ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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双翼は哭かずに叫ぶ
日時: 2010/06/05 01:43
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)

 ども、挨拶略してSHAKUSYAです。
 この度カキコに電撃復活、ずっと構想を練り続けてきた現代ファンタジーを展開していきたいと思います。
 ……ただ、時代背景が現代なだけで普通の魔法ファンタジーとあんま変わらないんですがね。

 てなわけで、ファンタジー全開のこの小説の大雑把なジャンルパーセンテージは
ファンタジー30%
戦闘25%
シリアス20%
グロ20%
恋愛3%
その他2%
 (全ておよその数値也)
 となっております。特に戦闘とグロの出現率は初っ端からヤバいので、十分心してください。

〜勧告〜
 荒らし、誹謗中傷、喧嘩、雑談、無闇な宣伝、ギャル文字、小文字乱用等々、スレヌシ及び読者様に迷惑の掛かる行為はお止めください。
 アドバイス(特に難解な漢字や表現について)・感想は大歓迎です。
 やたらめったら一話の長さが長いので、更新はかたつむりの移動より遅いと思ってください。またスレヌシは受験生なので、時折勉強等でも遅れる場合が在ります。

 それでは、我の盟約の許、汝等を文字の乱舞せしめる世界へ誘わん。
 汝等に加護あれ、双翼に祝いあれ。

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Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.11 )
日時: 2010/06/13 17:24
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)
参照: 第一話 続き

 広大なロータリーから徒歩三分。リーゼン住宅地区は闇の帳(とばり)に閉ざされ、恰(あたか)も死んだかのような静謐が降り積もっていた。まだ午前十時で良い子も大人も起きている筈の時間帯なのに、まるで誰も居ないような静けさ。ただ、サロメ以下討伐屋の奏でる不揃いな足音だけが大きく響き渡る。
 不気味さが積もる最中、サロメはそっと右腰のホルスターから拳銃を引き抜く。他の男共はただ周りを見回すばかり、横目でそれを見ていたサロメは「こんなんで大丈夫かな」と誰にも聞こえない小さな声で呟いた。セーヴェルはまるで見計らっていたかのように一番近くに居た男の腰に下がるナイフを指差し、笑みと共に忠告する。
 「そろそろ武器を抜いておいた方がいいと思います。大体この時間帯から出没し始めるので。僕は依頼主ですが、皆さんに護(まも)られるわけにもいかないので微力ながら戦いますよ」
 「はあ?」
 討伐屋の声が綺麗に揃い、サロメとセーヴェルだけがその場を飛び退いた、その途端。
 鋭い鳴き声と共に、サロメとセーヴェルの居た場所が深く抉(えぐ)れた。

 悠然とアスファルトの真ん中を占領し、翼を広げる巨大な影が襲撃者の正体。
 闇で染めたかの如き、黒に限りなく近い紺色。金属のような硬い光を以って爛々(らんらん)と輝く銀の瞳。三メートルを越す翼開長(よくかいちょう)に、セーヴェルの腰辺りまである体長。逞(たくま)しい黒の足には銀色の鋭い爪が光る。その全体的な造作は鷹と非常に良く似ているが、その体躯は鷹やその他の大型猛禽類(もうきんるい)のそれを遙かに凌駕(りょうが)していた。通常でも百羽程、多い時は二百羽以上の一群を作って行動する夜行性の<異怪の者共>、銀鷹。彼等自身はそれほど高い知能を有する化物ではないが、一群の長クラスになると人の言語を理解し、且つ話すことが出来ると言う。
 
 そんな銀鷹はその鋭い眼光を飛び退いた二人から男の討伐屋へ向け、鋭い声と共に地面すれすれの高速低空移動を始める。そこで慌ててサバイバルナイフを抜いた髭面の男が銀鷹の爪を弾き返し、銀鷹はその巨躯を空へ翻(ひるがえ)す。そこでサロメが路地に飛び出し、手に握った拳銃を構えて短く言葉を放った。
 「風を統べる御遣い、我が意の儘に!」
 そして引き金を引く。……が、弾丸は射出されず、代わりに絹を引き裂くような音が放たれた。それは羅象によって発現させた、圧縮された風の不可視の弾丸。銀鷹がそれの存在に気付いて身を捩(よじ)ったときには既に遅く、銀鷹は聾(つんぼ)になりそうな程の甲高く大きな断末魔を上げて路地の真ん中に落ちた。アスファルトに黒い血溜まりが広がる。
 「さあ、この銀鷹の敵を討ちたかったら向かってきな! 幾らだって仕留めてやるよ!」
 サロメの自信たっぷりな笑みと共に、空を黒く埋め尽くしていた銀鷹の一斉襲撃が始まった。
 
