二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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【二次創作】泡沫【短編集】(リクエスト募集)
日時: 2013/04/28 20:26
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

 ご訪問ありがとうございます。
初めまして、雲雀といいます。
ここでは作者の嗜好を中心に、二次小説を書かせていただきます。

 同人や乙女ゲームに免疫のない方および苦手な方はご遠慮ください。
また年齢制限があるようなものはカキコのルール上、認められていないので書きません。
18歳未満の方も安心して読んでください。作者自身も18歳未満です。というか、そもそも書けません。

 作者の文章能力は他の人と比較して著しく欠落しています。
作品のイメージが損なわれる場合も御座いますので、そのあたりのことは自分で判断してくだい。
たまに創作物やオトメイト作品以外の物も書いたりします。

 以上のことをご理解の上でご覧ください。楽しんでいただければ、幸いです。


■取り扱い

【オトメイト】

◇緋色の欠片 ◆薄桜鬼 ◇夏空のモノローグ ◆ワンドオブフォーチュン ◇二世の契り
◆翡翠の雫 ◇蒼黒の楔 ◆ヒイロノカケラ ◇神なる君と ◆AMNESIA 
◇猛獣使いと王子様 ◆華鬼 ◇DIABOLIK LOVERS -ディアボリックラヴァーズ-

【ジャンプ】

◇家庭教師ヒットマンREBОRN! ◆D.Gray-man ◇黒子のバスケ
◆magico ◇テガミバチ ◆めだかボックス

【Gファンタジー】

◇君と僕。 ◆Pandora Hearts ◇黒執事 
◆デュラララ!! ◇キューティクル探偵因幡  

【LaLa】

◇夏目友人帳 ◆ヴァンパイア騎士 ◇狼陛下の花嫁
◆おいらんガール ◇サクラの秘事

【その他】

◇ボーカロイド ◆靴下にゃんこ ◇Sentimental Circus 
◆FINAL FANTASY ◇THE LAST STORY ◆イナズマイレブン 
◇カゲロウプロジェクト ◆終焉ノ栞プロジェクト ◇創作物


■お客様

◇マッカナポスト ◆亜瑠都様 ◇ツン萌え ◆蟻様 ◇亜鶴様 ◆カノン様 ◇素海龍様 ◆苗字様


■いちまんきかく

 10000hit Thanks >>208

◇素海龍様 家庭教師ヒットマンリボーン/ヴァリアー 【くるくるまわる/ヴァリアー】 >>211
◆苗字様 夏目友人帳

 参照が10000を超えたので、そのお礼です。
 忘れ去られているとは思いますが、かならず書きます。


■更新履歴

<緋色の欠片>

【その声に。/祐一×珠紀】 >>1 
【二人の彼】 >>34  【触れた指先/祐一×珠紀】 >>73
【記憶に残る花はあまりにも鮮やかで/真弘×珠紀】 >>81(一部) >>82(二部)
【想うことが罪だとしても/ゲントウカ×玉依姫】 >>146   【記憶の果て/祐一×珠紀】 >>158

【守りたい人/慎司×珠紀】

ACT1【分かたれた結末を想う。】 >>180
ACT2【独白】 >>181
ACT3【夕暮れに消える。】 >>187
ACT4【愛してるに耳を塞ぐ。】 >>201
ACT5【木漏れ日の記憶。】 >>203

<蒼黒の楔>

【花火】 >>13  【傍に、と消える声/拓磨×珠紀】 >>46  【花ノ香ノ/拓磨の頁】 >>70
【刹那ノ蒼/祐一の頁】 >>71  【羽休メノ刻/真弘の頁】 >>79  【褪メユク残香/卓の頁】 >>90
【春ノ呼声/慎司の頁】 >>102  【灰色ノ空/遼の頁】 >>153

