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英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜更新再開しますっ
日時: 2011/11/05 00:02
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode=view&no=5276

クリックいただきましたっ!初めての方も、そうでない方もどうもです。
多分、初めての方が多いんじゃないかと思います。いや、もうほとんどだと思いますがw
下手な文章で読み辛いことも多くあると思いますが、お付き合いくださいませ;


【この物語を読むにおいての取り扱い説明書】
・作者は大変亀更新得意です。元からワードで作ってたりしたものですがどうなるか分かりません。
・思いっきりラブコメで、バトルバトルバトル、といった感じです。ギャグとかも混じります。
何故シリアス・ダークに投稿したのかというと、グロ描写注意だからですw
グロ描写が苦手という方はお控え願えますよう、お願いいたします。
・読むな、危険。と、言いたいほど様々な面において危険です。それでも読んでくださる方は心して読んでください。




【目次】
この駄作にソングをつけるとしたら…>>121
プロローグ——になるのかこれ?…>>2
説明その1っ:勇者は美少女である
♯1>>4 ♯2>>7 ♯3>>8 ♯4>>13 ♯5>>14
説明その2っ:とりあえず責任者でてこい
♯1>>19 ♯2>>22 ♯3>>24 ♯4>>25 ♯5>>27
説明その3っ:拙者に斬れぬものなどございませんが?
♯1>>28 ♯2>>29 ♯3>>30 ♯4>>31 ♯5>>37
説明その4っ:え、これ、マシュマロですか?
♯1>>39 ♯2>>44 ♯3>>47 ♯4>>53 ♯5>>58
説明その5っ:——嬉しい。ありがとう
♯1>>62 ♯2>>71 ♯3>>74 ♯4>>78 ♯5>>79
説明その6っ:貴方、どこの佐藤さんですか?
♯1>>84 ♯2>>85 ♯3>>86 ♯4>>92 ♯5>>93
説明その7っ:私の王子様にしてあげるっ!
♯1>>94 ♯2>>99 ♯3>>112 ♯4>>117 ♯5>>119
説明その8っ:コンビニはこの世界、最高の癒しだろうが




【番外編】
槻児、どうしてお前はそんなにスケベなんだ
>>69
みんなで花見に行きましょう(全♯4〜5)
♯1>>95
・ツイスターだよ、全員集合!
・殺し屋佐藤さんにリアル鬼ごっこ演出させてみた(魔法・取り扱い説明書等無しで)
・入れ替わったイレモノ (全♯4〜5)
♯1>>96
・香佑にモテ期の魔法をかけてみた



【キャラ絵・挿絵】担当絵師様は王翔さんですっ!
ユキノ…>>113
結鶴…>>118
レミシア…>>120(NEW!)



【説明予告(説明その8っ)】by永瀬 理兎
コンビニとは、コンビニエンスストアの略で、最高の新天地とも書く。
この世界で唯一誇れるとしたら、コンビニだろう。世界各地にありとあらゆるコンビニが存在し、そのどれもが新商品をこれでどうだこれでどうだと張り合っている。その張り合い上に、新商品の素晴らしさが存分に発揮されているのも見物だ。
つまり、俺は何を言いたいかというと——コンビニを崇めろ、貴様ら。
……予告になってない? コンビニの説明をするだけでいいだろう。それで十分だ。コンビニ信者の話が盛り沢山な第8話だろうな。素晴らしい。(注:嘘です)



【お客様っ】
・と あさん
・Aerithさん
・夜兎_〆さん
・葵那さん
・結衣さん
・リアさん
・月読 愛さん
・風(元:秋空さん
・王翔さん

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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜連続更新中っ ( No.24 )
日時: 2011/03/20 17:55
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

特に何も教師から咎められることもなく、俺は教室へと舞い戻った。
そしてまたいつもの授業を受け、面倒臭い大掃除を適当に終わらせる。そんな怠惰なことなど過ぎ去り、昼飯を終え、放課後へとあっという間にもつれ込んだ。

「さて……帰るか」

出来るだけ早く帰るということを家にいてくれているだろうアホ娘のために余儀なくされた。
バッグを持ち、早々に教室から出て行こうとする。

「うぉーいっ! 待て待て香佑君やっ!」
「そのウザいノリ、やめてもらえませんかね? 地球の排出物君」
「はははっ! 相変わらずいいノリしてんねっ!」

——冗談でもノリでもなく、本気の憎たらしさを込めて言ったんだけどな。そこらへん、勘違いしないで欲しい。

「なぁなぁっ! 俺と一緒に盗撮しないかっ!?」
「大声で言うことじゃねぇだろっ! それにお前、犯罪だかんな?」

俺は一蹴して教室を出ようと扉に向かう。だが後ろからウザいことに槻児は俺の肩を掴んでくる。

「まあ冗談だって! 本当はな、部活動のヘルプに来ないかと誘おうとしたんだ」
「行かねぇよ。一人で行きやがれ」
「そんな冷たいこと言うなって!」

あぁ、マジでウザい。早く帰りたいのになんだこいつ。
俺はいい加減ぶち切れて肩においてあるこいつの薄汚い手を払おうとしていた、その時

「横渚ぁっ!」
「ひ、ひぃっ!!」

教師の怒鳴り声が槻児の後ろから聞こえた。

「盗撮の件、終わってねぇぞゴルァッ!」

あ、バレてたんだ。盗撮。

「た、助けてくれぇぇぇぇっ!!」

槻児のアホは体のゴツい教師に首根っこを掴まれて引きずられていった。槻児——ざまぁみろ。
ようやく邪魔な奴が消えてくれたので俺は急いで家へと帰るために教室のドア——が開いた。