 これでもかと言う程地面に突撃してくる銀鷹をサイドステップとバックステップを駆使しながらかわし、時折男共に手柄を立てさせてやりつつ、サロメは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った風情(ふぜい)の笑顔と共に不可視の弾丸を放って銀鷹を撃墜させていく。それは実に鮮やかで無駄の無い手並み、傍から見ていれば『芸術』と言えそうな程の美しさ。
 百戦錬磨、攻勢系羅象と射撃の達人である彼女にとってこの程度の化物と戦闘する事など『楽勝』の二文字なのだが、他の駄目な討伐屋は早速銀鷹の餌食(えじき)になっている。男の討伐屋で残っている戦闘可能人員はこの数分で僅かに三名、依頼主のセーヴェルも含めれば四名。サロメは呆れ果てたと言う顔で溜息を吐きつつ、背後から襲ってきた銀鷹を撃ち落す。
 余りの数の多さにじれったくなったか、途中でサロメは左のホルスターに仕舞った銃を取り出して一回転させる。そして向かってくる銀鷹へ向かって銃を構え、声を上げた。やはり口の端には笑みが湛えられている。
 「厳正無比なる神の執行者、我の意の儘にして、燃ゆる剣を今抜き放て!」
 そして放たれた弾丸は、今までの夜の暗さを葡萄酒色の光で塗り潰す。それによって銀鷹二羽が打ち抜かれ、路地に二つの死体を転がした。他にも突如の閃光により眼を潰された銀鷹が、随分隙間の多くなった空で狂ったように飛び回る。サロメはその隙を突き、三人の討伐屋にも手柄を譲りつつ、両の拳銃で次々と正確に銀鷹を撃ち落していく。
 
 その一方で、依頼主たるセーヴェルも銀鷹相手に大健闘を果たしていた。それはサロメのように決して美しくはない、どちらかと言えば痩躯には余り見合わない体術メインの荒削りで武骨な立ち回りである。一体彼のなよなよした長躯にどんな力が秘められているのかは知れたことではないが、この真っ暗闇の最中、しかも黒い体躯を持っていて余計に姿の捉えにくい銀鷹へ正確に回し蹴りを打ち込める人間などそうはいない。
 この体術の正確さと威力の高さからして、彼がただの工員ではないということがサロメには良くわかった。
 
 「依頼主も何だかやるじゃないのさ! そこんじょそこらの討伐屋よりよっぽど強いようだねぇッ!」
 鮮やかなバックステップで銀鷹の攻勢を回避しつつ、サロメが笑いながら言う。セーヴェルは襲ってくる銀鷹の腹に拳を減り込ませたり蹴りを食らわせたりと忙(せわ)しく動きながら、それでもほんの少しの笑みと途切れ途切れの大声を返した。
 「まあっ、五歳の、頃から! 東方の、『空手』!? それを習ってました、からねえっ! 女々しい体は、してますが、並の男より、体術は、得意な心算ッ、ですよ! ただ、こんな乱戦は、体験したことありません、が、ねぇぇえー!?」
 「そりゃあお疲れ!」
 セーヴェルの必死で紡ぎだした言葉を彼女はいともあっさりと切り捨て、最後に横手から不意打ちをかけようとした銀鷹へ銃を構える。が、流石に最後まで生き残っていたこともあってかその銀鷹は銃口が向けられるや否や身を翻し、逆に突進してサロメの腕に掴みかかろうとした。危うくサロメはそれを避け、舌打ちと共に左手の銃をホルスターへ仕舞う。
 銀鷹は悠然と一旦上空へ飛び上がった後再び急降下しながら爪を剥き出し、サロメは一房の茶髪を五センチほど犠牲にしながらも横っ飛びでそれをかわす。そこからの追撃を更に屈んでかわし、セーヴェルが第三撃を蹴りのフェイントで阻止。サロメは短い礼を言いつつ立ち上がり、セーヴェルへ眼を向けようとした銀鷹に風の羅象を発現させて作った弾丸を浴びせて目標を自分へ向けさせる。再び上空へ飛翔した銀鷹はその場で羽ばたきを繰り返しながら、一際高い声で叫ぶように鳴いた。

