ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ロンリー・ジャッジーロ 4−2
日時: 2011/07/31 16:02
名前: こたつとみかん (ID: DNzgYQrN)
参照: ココに来て一年経った、かな?

起きている間はずっと寝ていたい。だけど書き続ける。それがなによりも好きだから。

こんにちは。新年明けましておめでとうございます。


最近ポケモンの白を購入しました。ミジュマル超可愛い^^

ではでは、この小説が貴方の享楽となりますように。
こたつとみかんでした。

序章 前>>3  後>>4
第一章 ①>>8  ②>>10  ③>>12  ④>>16 >>17
第二章 ①>>21 >>22  ②>>25  ③>>26  ④>>33 >>34  ⑤>>40 >>41  ⑥>>44 >>45  ⑦>>46 >>47  ⑧>>51 >>52 ⑨>>62 >>63 >>64
第三章 ①>>73 >>74 ②>>77 >>78 ③>>82 >>83 ④>>84 >>85 ⑤>>86 >>87 ⑥>>90 >>91 ⑦>>94 >>95 ⑧>>96 >>97 ⑨>>100 >>101 >>102 ⑩>>103 >>104 ⑪>>105 ⑫>>106 ⑬>>107
第四章 ①>>112 ②>>113

キャラ名鑑 その一>>18 その二>>68 その三>>72

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23



Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-6 ( No.94 )
日時: 2010/08/22 19:03
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: J0PYpSvm)
参照: 名残惜しき、夏休み。

第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』⑦

 蒼い髪の少年の後ろを追い、暫くして彼が立ち止まった。どうやら目的の医療施設に着いたらしい。
 そこは医療施設というには不衛生的な建物だった。二階建てのそれの外から見る壁にはスプレー缶で書かれたと思われる、罵倒した言葉が書いてあったし、所々の窓は割れていた。門から続く庭は何処からが庭で何処までが通路なのか生い茂った雑草で判らないほどだ。そして何より、どこの窓にも電気が付いている気配がなく、人が住んでいるのかどうか判らない状態だった。
 エリックは蒼い髪の少年に本当にここが医療施設なのかどうか聞こうとしたが、蒼い髪の少年は雑草を掻き分けながらその中に入っていってしまったので付いていくしかなく、その後にイーファを先頭に、次々と“家族”がその建物へ入っていった。
 蒼い髪の少年がその建物のドアを勢い良く蹴りつけて開けた。そのドアは押し戸だったので壊れることはなかった。彼は開けるなりその建物の奥へ向かって呼ぶように声を出した。
「イーウェイのじーさん、いるかァ?」
 彼がそう言うと、外の光が届かない奥の暗がりの中から何かが動き、ずりずりと何かを引きずるような音とともにそれは向かってきた。
 引きずるほど大きく、深い藍色のローブを羽織ったそれは老人のようで、蒼い髪の少年の言葉とその顎から伸びる長い白い髭で男性と察することが出来た。外の明かりに照らされて顔が見えるようになった。彼のまぶたは常に閉じられており、前がはっきり確認できるのか疑問だったが、躓かずにここに歩いてこれたということは見えているのだろう。その表情は微笑んでいるように見えるが、それは顔に刻まれた多数のシワによるもので、本当の表情は判らない。髭の先に赤いリボンが雰囲気にあっていなかったが、別段今口出しすることではないと彼を見た全員が判断した。
 蒼い髪の少年が親指で老人を指し、イーファのほうへ振り向いた。
「これ、イーウェイっつうじーさんなんだけどよォ、こう見えて医療技術に優れてンだ。そのガキの風邪にも最善の処置が出来ンだろ」
 そう言うと彼はイーファの腕から少年を奪い取り、肩に担いで今度はイーウェイという老人を見た。
「じーさん、何か手伝えることあるか?」
 イーウェイはいきなり来て、しかも相手が貧民街の子供たちだというのに嫌な顔ひとつとせずに愉快そうに笑った。
「ほっほっほ。お主、よく小生がここにいることが判ったのう」
「じーさんが昼間に街角で歴史語ってて夜はここで寝てるって大抵の人間は知ってンぞ? 結構自分が有名人だって知らねぇのかよ」
「そうだったかのう。……まあいいじゃろう、ほれ、その少年とやらを診よう。お主は奥の寝台に運んでくれ。……それと」
 イーウェイはイーファ、エリックを指差して言う。
「お主らには外の井戸から水を汲んできてもらうかのう。ふたつの桶に片方は水、片方はお湯にしてくれい。井戸の傍に着火器があるからそれを使え」
 急に指名され驚きを隠せない二人だったが、断るわけにもいかなかったので潔く返事をしてその作業に取り掛かった。
 イーウェイが次に指名したのはジェイルだ。イーウェイが彼に頼んだのは二階の部屋から布を大量に持ってくることだった。ジェイルは口を開かなかったが力強く頷き、承知したことを伝えた。
 暫くして全ての準備が滞ると、イーウェイが頷いて少年が寝かされてある寝台へ歩いていった。


