ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜更新再開しますっ
日時: 2011/11/05 00:02
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode=view&no=5276

クリックいただきましたっ!初めての方も、そうでない方もどうもです。
多分、初めての方が多いんじゃないかと思います。いや、もうほとんどだと思いますがw
下手な文章で読み辛いことも多くあると思いますが、お付き合いくださいませ;


【この物語を読むにおいての取り扱い説明書】
・作者は大変亀更新得意です。元からワードで作ってたりしたものですがどうなるか分かりません。
・思いっきりラブコメで、バトルバトルバトル、といった感じです。ギャグとかも混じります。
何故シリアス・ダークに投稿したのかというと、グロ描写注意だからですw
グロ描写が苦手という方はお控え願えますよう、お願いいたします。
・読むな、危険。と、言いたいほど様々な面において危険です。それでも読んでくださる方は心して読んでください。




【目次】
この駄作にソングをつけるとしたら…>>121
プロローグ——になるのかこれ?…>>2
説明その1っ:勇者は美少女である
♯1>>4 ♯2>>7 ♯3>>8 ♯4>>13 ♯5>>14
説明その2っ:とりあえず責任者でてこい
♯1>>19 ♯2>>22 ♯3>>24 ♯4>>25 ♯5>>27
説明その3っ:拙者に斬れぬものなどございませんが?
♯1>>28 ♯2>>29 ♯3>>30 ♯4>>31 ♯5>>37
説明その4っ:え、これ、マシュマロですか?
♯1>>39 ♯2>>44 ♯3>>47 ♯4>>53 ♯5>>58
説明その5っ:——嬉しい。ありがとう
♯1>>62 ♯2>>71 ♯3>>74 ♯4>>78 ♯5>>79
説明その6っ:貴方、どこの佐藤さんですか?
♯1>>84 ♯2>>85 ♯3>>86 ♯4>>92 ♯5>>93
説明その7っ:私の王子様にしてあげるっ!
♯1>>94 ♯2>>99 ♯3>>112 ♯4>>117 ♯5>>119
説明その8っ:コンビニはこの世界、最高の癒しだろうが




【番外編】
槻児、どうしてお前はそんなにスケベなんだ
>>69
みんなで花見に行きましょう(全♯4〜5)
♯1>>95
・ツイスターだよ、全員集合!
・殺し屋佐藤さんにリアル鬼ごっこ演出させてみた(魔法・取り扱い説明書等無しで)
・入れ替わったイレモノ (全♯4〜5)
♯1>>96
・香佑にモテ期の魔法をかけてみた



【キャラ絵・挿絵】担当絵師様は王翔さんですっ!
ユキノ…>>113
結鶴…>>118
レミシア…>>120(NEW!)



【説明予告(説明その8っ)】by永瀬 理兎
コンビニとは、コンビニエンスストアの略で、最高の新天地とも書く。
この世界で唯一誇れるとしたら、コンビニだろう。世界各地にありとあらゆるコンビニが存在し、そのどれもが新商品をこれでどうだこれでどうだと張り合っている。その張り合い上に、新商品の素晴らしさが存分に発揮されているのも見物だ。
つまり、俺は何を言いたいかというと——コンビニを崇めろ、貴様ら。
……予告になってない? コンビニの説明をするだけでいいだろう。それで十分だ。コンビニ信者の話が盛り沢山な第8話だろうな。素晴らしい。(注:嘘です)



【お客様っ】
・と あさん
・Aerithさん
・夜兎_〆さん
・葵那さん
・結衣さん
・リアさん
・月読 愛さん
・風(元:秋空さん
・王翔さん

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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.74 )
日時: 2011/04/09 02:27
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 3Xsa0XVt)

