複雑・ファジー小説

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大三島の風から—妖と海賊の物語— 【参照300感謝】
日時: 2011/10/29 20:14
名前: 火矢 八重 (ID: gG3G93SR)

えー、こんばんわ。
二次元小説は良く書くけれど、オリジナル作は初めてです。ですので注意事項があります。

・このお話は、ファンタジーです。歴史上人物がゾロゾロ出てきますが、妖怪も出てきますのであしからず。

・また、初心者が書いております。アドバイスは受け付けます(有難くもらいます)が、あまり高望みしない方がいいです(でも、アドバイスは喜んでもらいます)。

・大体シリアスですが、普段はギャグに走りますのでお気を付けてお読みください。

・荒らしや中傷といったものはおやめ下さい。


 それでも良いと言って下さる神様は、「有難うございます!(感泣)」また、この話は誰も読んで下さらなくても書き続けます。趣味ですので。
 それでは、スタート。

序章 >>1-4

第一章 運命の歯車は止まらない >>8>>11-12>>14-15>>18>>21-22>>25
第一章の後書き >>26

第二章 桜の記憶 >>32-33>>36>>42>>45-46>>51-52>>57-59>>62>>67>>69
第二章の後書き >>70
小話〜救える者と救えない者の境〜 >>71

第三章 牛の刻の雨 >>76>>81>>88>>91>>94>>97>>101>>104>>107-110

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『歌詩募集中!』 ( No.58 )
日時: 2011/09/12 16:16
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

「だから・・・葵にあったら僕ごと消滅させてください」

 その言葉に、汐音は目を開いた。

「僕の本体はあの桜の木。そして、葵はあの桜の木の下に埋められた。ならば、木を燃やせば全て消滅する。僕はあの木の精霊だから、自分で火を放つことは出来ない。だから第三者である貴方達にそれを任せたいのです」

 ——————そうすれば、葵も自分も消える。


「それはだめ!」汐音は声を荒げた。


「消滅してしまったら、それは葵を救うことにはならない!」

 成仏と消滅は違う。成仏はあるべき場所に戻り、また転生し新たな人生を歩むのだ。
 だが、消滅はあるべき場所には戻らず、『無』に行く。『無』とはすなわり『地獄』であり、彼女はずっと炎の責め苦に焼かれる。

 それは、今以上に辛い事。
 それは、救うとは程遠いこと。

「そんな場所に、貴方は葵をひとりぼっちにさせるの!?」

 汐音は判る。
 悪霊になった葵は助けてと呼んでいるのだ。自分じゃどうにも出来ないから、助けてと。
 もがいて足掻いて。祈って、願って。何度も何度も叫んで。
 それが何度も裏目にでても、葵は助けを呼んでいるのだ。

 そんな無限に続く苦しみを、幼きながらも汐音は身を持って知っている。
 自分も同じ苦しみを蝕んでいるからこそ、判る。


 汐音の言葉に、桜彩ははっきりと言った。

「葵だけ地獄には行かせません。僕も、行きます」


 桜彩は、枯れた木々から汐音の方へ向いた。
 銀色の髪が揺れ、赤い瞳は真っすぐに汐音の方へ向く。
桜彩は、笑っていた。

「だって、もう疲れてしまったんです」

 自分は優しく無いから、と桜彩は言った。

 自分は葵を救うことすらも出来なかった。
 せめてものあのご飯の恩返しも出来なかった。
 葵が自分にくれた優しさのように、葵にあげる優しさも無かった。
 今もどうすれば葵を救えたかなんて判らない。過ぎ去ってしまった時間を再び考え直しても、どうすれば葵を救えたのか判らないのだ。
 そして、どうすれば自分が『傍に居たい』という気持ちを失くせたのか、それも判らないのだ————————。


 汐音は絶句した。——————この人には、この妖には、自分の、葵の言葉が届いていない。
 この人は自分を責め続けているだけだ。責めて、謝って、それで全てを終わらせようとしている。
 責めることが償いじゃない。謝ることだけが償いじゃない。それは、同じように繰り返してしまうだけだ。

 葵は—————葵は、誰のせいにしようとは思っていないんだ。なのに、この人は全て自分のせいだと思いこんでる。

 どうすれば、この人に自分の言葉が伝わる。どうすれば、葵の言葉が伝わる—————?