 刹那、戦慄。

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.12 )
日時: 2010/06/17 12:56
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)
参照: 第一話 続き

 セーヴェルと共に後ろへ跳び下がったサロメが、唯一残り立ち尽くす三人の討伐屋に「飛び退け!」と叫んだその瞬間が、彼等の最期の合図となってしまった。銀鷹が羅象を発現させたのである。
 闇を覆う純白の閃光。サロメは咄嗟(とっさ)に腕で眼を庇い、路地へセーヴェルを引き込む。瞬間、路地に隠れていてさえ身が揺らぐ程の暴突風(ぼうとっぷう)が吹き荒れ、銀鷹の真下にあたる部分へ螺旋状(らせんじょう)に渦を巻いた雷霆(らいてい)が突き落とされる。それはアスファルトに陽炎を造りだす程の凄まじい熱を以って、路上に立ち尽くしていた三人の討伐屋の姿を跡形もなく消す威力の雷の柱。サロメは庇っていた腕を下ろし、頬を伝う冷や汗を拭う。

 銀鷹が鳴き声の一つで発現させた、三人もの人間を一挙に粉砕する雷。これには今までサロメや八咫剣が使っていた即席の言葉だけで発現できる羅象とは違い、正式に『諷焔暴灼雷(レミエーラ)』と言う個の名が当てられている。正式に名の当てられた羅象を正式な形として発現させるのは至難の業であり、サロメでさえ名の振られた羅象を完璧に発現させた事は少ない。それをこの銀鷹は鳴き声のみで発現させたのだ、流石に身の危険が迫ってきた。
 だが、依頼主がこの場にいて働きを見届けている以上、逃げることは許されない。サロメはバンダナを解いて素早く結びなおし、未だ熱の篭(こも)る街路を矢の如く疾走する。銀鷹はホバーリングを止め、隼(はやぶさ)の如き勢いで急降下しながら、突っ込んでくるサロメへ次なる羅象を発現させんとして再び甲高く鳴く。
 今度はサロメも叫んだ。銀の銃を片手に構え、悲痛な色さえ混じった、短い一言を。
 「“百合持てし、死と水の大天使(アークエンジェル・リリー・ガブリエル)”ッ!」
 そのままサロメは目をつぶって顔まで背け、足をこれでもかと言うほど踏ん張って引き金を引く。銀鷹は只ならぬ様子に翼を翻し、サロメが全身の力を込めて発現させた氷の一本槍を羽根三枚犠牲にして避ける。そして、直ぐに先程の一撃で発現し損ねた羅象——正式ではない、火焔系の羅象による無数の槍を発現させた。当の彼女は先程の反動で大きくバランスを崩し、セーヴェルが飛び出るにしてもサロメまでの距離が長すぎる。いずれにしても絶体絶命の状況だ、が。
 「こんのくそっ、自棄糞だよこんなのはぁあああッ!」サロメは体中から水分を搾(しぼ)り取られるような熱気を前にして尚大声を上げ、強引に体勢を立て直して後ろへ飛び跳ねる。槍は彼女が座り込んでいた所へ一点に集中し、アスファルトを溶かして消え去る。サロメもまた炎の槍の熱風を受け、右腕に軽度の火傷を負っていた。
 「手強い奴ねぇ……」右腕を押さえながらサロメは低く毒づき、セーヴェルが路地の影から心配そうに見つめる。「大丈夫ですか」と声をかけてきたセーヴェルにサロメが「大丈夫大丈夫」と言って笑い、セーヴェルに笑いかけた所に隙が出来た。

 銀鷹はサロメに出来た隙を狙い、一直線に急降下してきた。

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.13 )
日時: 2010/06/18 15:53
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)
参照: 第一話 続き

