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英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜更新再開しますっ
日時: 2011/11/05 00:02
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode=view&no=5276

クリックいただきましたっ!初めての方も、そうでない方もどうもです。
多分、初めての方が多いんじゃないかと思います。いや、もうほとんどだと思いますがw
下手な文章で読み辛いことも多くあると思いますが、お付き合いくださいませ;


【この物語を読むにおいての取り扱い説明書】
・作者は大変亀更新得意です。元からワードで作ってたりしたものですがどうなるか分かりません。
・思いっきりラブコメで、バトルバトルバトル、といった感じです。ギャグとかも混じります。
何故シリアス・ダークに投稿したのかというと、グロ描写注意だからですw
グロ描写が苦手という方はお控え願えますよう、お願いいたします。
・読むな、危険。と、言いたいほど様々な面において危険です。それでも読んでくださる方は心して読んでください。




【目次】
この駄作にソングをつけるとしたら…>>121
プロローグ——になるのかこれ?…>>2
説明その1っ:勇者は美少女である
♯1>>4 ♯2>>7 ♯3>>8 ♯4>>13 ♯5>>14
説明その2っ:とりあえず責任者でてこい
♯1>>19 ♯2>>22 ♯3>>24 ♯4>>25 ♯5>>27
説明その3っ:拙者に斬れぬものなどございませんが?
♯1>>28 ♯2>>29 ♯3>>30 ♯4>>31 ♯5>>37
説明その4っ:え、これ、マシュマロですか?
♯1>>39 ♯2>>44 ♯3>>47 ♯4>>53 ♯5>>58
説明その5っ:——嬉しい。ありがとう
♯1>>62 ♯2>>71 ♯3>>74 ♯4>>78 ♯5>>79
説明その6っ:貴方、どこの佐藤さんですか?
♯1>>84 ♯2>>85 ♯3>>86 ♯4>>92 ♯5>>93
説明その7っ:私の王子様にしてあげるっ!
♯1>>94 ♯2>>99 ♯3>>112 ♯4>>117 ♯5>>119
説明その8っ:コンビニはこの世界、最高の癒しだろうが




【番外編】
槻児、どうしてお前はそんなにスケベなんだ
>>69
みんなで花見に行きましょう(全♯4〜5)
♯1>>95
・ツイスターだよ、全員集合!
・殺し屋佐藤さんにリアル鬼ごっこ演出させてみた(魔法・取り扱い説明書等無しで)
・入れ替わったイレモノ (全♯4〜5)
♯1>>96
・香佑にモテ期の魔法をかけてみた



【キャラ絵・挿絵】担当絵師様は王翔さんですっ!
ユキノ…>>113
結鶴…>>118
レミシア…>>120(NEW!)



【説明予告(説明その8っ)】by永瀬 理兎
コンビニとは、コンビニエンスストアの略で、最高の新天地とも書く。
この世界で唯一誇れるとしたら、コンビニだろう。世界各地にありとあらゆるコンビニが存在し、そのどれもが新商品をこれでどうだこれでどうだと張り合っている。その張り合い上に、新商品の素晴らしさが存分に発揮されているのも見物だ。
つまり、俺は何を言いたいかというと——コンビニを崇めろ、貴様ら。
……予告になってない? コンビニの説明をするだけでいいだろう。それで十分だ。コンビニ信者の話が盛り沢山な第8話だろうな。素晴らしい。(注:嘘です)



【お客様っ】
・と あさん
・Aerithさん
・夜兎_〆さん
・葵那さん
・結衣さん
・リアさん
・月読 愛さん
・風(元:秋空さん
・王翔さん

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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照700突破っ ( No.84 )
日時: 2011/05/20 21:57
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)

えらく面倒臭いことになってしまった。
成り行きとはいえ、葵とその護衛である燐を俺の家に居候追加することになったんだからな。
嘆いても仕方がない。それに、葵には何かある。その無表情の奥に、何かが。
だから俺は居候を引き受けた。まだ結鶴とのゴチャゴチャが解決はしていない。いずれ仲直りさせたいのだが……そんな簡単なものじゃないよな。
何にしても、俺はダルさを感じながらもまた今日も学校に行かなければならない。一昨日、燐が居候に反対するのを押し切ったことでとても体が——木っ端微塵になりそうです。すげぇ全身痛いです。
それと、俺のため息の理由はまだ他にある。
それはわけもわからず、ユキノに突然魔力が戻ったこと。そのことであいつは飛んで喜び、元の世界へと一時帰ることになった。
その魔力が戻った理由が——

