社会問題小説・評論板

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大好きで大嫌い
日時: 2020/05/30 14:31
名前: たなか (ID: rjNBQ1VC)

〜プロローグ〜


平和に生きているつもりでも、過去は変わらない。


あの夜の恐怖と不快感は、簡単に思い出すことができる。


少しずつ僕の身を蝕んでいった障害も、今では手をつけられないほどに膨らんでいる。




こいつがそんなことしない。




あいつもその気は無い。




そんなこと思ったって無駄。


何も変わらない。


きっと変えられない。


記憶なんか無くならない。


無くなったらそれは僕じゃない。


でも、こんな記憶を抱えてまともに生きていけるはずがない。


どうしたらいいのか、自分にも分からない。


ただ僕にできるのは、誰にも触れられないようにするだけ。


なるべく相手の印象に残らないように、地味に生きるだけ。


大好きな人も、大切な人も、傷付けないように関係を消滅させていく。


傷付けないように、記憶に残さないように。


僕なんかいない方がましだ。


僕に優しくしてくれる人の期待に応えられないなんて。


いない方がましだよ。


さっさと消えちゃえよ、もうとっくに穢れた命だ。


ほら、得意だろ、人の記憶に残らないことなんて。


大得意だろ、いつもそうやって生きてんだろ。







......誰かのせいで、縮こまって生きてんだろ。



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Re: 大好きで大嫌い ( No.48 )
日時: 2020/09/26 23:26
名前: たなか (ID: .HkLA/wn)



*





「嫌だよな、ごめん」

そう謝る大和の声が、頭の中でふわふわと漂う。

学校が終わり、急いで家に帰ろうと思ったら大和に引き止められ、人のいない廊下に連れていかれた。



「前から雫月が好きだった」



そう言われた。

僕が欲しい言葉だった。

言って欲しい言葉だった。

でも、欲しくない言葉だった。

言われたくなかった。

「嫌じゃないよ……でも、ごめん」

上手く回らない頭を何とか回転させてそう呟く。



「僕は」



僕も



「大和のこと」



大和のこと



「友達だと思ってる」



好きだよ。



大好きだよ。



ごめんね。

好きだけど、大好きだけど、嫌いなんだ。

「そうだよな、ありがとう」

目を伏せて微笑みながら大和が言った。

「ううん、大和も、伝えてくれてありがとう」

普段通りを心がけて口角を上げる。

「バイト頑張れよ」

目も合わせないまま、大和は体育館に向かった。


最近は大和と話さないようにしてた。

大和に嫌われたかったから。

山崎くんと仲良くして、大和には諦めてもらうつもりだった。

普通に幸せになって欲しかったから。

なのに……上手くいかなかったな。

傷付けたかもな。

ごめんね、大和。

大和なら女の子を好きになれるって信じてるから。

今はちょっとだけ我慢してね。

いつか幸せになれるから。





僕みたいになっちゃだめだよ。

Re: 大好きで大嫌い ( No.49 )
日時: 2020/10/06 15:17
名前: たなか (ID: .HkLA/wn)