<ヒイロノカケラ>

【あなたしか見えない/怜×沙弥】 >>39

<薄桜鬼>

【永久の軌跡/総司×千鶴】 >>6  【巡りゆく桜の記憶/総司×千鶴】 >>111

<ワンドオブフォーチュン>

【今日の永遠/エスト×ルル】 >>47

<夏空のモノローグ>

【いつかが終わるその日まで/葵&陽&涼太】 >>60  【気づいてしまった。/涼太×葵】 >>68

<神なる君と>

【それはもう過去のこと。/鳴海×咲耶】 >>67

<DIABOLIK LOVERS -ディアボリックラヴァーズ->

【堕ちる瞬間】 >>156

<家庭教師ヒットマンREBОRN!>

【雲雀家四人兄弟/アラウディ&風(大人ver)&雲雀恭弥(10年後)&雲雀恭弥(10年前)】 >>9
【好きを憧れで捩じ伏せる。/ベルフェゴール&フラン】 >>186
【くるくるまわる。/ヴァリアー】 >>211

<黒子のバスケ>

【甘いお菓子には変わらない/黒子&木吉】 >>59

<めだかボックス>

【気まぐれな世界の終わり/善吉&禊】 >>177

<君と僕。>

【その言葉に救われる。/悠太&祐希】 >>57  【17回目のハロウィン/悠太&祐希&要&春】 >>61
【桜日和/浅羽story&塚原story&松岡story】 >>152

<Pandora Hearts>

【終わりに重ねる掌】 >>131

<キューティクル探偵因幡>

【その声をどうか。/圭&遥】 >>27  【はじめまして、と笑う。/圭&遥】 >>213

<蛍火の杜へ>

【いつまでも。/ギン×蛍】 >>147

<ヴァンパイア騎士>

【ただあなたの幸せを。/零×優姫】 >>105  【黒ノ独白/零×優姫】 >>121  【二度と帰れない場所/零×優姫】 >>126
【面影−オモカゲ−/枢×優姫】 >>136  【虚像/枢×優姫】 >>160

<FINAL FANTASY>

【架かる虹の麓へ】 >>124

<カゲロウプロジェクト>

【あの日、いつか。/シンタローとコノハ】 >>199  【この世界に、今。/シンタローとコノハ】 >>200
【それでも、世界。/クロハ】 >>209  【伝えたいことがある。/シンタロー】 >>214
【延命プレリュード/シンタローとコノハ】 >>220【深海シンフォニー/シンタローとクロハ】 >>221
【さよならにキスをする。/シンタローとアヤノ】 >>222  【Please tell me my thought/シンタローとカノ】 >>224

◇しりーず

シンタローとコノハとクロハと遥が兄弟な話。

【朝に見る。】 >>223

<終焉ノ栞プロジェクト>

◇しりーず

【0と1のラブレター/A弥】 >>225  【届くことのないさよならを/C太】 >>226  
【君が0になる前に/A弥】 >>231

<ボーカロイド>

【ロミオとシンデレラ/初音ミク】 >>2  【五月雨恋歌/初音ミク】 >>3  【秋風恋歌/巡音ルカ】 >>5 >>52
【暗い森のサーカス/初音ミク&鏡音リン&鏡音レン】 >>7
【人柱アリス/初音ミク&鏡音リン&鏡音レン&KAITО&MEIKО】 >>8  【月光と黒/KAITО】>>10 
【鬼と娘/KAITО】 >>14  【大和撫子、咲き誇れ/初音ミク】 >>15  【夢の浮橋/巡音ルカ】 >>35
【からくりピエロ/初音ミク】>>45  【Trick and Treat/鏡音リン&鏡音レン】 >>62
【つきうさぎ/初音ミク】 >>63  【夢と葉桜/初音ミク】 >>125  【会いたい−Dear My Friend−/GUMI】 >>139
【右肩の蝶/鏡音リン&鏡音レン】 >>163  【背徳の記憶〜The Lost Memory〜/鏡音レン&KAITO&神威がくぽ】 >>164

