二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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  ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転完了】
日時: 2013/04/04 01:11
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342

※ (紙ほか)での更新は終了いたしました。
  (映像)で、『  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ』として更新を続けておりますので
  上記参照よりお越しくださいませ。




【 目次 】      >>512
【 重要なお知らせ 】 >>707




 漆千音です。元Chessです。祝・改名一周年((詳しくは >>496



 これは『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』の小説バージョンです。
バージョンですが現在おりじなるわーるど全開です。
ゲーム内で腑に落ちなかった点を自分なりに修正しているうちにややこしくなって
結果ゲーム以上に腑に落ちない点が出てきているかもしれず——小説書きの才能ください←

 過去に間違えて「まもりぶと」って書いちゃって「守り太」とかに変換された守られたくねぇ的な
考えをしたのは後世まで残してやろう。((黙


裏話      >>574
裏話そのに   >>601




【 ヒストリー 】

  2010
8/30 更新開始
9/30 参照100突破に喜ぶ
11/15 十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
11/16 参照200突破に万歳する
12/7 参照300突破にガッツポーズする
12/13 ようやく返信100突破に浮かれる
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
1/27 参照600突破に調子に乗る
3/24 参照1000突破に踊る
3/25 返信300突破・サイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 返信500突破・サイドストーリー【 夢 】
8/11 teximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 フレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 目次編集。これで字数を500くらい減らしたぜ
    サイドストーリー【 僧侶 】
    時間についての説明をアップ >>639
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 サブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
10/30 >>3 メイン登場人物に編集しました。ネタバレはなし。
   &過去の自分の超絶関係ない話を削除。返信数にずれが生じていますがあしからず。
11/4 >>676 『未世界』の説明を掲載。
11/7 四人の超綿密設定掲載。初3000字越え。
12/8 漆千音&十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。未だ時々間違える。
12/9 レヴェリーさん初コメありがたや((←
12/16 重要なお知らせ掲載。詳しくは >>707 へ。

 2013
1/14 移転開始ー。ようやく編集終わった。
1/24 >>727 ⅩⅤ章登場人物紹介チェルスのみ編集。
1/25 >>590 ようやくサイストⅢの編集。マイレナの代わりにアーヴェイを関わらせてみた。
4/3  (映像)への移転終了! 今後の更新はあちらになります。(お知らせ参照)




 今までありがとうございました!
 今後もよろしくお願いいたします。

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Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.588 )
日時: 2012/09/02 08:38
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 振り返って——見えたのは、ティル、ナザム村長、スガーまでいた。そして——用心棒だろうか、
もう一人誰かがいた。
「・・・なんだ、お前はあの旅人じゃ、・・・・・・・・・・・・・・・っ!?」
 村長はマルヴィナをひと睨みした目をそのまま驚愕に開いた。その足を、崖の前へ。
「は、橋がっ・・・橋が、架かっ・・・架かって・・・!」
「すごい、すごいやマルヴィナさん! マルヴィナさんがやったんだね!?」
 え、何知り合い? とでもいうように視線を交わし合う仲間にあとで説明する、と胸中で言いつつ、
マルヴィナは頷いた、でもわたしだけじゃなくて仲間のみんなもね、というマルヴィナの言葉は
ティルには聞き流されてしまったらしい。
すごい、すごいとはしゃぎながらティルは、マルヴィナの言おうとしていることを先に村長に言ってくれた。
「きっとマルヴィナさんは、黒い竜を追っかけるつもりなんだよ! ね?」
「あぁ」マルヴィナは頷く。「やられっぱなしじゃいられない」
「ほらぁっ!」
「むぅ・・・」村長は唸る、唸って、しばらく経って、スガーと仮に用心棒が顔を見合わせ肩をすくめ、
そして村長は——マルヴィナに、頭を下げた。
「・・・え?」
「マルヴィナ殿が黒い竜に襲われたというのは、本当の話——否、全て、誠だったのですな」
「えぇえ!?」
 いきなり礼儀正しくなってしまった村長に、マルヴィナはかえって慌てた。信じてくれたのは嬉しいが、
さすがにいきなりこれではとまどう。なんせさっき、お前、と呼ばれたばかりなのだ。
「魔獣の洞窟に入られたのですな。・・・如何にして光の矢を手に入れられたのかは、多くは聞きませぬ。
——並びに、今までの非礼をお許しいただきたい」
「ちょ、ちょっと待って、わたしはその・・・迷惑かけたのは、こっちだし・・・
でも・・・ありがとうございました」
 マルヴィナが、頭を下げ返した。キルガたちは何のことかよく分からなかったが、
同じように頭を下げておいた。
「マルヴィナさんマルヴィナさん。教会で落としたものって、もしかしてこれ?」
 ティルが差し出したのは——それは、白いピアスだった。
そう、ルィシアのもの。発信機のついた、敵国の証——・・・。
マルヴィナはぎくり、とした。ハイリーの姿が思い浮かぶ。今更気づいた。
ティルの髪色は、ハイリーのそれと同じ。目元もよく似ていた。
——何で気付けなかったんだろう。彼女の守りたかった人は、すぐそこにいたのに。

