ダーク・ファンタジー小説
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- 白薔薇のナスカ《改稿版投稿完了!》
- 日時: 2017/09/10 23:51
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: SkZASf/Y)
初めまして。あるいはこんにちは。四季といいます。
以前他サイトに投稿していた作品なのですが、こちらに移動させていただくことにしました。
初心者なので拙い文章ではありますが、どうぞよよしくお願い致します。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
初期版 >>01-50
2017.8 改稿版 >>53-85
- 白薔薇のナスカ ( No.6 )
- 日時: 2017/05/28 21:21
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: RuL2wqqJ)
episode.3
「少女の出撃」
その日の晩、ナスカは沢山の人が集まる一階の食堂へ招かれた。実を言えば、態々エアハルトが部屋に来てくれたので断れなかったのだ。彼は仕事を終えて帰ってきたとは思えない元気さで、彼女を食堂まで連れて行く。彼が颯爽と歩くと廊下にいた人の視線を釘付けにした。
「ここの食堂はバイキングになっています。不必要に取らなければ何を取っても問題ありません。但し、年上の者優先というのだけがルールです」
エアハルトが優しく説明してくれている間、周囲からの興味津々な視線が激しくて少しばかり恥ずかしいが、親切で話してくれている以上止めろとは言えず、耐えるしかない。
「あ、そうそう。これを聞こうと思ってたんです。これからは仲間になるので、お嬢さんと呼ぶのも変ですし、ナスカで構いませんか?」
彼が笑顔になる度に女性陣からの痛い視線が突き刺さる。嫉妬されているのか気になっているだけなのかは分からないが、得体の知れない視線の前に為す術は無かった。
「あ、それで大丈夫です」
ナスカは周囲を刺激しない様に控え目に頷き小さな声で答えた。
「じゃあ晴れて仲間って事で、これからは普通に喋らせてもらうね」
先程までとは打って変わって陽気な喋り方になる。彼がたまに見せる無邪気な表情が実に興味深い。ナスカは、もしかしたら結構社交的な人なのかもしれないなと思ったりした。
「あれ、アードラーさんだ。その女の子はどちら様?もしかして噂の新入りさんですかいっ?ふふっ」
そんな微妙なタイミングでテンションが高めな女の人がエアハルトに声を掛けてきた。肩ぐらいの長さの茶髪を下で適当に括っているのが女々しくない感じで良い。さっぱりして爽やかさが伺える。
「あぁマリー、用事が終わったか。この子の事が気になるのか?彼女の名はナスカ、宜しくしてやって」
するとマリーと呼ばれたその女の人は手を取り笑顔で気さくに喋り掛けてくる。
「初めましてナスカ。マリアムって言います、宜しく!呼び方はマリーで良いからね」
笑うと案外愛らしかった。
「彼女は僕の専属整備士をやってくれているんだ。とてもいい子だから好きになると思うよ。マリー、食事は?」
エアハルトの問いにマリアムは答える。
「今から!じゃあ折角だしナスカも一緒に食べよっか!あたしも友達が増えたら嬉しいな」
ナスカが困っていると彼は満足そうにマリアムの横で頷いていた。
「それを頼もうと思っていたんだ。流石にマリーはよく分かっているな!」
ナスカは「普通と違うタイミングで入った自分に友人を作ろうとしてくれているのだろう」と推測した。エアハルトは職業が優秀なだけではなく気遣いの出来る男である。人気な筈だ。
「そりゃ専属だもの。アードラーさんの事は一番分かってるに決まっているじゃない」
マリアムは面白可笑しく威張る演技をする。苦笑いしていたエアハルトはナスカに凝視されているのに気付くと急激に冷たい態度で言い放つ。
「専属なのは僕の機体が普通のと違うからだろう!特別仲良い事もない」
それにマリアムが鋭く突っ込みを入れる。
「誰に対して言ってるんだか」
やれやれという分かりやすいアクションをしながら呆れ顔になる。
「君は本当に失礼だな!」
エアハルトはむきになり鋭い言い方で反撃した。
「あれ〜、ナスカがいるからかっこいい演出してるの〜?わぁダサいね」
「無駄口を叩くな!」