<Sentimental Circus>

【いつかの温もり】 >>50  【幸福論】 >>166

<創作>

【微睡み/Short Story】 >>4  【譬えばそれを。】 >>18  【境界線】 >>38
【さよならの記憶】 >>42  【二度はないから】 >>51  【切ない優しさ】 >>53
【思慕/Short Story】 >>56  【一番星に消える】 >>58
【Disappearance】 >>64  【懺悔と後悔】 >>65  【謝罪と切望】 >>66  【夢物語—ユメモノガタリ—】 >>69
【瞬間センチメンタル】 >>72  【光と闇の狂想曲】 >>78  【螺旋の渇望】 >>80
【思慕の狂想曲—シボノラプソディー—】 >>140  【月下で踊る白うさぎ】 >>142
【鮮やかな黒と無色彩の真紅−Deal of black and crimson−】 >>144
【永遠の物語−Eternal story−】 >>145  【永遠の空白】 >>157  【瞬間/Short Story】 >>162
【薄紫の手紙】 >>171  【color】 >>191  【慟哭】 >>196
【アスタリスク】 >>202

<そーさく。>

【出鱈目セレクション】 >>204  【感情制御。】 >>207  【この思いが届くなら。】 >>210


■もう戻れないあの日々を、どうか。

01/あなたの傍にいられるだけで幸せ 【この思いが届くなら。】 >>210
02/口づけだけで満たされる想い 【二度と帰れない場所/零×優姫】 >>126
03/幸せになろうね 【記憶に残る花はあまりにも鮮やかで/真弘×珠紀】 >>81(一部) >>82(二部)
04/どうかあなただけはそのままで 【ただあなたの幸せを。/零×優姫】 >>105
05/あなたと過ごした日々 【いつまでも。/ギン×蛍】 >>147
06/触れ合った指先のぬくもり 【気づいてしまった。/涼太×葵】 >>68
07/追憶 【それはもう過去のこと。/鳴海×咲耶】 >>67
08/傍にいて 【その言葉に救われる。/悠太&祐希】 >>57
09/大切すぎて 【触れた指先/祐一×珠紀】 >>73
10/ずっと傍にいたから 【譬えばそれを。】 >>18

■求めたものが、あまりにも儚い存在だと知る願い

01/この瞬間が 【瞬間/Short Story】 >>162
02/今だけは 【二度はないから】 >>51
03/人というぬくもりに 【感情制御。】 >>207
04/君に会えるなら 【伝えたいことがある。】 >>214
05/静かに眠る夜 【いつかの温もり】 >>50
06/心地いい君と 【深海シンフォニー】 >>221
07/ごめんね 【謝罪と切望】 >>66
08/触れていたぬくもりが
09/痛みを抉る 【切ない優しさ】 >>53
10/もしも願いが叶うなら

■君におくる。

01/君が好きでくるしい。 >>215
02/君が嫌いすぎてわらえる。 >>216
03/君が幸せならそれでいい。 >>217
04/君が許せなくてつらい。 >>218
05/君がいてくれてうれしい。 >>219

 自分で勝手につくりました。
 途中からお話の中にいれるのを忘れてたので、まとめて書いておきました。興味があればどうそ。 

 もう戻れないあの日々を、どうか。 >>212

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Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.213 )
日時: 2013/01/06 13:37
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

【はじめまして、と笑う。/圭&遥】






 ふわり、ふわり。
 視界をちらつく雪片が、熱が冷めない身体を包み込んでいく。
 いつもなら、普通に寒いと感じてしまうのだけれど。
 今日は慣れないところにいたせいなのか、その冷えた空気が、酷く心地よかった。


「——こんばんは?」


 涼しげな、声。
 聞き慣れた声のせいなのか、ここにこいつがいるとは知らなかったが、別段驚きもしなかった。
 振り返って、その姿を確認してから、まるで他人にでも言うような声で、一言。


「こんばんは、」


 仮面がよくお似合いですね。
 そう言って笑えば、相手もくすりと笑って、上出来だね。と言った。
 彼の白い髪が、風にさらわれて揺れる。
 ぼんやりとそれを見つめていると、軽やかな靴音とともに彼が近づいてきた。