「パン食ったら戻った!」

とか、わけのわからんことを。もう、この子頭大分イッちゃってるんじゃない? パン如きで魔力戻るなら誰も苦労せんわっ!
次に結鶴。あいつは何やらたまに真剣な、次に少し嬉しそうな表情をして——

「拙者は努力をしておる女子おなごを助けるのだ。それに、ここには奴らもいる。拙者は参るとしよう」

とか、わけのわからんことを。ヒーロー番組の見すぎじゃねぇか? そんな女子を助けにっ! とか言う前に仲直りしてくれよっ!
最後に燐。一昨日の俺とのケンカで——そのケンカで俺は燐に殺されそうになったが。
まあ、そのケンカでだ。単純に言うと、拗ねてるというかー……。最後は葵が制して居候することになったんだけどな。

「くっ……! 嶋野 香佑! 貴様をいつか殺すっ!」

すげぇ物騒なんですけど。身震いしたね、流石にこの俺でも。
そんな怖い捨て台詞を言われても俺はへこたれずにいる。殺人予告した人と一つ屋根の下で暮らしてるんですよ? 並大抵のことじゃないだろ?
まあ、そんなことが昨日から続き、今日は燐と葵が家にいる。そういえば、昨日散らかったリビングとか、ちゃんと掃除しないと……。
そう考えると、すごくやるせなくなったが、頑張ろうと思う。
制服に着替えた俺は、部屋を出た。そういえば、最近俺の方にも異変があったりする。
何だろう。体の底から何か、重たいものがのし上がってくる感じ。そんな得たいの知れない何かが膨れ上がってくる。
その正体が何かも分かるはずがなく、俺はため息を吐いてどうせただの胸焼けか何かだろうとスルーすることにした。

一階のリビングへと向かい、扉を開けようとしたその時、トンッと何かに腰元を叩かれた。優しいタッチ、ということから乱暴な輩(ユキノ、結鶴、燐)ではないだろうと思う。

「葵か。起きたのか?」

こくり、と頷く葵。その様子を見て安堵のため息を漏らす。——最近、何かとため息が多いような気もするな。
でもそれは安堵と気だるさの二つのみ。今のところはそれだけの意味しか込めていないため息でいいだろう。
寝起きだと思うのに、いつもと変わらない可愛らしい幼女に俺は内心ドキリと——あ、いや、ロリコンじゃないぞ?

「燐はー……まだ寝てんのか?」
「分からない」

と、葵相変わらずの無表情で言う。もしかして、拗ねていたり? いやーでもそれはないでしょー。
俺と葵はリビングへと入り、とりあえず俺は飯を作ったり学校へ行くための用意をしなくてはならない。
とはいえ、今日はあのやかましい二人がいないのであまり早めに行かなくてもいいんじゃないかと思う。
多分、俺が帰ってくる時刻までに帰ってこなさそうだし。葵と燐の二人に家を任せる、ということで落ち着こう。
心配事は確かにある。それは、葵たちを襲う奴らがこの家に来ていざこざになることだ。

「……やっぱり早めに行こう」

俺は目玉焼きを作りながらまたため息を一つ、吐いた。
葵にご飯を作り、留守番頼んだ、と一言言ってから俺は用意を済ませて家を出た。
朝の清清しく感じる空気も、だんだんと薄れてきてジメジメしてくる。
梅雨が近づいてきてるなー。実際、今の天気も思いっきりくもり。これは傘とか必要だな。
傘を一本、手持ちの中に加えた後、ゆっくりと俺は歩き出した。
今日の晩飯にしろ、居候たちのことにしろ。どうしようかと考えながら俺はバッグに何故か常備入っている英雄の取扱説明書を眺めた。
適当にパラパラとめくっていくが、やはりまだ白紙——ではなかった。

「何だ、これ?」

見たこともないものが書かれていた。新たな発見、ともいえるのだろうか?
絵が書いており、槍状のものが腕から迸る感じになっている。これは一体?