「あ、い、いましたっ!」

この可愛らしい声はいつぞやの佐藤 友里の声だった。

「あ、あぁ……? いちゃ悪いか?」
「そ、そんなっ! 全然悪くないですっ! えっと、逆に、その……いてくれて、嬉しいというか……」

指をモジモジしながら俺のことを上目遣いで見る。——うわぁ、可愛すぎるだろ。やべぇ、この小動物やべぇ。

「えぇっと……何が言いたい?」
「あっ! えっと、あのっ! ——裏庭へ、来てもらえませんか?」

裏庭。そう聞いて俺の体は硬直しざるを得ない。
何故かというと、裏庭とは人気が全然無く、さらには周りが建物に隠れて薄暗いし、見つかったりすることもあまり無いスポット。
つまりこれが意味するということは、人の目をはばかるようなことや、告白スポットなんかとして有名なのであった。
そんなしょうもないことだけ聞いている俺もどうかとは思うが——いやしかし、まさか佐藤が。それも今日会ったばかりじゃないか。

「別に、構わないけど——」
「な、ならすぐ行きましょうっ!」

佐藤は俺の手を取り、走ろうとする。

「あ——」

そして瞬時に手を離し、顔を赤らめる。——いちいち行動が可愛すぎるだろ。
今時こんな高校生がいてもいいものかと俺は思うがモジモジしっぱなしの佐藤を促して裏庭へと向かうことにした。



蹴っても殴っても何も反応しないダンボールの箱。
もしかしたら爆弾なんじゃないか? とか思ったりもしたが、その割には結構軽い。
しかし宛先人が書いておらず、何者が送ってきたのか分からない不気味な箱といえた。
そんな箱をリビングの一角に置いて見つめるユキノ。

「いっそのこと、ぶった斬ってやろうかな……」

ジーっと箱を睨みながらそんなことを呟く。
だが、そうしているのも時間の無駄といえることに数十分経ったところで気がついたのだった。

「よ、よしっ!」

開けて見よう。そう決心した瞬間だった。
ゆっくりとダンボールの箱を開ける。ゆっくりと、ゆっくりと。
そして、中を開き、その目で見たものとは——

「な、何これっ!?」

ユキノは急いで家を飛び出し、反応のする場所へと向かった。
反応する場所。それは英雄の取扱説明書に危険が迫っていること。またを香佑の身に危険が迫っていることを暗示していた。



裏庭についた香佑と佐藤は対峙する。
佐藤は未だ顔を赤くし、手をモジモジさせたり、右足を左足に擦らせたりと、照れているような雰囲気を醸し出している。
いやぁ、このシチュエーションってば、ドラマとか何かで見たことありますよ。

「あのさ。えーと……何か用?」
「えっ! あ……はい」

俺も正直こんなことは初めての体験なので、どういう風に対処すればいいのか分からなかった。
佐藤は驚いたような顔をしつつ、赤面をしながらまた照れたりと表情をせわしなく変えていたりする。
早く帰らないと、あのアホ娘が一体何をしてるか全く分からない。——もしかしたら家が木っ端微塵と化してるのかもしれない。
そんな不安もあるが、こんなシチュエーションを逃すわけにもいかないわけで……というより、佐藤の気持ちもあるだろう。うん。

「あ、あの……私……」

そして、佐藤がようやく口を開いた。この緊迫した感じ、どれも初めての経験だ。
新鮮さもあるが、照れの方が大きい。というより、これはもう告白しか——


「私、ヒットマンなんです」


「……はい?」

思わず聞き返してしまった。いや、この子何を言ってるのだろうとか思った。

「あの……ですから、殺し屋なんです。ヒットマン。殺し屋……」
「いや、それは分かるけど……」

うーん新鮮。新鮮すぎて涙出そうだ。勿論の如く、このシチュエーションでこんなことを言われたのも初めてだ。
いや、多分この全世界の中で俺だけなのかもしれないな。こんなシチュエーションで殺し屋です。だなんて告白されるとは。

「で、ですから——僕は、貴方を殺さなければならないんです」
「へ、へぇ……え?」

何故そうなる。何故こうなった。どうして俺はこの子と出会ってしまったんでしょうね。
クソッ! セコすぎるって! こんな可愛いドジっ子キャラが殺し屋とかっ! 気付くはずねぇだろっ!

「いや、何で俺を殺さないといけないんだよっ!」

とりあえず指摘してみた。ていうか凶器らしきものなど、一切見当たらない。落ち着いて話をすれば何かなるかもしれない。
変なものでもただ単に食べただけなのかもしれない。そのせいでちょっと頭がおかしくなっていると考える方がまだ普通だろう?

「だって……貴方は、英雄ですから」
「え、英雄?」
「は、はい……現に、貴方はそのば、バッグの中に英雄の取扱説明書があるはずですし、英雄の魔力をか、感じますから……」

緊張しすぎだろう。とかまともに返せばそう言えるのだが、今の俺はとてもまともではなかった。
何故、俺がこの取扱説明書を持ってることを知ってる? 英雄の魔力? 何なんだそれは。

「貴方をこ、殺して、英雄の取扱説明書を奪うようにと依頼されていますので……す、すみませんが——死んで、くださいっ!」

そう告げた瞬間、佐藤の手にはいつからか銃が二丁握られていた。——どこから取り出したんだっ!