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.59 )
日時: 2011/09/12 18:58
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

 汐音が悩んでいると、

『桜彩』

 通康の声が聞こえた。口からでる声じゃない。頭に直接響く言葉だ。

「通康!?」
「通康様!?」

「通康あのね、桜彩がッ・・・」

 言いかける寸前、ハッと、汐音は気づいた。

 この人は—————桜彩に、何かを言おうとしている。自分じゃ伝わらなかった言葉を、この人は伝えようとしている。
余計なひと言は入れない方がいいと判断した汐音は、黙って見守ることにした。

『桜彩、お前は間違っているよ』
 少し低い声で、通康は言った。

『確かに、葵が悪霊になったのは桜彩のせいかもしれない。でも、君がそれに責任を感じるんなら、————葵が望んでいることをやるべきだ。』

「でも————」

『君が言っているのは罪滅ぼしでも償いでもない。葵はただ、助けを君に呼んでいるんだ』

 そっちの方が立派に償いになるんじゃないか?

 通康の言葉に、桜彩は俯いた。

「————でも、僕は何も出来ない。葵を傷つけてしまうだけだ」

『それも違う』

 桜彩の言葉に、はっきりと通康は言った。

『葵は、誰のせいにすることを望んでいるんじゃ無く、誰が責任を取る事を望んでいるんじゃない。————君に、助けてもらうことを望んでいるんだ。
 なあ、桜彩。君が葵に助けられたように、葵も君に助けられていたんだよ』


 だって、そうじゃなきゃあんなふうには泣かない。
 あんなに笑いながら、泣かない。
 「優しい、暖かい」って、幹に寄りかからない———————。


「——————でも、どうすれば・・・!」

「出来るかもしれない」

 汐音の言葉に、桜彩は顔を上げた。

「え?」

「まだ判らないけれど。貴方の力があれば、葵を成仏させることが出来るかもしれない」

 汐音はキッと、顔つきを変えた。
 その顔つきは九歳の女の子とは思えない気高さ————まるで、神のように神々しかった。

—————だって、助けを、呼んでいる。
 
 私は祓いの知識なんてこれっぽちも無いけれど。

 きっと、何か出来る。

 私だって、何か出来る。


 そう言うと、汐音はもののけさんの背から降りた。
 ちなみにもののけさんは空を浮いている。地面からの高さは現在で言う十メートル弱。その高さから無事に飛び降りることが出来たのだから、流石である。

「うおい!?おい、どうするんだ!」

 もののけさんが慌てて聞く。

「着替えと準備!鶴姫にも連絡して!『“唄”を詠うから、奏でて欲しい』って!」
 そう言い残すと、汐音は走った。


Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.60 )
日時: 2011/09/12 19:52
名前: いちご牛乳。 ◆2TKxyO84Mk (ID: XL8ucf75)

汐音ちゃん,凛々しい^^
自分より,7歳も違う子がすごすぎるw
葵を成仏させることができるのでしょうか…。


続き楽しみにしてます*

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.61 )
日時: 2011/09/12 19:58
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

九歳じゃないですよね、もうw

でも昔は数え歳と言って、一から数えるんです。

つまり、汐音は本来なら八歳なのですw(おい!)

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.62 )
日時: 2011/09/13 19:16
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

           ◆
「うわあ・・・」
 鶴姫たちは、そう呟くしか出来なかった。

 先に着いた鶴姫たちが目にした光景は、まさに地獄絵図のような光景だった。
 木々は枯れ、まるで地獄のような業火が木々の周りを囲んでいる。
 その木の幹に、真っ黒な女の子が寄りかかっていた。焦げたような真っ黒な少女。真っ黒な頬に、光る涙があった。

 そして、周りには小鬼たちが居た。見ると、小鬼たちが火を放ったようだ。
「・・・これは、地獄から来た使者の仕業・・・?」
 鶴姫が呟いた。
 どうやら、あまりにも邪気が強いので地獄から使者が来たようだ。小鬼たちは、地獄からの使者のようだった。