 マルヴィナは、口を開く——



「ありがとうティル、助かった」



 ——けれど、今は言わない。
いつか彼が、真実を確と受け止められるようになるまで。

「この先がドミールだ」スガーだ。本当にお世話になった、職人だった。
「かなり遠い。魔物も強い。・・・アンタ、何も持たずに大丈夫なのか?」
 スガーが言ったのは、キルガの姿についてである。
ガドンゴ戦で槍を折ってしまったキルガは、徒手空拳の状態だった。
いえ、大丈夫じゃないかもしれません、と素直に言った彼を、スガーも素直に笑った。
「アンタ、武器は?」
「槍ですが・・・」
「ちょうどいい」
 スガーは用心棒に目配せした。頷いて、彼は背負った槍を外す。この次の行動が目に見えてキルガは、
慌てて受け取れません、と言おうとした、だが。
「希望のあんたらを死なすわけにゃいかねぇ。あんたに使われるなら、この槍だって喜ぶはずだ」
 彼らしい、その理由で、キルガを黙らせた。
「・・・その槍で、仲間を守れ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
 キルガは、はっと表情を変化させた。
槍で、仲間を、守る。
この言葉は、確か、確か———・・・。

「マルヴィナさん」
 スガーはマルヴィナに顔を向けた。はい、とマルヴィナはしっかり答える。
「あんたはただの旅人じゃないって、言ったな」
 スガーと初めて会ったときのことを思い出す。
「・・・そりゃそうだよな。こんな、いい仲間がいんだからよ」
 スガーはそう言って、槍を受け取ったキルガを、セリアスを、シェナを見た。
会話すらかわしていないのに、彼はそう言った。
 マルヴィナは仲間を見て、口をつぐんで——そして、笑った。
「・・・当たり前だ」
 スガーは頷く。「言った通り、この先の魔物は強い。だが」
そして、同じようにもう一度、笑った。
「・・・アンタなら、大丈夫さ」
 マルヴィナは、仲間を見た。
ドミールへ行くということは、ガナン帝国と戦うということ。
それに異を唱えず、諦めず、彼らは承諾してくれた。
 こんなに良い仲間に巡り合えたことが、嬉しい。

「じゃあねー、マルヴィナさん、頑張ってねー!」
「御武運、お祈りしておりますぞ!」
「諦めんなよ、あんたらならできる!」
「またいらしてください、歓迎します!」
 ナザムの四人の去り際の声を聞き、マルヴィナは満足感でいっぱいだった。
余所者嫌いの村が、変わろうとしている。
だって——村長は、幼いティルの手をとって、歩いているのだ。