「うおぉぉっ!!」

バンバンと連続して撃ってきそうな予感がしたので、俺は咄嗟に物陰に隠れる。それとワンテンポ遅く、後から銃声が聞こえた。

「あ! だ、ダメですっ! に、逃げたら……」

殺されるってのに逃げないわけがないだろ。ていうか、マジの殺し屋かよ。
人気の無いところにおびき出したのはこのためか。——まぎわらしいシチュエーションを作りやがって。
まだここは薄暗い場所でよかった。何とか見つかるのに時間もかかる。

「英雄の取扱説明書を渡すだけだったらダメなのかよっ!?」
「だ、ダメですっ! 持ち主を殺さないと、その人しか取扱説明書は扱えないので……そ、そこですねっ!」

俺の声のおかげで位置が読めたのか、何発か銃声が鳴り響く。俺はその時には既に転がるようにして別の障害物に隠れていた。
とはいっても、なす術がない。何も出来ないのだから。
先生は戦えと言ってたけど——戦う武器がないなら、それ以前の問題だろう。

(クソ……っ! 何でこんなことに巻き込まれないといけないんだよっ!)

全部全部、この取扱説明書のせいだと思った。拒否権なしで勝手に持ち主を決めるなよ。俺は、平凡がよかった。
こんなマジの殺し屋に殺されるようなシチュエーション、望んでなんかいない。

「見つけ、ましたっ!」
「ッ!!」

いつの間にか隣には、銃を持った佐藤の姿があった。華奢な体は変わらず、目には涙で潤んだ痕が見えた。
こんなか弱い女の子が殺し屋かよ。世も末だな。

「すみません……貴方が、英雄じゃなかったら……っ!」

俺が、英雄でなかったら。もっと良い関係になってたってことか? 何だよ。俺は英雄なんかじゃないぞ?
わけのわからないことに巻き込まれて俺は、死ぬのか?
佐藤はゆっくりと——引き金を引いた。
乾いた銃声が、裏庭に鳴り響いたのだった。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜連続更新中っ ( No.25 )
日時: 2011/03/06 00:06
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

「うわああああっ!! ……あ?」

撃たれて、俺は多量出血により死ぬもんだと思っていた。
銃声が耳を貫いた時はもうダメだと思った。——だが、俺の体は銃弾によって貫かれちゃいなかった。

「こ、これは……っ!!」

佐藤が驚きの声をあげる。
その驚きが何を意味するものかなど、すぐに分かった。
それは——俺の右腕から荒々しく迸っている電撃のようなもののせいだった。
オーラ、というにはなんとも刺々しい感覚を持つその電撃のようなものをまとわりつけた右腕が——俺を守るようにして盾となっていた。

「な、なんだこれっ!?」

俺自身も無論、何がどうなってるのかさっぱりわからない。誰か説明できる人がいれば欲しいと思うほどに。
この電撃が何をどうやって銃弾を止めた、というより消滅させたのかも分からない。
何せ分かることは自分は生きているということぐらいだった。

「あ、エルデンテじゃないですかっ!」
「エルデンテ……?」

佐藤は驚きの声をあげてこの電撃の名前らしきものを告げた。——ていうかこれの正体知ってるんだな。さすが殺し屋。
パスタを茹でる……そう、アルデンテみたいな名前を持つこの電撃は佐藤の顔からしてただの電撃でないことは確かだった。

「あ、貴方は……英雄の取扱説明書を既に使えるのですか……っ!?」
「いや、聞かれても困るんだけど……」
「そ、そうですねっ! す、すみませんっ!」

謝られても。律儀な殺し屋だな。
だがしかし、佐藤はもう一度銃を構える。

「データでは使いこなせていないと聞いてますっ! 今度こそ、ちゃんと——」
「——待てぇぇぇぇっ!!」

凄まじい叫び声と共に隕石の如く降って来たのは——家で待っているはずのアホ娘、勇者ことユキノだった。

「何で、お前——!」
「何でもクソもあるかよっ!」

ユキノは真剣な怒鳴り声で俺の方を振り向かず、佐藤を睨みながら言う。

「お前っ! ——なんでポン酢が既に二つあんのにまたポン酢買ってんだよっ!!」
「……え?」
「ふざけんなっ! 勿体無いだろっ!」
「いや……家にあるポン酢二つとも、もう腐ってたりするから。変色してただろ?」
「な……! ちゃんと捨てとけよっ! このパーフェクトダメ男めがっ!」

パーフェクトダメ男って、どっちだよ。パーフェクトなのかダメなのか、それともダメ度がパーフェクトなのか……。
いや、それよりもだな。——俺を助けに来たわけじゃないんかいっ!! ポン酢で来たんかいっ!!
奮発して有名ポン酢を通販で買ったりしたことでここに来たなんて洒落になりませんがな。

「あ、貴方は確か……勇者、ですよね?」
「その通りだっ!」

無い胸を張って威張るユキノ。それに何故か動揺している佐藤。
とにかく、助かったのだろうか?

「ていうかお前っ! 何でエルデンテ出せてんだよっ!」

と、ユキノからもツッコまれた。

「佐藤が銃をぶっ放して、気付いたら何か出てたんだ」
「何だそのドッキリ感はっ! 僕は騙されないぞっ!」

何の話だ。

「エルデンテって一体何なんだ?」
「あ、エルデンテっていうのはですね……」

って佐藤が答えるのかよ。お前は敵じゃないのか?

