ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ロンリー・ジャッジーロ 4−2
日時: 2011/07/31 16:02
名前: こたつとみかん (ID: DNzgYQrN)
参照: ココに来て一年経った、かな?

起きている間はずっと寝ていたい。だけど書き続ける。それがなによりも好きだから。

こんにちは。新年明けましておめでとうございます。


最近ポケモンの白を購入しました。ミジュマル超可愛い^^

ではでは、この小説が貴方の享楽となりますように。
こたつとみかんでした。

序章 前>>3  後>>4
第一章 ①>>8  ②>>10  ③>>12  ④>>16 >>17
第二章 ①>>21 >>22  ②>>25  ③>>26  ④>>33 >>34  ⑤>>40 >>41  ⑥>>44 >>45  ⑦>>46 >>47  ⑧>>51 >>52 ⑨>>62 >>63 >>64
第三章 ①>>73 >>74 ②>>77 >>78 ③>>82 >>83 ④>>84 >>85 ⑤>>86 >>87 ⑥>>90 >>91 ⑦>>94 >>95 ⑧>>96 >>97 ⑨>>100 >>101 >>102 ⑩>>103 >>104 ⑪>>105 ⑫>>106 ⑬>>107
第四章 ①>>112 ②>>113

キャラ名鑑 その一>>18 その二>>68 その三>>72

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Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-4 ( No.84 )
日時: 2010/07/05 18:07
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: dsoi.OWL)
参照: お待たせいたしました!

