ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 双翼は哭かずに叫ぶ
- 日時: 2010/06/05 01:43
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: NvOMCXyZ)
ども、挨拶略してSHAKUSYAです。
この度カキコに電撃復活、ずっと構想を練り続けてきた現代ファンタジーを展開していきたいと思います。
……ただ、時代背景が現代なだけで普通の魔法ファンタジーとあんま変わらないんですがね。
てなわけで、ファンタジー全開のこの小説の大雑把なジャンルパーセンテージは
ファンタジー30%
戦闘25%
シリアス20%
グロ20%
恋愛3%
その他2%
(全ておよその数値也)
となっております。特に戦闘とグロの出現率は初っ端からヤバいので、十分心してください。
〜勧告〜
荒らし、誹謗中傷、喧嘩、雑談、無闇な宣伝、ギャル文字、小文字乱用等々、スレヌシ及び読者様に迷惑の掛かる行為はお止めください。
アドバイス(特に難解な漢字や表現について)・感想は大歓迎です。
やたらめったら一話の長さが長いので、更新はかたつむりの移動より遅いと思ってください。またスレヌシは受験生なので、時折勉強等でも遅れる場合が在ります。
それでは、我の盟約の許、汝等を文字の乱舞せしめる世界へ誘わん。
汝等に加護あれ、双翼に祝いあれ。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
- Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.46 )
- 日時: 2010/07/30 00:04
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: zz2UUpI4)
- 参照: 第三話 続き
上等よ、それでこそアタシの相手、<異怪の者共>ってモンよ。
そう高らかに言ってのけ、サロメは野獣の笑みを浮かべて汗ばんだ手で両の手に収まる銃を握り締める。真夏の空気を冷やさんと掛けられた空調も意味無く、噎(む)せ返るほどの熱気が二人の間に漂う。だが、その熱気は冷気と殺気を含んだ強い二陣の風に一瞬で吹き散らされ、代わりにその場を支配したのは刺す様な冷気。
二人は風の羅象を発現させようとしていた。ジェイブルも常人とは比べられないほどの高威力だが、サロメのそれは既に次元が違う。荒ぶ風だけでも、その恐ろしい程の威力が分かる。ジェイブルでさえ恐れ戦くほどの厭な気配が、サロメの発現させようとしている羅象の風から放たれていた。
「……勁き諷は」
彼女の口から声が漏れる。ジェイブルが反射的に即席の風の槍を作って放つも、直前でサロメは風を己の前面に収束させて壁のようなものを造り、あっさりと弾き返す。そのまま、静かに声は続けられた。
「勁き諷は我に理性を、焔の剣は汝に力を。その時、神は踊り、魔は舞い、人は狂う。出でよ癒しの力天使、今こそ剣持ちて舞い踊り、その刃で仇薙ぎ払え。その熾天使、智天使、能天使等の知識を結集せしめ、総ての闇と苦をその風によって吹き散らさん。そして総てを拒絶せんとす愚かな咎の者の愚を散らし、真実と光の苦を、虚無と死の恩寵を与えよ」
サロメの長い茶髪が風に大きく靡く。強い意志に満ちた瞳で恐怖に歪むジェイブルの顔を睨みつけ、右手の銃口を真っ直ぐ彼に向けた。刻んだばかりの翼竜の、薔薇の模様が強烈な青白い光を放つ。命なき彫刻に恰も命を吹き込まれたような陰影を作り出す眩いそれは、次の瞬間彗星(すいせい)のような尾を引いて突っ立ったままのジェイブルへ向かって飛翔した。サロメの羅象を載せた銃弾が射出されたのだ。