「英雄の稲妻と呼ばれるもので、魔力を破壊する魔力のことを言いますっ。英雄にしか扱えないそれはそれはすごい魔力なんですっ!」

聞くところによると、なかなかしてすごいらしい。この右腕から放たれてる電撃のようなものは。
ていうか、英雄にしか扱えないって——俺もう英雄確定か? 勘弁してくれよ。

「わ、私の銃弾は魔力によって作られてるので……破壊されたんです」

それで先ほどの銃弾を防げたわけな。なるほど。そこらへんは大いに感謝するとも。

「さて……殺し屋、だったっけ? 取扱説明書、持ってるよな?」
「う……」

図星かよ。というかやっぱり佐藤も取扱説明書持ちだったんだな。

「なら話は早いなっ! ——逆に奪わせてもらうっ!」

ユキノは足に力を入れ、前へと押し出すと一気に佐藤の目の前へとたどり着く。手にはいつの間にか例の剣が。

「ッ!!」

連続して銃弾を放つ佐藤だが、目の前まで接近していたユキノはいつの間にか腰を低くして銃弾の真下におり——そのまま袈裟斬りを佐藤に向けて放ったが、佐藤は銃を真下に思い切りよく引き下ろす。

「なっ!」

銃はそのままユキノが振るった剣とぶつかり合い、また両方を弾いた。——すげぇ高レベルすぎて何が何だか分からない。
そのまま休みなく、ユキノは再び佐藤に目掛けて飛び掛っていく。顔は慌てた様子だが、冷静に佐藤は二丁の銃を的確にユキノへと撃っていく。銃弾を剣で弾いたり、身を翻して地面に転がって避けたりと、随分と忙しくユキノは向かっていきながらも確実に距離を縮めていた。

「こ、こうなったら……!」

すると、どこから取り出したのか佐藤は先ほどの二丁の銃とは比べ物にならないほどの大きな身をもつ銃を取り出して構えた。

「——解き放たれし、わが身の魔力に従えたまへ。来迎の如く、また敵を貫かん」

目を瞑り、なにやら詠唱し始める佐藤。なにやらオーラみたいなものが佐藤の体を巻きついていく。

「スパイラル・スタ〜っ!!」

かっけぇ名前を持つ技名を叫び、佐藤の持っている銃から——無数の光線が放たれた。
それは角度を変え、空へ四散する。空上には星の如く散っている青白い光の"弾"。
それは急激にスピードをつけてユキノに目掛けて落ちてくる。——ちょ、反則だろうがよ。こんなもん。

「ユキノッ!!」

俺は咄嗟に声を荒げてユキノの名前を呼んでしまっていた。——助けに来てもらって死なれた困るだなんて思ってしまっていた。
止まることを知らない無数の光の弾は次々とユキノへと降りかかり、地面の砂を削ったのか砂埃がユキノを包んだ。
衝撃音が鳴り止んだと同時に砂埃も段々と無くなっていく。ユキノはその中にいた。ちゃんと五体満足らしい。
なにやら結界のようなものに包まれており、それによって守られたのだろうと思う。

「危なかった……もう少しで本当、ヤバかったー……」
「ん? 何か言ったか? ユキノ?」
「な、何もねぇよっ! このクソゴミ野郎っ! 生ゴミ以下が気安く名前で呼ぶんじゃねぇっ! バーカッ!」

何でそこまで言われなきゃならん。何か言ったように聞こえたから聞いただけだってのに。
やれやれと肩を竦める俺だったが、そんな自分自身を心の中で情けないと思ってしまっていた。
ユキノは確かに強い。でも、これは元々俺が招いたことなのであって、助けての一言も言っていないのにユキノは当たり前かの如く俺を助けてくれる。
武器がないなら戦っても意味ないじゃないかと俺は思ったが、それは何か違うような気がした。
現にエルデンテとかいう能力が発動しなければ死んでいたが、ユキノがこなかったら例えこの能力があったとしても俺は死んでいたんじゃないかと思う。
戦わずして、抵抗せずに俺は死んでいたということになる。そんな事実がただ情けなかった。

「い、いつの間に結界を……」

佐藤は驚いたような顔と目を潤ませながら後ずさる。
そして、涙を拭きながら佐藤は言い放った。

「こ、今回は許してあげますっ! つ、次は見逃しませんからねっ! ……えーんっ!」

最後まで可愛い奴だなと思いながら涙を零し、逃げていく佐藤の姿を見送った。

「あ! 待てっ!」

ユキノはその後を追いかけようとしたが二、三歩歩いたところでそれは無駄なことだと思い、追いかけるのをやめた。

「あーその……なんだ。助けてくれて、ありがとうな?」

とりあえず礼を言わないと。そう思ったから言った。
前の方からため息らしき声が聞こえ、ゆっくりとこちらに歩む音が聞こえ——ゴツッ! と、鈍い音が俺の頭を響かせる。

「何で殴るんだよっ!?」
「うっさいっ! バーカッ! 取扱説明書預かってる立場だけのクセに威張るんじゃねぇよっ!」
「威張ってねぇだろうがっ! 普通に礼を言っただけだっ!」

俺は頭を抑えながら嘆息するハメとなった。何故殴ったのかは分からない。ただ表情と音で分かったことがあった。

「グ〜〜」
「……腹の、音?」
「は、腹減ったんだよっ! 悪いかっ!」

——この小娘は一発殴らないと分からないのかなぁ? 
最近シチュエーションを破壊されること多くない? 何かの嫌がらせ?
俺はもう一度ため息を吐く。だがその顔は少し笑ってしまっていた。

「帰るか……」
「うるせっ! お前に言われなくても分かってるわっ!」
「あの、俺の家なんですけど?」

居候の身で偉そうなことを言うユキノだったが、少し笑顔になっていることに俺は気付いた。
こいつの笑顔、かなり可愛いじゃないか。そんなことも気付いたりした。

とりあえず、帰って話すことがある。
——俺の右腕に現れたエルデンテっていう稲妻のことと、英雄の取扱説明書とやらのことについて具体的に聞こう。

でないと、俺の日常は当分戻ってこないらしいからな。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照200突破っ ( No.26 )
日時: 2011/03/06 00:10
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

えーと、皆様っ。参照が200を突破いたしましたっ!驚きと感謝でいっぱいですっ!
このような駄作を読んでくださるとは、感謝感激の極みですっ。
そんなことで……参照200突破ということで、何か行いたいと思いますが……

現在のところ、『登場人物相性アンケート』というのと、番外編を作ろうと考えておりますっ!
次項より記したいと思いますのでなにとぞ宜しくお願いします。
そして、今後とも英雄の取り扱い説明書を宜しくお願いしますっ!