 人の心を良い方向に変えられた。それはマルヴィナにとって、光の矢を手に入れた以上に喜ばしいことだった。
















「さて、行くか」
「あ、ちょっと待て、ここって『底なし』だったよな?」
「落ちやしないわよ、大丈夫」
「こっこここで落ちらら、俺恨むぞわっ」
「何で噛んでんの・・・? あそっかここ下見えないね」
「言わないでおいたことを言うんじゃねぇぇ!!」
「だいじょーぶだってぇ。なんならセリアス、目を」
「勘弁してくれー!!」









(・・・大丈夫。・・・・・・・・・・・・・・・・そう、大丈夫よ)
 シェナは、ひとり決断し、[自分自身を]落ち着かせるように胸を叩いた。
自分が先ほどより熱っぽさを感じるのには、気付いていない。
崖を渡った先に見える、岩山の頂を見る。
目を細める、泣きそうに顔が歪んでいた。

 ・・・最近、また夢に見た。






















 ——三百年以上前の、忌まわしい出来事を。




















            【 ⅩⅡ 孤独 】  ——完。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.589 )
日時: 2012/09/02 20:03
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 どうやら「・」とか「 (スペース)」とかが全角で表示されるようになったっぽいね
おかげで今まで書いた小説が次々と『改行できていない現象』に見舞われております
     ・・・・・
 これで「マルヴィナ」とか言う具合に強調する文を作れるのはありがたいが(今までは[ ]を使っていました)
『改行できていない現象』を編集して元に戻すのは・・・面倒くさそうだorz

 しばらくしてから直そう。



 では次は、断章ですが、小説大会銀賞祝いとしてサイドストーリーの形にします。
つまり若干長いです。本来投稿一回で終わらせられるほど短い文だったのですが、
例によって即興で、色々書いてみます。





 ・・・ちなみに今回は、物語の核心を突きますぜ。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.590 )
日時: 2013/01/25 22:23
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

    サイドストーリーⅢ  【 記憶 】






 ——生まれた。
 里長にして修道女である老女シェルラディスは、紅く塗った唇の端を持ち上げた。
 ——そして、失った。
 だが、すぐに、言い表せない悲しみに端は下がった。

 喜ぶべきなのか。それとも、哀しむべきなのか。
         ・・・・・
 里長である以前に母親である彼女には、孫の誕生は喜べるものだが娘の死は悲しむことであった。
 …けれど。
 ここに、誕生したことは間違いない。           ・・・・・
命を秤にかけるわけではない、だが、誕生した孫は、間違いなく選ばれた者———

 “真の賢者”なのだ。




 この里の者は人間ではない。
種族としてはマイナーではあるが、知る人は知る、彼らはいわゆる『竜族』である。
が、その見た目はエルフやドワーフと言った今はおとぎ話となった種族のように特徴だったことはなく、
あえて相違点を上げるなら人間よりはるかに強く、はるかに長寿である者である、と言うあたりのみであった。
 竜族——だが、竜の血が混ざっているというわけではない。単に、彼らが崇めているもの、
他国で言えば神のような存在が、竜なのだ。崇めるものの下僕、という意味で、
彼らは自らを『竜族』と呼ぶのだ——確かにこんな理由ならマイナーであっても仕方がないのかもしれない。
       ・・・・・・・・・・・・・・
 ——これが、一般の者にのみ伝えられている『竜族』の情報である。



 シェルラディスは、音もなく立ち上がると、教会の扉を開き、里の頂上の里長の家すなわち、自宅へ戻る。
修道女のローブは長すぎ、この長く急な階段は昇りづらく降りづらい。
だが、そんなことは気にはしない。

「花の恵みに祝福を、地の誘いに祈りを。お帰りなさいませ、シェディ様」

 古めかしい挨拶をする、里の者たち。その意味は——『新たな命が誕生し、一つの命が地に還る』
——シェルラディス、通称シェディが感じ取ったものを証明した言葉だった。
 冷たくなった娘の横で、何も知らない温かな赤子は、泣き疲れて静かに眠っていた。