「グン……グニル?」

そのページにはグングニル、と名前が書かれていた。




その日も拙者は公園でふと見かけた女子に鉄棒、とやらを教えていた。
何故だか愛着のようなものをこの女子に持ってしまい、拙者自身も少し教えるのを楽しみにしまっていたのだ。

「えいっ!」

鉄棒に勢いをつけて逆上がりをしようとする佐藤、という名前の女子は額に汗を浮かばせながらも頑張っている。
その姿がとても微笑ましく、応援したくなる。

「もう少しだ! 頑張れっ!」
「は、はいっ!」

運動して火照ってきたのか、顔が少し真っ赤になりつつも続ける。
今日はジメジメした天気であまり好ましくないが、それでもやらないよりはマシだろう。
拙者はその具合をじっと見つめていた。内心では、大いに応援しながら。

「あー」

そうしていると、どこからか声があがった。
それは佐藤のでもなく、また拙者のものでもない。後ろを振り向くと、そこにはダルそうに頭を掻きながらヨロヨロとこっちに向かってくる男の姿があった。

「やっと見つけたなぁ……佐藤?」

と、サングラスをつけたガジュアル系統の服装を着ている男は拙者と佐藤を見据えてくる。

「何者だっ!」
「んー? あれ? 君は確かぁー……剣客かな?」

男は多少笑い混じりに拙者の職種を言い当てた。何者なのだろう、この男は。どうやら佐藤を知っているようだったが……。

「名を答えろ。そして、何の用だ」
「んー……」

口元に手をやり、考えるフリをしながら男は数秒後、口を開いた。

「名前は佐藤 龍二(さとう りゅうじ)。何の用かといわれれば——もちろん、佐藤ナンバー00(ダブルオー)を捕まえに来た」
「何……?」

この男も佐藤、という苗字。この日本という国の中で佐藤という苗字が最も多いとされていることは存じていたが、まさかこれほどまでとは。
にしても、同じ苗字である佐藤という男が……? 佐藤ナンバー00? 何だそれは。名前なのだろうか?
しかし、この目の前にいる女子は自分の名前を言わなかった。そう、"佐藤"としか言わなかったのだ。

「おぬし……名前は?」

小刻みに震える鉄棒にいる女子の佐藤に聞いた。ゆっくりと口を開き、そして答えた。


「私は——佐藤、00です……!」


彼女には名前、というより——番号がつけられていた。まさにこの男の言う、00。
彼女の言葉に、男は大きく笑い声をあげた。——朝方だというのに、なんという不届き。

「もうここは普通の現実世界じゃないから。安心して笑い声をあげていいんだぜ?」
「ッ!?」

拙者が周りを見渡すと、そこにはいつもの色彩溢れるものはなく、まるで色の塗られていない町並みがそこにあった。
ここは恐らく、変革世界だろう。現実であって、現実でない世界。別名、失われた世界とも聞いている。

「抜け出したいなら、そうだなぁ……。——俺たちを倒せたら抜け出せる」

男の佐藤が指でパチン、と音を鳴らす。すると、その瞬間ぞろぞろと女子が溢れ返ってきた。
その一人一人の顔は——同じ顔をした人。それも、皆私の元にいる佐藤00と似ている顔をしているのだった。

「さぁ、ゲームを始めようか? 剣客」

再び、男が指でパチン、と鳴らすと佐藤似の女子全体が拙者と佐藤00に襲いかかってきた。

「すまん。香佑、今日の晩飯は抜きでいい」

そう呟いて、拙者は刀を構えた。
何はともあれ、この佐藤00を守らなければならない。そう思ったのだから。許してくれるであろう? おぬしならば。




カッチ、コッチと時計の音がこの部屋には鳴り響く。
この部屋だけ、このカッチ、コッチと鳴る時計があるようだ。

「くっ……別に、この部屋を気に入ったわけじゃないからな……」

私は一人、部屋の中で呟いていた。
姫様をお守りする。それが私の使命だというのに、あの男はそれを奪おうとしている。
だけど、嫌いにはなれなかった。

「何なんだ、あの男は……」

結果、私が姫様の力を呼び覚ましたわけではなく、あの男が呼び覚ました。そう、英雄の名を語っているあの男が。
しかし実質、あの男が一昨日の場を治めた。その点で言うと英雄なのだろうか?
いや、私一人でも姫様はお守りできたはずだ。と、私はモフモフのベットの上を左右に転がる。

「それにしても……あの男の家族はいないのか?」

これだけ大きな家というより、屋敷に一人暮らしというのは少し不可解な感じがする。
あの男がいくら英雄だからといって金銭面でまかり通るとは思えない。
だが、ここは明らかにあの男とは違う誰か他人が居住していた部屋だろう。時計に表彰されたカップなんかが置いてある。
そしてベットの付近には、一つの写真立てが置いてあった。
そこには、楽しそうに笑う大人の男の人が一人と、三人の無邪気な笑顔を浮かべる子供達。そして——

「綺麗な、人だな……」

綺麗な女性が映っていた。この人が、この子供達の母親なのだろうか? 楽しそうに笑う子供達の中であの男の面影はあまりない。
また別の人の? 疑問が浮かんでくる。
その写真立ての後ろには、何やら文章が書かれていた。