感謝の参照200突破を祝して。作者より。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照200突破っ ( No.27 )
日時: 2011/03/07 23:20
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

帰宅後、俺達は睨み合っていた。何度こんな場面をこの目の前にいる小娘と体験したことだろうか?

「また質問かよっ!」
「仕方ないだろうがっ! わけのわからないことだらけすぎるんだよっ!」
「受け入れろ。それがお前の人生だ」
「お前は俺の何を知ってるんだよっ!!」

——とまあ、テーブルを挟んで一対一の状態でこんな討論を繰り広げて約30分。一向に話し合いは進んでいない。

「とりあえず飯作れよっ!」
「まず最初に俺の脳内の騒ぎを満たしてくれないか?」
「お前……! このド変態がっ! なんて外道な想像してやがるっ!」
「違うわっ! バカ! 何で今日こんなに変態って言われなきゃならないんだよっ!」

まあ、とにかくだ。俺は料理の準備をしながらユキノに質問をすることにした。俺の目的とやらの意図がつかめるまで、な。
エプロンをつけながら俺はとりあえず質問その1を投げかけてみることにした。

「なぁ、アルデンテって何で発動されたんだ?」
「アルデンテじゃなくてエルデンテだっつーのっ! そこらへん、間違えるなよっ!」

名前似すぎなんだから仕方ないだろう。
お鍋を取り出し、俺は支度に取り掛かる。しばし無言の状態が続き、ユキノは——テレビの電源をつけてバラエティー番組を見ながら爆笑していた。
お前はこの家の主か。主たる振る舞い、やめてくれ。何で主であるはずの俺が料理せにゃならんのだ。

「あははははっ!! サルじゃなくて、ダースベーダーだろっ!」
「どんなバラエティ番組だよっ!!」

あまりの意外性抜群なユキノの言動に思わずツッコんでしまったじゃないか。
サルとダースベーダーに何の違いが? ていうかサルじゃなくてダースベーダーだと思うネタって凄すぎるだろ。
是非見てみたいとは思ったが、料理の支度の方を優先することにした。
集中しなければ美味い料理なんてものは生み出せないからな。料理の基本だと思ってる。異論は認めない。

「佐藤の説明だと、魔力を壊す魔力とか言ってたが、一体なんだ? それは」
「だから、相手の魔力をその雷は壊すことが出来る。つまり、相手の魔法や能力をその魔力は破壊することが出来る。でもそれは防御専用じゃなくて、逆に攻撃専用のもんなんだけどな」
「どういう意味だ?」

ボリボリと頭を掻き、いい加減分かれよと言いたげな顔をされながらもユキノは説明を続ける。

「破壊されると壊れるから、魔力は復元するのに時間がかかる。だから、何回かエルデンテを纏ったもので殴りつけると魔力が破壊されまくって——通常の人間ぐらいの弱さになるな」

ということは……めちゃくちゃ強い奴でも、弱体化されることが出来るというわけか。
結構便利なものみたいだな。さすが英雄の能力とかいわれるだけはある。
肉じゃが等を炒めながら、俺は次に一番聞きたかったことを聞いてみることにした。

「何で俺は今日、殺し屋……佐藤に襲われたんだ?」
「当たり前だろっ! 英雄の取扱説明書を奪おうとしたに決まってるじゃんっ!」
「いや、だからそれが意味分からん。英雄の取扱説明書って、世界を救うものなんじゃないのか? 奪っても意味ないんじゃ——」
「英雄の力が悪用されるかもしれないだろっ! 英雄の力ってな、それはそれはメルヘン畑の如く壮大な強大な力なんだっ!」

メルヘン畑って何だ。
とにかく、それほどまでに英雄の力は強いらしい。それが分かっただけでもまだマシだろう。
自信有り気に人差し指を立てて、自信満々な顔をしてユキノは説明してきた。

「それぞれの世界には様々な職種があって、それぞれが対立してるんだ。その争いを平和的に解決しようとしているのと、自分達だけが生き残ろうとしている目的で英雄の力を欲しがっている奴等がいるわけだっ!」

あーなんとなく分かってきたぞ。
昨日の分と色々まとめてみると、だな。
英雄の取扱説明書は世界中にいる種族の争いで勝ち抜くということではなく、その争いを止めることに使うらしい。
でもって、ユキノの種族ていうか職種は勇者であるからして……勇者はどうやら争いを平和的に止める側らしいな。
そうしないと異世界とこの世界が激突してバーンとかいう幼稚な効果音と共に消し飛ぶらしい。——俺の日常とかそういう問題じゃねぇな。
俺を昨日今日にかけて襲ってきたアンドロイドや殺し屋の佐藤は平和的に解決というか、自分達の職種だけを生き残らせようとか考えてる物騒な奴らなわけか。