第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』④

 モヒカンヘアの男とその仲間は朱雀門の中に入り、アイリスとリースの姿を見るなり近づいて来て、二人が座っていた席のテーブルを乱暴に蹴り飛ばした。リースは一瞬目を瞑り、驚いた様子だった。周りにいた他の客たちも、何事かと振り向いてアイリスたちの方向に目をやったが、モヒカンヘアの男とその仲間に睨みつけられるとすぐに目をそらす。
 相手はモヒカンヘアの男も含めて、四人。いずれも力に自信がありそうな強面の男たちだった。
 ——姉御は店の奥に戻っていったからいないし、カイはアイビーと店の外に出て行ったからここにはいない。状況は最悪だ。アイリスが頭の中であくまでも冷静に今の状況を分析している中、リースはその小柄な身体を震わせて怯えていた。モヒカンヘアの男は額に血管を浮かび上がらせて、明らかに怒っている様子だった。——無理もないか。と、アイリスは苦そうな顔をする。
「そこの銀髪とチビ……。用件は判ってんだろォなあ……!」
 逃げようにも、出口は彼らの後ろにあり、とてもではないが通り抜けられるには困難だ。
 頼れる味方もいない。使い慣れた武器もない。絶体絶命といえば、正にその通りの状況であろう。必死に対処の仕方を考えているアイリスに対して、モヒカンヘアの男は無情にも力強く握った拳を放ち、それがアイリスに直撃する——、
「うううぅ————————!」
はずだったが、その拳が当たる前に、リースが最初から持っていた大きな金属製の鞄を遠心力を利用するように体ごと回転させて放ち、それがモヒカンヘアの男の眉間にカウンターの要領で当たった。ごちん、などとコミカル的な生やさしい音ではなかった。間違いなく、何かが砕ける鈍い音だった。
 モヒカンヘアの男は悲鳴も叫ぶ余裕がなかったのか、声を上げずに吹き飛び、近くのテーブルの上に大の字になって昏倒した。——喰らう喰らわない以前に、あれ、命が大丈夫なのか……? アイリスはこの様子に顔を引きつらせて絶句した。
 他の男たちも同様に絶句し、思考が通常に戻る前にリースは次の行動に移っていた。リースは持っていた金属製の鞄を足元前方に置き、両手で胸の辺りで手を組んで、呟く。
「助けて。ヘルメス……!」
ヘルメスはオリュンポス十二神の一柱。旅人、泥棒、商業、羊飼いの守護神であり、神々の伝令役を務める。能弁、体育技能、眠り、夢の神とも言われる。ヘルメスはゼウスとマイアの子とされ、特にゼウスの忠実な部下で、神話では多くの密命を果たしている。代表的なのは百眼の巨人アルゴスの殺害で、このためアルゴス殺しの異名がある。死者、特に英雄の魂を冥界に導く死神としての一面も持ち、タキトゥスは北欧神話のオーディンとヘルメスを同一視している。また、アポロンの竪琴の発明者とされる。これはローマ神話におけるメルクリウス(マーキュリー)に相当するとされ、水星はギリシアではヘルメスの星といわれ、これはローマ人にも受け継がれた。古代ヨーロッパ諸語でメルクリウスに相当する語を水星に当てるのはこのためである。
リースの黒いワンピースの裾と黒色のハイソックスの間に露出されている肌に、切り傷のような形の魔術回路が現れ、それが紫色に光る。これは雷(インドラ)と炎(アグニ)の魔力だ。
「かき鳴らせ、滅びへと導く哀しき鎮魂歌を。それは愚者の罪全てを許すもの。空よ大地よ、哀れな世界に施しを……!」
そう詠唱している間、リースは器用に足の先で足元に置いてある金属製の大きな鞄を少し強く蹴った。すると、そうなる細工でもされてあったのか、鞄が勢い良く上方向に開いた。出来立てのポップコーンの如く弾けだした鞄の中から出た物は、アイリスが先程見たトランプの束に何やら黒く短いステッキ。そして黒いシルクハットという、まるで『手品』をするための道具の数々が出てきた。アイリスの視界に映る限り、他にも色々鞄の中に入っているみたいで、何故この三つだけが飛び出したのかという疑問が浮上したが、今はそんなこと言っている場合ではないと意識を戻した。