『愛する者たちよ。永久に、永遠を』
「何だ? これは」

誰に当てたメッセージなのだろう? この写真に写る男がこの女性に? いや、"者たち"なのでこの子供達もその中に入るのか?
あまり定かではない推理が私の脳内を駆け巡る。その内、私はこんなことしても全く意味はない、とその写真立てを元の場所に戻した。
姫様に勝手に名前をつけた奴だ。許さない。だけど、許してしまう。
葵、という名前だそうだ。昨日、姫様から「私のことは葵と呼ぶように」と仰せ授かった。
従わなくて、ならないだろう。姫様自身もその名前が気に入っているようでもあったからだ。
姫様の笑顔を取り戻したいとしているのは、私以外にあの男もなのだろうか?

「……考えすぎか」

私は手元においてあった刀を後ろ腰に差して部屋を出て行った。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜第6話突入っ ( No.85 )
日時: 2011/05/20 21:58
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)

——グングニル。言葉の意味は貫くという意味。なんでも北欧神話のオーディンという神が持っているとされる魔槍、だそうだ。
そのグングニルだとして、英雄の取扱説明書に何故書いているのだろう? いや、考えられることとしたら一つだろう。

「これ、使えるのか?」

英雄の取扱説明書に何が記されるのか、なんてものはあまり聞いていない。記されていく、とは理解しているものの、何が記されているかなんてものは分かっていない。
そんで? グングニルとやらが記されていたわけだ。
使い方らしき方法が絵のようにして書かれていた。何か単純っぽいな。
右腕を肩ごと後ろに引き、力を込めて握り拳を作る。
後は投げ槍のようにして前方へと右腕を勢いよく伸ばすだけで発動できるらしい。

「もし出来たとしても、今ここでやる必要はないから別にいいか……」

俺は英雄の取扱説明書を閉じ、バッグの中へと閉まった。
気付くと、既に学校が目の前に見えていた。

「ふぅー……」

靴箱を経由し、何とか教室へと辿り着く。
一昨日の葵が来た事件により、俺は一躍ロリコン疑惑が出てしまった。
その言い訳を俺は教室前で考えている、というわけだ。

「……よしっ!」

俺はロリコンじゃないっ! そのことを一発で証明してやるっ!
そんな意気込みを抱え、俺は教室のドアを思い切りよく開けた!

「俺は美人でどことなく可愛くて色っぽいお姉さんが好みだぁぁぁっ!!」

ガヤガヤとしていた教室が、一気に沈黙へと変わる。あれ? 何この空気。気まずすぎて、頭がパンク寸前ですよ?
すると、その沈黙は「ぷぷぷ……!」という、笑い声を抑える声を始めとし、一気にクラスメイト達が笑い声をあげた。
一体どういうことだっ!? お姉さんのどこが悪いんだ! お前ら!
すると、槻児が満面の笑みで俺に近づいてくる。——相変わらずうぜぇ。昨日の内にオホーツク海辺りで沈んどけばよかったのに。

「おいおいーっ! 何告白しちゃってんだよーっ! 昨日、休みだからってお前何してたんだー?」
「は、はぁ?」
「嶋野君面白ーい。いきなり朝から何宣告してんのー?」
「嶋野。お前はやはりお姉さん好みか!」
「え、え?」

状況がイマイチ掴めずに、槻児と柴崎、そして中里に俺は声をかけられる。しかし、どれも俺のロリコン疑惑があるとは思えない言動。

「え、皆、俺の身に起きた一昨日のこと、覚えてない?」
「一昨日? お前早退したよなー! 具合大丈夫か? もしかして……お姉さんとその、ムフフなことをっ!? 許せん!」

一人で興奮して、一人で俺に殺気だっているアホ一名(もちろん、槻児のことだ)の言葉に、俺は驚いた。
そりゃそうだ。具合が悪くて早退したことになっているのだから。あの時、明らかにサボりというか……葵に引っ張られて連れて行かれたところをクラスメイト達に見られている。
それが事実。……なのだが、誰も俺がロリコンだという言葉は言わない。

「お前お姉さん好きだったんだな!」
「い、いや……どの範囲でもいけるけど……! って、本当に覚えてないのか?」
「覚えてないも何も、早退したのが事実だろ? 変なこと言うなよー」

中里が俺の肩を優しく二回ほど叩き、微笑んだ。
記憶が、すり替えられている? 一体誰が? 何のために?
俺は釈然としないまま、先ほどの俺のお姉さん大好きだ! 発言の盛り上がりは収まっていく。
渋々と、俺も自分の席にお姉さんだけでなく、他全範囲OKだぞっということを知らしめながら座りに行った。