部活が終わり、家に帰った。

軽くシャワーを浴びて服を着替えて、テーブルに置いてある夕食を横目で見ながら階段を上がる。

今日は疲れた。

自分の部屋のベッドに倒れ込む。


雫月が最近話しかけてくれなくて、不安だったんだ。

山崎とばっかり話してて、ずるいと思った。

もちろん話しかけたら応えてくれるし、目も合う。

でもそこから先は続かず、少しずつ会話が繋がらなくなってきていた。

もう終わりなのか。

そう思った俺は、完全に関係が遮断される前に、と雫月に告白をした。

男に触られるのが怖いという雫月に。

嫌だっただろうな。

たとえ元々友達だった人でも、同性に告白されるのは嫌だっただろう。

絶対に嫌われた。




「僕は、大和のこと友達だと思ってる」



やたらと慣れてそうなその言葉が、あの声が、まだ俺の鼓膜に残っていた。

「友達」っていう単語が、ここまで皮肉なものになるなんてな。

不意に、ベットの下に置いたスマホが鳴る。

手を伸ばして画面を見ると、山崎からの電話だった。

面倒臭いなと思いつつも電話に出る。

「なんだよ急に」

不貞腐れたように呟くと、山崎は苦笑いしながら答えた。

「それはこっちのセリフだぞ。せっかく電話かけてやったのに第一声がそれかよ」

「悪かったな。電話かけてくれてありがとよ。で、なんだよ」

「思ってなさそうだな……」

「思ってる思ってる。で、何?」

「……やっぱお前でも駄目だったんだな、雫月」

思いがけない言葉に、何を言えばいいのか分からなくなる。

知ってたのか、俺が告白したこと。

誰にも言ってないんだけどな。

俺の戸惑いに気付いたのか、山崎が言う。

「悪い、俺盗み聞きしてた」

「……あっそ」

唐突な脱力感に襲われ、涙腺が緩む。

目の前が滲んだ。



そうだよ。



好きなんだよ。



優しい所も、勉強ができる所も、運動ができる所も、少し子供っぽい所も、やけに大人っぽい所も、すぐに消えて無くなりそうな所も、意思の強い所も。



全部どうしようもないくらい好きだよ。



大好きだよ。



こっち向けよ。



急に黙り込んだ俺の状況を察してか、山崎はなんでもないような口調でこう言い放った。

「そういえば、お前の家の前って紫陽花綺麗なんだな」

何を言ってるのか分からず、少し考える。

俺の家の前には確かに紫陽花が咲いてる。

でも、山崎は何故それを今伝えてきたんだろう。

「おい、早くドア開けろよ。雨降ってて湿気が酷――」

慌てて電話を切り、階段を駆け降りる。

靴も履かないで玄関に立ちドアを開けると、山崎の後ろ姿がそこにあった。

制服を着てコンビニの袋を持っている。

「よぉ田島。おつかれ」

振り向いた山崎が、何も持っていない方の手を伸ばす。

その笑顔があまりにも悲しそうだったから、一度引っ込んだ涙がまた溢れた。

吸い寄せられるように山崎に近付き、その肩に顔を埋める。

山崎がくしゃくしゃと頭を撫でた。

必死で声を抑えて泣いていると、山崎の小さな声が、少しだけ、本当に少しだけ、雨音に紛れて聞こえる。





「報われねぇもんだな、俺もお前も……」




その後に続いた言葉は、俺には聞き取れなかった。

Re: 大好きで大嫌い ( No.50 )
日時: 2020/10/15 23:32
名前: たなか (ID: .HkLA/wn)



*




ある日の夜、山崎くんから電話が来た。

寝る準備もすっかり整って電気も消して、それでも眠れない事に疲れてきた頃だった。

少し陰鬱とした気持ちを抱えていた心が、スマホの控えめな着信音に呼び出される。

「おっ、雫月。こんな時間で悪いな。起こした?」

「いや、大丈夫。まだまだ寝れないかなぁ」

ははっ、と他人事のように山崎くんは笑う。

そう、他人事だ。

他人なんだから。

「それで、どうしたの?いつもは電話なんてしないのに……」

「あぁ、ちょっと……田島のことなんだけど」

田島。

大和のことだ。

心が、冷たい何かに触れる。

「最近あいつ元気ねぇっていうか……笑顔がいつも以上に死んでるんだよな。で、ちょっとお前に質問なんだけどさ」

少し息を吸って、山崎くんは続けた。




「雫月は本当にこのままでいいのか?」




大和に告白された後、山崎くんが僕の背後の角から出てきた

ずっと話を聞いていたらしい。

本当に大和を友達としか思っていないのか、と山崎くんに問い詰められ、僕は全部話した。

もちろんバイトがあるから手短に。

中学時代にいじめられていたこと、僕らみたいな人間は迫害の対象になり得ると知ったこと、本当に大和が好きだったこと、真っ直ぐな大和を傷付けたくなくて告白を断ったこと。

聞きたいことはまだありそうだったけど、僕はバイトがあるからと言って帰った。

僕の過去をある程度知る山崎くんからの「このままでいいのか?」なんだから、きっときちんと考えた発言なんだろう。

僕と大和のことを考え、自分を放ったらかしにして言ったんだろう。

僕だって大和のことを考えていた。

だから、断った。

でも、山崎くんはその選択は間違いだと思っている。

……間違いならいいのに。

「僕はこのままでいいと思ってる。今更大和に『僕も好きだった』って言って混乱させたくないし、今までの話もしたくないよ。自分のせいでこいつはこんなに悩んでたんだ……とか思われたくないから。もし僕と大和がうまくいったとしても、所謂『普通』じゃない人間はどこかで傷つかなきゃいけない。大和がそこで傷付くくらいなら僕と一緒にいない方がいいと思うんだ」

震えそうになる声を殺すように、息を吸う間もなくそう言う。

少し心を落ち着かせて冷静になってから、軽く息を吸って続きを話した。

「あと、僕のことはもう放ったらかしでいいから、山崎くんは大和と一緒にいてくれない?嫌じゃないなら」

「……別にいいけどさぁ」

そう呟く山崎くんの声は、弱々しかった。

ぎゅっと押し込んだような、喉の奥が詰まっているような。

ほんの少し離れた所で山崎くんが考えているであろうことを僕も考える。

どうしようもないくらい胸が痛かった。

「……ごめんね。おやすみなさい」

何も知らないふりをしてそう呟き、電話を切る。





苦しむのはもう僕だけでいい。

Re: 大好きで大嫌い ( No.51 )
日時: 2020/10/22 23:17
名前: たなか (ID: .HkLA/wn)