リースは詠唱が終わると同時に、まずシルクハットを取って自分の頭にかぶせた。サイズが合っていないのか、目が少し隠れている。続いて右手にステッキを、左手にトランプの束を取る。そして、トランプを束ねている紐を口で破って空中にばら撒いた。
物理の法則に則るならトランプは地面に落ちてしまうのだが、そうはならなかった。
五十四枚のトランプ全てがリースの両側面から前面にかけて面積が広い面を上下に向けた状態で空中に浮遊していた。
「GO……!」
 古代共通語で「行け」という意味の言葉を発しながらリースがステッキを前方に振ると、全てのトランプが例外なく青色の光を纏い、男たちに向かって跳んでいった。
 ——電磁鳥……? アイリスはこの魔導が移動用であることを知っていた。だから電磁鳥をこのように攻撃に使うところは始めて見たため、動揺が隠せなかった。
 ただ、この魔導にはそこまで質のいい魔力が込められていないようで、本来より持つ岩に突き刺さるほどの貫通性はなく、ただゴム弾丸が当たったような「痛そうな」音が聞こえてくるだけだった。
 だが、逃げるだけの隙を作るには十分な行動だった。
 金属製の鞄を拾ったり、撃ったトランプを回収する暇を与えずにアイリスはリースの腕を掴んで店の出入り口へと走り出した。
 突然腕を掴まれて驚いているリースを無視し、乱暴に出入り口のドアを開ける。
 出た瞬間、何かとぶつかった。
「……あァン?」
 目が虚ろで、意識がほとんどないような表情で振り向いたのは人目で薬物中毒者だと判断できる男だった。
 その男はぶつかってきたのがアイリスだと判断すると、急にぶつかった場所——左腕を押さえて痛がり出した。明らかな演技である。こうして、治療代だの何だのを奪い取るつもりだろう。そして何か打ち合わせでもしていたのか、朱雀門の出入り口へいたる所から仲間と思われる男たちが現れてきた。全員がアイリスへ敵意を向けている。人数は軽く十は越えている。——さっきの倍以上か……!
 アイリスはよくこういう輩たちを目にしてきたし、襲ってきたところを何回も返り討ちにしてきた経験があるが、今回は勝手が違う。
 まず人数が多すぎる。高周波斧を持ち、万全の状態で戦ってもこの人数には太刀打ちできそうにない上、今回は高周波斧もなければ鉄板仕込みのブーツもない、丸腰の状態だ。活路を開いてくれたリースはもう先程の行動で精神がショートしているように呆然としている。万に一つも勝機が無い、一難去ってまた一難とはこのことか。
 店には戻ることは出来ない。だとすると、またここを通り抜けていくしか道はない。
 ——精霊を呼んで魔力を解放させれば何とかなるか……? や、駄目だ。詠唱する暇なんてないだろうし、そもそもあんなものに頼りたくない。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃ……。アイリスはいよいよ混乱に陥ってしまいそうになる。立て続けに似たような不幸が起こり、それでも自暴自棄にならない精神をアイリスが持っていたのは流石というべきことだろう。
「おい」
 ふと、声が聞こえた。威圧感のある、それでも静かな声だった。
 アイリスを取り囲んでいた男たちが一斉に声の主の方へ振り向く。水色の髪の毛に水色の目つきの悪い瞳。カイだ。その隣にはアイビーがいる。ちょうど会話が終わって戻って来たようだ。
「……なンだァ?」
 アイリスとぶつかった男がカイを威圧しようとにらんだ。が、ヴィ・シュヌール国内で最強と謳われた三人のうちの一人が放つ威圧感とは、猛虎とネズミの差があった。その証拠に、カイはそれにまったく臆することなく一歩近づく。
「貴様ら。そいつに手出しをする気か……? ……なら、」
 カイは左手でコートの内側の右腰のところから、刃渡り四十センチくらいのダガーナイフを取り出す。
「遺言は済ませたか……?」
 次に、右手でコートの内側の左腰のところから、刃渡り三十センチくらいの普通より短い神刀を取り出す。
「神様へのお祈りは……?」
 それらを、カイは前方に腕を交差させるように構えた。
「少しばかり地獄の釜の中にブチ込まれる、心の準備はOK……?」
 カイが走り出す。