 身なりのいい少年をイーウェイが治療している間、イーファは蒼い髪の少年を探していた。やがて彼が建物の外に出ていることを確認し、その元へ走って向かっていき、彼の隣に立った。そしてお互い目も顔も合わせていないまま、蒼い髪の少年は口を開いた。
「あのじーさんは治療に金を取ったりしねェからよォ、安心してお前らはもう帰っていいんだぜ」
 優しい声色で彼は言った。だが、イーファは不審に思う。この蒼い髪の少年はイーファたちのことを貧民街の孤児たちだと知り、その上で手を貸してきた。今までそのような前例を経験してこなかった事であり、何か裏があるのではないかという思考はごく当たり前のことであった。
「何で、俺たちを助けるつもりになったんだ?」
 不器用に警戒を隠しながらイーファは聞いた。それは隠しきれていなかったようで、蒼い髪の少年は苦笑混じりに答えた。ここにも彼の言葉にはカケラほどの敵意もなく、ありのままの言葉で喋っていた。
「別に、テメェらだったら助けなかったなんてこたァねェよ。死にそうな奴がいたから助けた。理由はそれだけありゃァ十分だろ?」
 そこまで言うと彼は深く息を吸い、吐いた。吐き出したそれは空気中で白い煙となって消えていった。
 それにつられてイーファも同じことを無意識にしてしまった。肺の中の隅々に行渡っていく冷たい空気は慣れなかったが、意外と心地のよいものだと知った。
 暫くその余韻に浸っていて、少し間が過ぎてから、イーファは隣にいる蒼い髪の少年の顔を見た。
 こうして蒼い髪の少年を見ると、彼が割りと整った顔立ちであることが判る。それを踏まえて、イーファは彼の言葉遣いがその顔に似合わないことを心から残念だと思ってしまっていた。
 数秒後、自分がそう思っていたことをかつてないほど恥じた。何故そう思った理由も追求せずにぶんぶんと頭を振り、それを取り消した。
「……そういう趣味はねぇっての」
 ため息混じりにそう言葉を吐くと、蒼い髪の少年は気になった様子でイーファを見てきた。見られた方はしまったといった表情を一瞬作り、ばつが悪そうに顔を背けた。
 もう誰でもいいからこの空気をどうにかしてくれる者を全身全霊で求めたイーファに、救いの手を差し伸べるようにそれは現れた。

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-6 ( No.95 )
日時: 2010/08/22 19:04
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: J0PYpSvm)
参照: 名残惜しき、夏休み。