「うわッ!?」
慌ててジェイブルが風を足元に集めて飛翔。羅象を込めた銃弾を避ける。だがサロメは不気味に笑みを浮かべて左手の銃口を上空のジェイブルに向け、同じ羅象を込めた銃弾を放つ。これも避けるが、サロメの両手の銃は真っ直ぐジェイブルへ向かって向けられていた。少年の顔に引き攣(つ)れた恐怖があからさまに浮かぶ。
彼女はまるででたらめな方向に銃口を向け、両の手の引き金を全部で十回、続けて引いた。
女討伐屋の首元で、金色の大きな十字架のペンダントが揺れた。
「ぁあアッ……!」
微かな悲鳴。四方八方に放たれた弾丸により逃げ道を失い、四苦八苦した末にそのまま急降下したジェイブルは、急降下の際に包帯を掠めていった弾丸によって包帯が外れ、強引に現実を見せられる羽目になった。同時に頬を浅く切り、真っ白な肌に鮮血の緒を引きながら少年は床に降り立つ。
「さ、光を奪っていた包帯がなくなった以上、もう拒絶はさせないよ」サロメは不機嫌そうな、しかし勝ち誇ったような声で彼にそういった後、頑なに眼を押さえて現実拒否をしようとする少年の腕を掴む。ジェイブルは「放せ!」と裂帛のように叫び、サロメの手を振り払って彼女に背を向けた。サロメは溜息を付いて彼に背を向け、辟易したような声で一言問う。
「そこまでして現実から目を逸らしたがるのはどして?」
「僕はッ!」
ジェイブルはサロメの言葉を振り切るように叫び、続けて激しい憎悪と狂気混じりの声で返答した。
「僕は皆皆、何も信じられなイ! 景色も音も気配も感触も、自分も人も仲間も信じられなイッ! 信じたくないんだヨォ! 僕は何をシタ? 僕達は何をしタ? 僕達何もしてないのに僕の兄も父も皆皆死んだんダ、お前達のせいダ、お前達のせいなンダ、僕をこんなにしたのはお前達人間が! 何もしてない僕の仲間を奪ったセイダァァァアアアァァ!?」
サロメの溜息は愈々大きくなった。
「だからって現実から逃避したら何も変わらないじゃないのさ。何度かアンタ達を相手に仕事したことあるけどさ、サタネルっていっつもそうだ。精神的に追い詰められると現実逃避に走る。普通に社会の歯車として生きてる人間はどんなに追い詰められたって前向いて堂々壁に向かっていく心の強さを持ってるよ。アンタ達はそれを持ってない」
「黙レェッ! 僕達はお前達人間みたいなゲスでドンヨクな精神力なんて持てなイ、追い詰められたら逃げるしかナイ、お前達みたいにサ、壁に立ち向かうだけの力なんか無いんだヨォッ! お前達は僕達のことなんか何にも知らないんダッ!」
語尾を裏返し、頭を抱えて叫ぶ。サロメは無言無音で踵を返し、弾倉から空薬莢(からやっきょう)を取り出して床に落とす。それは床や他の薬莢と当たり、凛と高く澄んだ鈴の音を奏でた。何か続きを言おうとしていたのか、虚を突かれたジェイブルが「ア?」と引っ繰り返った声で語尾を上げる。サロメは慈母のような笑みを浮かべて少年の前に回りこんだ。
そして、折れそうな程華奢で真っ白な彼の体を、抱き締めた。
硝子玉の様な碧眼を見開き、ジェイブルは唖然として声も出さない。サロメは大きなぬいぐるみを抱く幼子のような笑みを浮かべて少年の体を腕の拘束から解くと、唖然としたまま微動だにしない少年に笑いかけた。
「アンタ、澄んだ綺麗な眼してるじゃない。そこに真実を映しな、それが、アンタの兄貴と親父にやってあげられる贖罪だ」
刹那、澄んだ紺碧の瞳から大粒の涙が零れ、薔薇色の口から幼子の慟哭が漏れた。
→NEXT 第四話
あとがき
今回のページ数:七ページ
戦闘と異常満載の第三話終了ー。
最近後衛かつ名脇役(嗤)のやっちゃんが単独活躍傾向にあるので……。サロメを活躍させるためにも、怪我をしてもらいました(滝汗)怪我ばっかりしてるよこの弓術莫迦は!