分割

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-3 ( No.85 )
日時: 2010/08/06 16:32
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: eMnrlUZ4)
参照: お待たせいたしました!

 カイは男たちより低い体勢で走りながら数人の中心に潜り込み、ダガーナイフと小神刀で男たちのふくらはぎを斬る。そうしてバランスを崩して地面に膝を着こうとしたときに、カイは右手を地面につき、それを軸にして勢い良く一回転しながら男たちの顔面を蹴った。感じた手ごたえからして、倒れたのは恐らく四人だろうとカイは判断した。
 回転が止まると、すかさずカイは右手に力を込めて跳び上がり、近くにいた一人の男へ両の手に持っている武器を振り下ろした。狙った場所は右と左の鎖骨。感触と刃が肉に入った深さから見て、鎖骨は叩き折れていることだろう。そしてダガーナイフと小神刀を抜   き取り、後ろに跳んで着地し、立ち上がりざまに後ろにいた男へ右足で後ろ蹴りを放った。
一撃の蹴りで相手を倒すには人中、水月、金的の三つの急所を狙うのが良いとされるが、カイはそのセオリー通り、的確に水月に当てていた。これは幾つもの修羅場を経験してきた彼だからこそ出来る芸当だろう。
アイビーはまだカイの手の届いていない、奥にいる男たちに向かって走り出しながら、スカートの中より二本の電動鋸を出す。修理をされて間もないためか、新品のように刃が煌めいていた。
 ヴィルバーはアイビーの電動鋸を修理しただけではなく、改造もしたようだ。今までの電動鋸の電源の入れ方は紐を引っ張るようにしていたが、持ち手の人差し指が掛かるところに銃のトリガーのような物が付けられており、それを引けば電源が入るようになっている。そのおかげで、武器を出してから電源を入れるまでの時間を大幅に短縮出来ている。
「ジャンクにして差し上げますわ……!」
 ヴィルバーの影響か、妙に技師じみたの言葉を発しながら瞳を狂喜に染め、アイビーは腰を右から左に捻り、その動きと共にふたつの電動鋸を薙ぐように振るう。
 狂喜に染まりつつもちゃんと恋人のお願いには従っているようで、電源は入れずに斬撃攻撃というより打撃攻撃という様子だった。これなら、打ち所を間違えなければ殺すことはないだろう。
 それに当たった。というより巻き込まれた人数は、三人。いずれも潰される間際の蛙のような声を上げながら倒れていく。いくらアイビーが非力な少女といっても、幾多の修羅場で身に付いた身体の全体のバネを無駄なく使う戦い方を持ってすれば、大柄の男にも相当のダメージを与えられる。
 近くに向かってくる敵がいなくなり、カイとアイビーは残りの男たちを見る。——四人。
 二人の殺気に気圧された男たちは、脱兎の如く逃げようとする。無論、それらを逃がすようなことはしない二人だが、意外にも男たちの逃げ足は並のそれではなかった。加えて、武器を持ちながら走るのと、手ぶらで走るのでは後者のほうが速いに決まっている。
 後ろも確認せずに走る男たちの前に、何かが立ちはだかる。一人は赤い髪と燕尾服の男、もう一人は神刀を腰に下げた短髪の男だった。
