ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜更新再開しますっ
- 日時: 2011/11/05 00:02
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
- 参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode=view&no=5276
クリックいただきましたっ!初めての方も、そうでない方もどうもです。
多分、初めての方が多いんじゃないかと思います。いや、もうほとんどだと思いますがw
下手な文章で読み辛いことも多くあると思いますが、お付き合いくださいませ;
【この物語を読むにおいての取り扱い説明書】
・作者は大変亀更新得意です。元からワードで作ってたりしたものですがどうなるか分かりません。
・思いっきりラブコメで、バトルバトルバトル、といった感じです。ギャグとかも混じります。
何故シリアス・ダークに投稿したのかというと、グロ描写注意だからですw
グロ描写が苦手という方はお控え願えますよう、お願いいたします。
・読むな、危険。と、言いたいほど様々な面において危険です。それでも読んでくださる方は心して読んでください。
【目次】
この駄作にソングをつけるとしたら…>>121
プロローグ——になるのかこれ?…>>2
説明その1っ:勇者は美少女である
♯1>>4 ♯2>>7 ♯3>>8 ♯4>>13 ♯5>>14
説明その2っ:とりあえず責任者でてこい
♯1>>19 ♯2>>22 ♯3>>24 ♯4>>25 ♯5>>27
説明その3っ:拙者に斬れぬものなどございませんが?
♯1>>28 ♯2>>29 ♯3>>30 ♯4>>31 ♯5>>37
説明その4っ:え、これ、マシュマロですか?
♯1>>39 ♯2>>44 ♯3>>47 ♯4>>53 ♯5>>58
説明その5っ:——嬉しい。ありがとう
♯1>>62 ♯2>>71 ♯3>>74 ♯4>>78 ♯5>>79
説明その6っ:貴方、どこの佐藤さんですか?
♯1>>84 ♯2>>85 ♯3>>86 ♯4>>92 ♯5>>93
説明その7っ:私の王子様にしてあげるっ!
♯1>>94 ♯2>>99 ♯3>>112 ♯4>>117 ♯5>>119
説明その8っ:コンビニはこの世界、最高の癒しだろうが
【番外編】
槻児、どうしてお前はそんなにスケベなんだ
>>69
みんなで花見に行きましょう(全♯4〜5)
♯1>>95
・ツイスターだよ、全員集合!
・殺し屋佐藤さんにリアル鬼ごっこ演出させてみた(魔法・取り扱い説明書等無しで)
・入れ替わった体 (全♯4〜5)
♯1>>96
・香佑にモテ期の魔法をかけてみた
【キャラ絵・挿絵】担当絵師様は王翔さんですっ!
ユキノ…>>113
結鶴…>>118
レミシア…>>120(NEW!)
【説明予告(説明その8っ)】by永瀬 理兎
コンビニとは、コンビニエンスストアの略で、最高の新天地とも書く。
この世界で唯一誇れるとしたら、コンビニだろう。世界各地にありとあらゆるコンビニが存在し、そのどれもが新商品をこれでどうだこれでどうだと張り合っている。その張り合い上に、新商品の素晴らしさが存分に発揮されているのも見物だ。
つまり、俺は何を言いたいかというと——コンビニを崇めろ、貴様ら。
……予告になってない? コンビニの説明をするだけでいいだろう。それで十分だ。コンビニ信者の話が盛り沢山な第8話だろうな。素晴らしい。(注:嘘です)
【お客様っ】
・と あさん
・Aerithさん
・夜兎_〆さん
・葵那さん
・結衣さん
・リアさん
・月読 愛さん
・風(元:秋空さん
・王翔さん
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- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜第三話突入っ ( No.29 )
- 日時: 2011/03/20 18:31
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
ユキノはがむしゃらに、ただひたすらに走っていた。
どこに辿り着くかもわからず、ただ目の前の道を走っていた。