二人はナスカの目の前で仲良く喧嘩していた。しかし視線は感じないので、どうやらいつもの事らしい。珍しくはないのだろう。
「もういい!ナスカ、二人で食べよう。あの様な女はもう知らん!」
最初にそっぽ向いたエアハルトがナスカの右腕を掴む。すると続けてマリアムが言う。
「女同士の方が良いに決まっているわよね!あんなカッコつけはほったらかしといて仲良くしようね」
「は、はい……?」
そして左腕を掴んだ。
それからほんの少し間があってマリアムは笑いだす。何が面白いのか今一分からないが、爆笑だった。一方のエアハルトはテンションが低くなって溜め息を漏らしている。
「傷付いた?ごめんなさい」
マリアムは言葉では謝るが謝罪する気は無いらしく楽しそうである。ナスカはマリアムに言ってみる。
「マリーさんって、エアハルトさんと仲良しなんですね」
すると彼女は急に目線を逸らした。
「えっ、そう見える?そんな事ないけど……」
何だかんだで二人は仲良しだった。二人共お互いに否定していたが、それこそ仲の良い事の証明だろう。
その後、結局三人で夕食を食べた。ナスカはそんなにお腹が空いていなかったし、遠慮もあり、ティーカップ一杯分のコーンポタージュとロールパン二個だけにした。味は予想よりかは美味しいが別段美味でもない。しかし久々に誰かと食べる夕食は格別な気がした。
それから数ヶ月が経過、ナスカは着実に訓練を積んでいた。初めての飛行で彼女は皆を驚かせる。多少のあどけなさはあるにせよ、初心者とは思えない見事な飛行を見せたのだった。それからナスカに期待するファンが急に増えた。訓練が忙しくなってきても、週末にヴェルナーに会いに行く習慣は変えない。一向に回復しないのを見ていると既に死んでいるのではないかと何度も思ったが、体が温かいので微かな期待を捨てられずにいた。彼がどの様な状態にあるのかナスカには分からない。だからこそ、明日には、来週こそは、と繰り返し回復を祈った。
搭乗機を決定する日、ナスカはエアハルトに連れられて倉庫へ行った。その倉の中には色々な空を飛ぶ乗り物が置いてあった。古臭く壊れた物から艶のある新品らしい物まで、様子は様々である。
「ボロボロな機体は古くて壊れた処分待ちだから、そういうの以外でね」
興味津々でキョロキョロしながら歩いていたナスカは、ある一体の機体の前で吸い寄せられる様に立ち止まった。真っ赤なボディに白い薔薇のマーク。
「……これは?」
尋ねるナスカを見てエアハルトは唖然とする。
「それに興味があるのかい?」
ナスカは彼の表情の意味を分からず頷いた。
「僕の機体と一緒で、レーザーミサイルが撃てるタイプのやつだよ。でもずっと適応者がいなくてお蔵入りさ。製造者によると腕の良いパイロットにしか運転出来ないとか」
苦笑しているエアハルトを他所にナスカは明るく言う。
「素敵。これにしましょう!」
それを聞いた彼は怪訝な顔で確認を取る。
「……本気かい?」
怪訝な顔のエアハルトとは裏腹に、ナスカはもうやる気満々だった。
「乗れるならこれにさせてもらいます!不可能ではないわよね?ねっ!」
流石に彼にも止められなかった。止めなかった、が正解かもしれないが。それに今までのナスカの頑張りを見ていた彼には分かっていたのだ。彼女は何でも出来る子だと。
「分かったよ、君なら大丈夫だろう。今度はそれで慣れるまで飛行訓練を。大変かもしれないが頑張れるだろうからな」
エアハルトは、ナスカがこの機体に乗る様になればきっとクロレア航空隊の大きな戦力になると予想していた。
- 白薔薇のナスカ ( No.7 )
- 日時: 2017/05/28 21:24
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: RuL2wqqJ)
そして来る天体歴1947年、遂に出撃命令が下る。楽しい仕事ではない。今は唯、責任と覚悟を持ち前へ進むだけ。訓練はひたすらしてきたが実戦に出るのは初めてである。
「足は絶対に引っ張りません!それは誓います」
等という半分冗談じみた発言で緊張をまぎらわす。
この日出撃するのは、無愛想なジレル中尉を中心に五名である。ナスカを応援してくれる新米の少年トーレもいた。ジレル中尉はナスカには目もくれず自分の機へと乗りに行ってしまった。エアハルト曰く口下手らしいが感じ悪いイメージが強い。一方でトーレは「頑張ろう!」と妙に力んでいて不安である。エアハルトは持ち場を離れられない仕事がある日だったので仕方無く地上に残る事を決めた。何だかんだいって、ナスカを一番心配していたのは彼だろう。前日から、不自然な言動が目立って増えていた。