クラスの出し物が決まった以上、それを成し遂げるための作業などに入らなければならない。
幸いなことに、一日目で決まったので作業する時間は存分にあるのでそんなに忙しくならなくて済むようだった。
どういう職業をやるか、などを言われた時には勇者、と思わず出てしまったのは、恐らくユキノが原因だろう。
俺の家には、現在美少女が仮居候だとしても4人いる。
それぞれにそれぞれ違うタイプで、ハーレム、とは言いがたい超人ばかりというのもある。
何にせよ、家主の俺が留守というのは大変危険でもあるのだ。——いつ俺の家が木っ端微塵と化するのか分からないからな。
それを止めるべくも、俺は早起きと早帰りを余儀なくされているというわけだ。

「香佑ーっ! どっか寄って行かないか!?」
「今日は無理だ。ていうかいつでも無理だ。一人で行って来い」
「寂しい奴だなーっ! 付き合い悪いぞ?」

槻児も俺にしかこれだけうざさを発揮できないんだから、槻児も槻児で寂しい奴だとは思うけどな。

「何かあるのか? 最近お前、どことなく不気味だぞ?」
「お前に言われたくはない。……別に、調子が悪いだけだ」

俺は早々に教室から抜け出そうとドアを開いた——が、見たことのある人物が目の前に立っていた。
その周りでは、生徒たちがざわざわとその人物を見て騒いでいる。

「な、何で……? ここにいるんだ?」

そこにいたのは——家で寝ているはずのあの幼女な天使だった。

「え、嶋野君知り合いなんだ……」
「マジかよ……どういう関係?」
「嶋野って、ロリコンだったのか……?」

ひそひそと、周りから声が聞こえる。
うぜぇ、こういう状況は特にそう思う。

「——迎えに来た」
「え?」

幼女な天使は、あろうことに迎えに来たなどと誤解を招くことほぼ間違いないような声で言う。
しかし、いつしかのあの天使の羽が消えている。あれは出したり無くしたり出来るのだろうか?

「おいおいおいっ! マジかっ!」

と、後ろでさらにうざい声。——槻児、うざすぎる。本当、消えて欲しいと心から今思ったわ。

「と、とりあえずだっ! うん! 外に行こうっ!」

俺はとにかくその場から離れたかったので、思わず幼女な天使の手を取り、走り出そうとした。

「あら? 嶋野?」
「って、宮中先生!?」

走り出そうとしたその前にいたのは、宮中先生だった。
いつもは保健室で何かコスプレスポーツみたいなことをやっているのだが、何故だか今日はよりによって来てる。

「何でここにっ!?」
「私が来たらダメなの? 何か騒々しい気配がしたから、面白そうだし、来てみたんだけど……あら? その子……」

面白そうだから来たって、いかにも宮中先生らしいとは思ったが——まずい。幼女な天使に気付いた!
じーっと、幼女な天使と宮中先生は見詰め合ってから数秒後。

「駆け落ちか……」
「違う違う違うっ!! 何でそうなった!!」

宮中先生のわざとらしい一言によって、さらにその場のヤジは強まる。
ただでさえ、今現在幼女な天使の手を握っているというのに、これ以上はここにいたくなどない。

「すみませんっ! 先生っ!」

と、俺と幼女な天使は宮中先生の横を押し切るようにして通り過ぎて行った。
その刹那、幼女な天使と宮中先生の目線が双方合っていたことなど知れず。

「ったく……しょうがないわねぇ……」

宮中先生は香佑たち二人の後を見つめた後、ふふっと笑い声をあげた。




「ここまで来れば大丈夫だろ……」

結構走ったことにより疲れが出るかと思いきや……そういえば俺、普通の人間じゃなかったな。通りで疲れがあまり出ないわけだ。
現在は学校を離れ、あまり人気もない場所へと辿りついた。幼女な天使の方を向いてみるが、あまり疲れた様子はない。見た目以上にタフなようだった。