大分走った、と感覚するまでもなく、体から自然と力が抜けていく。どれほど走っただろうか。きっと世界の端まで行っていることだろう。
——いや、世界の端の方まで行けたらいい。そう思ったのだ。
「くそっ……!」
ユキノは乱れる息を整えながら、妙に涙ぐむ目を必死に手で押さえつけていた。
自分に涙など似合わない。まるでそう主張するかのように。
「はぁ……」
息を吐き、丁度目の前には公園があったのでそこのベンチに腰をかけた。ひんやりして気持ちの良く、しばらくそうしていたい気分だった。
魔王。その呼称を聞くだけで思い出したくはない記憶が蘇ってくる。単に勇者と魔王の因縁ではない別の何かがユキノにはあった。
「絶対、ぶっ倒してやるからな……!」
ユキノはいつの間にか、そんな言葉を吐き捨てていた。ボンヤリと目の前で遊んでいる子供達を見ながら。
昔、自分にもあんな記憶があったのだろうか。——あって、欲しい。あったということにしておいて欲しかった。
それは、自分の存在が否定されているような気がしたから。
意味もなく、不意にユキノは香佑の顔を思い出す。
「はぁ? 何で……」
頭を左右に振って、その浮かんできた顔を打ち消す。——なんであの野郎の顔を思い出さないといけないんだ。
でも、何かが引っかかる。香佑という奴は悪い奴ではない。そうは分かっている。
だけど、何かが奥の方で引っかかっていた。ユキノはその引っかかっているものが分からず、ただ首を傾げるばかり。
「あいつ……似てる?」
何も考えずに呟いた言葉。だが、その言葉の意味が全く理解できなかった。
俺と結鶴はユキノを探しながら、少しばかり話をすることにした。
話題はとりあえず——安全性の確認が第一だろう。
「結鶴は、取扱説明書を奪いに来たわけじゃないのか?」
「全然違うな。そんな野蛮な考えを剣を志す者が持っているはずなかろう」
いや、結構武士とかって強引なイメージあるんだけど。
「んで、英雄の力ってのが必要とか言っていたが……俺が必要なのか?」
「いや、貴様は必要ではない。英雄が必要だ」
「一応俺が英雄って、さっき家で言わなかったっけ?」
「……ちっ」
え? 今、舌打ちしませんでした? あれ? そんなに俺が英雄とかいうの、嫌? 初対面でその反応は無くねぇ?
「俺は頼りにならないと?」
「……貴様の英雄の力は、微力すぎて話にならん。"他の英雄"をあたることにする」
「他の英雄? ちょっと待て。他に英雄っているのかよ?」
「いるに決まっているだろう。そんなことも知らないでいたのか? 愚か者めが」
冷静な口調で言うからそりゃもうズサズサと俺の心に刺さっていくねぇ。鋭い言葉の刃が。
にしても驚きだ。この取扱説明書って、一つじゃないんだ?
「取扱説明書は、職種ごとに数も違う。英雄の取扱説明書はその中でもごくわずかの貴重なものなのだ。——それがよりによって貴様如きが」
「お前は俺を見下しすぎだっつーの。まあ、確かに頼りねぇかもしれないけどな。守られてばっかだし」
「ふっ、話にならんな」
結鶴はなんというか、人の心を簡単に破壊してくれるよな。——あ、まさか俺だけ?
「貴様は弱すぎる。とても魔王に太刀打ちできるとは思えんな」
「んなことはどうでもいい。別に魔王と戦うなんてことは考えてもないしな」
「……何故貴様のような人間に英雄の取扱説明書が渡されたというのだ」
「知らねぇよ。俺も迷惑なんだ。出来ることなら、すぐにでも通常の生活に戻して欲しいね」
「貴様……!」
結鶴は何故か厳しい顔をして俺を睨む。手元にいつの間にか握られていた刀を抜いて、俺に今からでも斬りかかりそうだった。
でも、俺は別に悪いことは言ってないはずだ。現に俺は迷惑だと感じている。勝手に物騒なことに巻き込まれたんだからな。
「俺を斬る前に、ほら——いたぜ」
そして遂に俺と結鶴はユキノを見つけ出した。
公園のベンチでボーッと目の前の景色を眺めている姿は何故か滑稽に思えた。それは、いつもハイテンションだからだろうな。
二日ほどしか経っていないというのに、不思議とらしくないと思ってしまった。
「ユキノ」
俺が声をかけても、返事が返ってこなかった。——ボーっとしすぎてるみたいだな。
結鶴はいつの間にか俺の隣の方からユキノへと近づいていっている。俺も嘆息した後、その後について行くことにした。
「ユキノ殿」
目の前で結鶴がユキノに声をかける。——って、まだ気付いてないのかよっ!! どんだけ鈍感だっ!