当然だが見送りにもやって来る。流石にエースパイロットと呼ばれる男だけあり、その時には頼もしくナスカを励ました。恐らくだらしない姿を見せられないと頑張ったのだろう。
「君は一人じゃない。きっと上手くいくよ」
エアハルトは微笑んでいた。
第二航空隊待機所から、白薔薇の描かれた機体が空へ飛び立った。クロレア航空隊から初めて女性の戦闘機が空を舞った瞬間であり、それがナスカ・ルルーの伝説の始まりである。
- 白薔薇のナスカ ( No.8 )
- 日時: 2017/05/29 20:43
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: aOQVtgWR)
episode.4
「出来る、そう信じる」
出発して数分、敵国のマークが描かれた戦闘機と接近する。敵機の飛行速度は訓練時に周囲を飛んでいる物とは比べ物にならないぐらい速い。何とも形容出来ない様な緊張感が全身を駆け巡るが、不安な気持ちは光の速さで消え去っていた。訓練通りにするだけだと自分に言い聞かせる。
ジレル中尉は最初に来た一体をミサイルで見事に撃墜した。
ナスカは冷静になり練習の時と同じ様に近付いて来た敵機に照準を合わせると、素早く引き金を引く。形の無いレーザーミサイルは引き金を引いている限り連射されるシステムである。そうしてナスカは見事に仕留めた。敵の機体は煙に包まれてふらふらと緩やかに落ちていく。ドキッとする瞬間は数回あったものの、その後も軽々と数機を撃ち落としてみせた。生まれて初めてのスリリングな経験に、密かに胸をときめかせていた。 彼女は初めての出撃にして、既に才能を開花させていた。そんな彼女の活躍もあり残ったリボソ国の戦闘機達は撤退していった。もっと撃ち落とす為に追いたい気持ちもあったが、帰還せよと命令を受けたので進行方向を変えた。
待機所へ帰り機体から降りると先に降りていたトーレが手を大きく振りながら駆け寄って来る。ナスカは、「流石だね!」と嬉しそうに言ったトーレとハイタッチを交わした。
「凄かったよ〜、やっぱり惚れちゃうなぁ。お互い無事帰ってこれて良かったね」
トーレはぱっちりした明るい色の目をきらきらと眩しく輝かせてナスカを褒める。
「えぇ。ホント、何もなくて良かったわ」
ナスカはそう軽く流してから片付けをした。後の調整は整備士の方にお任せだ。
「ねぇ、トーレ。向こうまで一緒に帰る?」
声を掛けられたトーレは大慌てでバタバタと片付け光の速さで飛んできて、ハキハキした返事をする。
「はい、喜んで!」
ナスカとトーレは建物に帰ろうと二人で歩いていく。その途中で偶然ジレル中尉が目の前を通り過ぎようとした。
「ジレル中尉、お疲れ様です」
声を掛けると彼は冷たい目付きで少しだけナスカを見たが、ぷいっとそっぽを向いてしまった。その様子を見ていたトーレが皮肉を言う。
「僕この前も思ったんだけど、何ていうか、あの人ちょっと感じ悪いよね。何か言ってもほとんど無視するし、あれじゃ出世出来ないんじゃないの」
その日の夕食時たまたま廊下で出会ったトーレと一緒に食堂へ行くと、エアハルトとマリアムが仲睦まじく二人で座っていた。先にナスカに気が付いたのはマリアムの方だった。
「あっ、ナスカ!」
その声によって気付いたエアハルトが表情を明るくしてナスカの方を見る。しかし横にトーレがいるのを目にすると少し気不味そうにした。
「エアハルトさん、お隣座っても構いませんか?」
ナスカが尋ねると彼は「いいよ」と穏やかに答える。
「えーっと、じゃあ僕はここで失礼します」
トーレが頭を下げてその場を離れていくと、マリアムがやたら褒めてくる。
「ナスカ、今日の活躍聞いたよ!何機も落としたらしいじゃない!初めてなのに凄いね、流石だわ」
するとエアハルトは誇らしげに胸を張った。
「僕の育てた有力なパイロットだからなぁ。マリー、僕を尊敬したか?」
マリアムは何食わぬ顔で敢えて丁寧に嫌味を言い放つ。
「まあ、何を勘違いなさってるの?彼女の才能ですけど」
彼は言い返せなくなったらしく膨れて黙った。そんな彼に気を遣いナスカはフォローする。
「そんなそんな、才能なんかじゃありませんよ。エアハルトさんに色々教えて頂いたから上手くいきました!」
「ちょっと、謙遜させるんじゃないですっ!可哀想!」