「おい、探したぞ……!」
 それはどうやらイーファではなく蒼い髪の少年を探していたようで、蒼い髪の少年が遠くから走ってくるそれに反応して軽く手を振った。
 それは二人いたが、両方とも見かけはイーファや蒼い髪の少年と同じくらいの年頃だった。片方は水色で目つきの悪い瞳と、これまた水色の硬そうな髪質の髪の毛が目立った少年で、もう片方は短くカットされた茶髪と、誰もが警戒心を緩めることが出来そうな穏やかな顔立ちと雰囲気が印象的だった。
 水色の瞳の少年が走ってくるなり乱れた息を整え、ある程度落ち着くと少し怒鳴り気味に言った。
「貴様、どれだけ探したと思ってるんだ! 俺らはともかく、貴様の妹が心配して仕舞いにはぐずりだして大変だったんだぞ……!」
 比べてゆっくり向かってきた穏やかな顔立ちの少年が、水色の瞳の少年が怒鳴っているのを見て、それを落ち着かせるように割って入った。
「まあ落ち着けよ。結局大事なくてそれで良かったじゃないか。なあ? 妹ちゃん」
 先程は視認出来なかったが、穏やかな顔立ちの少年の後ろにもう一人いたようだ。それは全身を覆うような、頭さえも覆う形のコートを着ていて俯いているため身体的特徴などは見ることは出来なかった。だが一瞬顔を上げたときに見えた、綺麗な翡翠色の瞳はとても印象的だった。彼女は他三人と比べて見た目の年齢は低いほうで、ミィやニーベルに近い年頃に見える。
 話を聞く限り、彼女は蒼い髪の少年の妹らしい。言われてみれば、瞳の色は違えどほんの少し顔つきが似ていた。だが彼女のほうがより整った顔立ちで、誰が見ても美少女と認識できるほどであった。
 無意識に見つめていたようで、彼女はその視線に気づくと肉食動物に見つけられたウサギの如く穏やかな顔立ちの少年の後ろに隠れてしまった。
 はっと我に帰って顔を上げてみると、三人の少年たちは皆イーファを見ていた。穏やかな顔立ちの少年は苦笑しながら、水色の瞳の少年は怪訝そうな表情で、蒼い髪の少年はいかにも面白そうにニヤニヤという顔をしていた。
「それはいくらなんでも……、まずいんじゃないか?」
「初対面で失礼だと思うが、まずいと思うぞ」
「オイオォイ、お前はそっちの趣味かァ?」
 ナイフを刺されるが如く毒を吐いてくる目の前の少年たちに、イーファの胸のうちからは当然ながら怒りがこみ上げてくる。しかしそれは憎悪の怒りではなく、“家族”に向けられる怒りと近い感覚であった。
「そういう趣味はねぇっての!」
 先程自分自身を自重させるために言った言葉を今度は少年たちに、そして更に強い調子で言った。
 言われた彼らはというと、穏やかな少年は安堵したように小さく笑い、水色の瞳の少年は呆れたようにため息をつき、そして蒼い髪の少年は吹き出して声を上げて笑った。こんな和やかな雰囲気に場は包まれ、イーファはあるひとつの錯覚に陥った。
 「本当に俺はこいつらと初対面だったか」と。
 熱を出した身なりのいい少年を助けるために住処から走り出して街中へ来て、そこで声をかけられたのが蒼い髪の少年との出会いだったが、それが今では警戒心のカケラもなく談笑している。忌み嫌われて、恐れられて、見下されていて今日まで育ったイーファにとって初めての経験だ。そして感じた。「温かい」ということを。
 いつまでもこの時間が続いてくれればいいと心のどこかで思ってもいたのだろうか。翡翠色の瞳の綺麗な少女が「帰りたい」と穏やかそうな少年に抱きついたときに、イーファははっきりと残念に思ってしまっていた。だが、ここは引きとめるところではない。
「ったく、自分の妹に何寒い思いさせてんだよ。おら、もう帰れ」
 名残惜しい気持ちを自我で必死に押しつぶし、苦笑交じりに手を払うような仕草をした。たいてい、この仕草は追い払ったりするときに使うものだ。
 蒼い髪の少年は舌を出しながら不真面目に返事をして、連れの少年たちに帰るように促した。
 去り際、蒼い髪の少年が声を上げた。
「幼女趣味イエェ————!」
「うぜぇぇぇぇ……!」
 そんなやり取りの後、もう一度彼は振り向いた。相も変わらない、楽しそうな笑顔で。
「ヒヒヒ、……“またな”ァ」
 その一言を聞いたイーファは胸が熱くなるのを感じた。しかし、これは表に出してはいけないと本能が悟り、こぶしを強く握り、下唇を噛むことでそれを必死に耐えた。
 やがて彼らの姿が見えなくなると、イーファはため息をついて建物のほうに振り向き、中に入ろうとすると、
「いよう。楽しかったか?」
「のわッ!」
 急にエリックに声を掛けられた。よく見るとニーベルとレヴィ、ミィとジェイルもいる。
「……いつからだ」
 レヴィが笑う。彼女の笑い方には蒼い髪の少年と近いものがあるなどと、どうでもいいことを感じながらイーファは回答を待った。
「最初からよォ。アンタがあの男に変な気を持ったりするとこもばっちりだったしィ」
「……変な言い回しは止めろ。レヴィ」
 ジェイルがレヴィをたしなめたのにイーファは安堵した。もし彼がそうしてなかったらそこの中毒女に殴りかかるところであった。
「他の皆は邪魔しないように裏口から帰らせた。俺らもそろそろ帰ろう」
 「邪魔しないように」という言葉には何か引っかかるものがあったが、ここは指摘するところではないとイーファは思い、明るく返事をした。
 帰ろう。寒さをしのぐ壁もなく、雪を防ぐ屋根もない自分の住処へ。決して豊かで恵まれた生活とは言えないけれど、あそこにはある。決して冷えることのない「温かさ」が。
 雪の降り積もる道を五人の“家族”が肩を並べて歩いていった。