その頃、魔力を取り戻したユキノは浮かれ気分で再び香佑たちのいる世界へと戻っていた。
魔力を取り戻したことで、正式にまた勇者として動けることが出来るようになった。
香佑たちには内緒にしていたけど、実は魔力が何も無い勇者は勇者ではない。それは肩書きだけの話で、正式な活動が出来ない。
勇者の活動は、最終目標的にいうと魔王を倒すこと。しかし、今の現状では魔王軍の侵攻が何時来るかも分からないらしく、ユキノの世界は色々と混雑していた。
その世界で会った幼馴染も相変わらず元気そうでよかったため、ユキノはルンルン気分でこの世界に再び戻ってきた。
レミシアがいなかったことが少し残念なところでもあったけど。
戻ってきた理由は、もちろん英雄の取扱説明書のコンプリート。それもあるが、何より香佑と婚約魔法を交わしてしまったことも重要だった。

「よりにもよってあのバカと交わすなんて……! ありえないわぁぁっ!!」

ユキノは空から地上へ落下中、叫んだ。
ユキノの世界からこちらの世界に再び来るためには、空から落っこちなければならない。通常の人間ならば即死間違いなし。
風でブカブカの服がはだける。——こんなことならちゃんとしたの着て来ればよかったな。何か気持ち悪い。
とはいっても、落ちていく姿は誰にも見られることはないのでそこらへんは大丈夫。その配慮的なものがあるなら、空から飛ばすなよ、全く。
もの凄い勢いで降下していく中、世界全てが小さく見えた。
この世界は上から見下ろすとこんなにも小さく、綺麗なんだな。そう思った。
ユキノはそのまま何も無い平地へと凄いスピードを保ったまま落下した。辺りに土が飛び散る。激しく周りが少しだけ揺れる感覚がする。

「ふぅ……何度やっても鬱陶しいな、これ」

自身の魔力を解放して体のあちこちについた土を弾く。ボサボサになった髪を手で適当に下ろす。
それが終わり、自分が落ちて穴になっている場所を元に戻すと、歩き始めるために前を向いた。

「ん……?」

そこでユキノが見たものは、ボロボロになったあの殺し屋の——佐藤 友里の姿だった。




「はぁ……はぁ……」

一体何体倒したことだろう。あまりに数が多すぎた。今は佐藤00の手を引いて結鶴は逃げているという状況だった。
脇腹の辺りから血が出ている。あの大群の佐藤たちの持っているメスに斬られたようだ。

「ふはは! 逃げても逃げ場などこの世界にはない!」

佐藤 龍二の声が後ろから聞こえる。手を引いて走っているのはいいが、そろそろ佐藤00の体力が危ない。息切れが止まらない。
一体この佐藤00に何の秘密があるのか。捕まえに来た、ということは探していたということ。
つまり、何らかの可能性がこの佐藤00にあるということ。結鶴はそういう面から不可思議な謎が隠されていると踏んだ。
不可思議な謎、というのは——魔王軍のことだ。
結鶴の生まれ故郷を襲ったのは魔王軍。それは事実だが……それ以降、何の襲来も情報も途絶えている。
一体どれほどまでに準備や何かを重ねているかも分からないのが状況。謎に満ちすぎている、というのは不可解なことだといえた。
もしかしたら、この佐藤 龍二という男は何かを知っている? そう感じ取れた。

「さぁ、鬼ごっこもそろそろ終わりだ!」
「ッ!」

前方、後方と囲まれた。そして前方の中心部辺りに佐藤 龍二の姿。ニヤニヤと、不愉快な笑みを浮かべるその表情に苛立ちが募る。

「ゲームオーバー、かな?」

余裕をかまし、龍二は指をパチン、と鳴らした。一斉に佐藤たちが持っているメスで襲いかかってくる。

「神速・謳歌六閃しんそく・おうかろくせん

神速で結鶴は刀を抜き放つ。6本の斬撃が周りに散乱し、縦横無尽に襲ってくる佐藤たちを吹き飛ばした。謳歌一閃の6回バージョンがこの技であった。
しかし、その攻撃を受けて数は減らしたものの、再び佐藤は増えていく。

「このままでは、ラチがあかない……!」
「ふははは! その手負いの状態では、あまりに不十分だろう? そろそろ——終わりにしようか!」
「くっ……!」

結鶴の周りを取り囲んだ佐藤たちが再び結鶴へと襲ってくる。再び謳歌・六閃を出そうと構えるが——鋭い痛みが脇腹を貫く。
先ほど喰らったダメージが今この時点で悲鳴をあげだしたのだった。

