脳は「美味」と感じてしまっている。
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-8 ( No.101 )
- 日時: 2010/10/26 19:38
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: wJzAqpnE)
- 参照: 百ゲットー。…虚しい。
彼女がそれに夢中になっていると、急に何かが目の前に映る自分の前髪を右から左へ掠めていった。銃弾に似ていたが、火薬の臭いがしないため似て非なるものと判断して視線を右へ向けた。
「“憑依”……か……」
向けた視線の先にいたそれは、ニーベルだった少女を見てそう言葉を発しながら悔しそうに歯を噛み締める。
そこにいたのは、だいぶ前に“家族”が助けた少年とはまた違った身なりのいい少年だった。見た目から推測する年齢は十歳の前半で、藍色の髪の毛を片方に寄せて右目を隠すような髪形と灰色の瞳が印象的だった。その隣には女中服を来た若くて綺麗な女性が立っていて、左の捲り上げられた袖から覗く、肉片を無理やり針と糸で縫い合わせたような腕を伸ばしてその先をニーベルだった少女へ向けていた。
血液を飲み下すことを妨害されたニーベルだった少女は、殺意の含んだ瞳で彼らを睨み付ける。
「不快! 不愉快! なんて無粋……! 汝らのせいで興が削がれたわ! 特に汝……、」
女中服を着た女性を指差し、続ける。
「人間に屈したくせに、なんで精霊(わらわ)へ、この、ユノ様に歯向かってきたのかのう! ああもう不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快イィィィィィ…………! 責任、取ってもらおうぞ……!」
ニーベルだった少女——ユノは修羅を連想させるほどの殺気を纏い、女中服の女性に向かって走り出しながらも詠唱をし始めた。
「Are you ready? I don’t want your answer! I’m a star! Let’s time to hunt the mob……!(準備はいいかしら? 答えは聞いてないわ! 主役は私! さあ、烏合の衆の狩りの時間よ……!)」
両腕の外側から、“風切羽”と呼ばれる鳥の羽のような魔導の刃が発生する。それは手の先とは反対方向へ伸び、盾と剣の機能を同時にこなすような武装となった。
女中服の女性は一度少年の方へ目をやって彼が頷いたのを確認すると、ユノへ向けていた腕の指、親指を人差し指の内側の腹に引っ掛けて親指の上に視認不可な小石を置く。丁度コインを指で弾くような構えに似ていたが、それの力の向きは前方、つまりユノへ掛かっている。
女中服の女性が勢いよく指を弾く。ユノは常に身体全体を覆う広さの風障壁を展開していて、彼女に対する物理攻撃は大抵、肌に触れる前に空中に止められて飛ばされるようになっている。それが展開されていることでユノは油断をしていたが、不意に額へ硬いものがぶつかるのを感じた。走っていた方向とは真逆に掛かる力だったので、ユノは後方に大きくのけぞり倒れそうになったが、寸前で受身を取って着地した。
「くぅ……、癪な真似を……!」
女中服の女性が放ったのは“指弾”と呼ばれる、指を銃代わりに物体を発射する芸当だ。練習すれば誰でも出来るものだが、彼女の細い腕ではあの威力は普通出すことは容易でない。ユノが展開している風障壁は貫通性の高い狙撃銃ですら止めてしまう代物だが、それを身体がのけぞってしまうほどの相当な威力を残して貫通してきたということは、彼女の放った指弾が生身の人間を死に至らしめる威力だということを証明している。
ユノが体勢を整え、再び特攻する間に女中服の女性は装填を完了していた。先程の指弾で風障壁は破られているため、もう一度障壁を張らなくてはならないが、明らかに間に合うはずがない。張り終わるころには、ユノの頭には風穴が開いていることだろう。
しかしユノは焦ることもせずに風切羽のついた右腕を前方に突き出す。するとその腕についていた羽の数枚が腕から離れ、落ちていく枯葉のように空中へ投げ出された。
放たれる指弾。それは先刻ユノがばら撒いた羽の数枚を次々と貫通していき、少々威力を抑えられながら彼女を襲う。左腕に残された風切羽を盾に、右腕を添えて防御体勢をとって指弾に立ち向かった。華奢な足で踏ん張り、歯を食いしばって耐えているユノの口からやせ我慢ともとれる言葉が漏れる。
「大したことのない……。それに、防げないなら……、」
ユノが左手を振りぬく。
「押し返せば、いいのじゃ……!」
やっとの思いで押し返した指弾には致死性を残さないほど勢いを失っていたが、それでも威力は相当だ。
女中服の女性は指弾が自分の身に戻って来たことに驚きつつも、何とかそれを避けようと身をよじったが間に合わず、左肩に当たってしまった。痛みは左肩を中心に、全身を音をも超える速さで駆け巡り、彼女の運動神経を少しの間麻痺させた。
ユノはそれを好機と判断すると、余裕を見せつつも全力で倒しに来るという決意の眼で睨んだ。
「ちょっと本気出すかのう……!」
そう怒鳴るとユノの周りの空間が鳴動し、周囲にいる人間の本能に「危険」と感じさせるほどの殺気を放った。