「あれだ。とにかく……大丈夫か?」
「……?」

無表情で首を傾げる幼女な天使。その動作によって綺麗な金色の髪の毛がユラリと揺れる。

「体だよ。体。数日間、目を覚ましてなかったんだぞ?」
「数日間、も?」
「あぁ。数日間もだ」

俺は幼女な天使が喋ってくれたことで何故だか安堵のため息を吐き、近くにあった自動販売機に近づいていく。
なんだかこういう時、炭酸系が飲みたくなるが……なんで売り切れなんでしょうね。
仕方なく、俺はスポーツ飲料水を買おうと小銭を入れる前に、幼女な天使にも聞くことにする。

「何がいい?」
「……?」

だから、何で首を傾げるんだ。ここは首を傾げるとこじゃないぞ。

「飲み物だ。天使はもしかして、喉なんて乾かないか?」
「飲み、物?」
「あぁ。飲み物だ」

何で俺もいちいち復唱するのか全く意味不明だったが、相手が疑問系で来るのでそうしてしまうんだろう。
じーっと、自動販売機にあるジュースやらお茶やらコーヒーやらの種類を見た後、選んだのが——

「これがいい」

と、指を差した先にあったのは——お汁粉だった。

「随分和風なんだな」

俺は微笑を浮かべ、小銭を入れてスポーツ飲料水とお汁粉を買った後、お汁粉を幼女な天使に渡した。

「温かい……」
「そりゃ温かいさ。あついって、書いてあるし」
「冷たい、お汁粉はないの?」
「あー……あることにはあると思うけど、ここには売ってないみたいだな。それで、我慢できるか?」
「……?」

そして疑問系で首を傾げる幼女な天使っと。
これの繰り返しだな。きっと。

俺達はそのまま、飲み物を飲みながらしばらく歩くことにする。丁度聞きたかったこともたくさんあったからだ。

「美味いか? それ」
「……普通」

普通ときたか。俺はお汁粉はあまり飲まない奴なので味など分かりたくもないが。
ちびちびと飲んでいる姿は、女の子だなって思う。

「まずさ、聞きたかったことなんだけど。何で俺を迎えに来たんだ?」
「……?」

またか。また首を傾げるのか。このパターン、何回味わえば気が済むのだろう。

「あのな——?」
「寂しかったから」

え、分かってるじゃないすか。とかいう言葉は押し退いて、幼女な天使の言葉が胸に刺さった。

「あのリボン少女のー……ほら、お前の護衛の燐とか家に居るだろ?」
「寝ていた。私のために起こすのは嫌」

なるほど……。とか思った俺はまだまだだな。気の利いた言葉の一つも交わせないとは。

「何で、俺を?」

数日前に知り合ったばかりだ。やったことといったら、マシュマロを多量に食べさせたのと、家に数日居させてあげたのと、お汁粉を買ったのと。それぐらいしかないように思えるんだが。

「貴方は、英雄だから」

いきなり立ち止まった幼女な天使が言った。それに俺もつられて立ち止まる。

「英雄って言っても、そんなこと言われるような覚えなんてない。ただ、取扱説明書とやらを渡されたからの話だ」

俺がそう言っても、幼女な天使は無表情で目の前の虚空を見つめていた。
一体、この少女は何を考えているのだろう? 俺はそんなことを不意に思った。

「それでも、英雄。目の前で、倒れている人がいても、助けない。これも、英雄?」

いきなりの質問だった。
俺は多少なりとも戸惑ったが、何とか返事を返すことにした。

「それは、英雄じゃない。英雄っていうのは、成し遂げた人にだけ与えるような称号だ。俺も、英雄じゃないさ。ただの名ばかりだ」

俺の言葉から、数秒後。再び、幼女な天使は口を開いた。

「英雄は、必要とされている人につく称号。貴方は、必要とされてる。でも——私は、そうじゃない」

その言葉を聞いて、俺は何故だか心はとてつもなく痛んだ気がした。

「名前も、ない。家族も、いない。生きる、理由もない。私は、どうすれば英雄になれる?」

俺は——何も言えなかった。
家族は、確かに俺は何もないに等しかった家庭状況で、俺も寂しかった。だけど、学校という場所があったりしたから、俺は腐らずに済んだ。
——でも、この子はどうだろう? 本当に、何も無い。生きる、理由さえもないという。

