ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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ウィンドウズ・ファクトライズ!【参照1000突破謝辞】
日時: 2011/07/10 22:37
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: アクセロリータ「やべェよ! 止まんねェよ!」

(私は胎内に、希望の子を宿している)
(人はこの子を『希望のヴィーナス』なんて呼ぶけれど、)
(私にとってこの子は、彼の人を幸せにする、ただの玩具なのでしょう)


 実験都市(シミュレーションシティ)の中枢部に存在する母体——『マザー』を中心とした、一つの物語。
 戦いを交えたその一つのストーリーは、だんだんと収束を迎えてゆく。


「————さぁ、掃除してやる」







 ■オリキャラ募集はただいま行っておりません[>>21] 

 ————ってな感じで初めましての方もそうでない方もどうもこんにちは。ささめですよう。
 音符的スタッカート!みたいな日常系とは少し離れて、今回は未来的バトル系に挑戦しようとした次第です。……いや、選び方間違えてんじゃねなんて言葉は私は聞こえてませんお。今回は以前別の名前で書いていたものをリニューアルしている部分や、矛盾している(基本資料とか集めない人間なんで)部分も多々あると思いますが、そんな時は生暖かい目で「こいつ駄目じゃんm9(^д^)」って思っといてください。
 とりあえず、亀更新とぐちゃぐちゃ駄文ですが、宜しくお願いします(`・ω・´) ちなみにコメをくれると返信と全裸を熱意をこめて贈ります。……ゆっくりしていってね!!



 ■コメントをくださった方々
  *神凪和乃様 *朱音様 *サーバーバック様 
  *Neon様 *パーセンター様 *豆腐屋様 *朔様
  *零繭様 *ひふみん(ソロモン)様 *とらばさみ様
  *フレイア様 *神崎虚空様

 ■目次

 序章 —この街の取り扱い説明書— >>01

 
 *1章『ヴィーナスはけして等しく彼らに微笑まない』

 01 — 最残日吉について >>02
 02 — カピバランデブー・ナイト >>03
 03 — 彼の日常風景 >>5
 04 — 『コード』 >>6
 05 — ここで彼の話をしようと誰かは言う >>10
 06 — 帝見杏子と彼女 >>11
 07 — 誕生日プレゼント >>15
 08 — 津々(しんしん)とそれらは流れる >>18
 09 — 物語は、加速してゆく >>20 
 10 — 日吉的メランコリー >>26-27
 11 — The opening >>38
 12 — 『マザー』襲撃・舞台A >>49
 13 — 『マザー』襲撃・舞台B >>51
 14 — 『マザー』襲撃・舞台C >>61
 15 — 彼と青年の始まり >>80
 16 — I had to know. >>82->>83
 17 — 舞台B、その半分にて >>85->>86
 18 — 舞台B、ゲーマーと不良 >>93>>97
 19—現実を直視する青年のラングエッジ。 >>104>>109



■オリキャラの方々、応募者様方
 ・八城 亨(やしろ とおる) — サーバーバック様 >>22
 ・天城 西院 —  Neon様 >>23
 ・高峯 翔(たかみね しょう)《イメージ画>>53》— 朱音様 >>29
 ・來榧 奏蘿(くるがや かなら)
  カモメのジョナサン — 朔様 >>35
 ・氷砕 件(ひょうさい くだん)— パーセンター様 >>30
   紫水 海梨(しすい かいり) >>41
 ・檜原 火海/ひのはら ひかい — 月夜の救世主様 >>43
 ・アーリウス・テンペスタース《イメージ画>>55》— 豆腐屋様 >>44
 ・諸山 吹雪(もろやま ふぶき) — ひふみん様>>63 
 ・紅李 瞑(あかい めい) — 零繭様 >>64
 ・綴谷 昭太郎(つづりや しょうたろう) — とらばさみ様 >>72
 ・安曇 琥珀(あずみ こはく) — フレイア様 >>74 



■参照突破挨拶まとめ
 ・参照100突破 — 1月21日金曜日にて >>19
 ・参照200突破 — 1月25日火曜日にて >>37
 ・参照300突破 — 1月29日土曜日にて >>58
 ・参照400突破 — 1月31日月曜日にて >>71
 ・参照600突破 — 3月16日水曜日にて >>81
 ・参照700突破 — 4月8日金曜日にて >>91
 ・参照800突破 — 4月17日日曜日にて >>102
 ・参照1000突破 — 7月10日日曜日にて >>111