「ユキノ、殿」
結鶴はユキノの肩に手をやり、揺らしながらもう一度名前を呼んだ。
わっさわっさと、前後にユキノの体が揺れる。それを数十回繰り返したかと思うところで、ようやくユキノは「はっ!」と、我に返った。
「お、お前っ! ど、どうしたんだよっ! ていうか、何だよっ!」
ベンチから飛び起きて、結鶴に指を差しながら叫ぶユキノ。既に、目の前からは子供達の姿は消えていた。
俺はゆっくりと結鶴の横に行き、「よぅ」と声をかけてみた。
「……お前もか」
「何その間っ!! 俺が来たら嫌なのかよっ!」
「嫌だろ」
「嫌だろうな」
「二人して否定しないでもらえますかっ!?」
畜生。こんな扱いされるぐらいだったら来なきゃよかった。
何せ、なんとも無いような感じはしている。とりあえずは大丈夫なんだろう。
帰ろう。そう言いだそうとしたその時だった。
「あれぇ? こんなところで何してるんですかー☆」
この可愛らしい声、どこかで聞いたことがあった。
まるで、語尾に☆がつくかのような可愛らしい声。この声は——そう、俺に取扱説明書を渡してきた美少女だった。
外見は普通にセミロングに、可愛らしい髪飾り。服装も至って普通の女の子の感じ。
だけど、捨てきれない何かを持っている感じもした。
「レミシアっ!」
ユキノが突如、その美少女目掛けて声をあげる。——レミシアっていうんだ、あの子。
さすがに右手に物騒なものは持ち歩いていなかった。えーと、確かこの子も勇者だったか?
「あ、香佑君〜☆ どうです? 取扱説明書は☆」
「え? あ、あぁ……どう、といわれてもな……」
いきなり俺に振られたのでものの見事にビビった。何か——いちいち、目線に強いものを感じるんだが、気のせいだろうか?
今まで数回感じたことのある感じ……なんだろう、思い出せない。
「それで……ユキノ? そこの美女さんは何者ですか?」
急にレミシアの声が——冷たくなったような気がした。
ふと、結鶴の顔を見てみると、険しい表情で何故か刀を構えていた。見るからに業物だろうに違いないその刀は今にも抜き出しそうだった。
「いや……こいつは——!」
「ユキノ?」
ビクッと、体が震えた。ものすごく冷たい怖気のようなものを感じた。——ようやく、この感じの正体が分かってきた気がする。
これは、殺気だ。
「勇者の掟では、他者の職種には一切関与せず、使命に従う……でしたよね?」
「う……」
レミシアの顔は、笑っている。無邪気な子供のような笑顔。だが、感じるものは殺気しかなかった。
ユキノもそれが分かっているようで、息をゴクリと音が聞こえるほどに緊迫していた。
「なるほど……では、拙者を助けた時点でその掟は破られたと?」
結鶴が鋭い目線でレミシアを睨みつけた。——だが、レミシアはあくまで笑顔を保ち続けている。
「そうですねぇ〜☆ 英雄の取扱説明書を奪おうと考えてることも、見据えてきますから」
「拙者たちを愚弄するかっ!? 拙者たち、剣を志すものはそんな外道なことはしないっ!」
結鶴とレミシアのにらみ合いが続く。一方は険しい表情。そのまた一方は笑顔というなんとも奇妙な画だった。
「貴方達を愚弄したかどうかは分かりませんけど〜、ユキノは掟を破っちゃいましたからね☆」
「だ、だって! 血だらけだったんだっ! 死にそうだったんだぞ!? 僕は……!」
ユキノは取り乱したように叫んだ。ていうか——ちょっと待てよ?
「なぁ。……その、勇者ってのは——目の前で血だらけの人間がいても、助けないのか?」
レミシアは俺の言葉にさらに目を細めて笑顔になる。憎めない笑顔だね、全く。
「えぇ、掟ですからね〜☆」
「掟って……それで、目の前にいる死にかけの人間を助けないのかよ?」
「ふふっ。そんな簡単に能力者は死にませんよ〜☆ あ、能力者っていうのは、職種のある人のことですよ〜☆」
死なないとか、死ぬとかそういう問題じゃないと俺は思った。
単に、目の前で傷ついている人がいたら助けるっていうのが道理なんじゃないのか? そもそも、勇者ってじゃあ何なんだ?