「なら、見つけよう」

俺は、いつになくハッキリと言った。何もいえないままじゃ、いけないと思った。
考えた、けどバカな俺には一つの方法ぐらいしかない。

「天使に——楽しいっていう感情を教えてやる。その無表情を、笑顔にさせてみせる」
「笑顔……?」
「あぁ、そうだ。笑顔だ」

俺はグーサインを出して、出来る限りの笑顔を見せた。
寂しいなんて、いわせるかよ。何があったのかは知らない。お人よしだなんて、思われるかもしれない。
でも、俺は同じ思いをしている人を、喜ばせたい。
この世界は、こんなに楽しいものなんだと。それは、俺にもまだまだ分からない。分からないことの方が、多い。
でも、こんな小さい身体でこの少女は苦しんできた。そう思うと、胸が途端に熱くなった。

「さ、行こうぜ!」
「どこに?」
「もちろん——女の子といえば、商店街とかじゃね?」

ま、女の子の喜ぶものなんて、モテ期到来などが全く来る予定のない俺にとっては無縁だったわけで。
とにかく商店街とか行くと面白いかも、とか安易な考えの元に、とにかく手を引いて歩き出した。
お汁粉によって、ほんのりと温かくなった手。まだ春なのに、どこか冷たい手。
その手が、心と繋がっていると思うと、俺はその手を離したくないと次第に思っていった。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.75 )
日時: 2011/04/09 14:23
名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: hQNiL0LO)
参照: 〝滅びは救いじゃない。コクーンは死なない。皆で誓ったんだ—守るとな!〟

香佑おまえロリコン男子!
お母さん・・・悲しいわ!(何ごっこよそれw
幼女の天使仕草かわいいなぁっ!(この変態がぁ! ちゅどーん!!!(起爆ww)

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.76 )
日時: 2011/04/09 17:38
名前: 風(元;秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: sCAj955N)

槻児が物語に深く関わるようになったら面白そうだなぁと……以前思った事が有ります。
いや,うざくなって展開が遅くなるのだろうか(汗

宮中先生,嶋野が駆落ちしました……ちょっくら殺しに行って良いですか?

先生「許す」
と言う生徒Aと先生の会話が瞬時に思い浮びました……幼女と駆落ちする不届きなど死んでしまえ!(幼女言うな…
冗談です……真に鬱陶しくてすみません(汗

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.77 )
日時: 2011/04/09 23:01
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 3Xsa0XVt)

>>Aerithさん
香佑はどちらかというとロリコン派ですね……。
でも、なかなか守備範囲が広いので大丈夫かと思いますよw
香佑のお母さん……実は後に出てきたり。
幼女の天使の仕草は僕もお気に入りです。すごく可愛いですよねー無言で首を傾げるという動作。それも疑問系ですっ。
改めてコメント、ありがとうございましたっ;


>>風(元;秋空さん
槻児はー……本当に微妙にですが、関わってきたりします。深く、までは少し危険ですが。
うざくなる、というよりそのうざさが武器になるやもしれませんっ。
宮中先生、どんな冗談も笑顔で返しますよ……。確かになりえませんね。
結構すごい人なんですけど……これもまだ、物語が進んでからの公開となりますねっ。
駆落ち……香佑ならしかねませんw
改めてコメント、ありがとうございましたっ;

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.78 )
日時: 2011/04/15 00:21
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 3Xsa0XVt)

とある御伽話のような世界。白い雲が一面を覆い、また白い霧のようなものが辺り一面に漂っている。
その霧が晴れてきて見えるその世界は——天使の住む世界、すなわち天界と称される世界である。

