ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

双翼は哭かずに叫ぶ
日時: 2010/06/05 01:43
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)

 ども、挨拶略してSHAKUSYAです。
 この度カキコに電撃復活、ずっと構想を練り続けてきた現代ファンタジーを展開していきたいと思います。
 ……ただ、時代背景が現代なだけで普通の魔法ファンタジーとあんま変わらないんですがね。

 てなわけで、ファンタジー全開のこの小説の大雑把なジャンルパーセンテージは
ファンタジー30%
戦闘25%
シリアス20%
グロ20%
恋愛3%
その他2%
 (全ておよその数値也)
 となっております。特に戦闘とグロの出現率は初っ端からヤバいので、十分心してください。

〜勧告〜
 荒らし、誹謗中傷、喧嘩、雑談、無闇な宣伝、ギャル文字、小文字乱用等々、スレヌシ及び読者様に迷惑の掛かる行為はお止めください。
 アドバイス(特に難解な漢字や表現について)・感想は大歓迎です。
 やたらめったら一話の長さが長いので、更新はかたつむりの移動より遅いと思ってください。またスレヌシは受験生なので、時折勉強等でも遅れる場合が在ります。

 それでは、我の盟約の許、汝等を文字の乱舞せしめる世界へ誘わん。
 汝等に加護あれ、双翼に祝いあれ。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15



Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.6 )
日時: 2010/06/06 08:35
名前: みるくちょこれーと ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)

やはり、凄いですね…d(`・ω・′;)
プロローグだけでこんなにも書けるとは…感嘆しますよ。
私のと比べたら、遥かにもうやばいっすよ。orz
SHAKUSYAさんパネェっすよ。
ですけど、初回からこのようにその世界の設定、というのでしょうか…。
それを長く書かれると読者も面倒くさくなって読むのを放棄して、次の話へ行ってしまうとか、その小説自体を読むのを放棄してしまうだとか、そういうことが起こりやすいです。
こういうことはお勧めしませんね、私、一個人としては。
物語を進めていく上で、徐々に詳細を明らかにしていったほうが、読みやすいと思いますよ^^
何より「あれ、これってどういう意味だっけ」と最初のページに態々戻らなくてもいいですし。
一番初めに、主人公が奇想天外な事に巻き込まれているシーンとか、いきなりタヒにかけているとか…そういう自分が遭遇したら困る&ビックリするであろう出来事を書けば、読者も「え、何でいきなりこうなってんの?」と困惑しますよね、多分…。私もそうですね。
なぜそうなったか、気になると思います。そうすると、読者はどんどん読み始めます。どういう経緯で主人公はピンチ陥ったのか…など。
いわゆる、読者を自分の小説にいかに引き込ませるか、という方法ですかね。
私はできるだけそういう書き方をしてみようかな、と思っていますけど、これがなかなか難しいですね^^;

あの、これはあくまでアドバイスといか、なんというか。
SHAKUSYAさんのやり方で書き続けてくださいね^^

…あ……余談&戯言申し訳ありませんでしたァァ!!
土下座しますm(_ _)m
この素敵な小説にだらだらと戯言を……
マジですみません。
何言ってるか分かりませんよね。スルーしてください。

ではでは、また来ます。
頑張って下せぇ。

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.7 )
日時: 2010/06/06 19:36
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)

>みるくちょこれーと様
 コメント&アドバイスありがとうございます!!
 こんな無駄に長いだけのプロローグに凄いといってくださるとは、感動の限りです(^▽^)
 アドバイスしてくださったことも活用し、さらに良い小説を作り上げたいと思う所存です。

 ただ、初回に世界観を詰め込むのは私的にアリだと思いますよ。と言うか、私は台本小説から卒業した時点からほぼ同じ技法を使って小説を書いて来た身ですから。
 私がプロローグや第一話の初回に読み飛ばしたくなるほどの世界観を詰め込むのは、初回で世界観の大まかなイメージを構築してもらい、作中でそれらの詳しい説明をする事で改めて世界観について納得してもらうためです。
 それが何たるかと言うイメージもなしに事物を提示されて「これは地球です。他の惑星と違い豊富な水と酸素を有する有人惑星です」などと言われても「はあ?」となりますよね。それを未然に防ぐため、敢えて世界観の説明は最初に詰め込んでいます。
 想像に想像を重ねるというかなり面倒なことをしていますが、より緻密な世界を感じてもらうための工夫です。ご理解の程を。

 ですが、第三者の視線から考えてみれば行が詰まって見づらいのも事実です。これからはアドバイスを元に改良していこうと思います。

 コメント&アドバイス、本当にありがとうございました! 重ねて感謝申し上げます!