 こつこつ、こつこつ。
 
 距離は縮まって、お互いまでの距離はあと20cm。
 後ろの手すりにおいてあった俺の手に、自分の手を重ね合わせるようにして縫いつけて、彼は俺の逃げ道を完全に塞いだ。
 上からのぞきこむようにしてこちらを見つめてくる赤い目。その様は酷く気分が悪かったが、今更逃げるのも面倒だと諦めて、そのまま視線を返した。
 

「今日はなんでここに?」

「え?あぁ、いな——」


 因幡さんと言いかけて、ここでのルールを思い出した。
 仮面をつけている間は、他人の名前を呼んではならない。そして、このパーティーで出会ったものは、誰であっても知らないものどうし。たとえそれが、肉親であったとしても。


「——上司が招待されて……捕まえなきゃならない奴がいるんだって」

「ふーん」


 心の声を聞くかぎり、嘘じゃないみたい。
 そう言って、彼はまたくすりと笑った。


「残念だなぁ」


 僕に会いにきてくれたんじゃないんだ。
 不貞腐れたようにそう言って、あからさまに残念そうなポーズをとった。
 残念。というのは、やはり因幡さんのことだろうか。
 今頃山羊を追いかけてるんだろうけど、ケータイで呼び出したほうがいいんだろうか。
 因幡さんも、こいつに会えたら喜ぶだろうし。
 そう思っていると、


「違うよ」


 重ねられている手に、力が込もる。
 不思議に思って彼を見れば、彼は悪戯っぽく微笑み、


「残念って言ったのは、君のこと」


 声かけたときも、僕のこと考えてなかったし。
 意味がわからなかった。
 気づかないうちに、俺はそんなに残念なことをしていたんだろうか。
 その心の声さえも彼は絡めとったようで、大袈裟に肩をすくめてから。


「君って本当に鈍感だよね」


 そう言って笑った。
 初めてだったら、本当に不思議に思うだろう彼との会話。
 けれど、慣れてしまった今だから。
 どうせなら、他人ごっこでもしようか。


「あなたは人の心が読めるんですね」


 知らないふりをして彼に問えば、彼は目を細めて、


「うん」


 そう答えた。
 それから、少し面倒くさそうにして、


「人って嘘つきだから、心の声がとても汚いんだ」


 吐き捨てるようにそう言って、深くため息をついた。
 それなら。と俺は言葉を続ける。


「なら、そろそろ俺を離したほうがいいんじゃないですか?」


 俺もたいがい嘘つきですよ。
 口から出てきたその言葉に、意味なんてなかった。
 ただ、そろそろ終わりにしようと思っただけ。
 でも、彼は首を振って、


「君の声はとてもきれい」


 だからそこにいていいよ。
 そう柔らかく微笑んだ彼に、自分勝手だなと思いつつ、そうですかと答える。
 まだしばらくは、解放してくれそうにない。


「ねぇ、なんか問題出してみてよ」

「問題……?」

「うん、問題」


 笑う彼の真意が読めず、首を傾げれば、あのね。と彼は言葉を続けた。


「君が心で言ったこと、僕が当てるから。だから、何か言ってみて」

「あぁ、なるほど……」


 さて、何を言おうか。
 そんな声さえも届いているらしく、彼はにこにこと笑っている。
 なんでもいいよ。その言葉に、余計悩んだ。
  ありきたりなものにするべきか、もう少しひねったものにするべきか。
 ぐるぐると考えて、はたとこのパーティーのルールを思い出す。

 ————名前を呼んではいけない。

 なら、それにしよう。
 俺は軽く笑ってから、心の中で、

 遥。

 そう呼んだ。
 彼にも届いたらしく、小さく笑ってから。


「遥……ぐーぜん、僕の名前」


 偶然。なんて、笑ったままの口元で言われても、ただおかしいだけだ。
 じゃあもう一問。なんて言ってくるから、今度は自分の名前を出すことにした。
 優太くんの名前でもよかったけど、後がこわいから止めておくことにする。