「しまっ——!」

結鶴は襲ってくる佐藤たちを見上げる。そして——


「——人の領地テリトリーで遊ぶな」


声が聞こえた。辺りは無音になる。結鶴は知らず知らずの内に目を瞑ってしまっていた。
そこには、一人の男が立っていた。それは見慣れたいつもの英雄ではなく、また別の男。
しかし、雰囲気がどことなくいつもの英雄に似ていた。

「おぬし……!」
「大丈夫か?」

その男は、オーラのようなものを手先から放ち、飛び掛ってきている佐藤たちのメスを弾き返していた。
男の服装は、どこかで見たことがある。そう、この服装は——コンビニエンスストアというところで働く者が着ている服装。
コッペパンを片手に持ち、背中にはコンビニエンスストアのマークをつけたその男。一体どこから来たのか全く分からない。

「佐藤、龍二だったか? 一応、逮捕状が出されてるから。逮捕する」

男は無表情で呆然とした顔をする佐藤 龍二に言った。

「お、お前は……!」

はむっ、とコッペパンの最後の一口を食べ、コンビニの男は佐藤 龍二を見据えた。
氷のような、冷たい目で。

「コンビニを荒らす奴は——許さん」

よく見ると、拙者たちが争った場所にコンビニがあり、そこが真っ二つに裂かれていた。
あ、あれ切り裂いたの、拙者——。
コンビニの男は両手に青い光を灯すと、龍二へと突進していく。周りにいる佐藤たちを両手で薙ぎ払いながら。

「くっ! これは退散するしかないっ!」

龍二はそう言い捨てた後、すぐさまテレポートを開始し始める。その瞬間、変革世界も形を失っていく。

「覚えていろよっ! この——エセ魔術師が!」

龍二は佐藤たちの大群、そして壊れ行く変革世界と共に消えて行った。
周りの風景があの公園へと戻る。落ち着き、結鶴は男に話しかけた。

「に、逃がしていいのか?」

逮捕だなんだ、といっていたので、その方が好都合だと結鶴は思ったからだった。
しかし、男の返答は何とも間の抜けたものでしかなかった。

「別に。コンビニを荒らした奴、許さん」

少し喋り方がおかしかった気もするが、この男はコンビニが荒らされたというだけで結鶴たちを助けたらしい。
その行動にあまり理解が出来ない。ため息を吐き、周りを見渡す。そこで、やっと気付いたのだ。

「あれ? さ、とう……?」

傍にいるはずの佐藤00の姿が、どこにもいなかったのである。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か? ( No.86 )
日時: 2011/05/21 23:47
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)

薄暗い建物の中、佐藤 龍二はいた。
そこは既に廃墟となっている研究所のような建物の中だった。その中にいたのは。

「失敗か? 龍二」

低い声が奥から響くようにして龍二に語りかける。

「い、いや……それが、魔術機関が邪魔をして……」
「言い訳か? お前らしくもない」
「ッ……!」

ゆっくりと、その低い声の持ち主は暗闇の奥から姿を現し始めた。
身長が高く、執事服らしきものを着こなし、大柄の男だった。顔も強面で、見る者を怯えさせる迫力があった。

「我々の作戦に、オリジナルの佐藤がいなければ話にならん」

と、少し強めの口調で男は龍二に向けて言い放った。その様子に、龍二は生きた心地がしないほどに息を止めていた。

「まぁまぁ。そうカリカリしなくてもいいじゃないか」

軽い感じの口調の男が、また暗闇の中から出てくる。
スーツ姿のその男の傍に、アンドロイドが一体付き添っていた。

「探求の、に……ユナシィー、か」

大柄の男は、現れたスーツ姿の男とその隣にいるアンドロイド、ユナシィーの姿に目を配る。
ククク、と奇妙な笑い声をスーツ姿の男、探求のと呼ばれた男はあげた後、前髪を後ろに掻き上げて口を開いた。

「英雄の取扱説明書の持ち主……嶋野 香佑の連れもいただろう?」
「あ、あぁ……。剣客の、か。だがあいつは大したことは——」
「それが、大したことがある」

また暗闇の中から誰かが出てくる。その人物は、肩に背丈を優に越すほどの長身な刀を持ち、銀色の髪を揺らしながら近づいてくる。
服装は袴なため、どことなく武士の感じがする。