「まぁ、何だ。とにかく、この英雄の取扱説明書とやらをコンプリートすれば、俺は解放されるわけか?」
「不本意だけど、お前がその使い手みたいだからな。人間にしかコンプリートできねぇっていうのは面倒くせぇけどな」
「答えをまず言え。コンプリートしたら俺は解放されると?」
「ん? あぁ、その通りだと思う。てか、目的さえ果たせばこんな家木っ端微塵にしてやるんだけどなっ!」

恐ろしいこと言いやがる。いつか本気でしかねないぞ、こいつ。——今の内にどこかこの小娘を別居させた方がいいんじゃないか?
まあ何にせよ目的は決まった。この英雄の取扱説明書とかいう物騒なもんをコンプリートさせちまえばいいわけだ。
確か、コンプリートさせるには他の職種の取扱説明書を持ってる奴とか、この世界に異世界から何たらどうたらで生み出されるモンモンとかいう名前可愛い奴を倒せばコンプリート出来るとか何とか。

「ていうかさ、結局のところ争ってないか?」
「はぁ? 何で?」
「いや、取扱説明書を集めるとかなると、そいつらと戦わないといけないだろ? 結果争ってることになるんじゃねぇか?」
「あぁ、それはな。英雄の取扱説明書を他の職種の取扱説明書と触れるだけでいいんだ」

なんという便利な。それなら争わなくても大丈夫な気がしないでもない。

「なるほどねぇ……。あ、肉じゃが出来たんだが、食うか?」
「当たり前だっ! いつまでかかってたんだよっ!」

文句をぶつぶつと言いながらでも、ユキノはテーブルの椅子に座る。——皿とか運んで欲しいんだけどなー。食うんだったらな。
でも今日は命を助けてくれたとかもあったので許そうと思う。
何だかんだ言ってユキノは実際強いし、自分がもし狙われたとしてもユキノを呼べばなんとかなるだろう。
俺はそんな安易な考えを浮かべて微笑みながら肉じゃがを運ぶ。

「気持ち悪い笑顔作るなよっ! 変なこと想像しやがって!」
「してねぇわっ!!」

食べ物を全てテーブルの上に置いた後、ユキノが白飯をがっつく姿を見てまた少し微笑んでしまう。
いやぁ、何でしょうね。結構楽に事が運びそうだなぁと思うとこんなに人は笑顔になれるものなんですね。
そんなことを思いながら俺自身も飯を食べようと思ったその時、ピンポーンと、おなじみのインターホンが鳴った。

「あの野郎かっ!!」
「どの野郎だよ。すまんがユキノ、見てきてくれないか?」
「あの時ぶっ飛ばした奴かもしれないなっ!」
「だから誰だよ、それ。とにかく、見てきてくれないか?」
「ったく、命令すんなよなっ!」

そんなことを言いながらも行って来てくれるユキノに少しは俺に心を開いたかと錯覚する。
長すぎて裾が地面にスルスルと擦れる音と、裸足特有のペタペタ音を聞きながら俺は味噌汁を飲んだ。
だんだん音が小さくなっていき、ドアを開く音がした。そして——だんだん音が大きく、さらに荒く聞こえてきた。

「へ、変態だっ!」
「何だその間違えかどうか分からない物言いっ! 大変って言いたいのか変態が来たのかどっちだ?」
「た、大変だっ!」
「大変の方か。どうした?」

今の時刻は既に夜の時刻で、この家には俺しかいないと近所などは承知している。
つまりは近所の人ではなく、他の誰か。セールスがこんな時間に来るはずもないし、第一この時間に客なんて珍しいことだった。

「赤い液体がなんじゃこりゃぁっ!! っていう感じにどんどん溢れ返って来てるっ!」
「意味分からん。とにかく落ち着けよ。一体どんなへんた——大変なことが起きたんだ?」
「と、とにかく来いっ!」

ユキノは俺の服の袖を引っ張って玄関まで連れて来た。
この鉄臭い感じといい、目の前の"光景"。綺麗な真紅を帯びた液体が——綺麗な美女の体の下から水溜まりを作っていた。
つまりは、血が流れ出ていた。

「うぅ……」

うめき声をあげる美女。柔らかな顔立ちはいかにも大人の女性という感じを漂わせるが、まだ20歳にもいっていないだろう。
長い黒髪が血の水溜まりに浸されており、先端の方は黒色ではなく、赤色へと染まっていた。
傷は体中のあちらこちらにあり、まさに血まみれの状態だ。——本当に大変だな。これは。

「お、おいっ! 大丈夫かっ!?」

急いで俺は血まみれの美女に話しかける。美女は軽く瞑っていた目を力無く開けた。

「こ、ここが……英雄殿の住む館でござるか……?」
「え、えーと……! ——あ、あぁっ! 英雄かどうかは分からんがとりあえず英雄みたいなもんだっ!」

自分でも何を言ってるのかよく分からなかったが、ここはこういっておいたほうがいいと思った。
英雄じゃないと言った瞬間、口から血を出して死にそうだったからな。
美女はゆっくりと再び目を閉じていく。俺の額にはいつの間にか汗が滲んでいた。

「とにかく運ぼうっ! ユキノっ! 手伝ってくれ!」
「あ、あぁ、うんっ!」

俺とユキノはなんとかして運び出すことに成功したが、この重傷だとここから救急車が来ても間に合わないだろう。

「どうしたもんか……」
「……しょうがない。やるしか、ないか……」

ユキノが何か呟いて自分の頬をパシッと叩いた。何を始める気なんだ?