 圭。


「……圭。こっちもぐーぜん、僕の知り合いの名前」

「そう、奇遇だな。俺にも遥っていう知り合いがいる」

「へぇ?」


 目を細めて話の先を促す彼にため息をついてから、少し笑った。
 他人ごっこというのも、なかなか面白い。


「あんたによく似てるよ……でも、きっと人違いだな……」


 赤い目が、逸らさせまいとこちらを見てくる。
 あいていた彼の右手に顎をつかまえられて、嫌でも上を向かされる。
 そうして無理矢理合わせられた視線を、酷く滑稽に思いながら言葉を続けた。


「あいつは……俺の名前なんて、知らないだろうから」


 不意に抱きしめられて、息が詰まった。
 驚いて押し返そうとすれば、更に強く抱きしめられる。


「……圭、」

「っ、……名前は、呼んじゃいけないんじゃ、ないですか……?」


 耳元で聞こえた声に、肩がはねた。
 負けじと言葉を返せば、彼はまたくすりと笑って、


「呼んでよ、僕の名前」


 そう囁いた。
 思わず呼んでしまいそうになるのを必至にこらえて、それを言う。


「あんたのことなんか、知らない」

「——あぁ、もう」


 目の前で、白い髪が揺れた。
 乱暴にはずされた仮面の下から、無表情な赤い目がのぞく。
 突然のことに驚いていれば、遥は不機嫌そうに、


「これで、いいよね?」


 そう言って、目を細めた。
 いや、何がいいのかさっぱりわからない。


「もう仮面つけてないし、ほら、僕の名前、呼んでよ」

「っ、いやいやいやいや、俺はまだつけてるから!」

「なら、君もとればいいよね?」

「ちょ、だからなんで」

「いいから早く」


 無理矢理はがされた仮面の下から、焦りを隠せない素顔がのぞく。
 それを満足にそうに見てから、遥は再び、あの言葉を口にした。


「ねぇ、呼んで」


 隠すものは何もない。
 今いるのは、知らない誰かでもなんでもない。
 居心地の悪い空気の中、彼の名前を呼ぶ。


「は、るか」

「——うん」


 よくできました。
 彼が微笑むまで、あと2秒。






(たとえこの名を失っても、)
(あなたに呼んでほしいから。)









■後書き

 キューティクル探偵因幡、放送が開始されたので、お祝いに書かせていただきました。
 そしてこのお話は、ヴァンパイア騎士から少しもらいました。切なくて、すごくいいお話だったので、何故かこのふたりに使いたくなって……御免なさい。
 なんだよこれ、ただの別館じゃないか。御免なさい。これにはもう何も言えません。本当にすみませんでした。

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.214 )
日時: 2013/01/06 17:05
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

【伝えたいことがある。/シンタロー&コノハ】






 8月15日の屋上は、君がいなくなったあの日から、何一つ変わっていなかった。

 憎らしいほどの青い空。
 無機質に広がるコンクリート。
 心を覆い隠すフェンス。

 未だに色あせない、君の笑顔。


「文乃……」


 久しぶりに、その名を口にする。
 どんなに呼んだって、もう届かない、伝えられない。
 この世界には、そんなことがあふれている。そのことを、2年前のあの日、初めて知った。
 

「ごめ、ん……」


 君が泣いていたあの日、なんて声をかけたらいいのか、解らなかった。
 俺なんかが声をかけても、更に傷つけてしまうだけのような気がして、怖くて、何も言えなかった。
 そのとき、ありきたりな言葉でもいいから、何か伝えていれば、君は今でも。
 ずっと、その笑顔を。


 ——同じ、痛みだったはずなのに。


 君が抱えていた痛みは、俺の痛みと。
 ずっとこの世界から消えたくて、でもあの日、君は俺を助けてくれた。
 今までどうでもいいと思っていたものが、君の手にかかると、まるで魔法にでもかかったように、きれいに思えた。
 解りきってしまったくだらない問題でも、君は凄いと言って、笑ってくれて。
 明日終わったって構わなかった日々が、どうしようもないくらい、大切に思えて。

 でもあの日、君はいなくなった。
 君は俺を助けてくれたのに、俺は君を助けることができなかった。
 何度も、何度も、君は自分自身を傷つけて、俺に笑いかけてくれた。
 とても楽しそうに、この世界のことを語って。
 だから、きっと君は、この世界が大好きなんだろうなって、勝手に思ってたんだ。
 俺だけが、救われて——