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■16—I had to know. ( No.82 )
日時: 2011/03/29 01:53
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
参照: アクセロリータ「やべェよ! 止まんねェよ!」

 (嫌な答えだわ)

 入り口に立つ元部下、緑崎鷹臣を視界に入れ解明は舌打ちをした。悪い癖だとは分かっているが、この悪意にまみれた状況では仕方がない。長いまつげをともなった瞳が一度だけ躊躇するように出口へと向けられた。彼女の心の中に、たった一人の少女の姿が思い浮かぶ。だがそれもすぐに霧のように消え——

 「——無駄口はききたくないわ、keep2071《キープ・ガード》」

 ヴォン、と解明の手の内に透明な球体が現れる。球体は傍からみれば、まるでガラス玉を思わせる美しさを持っていた。これが、解明聡のコードだった。何者からのどんな攻撃でも、この空気の層で出来た球で守り抜く、まさしくキープ・ガードという名がふさわしい力。

 「さっさと終わりなさいな。……あなたの野望も、ね」

 彼女は今、少女を守るために力を振るう。
 自分の中にあるとある感情を、封じ込めたままに。



 ■16—I had to know.



 緑崎のコードの名は『chush&push37』。決まった空間の空気を自由に圧縮し、使う能力だ。解明は二度ほど、その能力を見たことがある。一度は入社試験、二度目は侵入者がやってきたとき。自分のただ守るという力と違い、緑崎のは明らかに人を傷つける。それを解明は理解していた。

 「keep2071《キープ・ガード》じゃあ、せいぜい自分の身を守ることしか出来ないんじゃあないですッ、かッ!」

 余裕そうな笑みで、言葉とは対照的に鋭く圧縮された空気の刃を放つ。一歩も動かず、的確にポイントをつく緑崎の攻撃、そして解明の心理的をついた言葉。本来ならば怒りに満ちた言葉を贈るところだ。だが解明は怒りを浅い失笑に変え、一蹴した。

 「本当につまらない男ね、緑崎。……あえてネタばれしちゃうけど、この力は具体的にいうと『本来あるべき空間に、無理矢理に別の空間からの一部を発生させる』っていうものよ。分かりやすくいえば、椅子取りゲームは必ず一人椅子に座れなくなるものなのに、その残った一人が無理にどこかの椅子に同時に座るってことなの」

 緑崎の知的そうな顔が、理解不能の文字で染まる。

 「…………だからどうだっていうんです?」
 「やっぱり、つまらない男ね」

 薄い唇が半円の形を作る。一旦、解明は攻撃から逃れる足を止めた。「だから」と言葉が続く。やがて解明は薄く微笑んだ。侮蔑と嫌悪を露わにし、相対している敵に向かって。

 「私は貴方が————」

 ————次に瞼を開いた時に、解明は逆さまになっていた。
 呼吸の乱れや痛みなどはない。解明聡が逆さまになっていた、それだけが緑崎に理解できていた。……あれ、何故だろうか。緑崎は揺れる世界を呆然と感じながら思う。床は空に、天井は地に。真逆の位置へと変わっていくではないか。

 「嫌いなのよ」

 解明の言葉が、やけにスローに聞こえた。おかしい、何かが可笑しい。自分の世界が反転していることが。世界は真逆になっているというのに、解明が余裕の表情で立っていることが。何でだ、世界が可笑しい。そう考えている間にも、自分の頭上には床が迫ってきている。ぎゅるぎゅると回転速度が増し、緑崎の疑問を誘う。

 (いや、違う)

 目まぐるしく変わる世界で、ようやく緑崎は手に掴んだ。
 この違和感の正体、そして。

 (回転しているのは、僕自身だ……ッ!?)