 「うわぁ、前、前、前、前見てくださーいッ!」顔を真っ青にしたセーヴェルが叫び、サロメはほぼ野生の本能だけで脇道へ跳ぶ。銀鷹は銀の瞳に狂気的な感情を宿らせつつ地面に足が付く前に再び空へ翻り、そして、眩く澄んだ碧(みどり)の光を宿す鏃の先に翼を射抜かれ慟哭めいた鳴き声を一つ上げて地面へ落ちた。
 石の鏃から放たれる碧の光は無数の筋を発しながら更に強くなり、それは遂に白い焔(ほむら)と化して銀鷹の存在を黒焦げにしてしまう。
 突如の出来事に頭も体も対応しきれず、サロメ、セーヴェル共にアスファルトに尻餅をついていた。
 「な、うわっ、誰!?」
 サロメとセーヴェル、二人の声が揃う。それに「私だ」と返したのは、懐かしく、だが掠れ、酷く痛々しい男声。
 驚く二人を気にせずふらふらと覚束(おぼつか)ない足取りで二人の前に歩み出て来たのは、満身創痍(まんしんそうい)の異国人。長い黒髪を纏め上げた上から包帯を巻き、意思の光が薄れ掛けた黒瞳(こくどう)は尚鋭く辺りの惨状を見、弓を手にした右手には包帯、壁に手を掛ける左手の甲には目立つガーゼ。丈夫な繊維でできているはずの渋い茶色のコートの背は、右上から左下へ斜(はす)に切り裂かれている。だが男は微かに笑ってサロメを見、セーヴェルを見て僅かに頭を下げ、静かに言った。
 「この仕事の依頼主と見る故、一応名と身の上を言っておこう。私は八咫剣、彼女の援護役であり相棒だ。——で、サロメ。たった一人で人を庇いながら銀鷹の副長と闘うなど、無謀な事を良くぞしたものだな。その傷は火傷をしたのだろう、出してみろ、幾分調子の良い今なら治せる」
 サロメは素直に腕を出しながら「それは一体どうしたのよ」と僅かに震えた声で糺(ただ)す。八咫剣はまだ何も言わず、左腕を押さえて顔を顰(しか)めながらも火傷を負った前腕に手を翳(かざ)し、かなり簡略化した言葉を上げて羅象を発現させる。そして緩慢な速度で消えていく火傷には目も暮れず、八咫剣は地面と空気の境目のような所にぼんやりと視線を惑わせながらサロメの問いに返した。
 「銀鷹の長と言うのはやはり私が相手するべき化物ではなかったよ、如何考えてもあの強さだけは異常だ。真逆名刀『童子切安綱(どうじぎりやすつな)』の刃でさえ通さない防刃繊維(ぼうじんせんい)がこうも見事に引き裂かれるとは、完璧に予想外だったな。幸いそうも大きい怪我は無いが、いきなり出てきた女の子を庇いながら闘うのは骨が折れたぞ。後一つ言っておこう、サロメも好い加減治癒の羅象を覚えろ、私だけに任せるな」
 苦々しく笑いながら、八咫剣は翳した手を離さないままに己のジーンズを引っ張る少女を少し見遣る。まだ稚(いとけな)いが可愛らしい顔立ちをした金髪灰眼の少女は、バンダナを解きながら大きな翡翠色の眼で見つめるサロメにほんの少しだけ笑って手を振った。サロメも可愛らしい少女に手を振られて悪い気はしなかったか、快活に笑って手を掲げる。
 