「あの娘は、今は強くないが、剣客最強の血筋の末裔だ。潜在能力は計り知れない」

武士格好の美男子はそう言うのに対して、龍二はやむなく声を押し殺すほかなかった。

「とにかく……探求の。お前、一度英雄にユナシィーを送っただろう? あれはどういうつもりだ」

大柄の男がスーツ姿の探求に質問を投げかけた。だが、そんな質問をあの奇妙な笑い声を出してものともしない。

「単なるお遊びさぁ! 英雄なんだから、もっと主役らしく動き回ってもらわないと、さぁ?」

ククク、という笑い声が建物内で反響してなんとも嫌な感じがする。探求のその態度に、武士格好の男が刀を鞘に納めたまま探求の首筋に当てる。その動作は目では追えないほど速い速度だった。
だが、その瞬間ユナシィーも持ち前のドリルを武士格好の男の腹元に突きつけていた。

「黙れ。もう少し大人しい笑い方は出来ないのか?」
「ククク……残念ながら、生まれつきなんだ」

二人の言い合いと、ピリピリとした空気に大柄の男は動いた。

「やめろ! 争っても意味はない」

その言葉で探求と武士格好の男は落ち着いた。その様子を確かめた後、大柄の男は龍二に顔を戻した。

「英雄は既に監視させてある。そこは大丈夫だが……作戦にはやはり、オリジナルの佐藤が必要だ。いいな?」
「分かっている。次は……失敗しないさ」

龍二は歯を食い縛り、虚空を見つめる。
その姿に大柄の男はどことなく満足気の表情を見せた。

「英雄の傍にいるあの勇者は私が手に入れる。だから君達、邪魔しないでくれたまえよ? ククク……」

探求もそう言い残してから暗闇の中へと去っていった。

「ふんっ……気に食わん奴だ。俺も最強の血縁を持ったあの剣客の娘だけは譲らん」

武士格好の男も鋭い顔つきでそう言うとどこかへ行ってしまった。
その場には大柄の男と龍二。そしてふと大柄の男は呟いた。

「——全ては、魔王様のために……」




一方その頃、燐は一階へ降りると、早速葵の姿を探した。しかし、そんな探す手間もなかった。

「姫様? 何をされておられるのですか?」

そこはリビングにあるキッチンだった。そこで葵は何やら色々と取り出しているようであった。

「料理、しようと思って」
「料理、ですか? 私が仕度いたしますっ」

と、燐は葵に駆け寄ったが、葵の小さな手のひらが片方燐の目の前に突き出された。

「いい。私が料理する」
「で、ですが! 危険です!」
「大丈夫。昨日の香佑のを見て、覚えた」

香佑。それはあの英雄の名前。そのことを思うと燐は少し腹が立った。自分を滅多に名前で呼んでくださらないのに、あの男はこの短期間だけで名前で呼んでもらえるようになっている。
その事実がどこか苦しくて、切ない感じがした。葵が生まれた時から護衛を努めているというのに。

「で、では、お手伝いを——!」

燐が葵を手伝おうと駆け寄ったその時。
ガチャッ! と、ドアが開く音が聞こえたと思いきや、その突如「大変だ! 変態なんだよっ!!」というわけの分からない大声が聞こえた。
燐と葵はその声のする方へと駆け寄ってみると、そこにいたのは——

「変態なんだ! 凄いボロボロで!」

ユキノだった。ユキノが何やら傷塗れでボロボロの姿をしている女の子を背負って必死に、変態なんだ! と叫んでいた。

「何が変態なのかは知らないが、とにかく大変なんだな?」
「はぁ!? 変態なんか誰も言ってないだろ! このハレンチめっ!」

いきなり怒鳴られる燐。その物言いに少し苛立ちが込み上げてくる。

「貴様——!」

燐が刀を抜いて怒鳴ろうとしたその時、葵が自ら背負っている女の子に手をやる。

「なっ! 姫様! 手が汚れます!」

燐は慌てて葵が傷ついた女の子に触ろうとするのを止めさせる。だが、葵はそれを拒み、言い放った。

「別に汚れてもいい。私はもう、姫様じゃない」
「ッ!」

その時言われた葵の一言が、やけに重く鋭く燐の心に突き刺さった。その言葉はまるで、自分とはもう何も無いかのような物言いだった。

「おいっ! お前も手伝えよっ! 怪我してんだぞっ!」

呆然と立ち尽くす燐にユキノが怒鳴る。そこでやっと我が返り、燐は傷ついた女の子をユキノの背中から受け取る。

「部屋はー……! 適当に! あぁ、もう! 香佑の部屋でいいだろ!」

ガラッ! と、荒々しくドアを開け、香佑の部屋の中へと入る。
燐と葵も続いて入り、その女の子を香佑の部屋のベットの上に寝かせた。

「回復魔法とか、出来るか?」
「私が、出来る」

燐が何か言おうと口を開きかけたが、その前に葵は自ら——力を発揮していた。
葵の背中からは美しい翼が二つ生え、優しい光が全身を覆っている。
その優しい青色の光が部屋全体を包み込み、傷ついている女の子、佐藤 友里の体を癒していく。
次々に傷が癒され、体は元の何の傷もない状態へと回復した。