「私が治療するから、どっかいってろっ!」
「え? お前医者だったのか?」
「なわけないだろっ! 治療魔法使うんだよっ! ——とにかく、どっかに行ってろよっ!」

と、俺は美女を運んだ部屋から追い出されてしまった。治療の魔法ってどんなものなんだろうと気になったが——入れば俺が美女のように重傷を負うことになりそうなのでやめておいた。
その場でペタリと座り込んでしまった俺は息を吐く。そして自分の手が美女の血で赤く染められていることを知る。

「うぉ……手、洗ってこなくちゃ——!?」

洗面所に向かおうと立ち上がった瞬間、鋭い頭痛が走った。それは今まで経験してきたどの頭痛よりも遥かに痛いものだった。

「ぐ……っ!?」

あまりの痛さにフラつき、倒れこんでしまった。少しの間、もがくようにしてバタバタと足と頭を揺らしていると、痛みはゆっくりと消えていった。

「い、一体なんだったんだ……?」

血を見た瞬間、鋭い頭痛が走ったことに何か違和感を感じざるを得なかった。
何だろう。引っかかることがあるような……。変な感じがする。

「とりあえず、洗いに行くか……」

俺は洗面所にゆっくりと足取りを刻んでいく。

案外楽に事が済み、いつも通りの日常に戻れると思った矢先の出来事。
そういえばあの美女、妙に武士らしい言葉遣いだったし、刀のようなものが腰らへんにあったような、なかったような……。
運ぶのにあまりに必死で、俺はあまり記憶になかったが。
とにかく、だ。——とりあえず責任者でてこい。
そんでもって、この面倒なことに巻き込まれそうな予感がするのを打ち払ってくれ。



説明その2っ:とりあえず責任者でてこい(終)

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照200突破っ ( No.28 )
日時: 2011/03/08 18:37
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

今日は確か、学校は休み。
何の祝日でもなく、ただ単に学生は学校休みだという日だ。一週間の内に一日はあるだろう?
俺にももちろん、そんな日はある。だからこうして、ゆっくりと歯を磨いていられるわけだ。
とはいっても、運動部やら何か部活を勤しんでいる者達は皆、今日は部活動で学校へと向かっていることだろう。
こういう時、帰宅部でよかったなぁと思った。

「エロメガネッ!」
「朝っぱらからの一言がそれか。それもお前、それはメガネかけてる奴に言えよ。俺はかけてないぞ?」

少し前言撤回しよう。帰宅部といえど、家にいてはうるさいのがつきまとってくる。——まるで俺の後ろでニヤニヤしてやがる自称勇者の小娘のようにな。

「あいつ、起きたぞ」

あいつ=昨日血だらけの重傷になっていた謎の美女のことだと、俺はすぐさま理解する。
結局のところ、ユキノは何とか治癒魔法に成功させたんだと。——勇者ってのはすごいねぇ。
でなければこうして歯を磨いてる場合じゃなく、美女を何とかするために悪戦苦闘を繰り広げていただろう。

「よし、分かった。んじゃ、すぐ行くから先に行ってろ」
「命令すんなっ!」

と、一言キツく言われてからユキノは目の前から去っていった。あいつはずっと俺に対してあの調子でいくつもりなのだろうか?
俺は口に溜めていた歯磨き粉を水で洗い流した後、歯磨きを指定位置に戻してからユキノに続いて美女のいる部屋へと向かった。



コンコン、と二回ノックしてから俺は扉を開ける。

「入るぞー?」
「入るなっ! このドスケベっ!」

え、入っちゃダメなのか? ていうか何もしてないのにドスケベって言われる資格ないんだけど。

「じゃあどうやったら入れるんだ?」
「んー……暗号言えっ!」

何だよ、暗号って。そんなもの決めてもないし、第一面倒臭すぎる。
適当に考え、発した言葉は——

「今日のユキノちゃん可愛いなぁー」

そう言った瞬間、バキバキバキッ! と、ドアが粉砕されて部屋の中が丸見えになる。
そこにいたのは顔を真っ赤にしていつもの巨大な剣を右手に構えていた。息が荒く、肩が上下に動いている。
傍にあるベッドにはいつしかの美女が綺麗な顔立ちでこちらを無表情に見据えていた。

「何をバカなこと言ってんだボケェェェェッ!!」
「こっちの方が早いかと思ってな。えーと……大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわボケェェェェッ!!」
「いや、お前じゃなくて——そちらの美女さんね」

その後、俺はユキノに殺される寸前まで追いやられたことはさておいて。
とりあえずリビングまで下りてきてもらって、テーブル越しに向かい合った。見れば見るほど美人だと思う。

「——ここは、どこでござるか?」

見た目と似合わない武士口調だが、声は透き通るように綺麗だった。

「ここは現世でござる」

武士口調、わざとなのかなぁと。最近の流行なのかなぁと思って、俺は自分の口調も武士口調で言ってみたが——

「気持ち悪い回答をするではない。拙者は真面目に聞いておるのだ」

真面目に返答されました。ていうか、武士口調を直してくれれば普通にさ、現代っ子だと思うんだけどな。

「ここは俺の家だ。んで、俺の名前は嶋野 香佑。んで、俺の隣にいるのが——」
「ユキノだっ!」

自信満々に無い胸を張って答えるユキノ。
俺とユキノ、交互に見てから目を閉じた美女はそれから一言——

「英雄は、どこに?」

何ていえば正解なんだろうか? もし俺が英雄です、とか何とか言ったらそれはそれで信じがたいものだろうし、俺も英雄と固定されるのは嫌だ。じゃあ、なんて回答すれば——

「このアホが一応、英雄じゃないけど英雄の取扱説明書の使い手だっ!」

英雄じゃない、と足してくれただけまだありがたく思っておくか。——しかし、俺が考えてる間に言うのはやめていただきたい。
俺を見つめる美女。無表情で見つめていてもドキドキしまくるんだが。というより、昨日の無数の傷が完全回復していることが驚きだった。
ユキノの凄さが目の前で改めて分かったような気がした。