 ボゴッ、と何かを思い切り叩き付けた音が実験場全体に響いた。緑崎の視界が、反転した。遠のく意識、ぼやけていく彼女の顔。解明の足元に何か銀色のものが弾かれ、届いた。緑崎が身に着けていた、銀色のフレームの眼鏡だ。だが眼鏡だと考えられる材料は何もなく、滅茶苦茶にフレームは歪み、レンズなど細かい粒へと変貌していた。
 しかし解明は、冷たい目でそれを見下ろしていた。唇の端から、小さな吐息が漏れる。厳しい顔つきで、解明は崩れ落ちた元部下へと踵を返す。
 一切の情を見せないままに。



■16—I had to know. ( No.83 )
日時: 2011/03/29 01:53
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
参照: アクセロリータ「やべェよ! 止まんねェよ!」

 *

 

 一瞬だけで良かった。彼が自分の言葉に意識を集中させるその一瞬で、私は全てを終わらせるつもりだったのだ。解明は倒れて動かない彼を一瞥もせずに、後にする。全てとは、今まで起こったこと……解明は緑崎が自分の部下として働いていた思い出を振り返り、苦い顔をした。

 (やっぱり、忠誠心以外は評価ゼロね。杏子をとんだ目にあわせることになりそうだったし…………それに前々からあまり、というか全然役にたたなかったし)

 こつこつと足音を響かせて、辛辣な意見を出す解明。
 解明が緑崎を倒したのは、実に簡単な戦法だった。足元の空気に、無理矢理空間を発生させるという解明コードの力を上手く利用したのだ。居場所のあるはずのない空間を無理に発生させれば、必ずそれを消した時にその反動がやってくる。解明のコードは絶対に安全である空間を発生させることが出来るのだが、それを消す度に、元々あった空間に空気が戻ろうと空気が凄い力で圧縮され、周囲の空気に馴染もうとする。その際に必ず強い力が現れるのだ。解明自身がこれを攻撃へと応用できるということに気付いたのは何年か前の話だが——今となれば特に時間など関係ない。
 
 (速く、速く杏子のところへ行かないと!)

 彼女の脳裏に過ぎるのは、やはり上司の娘である帝見杏子。先ほどまで厳しい表情をしていた解明は朗らかな少女を思い出しながら、緩やかに口元の引き締めが解けていくのを感じた。あの少女は自分にとっての生きる希望であり、意味なのだ。そんな少女を今、侵入者がいるという危機的状況で一人にさせておく訳にはいかない。解明は焦りながら、出口へと向かう!
 ……だから、なのだ。解明は普段とは違う、焦りという感情を見せてしまったから。
 だから、彼女は。


 「か、イ、メぃ、さ、ァ……ん」


 まだ倒せていないはずの緑崎鷹臣が、コードを発動させていることになんて、


 「ッ、緑崎ッ————」


 ————気付かなかったのだ。
 驚愕に顔が引きつるのを感じながら、解明が思い切り後ろを振り返る。アキレス腱を無理に動かしたことにより、多少の痛みが両足を襲うが気にしない。解明の後ろには、まるで死人のような表情をした緑崎が立っていた。否、立っているというのは可笑しい。存在しているという言葉が似合う、それは意地だった。今まで自分の上に立っていた強者を何としても虐げようとする、弱者の心のどす黒さ。
 めきり、めきめきめきめきッ!! ……分厚い金属の板を力任せに捻じ曲げるような、耳慣れない嫌な音が実験場全体でベルのように鳴る。雑音はまるで獅子のように、実験場の空間全てで吼えている。

 (これは、空間の歪む音ッ!? まさかッ、緑崎がコードの暴走を……。でも何で、少し私はコードを使って、アイツを潰しただけよッ……!?)

 緊急を告げる警報が喚く心中で、解明は自問自答を繰り返す。
 解明は知らなかった。
 緑崎鷹臣の心のリミッターが、一瞬で一度の敗北に対して、壊れてしまっていたことに。
 解明は知らなかった。
 緑崎鷹臣がまだ、自分のコードの本気を出していなかったことに。
 解明は知らなかった。
 これから、一方的な戦いというものが、始まるということに。

Re: ウィンドウズ・ファクトライズ!【16更新】 ( No.84 )
日時: 2011/03/29 03:08
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
参照: アクセロリータ「やべェよ! 止まんねェよ!」

しょぼーん(´・ω・`)
深夜のテンションに任せて書いてるのは良いけど、どうしてもりー子ちゃんと戦闘がすげぇ鬱になっているっていう何それ酷い。りー子ちゃんは中途半端にコンプレックス有っていう設定だったけど予想以上に鬱だよ畜生! パンナコッタ、何てこったい!

という訳で次の17話でりー子ちゃんがどうなっても閲覧している読者様は静かにレッドカード3枚出すだけにしていただきたい。良いじゃない、壊れてたって。それでもりー子ちゃんはりー子ちゃんよ!