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.8 )
日時: 2010/06/08 00:20
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)
参照: プロローグ 続き

 一瞬の静寂。そして、鼓膜を劈(つんざ)く大音声。余りの声の轟きに耐えかねたか、相棒の男や人々が顔を顰(しか)めて耳を塞ぐ中、サロメだけは耳を塞ぎもせずに真顔で——否、悲しそうな顔で擬龍を見上げる。
 悲鳴のようにも、雄叫びのようにも、また慟哭(どうこく)のようにも聞こえる悲しげな絶叫と共に、隻眼(せきがん)となった擬龍が天を振り仰ぐ。眼と喉とに襲う激しい苦痛に煩悶し、身悶えを繰り返しながらも、擬龍は己の血を被って尚悠然と佇む茶髪の女に反撃しようと右の前足を振り上げる。どれ程力を失くそうと、鋭すぎる爪に当たれば死は必至。擬龍は彼女を死の道連れにするつもりだったのだ。
 しかし、その手は、二の矢に込められた力の発現によって遮られた。
 変則的な構えから異国の男が放った矢は振り上げた手の下を横切るように橙色の軌跡を残して地面に突き刺さり、それは鈍重な音を立てて太く堅い鋼鉄の鎖へ変化する。振り上げた前足は物理法則を無視し、巻き付いた鎖によって宙吊りの状態となり、男は更に同じ力をこめた三の矢を放って左前足をも封じた。

 擬龍に隙が生まれ、それを突いてサロメがその場を離れると同時、男は四の矢を番えながら悲痛な顰め顔で叫んだ。
 「止せ、擬龍! 何故お前は苦しみながらも生き、私達を殺し、街を破壊しようとするんだ! これ以上の破壊と争いは無益だ、抵抗は止めて、もう大人しくしてくれ!」
 しかし、擬龍は身悶えを止めない。尚も激しく叫びながら、反撃の羅象を紡ごうとする。男は「擬龍!」と再び叫ぼうとしたが、それより前にサロメが男の横を走り去った。愕然とする男を尻目に、サロメは左手に握った拳銃をホルスターに突っ込み、とてつもなく不機嫌そうな、しかし悲しみを含んだ顔をして異界の言語を叫ぶ。
 それは、そもそもから羅象の発展のさせ方が違う異国の男でさえ聞いた事の無い、不思議な言葉。
 「尊き光は我に力を、貴き焔は汝に武器を! その時! 神は咆え、魔は猛り、人は哭いた! 出でよ玉座に侍る熾天使の長、今こそ叫べ、狂え、舞い踊れ! その巨躯を躍らせ、灼熱の風を起こし、総ての闇を追い出せ! そして苦しみ悶える咎の者を焼き尽くし、死と安息の恩寵を、虚無と安寧の永遠を与えよッ!」
 言葉が終えられ、右の銃口から放たれる弾丸。痛い程の青白い閃光を纏いながら先程銃弾を浴びせた場所に正確に打ち込まれた弾丸は擬龍の首の中で強烈な燐光を発し、擬龍の動きが止まる。
 動きを止めた擬龍に、サロメは痛々しい笑みを浮かべて声を上げた。
 「やっぱ、アタシ人間なんだよ。アンタを殺す事でしか生き残れないし、生計を立てていけない。この八咫剣(やたるぎ)だって同じ境遇を背負った東方の人間、討伐屋は殺さないとやってけないんだ」
 余韻を永く残す言葉が終わり、擬龍は微かに呻き声を上げた後、意思の光が薄れた瞳を静かに閉じる。緩慢に倒れていく巨躯は極太の鎖によってその落下を防がれ、ただ鎖が軋む、鵺(ぬえ)の鳴き声の如く耳障りな甲高い音だけが響き渡った。
 