「ご報告申し上げます」

香佑たちとの戦いから退いた魔堰の光点は天界へ戻り次第、すぐさまあの"呪われた天使"の力が元に戻ったむねを伝えた。

「ほう……面白い」

と、目の前で真っ白の大きな翼をはためかせる美少年が呟く。声は透き通っており、この澄んだ世界にはピッタリの声だった。
玉座のようなところに座っており、そこから腰を上げると口を再び開いた。

「英雄、が関係していると申したな?」
「はい。英雄の取扱説明書の使い手かと思われます」

魔堰の光点は膝を白い雲のような床につき、頭を下げながらつらづらと説明していく。
そのたびに相槌として美少年からは「ふむ」という声が漏れる。

「歴代の王は消滅なされた。今、この天界の歴史が変わった世界を再び変えようとでも思っているのか……」

美少年はククク、と笑い声をあげながら再び玉座へと座り込んだ。

「よし……魔堰の光点。お前にこの件は任せるとしよう。いずれも……結果は見えている」
「は……かしこまりました」

魔堰の光点は全ての説明を終えるとなると、すぐさまその場を去った。
沈黙の後、美少年は後ろの方から誰かを呼び出す。

「お呼びでしょうか?」
「あぁ。魔堰の光点は、必ず失敗するだろう。その時にはお前が後始末をつけろ」

美少年の口から出た言葉の羅列は、どれも信じがたいものだった。
魔堰の光点が負けると予想しながらも送り出したのだ。

「一体何の意味があるのです?」

尋ねられた美少年は「意味?」と、呟いた後に笑みを浮かべながら続けて言葉を連ねた。

「意味など……決まっているではないか。いずれもこずれも、天界のこれまでの数え切れないほどの歴史が塗り替えられた。ただ、それを伝えるだけのことだ」

その伝える意味というものが何かが答え切れていないような気がしたが、美少年はこれで十分だと言いたげに玉座へと肘をついた。




「ん……」

ゆっくりと瞼を開ける。視界が未だにボンヤリとしていたが、目を擦りながら何とか起き上がる。
場所は、あのヘッポコ英雄の家。だが、何が目的かはわからんが、助けてくれた。
目覚めたばかりでボンヤリとしている脳内ではあったが、そのことを思い出すとバカだとしか思われない。
自分は目の前で寝ている姫様をお守りすることが役目。そのためだけに、ここにいる。

「姫様……」

と、燐は姫様の寝顔を見ようと腰をあげて顔を覗き込んだ時——様子の異変に気付いた。

「姫……様……? ——姫様が、いない……!?」

燐にとって、それは何回目の失敗であろうか。
護衛を任されてから何度の年月が流れたか分からないが、こうして姫様を見失うことは日常茶飯事なのであった。
燐は急いで後ろ腰に刀を出現させた後、大きなリボンを髪にくぐりつけ、部屋から飛び出していった。




その頃、結鶴は甘いお菓子を買いに外へと出かけていた。
家で鍛錬するのもいいが、いつどこで"あの時のような殺気"が湧き出てくるのか、想像がつかない。
不意に、いきなりだった。あの殺気の起こり様は異常ともいえた。
確かに、仇だ。だが、どこか違うような気もする。

「変な感じだ……」

結鶴はスーパーの外から出て、ため息を吐いた後に呟いた。
今日はいい天気だ。さんさんとした日の光がもうそろそろ夏を迎えるという予兆を示しているかのようだ。
実際のところは、梅雨でジメジメしているだけなのだろうが、夏というのはどこかワクワクするものがあった。
それは、皆が平等に、平和に暮らしていたひと時の——夢。
夢、それは誰もが思う物で、叶えたいと願うもの。
その一方で、夢は幻のような意味さえも持つ。夢のように儚く散る、何て言葉があるぐらいに。
あの幸せだと感じた夢は、自分だけが見たものなのだろうか? 不思議と、結鶴はそんなことを考えていた。

「えいっ! えいっ!」

そんな時、近場から可愛らしい声が聞こえてきた。
ふと、結鶴がその声のする方向へと向いてみると——そこにいたのは、何度も鉄棒で逆上がりに挑戦するヘアピンのよく似合う女の子の姿。
このスーパーの近くに公園があったことなど気付かなかった結鶴は、その奇妙な女の子の行動に目を見やる。

(一体、何をしているのだろう……?)