■17—舞台B、その半分にて ( No.85 )
日時: 2011/03/29 13:05
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
参照: アクセロリータ「やべェよ! 止まんねェよ!」

 「ごほっ、ごほっ……」

 水が、襲ってくる。それを、倒す。言葉にすれば簡単なのに。なのに、何で立ち向かえないんだろうか。何で、勝てないんだろうか。そんなことばかり考えていた。濡れた髪とセーラー服が、やけに鬱陶しい。目の前で可愛く小首を傾げてる少女のレモン色の瞳の奥底に、ひどく残虐さを感じる。嗚呼、こうやって苦しい思いをさせるのなら、どうかひとおもいに×してくれれば良いのに。
 りー子はごほごほと咳き込みながら、目の前が絶望に染まっていくのを感じた。路地裏に隠れたのは良いものの、ここもすぐ見つかる。二対二なら、一人一人戦った方が楽……なんていい出したのは遊だったか、自分だったか。水でふやけきった脳みそは、正しい記憶なんて呼び覚ましてくれそうにない。

 「と、とにかく遊と連携を————」
 「————えぇー? もうあっちの人にすがるのかなー?」
 「っツ!?」

 ふと路地の入り口を見れば、金髪の少女が笑みの色を濃くしていて。

 「さぁ、追いかけっこの続きだよう?」

 嗚呼どうかひとおもいに、と思うのは罪なのだろうか。



 ■17—舞台B、その半分にて



 時はおよそ三十分前に遡る。
 それぞれに、來榧奏蘿(くるがやかなら)と名乗った少女と高峯翔(たかみねしょう)という少年は、りー子と遊が何かを聞く暇もなくコードの攻撃を始めた。りー子はあまり見ていないので分からないが、高峯という方のコードは物質を変える能力らしい。「ほらよッ!」と突然、手に持っていたフォークを投げてきたと思えば、避けた時にはフォークは銀色のナイフへと変わっていたからだ。対して來榧という少女は、高峯の攻撃に便乗するでもなく、

 「翔さーん、何で初めから戦闘モードなの? 何で? アドレナリンばりばり?」
 「馬ッ鹿野郎が。俺は喧嘩をする時は自分から仕掛ける派だ、そうすれば相手にナメられずに済むんだよガキが」
 「つ、つまり翔さんは気が短いってことなのかなー?」

 高峯の攻撃の意図について疑問を抱いているだけだった。……勿論、初めは。その後、高峯は近くの金属の手すりに触れ、それをチェンソー程の大きさのナイフに変化させて、遊に斬りかかったのだ。どうやら高峯は遊と一対一で戦いたかったようだ。高峯VS遊、來榧VSりー子という流れになった。また來榧の方は少女とはいえど戦闘を好む性格らしく、満面の笑みでりー子に氷のステッキを振り回してきた。二人の攻撃が交わされる度に近くの店は半壊し砂煙や崩壊がひどく、近寄ることも許されなかった。その他にも多くの理由で遊とりー子はろくに話もせずに引き離され、お互いの戦いに没頭する————そして、現状に至る。

 (それをっ、今っ、後悔してるんっスけど、ねっ)

 鉛をつけたように重い足取りで、りー子は胴体を狙った氷の槍を避けた。しかし学ランまでは避けきれず、胴体辺りに空洞が出来てしまった。要は穴が開いたのだ。普段のりー子にとっては大事な学ランが大変っス!、と重大なことだが、今は気に留める状況ではない。

 「そーれっ、え、えいやっ!」
 「がふぁ……っ……く、るがら……」

 細い路地裏で、來榧の白いブラウスに包まれた両腕が帆のようになびく。ゆらり、ゆらりと揺れる度に汚れた水道から流れる多量の水が、りー子の顔を打ち付ける。意思を持ったかのようなその動きは、幼い少女の殺意をそのまま表現したかのよう。だが殺す気はないのか、戦闘を始めた時からずっとこの調子で、りー子の表情を苦痛に歪めるのみで、一向に息の根を止めようとはしない。殺されない意味も分からず、りー子は逃げ惑いながら気管に入った水を辛そうに吐く。