「よかった……! 助かった!」

安堵のため息を吐くユキノの姿を見て、燐は何ともいえない表情をしていた。
自分は、姫様のためならば命を捨てることすらも出来る。そう思っていた。いや、それは今でもだ。その忠誠心は変わらない。
だが、それは姫様にとってどう見られていたのだろうか? 自分は——果たして本当に必要とされていたのだろうか?
姫ではなくなったから。その言葉でさよなら、なんていうのはあまりにも悲しいBADエンドだった。

「姫様……私は、本当に——」
「ありがとうな! 二人共!」

呟く燐の声を、ユキノの元気な声が遮った。お礼を言われた葵の表情は、どことなく嬉しそうな感じがした。
香佑、というあの英雄の男と会ってからだ。少しずつだが、葵に変化が見られていった。
それは燐にとって、痛いほどよく分かる。傍に居続けたからこそ、その痛みが分かる。しかし、その痛みを回復する——そう、今さっきのような回復魔法が燐には見つからなかった。
そんな簡単に治る傷なら、とっくに治してあげている。今だって、力を自分で発動できるようになっている。今のでも微力なのだが、それでも進歩したといえるだろう。

(——いつの日か、初めて見た姫様の笑顔が取り戻せたら)

自分の役目は、そこで終えてしまうのだろうか?
それが、一番怖いことだった。




勇者の集う世界——ファンタジスト。
そこには、様々な問題が現在進行形で起きていた。

「何……!? 魔王軍に動きがあっただとっ!?」

作戦本部のような中に、一人大剣を背中に背負い、いかにも体調の風格を出している女性がいた。
素早く動けるようにか、軽めのプレートアーマーが装備され、左肩には小さめのマントが装着されている。

「はいっ! ミルフィーユ隊から連絡がありました!」
「そうか……。事を早めなければならんな。他の職種にも応援を頼むか……?」
「そのようなことをすれば、王族の方々から何を言われるか……!」
「構わん! 既に王族は腐りきっている。我らが民を救わねばどうするっ! 至急、他の職種の人間に手配を送れ!」
「は、はいっ! かしこまりました!」

連絡係を務める女性は、忙しく機械を連続的に打ち込み、どこかへ通信しようとしている。
その他、他に大勢とそのような作業を続けている人々がいた。
腕を組み、状況を見守る隊長らしき人物はその後、更に指令を出す。

「魔術機関、騎士団、錬金術師、マフィア、召使めしつかいそして——ヴァルキュリアに連絡を取れ!」
「「はっ!」」

隊長の言葉に皆同時に返事をする。その様子に頷き、隊長——クロナギはモニターを見つめる。
そこには英雄、嶋野 香佑の名前があった。

「英雄……か」

その呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か? ( No.87 )
日時: 2011/05/19 20:36
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: .cKA7lxF)

いやいや,そう言う,デジャヴと言うか何と言うかは日常茶飯事ですし!
言うほど気にして無いですから(汗
確かに厄介な奴ばかりですね……寧ろ,彼が気の毒な程ですが…(苦笑


香佑が少しずつ主人公らしくなってきていますね。
グングニル……強そうな武器の定番ですね^^
佐藤オリジナルと言うのが凄く気になります。
物語が凄く作り込まれていて尊敬します^^

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か? ( No.88 )
日時: 2011/05/20 18:33
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)

>>風さん
本当にすみませんでしたっ;
厄介なところもあり、また可愛いところもあります。そういった面ではハーレムと言えるかもしれませんっ。

だんだんと主人公としての役割、みたいなのが定まってきたように思いますっ。
これからどんどんシリアスというか、のほほんな感じは捨てきれないシリアスな感じになりますが、香佑の活躍に注目して欲しいですー。
武器というより、技名のようなものです。エルデンテによって発動される技、みたいなものです。
オリジナルの佐藤のことは物語が進む事に少しずつ見えてきますー。楽しみにしていてくれると嬉しいです;
いえいえ!風さんの小説と比べれば全然ですよっ。
これからもひたすら頑張っていきますので、宜しくお願いしますっ。
改めて、コメントありがとうございました><;


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