「Shut up! I don’t want you! I dislike everything! I obstinately refused. That’s why don’t come here! Dislike! Hate! Detest……!(黙って! 貴方なんか望んでない! もう何もかも嫌い! 拒絶してるんだから来ないでよ! 嫌! 嫌! 嫌ぁぁ……!)」
詠唱が終わると同時に女中服の女性を中心に、半径一メートル程だろうか氷で造られた格子の檻のような物体が彼女を閉じ込めた。それは彼女の頭上で連結し、鳥かごを思い起こさせるような形となる。檻の隙間が銀色に光り、ひとつひとつの隙間には氷で形成された鳥が登場し、檻の中の獲物を食い千切ろうとする機会を今か今かと眼を光らせて狙っていた。
ユノが指を鳴らした。“荒々しき水鳥の監獄”という魔導が女中服の女性の四肢を食い千切るべく、甲高い鳴き声と共に彼女を襲った。がりっ、ぐしゃっ、などといった不快な擬音を響かせている光景をユノは楽しそうな表情で眺め、止めを刺すべく左手に残った風切羽に更なる風(ヴァーユ)の魔力を込めて鋭利さを高め、一直線に女中服の女性に歩き出した。
一歩。また一歩と速度を速めながらユノは近づいていく。獲物の息の根を止めようとしている肉食動物のように目を光らせ、数歩進んだところで彼女は前方に跳んだ。そして風切羽の付いている左手を後ろに引き、女中服の女性を閉じ込めている荒々しき水鳥の監獄もろとも破壊するようにそれを突き出した。
響く破砕音。舞い散る水蒸気。放たれたそれは監獄をばらばらに砕きこみ、確かな手応えをユノに与え、彼女を最高の快感へと導いた。
「くひひひひ……、ざまぁないのじゃ。調子が悪かったなら言ってもいいのじゃぞ? ……聞かないがな」
そういはねってユノは風切羽を解除してつきだした左腕を引こうとしたが、如何せん何かに引っかかって抜けなかった。疑問に思って強く力を込めて引き抜こうとするがそれでも叶わなかった。
次第に視界の妨げになっていた水蒸気が晴れていき、引き抜けない原因がユノの視界に映るようになった。
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-8 ( No.102 )
- 日時: 2010/09/12 19:32
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 2nnbbVZM)
- 参照: 百ゲットー。…虚しい。
「なっ……!」
絶句するユノ。彼女の目に映ったものは、通常の思考では到底理解できないものだった。
女中服の女性の姿は映らず、そこにあるは無数の腕であった。どれも先程見た彼女の腕のように、無数の肉片を無理やり縫いつけたような痛々しい形で。そして更に驚くべきはその数だった。一本や二本なら生物学的に納得できるが、それを許さないほど尋常ではなく容易に二桁は超える数で、それらは壁になるように女中服の女性の前に存在していた。ユノの腕が抜けなかったのはそのうちの一本が彼女の左腕をつかんで離さなかったからだ。
また別の腕が身動きの取れないユノの小さな体を突き飛ばす。傲慢から風障壁はまだ張っていなかったために直撃をもらい、彼女はどこかへ行ってしまいそうな意識を必死に繋ぎ止めながら飛ばされて地面に落ちた。
咳き込みながらユノは相手を確認するために顔を上げる。追撃をしてこなかったことに少し安堵してしまった自分を許せなくなり、舌打ちをした。
女中服の女性が腕の中から立ち上がる。その光景で、ユノは再び驚愕した。
彼女の首——正確には左の鎖骨あたりだが、文字通りそこから腕は“生えていた”。後々理解することだが、女中服の女性の身体中に両腕のようなツギハギの跡があり、それが開いてそこから腕が生えているのだ。一言で言うと、あまりいい気持ちで眺められる状態ではなかった。
立ち上がりながら女中服の女性はうんざりした様な表情をする。彼女の主らしき、藍色の髪の毛の少年が彼女の元へ近づいていった。
「まったく、この姿は自分でも正直引くわね……。でも、実際ヤバかったから仕方がないけどさ。はぁぁ……」
「ふん。流石にひとりでは簡単にいかないようだな。……切り替えろ、“レイジー”」
レイジーと呼ばれた女中服の女性は今までの真剣な表情を止め、まるで友人あるいは恋人を見るような視線を少年に送った。
「はいはい。どうせ私じゃ役不足ですよーだ。そんなに言うなら私抜きでやってみなさいよ、“ニコ”」
ニコと呼ばれた少年は目を閉じて軽く笑い、右目を隠すように分けられた髪を払って隠れていたそれをあらわにした。
「Let’s time to party. ……“クレイジードール”アリス……!」
彼の左の額から頬にかけて少し黒みがかった水色の、絵に描いた瞳のような形の魔力回路が走った。
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-9 ( No.103 )
- 日時: 2010/10/26 19:40
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: wJzAqpnE)
- 参照: テスト? なにそれおいしいの?