 八咫剣、そうサロメから言われた黒髪の男は地面に突き刺さった二本の矢を抜きながら羅象で顕現させた鎖を解き、鈍重な音を立てて地面に崩れ落ちる擬龍を一瞥する。閉じられた瞳や力の抜けた巨躯にはもう、体温は宿らない。悲しげな顔で八咫剣は矢を矢筒に戻しながら顔を前に戻し、房状になった茶髪から浴びた血を滴らせるサロメに声を掛ける。
 「六道輪廻の道は長い。いずれ奴は贖罪(しょくざい)を終え、この世界へ戻ってくる。その時を待てば良いだろう」
 「それも何だか冗長な話だなー、まあいいけどさ。とりあえず、早くこの引っ被った血を如何にかしないと。服に張り付いたら取れないんだよね。さーて、やっちゃん帰るよ。今日はがっぽり稼いだから特別に飯の腕奮っちゃる。アンタにばっか作らせるわけにゃいかないからね。泣きそうな顔してないでとっとと来な!」
 血に濡れた手で八咫剣のコートの裾を引っ張りながら歩こうとするサロメ。八咫剣はそれに釣られてやや転びそうになりながらも歩む。途中から彼女は力無く手を離し、八咫剣は若干蹈鞴(たたら)を踏みながら、肩を落として歩くサロメの横に並んだ。先程までの元気そうな様子とは裏腹に、がっくりと肩を落としたその表情は髪に覆われて見えず、嗚咽の音だけが間断的に漏れる。慰める言葉など見つからぬ東洋の男は何も言わずに、ただただ彼女の肩を抱いて歩みを進めるだけだった。
 
 血に塗れ、赤黒く濡れたアスファルト。その真ん中を二人の男女——サロメ・ラシュタル・ローゼン・ロネッタと八咫剣紅蓮(やたるぎぐれん)が肩を落として去っていく。無慈悲に<異怪の者共>を討伐する者でありながら、最後には押し詰まる罪悪感に耐えられず、泣いてしまう気の強い女。それを黙って支える異国の男。
 昼から夕へ、太陽が長く長く影を造る時間帯。
 その夕焼に、己の心の拠り所たる我が家に、不思議な彼等はゆっくりと、そして悲しげに歩みを進めた。

→NEXT 第一話

後書きは後で。

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.9 )
日時: 2010/06/11 01:27
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)

第一話 「彼の背は、傷だらけで。」

 『討伐屋諸君——。
リーゼン地区五番街、工場地帯周辺にて、<異怪の者共>・『銀鷹(ぎんよう)』の大群発生。駆除求む。之なるものの退治に成功した場合は報酬二十五万ルード、失敗した場合でも千ルード。集合日時は七月十八日、午後十時。リーゼン地区五番街、工場付近のロータリーまで。
——工場員、セーヴェル・エタ・レイヴィラス』

 電柱にセロテープで張られた安物のコピー用紙。
 汚い字で書かれた仕事依頼は、ホルスターを腰に下げ、タータンチェックのバンダナで透き通った茶色の長髪を覆い、腕に金のバングルを着けた女討伐屋の目に留まった。暫しその女討伐屋……サロメ・ラシュタル・ローゼン・ロネッタはその張り紙を見つめた後、目を輝かせてその張り紙を剥ぎ取り、己の家らしき凡庸(ぼんよう)なアパートへ張り紙と共に入っていった。

 立て付けの悪いアパートの扉を強引に蹴り飛ばし、サロメは「蹴るな!」と奥から怒号を飛ばしてきた男の声を無視して廊下を走り抜け、辞書のように分厚い文庫本の頁(ページ)を捲っていた男、八咫剣紅蓮へその紙を突きつけ叫んだ。
 「やっちゃん! これから仕事行って来る! この仕事!」
 「こっ、こんな時間から!?」
 即座に叫ぶ。今の時刻は午後九時半、無論突如の仕事宣言にも遅くからの仕事宣言にも八咫剣は困惑するしかない。二人が飛ばす暫しの唖然(あぜん)と嬉々(きき)の視線の交錯の末、彼は本に栞(しおり)を挟んでガラスのテーブルへ置き、突き出された紙を受け取ってまじまじと見た。
 その右手と頭には痛々しい包帯が巻かれており、左手の甲にもガーゼが目立つ。先日の擬龍退治にて負った怪我らしいが、己の家へ帰り着くまで微塵も気付かなかったというのだから八咫剣の痛覚神経はつくづく鈍感である。
 その傷を一顧だにせず、サロメは微塵(みじん)も負の感情らしきものを抱かずにただ八咫剣が仕事依頼の紙を見終えて承諾するのを待っていた。八咫剣はと言えば、若干呆れたような視線を紙の文字に飛ばしている。サロメのほうなど顧みることすらしない。
 