 「っははー、素敵な顔なんだけどなぁー、何でみんなこの顔が嫌いなんだろう? 氷砕さんにしろ、天城さんにしろ。私は好きなのになぁー……翔さんは知らないけどね」

 一通りりー子を苦しめた後で、來榧は不思議そうにりー子の顔を無理矢理上げさせた。少女のコードの能力によって、水で出来た巨大な手がりー子のセミロングの髪を掴み持ち上げる。毛根と共に脳みそまで引き千切れそうな痛みに、りー子は顔をしかめた。プールで溺れた時のような不快感が鼻を伝う。

 「…………ごほ、なンのことっスか……×すならさっさと×せば良いっていうのに……こ、ッんな風に追いかけて、人の呼吸を水でと、止めて、苦しみだけ味あ、わせて」

 酸素を胸に溜めて、りー子はノイズがかった言葉を紡ぐ。×すという単語は、小さい頃から中途半端だと周囲に見下されてきたりー子にとっては身近な言葉であり、自身に行おうとしてきた言葉。ある意味、昔のトラウマなのでタブーの言葉だ。その言葉を平然と口に出す辺り、相当彼女の精神は追い詰められている。遊が今の自分の状況を見たら、驚くかもしれない。りー子は自虐的に笑んで思った。


 「あ、それはだめなんだよ? まだまだ、×すのは後からだってば!」


 否定、された。幼稚園の先生が幼児にもう遊んではいけないよと優しく注意する程の、優しさを孕んだ声色。その言葉はりー子の内面を深く抉った。

 「あぁ勘違いしないでよ? 私は人をいたぶるのが趣味なんだってば。えへへっ! だからさ、すぐにぱーっと潰しちゃっても面白くないのっ。ホントだったら、近くによって貴方の体内の水分を全部一気に外の世界へ大放出! なーんてのしても良いんだけどねー? でもホラやっぱ、それって面白くないでしょ?」

 怒りでは無い、恐怖や混乱が胃の底からこみ上げてくるのを感じる。ぴしゃり、と水の尾がアスファルトの地面をぴしゃりと叩く。その飛沫は頬にちり、微かに温度を奪われた。來榧の言葉が、脳内で処理できないままじくじくとした痛みを放つ。アレ? もしかして、自分はこれから何分も何時間もこんな鬼ごっこをするんだろうか? もしかして、この少女はこれ以上に自分を傷つける方法を考えているんだろうか? あぁ、もしそうならば、そうならば。


 「……て、よ」


 ————自分は一体、どれ程の苦しみを負えば良いんだ?


 「もう、×してよ」


 震える足を動かして、少女は逃げた。
 中途半端に逃げることの出来ない自分と、目の前の倒すべき相手から。


■17—舞台B、その半分にて ( No.86 )
日時: 2011/03/29 13:07
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
参照: アクセロリータ「やべェよ! 止まんねェよ!」




 *



 「あーあー。逃げられちゃったなぁ」

 残念そうに、愉快そうに足元の水を見て呟く姿は年相応の少女に見える。來榧はスカートを濡らさないように、ローファーを履いた足元で器用に路地裏を出て行く。通りに出ると、濡れた何かを引き摺った後が遠い道の先まで点々とシミになっている。さっきまで追い詰めていたりー子という少女のものだ。ついつい、口元が吊りあがる。

 (……でも、少し妙なんだよねー……何でだろ?)

 だが、その笑いもすぐに疑問が含まれた。むぅと唇を尖らせて、手の平に残ったさっきの水の感触を思い出しつつ、手のひらを拳にしたり開いたりする。

 (さっき、あのりー子って人が逃げ出す直前に、私は思い切りお腹を狙って水のドリルを放出させたはずなのに。でもあの人は普通に逃げられた。決して避けられたり対抗できたりだとか、そういう攻撃じゃなかったのに。なのに、何で?)

 みゅーっと眉を八の字にしていた來榧だったが、やがて自分のコードの能力を確かめるように水の塊をくねらせてみると、りー子が逃げていったであろう方向へと歩みだした。三つ編みにされた金髪が、來榧の動きと共に上下する。

 (何にしろ、私の攻撃は水分を自由に操ること。よほどのことが無い限り、私に欠点はない。……だから、安心して、)

 いたぶれば良い、と來榧は小さくほくそ笑んだ。年齢に似合わぬ、大人びた表情のままに。
 やがて彼女は、その先に獲物を見据えて歩みを進める。


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