第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』⑩
——パーティの時間だ。そういった意味の古代共通語を唱え、ニコが自分の精霊の名前を呼んだ瞬間、彼とその周囲の空気が膨らんだビニール風船が破裂するような音と共に弾け飛んだ。この意味は半分文字通り、半分比喩表現であり、ニコの身体から魔力が水蒸気のように放出されて霧となって目視を困難とさせていた。
これらが意味すること。それはニコの身体には常人では有り得ない量の魔力を溜めていることで、ユノは自身が憑依している少女と同等またはそれ以上の魔力を保持している人間を目の当たりにし、驚愕と焦燥が隠せない表情をした。
ニコの契約精霊、アリスはオックスフォードのフォリイ・ブリッジとゴットストウの間にある、テムズ川の岸にあるウサギの穴から入ることのできる古代国イギリスの地下王国である不思議の国や、同じくオックスフォードのクライスト・チャーチ学寮の学寮長の居間にある鏡から入ることのできる鏡の国などを、BR・千九百六十年代(BRはラグナロク以前の年号。古代でいう西暦で、この場合は西暦千九百六十年代)に訪れた少女である。その紀行文とも思しき物語は、古代の作家ルイス・キャロルの児童文学“不思議の国のアリス”、“鏡の国のアリス”として有名だろう。また、ジョン・テニエルによる挿絵は、その旅先の様子を克明に書き出している。
したがってこの精霊の名前は“アリス”であるが、ニコは名前の前に「クレイジードール」と言っていた。これは“二つ名”と呼ばれている。
精霊とは様々な名前、形質、種類で存在し、それぞれ同じ種類もいたりしているが、そうはいっても魔力など個々の差がある。これらを分別するとしたら、この世界にありふれている種類の者を“通常種”、種類自体があまり多くない者は“希少種”、元々の魔力が膨大で討伐が容易ではない者は“危険種”と呼ばれる。中でも特に魔力の量や質が優れている固体には、“特異種”とされ二つ名が付けられる。例を挙げれば“アース”が討伐したアザ・ガウストの“死骸龍”やベルゼブブの“粒子の黒蝿”などがある。その名前が付けられる意味は「接触禁止」とされ、魔物討伐を専門としている便利屋でも近づくのを拒絶してしまう。ユノは精霊の中でも希少種、そして危険種と言われているが二つ名を持つほどではなく、特異種を自らの契約精霊としている人間を目の前にして、無意識に恐怖を感じてしまった。
「毎度のことだが……、この霧は何とかならないのか? 正直鬱陶しくて敵わない」
霧の中から声が聞こえる。聞くところニコの声だが、心なしか声が低く聞こえた。そしてそれを振り払いながら出てくるニコの姿を見ると、ユノは自分の目を疑った。
藍色の髪の毛、灰色の瞳、そこにいる少年をニコと断定するには十分な要素であったが、ただひとつ本人か疑うものがあった。それは見た目の年齢。先刻までの彼は大体十歳前半の身体年齢だったが、今は違う。ニーベルの、今はユノだが、“家族”の最長年齢と同じくらいの身体年齢で、魔力開放で何故こうなったのか不思議でならなかった。
「何故身体年齢が変わったのかとでも言いたげだな」
ユノは顔にでも出てしまったのだろうかと己を恥じた。
図星を突いたと確信したとニコは軽く笑って続ける。
「僕のアリス……、レイジーと呼んでいるが、彼女とは協定で使役しているからな。その副作用で魔力開放していない間は身体年齢が契約時から変わらないんだ」
ユノの目は見開かれ、開いた口は閉じること忘れていた。——嘘じゃ。何故。特異種なのに。協定で使役なんて。その気になれば契約している人間を殺せるのに。妾たちが恐れるくらいの存在なのに。何て、何て何てイレギュラー。狂ってる。正気の沙汰じゃない。嫌じゃ。勝てるわけがない。こんなのに……!
ニコの後ろからレイジーが優雅に笑って出てくる。無数の腕は元に収まっており、見かけは人間と変わらない姿になっていた。
「あら? ニコは何で残念そうなのかしら。戦闘するとき以外は主従関係なんて無茶振りされて、ふざけんなと言いたいのはこっちなのよ?」
少々怒気のこもった口調に焦りを感じたニコはひとつ咳払いをして誤魔化す。その様子を見てからレイジーはユノを一瞥し、挑発的に笑う。
「はじめまして、自意識過剰のお嬢さん。特異種、二つ名は“クレイジードール”のアリスで御座いまーす。ク“レイジー”ドールだからレイジーね。以後、お見知り置きをっ!」
レイジーの自己紹介を見て、見られないようにため息をついていたニコは懐から一本の短い棒のようなものを取り出した。それは両刃のナイフだったがお世辞にも機能的とはいえない物で、戦闘ではなく儀式などに使われるように宝石細工がされてあった。
ひどく遅い動作であったがユノにとっては恐怖のほかの何者でもなく、その一挙一動にびくりと驚いては震えていた。
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