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-7 ( No.96 )
日時: 2010/08/28 19:00
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: LvO7QDqq)
参照: 名残惜しき、夏休み。

第三章『鐘の戯言、菖蒲の羞恥』⑧

 降る雪は肌に当たり、身体の熱によって溶けていくが、不思議と寒いとは感じない。何故かは判らないが、今はそれが判らなくても充分だとイーファは思った。今この場で“家族”と並んで歩いているだけで、温かいと感じることが出来るのだから。
 エリックはイーファが蒼い髪の少年と話していたことを聞きたがり、それをうんざりしながらイーファは適当に相槌を打ち、レヴィがいちいちそのことをからかい始め、ジェイルがその度に彼女をたしなめる。ミィはひっそりと彼の隣にぴったりとくっついて歩いていて、ニーベルが無言でそれを眺めていた。
 時を忘れてしまっていたようで、いつの間にか“家族”の待つ寝床の近くまで帰ってきてしまったようだ。楽しい時間はすぐに過ぎるというが、イーファはそれをしみじみと体感した。
 目の前の角を左に曲がれば、寝床のある貧民街の入り口となる。
 五人は笑いながらその角を曲がるとする。
 ぴちゃりと、不意に一番左を歩いていたエリックの頬に温かい液体がかかった。
「……あ?」
 一瞬、一同はそれを見てそれが何か理解できなかった。だが、一秒もたたないうちに理解する。“血液”だと。
 それに驚愕する間もなく、その血液の持ち主であろうとされる人間がエリックにぶつかり、地面に力無く伏した。それは男性で、“家族”たちも知る貧民街の住人であった。その男の腹からじわりと、赤い血液が地面の雪を染めた。
「は……?」
 五人が視線を上げる。
 目の前には身体の至る所から出血し倒れる者、その状態でなお歩いている者、ぴくりとも動かない者が貧民街に転がっていた。その中には、“家族”も混じっている。
「な……んだよ……!」
 震える声でエリックが貧民街へ走り出した。ジェイル、イーファ、レヴィの順に続いて行く。ミィとニーベルは状況が呑み込めず、少し出遅れてしまっていた。
 貧民街の広場、噴水に流れる汚泥が降る雪の綺麗な銀色を台無しにしている風景の中、逃げ回る、あるいは立ち向かっていく者たちの中心に数人、その街に似合わない先程の少年のように身なりのいい男性たちがいた。
 その手には狙撃銃、機関銃、散弾銃、拳銃など、さまざまな致死性のきわめて高い武器が握られていた。それらの銃口は狂いなく貧民街の人々に向けられ、躊躇無くトリガーを引き絞っては撃ち抜いていた。
 遠くを逃げる者には狙撃銃や機関銃を使い、向かってくる者には散弾銃や拳銃を使うという効率的な戦術で、彼らは怪我も無く貧民街の中心に立っている。