「間違いないのですね」
「えぇ」
 シェルラディスは短く答えた。そして、あえて言う——
「魔導師と、僧侶。同じにして対である存在が結ばれ、子が誕生した瞬間に命を落とす——
間違いありません。…あの子こそが、次なる『真の賢者』…しかし」
「その教育、ですな」腕を組んだのは、里長に代々使える騎士、ケルシュダイン、通称ケルシュである。
「癒しの面は足りてはおりますが…本来の賢者の存在は、後列攻撃型。
魔術を教えるとて、この里に『あの方』に教えられるほど魔術に長けたものはいません」
「それでも」シェルラディスは、ぴしゃりと言った。「やらねばなりません。時間が、ないのです」
 時間がない——その意味を知るケルシュは、だが顔を伏せ悲しみに暮れることはせず、
今彼女が望む姿であり続ける。
「…アーヴェイ、とか言いましたか。あの魔術団は」
 シェルラディスがはっと顔を上げた。
「以前、このあたりで傷を負っていた旅人を介抱したことを覚えていらっしゃいますか」
「…えぇ」
「あまり自分たちのことは公にはしないでくれとは言われておりましたが——
彼らはアルカニアと呼ばれる街の優秀な魔術団だったそうです。いっそのこと、彼らに頼むか——」
「却下です」さらりと言われた。
「公にしないでくれと言う以上、何か理由があるのでしょう。係わるべきではありません」
「…そう、ですな」
 うぅむと考え込むケルシュに、修道女は微笑んだ。
「御安心なさい。私も、やれるところまでやってみます」
「な、しかし、シェディ様」
「私は」目を閉じる。
「若かりしときには魔術師だったのです。あなたが物心つくころにはすでに、修道女ではありましたが」
「その話は、初めてです」ケルシュは答えた。「ですが…何故?」
 シェルラディスは、笑った。「大切な人を守れなかったから——ではダメかしら? ケルシュ」

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.591 )
日時: 2012/09/02 22:10
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

「けうしゅ、けうしゅ」
 それから時は流れる。
赤子だった姿も時がたてば変化し、その顔を見るだけでは男か女かまだ区別がつきづらいが
れっきとした女である幼児は、盛んにケルシュの名を廻らない舌で呼ぶ。
 ケルシュは何と——と言う名の困ったことに——幼児の世話係に任命されてしまった。
されてしまった、とは言うが、もちろん指名したのはシェルラディスである。
ケルシュの必死の拒否はもちろん、シェルラディスの裏のある笑顔と一言によりすべて封殺されたのだが。
シェディ様のあの性格が、この子にも移らなきゃいいんだが、と密かに思う。
何故なら彼女の娘、この子の母親も、優しい笑顔で何度もケルシュの急所を
さりげなくぐっさりつく発言をする女性だったのだ。・・・恐ろしや、遺伝。
 ・・・だが、幸いにしてこの子は、自分になついてくれている。
・・・父親も、母親もいない。
時間がない、と言ったように、里長の寿命も、長くはなくなっている。
 ケルシュは話し方こそあえて中年のように言い気を引き締めてはいるが、本当はまだ
人間で言う二十歳程度なのだ。