「よく"勇者"と名乗れたものだな。貴様らの方がよっぽど外道ではないか」
「ひどい言い様ですね〜? 勇者をこんな風に変えたのも——貴方達、別の職種のせいなんですけどね☆」
あくまで笑顔を絶やさないレミシアは凄いと思う。だけど——何か腹が立つな。
「ちなみにだが……掟を破ったら、どうなる?」
「掟を破ったら——どうなるんでしょうねー☆」
「どうなるんでしょうねって……聞かれても。逆に聞いてるんだけど?」
「ふふっ。実際のところは分かりません☆ 軽い罪、重い罪の場合とありますから☆ 時と場合によりますかね〜」
じゃあユキノの身は保障できない。そう捉えていいわけか?
だとしたら——俺はどうするべきだ? このままレミシアがユキノを捕えようとした時、俺は止めに入るべきか?
助けよう。そう促したのは俺じゃないのか? だけど、このままユキノが去ってくれたりすれば日常は元に戻ったりするんじゃないか?
「ま、とにかくですね〜。ここで決めちゃいます☆」
「……何を?」
「罰の内容を☆」
軽々と言ってくれたな。ここで罰の内容を決める?
「レミシアとやら。お前にそんな権限みたいなの、あるのか?」
「ありますよ〜☆ 一応、ユキノの上司みたいなものですから☆」
勇者にも上司部下の関係とかあるんだ。
そういえばさっきからユキノが——ずっと震えていた。様子が明らかにおかしい。
結鶴は先ほどからずっと、レミシアを睨み続けている。よく疲れないな?
「じゃあ、決めますね〜?」
レミシアは嬉しそうに人差し指を左右に振りながら笑顔で口を開いた。
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.30 )
- 日時: 2011/03/11 00:14
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「モンモン討伐、ユキノと武士さんにお願いします☆ あ、ついでに香佑君も宜しくお願いしますね〜☆」
「……え?」
俺達は驚いて、開いた口が塞がらなかった。えーと? なんだって? モンモン討伐?
確かモンモンっていう奴は——アンパンマンみたいな奴らしいな。
「レベルはですね〜……S級でいきましょう☆」
「え、S級!?」
レベル? 何? そんなのあんの? モンモンとやらに。
「モンモンのレベルは、W・E・D・C・B・A・S・SS・SSS・SMKとあります☆ ちなみに、一番強いレベルはSMKですよ〜☆」
最高レベルはSMKで、一番低いレベルはWということか?
Wはなんとなく由来は分かる。ワースト、という意味でWなんだろうな。——違ってたら俺の英語力に泣くね。テスト当日。
「SMKは何の略なんだ?」
「スーパーマキシマムキングの略です☆」
何だそれ。聞いたことねぇよ。スーパーマキシマムキングって……何か強そうな感じするけどな。
「スマキなんか相手にしたら、木っ端微塵だぞっ!」
スマキって——スーパーマキシマムキングのカタカナ略バージョンか。スマキって、何だか"簀巻き"みたいなんだが……
ていうか、木っ端微塵って何がどうなるか分からん。触れたら木っ端微塵なのか、強さが木っ端微塵なのかも分からん。
「それで……拙者も含めて、その中のSレベルのモンモンとやらを倒せばよいのか?」
「そうですね〜☆ それで許してあげます☆」
レミシアはウィンクして結鶴に返す。うん。普通に可愛いと思った。
ていうより、俺ついでか。今更のツッコミだけど。ついでに俺も戦えってか。
「Sレベルとか言われても、その強さの度合いが俺にはよく分からない。例えば、どのぐらいなんだ?」
「そうですねぇ……あ、今の香佑君が一人で相手にしたら、本当に木っ端微塵になるぐらい、ですかね☆」
俺的にとんでもなく危ない情報聞かされたぞ。今、軽々と言ってくれたけどなっ! すごく情報度キツいよ、それっ! 半ばユキノが言ってたことは間違いではなかったっ! SMKレベルだったら俺、どうなるんだろう。
「SMKレベルだと、存在が飛びます」
「ひぃぃぃぃっ! 恐ろしすぎるっ!」
——俺を白い目で見ないでくれ、ユキノに結鶴よ。
レミシアはそんな俺達を見て、クスクスと笑い声をあげる。
「まあ、そういうことで——頑張ってくださいね☆ 後ろ、来てますから」
「「——え?」」
ふっ、とレミシアの姿が消えてなくなり、俺達は声を重ね合わせることになる。
最後に残した言葉って、何? 後ろ、来てます?