 その様子に五人は呆然とするしかなかった。いつも通りの日常がこんな形に変わり、難なく対処できる人間の方がおかしいと言える。そのため、五人の方へ倒れてきた自分たちのよく知る“家族”にも反応することが出来なかった。
 それはエリックの方に勢いよくぶつかった。その勢いはやる気を出して走ってようやくというほどの威力だった。それはぶつかったのもつかの間、糸を切られたマリオネットのように地面に落ちた。色彩の無い髪の毛、元から血色の悪い顔色はさらに悪く、透明感の無い瞳は生命の光が消えかかっていると比喩しても過言ではなかった。それの二の腕の位置には大口径の拳銃で撃たれたと思われる大穴が開いており、その千切れかけの腕からは目の前の噴水のように血は溢れ出ていた。
「フクマ……!」
 エリックが叫んだ。それの名前はフクマ。五人がよく知る“家族”のひとりだ。それを見て、ようやく皆が我に帰る。
 フクマは大怪我こそしているがまだ呼吸と心肺機能は停止していないようで、ジェイルが誰よりも早く行動に移した。彼は上に来ている布切れを脱ぎ、それを細く二つに破いてひとつはフクマの二の腕より少し高い位置に強く結び、出血を止めようとする。もうひとつは傷口そのものに包帯代わりとして巻き、最低限の応急処置は完了した。
 顔をフクマが来た方向へ向けると、三十代の半ばくらいと思われる男性がこちらに大口径の自動拳銃の銃口に向けていた。男性の表情は正気のそれではなく、何かに憑かれていると思わせるほど、男性の顔は怒りを示していた。
 男性の足元に右腿を抑えて悶えていた小汚い男が、エリックとイーファを見て叫んだ。
「こ、こいつらだ! 間違いなくこいつらがアンタの息子を抱えてどっかに連れて行ったんだ……!」
 大口径の自動拳銃を持った男性はそれを聞くと、ふっ、と急に目を伏せて顔つきを変えた。
「そうか……」
 そして手に持っている大口径の自動拳銃の銃口をエリックたちから足元に下ろし、
「教えてくれてありがとう」
足元にいた男の頭を打ち抜いた。撃たれた男は形容しにくい声を出し、脳漿やら血液やらを雪の上に四散させながら、そして絶命した。
 その光景を見たからか、エリックの後ろでミィが声を上げ、口を押さえて地面に膝をついた。
 大口径の自動拳銃を持った男性が五人の方に近づいていた。表情は先程変えたように落ち着いているように見えるが、手に握られている大口径の自動拳銃を握り締めているその右腕は、小さな子供の首を簡単にへし折ることが出来るかもしれないと思わせるほど力が入っていることが伺える。
「君たち、私の息子を返してくれないか? 先刻教えてくれた彼は、確かに君たちだと言ったのだからね」
 そう言って後ろで絶命している男を指差す。
 “家族”を殺されたという怒りを抑えられないようで、イーファがエリックより前に出て大口径の自動拳銃を持った男性を睨んだ。それでも男性は表情を崩さない。
「テメェ……!」
 そしてついにイーファは怒りを抑えきれなくなったようで、目の前の男性に殴りかかろうとして、
「お、おい! イーファ……!」
エリックがそれを止めようと身をイーファの前に出そうとしたとき——、