逆上がり、なんてものなど結鶴とは全くの無縁も無縁だった。そもそも、鉄棒というものがこの世界にあるということも知らない。
考えられるとすれば——剣の修行に使う、受ける側のための棒か?
なんてことを考えながら、自然と結鶴はその不思議な女の子に近づいていく。

「えいっ! えいっ! ……ど、どうしよう……逆上がりが出来ないと、明日の体育で皆にまたわ、笑われるかもしれない……」

オドオドしながら棒を握り締めているその女の子の姿に結鶴はため息を吐き、更に近づいていった。

「おい」
「はぁ……ど、どうしよう〜……」

目の前で声をかけたというのに、全く気付きもしない。どれだけ鈍感なのだろうか。
咳払いをした後、もう一度声をかけようとしたその時——

「ゴホン! ……お——」
「わ、わぁあっ!! な、何ですかっ! ゴホンって!」

——え、そこ?
いくら結鶴でも、少し顔を歪ませて吹き出しそうになった。何とか堪えて、結鶴は何をしているのか聞くことにした。

「一体、何をしていたんだ?」
「え、あ、え?」

何がなんだか分からない、といったように慌てふためる彼女の姿に結鶴はとうとう吹き出してしまった。

「お、おかしくてすみません! え、何か悪かったですか?」
「ふふ、いや……とにかく落ち着け」
「お、落ち着いてなかった、ですかっ!?」

いちいち声が裏返り、慌てる姿に同じ同性でも可愛いと思った。元からして可愛いとは思うのだが。

「それで……これは何だ?」

と、結鶴が鉄棒を指差す。
その後、彼女から鉄棒というのはとにかく体を回すものだということを教わる結鶴。実にアバウトだとは思うが、十分な情報量だったようだ。

「ふむ。やってみよう」
「け、結構難しいですよ? 慣れないとなかなか——」

彼女が忠告を言葉にして伝えようとしていた最中、結鶴が鉄棒を両手で掴み、勢いよく地面を蹴る。

「はぁっ!!」

かけ声と共に回転を行う——回数が半端ではなかった。
どんだけ回れば気が済むんですか、と言いたいほど回り続けた後、ようやく解放されて地面に足をつかせた。

「力を入れすぎたようだ……目が回る」

結鶴は頭を抱え、鉄棒にもたれるように体勢を崩した。

「す、凄いですっ! 前回りとはいえ、どれだけ回るんですかっていうぐらい回ってました!」

横にいる彼女が拍手と共に結鶴を褒め称えるが、結鶴は本気で気分が悪くなっていた。数十回は回ったからというのが正当な理由だとは思うが。

「逆上がりというのは、これの逆の作法か?」
「さ、作法? あ、え、は、はい。とにかく、今さっきの、逆のバージョンです!」

バージョン、という言葉はいわゆる作法と同じようなものなのだろうと自己解釈した結鶴は鉄棒を握り締め、先ほどの半分の反動をつけて逆上がりをする。
綺麗に一回転した後も勢いはまだあったが、足を地面に擦れ合わせて威力を弱めてなんとか一回転で収めた。

「なかなか力加減が難しいな……」
「す、凄い力ですね……!」

彼女は驚いたようにして言うが、足腰の訓練を欠かさない結鶴にとっては何らたいしたことはない。
不思議とこの彼女の頑張る姿を応援してあげたくなった結鶴は、ふと質問をした。

「おぬし、名前は?」
「わ、私、ですか?」

彼女は驚いたような口調で言うが、すぐに笑顔となって質問に答えた。

「わ、私は佐藤っていいます! 宜しくお願いします! 先生!」

先生、といわれた結鶴は素直に微笑むことにした。


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