後ろを振り返ること、コンマ何秒だっただろう。俺達は一斉に振り返ることになった。
「もにゅっ!」
「「………」」
そして絶句することになった。
可愛らしい小動物の声をあげて立っているのは——リスのぬいぐるみを着た、どっからどうみても人間様様だったからだ。
「茶色の純粋瞳だっ!! 離れろっ!」
え、何? 茶色の純粋瞳っていうの? この可愛い小動物。
「離れる心配本当にあんのか? こんなにもかわい——」
グシュッ! という、実に気持ちの悪い音が俺の耳を貫いた。
そして、何かの液体が俺の顔にかかる。生暖かい感じがしないでもない。
そして何故か、さっきまで隣にいたユキノが——目の前にいたんだ。
何故か震える手で、ゆっくりと自分の頬を触ってみると——ベットリと、自分の手に赤い液体がついた。
これは、血だった。匂いがまさに結鶴が血だらけで倒れていた時に放たれていた匂いと同じだった。
「え……?」
よくよくユキノの姿を見ると、何かがユキノの腹を——貫通していた。
そこから血が滴り落ちる速度は、全く止まることを知らない。ユキノの目の前にいるのは——あの可愛い小動物だった。
小動物の腕が変形しており、それがユキノの腹部を貫いたのだと分かる。
何もかもが、突然のことすぎた。そして、今真っ白になりかけの使えない頭の中で真っ先に理解できたことは。
——俺をかばって、ユキノは腹部を貫かれたのだと。
「ユキノっ!!」
俺の何とか奥底から搾り出した叫び声とほぼ同時に、ユキノの体から鋭い何かが抜かれた。
あまりに見るのはおぞましい、腹部のグロテスクな傷跡がユキノに残っていた。
「もきゅきゅ〜。バカだな〜、油断してたしてたとか」
可愛らしい小動物は、捻れて鋭く変形している手を。ユキノの血が滴り落ちる手を小さな舌でなめた。
ユキノは真っ青な顔をして倒れこむ。そのユキノを俺は、しっかりと抱きかかえた。
「おいっ! ユキノっ! しっかりしろっ! ユキノっ!」
ユキノは青ざめた顔のまま、まるでもうすぐ死ぬかのような表情をしていた。とても、苦しそうな表情をしていたんだ。
「こんなこと、手伝おうなどとは欠片も思わなかったが……一泊の恩と傷の治療をまだ——拙者はユキノ殿に伝えておらんのだっ!!」
結鶴は刀を鞘に納めた状態で、モンモンに向けて駆け出していく。
「早く貴様を倒し、拙者がユキノ殿を助ける番っ!」
言い放ち、身構えるモンモンと少しの距離のところで結鶴は止まる。
刀を腰に身構え、居合い斬りのような形に入った。目を閉じ、魔力のような淡いオーラが結鶴を包んでいく。
「——神速・謳歌一閃っ!!(しんそく・おうかいっせん)」
目を勢いよく開き、それと同時に刀を——抜き放つ。
それはコンマとかそんな秒数などでは計れないほどの速度。
遠くにいるはずのモンモンが衝撃のあまりに後方へと吹き飛んでいく。結鶴は既にその頃には鞘へと刀を完全に納めていた。
そんな結鶴の戦いを見ることもなく、一心不乱に俺はユキノを抱きかかえてどうすればいいのかを考えていた。
「クソッ! どうすればいい……!」
病院に連れて行くにしても、この辺りに病院はない。少し遠い場所にあるが——これだけの重傷だ。間に合わないだろう。
それよりも何故、ユキノが自分を犠牲にしてまで俺を助けたのか、いまいちよく分からなかった。
「ユキノは、他人の血を見るのが大嫌いなんですよ〜☆」
先ほど、姿を消したはずのレミシアがいつの間にか俺の真横に笑顔で立っていた。
「昔、ユキノは色々ありましてね〜☆ そのせいで、正義感がさらに強くなっちゃったり、そのことに一番関連している魔王を倒したがってるわけなんですよ〜☆」
「色々なこと……? 何だ? それは。ていうより、先にユキノを助けてくれっ」
「それを聞いちゃうんですか〜☆」
クスクスと笑うレミシア。目の前でユキノが腹貫かれて死にそうだというのに能天気なことだ。助けてくれと言っているのにスルーまでしやがる。
「その子が何故香佑君をかばったのか。それは——失いたくなかったのでしょうね☆ 守るべきものを」
「守るべき、もの? 俺が?」
「はい☆」
自信満々に返事するレミシア。いつも俺に文句ばっかり言ってるこのユキノが?