俺が雫月に振られてから半月が経った。

雫月からは少し避けられているような気がしないでもないけど、話しかければ笑って返してくれるから安心した。

まぁ、前のように気軽に話せる関係ではなくなった。

それがほんの少しだけ寂しいけど、山崎がいてくれるから俺は元気だ。

あいつも不思議な奴だった。

明るくて、面白くて、少し皮肉屋で、でも嫌味は無い。

勉強もまぁまぁできれば運動もできる。

女子にもそこそこモテるだろうし彼女だって途切れていないだろう。




そして時折、ため息をつく。




時折、窓の外を睨む。




俺は最近になって、やっと山崎の黒い部分に触れた。

放課後の教室で女子に告白され、断り、女子が居なくなった後のため息を、独り言を、俺は知っている。

どんな目で女子の背中を見ていたのかも知っている。

雫月と似ているようで似てなくて、やっぱり少しだけ似ている気がした。

その種類は違えど、ふっと見せる闇の濃さが似ている気がした。

気がした。

もしかしたら俺にもそういう部分があるかもしれない。

他人からしか見えないような腐りきった部分が。

まぁ、俺の場合は表面から腐りきってるんだけど。


山崎と一緒にいると雫月と話しているかのような錯覚に陥る。

もしかしたら、俺が山崎に求めているのはそれだけなのかもしれない。

「雫月に似た何か」を、全くの他人である山崎に求めているのかもしれない。

「カスだな」と、山崎は優しく笑った。

山崎といると雫月と話してるみたいだ、と言った時だ。

部活帰り、2人で駅まで歩いていた。

「何がカスなんだよ」

少し不貞腐れた俺が言う。

「だって、雫月と話してるみたいだってことはさ、お前は俺と一緒にいて楽しいと思ってないってことっしょ?俺が雫月みたいだから俺と一緒にいるんでしょ?」

明るいトーンで告げられ、俺は言葉を詰まらせた。

確かにそうだけど、そうじゃない。

代用なんかじゃない。

俺が口ごもるのを見て、山崎は小さく呟いた。

「まぁ、こんな風に相手の揚げ足とる俺の方がカスなんだけど」

冷めた声で。

「カスはカス同士仲良くしようぜ」

さっきとは打って変わって明るい雰囲気で、山崎はそう言った。

少し戸惑ってから、頷く。

沈黙に疲れて空を見ると、黒々しい夜に穴が空いていた。

そこから射す光は冷たくて、優しかった。

Re: 大好きで大嫌い ( No.52 )
日時: 2020/10/23 23:46
名前: たなか (ID: .HkLA/wn)


*

*

*

*



蝉の声がうるさくなってきた頃、雫月は学校で片頭痛になった。

今回はかなり酷いらしく、空き教室で休んでいる。

昼休みになってノートを見せに行こうと席を立った。

田島はたまたま委員会の活動でいない。

「昼休みに雫月の所行くけど、どうする?」

と少しいじめるように聞くと、本気で落ち込んでいた。

申し訳ない。

人が多い廊下を歩き、雫月が居る空き教室の前に着いた。

ドアを開けようとして思わず手を止める。

中から人の声がしていた。

バレないように中を覗く。

教室には、雫月と中年の男教師がいた。

雫月は椅子に座っていて、教師はすぐ側に中腰で立っていて。

何してんだ、と一瞬考えた。

数秒してから理解して、反射的にドアから離れた。

音を立てないように座り込む。

怖くなって、息を止めた。

怖かった。

気持ち悪かった。

必死で抵抗するように教師の胸板を押し返そうとする雫月の手があまりにも弱々しくて、悲しかった。

雫月の肩に置かれた教師の手が怖かった。

雫月の綺麗な唇に無理矢理押し付けた唇が気持ち悪かった。

何かの見間違いであることを願い、今度はもっと用心深く中を覗く。

見間違いなんかじゃなかった。

ふと、雫月と目が合ってしまう。

慌ててそらし、俯いて教室に戻る。

深い後悔の念に襲われる。

助けないといけなかった。

ドアを開けないといけなかった。

ノートを渡さないといけなかった。

でも、全部しなかった。

頭が痛いだろう。

酷い恐怖に襲われているだろう。

きっと、過呼吸にもなっている。

そんな雫月を、俺は助けなかった。

ただ自らの保身のためだけに。


ただひたすらに深い後悔に襲われる中、ひとつだけ疑問があった。

雫月と目が会った瞬間のことだ。

それまで苦しそうに顔をゆがめていた雫月が、俺を見てすぐ表情を変えた。




柔らかく笑った。




なんで笑ったのか。

それだけがわからなかった。


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