 どけ。男たちは前の二人にそう言おうとしたのだろう。だが、赤い髪と燕尾服の男——ブランクと神刀を腰に下げた短髪の男——黒峰は口を開く時間も与えずに一瞬で戦闘体勢を取り、
「……眠れ」
「……成敗ッ!」
ブランクは四人のうち二人を顎を狙ったフックで倒し、黒峰は残りの二人を上段から振り下ろす一刀のもと、峰打ちで地面に叩き付けた。
 それからブランクと黒峰は何事もなかったように、涼しい顔でアイリスたちのほうに歩いてくる。そしてアイリスを見て、半ば呆れたように笑う。
「全く。何処へ行ってもトラブルが絶えませんね、貴女は」
 そう言って手袋の位置を整えるブランクに、アイリスは少し苛ついた。——好きでこうなってるわけじゃない。顔にでも出ていたのか、ブランクは苦笑しながら「すみません」と謝った。
 ——どうも、調子が狂う。
「……それで? 何しに来たんだよ」
 アイリスは仏頂面のまま数歩進み、ブランクたちに近づいて聞いた。すると、答えたのは黒峰だった。
「ニーベル殿が心配していると申しておった。何やらフーリー殿に高周波斧を持たせずに出掛けさせたことを、とても後悔していたとか。話によると、ヴィルバー殿も来ている様子で御座る」
 ヴィルバーが来ていたということに軽く意外に思うアイリスを押しのけるように、アイビーが黒峰の前に立ってその瞳を輝かせた。さっきまでの狂気は何処へやら。
「ヴィ、ヴィルバーさんが来ているって本当ですの?」
 思わぬ展開に少々黒峰はたじろぐが、それでも会話は続いた。
「あ、ああ……。フーリー殿の高周波斧が修理できたからって。そうで御座るな?」
 そうブランクに問うと、彼は頷いた。
 それを聞いたアイビーは、立ちくらみしながら悦に入っている。
「や、アイビー。お前は仕事があるなら来るなよ」
「笑止! 仕事よりも大切な物、それが愛なのですわ……!」
「意味が判らないから!」


 少し離れたところでアイリスとアイビーの言い争いを見物しているカイとリースの元へ、朱雀門店内からリースが怯ませた——そして何故か口から泡を吹いて失神している男たちを引きずり、姉御ことリーインが出てきた。
「リースちゃんだっけ? ……災難ねぇ。メインの用事が放置されているなんてね」
 そう笑いかけながら、リーインは男たちを店先に捨てていく。
「で、アイリスに頼みたいことって何よ。アタシ、耳はいいから聞こえて来ちゃったのよ」
 リースは心から安堵したように笑い、その口を開く。
「えと、ウチ、住む家を探して欲しいんですぅ……」
 リーインがクスリと笑う。
「大変ね。……いいわ、私が手配してあげる。マリアあたりなら良さそうだしね。取り合えず、今日はアイリスのところに泊まっていきなさい。明日にでも連絡するから。」
 言い終わると同時に、今度はカイを見る。
「カイ、いいわね? あの娘にそう伝えておいて。アイビーにも、もう仕事終わっていいよって言って」
「しかし……」
 申し訳なさそうに言うカイの口を塞ぐように、リーインはカイの口元に人差し指を突き出す。
「いいの。今日は色々あって大変だけど、何でか悪い気分じゃないからよ。要するにただの気まぐれ。気にすることはないわ」
 「そうか……」とカイは微笑んで了承した。続けてリーインもニカッと笑う。
「ところで」
それから、アイリスのほうを見て一言。
「何であの娘、服があんなんなのかしら。ずっと思ってたけど言わなかったわ」
 カイが頷く。
「それは俺も思ってた」