だんだんと顔が青ざめていっていることを見る限り、もう限界は遠くないようだった。
「勇者は治癒能力か何か、使えるんだろ? それ、ユキノに使ってくれないか?」
「ん〜、お断りします☆」
平然と言うレミシアの言葉に俺はさすがに腹が立った。目の前で同じ仲間が。それも部下が死にそうになっているというのにこの態度。
「お前——!」
「助ける方法、ありますよ☆」
俺の言葉を遮るようにしてレミシアは言う。俺達から少し離れたところでは、結鶴が茶色の純粋瞳と激しい戦闘を繰り広げている音がする。
もう少し頑張ってくれと思いながら、俺は思った。——何としてでも、ユキノを助けたいってな。
「それは、どういう方法だ?」
「ふふっ、知りたいですか〜?」
もったいぶらせながら、人差し指を左右に振るレミシア。可愛いけどな。今はムカついて仕方がない。
「冗談ですよっ☆ 方法はですね〜☆」
俺の目の前までゆっくりと近づいてきて、そしてレミシアは言った。——俺の耳元で。
「香佑君がユキノをキツ〜く抱き締めて、婚約の言葉を耳元で甘〜く囁いてくれちゃってください☆」
「……え?」
勇者ユキノの恐るべき取扱方法がレミシアの口から伝授されたのだった。
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.31 )
- 日時: 2011/03/12 23:40
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「まるで恋人のように、ユキノを抱き締めて——」
「待てぇっ!! 皆まで言わんでいいっ! いや、マジで?」
「マジのガチの本気です☆」
何だよ、婚約の言葉って。いわゆる愛の告白的なものだろ? 結婚してくれ、とか何とかエクセトラっ!
ヤケクソにもなりますよ。でも——助けたい。俺をかばって死ぬとか、考えられない。
たった数日だけだったけど、こいつは自分より他人の命を優先してきた。だが、俺はどうだ? 自分のことしか考えていなかった。
いや、怖れていたんだよ。チキン野郎なんだ、俺は。手に入れたものが失う気持ちをとっくの昔に知ってたから。
だから、一人になるいつも通りの日常を選んだんだ。
「どうするんですか〜☆ このままだと、ユキノ本気で死んじゃいますよ?」
「う……」
俺は、ユキノの顔を見つめる。もう死人のように顔が白くなっている。お姫様抱っこのようにしているから分かるが、冷たくもなってきている。もう、命が危ないことを示していた。
「——やってやる」
呟くようにして、俺は決意を決めた。
レミシアは俄然、笑顔のまま見つめている。
「本当に、言ったら助かるんだよな?」
「はい☆ 勇者の掟にも、私のポリシーに代えてもお約束しますよ☆」
しっかりと事実を確かめた後、深呼吸をする。落ち着け。何もそんな焦る必要はない。何もキスするわけじゃあるまいし。
抱きついて告白すればいいだけだ。——よし。
俺はユキノを優しく、だがしっかりと手に力を込めて離さないようにして抱き締める。
すごく、すごく冷たい体だった。もう死んでるんじゃないかと思うぐらい。
やっぱり生きて欲しい。何だろうな、この気持ちは。俺の過去に——こいつも似ているような部分があるかもしれないな。
そして、俺はできるだけ優しく言った。——向こうの方では結鶴が格闘している音が聞こえて、場所はよくないと思うけど。
「俺は——ユキノを、愛してる。だから、生きろ。んで、戻って来い。数日間だけ家族だったなんて、認めねぇぞ。こうなったら——何年でも家族になってもらうからなっ!!」
——言い切った。何故だか、悔いは残っていない。うん。いい感じだと思うんだよな。
その瞬間、ユキノの体がまばゆい光を放ちだした。その眩しさに俺は目を細め、そして瞑ってしまった。
何分間か、経ったような、経っていないような錯覚を覚えながらも目を開いた。
「う……?」
ユキノが、目を開けた。嬉しかったさ。飛び跳ねるほどにな。——この体勢を除けばな。