 ・・・守ろう。

 ケルシュは、そっと思った。
いつかこの子が一人になった時——自分だけは、ちゃんとこの子を守り続けよう。

 小さな、小さな手で自分の指を握らせながら、ケルシュは笑——





「う、ヨダレ!?」





 ——うことはできなかった。

















 子供の成長ははやい。
その子は、もうそろそろ、少女、と呼んでもいいころにまで成長した。
「おばあさまぁ」
 少女は走って、シェルラディスのもとへやってくる。
「あら、気を付けて。転ばないようにね」
「ころばないよ!」
 少女はちょっぴり膨れ面をして、シェルラディスのローブの裾を引っ張った。
「あぁ、引っ張らないの。・・・あら」
 シェルラディスはその手を離させると、消えた里のたいまつの前に立ち、
指先に小さな火を灯したいまつに点けた。火は揺れながら、本来の仕事を果たす。
その様子を見て少女は、首を傾げてみせる。
「おばあさま、まほうって、そんなにだいじなものなの?」
「あら」シェルラディスは笑った。「難しいことを言うのね」
「だって」少女は膨れた。「かんたんなの、ばっかなんだもん。ちょっとつまんない」
 それはあなたの才能が素晴らしすぎるからなのよ——という呆れ気味の言葉はさすがに言えない。
 少女はその年でありながら、初歩魔法を見る見るうちに完成させ、その上級魔法も吸収していっている。
間違いなく、見たことのないほどの天才だった。シェルラディスもかつては、
天才だ、秀才だと騒がれたことはあったが、ここまで早く魔法をものにはしていなかった。
あまりにも早すぎて、その身にそれ以上多くの魔法を詰め込むのはかえって危険だった。
鍛錬は欠かさないようにとはいってあるが、それでもこの新しいこと、難しいこと好きな少女は最近、
同じことの繰り返しに不満を抱きつつあるのだ。
 それが分かっているからこそ——修道女は、優しく諭す。
「良い? 魔法というのはね、今あなたがおぼえているものより、ずっと多くて、ずっと難しいの。
・・・もっと多くの魔法を覚えたい?」
「おぼえたい」少女は即答した。「だいじなひとをまもれるんでしょ?」
「・・・えぇ」少しだけ詰まってから、シェルラディスは答えた。
「おぼえたい。それで、おばあさまとか、ケルシュに、おんがえしするんだ!」
「あらあら」シェルラディスは目をしばたたかせる。「あなたは一体何歳なの? もう」
 少女は笑われたことにまた膨れ面をし、シェルラディスはその頭をなでる。
「大事なものか、そうじゃないかは、あなたが決めること。
でもね、もしあなたが、これからももっともっとたくさんの魔法を覚えたいのなら」
「ちゃんとべんきょうしなさいって、ことでしょ?」
「大正解!」
 屈んで、少女を抱きしめる。少女も喜んで、くっついた。
「大丈夫。あなたなら、できるわ」
「うん。がんばる。がんばって、里のみんなをまもるんだ!」
「本当にあなたは何歳なの?」立派過ぎる目標に、もう一度苦笑した。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.592 )
日時: 2012/09/03 18:42
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 何年がたっただろう。
少女は、そろそろ娘と呼んでも良さそうなころまでに、成長していた。

「ケルシュ」

 里の法衣を着こなし、その綺麗な銀髪を後ろに流す彼女は、母によく似て、目立つほどに美少女だった。
「どうされましたか?」
 昔よりは少し歳を重ねたケルシュは、少女の声に反応。
が、少女は先に膨れ面をする——これだけは昔から変わらない。
「お願いだから、敬語使うの、やめてよ。他人行儀みたいでなんか嫌」
「他人であることは変わりません」
「そうじゃなくて」
 なおも反論したかったが、言っても無駄なことは分かっていた。
小さなころは知らなくて当然だった。だが、今はしっかりと知らされる。
そう、所詮は他人、それ以前に、主の孫と、従者なのだ。その身分の差を、物語っているのだ。
(でも、だからって)
 少女は膨れ面を解かず、思った。
(・・・遠慮されてるみたいで、居心地悪くなるのに)
 少女が黙ってしまったのを見て、ケルシュは「ご用件は?」とさっさと話題を変えてしまった。
このあたり、彼のほうが何枚も上である。
「・・・ラスタバの所へ行ってくる。困っているらしいの。ちょっと長くなるかも」
「ラスタバの・・・くれぐれも、お気を付けて」
「大丈夫よ」少女は笑った。「息子は無視するわ」