マリアムはエアハルトに対しては皮肉や嫌味を言ったりするがナスカには優しかった。
この出撃で戦果を挙げたナスカの名はクロレア航空隊にあっという間に知れ渡っていった。初めての女性戦闘機パイロットとして期待の星になる。とはいえこの時点では軍部での話題であり、国民らが彼女を存在を知るのはまだ先の事だが……。
- 白薔薇のナスカ ( No.9 )
- 日時: 2017/05/29 20:45
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: aOQVtgWR)
天体歴1949年・夏。クロレア航空隊は安定の戦績だったがリボソ国の強力な海軍を相手に海兵隊は一気に追い込まれていた。
第二待機所もターゲットになり度々砲撃を受けており、明るい季節の筈なのに硝煙の匂いが絶えない。初めて来た頃の様な高い空はもうなく、空は灰色の煙に包まれている。海は荒れて白い泡に埋め尽くされていた。航空隊のパイロット達も出撃時以外には迂闊に外へは出ることができず、退屈でうんざりしていた。一日の殆どを狭い部屋か人だらけの食堂で暮らすのである。
ナスカはもうすぐ18歳。エアハルトは日を追うごとに忙しそうになっていく。偉くなると飛行だけが仕事ではないのだ。自由時間にはトーレと過ごす様になった。エアハルトがいない時は年の近いトーレといるのが楽だった。昔の話をしたり将来について語り合ったりしていると案外盛り上がった。平和になった未来のクロレアを想像して楽しむ。だがそんなのは所詮幻想で、現実は悪化していくばかりである。
それから数週間後、大きな仕事が舞い込んできた。形勢逆転を狙った軍部が航空隊に敵戦艦を潰せという命令をしたのだ。作戦の参加者名簿を渡された。エアハルトを代表とし、そこにはナスカの名前も載っていた。開始は明後日だ。
「これ、私も行くのですか?」
時間のある時にエアハルトに確認してみると彼はそっと頷いて「どうやら、そうらしい」と返した。この作戦は後に『第二沖戦艦大空襲』と呼ばれる事となる大規模な作戦である。
今すぐ出発という訳ではないが早めにしておこうと思ってナスカは準備を始める。
「今回もまた一緒ね。今度も宜しくね」
トーレが冴えない表情をしているのに気付きそれが不思議と気になった。唇は結ばれ口数は少ない。瞳の輝きも控え目で伏せ目気味であり、色がいつもより濃く見える程だ。何より明るい雰囲気が出ていない。
「どうしたの?浮かない顔してるけど、体調が悪いとかなら早く申し出た方が良いわよ。無理して飛ぶのは危険だわ」
ナスカが心配して彼の顔を覗き込むと、彼の暗い瞳にナスカの心配そうな顔が映る。
「あ、ごめん。平気だよ。僕、何かおかしかった?いつもと違ったかな……」
笑みを浮かべるが顔がひきつっている上に、声にも張りがなく弱々しい。
「何となくおかしい所があったりする?」
トーレは首を横に振った。
「何もない……元気だよ」
発言とは裏腹に手が小刻みに震えているのを発見しナスカはその手を優しくも素早く掴む。
「手が痙攣しているわ!病気の初期症状かもしれない。これを隠していたのね?無理をしちゃ駄目よ!」
ナスカが必死になって言うのを聞いたトーレは笑いが込み上げ、少し経って吹いてしまう。そして笑い出す。笑われたナスカは展開が分からず焦った。
「え、ちょっ、どうしたの?どうして笑い出すの?」
トーレは笑い過ぎて溢れた涙の粒を人差し指で拭いながら口を開く。
「病気て大袈裟なっ」
ナスカは唖然とするばかりだった。
「ごめんなさい……何だか笑いが止まらなくって。いや、ありがとう。元気が出たよ」
しかしさっきまでの暗い表情は吹き飛び、いつもの彼らしい顔になっている。瞳にも涙の粒と一緒に光が戻った。
「……何だったの?」
怪訝な顔をしているナスカに対して彼は説明する。
「実は、情けないけど怖かったんです。よく分からないんだけどさ、あの紙を貰った時、今までにない不安さを感じて。確かにクロレアの為に働くつもりだけど、もしもの事があったらと思うと……」
ナスカはそれを聞いてやっと理解出来た。彼の手を持ち直して真剣な眼差しを向ける。
「大丈夫よ。私も一緒だし、今までと何ら変わらないでしょ。それに今度はエアハルトさんもいる。心配なんて要らないわ」
言い終わってから微笑むナスカを見てトーレは頷いた。
「そう言われるとそんな気がしてくるよ。……ありがとう」
ナスカは彼の背を叩いて励ます。
「いいの!元気出してね!」