多分、これからも彼は怪我をしたりとばっちりを喰らったり戦場に突き落とされたり、災難が尽きないないと思います。
不幸誘引人間です(笑)
因みに。
ジェイブルとの台風みたく強風吹き荒れる戦闘や彼が乱入する前の悪酔い話は殆ど技を入れたいが為のおまけ。ただ、西洋酒場『紅の蝶』は「討伐屋の集う酒場」として今後も登場する予定です。
今回注目すべきキーポイントはジェイブル君とサロメとの絡み、実にさらっと語って流されたサロメの過去、それと『十字架のペンダント』。
特にサロメの過去とペンダントとの関連は深いので、注目どころではあります。
次回は擬龍ネタを交えつつ色々と伏線明かしをしたいと思いますので、お楽しみにー。
譲羽さまへ、お知らせ。
ネタを提供してくださった第五話ですが、佳境に入る寸前まで執筆しました。∑d(・ω・)
が、凄まじくgdgdになってしまいました……。
討伐屋暴走、ネタの乱舞、狂気満載の日記、無駄に長い前置き、何かもう、救いようがないです。
この場を借りて、ネタの超改変をお詫びさせていただきます。
- Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.47 )
- 日時: 2010/08/01 12:15
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: zz2UUpI4)
第四話 「夕日、七人、曇り空。」
ギャード地区八番街のど真ん中、総ての路の起点となる大広間は、休日の活気に満ちていた。
大広間はその辺の小学校の総面積より二回りも三回りも広く、風と西の方角を掌る力天使(ヴァーチャー)、ラファエルの荘厳な像を囲むような格好で、白亜(はくあ)の大理石でシンプルに形作られた噴水が水を空に噴き出している。
その噴水の周りには小高い花壇が設(しつら)えてあり、色鮮やかな花が色分けされて植えられ、ロープが張り巡らされた上で『入るな!』ときつく言い渡す看板が立っている。
分厚い煉瓦で丸く形作られた花壇の縁は人間が座れるように出来ており、更には木製のベンチも多数点在するため、大広間の人間は煙草入れの周りに集まる喫煙者以外は殆どが座って談笑していた。
その談笑の一角で、仕事着姿のサロメは矢張り仕事着姿の八咫剣と並んで座って——ただ呆けている。背凭れに体重を預けきった体勢の八咫剣は辺りを慎重に見回しているが、やはり全身から力が抜けている。だが呆けているサロメの手は常時腰のホルスターに据えられたまま。八咫剣も左手に弓を握り、右手の爪は矢筈(やはず)を確(しっか)とつかんでいる。
武器に手を掛けていない限りはただの怠慢としか思えない光景。しかし、曲がりなりにも二人は職務遂行中である。
十年間の討伐屋仕事の中で一番の高給取りな割に、依頼の対象が出て来るまでは実に呑気で穏やかだが、一旦“それ”が表れてしまえば高給仕事らしくかなりの危険が付きまとう。殊更死の可能性は今までのどんな仕事より高い。怠惰(たいだ)な態度は取っていても、二人の神経は澱(よど)みなく張り詰めているのだ。
傍の一般人からは職務怠慢としか見えないのが実に残念である。
怠惰な二人に目も暮れず談笑する最中、噴水の向こうの更に向こう、夏の陽気が席巻(せっけん)している蒼穹(そうきゅう)に眼を向けた八咫剣の顔に僅かな険が差した。サロメは腑抜けた顔に腑抜けた笑みを浮かべて視線を八咫剣へ向け、彼もまた彼女に視線を向ける。
二人が揃って蒼穹の向こうに視線を向けた途端、
広場を見下ろすように立っていたラファエルの像が、吹き飛んだ。
休日の活気は一瞬にして戦場の阿鼻叫喚と化し、談笑していた皆々が一番近い路を経由して逃げる。サロメは同時に颯(はやて)のような速さで走り出し、噴水まで一気に距離を詰める。八咫剣は手を掛けていた矢を弓に確りと番え、ベンチの上で引き絞る。瞳は砕け散ったラファエル像の向こう、その異様な姿を現した“それ”に向けられている。
異貌(いぼう)である。だが、討伐屋にしてみれば見慣れた格好ではあろう。
重苦しい曇天の色を宿す、標準的な二階建て一軒家よりも二倍近く大きな銀灰(ぎんかい)の体躯。人が五人手を繋いでもまだ足りないほどの太い四肢から生える鋭い爪は陽光を受けて鋭利な針の如き冷たい光を発し、徒でさえ大きな灰色の双翼は一杯まで広げられ、広場の一角に威圧的な影を投げている。そして巨木の幹の如き長い首の上には、鰐と蜥蜴を混ぜて二で割ったような特徴ある顔が鎮座している。