「ちょ、これどう言うことだ!」
 妙が声を荒げる。

『この者は悪霊なので。地獄へ連れていくのです』
 シャンと鈴のような声が、頭の中に響き、答えた。

 姿は見えない。恐らく地獄の中で高貴な地位なのだろう。高貴な存在は、何処の世界でも人前で姿を見せないのがしきたりだ。

 鈴のように上品な声の持ち主は続けていった。
『今日、この者は辺りの命を奪えるほどの悪霊になりました。この者は邪神の妖力並みです。こうなった以上、成仏は叶いません。この者は地獄へ連れて浄化するしか方法は無いのです』

「・・・救うことが出来ないから消滅させる。そう言うことですか?」
 鶴姫の鋭い声に、声は黙った。肯定のようだ。

「そんなッ・・・!まだ判らないじゃないですか!」
 通宣が必死に言う。だが、声はすぐに言った。

『判らない、とおっしゃいますが、手遅れになるのはまずいのです。神にでも、救える者と救えない者が存在します。ある筈もない可能性を信じて手遅れになるよりも、さっさと片付けた方がいいのです』
 冷たい声だった。まるで、救えるハズが無い、期待するだけムダ、と言っているのように。

 鶴姫たちはぎゅっと唇を噛みしめた。口の中に鉄の味が広がる。

『・・・もうすぐあの木に炎が宿るでしょう。そうすれば消滅します。随分手こずらせられました。あの者の邪気が、こんなにも私の業火を跳ね返すなんて』

 ————もう、手遅れ?手遅れなの?

 木に近づこうとすると、業火の熱気が結界のように侵入を拒否する。ただでさえ、二十メートルも離れているのにこんなに暑いのだ。

 葵は泣いている。真っ黒焦げになって。
 泣いているのに、自分たちは何も出来ない。ここで見ているしかないのだ。

『・・・貴方達はそこで見ていなさい。これ以上近づくと、体が焼けますよ』

 そう声が告げた時だった。

 ビュウウと風が頭上を通り抜けた。かと思うと、炎の上に狼のような巨大な妖が居た。
 妖の背に人影があった。見覚えのある人影だ。
 目を凝らして見て見ると、背中に乗っていたのは、通康だった。

「————通康殿!?」
「通康!?」

 鶴姫たちの声よりも早く、通康ともののけさんは炎に突っ込んだ。目にも追えぬ速さで。

『!バカな、あの妖は何故あの炎に近づける!?』

 声は動揺していた。地獄の業火は、全て焼き尽くすのだ。木々も草も魂も。
 それなのにもののけさんと通康だけは燃えていない。

 通康はゴホゴホと咳をする。燃えなくても、煙と暑さで意識が朦朧としているのだ。
「しっかりしろ、通康。私が付き合ってやっているのだから、これしきのことでくたばるなよ」
 もののけさんが呟く。ああ、と生返事をした後、通康は叫んだ。

「鶴姫殿!汐音から伝言です!『“唄”を詠うから協力してくれ』だそうです!」

 ハッと、鶴姫は目を開いた。そして、炎に向かって大きな声で言った。

「それで、汐音は!?一体どこに!?」
「それはッ・・・!」
 通康が答えようとした時、煙と暑さが増した。どうやら、葵に限界が来たようだ。
 いきなり暑さと煙が増したので、通康は思わず失神しそうになる。だが、寸前で意識を取り戻した。
 だが、足の自由が効かなくなった。暑さにやられ、足は震え動こうとしない。動くのは手だけ。
 それでも通康は葵の元に行く。地面に手を付け、手で体を動かす。
 やっとのことで葵に近づけた時、桜彩なのか葵なのか、それともどちらもなのか、声が聞こえた。

———————さみしい、さみしいよぉ・・・。

———————怖い、怖い。

———————助けてぇ・・・。


 どうして、と通康は思った。
 ————葵は全く悪いことをしていないと思う。桜彩も、ただ一緒に居たいと願っただけだ。
 なのにどうして救われないんだ。どうして、不幸の結末になってしまうんだ。
 二人とも、ただ優しくありたいと願っただけなのに・・・!

 通康には納得出来なかった。こんな結末が、正しいとは思えなかった。思えなかったが、どうすれば二人が救えるか判らなかった。


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