○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
お知らせ。
更新が遅れて申し訳ありませんでした^^;
少しばかり、親族間でトラブルがあった上、期末テストの時期ですから、ほとんどPCが触れませんでした。
でも、もう大丈夫です。夏休みに入るので、そこでペースアップを図りたいと思います。どうか、見捨てないでやってください!
こたつとみかんでした。

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-4 ( No.86 )
日時: 2010/08/04 17:40
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 6oBlKSV1)
参照: 講習は辛いー! へるぷみー!

第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』⑤

 時は少し遡り————、ヴィ・シュヌール西地区、“地獄通り”にあるアイリスとニーベルの家の中。
 アイリスが出て行った後、ヴィルバーが来たとことでニーベルはようやくアイリスが高周波斧を持たずに出かけたことを思い出す。すると、ニーベルの顔がすごい勢いで青ざめていく。彼女はアイリスのもうひとつの武器である、鉄板仕込みのブーツで非力な蹴りの威力を上げていたことも知っているため、丸腰状態で外へ出かけさせたことを後悔しているのだろう。
 今にも泣きそうなニーベルの表情を見て、焦ったディオーネは心配させないように声をかけようとする。
「あの、きっと大じょ……」
「ま、まあまあ! 心配要らないっスよ!」
 その声に被せるように、ヴィルバーが必死に泣かせないようにニーベルを慰める。こっちも焦っていたせいか、ディオーネの声など聞こえなかったようだ。ニーベルもまた聞こえていなかったようで、顔をディオーネに向けずにヴィルバーに向けた。
「なんなら、俺が探して来」
 ヴィルバーはその次からの言葉を言うことはできなかった。いきなり顔、しかも鼻の辺りに何か硬い物がぶつかり、床の上に倒れてしまったからだ。
 ニーベルは目の前で何もしていない。すると、害を加えたのはディオーネだろう。彼女は金属製の、折りたたみ式の携帯ロッドをその手に持っていた。
 それは伸ばしきると二メートルほどの長さになり、先端は左右に十五センチほど伸びている。ロッドというよりメイス、ハンマーに近い形状だ。加えて、素材は土(タイタン)の属性の魔力で鋳造された金属であり、いくら内部が空洞の折りたたみ式といっても、硬度や耐久度は並みのそれではない。不意打ち、しかも顔面にクリーンヒットとくれば、大の男といえども悶絶する痛みだ。
 痛そうに顔を上げ、鼻を押さえながら上半身だけを起こしたヴィルバーをディオーネが睨みつける、アイスブルーの瞳が憤怒の炎に燃えていた。睨みつけている張本人以外の二人は何がどうしてこうなったのか判らなかった。
 ディオーネが睨んだまま口を開く。
「男が……。あの忌々しい男が、私とニーベル姉さまの会話を遮ってんじゃないですよ……!」
 ヴィルバーには訳が判らなかった。とにかく落ち着かせるべきだと思い、声をかけようとする。
「あ、あの……」
 その声に、より一層憎悪を上乗せした瞳でディオーネは睨みつける。持っている金属ロッドを握る手が、さらに強く握られる。
「男が……、私に話しかけてんじゃないですよ……!」
 金属ロッドをヴィルバーのこめかみを狙うように、右回しのモーションでディオーネが振り回した。
 いくらなんでも致死確実のそれを喰らう訳にはいかないヴィルバーは、不本意ながらも応戦、というか防戦する決意をした。
 彼の行動は至ってシンプルなものだった。
 まず頭を後ろに倒し、自身のこめかみを狙った金属ロッドを避ける。そして、その反動を利用して右足を振り上げ、金属ロッドの根元を蹴り上げた。使用者は子供で非力だ。物理の法則に則れば、簡単に武器は取り上げることが出来る。ヴィルバーはそれを狙った。
 案の定、ディオーネは金属ロッドを手放し、手放したそれはキリモミしながら宙を舞い、偶然にもため息をついているヴィルバーの手の上に収まった。
 その様子を見て、ディオーネはぎりりと悔しそうに歯軋りした。
「……やりますね。なら、」
 ディオーネは大き目の青いローブの右袖に反対の手を掛け、肘のところまでまくった。
「お願い。ピクシー……!」
 少女の右腕に刻まれた、魔術回路がニーベルと似たような色に光った刹那——、
「そこまでだ」
ぱぁんという乾いた音と共に、三人のいる空間の中に誰かが入ってきた。
 目を向けると、手を叩いた後のような仕草をしている、やけに身なりのいい少年——ニコ・ザンティ・ネバートデッドと、従者のレイジーとブランク・ベルハム・ラピオロルゼがいた。
 居間にいた人間の中で、ニーベル以外はニコのことを知らない。だから何故このような少年がこの家に入ってきたのか不思議でならなかった。
 ニコのことを知らない二人の視線を気にもせず、視線を向けられている少年は居間に入ってくるなり、ディオーネの近く音もたてずに行き、その右腕を掴みながら呟いた。
「“Command”……It is“Withdraw”(“命ずる”……“撤回”だ)」
 咄嗟だったので意味までは理解できなかったが、どうやら古代共通語のようだ。
 すると、先程まで輝いていたディオーネの魔力回路は力をなくしたようにその光の瞬きを止め、元の何もない状態に戻った。その腕を持った状態のまま、ニコはニーベルを見た。
「ニーベル・ティー・サンゴルド。これは貴様の教え子だろう。軽率に魔力解放しないという一般常識くらい叩き込んでおけ」
 それを聞いてニーベルはニコに対して謝るほかなかった。その態度を見たディオーネは不機嫌そうに自分の師が謝る相手を見る。が、その歳に似合わない、有無を言わさない眼光と威圧感で黙らせられた。蛇に睨まれた蛙、というのが最も適当だろうか。そんな様子でディオーネはニコの腕を離れてニーベルの背中の後ろに隠れていった。恐怖を感じたのだろう。
 ニコはニーベルに視線を戻す。
「……で、通りがかって来てみたんだが。何の騒ぎだ?」
「ええと、それが……」
 話そうとするニーベルを止めるように、ニコは彼女の口元に指を立てて見せた。
「まあ待て。客人を立たせたまま話し出す奴があるか。客間へ通せ」


いつもながら、分割。(その差一分弱)

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-4 ( No.87 )
日時: 2010/08/04 17:41
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: 6oBlKSV1)
参照: 講習は辛いー! へるぷみー!