<異怪の者共>、擬龍。
だが、その巨大さと伝わってくる力は通常の“それ”とは違う。膨大に過ぎ、幽玄に過ぎる。
威風堂々とした容。そして、どんな人間でも底が浅く感じるほどの底知れぬ殺気と威圧。遠くからもその力の格差をありありと感じ取った八咫剣は、引き絞った矢を弓から外して矢筒の中へ放り込み、総ての人間が逃げ出し人気の無くなった広場に脚を下ろす。擬龍の紅い瞳に埋まる細い瞳孔が八咫剣へ向けられるも、八咫剣は臆せずにサロメの傍まで歩み寄り、曇雲(どんうん)の色を宿す擬龍に声を放った。
「貴方に——聞きたい。一体全体何の因果があって私達人間を襲い、よりにもよって大広間の、八番街の象徴でもある力天使の像を無惨に破壊せしめたのだ。矮小(わいしょう)な人間の言語が通じるならば、応えてくれ」
素っ頓狂な問いに莫迦じゃないのかと言い寄るサロメを無言の威圧で制し、曇天の擬龍はまるで懐かしむようにその瞳を細める。その瞳には何処か哀惜の色が混じっており、また激しい憎悪も混じっている。
ややもすればそのまま噛み付きそうな感情を宿す擬龍を見上げ、慎重に擬龍の感情の揺らぎを見定める八咫剣に対し、擬龍はただ首を横に振って答える。そして、底知れない憎悪と悲しみを含んだ若い男性の声を、その口から漏らした。
「子を……殺された。まだ分別の付かぬ幼子であったから、何が是で何が非か未だ知らなかったのであろう。自分勝手に人の地へ割り込み、荒らした末に、討伐屋なる者に殺されてしまった。確かに殺されるは幼子の非、仕方の無いことかも知れぬ。……だが、我は彼の幼子の父として、ただ無性に悲しい。そして憎い。故に、我の子に仇為した人間を探している」
記憶の片隅に僅かな引っかかりを感じながらも、八咫剣が問い返す。
「探して、その人間を如何する心算だ」
「痴(し)れた事を聞くでない、人間よ」
——殺さぬまでも、手傷の一つも負わせてやろうぞ。
擬龍は静かに吐き捨てた。怖気の奔る殺傷宣言に対し、サロメが「巫山戯(ふざけ)んなよ」と悪鬼の如き声で返す。細められた深紅の瞳が地面に立つ彼女へ向けられると同時、サロメは擬龍の目へ向かって拳銃を構える。回転式拳銃には既に強力な羅象が宿っており、施された模様が、光の揺らめきによって生きているかのように蠢(うごめ)く。そんな彼女の乱行(らんぎょう)を八咫剣は制そうとするが、その前に懐かしげな擬龍の声が響いた。
「その拳銃、その十字架の首飾り……ロネッタ夫妻の物だな」
- Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.48 )
- 日時: 2010/08/12 19:49
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: qUfyS13Y)
- 参照: 第四話 続き
「なっ、あ……!?」
擬龍の口から放たれた思わぬ言葉に、サロメの体が一瞬にして硬直する。眼一杯眼の見開かれた顔には精一杯の愕然と唖然、羅象を込めた銃さえ取り落とし、彼女は「何で」と言う疑問の言葉を呪詛(すそ)のように繰り返しながら、ぺたりと石畳の上に崩れ落ちた。状況の飲み込めぬ八咫剣はただ擬龍を見上げるばかり、擬龍は述懐するように淡々と声を並べていく。
「十五年程前か、我の子とは違う子がやはり是非分からずして人間の世界に割り込んで街を荒らした事があってな、我はそれを止めんとしてその幼子を空から追ったのだが、その時空の上より見かけたのが、二丁の銃を自在に操る男と、十字架の首飾りを身に着け凄まじい炎の羅象を操る女の二人組だ。ヴェルード・ロネッタとアリア・ロネッタと言う名であったから、恐らく夫妻だったのだろう」
そこまで述べてから、擬龍は泣きそうな顔をするサロメを見下ろし無言の視線を向ける。サロメは何も言えず、瞳孔の開ききった視線を擬龍に向けるばかり。擬龍は辟易したような視線を向けた後、煮え切らない表情の八咫剣を諭すように声を続ける。その瞳は空へと向けられているが、その先は遙か蒼穹の向こう、過去を見ているようだ。
「当初は素晴らしい連携で圧倒してはいたものの、街を無闇に破壊させたくなかったのであろうし、その幼子は我等擬龍の中でも殊更恐るべき力を誇っていたから、結局の所幼子の強力な羅象によって二人共黒焦げになってしまった。我は総てを見ていたにも関わらず、幼子の凶行を止められなかった。我は夫妻が殺された後に飛びついて、連れ戻しただけだった」