「あ、あれ……? 香佑?」
「初めて、名前で呼んでくれたような気がするな、ユキノ?」
「う、うるさいなっ! ……って、何でこんなに顔が近いわけ?」
「いやぁ……すまん。俺も目覚めたら体勢がこんなことに」
「体勢……?」
ユキノは顔をしかめ、体勢をよく確認した。——思えば俺はこの時、逃げていればよかったのかもしれない。
俺とユキノは寄り添って寝る恋人のように——抱き締め合って寝転がっていたのだった。
「〜〜〜〜ッ!!」
言葉にならない叫びっていうのは、こういうことなのかねぇ。
俺はその後、盛大にぶっ飛んだ。ついでに地面に顔からのめりこみそうになった。レミシアに軽く蹴られて助かったけど。
「成功、ですね☆」
「成功、なのか」
俺は少し生死の境を寄り道程度に歩いてきた後に、ユキノの姿を見やる。
あのグロテスクな腹部のケガは癒えており、元気さも元通りだ。——もうちょっと大人しくなってればよかったんだが。
顔を真っ赤にして頬を膨らませているユキノを見ると、なんだが自然に笑みが零れてくる。
「何があったのかは全然覚えてないけど、ぶっ倒してやるぞーっ!」
気合充分のユキノは、腕をぶんぶん回しながら戦闘を行っている結鶴の元に向かおうとした。
「よーし、出てこーいっ! ダイダロスーっ!」
ユキノの持ってる機械仕掛けの大剣の名前って、ダイダロスっていうんだな。
ふっと、映画でよく見る魔法のように空間から出現したダイダロスを右手で持とうとする。
「ふふっ☆」
「ん?」
隣にいたレミシアがクスクスと笑う姿に、少し違和感を感じざるを得ない。
「重たっ!!」
ユキノの姿を次に見やると、いつも軽々しく振るっているはずの大剣を重そうにしていたどころか、1mmも持ち上げられていない。——どういうことだ?
「ユキノはですね☆ ——先ほどの婚約魔法のおかげで、自分の魔力を無くしてしまったんです☆」
「……ということはつまり?」
「つまり、ユキノは現在勇者というより——ただの活発な少女ですね☆」
先に言えよ。そんな大事なこと。
未だ気付かず、ユキノは大剣ダイダロスを持ち上げようとしているが——ただの少女と化した今のユキノには持ち上げることすら不可能な状態だった。
「もにゅにゅ! あの娘っ! まだ生きてた生きてた?」
茶色の純粋瞳は、その可愛らしい瞳を煌かせてダイダロスを持ち上げようとしているユキノに向かって走り出した。
「待てっ! 逃がしはせんっ!! ——神速・謳歌一閃!!」
結鶴はモンモンの背後から神速の居合い斬りを放つ。
「もうその技は——見切った見切った、もきゅっ!!」
茶色の純粋瞳は体を捻れさせて、斬撃の軌道を読み——斬撃すれすれのところを避けた。
そしてそのままユキノへと直進していく。もう一撃、謳歌一閃を放とうにも、この位置では既にユキノごと斬り裂いてしまう位置にまで茶色の純粋瞳は移動してしまった。
「くっ! しまったっ!!」
「もきゅきゅ〜〜!! 死に底ないの小娘小娘? 次こそ——殺すもきゅ〜〜!!」
茶色の純粋瞳はユキノの上空に飛び、そこから一気に突き刺そうと、ユキノに標準を合わせる。
いつもの勇者なユキノだと、近寄る気配などで簡単に避けることが出来たりするのだが——今は完全にどこにでもいる女の子。茶色の純粋瞳が標準を合わせた頃にやっと気付くことが出来たが、もう遅い。
「え——」
「死ねもきゅううっ!!」
ユキノは逃げる暇もなく、ただ上空から落ちてくるリスのような小動物を眺めるだけしか出来なかった。
凄まじい勢いで小動物は、ユキノの元に落ちていく。そして——直撃する。
身を裂く音。骨が折れ、割れて、飛び散る音。肉が裂けて、辺りに散乱する音。それらが全て——俺の神経に伝わる。
「こ、コンクリートっ! じゃなくて、香佑っ!」
「も、もきゅぅっ!?」
「クソゴミ英雄、香佑殿っ!」
「ふふっ☆ 微笑ましい光景ですね☆」
そこにいる、誰もが驚いたらしい。——コメントおかしい奴が三人いるけどな。