「……この者が?」
「あー……まあ、一応、そうらしい。俺が、とりあえず英雄ってことになるの、かな?」
「……ふっ」

今、鼻で笑いましたよね? 絶対笑いましたよね? 色々と思ったこと、ありましたよね? この美女さん。

「ていうかお前っ! 何で血だらけで倒れてたんだよっ!」
「あぁ、俺も気になる。どうして血だらけで?」

俺とユキノの問いに、再び無表情で俺とユキノの顔を交互に見た後に口を開いた。

「拙者は——村を攻めてきた魔王軍勢と戦い、傷を負ってしまうという不覚を取った」

綺麗な声で淡々と話す美女は、魔王軍勢か何かと戦って傷を負ったのだとか。——魔王、やっぱりいたんだ。
勇者がいたとすれば、魔王なんているのかなーなんて思ってたりしたけど、本当にいたんだな。

「ま、魔王だとっ!?」

魔王、その言葉を聞いた直後、ユキノが顔を強張らせて美女に攻め寄った。——何か様子が変なような気もする。

「おいっ! 魔王はそれからどうなったっ!?」
「ユキノっ! 落ち着けっ! いきなりどうしたっ!?」

美女の胸倉を掴んで大きな声をあげだしたので、俺はユキノを止めにかかった。
美女は何事もないように無表情をそのままにしている。何を考えてるのか、全く読めん。

「魔王軍勢に拙者達——武士、あるいは用心棒、あるいは剣客達はそれぞれ散り散りになってしまったのだ」

その言葉を聞いて、力が抜けたようにユキノの手が美女の胸倉から外される。
そして——何故かユキノは、震えていた。怯えたような表情をして。

「お、おい。大丈夫か? ユキノ」
「う、うるせぇっ! ——ちょっと、外行って来るっ!」
「あ、おいっ!」

間髪いれずに、ユキノは外へ向けて走り去って行ってしまった。——何なんだ? 一体。
様子がおかしいように感じたので、追いかけたいところだったが、美女をここに残してもいられない。
それにユキノのことだからすぐに帰ってくるだろうと思った。

「魔王を抑えられる力といったら——英雄殿の力のみ。なので、拙者は尋ねてきたのだが……」

何だ、その的外れだったと言いたげな目は。
まあ確かに、こんな若造が英雄とか言われても何の根拠もないし、信じたくもないだろうね。——俺もそう思ってる内の一人だからな。

「信じられないとは思うが、実際にそうらしい。俺もいきなりなんだ。まだ全然把握もできていない」
「……英雄の取扱説明書を、見せていただけますか?」

やっぱり、取扱説明書のことは知ってるのか。どの職種にもあるものらしいからきっとこの美女の職種にもあるんだろうな。
俺はバッグから取扱説明書を取り出すと、美女に見せた。

「どうだ? 何の変哲もない真っ白な雑誌だろ?」
「これは……! ——とんでもない魔力を秘めているっ!」
「な、何っ!?」

驚きの回答だった。ていうか、さっきまで無表情を突き通していた美女の顔が初めて揺らいだ瞬間だった。
んー……もしかして、だが。この美女、無表情というかクールというか、そんなキャラをわざと演じてるような気がする。

「分かるのか? 何か」
「分かるに決まっておるだろうっ! 触れただけでこれほどの魔力を感じる取扱説明書には今まであったことがないっ!」

多大な評価をされてるなぁ、おい。それに少し興奮気味になってきたような気がするんだが。

「ま、まあ……とにかく、だ。俺は一応、この取扱説明書の持ち主なわけで……」
「も、勿体ないぬにゃっ!」

……ぬにゃ? 今噛んだ? 
美女はしまった、という風にして口を押さえて顔を真っ赤にしている。——なんつー可愛さだ。美女って何やっても絵になるな。

「あーえー……あ、そうだ。そういえば、名前聞いてなかったな?」

俺は咄嗟に気まずくなった空気を変えようと切り出した。俺もこのままの状態だと、少し心がざわついて仕方ないからな。

「む……せ、拙者か。本当ならば、貴様風情の者に名前を受諾させることなどないのだが……結鶴ゆづると申す」

お前は俺の助けを求めてきたんじゃないのかと言いたかったが、それを言うと色々と元も子もないのでやめておいた。
結鶴か……雰囲気的にもあってるような気はするな。

「ま、まあ……なんだ。その、よろしく」
「よろしくする気はないのだがな……だが、英雄というのは本当のようだな。その魔力が粒子レベルで体から放たれている」

粒子レベルて。どれほど小さいんだよ。
まあ、そんなもんだろう。俺は普通の人間だぜ? 英雄なんてなろうとしたわけでも、なりたかったわけでもない。
俺より適任はいくらでもいるだろう。そんなことを思いながら俺はため息を吐いた。

「それと……命を救っていただいたことに対して、礼を申す」
「え、あー……礼なら、あの出て行ったバカ娘に言ってくれ。俺は何もしていない」
「……そうか」

結鶴はそう一言だけ言うと、外へと出て行こうとする。

「どこに行くんだ?」
「無論、礼を言いにいくのだ」

今からかよ。せっかちな奴だなぁ。
とはいえ、俺もユキノの様子は気になる。結鶴はいつの間にかユキノには少し大きいが、結鶴が着るとピチピチになる妹の服を着ていた。
正直、ものすごく似合うから目のやり所に困る。
俺は、結鶴と共にユキノを探しに外へと出かけた。


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