同朋の凶行を止めんとし尽力してくれた夫妻をむざむざ死に追いやってしまった、我の力の及ばぬ所、ただ恥入るばかりだ——擬龍は哀しげに言って頭を垂れる。八咫剣も沈痛な面持ちでサロメにほんの少しだけ視線を送るが、サロメはただ呆けて座り込むばかり、完全に腑抜けてしまっている。
しかし、直ぐに声は上がった。
「何で、アタシの父さんと母さんを、見殺しにした?」
擬龍が眼を剥いた。思わぬ一言に八咫剣も思わず「は?」と声を上げてしまう。サロメは先程の腑抜けた表情から一片、憎悪に満ち満ちた瞳で擬龍を睨みつけ、木枯らしの如き冷たい殺気を放ちながら、怒気を孕んだ声を荒げた。
「何でアタシの父さんと母さんを見殺しにしたのかって聞ィてんだよッ!」
「な、幼子が殺してしまった、彼の夫妻は、そなたの、父と母、なのか?」
あからさまに動揺し、途切れ途切れに問い返す擬龍。サロメはそうさ、ヴェルードとアリアの一人娘、サロメ・ロネッタさ——と投げ遣りに叫び、先程より更に眩い光の宿る銃を擬龍の眼に向ける。次に放たれた怒声は僅かに震えており、瞳の憎悪にも哀惜の揺らぎが僅かだが見て取れる。父母を間接的に殺した敵に出会ったのだ、サロメの心境も複雑なのである。
「幾ら力が強いつったって、アンタが本気出しゃ子供の力なんて十分捻じ伏せられるだろうが! 何でアタシの父さんと母さんが殺される前に飛びついて連れ戻さなかったんだ、自分の力が弱かったなんてのは嘘だろ! 力が及ばなかった、弱かったなんざ詭弁(きべん)で言い訳、娘のアタシにそんな戯言(ざれごと)が通じるなんて思うんじゃないよッ!」
返す言葉が見つからず、黙り込む擬龍へ更に怒号を浴びせようとするサロメに、八咫剣が慌てて飛びつく。状況は未だ綺麗に飲み込めていないような不甲斐無い表情をしていたが、あわや擬龍に飛び掛って撲殺しそうな勢いのサロメは止めなければならないと直感したのだろう。それほどまでにサロメの顔は憎悪に塗れていたのだ。
「止せ、サロメ。泣き叫び、見殺しにした者を詰(なじ)った所でお前の父や母が戻ってくるわけで無し、贖罪や代償を求めたところでお前の心の傷が埋まると思うか。この擬龍だって己の子を殺されている。詰れば己の力の無さを恥じる擬龍も傷付くし、詰るお前だって過去の傷を蒸し返して結局傷付くだろうが。もう止めろ」
「止めずとも良い。彼女の言う事には一片の間違いもないのだ」
哀しげな色を込めた声で擬龍が言い、八咫剣は一瞬怪訝そうに眼を細めて大人しく身を退く。サロメは擬龍の一言で何かが途切れてしまったか、顔を俯かせて黙り込む。擬龍は「もう言わないのか」と少々驚いたような声で問うたが、サロメは「まあ」と力の抜けた声を上げただけで再び黙り込んでしまった。
- Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.49 )
- 日時: 2010/08/14 18:49
- 名前: 蒼莉 (ID: 3lsZJd9S)
このような小説をこのサイトで見たのは初めてです。
情景描写とか心理描写とかがちゃんとできてて、こういうのを活字の海、というんでしょうか。
最近、こんな小説を見かけないんで、なんか嬉しかったです。というよりも私も出来てないんですが。←
私には0,001%でも出来ない技ですね。
しっかり溺れさせていただきました。
頑張ってください。
- Re: 双翼は哭かずに叫ぶ ( No.50 )
- 日時: 2010/08/14 19:00
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: qUfyS13Y)
>蒼莉様
コメントありがとうございます!
独学でずっと書いてきましたが、こういうコメントをもらえると嬉しい限りですっ。
いえいえ、蒼莉様にも絶対出来ますよ。ご自分を卑下なさらないでください!
これからは受験勉強で忙しくなりますが、頑張って掻いていこうと思います。
頑張りますので、よろしくお願いします!!
ありがとうございました!
〜お知らせ〜
明日から二週間ほどおばあちゃんの家に泊り込みに行くので、コメントが返せなくなります。ご了承ください。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
この掲示板は過去ログ化されています。