 数分の沈黙の末、八咫剣は頭を抱えながら深く重い溜息を吐いた。そして、紙をサロメに渡しながら呆れた声を上げる。
 「お前の仕事亡者(ワーカホリック)振りにはもう呆れた、呆れるしかない。もういい、私が何と言おうと行くつもりだったんだろう。行きたければいけばいいさ。だが、昨日の擬龍の件で怪我を負った身じゃ流石に仕事が出来るほどの身のこなしは出来ないからな、昨日のように援護はしてやれん。その分お前は背を預ける場所が無い。そこを承知するなら良いが」
 「当然。そんなん承知の上でこれ持ってきたんだから。それじゃっ!」
 八咫剣の頭痛を堪えるような声から絞り出された答えを聞くや否や、サロメは無駄に大きな声を上げて彼の手から粗末なコピー用紙を奪い取り、素早くバンダナを結びなおして拳銃の調子を更に素早く確認した後、「ばいちゃー!」と言う挨拶代わりの声を上げてドアを蹴り飛ばしていった。
 「だから蹴るな!」
 彼の二度目の怒号さえ彼女には聞こえていない。本日二度目の溜息と共に八咫剣は包帯を巻いた右手で再度頭を抱え、また溜息を吐いた。が、直ぐに顔を上げてテーブルの上に載った分厚い文庫本を手に取り、「これ以上は考えるまい」と低く独り言を呟いた。そして栞を挟んだ頁を開き、ソファに寄り掛かる。
 男一人の部屋に、再びの静謐(せいひつ)が戻った——その時。テーブルの上に整然と山積みにされていた大量の参考書や雑誌、文庫本の数々が音を立てて崩れ落ち、辺りに散らばった。
 物理法則をまるで無視したその落下は、八咫剣に不穏な予感を募らせる。
 「……準備するに越した事は無いか」
 一部始終を愕然の表情で見つめていた八咫剣は、そう呟いて再び本をテーブルに置き、ソファに置き捨てていた茶色のコートを無造作に羽織って矢筒を拾い上げる。そしてそれをコートのベルト通しに通し、近くの帽子掛けに掛けていた小型の合成弓を手に取った。そこまでやって一息ついた途端、八咫剣は苦痛の表情を浮かべて呻き、腕を押さえる。昨日負ったばかりの怪我は癒えていない。殊に大きな怪我を負った左腕はほぼ動かないに等しい大怪我を負っている。
 実際、損壊された肉体を自然治癒より遙かに短い時間で旧に復す治癒系の羅象もあるのはあるし、それを彼は一通り習得してもいる。しかし治癒系の羅象と言うのは発現するのに手間と体力を要し、怪我で著しく体力を消耗している今、彼が治癒系の羅象を発言させる事は『無謀』の二文字以外につけるべき文字が無い。彼より遙かに多くの羅象を知るサロメは攻撃専門であり、治癒系の羅象は端から論外。よって、今の彼は自然的な治癒力以外に頼るものが無い。
 しかし、それでも彼は傷付いた身体をふら付かせ、重いドアを蹴り開けた。 

Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.10 )
日時: 2010/06/11 22:43
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)
参照: 第一話 続き

 リーゼン地区五番街、第十三工業地区。一本の薄暗さでさえ明るく感じる辺鄙(へんぴ)な工業地帯のロータリーには、多くの厳つい外見をした討伐屋が犇(ひし)めき合っていた。女討伐屋はサロメ一人、しかし彼女はそれに臆することなく、逆に変態的な目を浴びせる討伐屋のごつい尻を蹴り上げては凄まじい殺気を浴びせている。
 「ったく、これで何人目なんだ阿呆烏(あほうがらす)。この中の紅一点つったって、アタシに変態行為するのも好い加減にしな、アンタ等みたいな脂ぎった莫迦共とアタシは違うんだ。カッコいい想い人がアタシにはいるんだから、気安く声掛けんじゃない。あんまりアタシに近づいたら、下手しなくても殺すよ」
 こう言って銃を構えれば殆どが立ち去る。サロメの目はそれほどまでに殺気立っており、また凄まじい威圧を放っていたのだ。
 「うへえ、あの女、本気だぜ……」怯えと恐怖、それに少々の侮蔑を込めた声が男共から発せられたが、サロメはそれの片言隻句(へんげんせっく)にすら全く耳を貸さず、毅然とした表情で腕組みをするばかりであった。
 