 俺が、あの日々を壊したんだ。
 ただ、自分が傷つきたくないがために。


 「でも……」


 でも、今度こそ。


「シンタロー」


 後ろから名を呼ばれて、振り向く。
 声の主である白い髪の青年は、それから小さく笑みを浮かべて、


「作戦開始」


 その言葉に、ふっと笑ってから。


「——了解」


 今度こそ、この思いを伝えるために。






(大丈夫、あの日からずっと、)
(君の笑顔を忘れてない。)









■後書き

 そして、君に会えたなら。

 透明アンサーを何度も書こうとしているのですが、難しいですね。
 「ずっと続いていてくれた様な日々は」ここのフレーズは、聞くたびに本当に切ないです。
 きっと、じんさんにしか書けない切なさなんでしょうね。
 小説を読むために、今から涙腺を強くしておかないと←
 透明アンサー大好きです。
 じんさん、これからも頑張ってください。

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.215 )
日時: 2013/01/21 19:36
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

◇君が好きでくるしい。






「生まれてきてくれて、ありがとう」

 他人より優れているところなんて、何一つ無かった。
 寧ろ、他人よりも劣っているところばかりで、そんな自分が嫌いだった。
 だから、誰かに好きになってもらえることなんて、きっと一生ないだろうって、ずっと諦めていた。

「え……」

 聞こえたその声に驚いて、目を見開く。
 彼女はまた、ふんわりと笑って、

「はっぴーばーすでー」

 わざとらしい拙い発音で、そう言った。
 両親でさえ、言ってくれたことは無いだろう。
 『生まれてきてくれて、ありがとう』なんて。
 その言葉に込められたあたたかさを、優しさを、ずっと自分は知らなかった。
 家族でさえ言ってくれない言葉を、どうして彼女はくれるのだろう。

「本当に、ありがとう」

 ねぇ、気づいて。
 そう言いたいのは、私のほうなんだ。



 伝えようって、思ったんだ。
 君の誕生日に、君が来たら、『生まれてきてくれて、ありがとう』って。
 なのに、どうして。

 どうして、写真の中で笑ってるの。
 クラスの全員が好きだったであろう、優しげな笑顔。
 私と違って、君は愛されていた。
 いなくなる理由なんて、どこにもなかったじゃないか。
 ねぇ、どうして。

「どう、して……」

 どうして、私じゃないんですか。
 君に『生まれてきてくれて、ありがとう』って言われて、幸せだった。
 もうそれだけで、充分だった。
 あのとき死んだって、悔いなんて無かった。
 私が死んだって、きっと誰も悲しまなかった。
 どうして、君なの。

『ほら、笑って』

 私を笑わせようと、君は何度も笑ってくれた。
 気づけなかった。
 あの笑顔の意味に、どうしようもないくらいの、助けての声に。

『うん、笑ってるほうが好きだよ』

 ありきたりな話でも、君は笑って聞いてくれた。
 もう、伝えることなんてできないけれど。
 もう、手を差し出すこともできないけれど。


「生まれてきてくれて、ありがとう……」


 君の笑顔が、大好きだった。









■後書き

 一番幸せなときって、どんなときだろう。
 そう考えながら書きました。
 失ってから気づくこともありますよね。
 あのときのあの言葉、嬉しかったな……とか。

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.216 )
日時: 2013/01/21 19:35
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

◆君が嫌いすぎてわらえる。






「お前は、自分の命と引き換えに世界を救えるとしても、きっとそうしないんだろうな」

 目の前にいる『俺』が、そう言って笑った。
 失望。その笑顔に名前をつけるなら、きっとそれ。
 むかつきはしなかった。
 だって、目の前のこいつは『俺』なのだから。
 なら、この会話はきっと自問自答。
 俺が俺に失望している。たったそれだけのこと。
 寧ろ認めてしまうくらいだ。俺は俺が大嫌いだって。