何にせよ、肉とか裂けたりする感覚ってこんな感じなんだな。恐ろしく気持ち悪い。何にせよ、結構痛いどころじゃない。
多分内臓何個かやられたな。そんなこともまでも、いらないことに脳が教えてくれたりもする。
俺は——ユキノに喰らうはずだった茶色の純粋瞳の攻撃を代わって喰らい、胸辺りからザックリと貫かれてます。
深呼吸してから——いや、できねぇわ。肺が完全にやられてやがる。
「おい。この可愛いマスコットキャラ的な小動物」
「む、むきゅうっ!? 離せ離せ?! むきゅうっ!!」
しっかりと、腕に力を込めて俺を貫いているすげぇ尖った腕を掴んで離さない。離したら、俺以外に危害が喰らうかもしれないしな。
必死に離させようと、この小動物はやっているが、全く効果はない。いくら掴んでいる手を叩こうが斬ろうが、だ。
「お前のせいで、俺は大事なものをまた失いそうだったじゃねぇか」
「む、むきゅうっ!? 何の話話? むきゅうっ!!」
戸惑う姿は女の子っぽく見えて、少し良いなぁとか思ってしまうところだが、今はそんな気分じゃないね。
「でもよ、気付かせてくれたのも、またお前だ。だから、感謝が一割ってとこだな。——んでもって……よくも俺を、"異常"にさせてくれやがったな、コノヤロウ」
「え? えっ!? むきゅううっ!?」
バチバチと、唸りをあげて、俺の右腕からエルデンテが自然と出てくる。実にいいタイミングで出ますね。本当。
「よし、そろそろ俺も死にそうだけど——先に逝けぇぇぇぇっ!!」
「む、むきゅううううっ!!」
思い切りよく、振りかぶって殴った後の爽快感は忘れない。そして、目の前が真っ暗になって、死んだと理解した感覚も——忘れない。
これで死ぬなら、本望じゃないか? 最期に大事なものが何かを気付くことが出来たんだから。
何で俺が、こんなことをしようと思ったのか。そんなことはどうでもいい。
ただ——小さな英雄になら、なりたいなと思っただけだ。
目の前で、死なせてたまるか。ていうか、恥ずかしい思いして復活させたんだ。——死なせた理由は、俺だけど。
数日間しか、過ごせなかったけど。食事する時ぐらいしか、笑顔でいられなかったけど。
——楽しかったさ。これが、普通の家庭なんだってな。
俺は、最初から普通を望んでいたんだよ。
最初から、異常な生活だったんだ。
普通の家族でありたい。そう願う日々が異常だなんて、考えたことがなかった。
だけど、孤独よりかはマシだと思った。一人よりか、全然楽しかった。
数日間だけだけど、普通の家庭を与えてくれて、感謝してる。
ゆっくりと、俺は——笑顔で倒れていった。既にその時には意識は無かった、けどな。
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.32 )
- 日時: 2011/03/12 11:48
- 名前: 結衣 (ID: exSyRdXW)
- 参照: http://yui
・・・・・ かみすぎる
まさかの超展開・・・
あと香佑しんじゃだめ・・・・
とても面白かったです
これからもがんばってください
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.33 )
- 日時: 2011/03/12 23:59
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
>>結衣さん
コメントありがとうございますっ。
噛みすぎる?ですか?
現在物語上、最も展開が出た場面ですね……。どれほどのことが描けたか分かりませんけども。
香佑君は、一応主人公なので……これからの展開に乞うご期待をっ!
面白かったですか?よかったですーw
はいっ。このような駄作ですが、精一杯頑張らせていただきますので、応援宜しくお願いしますっ。
改めて、コメントありがとうございましたっ。
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