 和やかな雰囲気を打ち破ったのは、セーヴェルのおどおどした、且つ気弱そうな声だった。
 「あのー。やたるぎ、さん? ですよね、あの、いきなり割って入られると非常に困るんですが」
 「依頼主よ、貴方は一体何が困るというんだ? 私は彼女と住処も職も同じ、介入して約束の報酬を横取りした所で住処に戻れば同額折半(どうがくせっぱん)だ、どちらにしても損はない。それとも、私達が困らぬようなことすら困るというのだから余程上司様の目が恐いのか? 嗚呼、問い詰めたくらいでなよなよするな。話しにくい」
 したりげな笑みと共に気弱な青年を追い詰めていく八咫剣。女の子を相手にしながら相棒の様子を眺めていたサロメは、八咫剣の毒舌が最高潮に達する前に手と口で抑制を掛けた。
 「ちょっ、やっちゃんストップ。傍からみりゃアンタ完全に不審者だよ。こんな時間に傷だらけで弓矢持って異国のいい年した男がうろついてたらそりゃなよなよするって。そんなさ、夜勤の公安が懐中電灯向けて叫びたくなるような格好してまでこんな怪我人がノコノコ出てこれないような場所に出て来る理由がアンタにあったの?」
 巧みな話題のすり替えにも八咫剣は中々乗らない。だが、サロメが僅かに放っていた何よりも強い殺気は誰よりも敏感に感じていた。彼は自らの持つ先天的な感覚の鋭さを逆手に取られ、しかしサロメは誰にも気付かれることなく彼に空気を読むよう脅迫したのである。気配を察知できる常人であれば、恐らく土下座してでも従いたくなるだろう。
 けれど彼も強情、サロメの放つ殺気を持ってしても彼の頑固な首は縦に振られない。

 セーヴェルは己と少女を置き去りにして対立する両者の間で、どんどん撓(たわ)み軋(きし)んでいく空気に心底肝を冷やす。少女は険悪な空気に気付かぬまま、二人のズボンとブーツを引っ張りながら太陽の如く穏やかな笑顔で声を上げた。
 「お姉ちゃん、お兄ちゃん苛(いじ)めちゃ駄目だよ。お兄ちゃんはね、お姉ちゃんが死んじゃったり、大きな怪我をしないかって心配になったから来たの、だからいい人。お姉ちゃん、いい人は苛めたら駄目だよ」
 「そ、そりゃいい人なのは分かってるよ、十年一緒に居る人だからね。……だ、け、ど。この莫迦はね、昨日大怪我して家に居るって言ったにも関わらずふらふらこんな所まで出歩いてきたんだ! 怪我人は外に出ちゃいけない、ベッドで寝ていなさいってお母さんから教えてもらったことあるの? アンタも、やっちゃんも!」
 顔を仄かに赤らめながら、言いにくそうにサロメは八咫剣と少女を交互に見ながら言い放つ。八咫剣は痛い所を突(つつ)かれたらしく、罰の悪そうな顔をして視線をサロメから逸らす。サロメは勝ち誇った笑みを浮かべて八咫剣を一瞥、そのまま少女を見る。少女は「むぅー」と肯定とも否定とも分からぬ声を上げて口を尖らせた。
 サロメが追撃を放つ。
 「そんなわけでやっちゃん、余計な心配と繕(つくろ)い物が増えるから明日から無茶しなくていい。ベッドで大人しく寝ていなさい。アンタはアンタで矢鱈(やたら)でかい真黒な動物がいたり変な格好の豚みたいなのがいたり翼が生えた恐竜みたいなのがいても絶対近づかないんだよ、今回みたく浚われたり襲われたり、最悪殺されるからね。まあ……中には話の通じる化物もいるけど、そんな奴等のほうが貴重だから」
 頭を軽く小突きながらサロメは少女へ言い、少女は手を真っ直ぐ掲げて明るく返事する。それを横目に見つつ八咫剣は悲愴の混じった自嘲(じちょう)気味の笑みを浮かべ、顔を覆うように手を当てて一つ大きな溜息をついた。先程まで肝を冷え冷えとさせていたセーヴェルは、壁に寄り掛かって泣きそうな顔をしている八咫剣に恐る恐る尋ねる。
 「どうかしましたか……?」

 「祖国に、私が背を預けられる人間はいない」

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.14 )
日時: 2010/06/20 03:01
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: zz2UUpI4)
参照: 第一話 続き