 変態の撃退に全力を注ぐ内、依頼書に示された時刻である午後十時がやって来た。そして、気弱そうな男も同時に来た。
 聳(そび)える巌(いわお)の如く武骨な討伐屋の一群の真っ只中に、痩身(そうしん)かつ長身の青年が静かに入ってくる。半袖の黒いドレスシャツに年季の入ったジーンズとスニーカーだけの身軽な格好をした気弱そうな青年は、深い碧眼に困ったような色を、顔にも困ったような笑みを浮かべて彼方此方跳ねた茶髪を乱暴に掻き毟(むし)った。

 青年は頭を掻きながら一同を見回すと、満足気に一つ頷いて頭から手を離し、浅く頭を下げて声を上げた。
 「どうやら皆さん揃ったみたいですね。僕の名前はその依頼書に在る通り、セーヴェル・エタ・レイヴィラスです。貴方方にやって頂く仕事の概要は依頼書通り、最近この辺りの“住宅街”に出没する<異怪の者共>、銀鷹の大群を退治してもらいます。ただ、一軒一軒の住宅には人が住んでいるので、飽(あ)く迄(まで)家々を破壊しないように、退治の際に生じる騒音の方は話をつけてありますから、その辺りを気に掛ける必要はありません。僕が言えるのはそこまでです。何か質問はありますか?」
 「分かんないわね」
 即座にサロメが声を上げた。気弱そうな青年ことセーヴェルが「はい?」と言って空色の瞳をサロメへ向ける。サロメはその眼を己の翡翠(ひすい)色の眼で睨み付け、腕組みを解いてセーヴェルの方へ歩み寄る。そして、その胸板に細い人差し指を当てて問うた。この場の誰にも負けない殺気と威圧を含めて。
 「この依頼は住宅地区で起きた話なんでしょうが。工場周辺って言うからてっきりアンタ等の勤める工場の周りで起きた問題なのかと思ったら、住宅地区って工場から百メートルくらい離れたこの辺りじゃないのさ。そんな遠い所の住宅地区にアンタ達工場側が肩入れするなんて、何か曰(いわ)くつき? この仕事は」
 「余り僕の口から言うと僕が怒られるのであまり話せませんがね。言えるところまで言うとしたら、住宅地区に出没する銀瞳鷹が工場地帯まで入り込んできて工場を荒らすから困っていると言う事と、まあ……」
 そこでセーヴェルが言い淀む。

 サロメはそれを冷ややかな目で見つめ、突如セーヴェルの胸座(むなぐら)を掴み上げて凄んだ。
 「お前、言うならとっとと言えよ莫迦野郎! 莫迦らしいと思うだろうけどね、こちとらその莫迦らしいと思われる仕事に命掛けてやってる連中ばっかりなんだよッ! アタシは秘密作られてその秘密を盾に裏切ったり言いように扱き使う奴が大ッ嫌いなんだ、上司が怒ろうが何だろうが言いやがれよ軟弱依頼主! 言わなかったら殴るぞ!」
 拳を振り上げ構えるサロメ。脆弱な依頼人は顔を真っ青にして胸座の手を振り払い、「分かりましたってば!」と泣きそうな声で叫んでサロメの構えを止めさせる。忘我(ぼうが)の表情を背後で繰り広げる討伐屋を置き去りにし、セーヴェルは簡潔に三つの理由を告げた。
 「まあ、第一の理由は先程言ったとおり<異怪の者共>がこの工業地帯に入り込んでくるということ。第二は住宅地区側から寄せられた依頼なんですが、銀鷹がその住宅地区に住む女の子を攫(さら)ってしまった為。第三は……その、銀鷹の一群のボスみたいなものが住宅地区、工場地区共に破壊していくから、と言うこと。理由はその三つです。後で上司がこの旨を説明する筈だったんですが、先に言っておきます。ですから、主な仕事は大群の退治と女の子の救出、それに一群のボスの討伐と言うことになります。……えーと、こ、んな感じでいいです、かねえ?」
 顔を引きつらせながらサロメに問うたセーヴェル。サロメは「どこぞの下っ端でも言える理由じゃない」と冷ややかに一蹴したが、今度の顔は笑っていた。それで漸(ようや)くセーヴェルは安堵(あんど)したか、胸を撫で下ろし気弱な笑みを浮かべる。
 後ろで唖然としていた男一同は漸く状況を察知したらしく、「着いて来てください」と言う依頼主の声で慌てて依頼主、引いてサロメの後に着いていく。男の誰もが珍奇な顔をする中、サロメだけは何処か気丈に笑みを浮かべた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15



この掲示板は過去ログ化されています。