- 白薔薇のナスカ ( No.10 )
- 日時: 2017/05/29 21:44
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: n3KkzCZy)
episode.5
「逆転のこの作戦」
今回作戦は二班に分かれて活動する事となった。リボソ国軍の戦艦が待機所へ向けて出航した所を狙って攻撃する班と、既に攻撃を仕掛けてきている戦艦を爆撃する班に分けられた。エアハルトは前者に、ナスカやトーレ等は後者に含まれる。ジレル中尉もだ。安全度は後者の方が明らかに高いので新しい組がそちらにまとめられたのも理解しやすい。
ナスカはまたトーレが同じで何処か安堵していた。もしもの時に彼が自分を助けてくれるとは期待出来ないが、それでも、知り合いがいるのは安心感が違う気がする。
ナスカはいつもと変わらず自機に乗り込んだ。黒い機体を含む数機が滑走路を経由して空へ飛び立つのを窓から見た。きっと上手くいく、と彼女は口の中で微かに呟き、指示に従い発進する。後は成功の為に最善を尽くすだけだ。
予定通りナスカは高度を一気に落とし、リボソ国の戦艦にレーザーミサイルを撃ち込む。予想外の奇襲に一時は狼狽えた敵だったが、直ぐに冷静を取り戻し、周囲を飛び回る赤い機体に照準を合わせようとする。時間を稼ぐ為、ナスカは時折レーザーミサイルで牽制しながらひたすら高速飛行した。その隙を狙ったジレル中尉の数発のミサイルが戦艦に突き刺さる。ナスカは爆発に巻き込まれない様、素早く離れる。素早く黒い煙に包まれ沈みかけの戦艦にとどめの一撃を加えたのは、トーレであった。
『僕がやったよ!見たっ!?』
無線から明るい声が聞こえてくる。
「最高だったわ、トーレ」
ナスカは前を見据えたままそう答えた。ナスカはひたすら引き付ける役目を全力で果たす。出来る限り早く、一つ残らず沈ませなければならない。だが余裕だ、心の何処かではそんな風に考えていた。
次々と沈没させる事に成功し目標は残り一つの戦艦に絞られる。
『残り一つだねっ!あ、でももう沈みそう』
こんな時に分かりきった事を態々教えてくれるのが愛らしいと思った、その数秒後。
前方を飛んでいたトーレの機体が爆音と共に煙に包まれる。ナスカは何が起きたのか分からず取り敢えずそこから離れる。機体は煙に取り巻かれながら垂直に落下していく。
『む、ナスカ、どうしよ……』
無線からトーレの声がする。
「何なの!?何が起こったの」
ナスカには訳が分からなかった。
『し、死にたくないよ、僕は、まだ……』
トーレはひきつった声で答えになっていない発言をする。その頃に漸く理解した。沈みかけの最後の戦艦の大砲が、トーレの乗っていた戦闘機を撃ち落としたのだと。そのまま落下した機体は戦艦に激突して砕けた。しかし辛うじてコックピットのある前方は割れたりはしているが原形を保っている。奇跡だ。
『こ、怖い……』
無線は生きているらしくまだ掠れた声が伝わってきている。ナスカは助けてあげたいが下手に動く訳にはいかず、無力さを感じる。
『死にたくない。まだ死にたくない。でも、苦しくて、死にたい。よく分からない』
トーレは完全に動転していて荒い息と共に意味不明な事をうわ言の様に繰り返す。
『このまま死ぬかな……火に……怖い怖い怖い』
気味悪く繰り返し呟かれる呪文の様な言葉を、淡々としたジレル中尉の声が遮る。
『仕事は終わった、撤退せよ。新米の救出は私がする』
彼の搭乗機は高度を落としトーレがいる戦艦の上部の辺りへ接近すると扉を開き、何とか這いずり出てきていたトーレに対して「乗り込め」と指示する。しかしトーレは怖い怖いと繰り返すだけで全く進展が無い。少々苛立ったジレル中尉は「お前はまだ死なない!帰るんだ!」と怒鳴った。いつも無口な男の怒声にハッとしたトーレは少しだけだが正気を取り戻して手を伸ばす。しかし空振りばかり。ジレル中尉は殆ど機体から乗り出す様な体勢で腕を伸ばした。やがて手と手が繋がる。ジレル中尉が腕を一気に引き上げるとトーレは空中へ持ち上がった。
「よし、離すな」
機体が進行方向を変える時、片翼が戦艦の端に接触してしまう。それでバランスを崩した機体は落下する様な勢いで待機所へ向かってくる。様子を見ていたナスカらは慌てて離れた。金属が擦れる大きな音が響き、ナスカは思わず目を閉じる。
そして沈黙が訪れる。
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