 ただそう返し、八咫剣は再び溜息を吐く。サロメはその様子をほんの刹那の時間だけ横目で見た後、やおら少女を抱き上げて八咫剣の肩に手を置いた。そして雑味の混ざらない笑顔で言い切る。
 「アンタの今の故郷は此処だ。そして今、その背を預けられる人間はアタシだ。そんな莫迦で阿呆みたいな事なよなよ考えるんじゃないよ、アンタはアンタの事だけ考えてりゃいいんだからさ。十年前に約束したろ、暗い過去とは決別、明るい未来の事だけ考えて行動しろって?」
 「だが、過去がなければ今の私はないだろう」
 即座に返された答え。実に妙な顔で彼女は八咫剣の顔を睨みつけ、その肩につ、と指を当てて再び言い返した。
 「ほんっとアンタって莫迦みたいに律儀で阿呆みたいに義理堅いのねえ。まあ確かに人間過去がないと今の自分を作れない、だけどさやっちゃん? 過去の茨(いばら)に雁字搦(がんじがら)めにされて前に進めず、何時までも何時までもその影を引き摺る莫迦はアンタ位しかいないよ。厭な過去は忘れろ、楽しい過去だけその背に背負え。何度も言ってきた言葉でしょ」
 強気の発言と共に指は離される。彼は肩を軽く手で押さえながら、再三の溜息を深く吐いた。
 
 楽しい過去だけ背負えたらどれ程楽なことか。
 楽観的なことしか考えられないお前に、私の背の傷は癒せまいよ。
 
 八咫剣は口の中で彼女に呟き、彼女には何も明言しないままその場を黙って離れる。サロメは「相変わらずね」と困ったように言って首をかしげる少女に少し笑いかけ、少女は不思議そうな顔でセーヴェルと背を向けた八咫剣、それにサロメの顔を見つめた後、寂しく空を仰ぐ彼に声をかけた。
 「お兄ちゃん、泣かないで。ね? 泣いたら、いろんな人に弱いところを見せちゃうよ。お兄ちゃんあたしに言ったよ、信頼できる人以外の人に、弱いところを見せちゃいけないって。だからさお兄ちゃん、泣かないでよ。そうじゃないと、お兄ちゃん約束破りの嘘吐きだよ、そんなの、このお姉ちゃんが許さない。あたしも許さない」
 泣きそうな笑顔と共に洋服の裾を強く握り締めながら、少女は黙って空を振り仰ぐ異国の彼に声を掛ける。八咫剣はその言葉で無音の踵(きびす)を返し、閑寂の中に声を放つ。その鋭い目からは——諫められた感情の滴(したた)り。少女はそれでも笑顔を浮かべたまま、彼は涙声で少女に尋ねる。
 「君達が信頼できる人間だとしても、泣いてはいけないのかい」
 「それは、いいけど……」
 笑顔を不安に変えて言い淀み、少女はそのまま口を噤む。八咫剣は乱暴に眼を擦って涙を振り払うと、くっくと小さく笑声を漏らしながら一旦離れた二人の下へもう一度歩み寄ってきた。そこで、サロメは挑むように、少女はしょげたように、頭一個分より背の高い彼を見上げる。
 沈黙の後、放たれた彼の声に、涙の成分は混ざらない。
 「冗談さ。嘘泣きは昔から得意だ」
 噎せ返るほどの血の匂いを、ほんの少しだけ、涼やかな風が流していった。
→NEXT 第二話


後書き
今回のページ数:七ページ

 ぐだぐだの第一話終了ー。
 取り合えず仕事莫迦で超ポジティブだけど滅茶苦茶強いサロメの鮮やか戦闘シーンとピンチを満身創痍の八咫剣でお得意の弓矢でかっこよく助けるシーンが書きたかっただけです。
 ぶっちゃけ、セーヴェルとか女の子とかの言葉は後の物語に殆ど無関係です。名前とか言葉の一部はちょろっとだすかもしれませんが、物語に直接の影響を与える事はありません。
 が、一応他の部分で色々伏線を仕込んでます。いろんな部分でかなりさりげなく流しましたが、気付く人は多分気付くでしょう。

 因みに……。
 『嘘泣きだ』と言った後の八咫剣が一体どうなったのかは読者にお任せします。
 少なくともサロメと女の子の両方から往復パンチを食らったことは間違いありませんが。

 それでは、これ以上書くと本編より長くなりそうなので退散いたします。
 次回もお楽しみに〜。
 Wrote By :SHAKUSYA

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.15 )
日時: 2010/06/20 18:30
名前: 優子 ◆4.KxX6FtKw (ID: m0lwpXYj)
参照: GAL文字さいこ=↑↑

ちわっす!!

いいところ
基本はいいとおもうんでそこをがんばってみて!!

わるいところ
あまり読みにくいんでそこもがんばって!!!

では鑑定屋でした


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