 要約してニーベルが説明し終えると、ニコは面倒くさそうに顔を上げた。
「……なるほどな。それで銀髪が心配という訳か。……馬鹿馬鹿しい」
 手に持っているティーカップの中身を上品にすすりながら続ける。
今、皆がいるのは借家の中の客間だ。そこには正方形のテーブルが設置されており、それを囲むように大人数が掛けられるソファがある。ニコ、レイジー、ブランクとニーベル、ディオーネ、ヴィルバーは対面して座っている。とは言っても、レイジーとブランクはニコの座っているソファの後ろに立っていて、ヴィルバーもニーベルの後ろに同様だった。
「だが、貴様の浮かない顔を見てるのも趣味じゃないしな」
 そう言うと、ニコはブランクの名前を呼んだ。ブランクは一度短く返事をし、そこにいることを伝えた。
「聞いての通りだ。あの銀髪を捜して来い」
「は」
 返事をして直ちに向かおうとするブランクを、一度ニコは制止した。
「ついでだ。中央地区西通りに黒髪の刀男がいたろう。そいつも連れて来い」
 黒峰のことだろうか。黒髪で刀を携えた男は他にもいるかもしれないが、ニコが気に掛けるほどだ。そこまでの人間は彼しかいないため、恐らくは間違いないだろう。
 ブランクが借家を後にし、その客間に耐え難い静寂が生まれた。しかし、それを気にせずに口を開こうとする勇気ある者が一人いた。それはヴィルバー。
実のところ、彼は勇気だとかそういうものではなく、単に空気が読めないだけなのだ。葬式レベルの静寂でも打ち破ることが出来る、それがヴィルバークオリティ。
「あの、そこにいる性格悪そうな子供は誰っスか?」
 ——子供。その一言でニコの目つきは変わった。
「貴様が言うなっ!」
「本日二回目っ!」
 ニコは右手にティーカップを持ちながら、左手でソーサーをヴィルバーの顔目掛けて勢い良く放った。フリスビーよろしく回転したソーサーはヴィルバーの顔を切断こそしなかったものの、先程ディオーネが金属ロッドをぶつけたところとほぼ同じ部分に当てた。陶器は無論、金属よりも硬くないため痛みもそれほどでもなかった。あくまで比較的であるが。
 跳ね返って空中に舞ったソーサーはレイジーがキャッチし、あった場所に再び置かれた。
 ニコがニーベルが座っているソファの背もたれに肘を置いて、痛そうに顔を抑えて悶えて立っているヴィルバーを蔑むように見た。
「僕は見た目年齢こそ子供にも見えなくもないが、実際に生まれてきてすごした年数は貴様らよりも多いんだ。……次に“子供”と言ったら……覚悟しておけ」
「う、ウス……。で、何者っスか?」
 ここはニコないしはニーベルが答えるべきタイミングだったろうが、意外にも答えたのはレイジーだ。彼女は従者なのだから、当然といえば当然かもしれない。
「ここにおります御仁は由緒正しいネバートデッド家二千三十八代目頭首、ニコ・ザンティ・ネバートデッド様で御座いまして、若はこのヴィ・シュヌール南地区の便利屋たちを治めてらっしゃいます。あと、ニーベルさんとは師弟関係にあたります」
 淡々と言っているように見えるが、説明しているときのレイジーは割りと笑顔で話していた。混じり気のない笑顔、それはニコに対する忠誠心が海よりも深いことを意味していた。
 ヴィルバーとディオーネが“師弟関係”という言葉について疑問を持った表情をしていたが、いちいち答えるのは大変なので一旦ここは無視して話を続けた。
「ええと、ニコくん……今日は、どうしたの……? ……通りがかった、って言って……たけど……」
 ニコは弟子の質問に、軽く微笑んで見せた。それは子供が笑うといった感じではなかったが、とても優雅で優しそうだった。愛弟子と他でこれほどまで対応の仕方が違うとなると、ある種これは格差である。アイリスとの対応がいい例だ。
「野暮なことを聞くな。今日はお前にとって大切な日だろう?」
 “大切な日”。その言葉によってニーベルの心で霧がかかって思い出せなくなっていたひとつの思い出が甦ってくる。
 ニコが一度ディオーネとヴィルバーを見て、続けた。
「丁度いい、話してやれ。後ろの二人も仲間はずれじゃ可哀想だ」
「そう、だね……。ええと、あの、どこから、話そうかな……」
 気弱そうな少女がかつての頃を思い出し、語りだした——。

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-5 ( No.88 )
日時: 2010/08/04 18:10
名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)

久しぶりー一ヶ月ぶりー^^
ってことでrightだよ。
講習っていうのがあるんかね? みかの高校は(((°Д°;)))
頑張ってね! そしてお疲れー(`・ω・´)ゝ

小説の感想はまた最初から読んでから書き込むよ^^
もっとじっくり読みたいからね。

じゃ、またーノシ

追記:薔薇マリ14巻が本屋に無かった…orz


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