 少女は長い階段を下り、会う人々に挨拶をした。
元気かい? えぇ、そちらは? いつもの通りだ。相変わらず別嬪さんだね。いえ、そんな。
照れることはない、うちの嫁とは大違いだ。あら、何か言いました? え、いや別になんでも、ははは・・・
 いつもの調子。いつもの日常。少女は、里が大好きだった。
この里以外にも様々な国や町があることは知っていた。だが、彼女はこの里を出る気はなかった。
 民たちに一礼し、少女は再び、歩き出す。
ここをまっすぐ進み、右へ曲がって、橋を渡って、階段を上がり、階段を上がり、階段を上がり、
一息ついた先にその家はあるはずだった。
——が。二つ目の階段を上がる前に、少女は聞き覚えのある声に呼ばれた。

“ —大丈夫よ、息子は無視するわ— ”

 その声の主こそ、ラスタバの息子。

「ディア」
 ディスティアム、通称ディアだった。







「お前、親父に呼ばれたんだって?」
「そうだけど」
「行かなくたっていいぜ、どうせ山の開通の相談なんだからよ」
 ディアは里の者にしては珍しく、やや乱暴な言葉遣いをする少年だった。そして、少女と同年代でもある。
それでもやはり生まれが違いすぎるため、言葉を交わすようになったのはまだつい最近の話である。
「開通なら、なおさら行く。これなら上に住む人たちの移動が楽になるもの」
 里は二つの崖の上にある。行き来する方法は、下のほうに一本だけある石橋のみだった。
崖の上に住む者には、不便と言えば不便なのだ。だから、里の上の方にある崖を開通しないかと、
魔術師の代表に当たるラスタバはよくシェルラディスに相談していたのだ。
シェルラディスが今日は修道院の総会に出ているため、
このとき里長の代わりを務めるのが既に少女の役目だった。
「どうせ上が通れるようになれば、ケルシュに会いに行くのが楽になるからだろ」
「ディア」
 小さく、非難の目を向ける。が、よくよく見れば、痛いところを突かれて慌ててもいた。
「そりゃそーだよな、今更住み込みなんてできねぇよな。あっちから家に来ることはあっても、
こっちからはそんなローブじゃ行くのが大変すぎる。実際」
 ディアは意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「さっき階段で、つまずいたろ」
「ディアっ!」
 気が付いたら、少女は少年の頬をひっぱたいていた。右手が赤くなり、熱くなり、少女は慌てた。
左頬にもみじを浮かび上がらせ、少年は呆けたような顔をした。
「ご・・・ごめん」少女は視線を落とした。「つい、かっとなって」
「かっとなったらぶん殴る性格かよ」ディアは舌打ちし、踵を返した。
彼の顔が、悔しそうに、哀しそうになっていたことを、少女は知らなかった。




「顧慮する誠心に、拝謝を。・・・本来ならこちらから出向かわねばならぬところを、かたじけない」
 古めかしい挨拶に挨拶を交わし、少女はいたわるように笑った。
「ラスタバ、足の様子は?」
「これこの通り——もう動けなくなりつつある」
「そう」少女は考え込んだ。父が若くして足を痛めているのに、あの息子の自由奔放っぷりと言ったら——
少女の無表情を、だがそこに見え隠れする呆れの表情を読み取ったラスタバは、
訊くまでもないことをあえて問う。
「・・・うちのせがれに会わなかったか?」
 ラスタバは質素な魔術師の法衣を肩に乗せて、少女に問うた。
「会いました」答える。「でも、相変わらずで」
「困ったもんだな」ラスタバは嘆息した。
「及ばずながらも頂いたこの身分を、せがれは我がもののように扱っておる。
・・・いやはや、困ったもんだ」
「・・・」少女は黙った。知っていた。彼は、ディアは少女のことが好きなのだ。だが、少年であるがゆえに
まだ素直になれず、関わろうとしては失敗し、少女からの評価を下げていることに気付いていない。
「・・・いや、すまん。・・・ところで話は聞いたやも知れぬが」
     ・・・・
 いわゆるドラ息子の話を早々に打ち切り、ラスタバは開通作業についての説明を始めた。


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