「俺は、お前が嫌いだ」

 目の前の『俺』が、俺を睨みつけた。
 自分と対峙することがここまで気持ちの悪いことだとは、できれば生涯知りたくなかった。
 でも、仕方ない。
 こうなったのも、全て俺のせいだ。

「俺もお前が嫌い。俺は俺が嫌いだから」

 無愛想に言葉を並べて、そいつを見返す。
 その言葉にくつくつと笑ってから、『俺』が俺を見る。

「自己嫌悪は自己愛の裏返しだ。愛してるよ」

 俺を好きな俺が嫌い。だからお前が嫌い。
 愛さないで、惨めになるだけだから。
 俺を好きになってくれる人なんて、この世界にはいないんだ。
 俺なら俺を愛してくれる。でも、それすらも嫌なんだ。
 どうしようもないくらい、自分が好きで、嫌いだから。

「……嫌い、大嫌い」

「好きだよ」

 被せるようにそう言って、『俺』が抱きしめてきた。涙が出る。
 もう世界なんて終わってしまえばいい。
 俺だけを残して、いや、違う。
 逆だ。俺だけを消し去って、無かったことにして。
 もうこんな世界、嫌なんだ。
 俺が生きている。その事実が、嫌なんだ。
 身体が離れる。目の前のそいつは静かに笑って、呟いた。

「愛してるよ、またいつか」

「ばいばい、大嫌いな『俺』」

 タイトルも知らない音楽が流れていたイヤホンをとって、世界の五月蝿さにため息をつく。
 そして、目の前にいた知りもしない少女を押しのけた。
 次の瞬間、感じるのは衝撃。
 遠ざかる世界の音。
 お前のことは嫌いだったけど、この世界に生きる俺以外の人間は大好きだったんだ。









■後書き

 そういうところが、好きだった。

 誰でも、自分の好きなところと嫌いなところはあると思います。
 自己嫌悪は自己愛の裏返しだと聞いたので、なるほど。と思いながら、書いていました。
 自分自身とは会いたくないですね。
 出来れば、一生。

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.217 )
日時: 2013/01/21 19:34
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

◇君が幸せならそれでいい。



 お別れの日の朝。
 君はまだ、ベッドの中で眠っていた。
 そっと頭を撫でれば、聞こえてくる穏やかな寝息。
 こみ上げてくるのは、どうしようもないくらいの愛しさと、悲しみ。
 自分はもう、この子の傍にいてあげることが出来ない。
 本当は、もっと傍にいたかった。でも、もう駄目なんだ。
 全て、君を守るためだから。

「ごめんね」

 君は明日、この世界をどんなふうに受けとめるんだろう。
 どんな目で、この世界を見るんだろう。
 君の世界が、幸せで満ち溢れていたらいいな。

 こんな僕に、幸せをくれてありがとう。
 最後まで守れなくてごめんね。
 最期まで守らせて。

「ごめ、ん……」

 何故、自分たちなんだ。
 そう思ったことが、一度もなかった訳じゃない。
 両親がいて、帰るところがあって、幸せに生きている人間なんて、いくらでもいる。
 でも君は、僕がいてくれるだけで充分だって、幸せだって、そう言ってくれた。
 君は僕に、生きる意味をくれたんだ。
 だから、たとえ何をしてでも、この子を幸せにしようと思った。

 この子だって、ただの子供なんだから。
 幸せになる権利ぐらい、あるでしょう?
 こんな世界で朽ち果てるのは、自分一人でいい。

「どうしようもないお兄ちゃんで、ごめんね……」

 この選択が、君を傷つけることになるなんて、そんなの初めからわかってた。
 でも、それでも。君にだけは、こんな汚い世界は見てほしくなかった。
 普通の子供のように、幸せに生きてほしかったんだ。


「ありがとう」


 ねぇ、お願い。
 僕のことなんか忘れて、どうか、幸せになって。






(そこに自分がいられたら、なんて、)
(絶対に願わないから。)









■後書き

 ずっと、見守ってるよ。

 どうしようもないくらいの愛情って、こういうことかな。そう思って、書きました。
 幸せなものを書きたいのに、書けない。


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