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-7 ( No.97 )
日時: 2010/08/28 19:01
名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: LvO7QDqq)
参照: 名残惜しき、夏休み。

 鼓膜が破れるのではないかというほどの音が、貧民街の中にひとつだけ響くのが聞こえた。
 イーファの前に身を乗り出してきたエリックの口から、赤い液体が飛び出す。
 それはイーファの顔に当たり、赤色に汚した。
 彼は一瞬そのことに「え?」といった表情をする。
 見る見るうちにエリックの瞳から光が失われ——、
 地面に、潰れるように倒れた。
 彼の背中、正面からで言う心臓の位置の辺りからじわりと血液が広がる。
「エリッ……ク……?」
 顔についた赤い液体。それをエリックの血液だと知った直後、イーファは絶叫した。
 混じりけのない殺気でイーファは男性に殴りかかる。目から赤く染まった流しながら。それはイーファが流した血の涙か、顔についたエリックの血液かは判らない。
 殺すつもりで振るわれたイーファの右拳は男性の左頬を直撃する。男性が顔を歪ませながら仰向けで雪の上に背中をつけるのを見て、イーファはさらに追い討ちをかけようとする。
 だが、貧民街に現れた身なりのいい男性はひとりじゃない。
 イーファの身体が走り出した方向とはまったく違う方向に飛んだ。その様子は自分から動いたようには見えず、外部からの干渉があっての動作だと容易く思える程である。その身体は中を一回転し、勢いよく地面に叩きつけられた。気味の悪い、何かが潰れる音が彼の着地音だった。
 それは大口径の自動拳銃を持った男性によるものではなく、遠くにいた狙撃銃を持った中年の男性だった。冴えない顔をしているが、動いている標的を的確に撃ち抜いた腕前はかなりのものだろう。
 他の貧民街の住人を狩りつくしたのだろうか、その他の男性たち、狙撃銃の男も含めて四人が大口径の自動拳銃を持った男性のもとへ歩いてきた。
 レヴィがフクマの服からナイフを取り出し、刃を出して男性たちに向けた。今の光景に未だ順応しているわけもなく、呼吸は乱れ、心拍数は上昇し、視線は一点を見つめられず、ナイフを握る手も震えている。それでも彼らはこちらを向いていなかったため、それに気づくことはなかった。
 レヴィが駆け出す。その隙を意図的に突いたのかどうかは判らない。しかし、それが絶好の機会であったことは変わらなく事実であり、その隙を突いたことで男性たちから余裕という思考を消し去った。
 彼女のナイフは男性たちの中の、先程イーファに銃弾を撃ち込んだ中年の男性の左脇腹に突き刺さる。そこにはこれといって障害になる骨もなく、ナイフは柄までざっくりと刺さった。中年の男性の顔は苦痛に歪み、汗腺からは汗が噴き出す。最後の悪あがきなのだろうか、彼は背中から地面に倒れようとしているとき、手を伸ばしてレヴィを押した。
 少女が成人男性の力にかなうはずもなく、レヴィは中年男性の左脇腹に刺さっていたナイフの柄から手を離して体勢を崩した。
 大口径の自動拳銃を持った男性が何か叫んだが、レヴィには聞き取れなかった。その直後、自分の身体に大きな衝撃がいくつも発生するのを感じた。それが何なのか理解する前に彼女の視界は黒く染まり、やがて意識も消えた。
 中年の男性以外の男性たちが持っている銃器の銃口からはいつの間にか煙が立っている。それらはレヴィに全て向けられていて、誰が見ても彼女に発砲したのだと判る。
 中年の男性以外がニーベルたちの方を見る。どうやら本気で殺しに来るようで、一切の迷いなく銃口を見た先に向けた。
 連なる、発砲音。
 無意識にニーベルは目を瞑っていたようだ。だがひとつ気に掛かる。撃たれたのならば、このように目を瞑っていたことを確認する暇もなく、良くて痛みに悶えていてもいい頃合いである。彼女は恐る恐る目を開けた。
 目の前にいた男性たちがいなくなっている。——否、何かがニーベルの前に塞がり、妨げになっているだけだった。
「ミィ……、ニー……ベル……」
 誰かの苦しそうな声が耳の辺りで聞こえた。
 声の方向に目を向ける。ジェイルがいた。彼は咳き込みながら苦しそうに呼吸をしながら生き残っている“家族”に声を掛けた。その顔色は、明らかに悪かった。
「フクマを、連れ……て、ここ、から……逃……」
 その言葉の最後のほうはさらなる発砲音によってかき消された。そしてその音と共に、ジェイルが前のめりに倒れた。ジェイルはニーベル、それからミィと相対していたため、この場合は彼女たちの方へ倒れることになった。
 彼が倒れ、見えた背中には蜂の巣と比喩するのが一番合うと言っても過言ではないほどの銃弾の跡で埋め尽くされていて、いつもの肌の色が一切見えないくらい血液が溢れ出ていた。
 それを見てミィはがくんと膝から力が抜けて、その場で失神してしまった。目の前で思いを寄せる人を失うことがどれほど辛いか、言葉では言い表せないものである。
 ニーベルが自分以外の“家族”全員が倒れたことをまだ未発達の脳で理解したとき、彼女は自分の中で決定的な“何か”が切れたのを感じた。
 その瞬間、ニーベルの意識がブラックアウトしていき——、
 そして、心の中から自分ではない“何か”が、自分の心に覆いかぶさってきたことを認識した。

Re: ロンリー・ジャッジーロ 第三章-8 ( No.98 )
日時: 2010/08/30 16:23
名前: 友桃 (ID: 7hab4OUo)


はじめまして、 友桃です^^♪

文章ほんとにすばらしいですね……っwww とにかく語彙レベル高いwww
なんか大人の方が書いたみたいです><!! ほんとに感動しました!!

私も小説書いてるんで、(勝手に←)参考にさせてもらおう!!って今お気に入れたところですwww

まだ途中までしか読んでないんで、すぐに全部読みたいと思います(^^)!!

でわ②更新頑張ってくださいっ♪


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23



この掲示板は過去ログ化されています。